• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1206485
審判番号 不服2007-34253  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2009-11-04 
事件の表示 特願2002-319228「リチウムイオン二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-152708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月1日の出願であって、平成19年7月9日付けの拒絶理由通知書が送付され、同年11月9日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年12月20日に審判請求がされるとともに手続補正がされたものであり、当審において平成21年4月17日付けで前置審査報告書に基づく審尋をしたところ、同年6月25日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本願発明について

[1]本願発明

本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年12月20日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「リチウム遷移金属複酸化物を正極活物質に用いた正極と、充放電によりリチウムイオンを挿脱可能な炭素材を負極活物質に用いた負極とを有するリチウムイオン二次電池において、前記炭素材が非晶質炭素であり、前記負極のパルス充放電利用範囲を、2時間率の電流値で充電したときの負極電位の変化が-1mV/(mAh/g)以下の範囲としたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。」


[2]原査定の理由の概要

原査定の本願に対する拒絶の理由は、本願発明1は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。


先願1:特願2001-237501号(特開2003-051309号)

[3]先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書」という)の記載事項

原査定の理由で引用されている先願1の当初明細書には、次の事項が記載されている。

(1a)
「リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を負極活物質とする負極からなる非水電解質二次電池において、前記負極活物質が0.37nm以上、0.40nm以下の格子面間隔(d002)を有する低結晶性炭素材料であり、リチウム吸蔵時の電位が30mV以上(vs.Li/Li^(+))であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(【請求項1】)

(1b)
「【従来の技術】
・・・環境問題、エネルギー問題等の観点から電気自動車用あるいは夜間電力貯蔵用の大型電池の開発も盛んに行われ、より高容量、高エネルギー密度で、充放電サイクル特性に優れ、しかも経済性に優れるリチウム二次電池の実現への要望が強い。・・・但し、・・・ハイブリッド電気自動車用途で求められている様な数秒から数十秒間のパルスによる大電流放電を可能とする高出力密度の電池としては、まだまだ不充分な点があり、ほとんど実用化には至っていない。」(【0002】)

(1c)
「黒鉛のように層構造の発達した炭素材料では、リチウムはインターカレーション反応によって黒鉛層間にインターカレートされ、ステージ構造と呼ばれる極めて異方性が大きい状態でリチウムがイオン状態で格納されるため、炭素の格子面間隔(d002)が0.37nmよりも小さいと非晶質的な性質よりも黒鉛的な性質が強まり、リチウムの吸蔵、放出に伴い結晶構造が膨張、収縮を繰り返し、サイクル寿命特性が低下する。」(【0009】)

(1d)
「リチウムの吸蔵、放出電位、すなわち充電、放電電位の経時変化は、図1に示されるように30mV(vs.Li/Li^(+))を境界として傾斜部と平坦部に分けられ、この平坦部の電位はリチウムの酸化還元電位(0V)に近接していることから、この電位付近での充電は、大電流による過電圧や、サイクルに伴う内部抵抗上昇による過電圧によりリチウムが析出する恐れがある。そこで、リチウムの吸蔵を傾斜部に相当する30mV以上(vs.Li/Li^(+))の電位で行うことにより、過電圧によるリチウム析出を回避し、サイクル寿命特性、高率充放電特性の低下を抑制することができる。」(【0013】)

(1e)
「電池について充放電電流を0.4A(0.2CmA相当)とし、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの条件で25℃環境下で充放電を8サイクル行い、電池容量を安定させた。次にこの時の電池容量の60%を充電した後、この電池を分解して負極を取り出しリチウム金属を基準とした場合の電位を測定した。分解電池とは別の電池を電池容量の60%充電し、充放電電流8A(4CmA相当)で10秒間のパルス充放電を100000回行い、その後充放電電流を0.4A(0.2CmA相当)とし、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの充放電を2サイクル行い、2サイクル目の容量を維持容量として、パルス充放電試験前の容量に対する容量維持率を算出した」(【0031】)

(1f)


」(【図1】)

[4]先願1の当初明細書に記載された発明

先願1の摘示(1a)には、「リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を負極活物質とする負極からなる非水電解質二次電池において、前記負極活物質が0.37nm以上、0.40nm以下の格子面間隔(d002)を有する低結晶性炭素材料であり、リチウム吸蔵時の電位が30mV以上(vs.Li/Li^(+))であることを特徴とする非水電解質二次電池」について記載されており、摘示(1d)には、充電に関し、図1(摘示(1f))を参照しつつ、「リチウムの吸蔵、放出電位、すなわち充電、放電電位の経時変化は、図1に示されるように30mV(vs.Li/Li^(+))を境界として傾斜部と平坦部に分けられ、この平坦部の電位はリチウムの酸化還元電位(0V)に近接していることから、この電位付近での充電は、大電流による過電圧や、サイクルに伴う内部抵抗上昇による過電圧によりリチウムが析出する恐れがある。そこで、リチウムの吸蔵を傾斜部に相当する30mV以上(vs.Li/Li^(+))の電位で行うことにより、過電圧によるリチウム析出を回避し、サイクル寿命特性、高率充放電特性の低下を抑制することができる。」と記載されている。
以上の記載を、本願発明1の記載振りに則り整理し記載すると、先願1の当初明細書には、次の発明(以下、「先願1発明」という。)が記載されているといえる。

『リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を負極活物質に用いたと負極とを有する非水電解質二次電池において、前記炭素材料が0.37nm以上、0.40nm以下の格子面間隔(d002)を有する低結晶性炭素材料であり、前記負極を充電したときの負極電位の変化が傾斜部と平坦部を有し、充電利用範囲を傾斜部の範囲とする非水電解質二次電池。』

[5]対比・判断

本願発明1(前者)と先願1発明(後者)とを対比すると、後者の『リチウムを含む遷移金属複合酸化物』、『リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料』、『炭素材料』は、それぞれ、前者の「リチウム遷移金属複酸化物」、「充放電によりリチウムイオンを挿脱可能な炭素材」、「炭素材」に相当する。また、後者の、『非水電解質二次電池』は、リチウムイオンを充放電時に利用するものであることは、正極活物質、負極活物質から明らかであるから、前者の「リチウムイオン二次電池」に相当する。
してみると、両者は、

「リチウム遷移金属複酸化物を正極活物質に用いた正極と、充放電によりリチウムイオンを挿脱可能な炭素材を負極活物質に用いた負極とを有するリチウムイオン二次電池において、前記炭素材が炭素であるリチウムイオン二次電池。」

で一致するものの、次の2点で一見相違している。

・相違点1
本願発明1では、負極活物質として用いる炭素材が、「非晶質炭素」であるのに対して、先願1発明では、炭素材は、「0.37nm以上、0.40nm以下の格子面間隔(d002)を有する低結晶性炭素材料」である点。

・相違点2
本願発明1では、負極の充放電利用範囲に関して、「パルス充放電利用範囲を、2時間率の電流値で充電したときの負極電位の変化が-1mV/(mAh/g)以下の範囲」であると特定しているのに対して、先願1発明では、充電利用範囲を、充電したときの負極電位の変化の傾斜部の範囲とする点。

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
本願発明1の非晶質炭素に関し、本願明細書にはその具体的材料あるいは性状に関する直接的な記載はない。この点についてさらに検討するに、段落【0003】において、【従来の技術】の項ではあるものの、非晶質炭素に関し、「合成樹脂を焼成した非晶質炭素材料」との記載がある。そこで、「非晶質炭素」の一般的な例として、この「合成樹脂を焼成した非晶質炭素材料」に関し検討を進める。すると、例えば、特表2000-502491号公報の請求項1,7,例などに記載されているように、合成樹脂を焼成して得られた非晶質(アモルファス)炭素材料のd(002)は、0.37nmから0.40nmの範囲を含むことは周知である。
してみると、「0.37nm以上、0.40nm以下の格子面間隔(d002)を有する」炭素材を用いる先願1発明も、非晶質炭素を用いるものであるといえるから、当該検討点は実質的な相違点とはなり得ない。
(なお、先願1の摘示(1c)の記載から、先願1の炭素材料は非晶質性を指向していることが明らかであり、かつ、図1には、「非晶質炭素容量密度」と、「非晶質炭素」を用いたものである旨の記載もある。)

(2)相違点2について
先願1には、図1(摘示(1f))において、非晶質炭素の充電時の電位の遷移がグラフとして示されているものの、その際の充電条件については何ら記載がない。そして、充電条件によりグラフの傾斜部と平坦部の切り替わる位置は変化するものと認められるから、充電条件に依存しない、傾斜部の領域が最も大きくなる(傾斜部の変化率が最も緩やかになる)場合、つまり、図1のグラフにおける充電始端から終端まで平均的に傾斜する場合の傾きについて検討する。
すると、図1より、非晶質炭素容量密度が0mAh/gの際の電位が約1.1V、約560mAh/gの際の電位が0Vであることがそれぞれ見てとれる。この値をもとに、全範囲が同じ傾きの傾斜部を形成すると仮定すると、その傾きは約-1.96mV/(mAh/g)と、-1mV/(mAh/g)より小さい値が算出される。実際には、必ず傾斜部と平坦部が存在するから、傾斜部の傾きは、-1.96mV/(mAh/g)よりも小さな値となる(傾斜部の変化率がより急なものとなる)ことは明らかである。
そして、先願1においても、摘示(1b)に記載されるように、リチウムイオン二次電池の用途として、パルス大電流放電可能な自動車用途が想定されており、かつ、摘示(1e)にパルス充放電試験を行うことが記載されているから、先願1発明における充放電利用範囲は、「パルス充放電」による「充放電利用範囲」にもあたるといえ、このパルス充電利用範囲が傾斜部であるから、パルス放電利用範囲も当然傾斜部の範囲となる。すなわち、充電したときの負極電位の変化が-1.96mV/(mAh/g)よりも小さな値の範囲となるものといえる。したがって、この点も実質的な相違点とはなり得ない。

