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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1206984
審判番号 不服2007-5534  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2002-121083「ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月15日出願公開、特開2003- 12781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯

本願は、平成14年4月23日の特許出願(優先権主張 平成13年4月24日)であって、平成18年9月12日付けで拒絶理由が通知され、平成19年1月19日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年2月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年5月9日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年8月21日付けで前置報告がなされ、当審で平成20年11月19日付けで審尋がなされ、平成21年1月23日に回答書が提出され、当審で同年6月19日付けで平成19年2月22日付けの手続補正に対する補正の却下の決定及び拒絶理由通知がなされ、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。



第2 本願発明の認定及び本願明細書の記載事項

1.本願発明の認定

本願の特許請求の範囲の請求項1?2に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明2」、総称して、「本願発明」ということがある。)は、平成21年8月31日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載される事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを主原料とし、連続的に重合して得られるポリブチレンテレフタレートであって、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が50?300ppm(重量比)であるポリブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレート樹脂であって、該樹脂を成形加工して、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルからなるASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理し、処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、「強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100」の式に従い、強度保持率を求める耐加水分解性試験において、[強度保持率50%以上]であり、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルを、射出成形機を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、離型性を評価する離型性試験において、[離型可能で、ピン跡がない]の評価を得て、さらに、該ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析して、クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す発生ガス試験において、[7ppm以下の発生ガス]である樹脂を射出成形することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて30℃で測定したポリブチレンテレフタレートの固有粘度が、0.5?1.5dL/gである請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法。」

2.本願明細書の記載事項

本願明細書には、以下の記載がある。

(1)「【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び成形品に関する。さらに詳しくは、本発明は、成形サイクルが短く生産性に優れ、加水分解に対する安定性が高く、電気的接点の腐食がなく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができるポリブチレンテレフタレート樹脂及び成形品に関する。」(段落【0001】)

(2)「【従来の技術】
熱可塑性ポリエステル樹脂の中で代表的なエンジニアリンブプラスチックであるポリブチレンテレフタレート樹脂は、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気・電子部品、精密機器部品などの分野で広く使用されている。ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶化速度が速く、射出成形に好適であるが、さらに結晶化速度を向上し、成形サイクルを短縮して生産性を高めることが望まれている。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、低吸湿性であるために、常温では水の影響を本質的に受けない。しかし、高温では水や水蒸気によってエステル基が加水分解されてヒドロキシル基とカルボキシル基が生成し、カルボキシル基が自己触媒となってさらに加水分解を促進するので、湿熱環境下における使用は制限される。このために、加水分解に対する安定性が高く、湿熱環境においても使用可能なポリブチレンテレフタレート樹脂が望まれている。
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、リレー部品のような電気・電子部品に使用される場合、樹脂から発生する有機ガスが、金属接点の腐食や金属接点への炭化物の付着の原因となり、導通不良を引き起こすおそれがある。このために、接触不良の原因となる有機ガスの発生を抑制する試みがなされている。例えば、特開平8-209004号公報には、真空ベーキングによる脱ガス処理を施さなくても、接触不良の原因となる有機ガスの発生を抑制することができる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して1,4-ブタンジオールなどのポリオール0.2?10重量部を配合してなる樹脂組成物が提案されている。しかし、このように多量のポリオールを配合すると、成形時の金型汚れが問題となったり、樹脂成形品の機械的特性が低下することは避けられない。このために、樹脂が本来有する機械的特性を維持したまま、電気的接点の腐食による接触不良を防ぐことができるポリブチレンテレフタレート樹脂が求められている。」(段落【0002】)

(3)「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、成形サイクルが短く生産性に優れ、加水分解に対する安定性が高く、電気的接点の腐食がなく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができるポリブチレンテレフタレート樹脂及び成形品を提供することを目的としてなされたものである。」(段落【0003】)

(4)「【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂は、成形サイクルが短く、加水分解に対する安定性に優れ、金属に腐食を発生させにくく、かつ、このようなポリブチレンテレフタレート樹脂は、1,4-ブタンジオールとテレフタル酸を連続的に重合することにより製造し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを主原料とし、連続的に重合して得られるポリブチレンテレフタレートであって、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が50?300ppm(重量比)であるポリブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレート樹脂であって、該樹脂を成形加工して、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルからなるASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理し、処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、「強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100」の式に従い、強度保持率を求める耐加水分解性試験において、[強度保持率50%以上]であり、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルを、射出成形機を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、離型性を評価する離型性試験において、[離型可能で、ピン跡がない]の評価を得て、さらに、該ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析して、クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す発生ガス試験において、[7ppm以下の発生ガス]である樹脂を射出成形することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法、及び、
(2)フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて30℃で測定したポリブチレンテレフタレートの固有粘度が、0.5?1.5dL/gである第1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法、
を提供するものである。
さらに、本発明の好ましい態様として、
(3)連続的な重合を、直列連続槽型反応器を用いて行う第1項記載のポリブチレンテレフタレート樹脂、
を挙げることができる。」(段落【0004】)

