• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1206531
審判番号 不服2008-9994  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-21 
確定日 2009-11-05 
事件の表示 特願2001-356258「光走査装置及びそれを用いた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月30日出願公開、特開2003-156704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成13年11月21日の出願であって、平成19年10月29日付けで手続補正がなされ、平成20年3月19日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、同年4月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月19日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
ア 本件補正は、補正前の請求項1を
「光源手段と、該光源手段から出射した光束を反射偏向させる偏向手段と、
該偏向手段で反射偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学系を具備する光走査装置において、
前記走査光学系は、前記偏向手段から順に、第1の走査レンズ、第2の走査レンズの2枚のレンズからなり、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみ有しており、
該第1の走査レンズの入射面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化しており、且つ、主走査方向において光軸から軸外に離れるに従い副走査方向の曲率半径の絶対値が大きくなっており、
該第2の走査レンズの主走査方向の対称軸を前記被走査面の垂直二等分線に対して傾けて構成していることを特徴とする光走査装置。」
とする補正事項を含むものである。

イ 上記補正事項は、平成14年法律第24号改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年法律第24号改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-108925号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】光偏向器により偏向されるビームを被走査面上に光スポットとして集光させる光学系であって、
2枚のレンズにより構成され、
光偏向器側のレンズは、副走査方向に負の屈折力を有し、
被走査面側のレンズは、副走査方向に正の屈折力を有し、
上記2枚のレンズのレンズ面のうち、少なくとも1つのレンズ面は、副走査断面内の形状が非円弧形状であることを特徴とする走査光学系。
・・・・
【請求項10】請求項1?9の任意の1に記載の走査光学系において、
少なくとも2つのレンズ面は、副走査断面内の曲率が主走査方向に変化し、
上記少なくとも2つのレンズ面のうち少なくとも1面は、副走査断面内の曲率の、主走査方向の変化が非対称であって、
中心像高における副走査方向の横倍率:β_(2)、任意像高における副走査方向の横倍率:β_(h)が、条件:
(2) 0.9≦|β_(h)/β_(2)|≦1.1
を満足することを特徴とする走査光学系。
・・・・
【請求項13】請求項1?12の任意の1に記載の走査光学系において、
同時に偏向される複数ビームを、被走査面上に複数の光スポットとして集光するために用いられることを特徴とする走査光学系。
・・・・
【請求項15】複数の発光源からのビームを、カップリングレンズにより以後の光学系にカップリングし、カップリングされた複数ビームを共通の線像結像光学系により、光偏向器の偏向反射面位置近傍に主走査方向に長く、副走査方向に分離した複数の線像として結像させ、上記光偏向器により同時に等角速度的に偏向させ、各偏向ビームを共通の走査光学系により、被走査面上に、副走査方向に分離した複数の光スポットとして集光し、これら複数の光スポットにより複数走査線を同時走査するマルチビーム方式の光走査装置において、
複数の偏向ビームに共通の走査光学系として、請求項13記載の走査光学系を用いたことを特徴とするマルチビーム方式の光走査装置。」

