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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1206443
審判番号 不服2006-24722  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-01 
確定日 2009-11-04 
事件の表示 特願2004- 93838「移動通信端末機のアップリンク/ダウンリンク同期化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月11日出願公開、特開2004-320739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月26日(パリ条約による優先権主張2003年4月18日、韓国)の出願であって、平成18年7月14日付けで手続補正がなされたが、同年8月2日付で拒絶査定され、同年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年11月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成18年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正の内容
平成18年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、

「TDD(Time Division Duplex)に基づく移動通信端末において、
受信されたRF信号を端末により処理可能な信号に復元する受信部と、
該復元された信号から、アップリンク/ダウンリンクチャンネルのタイムスロット構成を把握するモデムと、
前記復元された信号からスイッチング時点を検出し、該検出されたスイッチング時点及び前記タイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定めるタイムスロット検出部と、
前記新しいスイッチング時点によってアップリンク及びダウンリンクスイッチングを行うスイッチング部と、
データ伝送時点と前記スイッチング部によるアップリンク伝送のためのスイッチング時点とが一致するように、データ信号を遅延させる可変遅延部を有する送信部とを備え、
前記タイムスロット検出部は、前記新しいスイッチング時点を、前記検出されたスイッチング時点から前記送信部の信号処理時間だけ遅延して決定することを特徴とするアップリンク/ダウンリンク同期化装置。」

(下線部は補正箇所を示す。以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

(2)補正の適否
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件(新規事項の追加)を満たしているか否かについて検討する。
補正後の発明は、「前記タイムスロット検出部は、前記新しいスイッチング時点を、前記検出されたスイッチング時点から前記送信部の信号処理時間だけ遅延して決定する」ものである(以下、これを「補正事項」という。)。
ここで、出願当初の明細書及び特許請求の範囲には、「前記タイムスロット検出部は、前記新しいスイッチング時点を、前記検出されたスイッチング時点から前記送信部の信号処理時間だけ遅延して決定する」という補正事項自体は記載されていない。
また、
(a)出願当初明細書段落44の「一方、前記タイムスロット検出部100は、前記モデム110に伝達される信号からアップリンク用タイムスロットとダウンリンク用タイムスロットとの境界(スイッチング時点)に対する情報を検出し、該検出された情報及び前記モデム110により把握された情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める。」の記載からは、新しいスイッチング時点の決定にあたり、少なくとも、アップリンク用タイムスロットとダウンリンク用タイムスロットとの境界(スイッチング時点)に対する情報が“関与する”ことが読みとれ、
(b)同じく段落45の「且つ、前記タイムスロット検出部100は、新しいスイッチング時点を決定するとき、前記送信部80の信号処理時間(送信信号(Tx_I/Q信号)がモデム110からRF信号処理部23まで伝達されるのにかかる時間)も共に考慮する。」の記載からは、新しいスイッチング時点の決定にあたり、送信部80の信号処理時間を“考慮する”ことが読みとれるが、
上記補正事項のように「前記タイムスロット検出部は、前記新しいスイッチング時点を、前記検出されたスイッチング時点から前記送信部の信号処理時間だけ遅延して決定する」という具体的な決定方法までもが、上記(a)(b)から自明といえるものではない。
したがって、前記補正事項は、出願当初の明細書、特許請求の範囲または図面に記載されておらず、かつ自明なことでもない。よって、前記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

(3)むすび
以上の通りであるから、平成18年11月1日付けの手続補正(本件補正)は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年11月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年7月14日付けで補正された特許請求の範囲、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項7に記載された次のとおりのものと認める。

「TDDに基づく移動通信端末のアップリンク/ダウンリンク同期化方法であって、
受信データ信号からアップリンク/ダウンリンクチャンネルのタイムスロット構成を把握して、スイッチング時点を検出する過程と、
該検出されたスイッチング時点及びタイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める過程と、
前記新しいスイッチング時点によってアップリンク及びダウンリンクスイッチングを行う過程とを包含し、
データ信号を伝送するとき、アップリンク伝送のための前記新しいスイッチング時点とデータ伝送時点とが一致するように、データ信号を遅延する過程と、
を順次行うことを特徴とする移動通信端末のアップリンク/ダウンリンク同期化方法。」