(3)小括
以上の検討より、本願発明1は、本願の出願後に出願公開がされた先願1の当初明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が先願1の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が上記先願1の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

[6]請求人の主張について

なお、請求人は、審判請求書の請求の理由において、

(a)「引用先願1では負極活物質として一定の格子面間隔を有する低結晶性炭素材料を用いています。このため、いずれも、容量-電位曲線がほぼ一様となり、負極電位で静的に捉えても充放電利用範囲を定めることができると考えられます。」

(b)「本願発明では、リチウムイオン二次電池自体として引用先願1と同じであったとしても、負極活物質に非晶質炭素を用いるため、負極電位でパルス充放電利用範囲を一律に定めることはできません。すなわち、負極電位で定めた場合は、非晶質炭素の構造により、劣化の生じやすい平坦部がパルス充放電利用範囲に含まれることがあり、反対に、劣化の生じにくい傾斜部でもパルス充放電利用範囲に含まれず負極活物質が十分に活用されないこともあります。このため、本願発明では、容量-電位曲線の傾きに着目し、負極電位を動的に捉えることでなされたものです。これにより、大電流でのパルス充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができます(本願明細書段落番号「0043」)。」

(c)「引用先願1では、そもそも負極活物質が本願発明と異なり一定の構造を有するため、負極電位の変化を考慮するまでもなく負極電位を定めるのみで充放電利用範囲の線引きができます。このため、引用先願1には、負極電位の変化(傾き)に関する開示はなく、これを示唆する記載もありません。」

と、3つの点での主張がなされている。
そこで、上記主張点について順次検討する。

・主張点(a)について
上述の「第2[5](1)相違点1について」で述べたように、先願1発明の炭素材料は、「非晶質炭素」であると云えるから、当該主張は失当である。

・主張点(b)について
まず、本願発明1は、「・・・とするリチウムイオン二次電池」である。してみると、負極のパルス充放電利用範囲を、2時間率の電流値で充電したときの負極電位の変化が-1mV/(mAh/g)以下の範囲とする(つまり、特定の条件を満たす範囲で充電する)ということは、リチウムイオン二次電池の「充電方法」あるいは「使用方法」であって、「もの」として、リチウムイオン二次電池を区別することにはなり得ない。
また、仮に、当該充放電利用範囲をもって、「もの」として区別できるもであると仮定しても、先願1の摘示(1d)には、図1を参照しつつ、(電位変化の小さな)「平坦部」領域における充電は、大電流による過電圧や、サイクルに伴う内部抵抗上昇による過電圧によりリチウムが析出する恐れがあるため、(電位変化が大きな)「傾斜部」領域で(高率充電を)行うことによりに、過電圧によるリチウム析出を回避し、サイクル寿命特性、高率充放電特性の低下を抑制することができることが記載されている。当該記載は、充電時における負極電位の変化に着目したものであり、本願同様、「容量-電位曲線の傾きに着目し、負極電位を動的に捉える」ものであるといえる。
そして「第2[5](2)相違点2について」で検討したとおり、先願1発明において、「傾斜部」の負極電位の変化が-1mV/(mAh/g)以下であり、傾斜部の範囲でパルス充放電を行うことは明らかであるから、当該検討からも、請求人の主張点(b)は、本願発明1と先願1発明とが異なるものであると結論づける理由とはなり得ない。

・主張点(c)について
上記「主張点(b)について」で述べたように、先願1の当初明細書には、負極電位の変化についての記載があると云え、また、図1に示される「傾斜部」と「平坦部」における充電時の検討がなされていることから、先願1には、負極電位の変化(傾き)に関する開示はないとする、当該主張は失当であると云わざるを得ない。

第3 むすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原査定の理由により本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-20 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-07 
出願番号 特願2002-319228(P2002-319228)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 徹  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 大橋 賢一
植前 充司
発明の名称 リチウムイオン二次電池  
代理人 五十嵐 俊明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