b.「【0012】・・・・ところで、良好な走査を行うには、被走査面上の光スポットの径(主走査方向の径は信号の電気的な補正である程度対処できるが、副走査方向の径はこのような補正ができないので、特に副走査方向のスポット径)が、像高によって大きく変化しないことが重要である。このことは高密度の走査では特に重要である。「被走査面上の光スポットの、副走査方向の径が、像高によって大きく変化しない」ためには、走査光学系の副走査方向の横倍率が像高により大きく変化しないことが必要である。また、走査光学系の副走査方向の横倍率:β2の像高による変動は、マルチビーム走査方式においては「同時に走査される走査線のピッチ(走査線ピッチという)が像高と共に変化する」問題となって現れる。従って、マルチビーム方式の光走査において、走査線ピッチの「像高による変動(以下「ピッチ変動」という)」を抑えるには「走査光学系の副走査方向の横倍率を、像高間で一定に補正する」ことが必要である。このことは、走査光学系を構成する2枚のレンズのレンズ面のうち、少なくとも2つのレンズ面で副走査方向の曲率を主走査方向に変化させ、副走査方向のベンディングにより「副走査方向の主点位置を像高に応じて調整する」ことにより実現できる。
【0013】また、光偏向器としてポリゴンミラーを用いる場合、ポリゴンミラーの回転中心は、走査光学系の光軸からずらして設置されるため、ビーム偏向に伴って偏向反射面での反射点が変位し、偏向光束の偏向の起点が変動する「光学的なサグ」が発生し、走査光学系の光軸の+像高側と-像高側とで、光束の通る経路が異なることになる。このため、副走査方向の横倍率は「主走査方向において非対称的に変化」する。この非対称な横倍率変化は、上記2つレンズ面の少なくとも1面を「副走査曲率変化の非対称な面」とすることで補正できる。「副走査曲率」は、前述した「副走査断面内の曲率」を言う。「副走査曲率変化の非対称な面」とは、例えば
(a)副走査曲率の変化が、光軸から主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調増加する。
【0014】(b)副走査曲率の変化が、光軸から主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調減少する。
【0015】(c)副走査曲率の変化の極値が光軸外にある。
【0016】(d)副走査曲率の変化が、+像高側から-像高側に向かって単調増加する。
(e)副走査曲率の変化が、+像高側から-像高側に向かって単調減少する。
(f)副走査曲率の変化が、極値を2以上有する。
等、さまざまな面が考えられるが、このような「光軸として一般的な回転対称軸を持たない」すべての面を指す。これらのどれを「副走査曲率変化の非対称な面」として採用するかは、設計条件により左右される。」

