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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1206543
審判番号 不服2005-2112  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-07 
確定日 2009-11-24 
事件の表示 平成 9年特許願第540223号「超音波トランスデューサ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月13日国際公開、WO97/42790、平成13年12月11日国内公表、特表2001-526006〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 経緯
1 手続
本願は、平成9年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年5月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年9月27日付けで手続補正がなされたが、平成16年11月1日付けで拒絶査定された。
本件は、本願についてされた上記拒絶査定を不服とする平成17年2月7日の審判請求であり、平成17年3月8日付けで手続補正書が提出された。

2 査定
原査定の拒絶理由は、概略、以下のとおりである。
理 由
この出願の請求項1ないし14に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平7-46694号公報
刊行物2:特開平7-298395号公報
刊行物3:特開平6-291388号公報


第2 補正の却下の決定
平成17年3月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という)について、以下のとおり決定する。

[結論]
平成17年3月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、本件補正前、平成16年9月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1についてする補正であり、
(補正前)
「【請求項1】
超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサであって、
超音波エネルギーを発生する圧電性結晶と、
前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部と、
セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振器であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され前記ヘッド部と接触している共振器と、
前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振器とは反対側に配置した尾部と、
前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段と
を具備する超音波トランスデューサ。」
の記載を、
(補正後)
「【請求項1】
超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサであって、
超音波エネルギーを発生する圧電性結晶と、
前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部と、
セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振器であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され前記ヘッド部と接触している共振器と、
前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振器とは反対側に配置した尾部と、
前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段と
を具備し、前記共振器は前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である、超音波トランスデューサ。」
と補正するものである。

2 本件補正の適合性
(1)補正の範囲(第17条の2第3項)
本件補正は、願書に最初に添付した明細書の第4ページ第11?13行及び図2A、Bの記載に基づくものであり、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2)補正の目的(第17条の2第4項)
本件補正は、旧請求項1の「共振器」について、「前記共振器は前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である」とする限定を行うものである。
そして、補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
本件補正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。

(3)独立特許要件(第17条の2第5項)
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という)は、以下のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
ア 刊行物1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-46694号公報(以下「刊行物1」という)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【従来技術】従来の超音波トランスデューサについては、例えば、コロナ社発行の「医用超音波機器ハンドブック」の186頁等に記載されている。この超音波トランスデューサは、ダンピング層の上に絶縁層を介して両面に電極を形成したPZT圧電セラミックス薄片を接着し、さらに音響整合層を接着していた。」(段落【0002】)

(イ)「ところで、現在医療用超音波トランスデューサには、病変をより早期に発見するために、解像力の向上が求められている。このため深さ方向の分解能を高めることを目的とし、発信周波数の向上による短波長化が行われている。」(段落【0003】)

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したような構造では、超音波トランスデューサを高周波化すると、その主な構成要素である圧電素子が薄くなる結果、以下のような問題が生じる。
(1)圧電セラミックスを研磨法で薄くして行くと、研磨工程並びにその後の超音波トランスデューサ組立工程や使用中に圧電セラミックスが破損し易い。
(2)高分子圧電体では、電気的インピーダンスが高くなるため、特に小型化した場合に信号伝達用ケーブルとのマッチングがとれなくなるために信号の伝達にロスが生じ、結果的に感度が低下する。
(3)蒸着・スパッタ・ゾル-ゲル法等の手法で形成される圧電素子は、厚さが薄過ぎるため、発信周波数が数100MHzオーダー以上となり、体内での減衰が大きすぎて観測に適さない。」(段落【0004】)

(エ)「本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、高周波化・高出力化に対応できる超音波トランスデューサーを提供することを目的とする。」(段落【0005】)

(オ)「【課題を解決するための手段】本発明は、圧電振動子と、該圧電振動子の一方の面に形成された音響整合層と、該圧電振動子の他方の面に形成された背面負荷材とを基本構成要素とする超音波トランスデューサにおいて、圧電振動子を、薄膜状の圧電素子と、該圧電素子を挟持しかつ該圧電素子と一体に固着された2つの共振体とからなる厚さ方向超音波共振器として構成したものである。」(段落【0006】)

