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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1206931
審判番号 不服2006-26049  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-17 
確定日 2009-11-13 
事件の表示 特願2002-525671「磁気コアおよびそれを用いたインダクタンス部品」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月14日国際公開、WO02/21543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年9月10日(優先権主張2000年9月8日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成18年10月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成21年5月13日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年7月21日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年7月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】磁路の少なくとも1箇所以上に磁気ギャップを有し、該磁気ギャップ両端から磁気バイアスを供給するために、該磁気ギャップ近傍に配した磁気バイアス用磁石を備え、リフローはんだ処理を経て得られるインダクタンス部品の磁気コアにおいて、前記磁気バイアス用磁石が、樹脂に磁石粉末が分散されてなるボンド磁石であり、0.1Ω・cm以上の比抵抗を有し、該磁石粉末は、固有保磁力が10KOe以上、キュリー点Tcがリフローはんだ処理の温度より高い500度以上であり、粉末粒径が150μm以下のSm-Co粉末によって形成されており、前記磁気ギャップに前記磁石を挿入しない場合に比較して直流重畳特性を改善できることを特徴とする磁気コア。」

第3 刊行物及び周知例の主な記載事項
1 刊行物1:特開平11-354344号公報(拒理の引用文献7)
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物1には、「インダクタンス素子」(発明の名称)に関して、図1,図2とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は、引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下、同様。)
「【要約】
【目的】 挿入損失が小さく、長期的に電気的特性が安定し、組立が容易なインダクタンス素子を提供する。
【構成】 インダクタンス素子の磁気回路を構成するEI形状の軟磁性材料からなる磁心2、3と前記磁心の空隙部に配置した電気抵抗が高く、不可逆減磁率が小さい耐熱性ボンド磁石1と前記磁心に巻回したコイル(図示せず)からなり、前記コイルによる直流磁界と反対方向に前記耐熱性ボンド磁石1による磁気バイアスが印加されるように構成する。」
「【請求項1】 磁心空隙に磁気バイアスを与える永久磁石を配置するインダクタンス素子であって、前記永久磁石は電気抵抗が0.01?0.05Ωcm、また、0℃から120℃の不可逆減磁率変化が2%以内の耐熱ボンド磁石であることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項2】 ボンド磁石はR-T-B-Nb系(RはYを含めた希土類元素のいずれか1種又は2種以上、TはFe又は一部をCo及び/又はNiに置換したFe)磁石粉末を高分子重合体、純金属、合金のいずれかのバインダーで結合した希土類ボンド磁石であることを特徴とする請求項1記載のインダクタンス素子。」
「【請求項6】 希土類ボンド磁石のR成分の50原子%以上がSmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のインダクタンス素子。
【請求項7】 希土類磁性粉末の平均粒径が10?120μmの範囲にあることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のインダクタンス素子。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は磁心空隙に永久磁石を配置して該磁石により直流重畳特性を向上させるインダクタンス素子に関するものである。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】第1の従来例では磁心の空隙に永久磁石(希土類コバルト磁石)を配置しているが希土類コバルト磁石は、電気抵抗が10^(-5)Ωcm程度と極めて小さいため渦電流損失が大きくなり、発熱を起こした。この発熱に伴い磁心の温度が上昇するので磁心の磁気特性が変化し、インダクタンスが減少するなどインダクタンス素子としての特性が著しく低下させた。」
「【0007】第3の従来例では、磁心の空隙に粉砕した永久磁石片と絶縁物とを混合し圧縮成形してなるボンド磁石を配置することにより、渦電流損失を小さくする・・・」
「【0018】耐熱ボンド磁石は、電気抵抗、不可逆減磁率を向上させたR-T-B-Nb系(RはYを含めた希土類元素の内の少なくとも1種、TはFe又は一部をCoで置換したFe)磁石粉末、R-T-M-B-N系(RはYを含めた希土類元素のいずれか1種又は2種以上、TはFe又は一部をCo及び/又はNiに置換したFe、MはAl、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wのいずれか1種又は2種以上)磁石粉末をバインダーで結着して作製する。
【0019】前記により第1の従来例と比べ前記耐熱ボンド磁石の電気抵抗は著しく大きくなり、第2の従来例のような永久磁石の分割といった手段を用いなくても渦電流損失を小さくでき、インダクタンス素子の挿入損失を減少させることができるとともに、耐熱性ボンド磁石の磁心空隙への配置を容易化する。また不可逆減磁率の減少により、高温環境下での信頼性に優れたインダクタンス素子を得ることができる。
【0020】なお、磁石粉末を結着するバインダーとしては、高分子重合体としてはエポキシ樹脂やフェノール樹脂に等に代表される熱硬化樹脂又はポリアミド樹脂、EEA樹脂等の熱可塑樹脂又は合成ゴム、天然ゴムなどを用いればよいが、インダクタンス素子環境温度、更には、フロー、リフローといったはんだ付けによる軟化又は劣化が発生しないバインダーを用いるのが好ましい。
【0021】またボンド磁石のR成分の50原子%以上好ましくは70%以上をSmとして高い保磁力を得て、インダクタンス素子のコア磁路に発生する磁束による減磁を抑制でき、インダクタンス素子の電気特性を向上させ、更なる高電流化に対応することができる。」
「【0033】(実施例2)・・・この磁性粉末の平均粒径は10μmとした。前記磁性粉末をエポキシ樹脂と混練した後、10kOeの磁場中でプレス圧10ton/cm^(2)で圧縮成形し、硬化のため140℃、1時間の熱処理を施して耐熱ボンド磁石を得た。このボンド磁石は6.2kOeと高い保磁力を得ることができた。
【0034】(実施例3)・・・磁性粉末の平均粒径は120μmとした。このボンド磁石は6.8kOeと上記ボンド磁石より高い保磁力を得ることができた。
【0035】実施例2及び実施例3で得た耐熱ボンド磁石を実施例1のインダクタンス素子に用いて、温度100℃の恒温槽中に2000時間放置し高温試験を実施した。本試験においても実施例2及び実施例3は試験前後の直流重畳特性値の差異が大変小さく、実施例1と同様に信頼性の高いインダクタンス素子を得ることができた。
【0036】
【発明の効果】本発明は上述した構成を有するので、挿入損失が低く、かつ長期的に電気的特性が安定し、組立が簡易なインダクタンス素子を得ることができる。」
以上から、刊行物1には、「磁心空隙に磁気バイアスを与える永久磁石を配置するインダクタンス素子であって、前記永久磁石は電気抵抗が0.01?0.05Ωcmである耐熱ボンド磁石であり、ボンド磁石は、平均粒径が10?120μmの範囲にある磁石粉末を樹脂で結合した希土類ボンド磁石であることを特徴とするインダクタンス素子。」が記載されている。