(5)「【発明の実施の形態】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂の第一の態様は、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本発明の第一の態様においては、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であることが好ましい。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂の第二の態様は、示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であり、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本発明の成形品は、これらのポリブチレンテレフタレート樹脂を成形してなるポリブチレンテレフタレート成形品である。
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、30eq/t以下であり、より好ましくは25eq/t以下である。ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。樹脂の末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、樹脂の耐加水分解性を高めることができる。樹脂中のカルボキシル基は、ポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下するが、末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解を抑制することができる。」(段落【0005】)

(6)「本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂の降温結晶化温度は175℃以上であり、より好ましくは177℃以上である。ポリブチレンテレフタレート樹脂の降温結晶化温度は、示差走査熱量計を用いて、樹脂が溶融した状態から降温速度20℃/minで冷却したときに現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。降温結晶化温度が175℃以上であると、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が175℃未満であると、射出成形に際して結晶化に時間がかかり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下するおそれがある。成形サイクルは、一定の成形条件下で射出成形を行い、成形片の離型の容易さ及び突き出しピン跡の有無により評価することができる。結晶化速度が遅くなるに従い、突き出しピンの跡が発生し、さらに遅くなると離型が不可能となる。
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、300ppm(重量比)以下であり、より好ましくは200ppm(重量比)以下である。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、樹脂ペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーで定量することにより、求めることができる。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下とすることにより、成形品を高温で使用してもテトラヒドロフランなどのガスの発生が少なく、電気的接点の腐食のおそれが少なく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)を超えると、成形品を高温で使用した際のテトラヒドロフランなどのガスの発生が多くなり、金属の腐食を引き起こすおそれがある。
樹脂中の残存テトラヒドロフラン量の下限は、好ましくは50ppm(重量比)である。この程度の量以上のテトラヒドロフランが残留していることは、電気接点の保護成分として作用しうるので、リレー部などの電気・電子部品等の通常の用途には好ましい。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量の下限は、より好ましくは80ppm(重量比)である。
樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、溶融重合で得られたポリブチレンテレフタレート樹脂を更に固相重合することにより、通常10?30ppm(重量比)程度に低減するが、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂においては、電気・電子部品の用途に適用する上で、残存テトラヒドロフラン量は、上述した範囲であることが好ましい。」(段落【0006】)

(7)「本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、連続的に重合して得られる樹脂であることが好ましい。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する連続重合法に特に制限はないが、直列連続槽型反応器を用いて連続的に重合することが好ましい。例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分を、1基又は複数基のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、好ましくは150?280℃、より好ましくは180?265℃の温度、好ましくは6.67?133kPa、より好ましくは9.33?101kPaの圧力で、攪拌下に2?5時間でエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、1基又は複数基の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは210?280℃、より好ましくは220?265℃の温度、好ましくは26.7kPa以下、より好ましくは20.0kPa以下の減圧下で、攪拌下に2?5時間で重縮合反応させることができる。重縮合反応により得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷されたのちに、ペレタイザーで切断されてペレット状などの粒状体とされる。
本発明に用いるエステル化反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などを挙げることができる。エステル化反応槽は、1基とすることができ、あるいは、同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできる。本発明に用いる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることができる。重縮合反応槽は、1基とすることができ、あるいは、同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできる。」(段落【0008】)

(8)「図1は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する装置の一態様の工程系統図である。テレフタル酸、1,4-ブタンジオール及びエステル化反応触媒が、スラリー調製槽1に供給され、撹拌、混合されて、スラリーが調製される。調製されたスラリーは、連続的に第一エステル化反応槽2に移送され、エステル化反応によりオリゴマーとなる。なお、本図では、簡略化のために、ポンプ、精留塔、冷却バスなどの付帯設備は図示しない。オリゴマーは、第一エステル化反応槽から連続的に第二エステル化反応槽3に移送され、1,4-ブタンジオールが留去されて、より分子量の大きいオリゴマーとなる。第二エステル化反応槽のオリゴマーは、連続的に第一重縮合反応槽4に移送され、重縮合反応が進められてプレポリマーとなる。第一重縮合反応槽のプレポリマーは、連続的に第二重縮合反応槽5に移送され、さらに重縮合反応が進められて、所定の重合度を有する本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂となる。樹脂は、第二重縮合反応槽の底部からダイに移送されてストランド状に抜き出され、ペレタイザー6で切断されて樹脂ペレットとなる。」(段落【0009】)