(カ)「【作用】上記した手段によれば、超音波共振器により、メカニカルQが増加するため、発信される超音波パルスは増幅される。この場合の超音波パルスの発信周波数は、超音波共振器の厚さにより規定され、圧電素子の厚さにはよらない。このため、電気的インピーダンスが小さいPZT等の圧電セラミックスを用いた、数百MHz相当の共振周波数をもつ厚さ10μm程度の圧電素子が、数十MHzクラスの超音波トランスデューサに使用可能となる。また、圧電素子は、振動子を構成する共振体に挟持される構造となるため、機械的強度が高まる。」(段落【0007】)

(キ)「【実施例1】(構成)図1には実施例1が示されている。この実施例の超音波トランスデューサ5は、圧電体薄層8の表裏面に電極7a,7bが形成された薄層状圧電素子1と、この薄層状圧電素子1を挟持したアルミナセラミックスからなる2つの共振体2a,2bとから構成された圧電振動子を基本構成要素とし、一方の共振体2aの表面には音響整合層3が形成されてその表面が音響放射面6となっているとともに、他方の共振体2bの表面には背面負荷材4が形成された構造となっている。」(段落【0008】)

(ク)「(作用)この実施例によれば、共振体2a,2bにより一体的に保持された薄層状圧電素子1は、超音波共振器として作用する。これにより、圧電体薄層8に高周波パルスを印加することによって生じる超音波振動は、共振作用によって増幅されつつ、音響放射面6から放射される。」(段落【0009】)

(ケ)「(効果)このように、発信される超音波パルスを増幅することができるため、高出力の超音波トランスデューサを得ることができる。」(段落【0010】)

イ 刊行物1発明
(ア)超音波トランスデューサ5
超音波トランスデューサを高周波化すると、その主な構成要素である圧電素子が薄くなる結果、破損し易くなり、感度が低下する問題が生じる(上記ア(ア)?(ウ))。
そこで、刊行物1記載の「超音波トランスデューサ5」は、高周波化・高出力化に対応できるようにしたものある(上記ア(エ))。

(イ)薄層状圧電素子1
薄層状圧電素子1は、PZT等の圧電セラミックスを用いたものである(上記ア(カ))。

(ウ)2つの共振体2a、2b
2つの共振体2a、2bは、アルミナセラミックスからなる(上記ア(キ))。
また、上記ア(ク)には「共振体2a,2bにより一体的に保持された薄層状圧電素子1は、超音波共振器として作用する。これにより、圧電体薄層8に高周波パルスを印加することによって生じる超音波振動は、共振作用によって増幅されつつ、音響放射面6から放射される。」とあり、上記ア(ケ)には「(効果)このように、発信される超音波パルスを増幅することができるため、高出力の超音波トランスデューサを得ることができる。」とあり、音響放射面6は、一方の共振体2aの表面に形成された音響整合層3の表面である(上記ア(キ))から、2つの共振体2a、2bは、薄層状圧電素子1にて生じた超音波振動を共振作用によって増幅しつつ音響整合層3に伝達するものといえる。
さらに、2つの共振体2a、2bは、薄層状圧電素子1を挟持する(上記ア(キ))。
よって、2つの共振体2a、2bは、アルミナセラミックスからなり、薄層状圧電素子1を挟持し、薄層状圧電素子1にて生じた超音波振動を共振作用によって増幅しつつ音響整合層3に伝達するものである。

(エ)音響整合層3
音響整合層3は、一方の共振体2aの表面に形成されたものであり、その表面が音響放射面6となる(上記ア(キ))。

(オ)背面負荷材4
背面負荷材4は、他方の共振体2bの表面に形成されたものである(上記ア(キ))。

(カ)一体に固着
上記ア(オ)には「本発明は、・・・(中略)・・・圧電振動子を、薄膜状の圧電素子と、該圧電素子を挟持しかつ該圧電素子と一体に固着された2つの共振体とからなる厚さ方向超音波共振器として構成したもの」とある。
ここで、上記記載における「薄膜状の圧電素子」は、上記ア(キ)でいう「薄層状圧電素子1」を指し、上記記載における「圧電振動子」は、上記ア(キ)でいう「薄層状圧電素子1」を「2つの共振体2a、2b」で挟持したものを指すことが明らかである。
よって、2つの共振体2a、2bと薄層状圧電素子1とは一体に固着されることが明らかである。