2 刊行物2:特開平11-214207号公報(拒理の引用文献1)
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物2には、「希土類ボンド磁石及び希土類ボンド磁石用組成物」(発明の名称)に関して、図1とともに以下の事項が記載されている。
「【0020】圧縮成形法は、・・・得られた磁石中の樹脂バインダ量が10vol%以下と少なく、残留磁化等の磁気特性には有利である。しかし、磁石の形状に対する自由度が小さい。
【0021】押出成形法は、・・・結合樹脂の添加量は約20vol%と、圧縮成形法のそれに比べて多くする必要があり、得られた磁石中の樹脂量が多く、磁気特性が低下するという欠点がある。
【0022】射出成形法は、・・・樹脂バインダの添加量は約40vol%と、押出成形法のそれに比べてさらに多くする必要があり、得られる磁石中の樹脂量が多く、磁気特性はさらに低下する。」
「【0026】このことより、コンパウンドの抵抗率と磁性粉末濃度の関係を二次元座標上に表現した場合、磁性粉末濃度が57vol%のとき200Ω・cmである点と、磁性粉末濃度が90vol%のとき12Ω・cmである点、を結んで得る直線上か、または該直線よりも抵抗率が大きくなるようにコンパウンドを調製することで耐食性は改善する。また、コンパウンドを成形加工して得るボンド磁石の耐食効果についても全く同じ傾向を示す。」
「【0061】さらに、コンパウンドの抵抗率が高いことが耐食性に影響していることについては、合金粒子が分散状態で樹脂バインダ中に存在することにより、コンパウンド中の合金粉末の表面には必ず樹脂バインダが覆い、これが絶縁性であるため、抵抗率が高くなるためと推定している。コンパウンド中の合金粉末が分散状態にあり、粒子表面を樹脂バインダで均一に覆うことにより耐食性に寄与している。しかも、Sm-Fe-N系の合金粉末では、粒径を小さくすることが可能であり、単磁区粒径に近い合金粉末粒子を分散させているコンパウンドを成形して得たボンド磁石は保磁力、残留磁化等の磁気特性も従来のそれに比べ大きく改良される。」
さらに、図1には、磁性粉末の体積濃度を小さくするにしたがって抵抗率が大きくなることが示されている。