c.「【0025】
【実施例】以下、具体的な実施例を6例挙げる。以下の各実施例において、レンズ面形状の表現は以下の式による。
「主走査断面内における非円弧形状」主走査断面内の近軸曲率半径:Rm、光軸からの主走査方向の距離:Y、円錐定数:K、高次の係数:A_(1)、A_(2)、A_(3)、A_(4)、A_(5)、A_(6)、・・、光軸方向のデプス:Xを用いて次の多項式(6)で表す。
X=(Y^(2)/R_(m))/[1+√{1-(1+K)(Y/R_(m))^(2)}]
+A_(1)Y+A_(2)Y^(2)+A_(3)Y^(3)+A_(4)Y^(4)+A_(5)Y^(5)+A_(6)Y^(6)・・ (6)
式(6)において、奇数次のA_(1)、A_(3)、A_(5)、・・が0以外の値を持つと非円弧形状は「主走査方向に非対称形状」となる。
「副走査断面内における曲率」副走査断面内で曲率が主走査方向(光軸位置を原点とする座標:Yで表す)に変化する場合、次の式(7)で表す。
C_(S)(Y)={1/R_(S)(0)}
+B_(1)Y+B_(2)Y^(2)+B_(3)Y^(3)+B_(4)Y^(4)+B_(5)Y^(5)+B_(6)Y^(6)+・・(7)
RS(0)は、「副走査断面内における光軸上(Y=0)」おける曲率半径を表す。式(7)において、Yの奇数次係数:B_(1)、B_(3)、B_(5)、・・が0以外の値を持つと、副走査断面内の曲率の、主走査方向の変化は非対称である。
【0026】「副非円弧面」副走査断面の主走査方向の位置(光軸位置を原点とする座標):Y、副走査方向の座標:Zを用い、(8)で表す。
X=(Y^(2)/R_(m))/[1+√{1-(1+K)(Y/R_(m))^(2)}]
+A_(1)Y+A_(2)Y^(2)+A_(3)Y^(3)+A_(4)Y^(4)+A_(5)Y^(5)+A_(6)Y^(6)・・
+(C_(S)・Z^(2))/[1+√{1-(1+K_(S))(C_(S)・Z)^(2)}]
+(F_(0)+F_(1)Y+F_(2)Y^(2)+F_(3)Y^(3)+F_(4)Y^(4)+・・)Z
+(G_(0)+G_(1)Y+G_(2)Y^(2)+G_(3)Y^(3)+G_(4)Y^(4)+・・)Z^(2)
+(H_(0)+H_(1)Y+H_(2)Y^(2)+H_(3)Y^(3)+H_(4)Y^(4)+・・)Z^(3)
+(I_(0)+I_(1)Y+I_(2)Y^(2)+I_(3)Y^(3)+I_(4)Y^(4)+・・)Z^(4)
+(J_(0)+J_(1)Y+J_(2)Y^(2)+J_(3)Y^(3)+J_(4)Y^(4)+・・)Z^(5)
+(K_(0)+K_(1)Y+K_(2)Y^(2)+K_(3)Y^(3)+K_(4)Y^(4)+・・)Z^(6)
+(L_(0)+L_(1)Y+L_(2)Y^(2)+L_(3)Y^(3)+L_(4)Y^(4)+・・)Z^(7)
+(M_(0)+M_(1)Y+M_(2)Y^(2)+M_(3)Y^(3)+M_(4)Y^(4)+・・)Z^(8)
+(N_(0)+N_(1)Y+N_(2)Y^(2)+N_(3)Y^(3)+N_(4)Y^(4)+・・)Z^(9)
+・・ (8)
式(8)における「C_(S)」は、式(7)で定義されたC_(S)(Y)である。また、「K_(S)」は、次の式(9)で定義される。
K_(S)(Y)=K_(S)(0)+C_(1)Y+C_(2)Y^(2)+C_(3)Y^(3)+C_(4)Y^(4)+C_(5)Y^(5)+・・(9)
式(8)において、F_(1)、F_(3)、F_(5)、…、G_(1)、G_(3)、G_(5)、…等が0以外の値を持つと、副走査断面内の非円弧量が主走査方向に非対称となる。すなわち、副非円弧面は「副走査断面内の形状が非円弧形状で、この非円弧形状が、主走査方向における副走査断面の位置に応じて変化する面」であるが、上記の式(8)において、右辺の第1?2行は、主走査方向の座標:Yのみの関数で「主走査断面内の形状」を表す。右辺の第3行以下は、副走査断面のY座標が決まると、Zの各次数の項の係数が一義的に決まり、座標:Yにおける「副走査断面内の非円弧形状」が定まる。なお、副非円弧面等の解析的表現は、上に挙げたものに限らず種々のものが可能であり、この発明における副非円弧面等の形状が上記式による表現に限定されるものではない。」

d.「【0060】実施例5
光源1Aから被走査面9に至る光学配置を図21に示す。
光源1A:半導体レーザアレイ
発光源数:4、発光源間隔:24μm、波長:655nm
カップリングレンズ2:2群3枚構成(第2群は接合レンズ)
焦点距離:22mm、カップリング作用:コリメート作用
アパーチャ3:開口形状:矩形
主走査方向開口幅:7.3mm、副走査方向開口幅:3.6mm
シリンドリカルレンズ4
副走査方向の焦点距離:70.00mm
ポリゴンミラー5
偏向反射面数:5、内接円半径:25mm
光源側からのビームの入射角:60度
走査方法:1200dpi、5次飛び越し走査
「ポリゴンミラーと被走査面との間にある光学系のデータ」
i(面番) R_(mi) R_(si)(0) X Y n f_(m) f_(S)
偏向反射面 0 ∞ ∞ 43.58 0.144
レンズ6 1 -244.39 -35.00 40.40 0 1.52716 220.860 -180.092
2 -83.36 -77.53 30.00 0.137
レンズ7 3 -208.08 -104.52 15.00 0 1.52716 2281.08 74.349
4 -181.80 -29.92 187.23 0
各レンズ面の主走査方向と副走査方向の係数を表21?表24に挙げる。
【0061】
【表21】