(キ)まとめ(刊行物1発明)
以上に加え、上記ア(ア)?(カ)の記載及び図1によれば、刊行物1発明として、以下のとおりのものを認定することができる。
「PZT等の圧電セラミックスを用いた薄層状圧電素子1と、
アルミナセラミックスからなり、薄層状圧電素子1を挟持し、薄層状圧電素子1にて生じた超音波振動を共振作用によって増幅しつつ音響整合層3に伝達する2つの共振体2a、2bと、
一方の共振体2aの表面に形成され、表面が音響放射面6となる音響整合層3と、
他方の共振体2bの表面に形成された背面負荷材4と、
を具備し、2つの共振体2a、2bと薄層状圧電素子1とを一体に固着することで高周波数化・高出力化に対応できるようにした超音波トランスデューサ5。」

ウ 対比
本件補正発明と刊行物1発明とを対比する。
(ア)「超音波トランスデューサ」について
刊行物1発明の「超音波トランスデューサ5」は、音響整合層3の表面が音響放射面6となっており、そこから超音波振動が放射されるから、本件補正発明でいう「超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサ」に相当するといえる。

(イ)「圧電性結晶」について
PTZは、チタン酸ジルコン酸鉛の略称であり、結晶構造を持つものであるから、刊行物1発明の「PZT等の圧電セラミックスを用いた薄層状圧電素子1」は、本件補正発明でいう「超音波エネルギーを発生する圧電性結晶」に相当する。

(ウ)「ヘッド部」について
「音響整合層3」は、その表面が音響放射面6となるから、目的対象と対峙して位置することが明らかである。
また、「音響整合層3」は、薄層状圧電素子1を挟持する2つの共振体2a、2bのうちの一方の共振体2aの表面に形成されるから、「薄層状圧電素子1と目的対象との間に位置する」ものであることも明らかである。
よって、刊行物1発明の「音響整合層3」は、本件補正発明でいう「前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部」に相当する。

(エ)「共振器」について
a「セラミックス材からなり、前記圧電性結晶にて生じた超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する」
刊行物1発明の「一方の共振体2a」は、薄層状圧電素子1にて生じた超音波振動を共振作用によって増幅しつつ音響整合層3に伝達するものであるところ、「超音波振動を共振作用によって増幅しつつ」としている以上、「実質的に減衰させることなく」とする状態を充足するものであるから、「セラミックス材からなり、前記圧電性結晶(上記ウ(イ))にて生じた超音波エネルギー(上記ウ(イ))を実質的に減衰させることなくヘッド部(上記ウ(ウ))に伝達する」ものといえる点では、本件補正発明でいう「共振器」と相違しない。

b「前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され前記ヘッド部と接触している共振器」
本件補正発明では、「共振器」について「前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され」としているところ、
「共振器」は、請求項の後段で、「前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である」としており、明細書第4ページ第11?13行にも「全ての構成部材が組み立てられ、それは、ボルト18を低出力応用に対する150インチ-ポンドから高出力応用に対する500フィート-ポンドまでの範囲のトルク圧力で締め付けることによってヘッド部分11に結合される。」とあることからすれば、
本件補正発明で、「共振器」についていう上記「配置され」とは、「共振器」は、結合前はヘッド部とは別体であることを前提に、「締め付け手段」により結合するためヘッド部と圧電性結晶との間に位置させることをいうものといえる。すなわち、結合前においては「共振器」はヘッド部とは別体であると解釈される。
これに対し、刊行物1発明では、「2つの共振体2a、2b」は薄層状圧電素子1を挟持するものであり、音響整合層3はその「一方の共振体2a」の表面に形成されるものである。これを、一方の共振体2aの位置についてみれば、共振体2aは、音響整合層3(本件補正発明の「ヘッド部」)と薄層状圧電素子1(本件補正発明の「圧電性結晶」)間に位置するものといえ、また、一方の共振体2aと(その表面に形成された)音響整合層3とは、少なくとも接触する状態で結合しているといい得る。
しかし、一方の共振体2aとその表面に形成される音響整合層3とは、その「形成」の具体的態様は不明であるから、「共振体」は結合前においてヘッド部とは別体であるとはいい得ず、また図1からみても、一方の共振体2aと音響整合層3との結合が「締め付け手段」によりなされるものでもないから、上記解釈からすれば、「前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され」る「共振器」とまではいえない。
したがって、「一方の共振体2a」は、「前記ヘッド部(上記ウ(ウ))と前記圧電性結晶(上記ウ(イ))との間に位置し前記ヘッド部と接触している共振体」といえる点では、本件補正発明とは相違しないものの、「前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され」る「共振器」とまではいえない。

c まとめ(「共振器」について)
刊行物1発明の「一方の共振体2a」は、「セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振体であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に位置し前記ヘッド部と接触している共振体」といえる点では、本件補正発明の「共振器」と相違しない。
もっとも、「前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され」る「共振器」とまではいえない。