(2)引用発明及び周知技術

A.原査定の拒絶の理由に引用された、特開平5-191391号公報 (以下、「引用例」という。)には、「送受信装置」として、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、送信と受信とを時間的に異ならせて時分割で行う通信方式の送受信装置に関する。」
(第1欄第10-13行)

イ.「【0011】
【発明が解決しようとする課題】ところで、テレポイントシステムなどで使用されるTDMA/TDD方式では、送信パケットと受信パケットとは比較的短い時間としてあり、確実に送受信を行うためには、送受信装置での送信タイミングと受信タイミングとを厳密に管理する必要がある。
・・・(中略)・・・
【0012】本発明はかかる点に鑑み、TDMA/TDD方式のように時分割で通信が行われる送受信装置において、送受信のタイミングが良好に制御できるようにすることにある。」
(第2欄第30行-第3欄第4行)

ウ.「【0016】本例においては、TDMA/TDD方式の送受信装置に適用したもので、図1において、1はマイクを示し、このマイク1が拾った音声信号をデジタル処理回路2に供給し、このデジタル処理回路2でデジタルデータに変換し、この変換されたデジタルデータをフレーム変換回路3に供給してTDMA/TDD方式で規定される送信パケットのデジタルデータとし、この送信パケットのデジタルデータを送受信回路4に供給し、この送受信回路4内の送信回路で変調などの送信用の処理を行って、アンテナ5から送信させる。
【0017】また、アンテナ5を介して送受信回路4に供給される受信信号を、この送受信回路4内の受信回路で復調などの受信用の処理を行って、フレーム変換回路3に供給させる。そして、フレーム変換回路3での処理で、TDMA/TDD方式で規定される形式の受信パケットのデジタルデータをベースバンドのシリアルデータとし、このシリアルデータをデジタル処理回路2でアナログ音声信号に変換し、変換された音声信号をスピーカ6から出力させる。」
(第3欄第23-41行)

エ.「【0019】次に、送受信回路4の具体的な構成を図2に示すと、まず送信側の構成としては、フレーム変換回路3側から端子4aを介して供給される送信用データを、変調回路41に供給して周波数変調し、変調されたデータを混合器42に供給する。そして、この混合器42でPLL周波数シンセサイザ43から供給される周波数信号(チャンネル選択信号)を変調されたデータに混合し、送信周波数(送信チャンネル)の信号とする。そして、この送信周波数の信号をバンドパスフィルタ44,アンプ45,高周波スイッチ回路46,アッティネータ47を介してアンテナ5に供給し、送信させる。この場合、変調回路41と混合器42とアンプ45と高周波スイッチ回路46とアッティネータ47とは、制御部10により作動状態が制御されるようにしてある。また、フレーム変換回路3側から端子4aを介して送信用データを供給する代わりに、測定回路20からのランダムパルスが変調回路41に供給できるようにしてある。このランダムパルスの供給は、制御部10の制御で行われる。
【0020】また、受信側の構成としては、アンテナ5からアッティネータ47を介して供給される受信信号を、高周波スイッチ回路51,バンドパスフィルタ52,アンプ53を介して混合器54に供給する。そして、この混合器54でPLL周波数シンセサイザ43から供給されるチャンネル選択信号を受信信号に混合し、第1中間周波信号を得る。そして、この第1中間周波信号を、バンドパスフィルタ55を介して混合器46に供給し、発振器57から供給される一定の周波数信号を混合し、第2中間周波信号を得る。そして、この第2中間周波信号をバンドパスフィルタ58を介して復調回路59に供給し、伝送用に変調された信号の復調を行う。そして、復調された信号を端子4bを介してフレーム変換回路3側に供給する。この場合、高周波スイッチ回路51とアンプ53と混合器54,56と復調回路59とは、制御部10により作動状態が制御されるようにしてある。また、復調回路59で復調されたデータは、測定回路20側にも供給するようにしてある。」
(第3欄第47行-第4欄第33行)