【0062】
【表22】

【0063】
【表23】

【0064】
【表24】

【0065】レンズ7の射出面(第4面)の、副走査方向の係数を、表25に挙げる。
【0066】
【表25】

【0067】実施例5の走査光学系の、中心像高の副走査方向の横倍率:β_(2)は
β_(2)=1.383
であり条件(1)を満足する。図24に、実施例5の発光源ch1に関する像面湾曲、等速度特性を示す。
全走査領域:323mmに対する、像面湾曲の幅は、
副走査方向:0.093mm/323mm
主走査方向:0.133mm/323mm
であり、等速度特性は、
リニアリティ:0.218%/323mm
であり、像面湾曲・等速度特性ともに極めて良好に補正されている。副走査像面湾曲は条件(3)を満足する。即ち、
(3) 0.093÷323=0.000288<0.005
図23には、実施例5における発光源ch1の光スポットの、中心像高の副走査方向の横倍率:β_(2)に対する、任意像高の副走査方向の横倍率:βhの変化を示す。 |β_(h)/β_(2)|=1.000であり、倍率変化は条件(2)を満足し、極めて良好に補正されている。図22(a)には、レンズ6の射出面(第2面)の、副走査方向の曲率半径の変化、図22(b)にはレンズ7の入射面(第3面)の、副走査方向の曲率半径の変化を示す。これらの面は「副走査曲率が主走査方向に非対称に変化する面」である。図25に、実施例5における発光源ch1の光スポットの、各像高ごとの「スポット径の深度曲線」を示す。像高は±150mmを等間隔に分割した全19像高で示した。(a)は主走査方向、(b)は副走査方向に関するものである。実施例5では、ラインスプレッド関数の1/e^(2)強度で定義されるスポット径として30μm程度を意図している。図に示されているように、主・副走査方向とも良好な深度を有しており、被走査面の位置精度に対する許容度が高い。実施例5では、走査光学系の副走査方向の共役長:316.21mmに対し、その半分の長さ以上をバック長:187.23mmとしている。」

e.

上記a.?d.から、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数の発光源からのビームを、カップリングレンズにより以後の光学系にカップリングし、カップリングされた複数ビームを共通の線像結像光学系により、光偏向器の偏向反射面位置近傍に主走査方向に長く、副走査方向に分離した複数の線像として結像させ、上記光偏向器により同時に等角速度的に偏向させ、各偏向ビームを共通の走査光学系により、被走査面上に、副走査方向に分離した複数の光スポットとして集光し、これら複数の光スポットにより複数走査線を同時走査するマルチビーム方式の光走査装置において、
上記走査光学系は、
2枚のレンズにより構成され、
光偏向器側のレンズは、副走査方向に負の屈折力を有し、
被走査面側のレンズは、副走査方向に正の屈折力を有し、
上記2枚のレンズのレンズ面のうち、少なくとも1つのレンズ面は、副走査断面内の形状が非円弧形状であり、
上記2枚のレンズのレンズ面のうち、少なくとも2つのレンズ面は、副走査断面内の曲率が主走査方向に変化し、
上記少なくとも2つのレンズ面のうち少なくとも1面は、副走査断面内の曲率の、主走査方向の変化が非対称な面であって、
上記非対称な面として、副走査曲率の変化が、光軸から主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調減少する面を採用するかは、設計条件により左右され、
中心像高における副走査方向の横倍率:β_(2)、任意像高における副走査方向の横倍率:β_(h)が、条件: 0.9≦|β_(h)/β_(2)|≦1.1を満足する、
マルチビーム方式の光走査装置。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「複数の発光源」、「ビーム」、「光偏向器」、「走査光学系」、「被走査面上」、「光スポットとして集光」、「マルチビーム方式の光走査装置」、「光偏向器側のレンズ」、「被走査面側のレンズ」、「副走査方向」及び「主走査方向」は、それぞれ、本願補正発明の「光源手段」、「光束」、「偏向手段」、「走査光学系」、「被走査面上」、「結像」、「光走査装置」、「第1の走査レンズ」、「第2の走査レンズ」、「副走査方向」及び「主走査方向」に相当する。