(オ)「前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振器とは反対側に配置した尾部」について
刊行物1発明の「背面負荷材4」は、他方の共振体2bの表面に形成されたものであるところ、2つの共振体2a、2bは薄層状圧電素子1を挟持し、一方の共振体2aの表面には音響整合層3が形成されるから、「背面負荷材4」は、「前記圧電性結晶(上記ウ(イ))から見て前記ヘッド部(上記ウ(ウ))や共振体(上記ウ(エ))とは反対側に配置した」ものといえる。したがって、「背面負荷材4」は、本件補正発明でいう「尾部」と相違しない。
もっとも、刊行物1発明の「共振体2a」が「共振器」とまではいえないのは上記ウ(エ)のとおりである。

(カ)「締め付け手段」及び「切り離し可能」について
刊行物1発明では、2つの共振体2a、2bと薄層状圧電素子1とを「一体に固着し」、一方の共振体2aの表面に音響整合層3が「形成され」、他方の共振体2bの表面に背面負荷材4が「形成される」としている。
2つの共振体2a、2bと薄層状圧電素子1とを具体的に如何なる手段で一体に固着するのかは定かでない。
また、一方の共振体2a、他方の共振体2bの表面に形成された音響整合層3および背面負荷材4のそれぞれと、共振体2a、2bそれぞれとの結合は、「締め付け手段」によりなされるものではない。
そして、一方の共振体2aが薄層状圧電素子1及び音響整合層3と切り離し可能であるのか否か、については定かでない。
したがって、「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段」を具備し、「前記共振器は前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である」とする本件補正発明とは相違する。

(キ)一致点、相違点
以上から、本件補正発明と刊行物1発明とは、

[一致点]
「超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサであって、
超音波エネルギーを発生する圧電性結晶と、
前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部と、
セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振体であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に位置し前記ヘッド部と接触している共振体と、
前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振体とは反対側に配置した尾部と
を具備する超音波トランスデューサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本件補正発明では、
「共振体」が、ヘッド部と圧電性結晶との間に「配置」される「共振器」であり、
「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段」を具備し、
「前記共振器は前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である」としている
のに対し、
刊行物1発明では、
「共振体」が、(結合前においてヘッド部とは別体とはいえないから)ヘッド部と圧電性結晶との間に「配置」される「共振器」とはいえず、
「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段」を具備しておらず、
「共振体」が圧電性結晶及びヘッド部と「切り離し可能」とはしていない点。

エ 判断
上記相違点について検討する。
刊行物1発明は、超音波トランスデューサを高周波化する際、圧電素子が薄くなる結果、感度や機械的強度が低下するという課題を解決するため、従来の超音波トランスデューサでは用いられていなかった超音波振動を音響整合層に伝達する共振体(上記ア(ア))を、圧電素子と一体に固着するように設ける(すなわち、音響整合層・共振体・圧電振動子をこの順の積層構造とする)という技術手段により、感度や機械的強度の維持、高出力化という技術的効果を図るものではある。しかしながら、刊行物1に接した当業者は、特に薄い圧電素子に限らず、一般に当該技術手段によりそのような技術効果が期待し得ると捉えるものである。このことは、例えば、原査定で提示された下記周知例2に、圧電素子・共振体・振動片の積層構造が示されていることからみても首肯されるものである。
すなわち、刊行物1は、一般的に、超音波トランスデューサを、音響整合層・共振体・圧電振動子の順の積層構造とするという技術手段により、感度や機械的強度の維持、高出力化という技術的効果が期待できるという技術思想を開示するものである。
そして、超音波トランスデューサを、その用途に応じて、用いる圧電素子の厚み・サイズや全体のサイズを適宜に設計することは、当業者が普通に行うことであり、その際、感度や機械的強度の維持、高出力化は、素子などの厚み・サイズにかかわらず考慮されるべき一般的課題というべきところ、
超音波トランスデューサの各構成部を結合する結合手段として、ボルト締結手段は周知慣用の手段にすぎない(例えば、下記ク周知例1?4参照)ことを考慮すれば、
刊行物1記載の上記積層構造のトランスデューサを、適宜の厚み・サイズの振動子を用いた適宜サイズの超音波トランスデューサとするにあたり、
「共振体」を、ヘッド部とは別体で、ヘッド部と圧電性結晶との間に「配置」される「共振器」とし、
「締め付け手段」により「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける」とする
ことは当業者であれば容易に想到し得たことである。
その際、ボルト締結による結合は接着剤等による結合とは異なり、ボルトを外せば共振器は圧電性結晶及びヘッド部と切り離すことができるため、「前記共振器は前記圧電性結晶及び前記ヘッド部と切り離し可能である」とすることは格別のことではなくごく普通のことである。