(9)「本発明に用いるエステル化反応触媒に特に制限はなく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などを挙げることができる。これらの中で、チタン化合物を特に好適に用いることができる。エステル化触媒として用いるチタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタンアルコラート、テトラフェニルチタネートなどのチタンフェノラートなどを挙げることができる。チタン化合物触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の理論収量に対して、チタン原子として30?300ppm(重量比)を用いることが好ましく、50?200ppm(重量比)を用いることがより好ましい。
本発明に用いる重縮合反応触媒としては、新たな触媒の添加を行うことなく、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として用いることができ、あるいは、重縮合反応時に、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ又は異なる触媒をさらに添加することもできる。例えば、テトラブチルチタネートをさらに添加する場合、その使用量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の理論収量に対して、チタン原子として、300ppm(重量比)以下であることが好ましく、150ppm(重量比)以下であることがより好ましい。エステル化反応触媒と異なる重縮合反応触媒としては、例えば、三酸化二アンチモンなどのアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物などを挙げることができる。」(段落【0010】)

(10)「ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法には、テレフタル酸ジメチルなどと、1,4-ブタンジオールとのエステル交換反応を経る方法と、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとの直接エステル化反応を経る方法がある。本発明においては、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応を用いるので、原料コスト面から有利である。また、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレート樹脂を容易に得ることができる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法には、回分式反応と連続式反応がある。回分式反応は、エステル交換反応又はエステル化反応と重縮合反応を回分式で行う方法であり、連続式反応は、エステル化反応と重縮合反応を連続的に行う方法である。本発明においては、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合することにより、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加が発生することがなく、高品質の樹脂を容易に得ることができる。」(段落【0011】)

(11)「【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、ポリブチレンテレフタレート樹脂の評価は下記の方法により行った。
(1)末端カルボキシル基量
樹脂0.1gをベンジルアルコール3mLに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定する。
(2)降温結晶化温度
示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温し、発熱ピークの温度を降温結晶化温度とする。
(3)残存テトラヒドロフラン量
樹脂ペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量する。
(4)固有粘度
ウベローデ型粘度計とフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用い、30℃において、濃度1.0g/dL、0.6g/dL及び0.3g/dLの溶液の粘度を測定し、粘度数を濃度0に外挿する。
(5)耐加水分解性
ASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理する。処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、次式に従い、強度保持率を求める。
強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
(6)離型性
小型射出成形機[ファナック(株)、FANUC-50B]を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、下記の基準により離型性を評価する。
○:離型可能で、ピン跡がない。
△:離型可能であるが、ピン跡がある。
×:離型できない。
(7)発生ガス
樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析する。クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す。」(段落【0015】)

(12)「実施例1
テレフタル酸1.0モルに対して1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,976重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4-ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。
第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。
第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。
第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザーで切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)であり、固有粘度は0.85dL/gであった。
湿熱処理前の引張強度は56MPa、湿熱処理後の引張強度は28MPaであり、強度保持率は50%であった。離型性試験において、離型は可能であり、成形品にピン跡は認められなかった。発生ガス量は、樹脂の重量に対する発生ガス(テトラヒドロフラン換算)量で6ppm(重量比)であった。湿熱処理前の引張強度は56MPa、湿熱処理後の引張強度は28MPaであり、強度保持率は50%であった。離型性試験において、離型は可能であり、成形品にピン跡は認められなかった。発生ガス量は、樹脂の重量に対する発生ガス(テトラヒドロフラン換算)量で6ppm(重量比)であった。
実施例2
第二重縮合反応槽における滞留時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。」(段落【0016】)

(13)「比較例1
テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で、合計2,976重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。
引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は170℃であり、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)であり、固有粘度は0.85dL/gであった。
湿熱処理前の引張強度は55MPa、湿熱処理後の引張強度は10MPaであり、強度保持率は18%であった。離型性試験において、離型は不可能であった。発生ガス量は、樹脂の重量に対する発生ガス(テトラヒドロフラン換算)量で20ppm(重量比)であった。
比較例2
重縮合反応槽での重縮合反応時間を4時間にした以外は、比較例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。
実施例1?2及び比較例1?2の結果を、第1表に示す。」(段落【0017】)

(14)「【表1】

」(段落【0018】第1表)