3 周知例1:特開平05-198724号公報(拒理の引用文献15)
「【0023】このように配置した後、遠赤外線ベルト炉、VPSリフロー装置等の加熱装置で接合材料3の融点以上に加熱して入出力ピン2を磁石4の磁力によって基板1側に密着して接合する。ここで磁石4および入出力ピン2に使用する磁性材料は接合材料3の融点より高いキュリー温度を有する材料を選択する必要がある。
【0024】具体的には希土類コバルト系の磁石のキュリー温度は約400度(C)であり、ニッケルでは358度(C)であるため接合材料としてスズ鉛はんだ(融点:320度(C)以下)、金スズ共晶はんだ(融点:280度(C))を使用する場合は問題ないが融点が300度(C)以上の接合材料、すなわち、金ゲルマニウム、金シリコン等を使用する場合はキュリー温度の高い鉄・クロム・コバルト系磁石等を使用し、また、入出力ピン2の材料に鉄系のコバール材等を使用する必要がある。」

4 周知例2:特開平09-083126号公報(拒理の引用文献16)
「【0051】なお、前記永久磁石及び電磁石を使用した実施例では、ヒータチップ35の吸着面、永久磁石43、スリーブ37の材料として、半田加熱温度を考慮してキュリー点の高い磁性材料を選択して実施する。」

5 周知例3:特開平09-289402号公報(拒理の引用文献17)
「【0004】・・・この半田付け作業の時に、永久磁石5の温度がキュリー点を越え、永久磁石5の磁力の低下を招く恐れがある。もし、永久磁石5の磁力が低下すると、サーキュレータの電気的特性が劣化する。・・・」

6 周知例4:特開平01-161842号公報(拒理の引用文献18)
「また、磁性膜に用いる磁性材料は、そのキュリー温度が半田の溶融温度以上のものであれば、いかなるものでもよい。」(3頁右下欄18?20行)

7 周知例5:特開平11-225462号公報(拒理の引用文献19)
「【0004】・・・Nd・Fe・B系の永久磁石は、磁気特性に優れる反面、キュリー点が320℃と低く、100℃の雰囲気下でも数%の不可逆的減磁が起きるという欠点があった。」
「【0009】上記構成の磁性材料は、キュリー点が600℃と高く、モータの駆動により温度上昇しても不可逆減磁する程度が小さく、モータ特性が安定する。・・・」

8 周知例6:特開平09-045567号公報(拒理の引用文献20)
「【0002】・・・希土類-鉄-ボロン系永久磁石はキュリー温度が低いために残留磁束密度の温度係数が大きく高温減磁する欠点を有している。・・・」
「【0004】・・・また、200℃程度の熱処理ではかえって磁気特性を低下させるという問題点がある。・・・一方、160℃のような高温環境下での不可逆減磁率を減少させ熱安定性を向上させる方法として、キュリー温度を高くする元素であるCo元素等を添加する方法がある。・・・」

9 周知例7:特開平01-119905号公報(拒理の引用文献21)
「なお、この場合に永久磁石I7としては、加熱炉中に収納することから耐熱性に優れ、かつ不可逆減磁の少ない材料からなるものが用いられ、具体的には以下に述べる理由によりアルニコ磁石が好適に採用される。このアルニコ磁石は、そのキュリー温度が850℃であり、400?500℃の環境下でも磁性膜14の軟磁気特性を向上させるのに十分な磁界(約100?2000e以上)を発生させることが可能である。」(3頁右上欄6?14行)