オ.「【0036】次に、この制御部10の制御による、測定回路20での測定結果に基づいた送受信タイミングの制御状態について、図5を参照して説明する。
【0037】図5のAは、本例の通信装置が適用されるTDMA/TDD方式で規定される送信パケットと受信パケット及びその間のガードバンドT_(3) の設定状態を示し、このガードバンドT_(3 )を設けた状態で送信パケットと受信パケットとが交互に無線伝送される。ここで、本例の通信装置でもアンテナ5から送信されるタイミングとアンテナ5で受信されるタイミングとは、この図5のAで示すタイミングで行う必要があるとすると、送受信回路4内での群遅延があるために、送信用のベースバント信号をフレーム変換回路3側から送受信回路4側に供給するタイミング及び送受信回路4側から受信されたベースバント信号をフレーム変換回路3側に供給するタイミングとを、群遅延に対応した時間だけずらす必要がある。
【0038】以下、このタイミングの処理について説明すると、制御部10内の演算回路13での演算で、時間データT_(1) +T_(2) とガードバンドデータT_(3) との差の大小により制御状態が異なる。即ち、T_(3) >T_(1) +T_(2) である場合と、T_(3) ≦T_(1) +T_(2) である場合とで異なる制御が行われ、T_(3) >T_(1) +T_(2) であるときには、図5のBに示すタイミングの処理が、ベースバンド側(即ち送受信用に変調される前或いは復調された後)で行われる。この場合には、フレーム変換回路3から出力される送信パケットのデータは、ガードバンド時間T_(3) が終わるタイミングよりも、時間T_(1) だけ前から出力される。そして、この出力タイミングに基づいて送受信回路4内の送信側で変調などの送信処理を行わせる。また、送受信回路4内の復調回路59で復調されたベースバンドの受信パケットのデータは、ガードバンド時間T_(3) が終わてから時間T_(2) だけ遅れてフレーム変換回路3に供給させる。」
(第7欄第16-49行)

カ.「【0041】このようにしてガードバンド時間T_(3) の終了時から時間T1 又はT2 だけずらしてベースバンド側で処理することで、何れの場合にもアンテナ5から送信されるタイミングとアンテナ5で受信されるタイミングとが、図5のAで示す規定通りのタイミングとなり、送受信が時分割で行われる通信が正確なタイミングで可能になる。そして、このタイミング設定は、群遅延の測定が行われる毎に修正されるので、リアルタイムでタイミング調整が行われることになり、通信装置の各部品の経時変化や温度特性による変化などがあっても、常に良好なタイミングで時分割通信が行われる。」
(第8欄第23-33行)

(a)引用例の送受信装置は、TDDに基づいた送受信を行う(上記ウ.段落16)ものである。そして、送受信装置の具体的構成は、第1図、第2図に示さたもので、送受信装置のアンテナ(5)には、アッティネータ(47)を介して、送信側の高周波スイッチ(46)及び受信側の高周波スイッチ(51)が備えられているものである。ここで、送信時には、送信側の高周波スイッチ(46)及び受信側の高周波スイッチ(51)が、それぞれ、オン状態、オフ状態となり、受信時には、それぞれ、オフ状態、オン状態となることは、送受信切換用の高周波スイッチを備えた典型的な送受信装置の動作に照らし明らかなことである。

(b)上記(a)に記載された高周波スイッチ(46,51)によるスイッチングは、TDDによる適切な送受信が行えるように、“定められたタイミング”でなされることは明らかなことである。

(c)引用例の送受信装置はテレポイントシステム(上記イ.段落11)を対象とするものであり、送受信装置を子局とすれば、上記(a)における“送信”とは“アップリンク”上で送信することを意味し、“受信”とは“ダウンリンク”上で受信することを意味すると解せるものである。

(d)第5図には、送受信装置が(アップリンク上で)送信する送信パケットの流れが図示されており、「A 伝送状態」として記載された、アンテナ(5)上で行われるべき送信パケットの送信タイミング(上記オ.段落37、上記カ.段落41)に合致するように、フレーム変換回路3が前記送信タイミングよりも、時間T_(1)だけ前から送信パケットを出力する(第5図の「B ベースバンドでのタイミング」として示されたタイミングチャート、上記オ.段落38)ことを読みとることができ、
上記(a)における高周波スイッチ(46、51)は、アンテナ(5)上で行われるべき送信パケットの送信タイミングに合わせてスイッチングがなされることも明らかであるから、
高周波スイッチの“スイッチタイミング”と、アンテナ(5)上での“送信パケットの伝送タイミング”とは“一致している”ということができる。