(15)「第1表に見られるように、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重縮合して得られた実施例1?2のポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールを回分式で重縮合して得られた比較例1?2のポリブチレンテレフタレート樹脂に比べて、末端カルボキシル基量が少なく、降温結晶化温度が高く、残存テトラヒドロフラン量が少ない。実施例1?2のダンベル片と比較例1?2のダンベル片は、湿熱処理前の引張強度は同程度であるが、実施例1?2のダンベル片は121℃、60時間の湿熱処理後も50%以上の強度を保持するのに対して、比較例1?2のダンベル片は、湿熱処理により強度が20%程度に低下することから、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂が耐加水分解性に優れていることが分かる。また、比較例1?2の樹脂は、冷却時間10秒では薄肉筒状成形品が離型できないが、実施例1?2の樹脂は同じ条件でピン跡もなく離型が可能であり、射出成形において、成形サイクルを短縮することができる。また、150℃で2時間加熱したときのガスの発生量は、実施例1?2の樹脂は、比較例1?2の樹脂の1/3程度であり、実施例1?2の樹脂は、電気・電子部品などに用いたとき、ガスの発生による電気的接点の腐食などを生じにくいことが推定される。」(段落【0019】)

(16)「【発明の効果】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐加水分解性が良好であり、成形サイクルが短く、離型性に優れ、発生ガス量が非常に少ない。これにより、耐久性が必要な自動車関連部品や、寸法精度と接点腐食性に対して厳しい電気・電子部品などに好適に用いることができる。」(段落【0020】)

(17)「

」(図1)



第3 当審が通知した拒絶理由

当審が平成21年6月19日付けで通知した拒絶理由の第5及び第7は、

「第5 本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」及び

「第7 本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 」
とするものであり、その具体的な理由は以下のとおりである。

「『末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂』または『示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であり、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂』について、『末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上である』または『示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であり、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下である』との要件は、ともに機能・特性等を数値限定することにより樹脂たる物を特定しようとするものであると認められるところ、本願明細書の発明の詳細な説明において具体的に裏付けがされ効果が示されているのは、実施例に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂のみであり、その具体的なものも、(a)実施例1に記載された、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合して得られた、末端カルボキシル基量が20eq/tであり、降温結晶化温度が178℃であり、残存テトラヒドロフラン量が180ppm(重量比)であり、固有粘度が0.85dL/gであるもの、及び(b)実施例2に記載された、同一のモノマー原料を用い、第二重縮合反応槽における滞留時間のみが異なる条件により製造された、末端カルボキシル基量が25eq/tであり、降温結晶化温度が176℃であり、残存テトラヒドロフラン量が200ppm(重量比)であり、固有粘度が0.95dL/gであるもの、というただ2つの例が記載されているだけであって、これらの要件を満足するポリブチレンテレフタレート樹脂自体、他に具体的にどの様なものが該当するのか、明細書の発明の詳細な説明において記載されていない。
ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂において、『末端カルボキシル基量』、『降温結晶化温度』及び『樹脂中の残存テトラヒドロフラン量』の値は、何れも用いるジカルボン酸成分及びジオール成分の種類、さらにはそれらの組み合わせ、並びに、エステル化反応条件及び重縮合条件によって、大きく影響を受けるものと認められるから、これらの要件を満足するポリブチレンテレフタレート樹脂を得るためには、そのポリブチレンテレフタレート樹脂の原料モノマーの選択、さらにはそれらの組み合わせ、エステル化反応条件及び重縮合条件を最適なものにする必要があるものと認められる。
また、本願出願時に、ポリブチレンテレフタレート樹脂において、これらの要件を満足するものが技術常識であったと認めることもできない。
してみると、本願の明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2において、第二重縮合反応槽における滞留時間のみが異なる条件により製造された、ただ2つのポリブチレンテレフタレート樹脂が記載されているものの、斯かる記載をもってしては、これらの要件を満足するあらゆるポリブチレンテレフタレート樹脂が、本願の明細書の実施例と同様に製造されるものと直ちに認めることはできない。
それゆえ、当業者が、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願の明細書の発明の詳細な説明に開示された内容から、本願の明細書の特許請求の範囲の請求項における数値範囲全般の範囲にまで拡張ないし一般化できるものと直ちにいうことはできない。
したがって、本願の明細書の特許請求の範囲の請求項に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」、

「ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、『末端カルボキシル基量』、『示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度』及び『樹脂中の残存テトラヒドロフラン量』の値として、種々の値を有するものが存在するものと認められ、これらの値は、用いるジカルボン酸成分及びジオール成分の種類、さらにはそれらの組み合わせ、並びに、エステル化反応条件及び重縮合条件によって、大きく影響を受けるものと認められるのであるから、本願の明細書の記載をもってしては、具体的にどの様にすれば、『末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上である』または『示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であり、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下である』との要件を満足するポリブチレンテレフタレート樹脂が得られるのかが明らかであるということはできない。
一般的に、直接エステル化反応する連続的重縮合で製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂であれば、必ず、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、示差走査熱量計で降温速度20℃/minにて測定した降温結晶化温度が175℃以上であり、樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるものが得られるとすることはできない。
してみれば、これらの要件を満足するか否かを知るために、候補ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、逐一、水酸化ナトリウム溶液を用いた滴定により末端カルボキシル基量を測定し、示差走査熱量計を用い、示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度である降温結晶化温度を測定し、樹脂ペレットを水に浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量することにより残存テトラヒドロフラン量を測定し、その結果に基いて判断する外はないのであって、斯かる候補ポリブチレンテレフタレート樹脂の種類やエステル化反応及び重縮合反応条件などの反応・製造条件を変化させたものについて、これらの要件を満たすか否かの試験を、種々変更しつつ逐一繰り返さなければならないのであるから、このような試験操作は、当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
したがって、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願の明細書の特許請求の範囲の請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。」



第4 当審の判断

1.理由第7について

当審が通知した拒絶理由第7は明細書の記載不備に関するものである。
ここで、特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と定めている。
これは、特許庁編「特許・実用新案 審査基準」第I部 第1章 3.2実施可能要件にも記載されているとおり、その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(以下、「当業者」という。)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味するものと解される。
そこで、この点について以下に検討する。
本願発明1に係るポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法に係るポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、単に「ポリブチレンテレフタレート」あるいは「PBT」ということがある。)として、「末端カルボキシル基量が25eq/t以下」であって、「降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)(以下、単に「降温結晶化温度」ということもある。)が175℃以上」であり、且つ、「残存テトラヒドロフラン量が50?300ppm(重量比)以下」であるとの要件(以下、「要件X」という。)を満足し、かつ、「該樹脂を成形加工して、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルからなるASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理し、処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、「強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100」の式に従い、強度保持率を求める耐加水分解性試験において、[強度保持率50%以上]であり、該ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルを、射出成形機を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、離型性を評価する離型性試験において、[離型可能で、ピン跡がない]の評価を得て、さらに、該ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析して、クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す発生ガス試験において、[7ppm以下の発生ガス]である樹脂」との要件(以下、「要件Y」という。)を満足するポリブチレンテレフタレートを得ることに関し、本願明細書をみるに、上記第2 2.のとおりのことが記載されている。
以上の本願明細書の記載をふまえ、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについてまず判断する。

[1]要件Xの定義等
前提として、末端カルボキシル基量の定義については、請求項1において特に規定されておらず、その具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0015】において、「樹脂0.1gをベンジルアルコール3mLに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定する。」と記載されている(摘示(11))。
また、降温結晶化温度の定義については、請求項1において規定されており、さらにその具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0015】において、「示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温し、発熱ピークの温度を降温結晶化温度とする。」と記載されている(摘示(11))。
さらに、残存テトラヒドロフラン量の定義については、請求項1において特に規定されておらず、その具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0006】において、「樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、樹脂ペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーで定量することにより、求めることができる。」と記載されており(摘示(6))、本願明細書の段落【0015】において、「樹脂ペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量する。」と記載されている(摘示(11))。
そして、請求項1において、末端カルボキシル基量を25eq/t以下に限定した意味については、本願明細書の段落【0005】において、「樹脂の末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、樹脂の耐加水分解性を高めることができる。樹脂中のカルボキシル基は、ポリブチレンテレフタレートの加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下するが、末端カルボキシル基量を30eq/t以下とすることにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解を抑制することができる。」と記載されている(摘示(5))。
また、請求項1において、降温結晶化温度の値を175℃以上に限定した意味については、本願明細書の段落【0006】において、「降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。降温結晶化温度が175℃以上であると、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が175℃未満であると、射出成形に際して結晶化に時間がかかり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下するおそれがある。成形サイクルは、一定の成形条件下で射出成形を行い、成形片の離型の容易さ及び突き出しピン跡の有無により評価することができる。結晶化速度が遅くなるに従い、突き出しピンの跡が発生し、さらに遅くなると離型が不可能となる。」と記載されている(摘示(6))。
さらに、請求項1において、残存テトラヒドロフラン量を50?300ppm(重量比)に限定した意味については、本願明細書の段落【0006】において、「樹脂中の残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下とすることにより、成形品を高温で使用してもテトラヒドロフランなどのガスの発生が少なく、電気的接点の腐食のおそれが少なく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)を超えると、成形品を高温で使用した際のテトラヒドロフランなどのガスの発生が多くなり、金属の腐食を引き起こすおそれがある。
樹脂中の残存テトラヒドロフラン量の下限は、好ましくは50ppm(重量比)である。この程度の量以上のテトラヒドロフランが残留していることは、電気接点の保護成分として作用しうるので、リレー部などの電気・電子部品等の通常の用途には好ましい。樹脂中の残存テトラヒドロフラン量の下限は、より好ましくは80ppm(重量比)である。」と記載されている(摘示(6))。