10 周知例8:特開平05-153749号公報(拒理の引用文献22)
「【0029】最後に、回転子の構成を説明する。回転子の磁極は、摂氏約330度の高温環境に長期間設置されるので、キュリー温度が高く、かつ保磁力が大きいサマリウムコバルト磁石で製作される。高温環境における長期間の使用により、永久磁石8の保磁力がしだいに弱まる高温不可逆減磁は避け得ない。」

11 周知例9:特開平10-055914号公報(拒理の引用文献23)
「【0018】本発明の希土類焼結磁石としては、例えば、SmCo_(5)系、Sm_(2)Co_(17)系、(Sm、Ce)_(2)Co_(17)系、Nd-Fe-B系及び(Nd、Dy)-Fe-B系の内のいずれか1種が挙げられる。これら希土類焼結磁石は例えば放射線の存在する環境における用途に対して、放射線照射に起因する磁束密度の低下の懸念が少なく、磁束量の安定化のため着磁後50ないし120℃程度で加熱冷却した際に非可逆減磁率が小さく、キューリ温度も高く、かつ高保磁力を有することから、パーミアンス係数的にも有利であるSm-Co系やNd-Fe-B系の異方性焼結磁石が最も適している。」

12 周知例10:特開平04-010504号公報(拒理の引用文献24)
「特に、SmCo_(5)系永久磁石は、保磁力が大であり、キュリー点も710℃と高く、耐熱性及び耐蝕性に優れている」(2頁左下欄16?18行)

13 周知例11:特開平02-259039号公報(拒理の引用文献25)
「その後、SmCo_(5)よりも磁気特性の優れた磁石開発に努力が払われ、SmCo_(5)よりもCoに富み、Bs値が1.28KGと高いSm_(2)Co_(17)の化合物を利用する希土類磁石が出現した。このタイプのものは2-17型磁石と総称され、Sm(Co、Fe、Cu)_(・・・)およびSm(Co、Fe、Cu、Zr)_(・・・)の2種の希土類磁石であって、30MGOe程度の高い最大エネルギー積(BH)max、10KOe以上の保磁力iHcを有する。」(2頁左上欄5?13行)

14 周知例12:特開平10-275718号公報(拒理の引用文献14)
【0004】の【表1】には、SmCo_(5)のキュリー点747℃、Sm_(2)Co_(17)のキュリー点917℃が記載されている。
「【0015】(実施例2)キュリー点が770℃であるSm_(2)Co_(17)系異方性磁石(日立金属製H-30CH)をジョウクラッシャー及びバンタムミルで粉砕し100メッシュ以下の粉末を得た。この磁粉96重量部及び微粉末フェノール樹脂4重量部をヘンセルミキサで混合後、8ton/cm^(2)の成形圧力で実施例1と同寸法の成形体を50個作製した。・・・」

第4 本願発明と刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「磁心空隙」、「磁気バイアスを与える永久磁石」、「インダクタンス素子」は、それぞれ本願発明の「磁気ギャップ」、「磁気バイアス用磁石」、「インダクタンス部品」に相当する。
(b)引用発明の「磁心空隙」は、刊行物1の図1からも明らかなように、E型コア2とI型コア3からなる磁心の磁路に設けられたものであり、本願発明の「磁路の少なくとも1箇所以上」には、「磁路の1箇所」も含まれるので、引用発明が「磁心空隙」を備えることは、本願発明の「磁路の少なくとも1箇所以上に磁気ギャップを有」することに相当する。
(c)引用発明の「磁心空隙に磁気バイアスを与える」ことは、本願発明の「該磁気ギャップ両端から磁気バイアスを供給する」ことに相当する。
(d)引用発明の「磁心空隙に磁気バイアスを与える永久磁石を配置する」ことは、本願発明の「磁気ギャップ近傍に配した磁気バイアス用磁石を備え」ることに相当する。
(e)引用発明の「インダクタンス素子」は、磁心を備えているので、本願発明の「磁気コア」にも相当する。
(f)引用発明の「永久磁石は」「耐熱ボンド磁石であり、ボンド磁石は、」「磁石粉末を樹脂で結合した希土類ボンド磁石」であることは、本願発明の「磁気バイアス用磁石が、樹脂に磁石粉末が分散されてなるボンド磁石」であることに相当する。
(g)引用発明の「平均粒径が10?120μmの範囲にある磁石粉末」は、本願発明の「磁石粉末は、」「粉末粒径が150μm以下」に含まれる。