イ 上記アから、引用発明の「複数の発光源からのビームを、(カップリングレンズにより・・・・カップリングされた複数ビームを共通の線像結像光学系により、光偏向器の偏向反射面位置近傍に・・・・結像させ、)上記光偏向器により同時に等角速度的に偏向させ、各偏向ビームを共通の走査光学系により、被走査面上に、副走査方向に分離した複数の光スポットとして集光し・・・・同時走査するマルチビーム方式の光走査装置」は、本願補正発明の「光源手段と、該光源手段から出射した光束を反射偏向させる偏向手段と、該偏向手段で反射偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学系を具備する光走査装置」に相当する。

ウ 引用発明における「副走査曲率の変化が、光軸から主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調減少する」レンズ面の副走査方向の曲率半径は、「主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調増加」となるから、引用発明の「副走査曲率の変化が、光軸から主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調減少する」は、本願発明の「副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化し」に相当する。

エ 引用発明の「2枚のレンズのレンズ面」に関し、引用例の実施例5は、上記(2)c.及びd.に記載されたものであるところ、上記(2)d.の表21?25から、レンズ6及びレンズ7は、
(a)いずれの入射面及び射出面も、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向かい連続的に変化しており、
(b)副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみを有しており、
(c)レンズ6の射出面及びレンズ7の入射面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続しており、
(d)レンズ7の射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化している、
ものと理解できる。
してみると、引用発明の「(光偏向器側及び被走査面側の)2枚のレンズのレンズ面のうち、少なくとも2つのレンズ面は、副走査断面内の曲率が主走査方向に変化し」との構成は、上記(a)及び(b)に照らせば、「2枚のレンズ(レンズ6及びレンズ7)のいずれの入射面及び射出面も、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い連続的に変化しており、副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみ有する構成」を含むものであることは明らかである。
また、引用発明の「(2枚のレンズのレンズ面のうち、副走査断面内の曲率が主走査方向に変化する)少なくとも2つのレンズ面のうち少なくとも1面は、副走査断面内の曲率の、主走査方向の変化が非対称な面であ」ることは、上記(a)、(c)及び(d)に照らせば、「レンズ6の射出面及びレンズ7の入射面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化する構成」かつ「レンズ6の入射面及びレンズ7の射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化する構成」を含むものであることは明らかである。

オ 上記ア及びエから、引用発明は、本願補正発明の「該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い連続的に変化しており、該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみ有」し、「該第1の走査レンズの入射面及び該第2の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化しており、該第1の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化」する事項を備える。

上記アないしオからみて、引用発明と本願補正発明は、
「光源手段と、該光源手段から出射した光束を反射偏向させる偏向手段と、
該偏向手段で反射偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学系を具備する光走査装置において、
前記走査光学系は、前記偏向手段から順に、第1の走査レンズ、第2の走査レンズの2枚のレンズからなり、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみ有しており、
該第1の走査レンズの入射面及び該第2の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化している光走査装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「第1の走査レンズ」につき、本願補正発明は、「第1の走査レンズの射出面は、主走査方向において光軸から軸外に離れるに従い副走査方向の曲率半径の絶対値が大きくなって」いるのに対し、引用発明は、そのようになるか否かは設計条件により左右される点。

<相違点2>
「第2の走査レンズ」につき、本願補正発明は、「第2の走査レンズの入射面は、(射出面と同じく)副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化しており、該第2の走査レンズの主走査方向の対称軸を前記被走査面の垂直二等分線に対して傾けて構成している」に対し、引用発明は、そのようになっていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
(ア)引用発明において、第1の走査レンズの射出面の副走査方向の曲率半径の絶対値を、主走査方向において光軸から軸外に離れるに従いどのように変化するものとするかは、その設計条件において、当業者が必要に応じて適宜選択すべき設計上の事項である。