[2]「発明の実施の形態」の記載について
まず、降温結晶化温度を制御する方法については、本願明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、段落【0011】において、「また、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートを容易に得ることができる。」(摘示(10))と記載されているのみである。
また、末端カルボキシル基量及び残存テトラヒドロフラン量を制御する方法については、本願明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、段落【0011】において、「本発明においては、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合することにより、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加が発生することがなく、高品質の樹脂を容易に得ることができる。」(摘示(10))と記載されているのみである。
そうすると、「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」について、要件Xの数値範囲に制御するための有意な記載がされているものということができない。
ところで、ポリブチレンテレフタレートには、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、分子量を含めて数多くの種類があり、それらを製造する際の該共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素が相違することによって、得られるポリブチレンテレフタレートが有する「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる。
そうすると、本願明細書の「発明の実施の形態」における記載をもってしては、要件Xを満足してなるポリブチレンテレフタレートにおいて、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるのかが明らかであるということはできない。
仮に、要件Xを満足するための要素が、本願明細書の段落【0011】の記載から、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合する」方法を採用したものであるとしても、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」してなるポリブチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、エステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素が相違することによって、得られるポリブチレンテレフタレートが有する「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる。
してみると、単に「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」しさえすれば、必然的に、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるものとすることはできないから、斯かる記載をもってしては、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」する際に、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるのかが明らかであるということはできない。
以上のことから、本願明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Xを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか、例えばポリブチレンテレフタレートを製造する際のどのような条件であるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料あるいは製造条件をもって、あるいはそれらを組み合わせて用いて製造した場合に、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値を、要件Xに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。