(e)また、上記(d)において、フレーム変換回路3が時間T_(1)だけ前から送信パケットを出力する点をとらえて、これを“送信パケットの処理”ということができるのは明らかである。

引用例は、上記イ.に記載されるように、TDD方式を採用した送受信装置において、送信タイミングと受信タイミングとを良好に制御することを課題とするものであって、送信(アップリンク)/受信(ダウンリンク)の同期化方法としては、上記ア.-カ.、上記(a)-(e)を勘案すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「TDDに基づく送受信装置のアップリンク/ダウンリンク同期化方法であって、
定められたスイッチタイミングによってアップリンク及びダウンリンクスイッチングを行う過程と、
送信パケットを伝送するとき、アップリンク伝送のための前記定められたスイッチタイミングと送信パケット伝送タイミングとが一致するように、送信パケットを処理する過程と、
を順次行う送受信装置のアップリンク/ダウンリンク同期化方法。」

B.原査定で周知例として引用された特開平7-107546号公報(以下、「周知例1」という。)には、「無線通信システム」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

キ.「【0002】
【従来の技術】従来、上り方向と下り方向とで異なる周波数を割り当てることにより、双方向の無線通信を行うようにしていたが、近年、双方向の時分割多元接続(TDMA)方式を採用することによって複数の回線の通信を同一周波数上で実現することが可能となった。以下、図面を参照しながら、上記した従来の時分割多元接続方式の一例について説明する。」
(第2欄第15-22行)

ク.「【0013】
【実施例】(第1の実施例)図1は、本発明の第1の実施例に係る移動式無線電話システムの構成を示すシステムブロック図である。図1に示す移動式無線電話システムは、基地局(主局の一例)11と、基地局11の無線ゾーン内に位置する例えば2つの移動局(従局の一例)12,13とを備えている。基地局11は、所定の伝送路を介して通信網14と接続されている。基地局11と移動局12,13との間では、本発明の原理に基づく時分割多元通信が行われている。」
(第4欄第33-42行)

ケ.「【0015】図3は、図1に示す各移動局の内部構成を示すブロック図である。各移動局は、ユーザとのインタフェイスである入力部31および出力部32と、基地局11と通信を行なうための送信部33,受信部34,アンテナ35と、基地局11からのスロットの設定に従って送信部33および受信部34を制御するための無線制御部36とを備えている。」
(第5欄第5-11行)

コ.「【0032】図10は、第3の実施例における通信シーケンスを説明するためのフレーム構成図である。図10において、タイミングa?bのフレームでは、基地局11と移動局12との間の回線に対し上り下りのスロットS1↓,S1↑が割り当てられ、基地局11と移動局13との間の回線に対し上り下りのスロットS3↓,S3↑が割り当てられている。図10のタイミングaで設定部28が、図9のフローチャートに従って、例えばトラフィック量の大きい移動局13には未使用スロットS2↓,S2↑を割り当てるよう決定すると、当該設定部28は、その決定結果を含むスロット割り当て情報を、移動局13の無線制御部36へ通知する。なお、移動局12へは、スロットの割り当て数の変更がなければ何も通知する必要はない。スロット割り当て情報を受け取った無線制御部29,36は、当該スロット割り当て情報に従って図10のタイミングbから割り当てスロット数を変更して通信する。」
(第9欄第16-32行)

サ.「【0037】また、第3の実施例では、フレーム内の上り下りのスロット数比を一定としたが、第1,第2の実施例と組み合わせることによってスロット数比を可変にしつつ、各回線毎に最適なスロット数を割り当てるようにしてもよい。また、通信回線に優先度を付けて、優先度の高い通信回線により多くのスロット数が割り当てられるようにしてもよい。また、この優先度を各移動局12,13から指定できるようにしてもよい。」
(第10欄第21-28行)

C.原査定で周知例として引用された特開2003-37572号公報(以下、「周知例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