オ 効果等
以上のとおり、上記相違点に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるところ、その作用効果も、刊行物1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

カ 請求人の主張についての検討
請求人は「(e)引用文献1?3に記載の発明に、締め付け手段を構成要素として付加することはいわゆる当業者にとって容易ではありません。引用文献1、2の記載では、層同士を結合するために固着手段を用いているので締め付け手段を必要としません。共振体を圧電素子に一体に固着することで、トランスデューサのメカニカルQが増加し、発信される超音波パルスが増幅され、必要とされる共振周波数を持ち電気的インピーダンスの低い10μm程度の厚さをもつ圧電素子の使用が可能となるという好ましい効果が得られるというものです(引用文献1、段落0006,0007)。引用文献3では、締め付けボルトは不具合があるので明確に使用を避けています(段落0004,0006)。よって、本願発明の請求項に記載された締め付け手段は必要でなく、また、不具合があるので、いわゆる当業者が締め付け手段を用いることはないと考えます。」と主張している。
しかし、上記エのとおり、刊行物1記載の積層構造の超音波トランスデューサにおける厚さ・サイズを適宜設計するにあたり、結合手段として如何なる手段を採用するかは設計事項であるから、接着等の他の結合手段に代えて周知のボルト締結(例えば、下記ク周知例1?4参照)を採用することは、実施する際の厚さ・サイズ等を考慮して当業者が適宜なし得たことである。
また、刊行物3において、従来周知であるボルト締結構造の採用を避けるとしているのは、「マイクロマシンに代表されるような微小構造の駆動源として超音波モータを実現しようとする場合」(段落【0004】)であるところ、刊行物3から周知技術として引用するのは、ボルト締結構造を有さない図1?図19のものではなく、従来技術として記載されている図20、図21のものであるから、刊行物1記載の積層構造の超音波トランスデューサにおける厚さ・サイズを適宜設計するにあたり、ボルト締結の採用を何ら阻害するものではない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

キ まとめ(独立特許要件)
以上によれば、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

ク 周知例
周知例1:米国特許3575383号公報
(本願の当初明細書に従来技術として掲載)
「Two annularly shaped piezoelectric type crystals 16 and 17 are coupled to base 13 by means of a tapered stud 15 which is screwed into a threaded receptacle 19 in the center of base 13. A nut 18 on stud 15 causes a compression plate 21 to compress elements 16 and 17 together and against base 13.(環状に形成された圧電性結晶16、17が植込みボルト15によって基部13に結合されており、植込みボルト15は基部13の中央においてねじの切られた受け部の中にねじ込まれている。植込みボルト15上のナット18により圧縮プレート21が圧電性結晶16、17を共に基部13に押し付けるようにする)。」(第2欄第21?26行)。
「The following component values and specifications will provide an ultrasonic generator with a frequency of 20 kilohertz and power capacity of 250 watts(次の成分値及び仕様は、超音波発生器の周波数、電力容量を、それぞれ20kHz、250wとするものである)」(第3欄第34?36行)。

周知例2:特開平6-291388号公報
(原査定で刊行物3として提示済み)
段落【0003】には「ランジュバン型の超音波振動子91は、図21に示した様に、形状はφ数mm?数十mm程度で長さが数mm?百mm程度の円柱状が一般的であり、圧電素子94を金属性のブロックからなる共振体95で挟持した構成を取る。これらの構成部材は、一般的にはボルト96締結により結合されている。」とある。
上記段落【0003】では、「圧電素子94」、「共振体95」と記載する一方、図21では、「94」と「95」が同一のものを指しており、矛盾が認められる。
しかし、圧電素子94を共振体95で挟持する旨の記載からすれば、正しくは、図20、図21におけるハッチングされた部分が圧電体素子94であり、これに隣接する両側部分が共振体95であることが明らかである。
また、段落【0013】、【0014】には、図4?図8で示される実施例1について、「下部共振体25」、「圧電体薄膜17」、「上部共振体22」とあり、段落【0028】には、図12で示される実施例4について、「下部共振体25」、「下部圧電体薄膜31」、「上部圧電体薄膜32」とあり、上部圧電体薄膜と下部圧電体薄膜を上部共振体及び下部共振体で挟持する構造が明記されていることからしても、正しくは、図20、図21におけるハッチングされた部分が圧電体素子94であり、これに隣接する両側部分が共振体95であることが明らかである。