[3]実施例の記載について
そこで、さらに、本願明細書の実施例の記載を手がかりとして、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについて検討する。
実施例1においては、「テレフタル酸1.0モルに対して1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,976重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4-ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。
第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。
第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。
第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザーで切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。」と記載されており(摘示(12))、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)」であり、要件Xを満足するものである。
また、実施例2においては、「第二重縮合反応槽における滞留時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。」と記載されており(摘示(12))、第1表(摘示(14))の記載から、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「末端カルボキシル基量は25eq/tであり、降温結晶化温度は176℃であり、残存テトラヒドロフラン量は200ppm(重量比)」であり、要件Xを満足するものである。
一方、比較例1においては、「テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で、合計2,976重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。
引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。」と記載されており(摘示(13))、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は170℃であり、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)」であり、要件Xを満足しないものである。
また、比較例2においては、「重縮合反応槽での重縮合反応時間を4時間にした以外は、比較例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。」と記載されており(摘示(13))、第1表(摘示(14))の記載から、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「末端カルボキシル基量は50eq/tであり、降温結晶化温度は168℃であり、残存テトラヒドロフラン量は790ppm(重量比)」であり、要件Xを満足しないものである。
ここで、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートとして、実施例において記載されているのは、実施例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び実施例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみであって、また要件Xを満足しないポリブチレンテレフタレートとして比較例において記載されているのは、比較例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び比較例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみである。
しかるに、これらの要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートと要件Xを満足しないポリブチレンテレフタレートとを比較すると、連続式反応により製造したか回分式反応により製造したかという点で相違するものであるが、上記のとおり、連続式反応により製造したポリブチレンテレフタレートであれば、必ず要件Xを満足するものであるということはできないから、両者を単純に比較しただけでは、実施例1?2において要件Xを満足している理由や比較例1?2において要件Xを満足していない理由が、ポリブチレンテレフタレートを製造するに際してのどのような製造条件等の要素によるものであるのかという点については明らかとはいえない。
次に、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートについて検討すると、斯かるポリブチレンテレフタレートは、上記のとおり、実施例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び実施例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみであって、これらは全て、実施例1に記載されたとおり、図1(摘示(17))に工程系統図を示す同一の装置を用いて、同一の原料の種類及び量を用いて、同一の触媒の種類及び量を用いて、連続的に重合を行ったものであって、第一エステル化反応槽、第二エステル化反応槽及び第一重縮合反応槽の各反応温度、各反応時間、各滞留時間などの全ての反応条件を同じとして製造されたものであって、第二重縮合反応槽の滞留時間のみ相違する条件によって製造されたものである。
そこで、これら2例の数値から、実施例1に記載されたとおりのポリブチレンテレフタレートの製造条件の下で、第二重縮合反応槽の滞留時間と末端カルボキシル基量、降温結晶化温度、残存テトラヒドロフラン量及び固有粘度の変化の動向を分析すると、第二重縮合反応槽の滞留時間が、3時間から4時間に増大することに伴って、当然ながら固有粘度が0.85dl/gから0.95dl/gに増大するとともに、(1)末端カルボキシル基量が20eq/tから25eq/tに、及び残存テトラヒドロフラン量が180ppm(重量比)から200ppm(重量比)に、ともに増大すること、(2)降温結晶化温度が178℃から176℃に低下すること、が認められる。
以上に照らせば、実施例1に記載されたとおりのポリブチレンテレフタレートの製造条件の下であって、第二重縮合反応槽の滞留時間が3時間から4時間の間であれば、第二重縮合反応槽の滞留時間と末端カルボキシル基量、降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量の変化につき一定の傾向が把握できるものの、この場合、第二重縮合反応槽の滞留時間を変えても、要件Xを全範囲まで満足するポリブチレンテレフタレートを製造することができるということはできず、要件Xを全範囲まで満足するポリブチレンテレフタレートを製造するためには他の要素の変更が必要となるものと認められ、斯かる他の要素として具体的に何を選択し、どの様に変更すれば良いのか不明である以上、斯かる変更の方向性が一切不明であるといわざるを得ない。
ましてや、この結果をもってして、ポリブチレンテレフタレートの製造原料が相違する場合やポリブチレンテレフタレートの製造方法や製造条件が相違する場合をも含めて、一般的に、その具体的な製造原料や製造条件の変化に応じて、製造されるポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量、降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量の各値を予測することは困難であるといわざるを得ない。
結局、ポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量、降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量の各値を制御して、要件Xを満足させるためには、具体的にどの様な要素をどの様に設定すれば良いのかという点について、実施例及び比較例の数値からだけでは、依然として不明であるといわざるを得ない。
なお、本願明細書の実施例1?2と全く同じ製造方法及び条件により製造することに依れば、「末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)」あるいは「末端カルボキシル基量は25eq/tであり、降温結晶化温度は176℃であり、残存テトラヒドロフラン量は200ppm(重量比)」を有し、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ること、ないしは、実施例1と同様の条件でポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、第二重縮合反応槽での滞留時間を3時間から4時間の間の任意の時間にすることにより、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ることについては、当業者が容易に実施することが可能であるといえるとしても、上記のとおり、ポリブチレンテレフタレートの原料やそれらの組み合わせ、製造方法やその条件などによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる以上、このような第二重縮合反応槽での滞留時間を除いて全て共通するただ2点の実施をもって、要件Xによって表される「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各数値範囲全体の実施が可能であるとは、到底評価することができない。
してみると、本願明細書の実施例及び比較例を手がかりとしても、要件Xを満たすか否かを知るためには、候補ポリブチレンテレフタレートを作成し、製造されたポリブチレンテレフタレートにつき、本願明細書の段落【0015】に記載されたとおり、候補ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、逐一、水酸化ナトリウム溶液を用いた滴定により末端カルボキシル基量を測定し、示差走査熱量計を用い、示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度である降温結晶化温度を測定し、ポリブチレンテレフタレートのペレットを水に浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量することにより残存テトラヒドロフラン量を測定し、その結果得られたデータに基いて判断する外はないのであって、斯かる候補ポリブチレンテレフタレートとして、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を種々変更しかつそれらを組み合わせて製造してなる各種候補ポリブチレンテレフタレートについて、上記した試験を逐一繰り返し、その結果において要件Xを満たしているか否かを確認する操作を、候補ポリブチレンテレフタレートを種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。