(イ)しかるところ、引用発明は、上記射出面に、「副走査方向の曲率半径は、『主走査方向に離れるにつれて左右非対称に単調増加』する」面を採用でき(上記(3)ウ参照。)、該「副走査方向の曲率半径」の「単調増加」が、「副走査方向の曲率半径の絶対値の単調増加」を含んだ意味であることは、当業者には明らかであるから、引用発明の「第1の走査レンズの射出面」を、主走査方向において光軸から軸外に離れるに従い副走査方向の曲率半径の絶対値が大きくなるようになし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
(ア)光走査装置の分野において、「(主走査方向に対称な形状の)走査レンズの主走査方向の対称軸を、主走査面内(偏向面内)で傾けることにより、サグの影響を軽減する技術」は、本願出願前に周知の技術である(例.特開2000-81567号公報(【0004】参照。)、特開平9-138365号公報(【0081】参照。)、特開平10-142543号公報(【0034】、【0043】、【0048】及び図1参照。))。
また、主走査方向に対称な形状の走査レンズは、加工が比較的容易であることは当業者には自明である(例えば、上記特開平10-142543号公報【0008】参照。)。

(イ)しかるところ、走査レンズを構成する2枚のレンズのいずれを加工が容易なものとするかは、当業者が適宜選択し得る設計上の事項であり、引用発明における「レンズ7」すなわち「第2のレンズ」に、加工が比較的容易になるように上記周知の技術を適用し、上記相違点2に係る発明を構成することに、格別の困難があるものとは認められない。

(ウ)他方、本願明細書には、「第2の走査レンズの主走査方向の対称軸を前記被走査面の垂直二等分線に対して傾けて構成」することに関し、以下の記載がある。
「【0066】
本実施形態では光源手段から出射した光束が主走査断面内において、光軸に対して角度α(≠0)で光偏向器5の偏向面5aに入射しているため、該光偏向器5の回転に伴う面の出入り(サグ)が、走査開始側と終了側で非対称に発生する。この非対称なサグにより、像面湾曲、波面収差、スポット径の変動が光軸に対して主走査方向に非対称に変化するのを良好に補正するために、走査光学系6は副走査方向の曲率半径が光軸に対して主走査方向に沿って非対称に変化する面(以下「副走査曲率半径非対称面」と称す。)を少なくとも1面有している。
【0067】
本実施形態ではこの副走査曲率半径非対称面の曲率半径の変化を1つの極値を持たせて変化させることにより、波面収差、スポット径の変動の全てのサグによる非対称性を良好に補正している。
【0068】
また副走査曲率半径非対称面を最も光偏向器5側の第1のfθレンズ6aに形成することにより、波面収差のサグによる非対称性を良好に補正している。
【0069】
また第2のfθレンズ6bの主走査方向の対称軸を被走査面8の垂直二等分線に対して非対称に構成することにより、像面湾曲の非対称性を良好に補正している。
【0070】
尚、主走査方向の対称軸とはfθレンズの光軸のことである。
【0071】
本実施形態では走査光学系6の光軸を主走査方向における被走査面7の垂直二等分線と一致させている。
【0072】
一方、副走査方向の曲率半径を少なくとも2面以上変化させないと、像面湾曲とスポット径の変動の両者を同時に補正できないので良くない。また副走査曲率半径非対称面が、その変化に極値を2つ以上持つと、波面収差を良好に補正することができず、感光ドラム面上でのスポット形状が悪化するので良くない。
【0073】
尚、本実施形態では上記の如く第2の走査レンズ6bを光軸に対してシフト又は/及びチルトさせたが、これに限らず、第1の走査レンズ6aもしくは第1、第2の走査レンズ6a,6bを光軸に対してシフト又は/及びチルトさせて構成しても良い。
【0074】
・・・・
【0075】
・・・・
【0076】
本実施形態において第1のfθレンズ6aは主走査断面内において被走査面側に凸面を向けた正のメニスカス形状より成り、また上述の如く第1,第2のfθレンズ6a、6bのうち、少なくとも一面の副走査方向の曲率半径を、該レンズの有効部内において連続的、かつ光軸に対して主走査方向に非対称に変化させ、さらに第2のfθレンズ6bの主走査方向の対称軸を被走査面8の垂直二等分線に対して非対称に構成することにより、像面湾曲の非対称性とスポット径の変動を同時に補正している。
【0077】
本実施形態では副走査曲率半径非対称面を1面より構成しており、かつ子線変化面(副走査方向の曲率半径が主走査方向に沿って変化する面)を軸外に極値を持つことなく変化させている。
【0078】
さらに像面湾曲の非対称性とスポット径の変動を同時に補正するために、最も被走査面側の第2のfθレンズ6bの主走査方向の対称軸を被走査面8の垂直二等分線に対して非対称に構成している。即ち、これは副走査曲率半径非対称面(副走査方向の曲率半径を光軸に対して主走査方向に沿って非対称に変化させた面)を追加することと同様の効果が得られ、該副走査曲率半径非対称面を用いずに非対称性を補正することが可能であり、レンズ成形上有利になるという特徴を有する。」