周知例3:特開昭61-289799号公報
「従来技術の2重にマス荷重(mass 1oad)をかけた縦形振動子が第1図(a)に示されている。圧電材料リング1は互いに接合されて複合スタック2を形成し、電気的に並列に配線されていて、リード線間に電圧が印加された時にすべてのリングが調和して、装置の縦軸方向に、膨脹、収縮するようになっている。単一の振動ヘッド(頭部)マス素子即ちヘッドマス3は前面4を有し、放射面として作用するとともに、スタックの前端の荷重として作用する。テイル(尾部)マス5はスタックの他端に付けられていて、通常ヘッドマス3より質量が大きく、これにより主にヘッドマス3の方で運動が生ずるようにしである。ストレス棒即ち予め張力をかけられたボルト6およびこれに関連するナツト7が上記各部を結合し、活性素子のスタック2に圧縮性のバイアスをかけるために用いられている。」(第2ページ左下欄第6行?同右下欄第2行)

周知例4:特開昭63-125100号公報
「第1図は、実施例の超音波振動子2の一部を破断した斜視図に、その駆動電気回路を略記した説明図である。図より明らかなように本実施例の超音波振動子2はボルト締めランジュバン型の構成で、中央部にある円板上の駆動用圧電素子4の両側を肉厚の弾性体6.8で挟み込み、これらの中心軸上を貫通するボルト10と該ボルト10に螺着されるナツト12との締め付は力により、駆動用圧電素子4と弾性体6,8とを圧着する。」(第2ページ右上欄第14行?同左下欄第2行)

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合しないものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
平成17年3月8日付けの手続補正は上記のとおり却下した。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成16年9月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサであって、
超音波エネルギーを発生する圧電性結晶と、
前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部と、
セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振器であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に配置され前記ヘッド部と接触している共振器と、
前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振器とは反対側に配置した尾部と、
前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段と
を具備する超音波トランスデューサ。」


第4 当審の判断
1 刊行物1の記載
原査定の拒絶理由に引用された上記刊行物1には、上記第2 2(3)アのとおりの記載があり、上記第2 2(3)イ(キ)のとおりの発明(以下「刊行物1発明」という)を認定することができる。

2 対比
そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較すると、本件補正発明と刊行物1発明との対応関係については上記第2 2(3)ウに記載したとおりであるところ、これを援用する。
本願発明と刊行物1発明とは、
[一致点]
「超音波エネルギーを発生して目的対象に伝達する超音波トランスデューサであって、
超音波エネルギーを発生する圧電性結晶と、
前記圧電性結晶と前記目的対象との間に位置するヘッド部と、
セラミック材からなり、前記圧電性結晶にて発生した超音波エネルギーを実質的に減衰させることなくヘッド部に伝達する共振体であって、前記ヘッド部と前記圧電性結晶との間に位置し前記ヘッド部と接触している共振体と、
前記圧電性結晶から見て前記ヘッド部や共振体とは反対側に配置した尾部と
を具備する超音波トランスデューサ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明では、
「共振体」が、ヘッド部と圧電性結晶との間に「配置」される「共振器」であり、
「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段」を具備する
のに対し、
刊行物1発明では、
「共振体」が、(結合前においてヘッド部とは別体とはいえないから)ヘッド部と圧電性結晶との間に「配置」される「共振器」とはいえず、
「前記ヘッド部と前記共振器と前記圧電性結晶と前記尾部とを重ねて締め付ける、締め付け手段」を具備していない点。

3 判断
上記相違点についての判断は、上記第2 2(3)エで本件補正発明に係る相違点についてした判断と同じである。

4 効果等
以上のとおり、上記相違点に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるところ、その作用効果も、上記刊行物1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5 まとめ(当審の判断)
したがって、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、残る請求項2ないし14に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-18 
結審通知日 2008-01-29 
審決日 2008-02-12 
出願番号 特願平9-540223
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
P 1 8・ 575- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松澤 福三郎志摩 兆一郎  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 益戸 宏
奥村 元宏
発明の名称 超音波トランスデューサ  
代理人 山崎 行造  

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