シ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数の利用者に対する多重化をTDMA(時分割多元接続)方式を用いて行い、かつ各利用者に対する割当てスロット数をフレーム毎にダイナミックに可変できる方式、特に基地局から端末局、端末局から基地局の双方向ともダイナミックに可変できるDSA(Dynamic Slot Assignment)方式を実現するためのスケジューリング方式に関する。」
(第1欄第17-24行)

ス.「【0003】図6はDSA方式を用いた高速無線アクセスシステムの一つの例であり、本例ではネットワーク(以後、NETと呼称する)に接続する一つの基地局(以後、AP:Access Point)60と複数(m台)の移動端末(以後、MT:Mobile Terminal)、MT1?MTmとが無線で接続されている(サフィックスとなる番号・符号は、図面において、明確な判読を可能とするため半角で示してある。)。
【0004】一定の周期で繰り返される無線のフレームは、ある特定の機能毎に用意された無線上のパケットであるチャネル(以後、CH)から構成される。ARIB STD-T70では何種類ものCHが規定されているが、本例では簡単のため、ユーザが利用するデータを伝送するユーザデータCHと、AP?MT間で各種の制御データを伝送するための制御データCH、及びフレームの先頭に配置されるフレーム構造通知CHの3種類に限定して説明する。(これ以外でも説明が煩雑になるのを避けるため、ARIB STD-T70を簡素化あるいはモディファイした仕様で説明を行う。)CHはさらに、フレームの最小構成単位であるタイムスロットに分割でき、これにフレームの中で一連の番号を付与することによってどの位置にあるタイムスロットかを特定できるようにしている。CHの長さはCHの種類によって異なるが、1タイムスロットの整数倍で規定されるので、全てのCHのスタート位置はタイムスロット番号によって指定することが出来る。
【0005】例えば、図6に示すフレーム構成61では、フレームの先頭に、フレーム構造を自局内の全MTに対して通知するフレーム構造通知CHが配置され、続いてAP60からMT1?MTmへ向かうCHの総称である下りCH、更にMT1?MTmからAP60へ向かうCHの総称である上りCHが配置される。送信するCHがなくなれば残りのフレームは無信号のブランクになる。フレーム構造通知CHはフレームの先頭位置を示して各MTがフレーム同期を取れるようにするとともに、どのMTに対するどのような下りデータまたは上りデータがフレームのどのタイミングからスタートし、データ長がどれだけあるかを指示する。このためフレーム構造通知CHは、あるMTに対応するパケット毎に、MT番号、CHの種類、上り/下りの別、スタート位置ポインタ(タイムスロット番号のポインタ)、およびデータ長からなる一連のデータブロックを有する。なお、下りCHあるいは上りCHの中で、あるMTに対するCHが複数ある場合は1つのCH群にまとめ、CH群毎に必要となるオーバーヘッドがいたずらに増加しないようなフレームの構築を行う。これはMTが送受信部を動作させる回数を減らすことになるので、省電力上も効果がある。
【0006】以上の仕組みによってAP60はフレームの構造を明示することができ、AP60はこのようにして指定したタイムスロット位置で各MT宛のデータを送信し、また各MTからのデータを受信する。また各MTは、フレーム構造通知CHに含まれるデータブロックを解析することで自分が受信すべきCHおよび送信すべきCHのタイムスロット位置を知り、そのタイミングで送受信を行う。」
(第1欄第36行-第2欄第39行)