(エ)上記記載によれば、本願補正発明において、像面湾曲、波面収差、スポット径の変動が光軸に対して主走査方向に非対称に変化するのを良好に補正するために、
a.副走査曲率半径非対称面を最も光偏向器5側の第1のfθレンズ6aに形成することにより、波面収差のサグによる非対称性を良好に補正し、
b.第2のfθレンズ6bの主走査方向の対称軸を被走査面8の垂直二等分線に対して非対称に構成することにより、像面湾曲の非対称性を良好に補正するとともに、
c.上記b.の構成は、副走査曲率半径非対称面(副走査方向の曲率半径を光軸に対して主走査方向に沿って非対称に変化させた面)を追加することと同様の効果が得られること、
d.第2の走査レンズ6bを光軸に対してチルトさせることに限らず、第1の走査レンズ6aを光軸に対してチルトさせて構成しても良いこと、
が理解できる。

(オ)したがって、上記(エ)c.及びd.から、本願補正発明において副走査曲率半径非対称面及び走査レンズのチルト(傾き)を、第1の走査レンズ及び第2の走査レンズのいずれに採用するかにつき、第1の走査レンズを副走査曲率半径非対称面を用いたものとし、第2の走査レンズを副走査曲率半径非対称面を用いない、主走査方向の対称軸を前記被走査面の垂直二等分線に対して傾けたものとすることに、設計的事項以上の技術的意義を生じるものということはできない。

(カ)以上の検討によれば、引用発明に上記周知技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることというべきである。

ウ 本願補正発明の奏する効果が、引用発明及び上記周知技術から当業者が容易に予想できない程度の、格別顕著なものとは認められない。

エ 以上から、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年10月29日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下に記載したとおりのものである。
「光源手段と、該光源手段から出射した光束を反射偏向させる回転多面鏡と、該回転多面鏡で反射偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学系を具備する光走査装置において、
前記走査光学系は、前記回転多面鏡から順に、第1の走査レンズ、第2の走査レンズの2枚のレンズからなり、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの入射面及び射出面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径の連続的な変化に1つの極値のみ有しており、
該第1の走査レンズの入射面及び該第2の走査レンズの入射面及び射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として対称に連続的に変化しており、
該第1の走査レンズの射出面は、副走査方向の曲率半径が主走査方向において光軸から軸外に向い光軸を中心として非対称に連続的に変化していることを特徴とする光走査装置。」

(2)引用例
引用例及びその記載事項は、上記2[理由](2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
ア 本願発明は、上記2[理由]で検討した本願補正発明の「第1の走査レンズの射出面」につき、「主走査方向において光軸から軸外に離れるに従い副走査方向の曲率半径の絶対値が大きくなって」なる限定を省くとともに、「第2の走査レンズ」につき、「主走査方向の対称軸を前記被走査面の垂直二等分線に対して傾けて構成している」なる限定を省いたものである。

イ そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が上記2[理由](4)で検討したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-02 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-24 
出願番号 特願2001-356258(P2001-356258)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 貴之  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 三橋 健二
稲積 義登
発明の名称 光走査装置及びそれを用いた画像形成装置  
代理人 高梨 幸雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