よって、両者は、
「磁路の少なくとも1箇所以上に磁気ギャップを有し、該磁気ギャップ両端から磁気バイアスを供給するために、該磁気ギャップ近傍に配した磁気バイアス用磁石を備えるインダクタンス部品の磁気コアにおいて、前記磁気バイアス用磁石が、樹脂に磁石粉末が分散されてなるボンド磁石であり、該磁石粉末は、粉末粒径が150μm以下であることを特徴とする磁気コア。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]本願発明は、「リフローはんだ処理を経て得られるインダクタンス部品」であるのに対して、引用発明は、そのような明示がない点。
[相違点2]本願発明のボンド磁石は、「0.1Ω・cm以上の比抵抗を有し」ているのに対して、引用発明のボンド磁石からなる「永久磁石は電気抵抗が0.01?0.05Ωcm」である点。
[相違点3]本願発明の「磁石粉末は、固有保磁力が10KOe以上」であるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。
[相違点4]本願発明の「磁石粉末は、」「キュリー点Tcがリフローはんだ処理の温度より高い500度以上」であるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。
[相違点5]本願発明の「磁石粉末は、」「Sm-Co粉末」であるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。
[相違点6]本願発明は、「磁気ギャップに磁石を挿入しない場合に比較して直流重畳特性を改善できる」のに対して、引用発明は、そのような明示がない点。

そこで、上記相違点について検討する。
[相違点1について]
(a)刊行物1には、「【0020】・・・インダクタンス素子環境温度、更には、フロー、リフローといったはんだ付けによる軟化又は劣化が発生しないバインダーを用いるのが好ましい。」と、リフローはんだ処理を行うことが記載されているから、相違点1については、本願発明と引用発明は、実質的には相違していない。
(b)仮に、相違しているとしても、刊行物1における「【0020】・・・インダクタンス素子環境温度、更には、フロー、リフローといったはんだ付けによる軟化又は劣化が発生しないバインダーを用いるのが好ましい。」との記載から、引用発明において、本願発明のように「リフローはんだ処理を経て得られるインダクタンス部品」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
(a)刊行物1には、「【0005】【発明が解決しようとする課題】第1の従来例では磁心の空隙に永久磁石(希土類コバルト磁石)を配置しているが希土類コバルト磁石は、電気抵抗が10^(-5)Ωcm程度と極めて小さいため渦電流損失が大きくなり、発熱を起こした。この発熱に伴い磁心の温度が上昇するので磁心の磁気特性が変化し、インダクタンスが減少するなどインダクタンス素子としての特性が著しく低下させた。・・・【0007】第3の従来例では、磁心の空隙に粉砕した永久磁石片と絶縁物とを混合し圧縮成形してなるボンド磁石を配置することにより、渦電流損失を小さくする・・・」、「【0019】前記により第1の従来例と比べ前記耐熱ボンド磁石の電気抵抗は著しく大きくなり、第2の従来例のような永久磁石の分割といった手段を用いなくても渦電流損失を小さくでき、インダクタンス素子の挿入損失を減少させることができる・・・」と記載されており、電気抵抗が小さいと渦電流損失が大きくなり、発熱を起こすので、磁心の空隙に粉砕した永久磁石片と絶縁物とを混合し圧縮成形してなるボンド磁石を配置することにより、渦電流損失を小さくすること、すなわち、永久磁石片と絶縁物とを混合し圧縮成形してなるボンド磁石を配置することにより、電気抵抗を大きくして渦電流損失を小さくすることが記載されている。
(b)刊行物2には、ボンド磁石において、磁性粉末の体積濃度を小さくし、樹脂バインダの体積濃度を大きくすると抵抗率が大きくなるが、磁気特性が劣化することが記載されているように、絶縁体である樹脂バインダの体積濃度を大きくすれば、抵抗率が大きくできることは、当業者に自明なことである。
ただ、絶縁体である樹脂バインダの体積濃度を大きくすれば、それだけ磁性粉末の体積濃度が小さくなり、ボンド磁石としての磁気特性は低下するトレードオフの関係にある。
(c)引用発明においては、ボンド磁石からなる「永久磁石は電気抵抗が0.01?0.05Ωcm」であるが、電気抵抗を更に大きくすれば、更に渦電流損失が小さくなることは、当業者にとって自明なことであるから、電気抵抗(比抵抗)をどの程度にするかは、渦電流損失をどの程度小さくする必要があるかによって決定されることである。
(d)また、本願発明のボンド磁石において、「0.1Ω・cm以上の比抵抗」としたことによる効果も「渦電流損失を抑制して良好なコアロス特性を得ることができる」という、当業者の予想どおりの効果であって、当業者の予測を超えた臨界的意義も認められないので、引用発明のボンド磁石において、「0.1Ω・cm以上の比抵抗」とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