周知例1において、新たなタイムスロットを割り当てる(上記コ.段落32「未使用スロットS2↓,S2↑を割り当てるよう決定する」「割り当てスロット数を変更して」の記載)ために、移動局がスロット割り当て情報に従う(上記コ.段落32)ことは、「タイムスロット構成情報を把握する」ことに対応し、スロット割り当て情報(「タイムスロット構成情報」)に従って通信すること(上記コ.段落32)は、送受信状態をスイッチングするという見地にたてば、「タイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める」といえるものである。
周知例2において、移動端末MTがフレーム構造通知(「タイムスロット構成情報」)に含まれるデータブロックを解析することで自分が受信すべきチャネルおよび送信すべきチャネルのタイムスロット位置を知り、そのタイミングで送受信を行うこと(上記ス.段落6)とは、周知例1と同様に送受信状態をスイッチングするという見地にたてば、「タイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める」といえるものである。
したがって、周知例1及び2の記載からして、
「受信データ信号からタイムスロット構成を把握して、該タイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める、TDDにおける送受信状態スイッチング方法。」
は周知技術と認められる。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「送受信装置」はテレポイントシステムを対象としたものであるから、本願発明の「移動通信端末」に相当する。
(b)本願発明の「新しいスイッチング時点」が、定められた時点であることを考慮すると、引用発明の「定められたスイッチタイミング」と、本願発明の「新しいスイッチング時点」とは、「定められたスイッチング時点」である点で共通する。
(c)引用発明の「送信パケット」は、本願発明の「データ信号」に相当する。
(d)引用発明の「送信パケット伝送タイミング」は、本願発明の「データ伝送時点」に相当する。
(e)本願発明でデータ信号を「遅延する」ことと、引用発明の送信パケットを「処理する」こととを対比すると、「遅延する」は「処理する」の一態様と見なせるから、両者は、「データ信号を処理する」点で共通する。

すると、引用発明と本願発明とは次の点で一致する。

(一致点)
「TDDに基づく移動通信端末のアップリンク/ダウンリンク同期化方法であって、
定められたスイッチング時点によってアップリンク及びダウンリンクスイッチングを行う過程と、
データ信号を伝送するとき、アップリンク伝送のための前記定められたスイッチング時点とデータ伝送時点とが一致するように、データ信号を処理する過程と、
を順次行う移動通信端末のアップリンク/ダウンリンク同期化方法。」

一方で、両者は、次の点で相違する。

(相違点1)
「定められたスイッチング時点」の態様に関し、本願発明は、「受信データからアップリンク/ダウンリンクチャンネルのタイムスロット構成を把握して、スイッチング時点を検出する過程」及び「該検出されたスイッチング時点及びタイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める過程」によって導かれる、「新しいスイッチング時点」であるのに対し、引用発明では不明な点、

(相違点2)
「データ信号を処理」する際の処理内容は、本願発明では、「遅延」であるのに対し、引用発明では不明な点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。
再掲すると、「受信データ信号からタイムスロット構成を把握して、該タイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める、TDDにおける送受信状態スイッチング方法。」は周知技術であって、引用発明においてスイッチング時点を定めるにあたり、当該周知技術を適用することに、特段の阻害要因も認められない。
その際、上記周知技術に関し、送受信状態の切り換えが、上り/下りの別(周知例2、上記ス.段落5)に少なくとも連動することが技術常識であり、上り/下りを区別する(「スイッチング時点を検出する」)ことが、新しいスイッチング時点を定める際に必要な要件として明らかであることにかんがみ、引用発明の「定められたスイッチング時点」として、「スイッチング時点を検出し」、「検出されたスイッチング時点」及び「タイムスロット構成情報に基づいて」定められた「新しいスイッチング時点」とすること、すなわち、過程としていえば、「受信データからアップリンク/ダウンリンクチャンネルのタイムスロット構成を把握して、スイッチング時点を検出する過程」及び「該検出されたスイッチング時点及びタイムスロット構成情報に基づいて新しいスイッチング時点を定める過程」によって導かれる、「新しいスイッチング時点」とすることで上記相違点1のごとく構成することは当業者が容易になし得たものである。
次に上記相違点2ついて検討する。
信号を所定のタイミングに合わせて出力させる際の処理として、当該信号を「遅延」させることは、例えば、特開2001-57689号公報(段落24)、国際公開第2002/047304号(第23頁第20-23行)、特開2000-354024号公報(第4欄第21-24行)等、移動通信を含む通信伝送の分野において利用されている、いわゆる慣用技術であって、当該慣用技術を引用発明に適用して、データ信号を処理する際の処理内容を「遅延」とすることに格別の困難性は認められない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-29 
結審通知日 2009-06-01 
審決日 2009-06-24 
出願番号 特願2004-93838(P2004-93838)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋石井 研一  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 竹井 文雄
柳下 勝幸
発明の名称 移動通信端末機のアップリンク/ダウンリンク同期化装置  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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