[相違点3について]
(a)刊行物1には「【0021】またボンド磁石のR成分の50原子%以上好ましくは70%以上をSmとして高い保磁力を得て、インダクタンス素子のコア磁路に発生する磁束による減磁を抑制でき、インダクタンス素子の電気特性を向上させ、更なる高電流化に対応することができる。」と、高い保磁力を有することが望ましいことが記載されているように、特に磁石材料において、できるだけ高い保磁力の材料を選択することは、当業者に自明な課題である。
(b)刊行物1の実施例2,3のボンド磁石では、保磁力が6.2KOe,6.8KOeであるが、保磁力を更に大きくすれば、更にインダクタンス素子のコア磁路に発生する磁束による減磁を抑制できることは、当業者にとって自明なことであるから、保磁力をどの程度にするかは、コア磁路に発生する磁束による減磁をどの程度抑制する必要があるかによって決定されることである。
(c)また、本願発明において、「磁石粉末は、固有保磁力が10KOe以上」としたことによる「優れた直流重畳特性を得ることができる」という効果も、大きな保磁力によりコア磁路に発生する磁束による減磁を抑制できた結果であるから、当業者の予想どおりの効果であって、当業者の予測を超えた臨界的意義も認められないので、引用発明において、「磁石粉末は、固有保磁力が10KOe以上」とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

[相違点4について]
(a)刊行物1には、「【0018】耐熱ボンド磁石は、電気抵抗、不可逆減磁率を向上させた・・・また不可逆減磁率の減少により、高温環境下での信頼性に優れたインダクタンス素子を得ることができる。」と記載されている。
不可逆減磁とは、加熱により減少した磁化のうち、室温に戻しても回復しない減磁のことを言うので、高温環境下での使用に耐える特性を備えた磁石が求められている。
(b)刊行物1には、「【0020】・・・フロー、リフローといったはんだ付けによる軟化又は劣化が発生しないバインダーを用いるのが好ましい。」と記載されており、リフローはんだ付けによるバインダーの軟化又は劣化を問題にしている。
(c)磁石などの磁性材料のキュリー点をハンダの融点より高くする必要があることは、周知例1?4にも示されるように周知技術である。
さらに、磁石のキュリー点が高いと熱安定性が向上し、不可逆減磁率が小さくなることは、周知例5?7にも示されるように技術常識である。
(d)以上の点を考慮すれば、リフローはんだ付けによる高温に曝される場合に、リフローに耐えるキュリー点の高い材料を選択することは、当業者が適宜なし得たことである。
さらに、磁石の熱安定性を向上させ、不可逆減磁率を小さくするべく、できるだけキュリー点が高い材料を選択することも、当業者が適宜なし得たことである。
(e)また、本願発明において、「磁石粉末は、」「キュリー点Tcがリフローはんだ処理の温度より高い500度以上」としたことによる「リフロー前後で変化の少ない直流重畳特性(透磁率)を得ることができる」という効果も、前記(c)に記載したとおり磁石のキュリー点が高いと熱安定性が向上し、不可逆減磁率が小さくできた結果であるから、当業者の予想どおりの効果であって、当業者の予測を超えた臨界的意義も認められないので、引用発明において、「磁石粉末は、」「キュリー点Tcがリフローはんだ処理の温度より高い500度以上」とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

[相違点5について]
(a)刊行物1には、「【0021】またボンド磁石のR成分の50原子%以上好ましくは70%以上をSmとして高い保磁力を得て、インダクタンス素子のコア磁路に発生する磁束による減磁を抑制でき、インダクタンス素子の電気特性を向上させ、更なる高電流化に対応することができる。」と、ボンド磁石のR成分の多くをSmとすると高い保磁力が得られることが記載されている。
(b)また、Sm-Co磁石は、保磁力が大きく、キュリー点が高く、熱安定性に優れていることは、周知例8?12にも示されるように技術常識であり、Sm-Co磁石の保磁力が10KOe以上であることは、周知例11に示されており、キュリー点が500℃以上であることは、周知例10,12に示されているように技術常識である。
(c)よって、固有保磁力が10KOe以上、キュリー点Tcが500度以上である磁性材料として、Sm-Co粉末を選択することは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点6について]
(a)刊行物1には、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は磁心空隙に永久磁石を配置して該磁石により直流重畳特性を向上させるインダクタンス素子に関するものである。」と記載されており、さらに、磁気空隙に永久磁石を挿入すれば、磁気空隙に永久磁石を挿入しない場合に比較して直流重畳特性を改善できることは、明らかであるから、相違点6については、本願発明と引用発明は、実質的には相違していない。
(b)仮に、相違しているとしても、引用発明において、本願発明のように「磁気ギャップに磁石を挿入しない場合に比較して直流重畳特性を改善できる」ようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点1?6を総合的に検討した場合]
相違点1?6を総合的に検討したとしても以下のとおりである。
刊行物1においてもリフローはんだ処理を行うことを想定しており、ボンド磁石の比抵抗及び磁石粉末の固有保磁力とキュリー点Tcは大きいほど好ましいことは、前記した刊行物1,2の記載及び周知技術・技術常識から明らかであり、それらの数値限定による効果も当業者の予測の範囲内であって、当業者の予測を超えた臨界的意義も認められないので、当業者が必要に応じて適宜設定し得たことであり、必要な特性を満足する磁石として、周知のSm-Coを選択することも、当業者が適宜なし得たことである。

なお、請求人は、平成21年7月21日付け意見書において「第2 拒絶理由通知に対する応答: (1)引用文献14?25(審決注:前記周知例12,1?11に対応する。)について: 新たに上げられた引用文献14?25は、全てインダクタンス部品の磁気コアに用いられる永久磁石とは全く関係の無い各種永久磁石を開示しているだけで、この関係で、引用文献14?2では磁気コアとの関係について全く開示しておりませんし、特に、磁気コア特有の直流重畳特性に言及した引用文献はありません。したがって、引用文献14?25から、本願発明に係るインダクタンス部品の磁気コアに関する問題点等を見出すことはできませんので、これら引用文献14?25は、本願発明を類推する根拠とすることはできないものと思考します。」と主張している。
しかし、磁石などの磁性材料のキュリー点をハンダの融点より高くする必要があること(周知例1?4にも示されるように周知技術)、キュリー点が高いと熱安定性が向上し、不可逆減磁率が小さくなること(周知例5?7にも示されるように技術常識)、及び、Sm-Co磁石が保磁力が大きく(10KOe以上)、キュリー点が高く(500℃以上)、熱安定性に優れていること(周知例8?12にも示されるように技術常識)は、磁石を用いるすべての用途において共通する課題・特性であり、磁気コアに用いる磁石においても同様であることは、明らかであって、磁石に関する前記周知技術・技術常識を磁気コアのギャップに用いる磁石においても考慮することは、当然のことであるから、請求人の前記主張は、採用できない。

また、本願発明の効果についても、刊行物1,2に記載された発明及び前記周知技術・技術常識から予測された範囲内のものであり、格別のものとは認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明及び前記周知技術・技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明及び前記周知技術・技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-02 
結審通知日 2009-09-09 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2002-525671(P2002-525671)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 加藤 俊哉
小野田 誠
発明の名称 磁気コアおよびそれを用いたインダクタンス部品  
代理人 池田 憲保  
代理人 山本 格介  
代理人 福田 修一  

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