[4]要件Yについて
本願発明1においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂として、要件Xを満たすことに加えて、さらに要件Yをも満足するものであることを規定している。
そして、本願明細書においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂が要件Yを満たすために必要とされる具体的な条件等は記載されておらず、実施例において、ポリブチレンテレフタレート樹脂の評価項目として、「(5)耐加水分解性
ASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理する。処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、次式に従い、強度保持率を求める。
強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
(6)離型性
小型射出成形機[ファナック(株)、FANUC-50B]を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、下記の基準により離型性を評価する。
○:離型可能で、ピン跡がない。
△:離型可能であるが、ピン跡がある。
×:離型できない。
(7)発生ガス
樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析する。クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す。」と記載されているだけである(摘示(11))。
ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、上記のとおり、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、分子量を含めて数多くの種類があり、それらを製造する際の該共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素が相違することによって、得られるポリブチレンテレフタレートが有する「ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルからなるASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理し、処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、「強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100」の式に従い、強度保持率を求める耐加水分解性試験における強度保持率の値」(以下、単に「強度保持率」という。)、「ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルを、射出成形機を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、離型性を評価する離型性試験における離型可能性とピン跡の有無」(以下、単に「離型性」という。)及び「ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析して、クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す発生ガス試験における発生ガス量」(以下、単に「発生ガス量」という。)は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」の各要件が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる。
そして、実施例1においては、「湿熱処理前の引張強度は56MPa、湿熱処理後の引張強度は28MPaであり、強度保持率は50%であった。離型性試験において、離型は可能であり、成形品にピン跡は認められなかった。発生ガス量は、樹脂の重量に対する発生ガス(テトラヒドロフラン換算)量で6ppm(重量比)であった。」と記載されており(摘示(12))、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「強度保持率が50%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡が認められず、発生ガス量が6ppm(重量比)」であり、要件Yを満足するものである。
また、実施例2においては、「第二重縮合反応槽における滞留時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。」と記載されており(摘示(12))、第1表(摘示(14))の記載から、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「強度保持率が61%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡は認められず、発生ガス量が7ppm(重量比)」であり、要件Yを満足するものである。
一方、比較例1においては、「湿熱処理前の引張強度は55MPa、湿熱処理後の引張強度は10MPaであり、強度保持率は18%であった。離型性試験において、離型は不可能であった。発生ガス量は、樹脂の重量に対する発生ガス(テトラヒドロフラン換算)量で20ppm(重量比)であった。」と記載されており(摘示(13))、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「強度保持率が18%であり、離型性試験において、離型が不可能であり、発生ガス量が20ppm(重量比)」であり、要件Yを満足しないものである。
また、比較例2においては、「重縮合反応槽での重縮合反応時間を4時間にした以外は、比較例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを製造し、評価を行った。」と記載されており(摘示(13))、第1表(摘示(14))の記載から、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、「強度保持率が20%であり、離型性試験において、離型が不可能であり、発生ガス量が25ppm(重量比)」であり、要件Yを満足しないものである。
ここで、要件Yを満足するポリブチレンテレフタレートとして、実施例において記載されているのは、実施例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び実施例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみであって、また要件Yを満足しないポリブチレンテレフタレートとして比較例において記載されているのは、比較例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び比較例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみである。
しかるに、これらの要件Yを満足するポリブチレンテレフタレートと要件Yを満足しないポリブチレンテレフタレートとを比較すると、連続式反応により製造したか回分式反応により製造したかという点で相違するものであるが、上記のとおり、連続式反応により製造したポリブチレンテレフタレートであれば、必ず要件Yを満足するものであるということはできないし、また、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートであれば、必ず要件Yを満足するものであるということもできないから、両者を単純に比較しただけでは、実施例1?2において要件Xを満足している理由や比較例1?2において要件Yを満足していない理由が、ポリブチレンテレフタレートを製造するに際してのどのような製造条件等の要素によるものであるのかという点については明らかとはいえない。
次に、要件Yを満足するポリブチレンテレフタレートについて検討すると、斯かるポリブチレンテレフタレートは、上記のとおり、実施例1において得られたポリブチレンテレフタレート及び実施例2において得られたポリブチレンテレフタレートの2つのみであって、これらは全て、実施例1に記載されたとおり、図1(摘示(17))に工程系統図を示す同一の装置を用いて、同一の原料の種類及び量を用いて、同一の触媒の種類及び量を用いて、連続的に重合を行ったものであって、第一エステル化反応槽、第二エステル化反応槽及び第一重縮合反応槽の各反応温度、各反応時間、各滞留時間などの全ての反応条件を同じとして製造されたものであって、第二重縮合反応槽の滞留時間のみ相違する条件によって製造されたものである。
そこで、これら2例の数値から、実施例1に記載されたとおりのポリブチレンテレフタレートの製造条件の下で、第二重縮合反応槽の滞留時間と強度保持率、離型性及び発生ガス量の変化の動向を分析すると、第二重縮合反応槽の滞留時間が、3時間から4時間に増大することに伴って、強度保持率が50%から61%に、及び発生ガス量が6ppmから7ppmに、ともに増大することが認められる。
以上に照らせば、実施例1に記載されたとおりのポリブチレンテレフタレートの製造条件の下であって、第二重縮合反応槽の滞留時間が3時間から4時間の間であれば、第二重縮合反応槽の滞留時間と強度保持率及び発生ガス量の変化につき一定の傾向が把握できるものの、この場合、第二重縮合反応槽の滞留時間を変えても、要件Yを全範囲まで満足するポリブチレンテレフタレートを製造することができるということはできず、要件Yを全範囲まで満足するポリブチレンテレフタレートを製造するためには他の要素の変更が必要となるものと認められ、斯かる他の要素として具体的に何を選択し、どの様に変更すれば良いのか不明である以上、斯かる変更の方向性が一切不明であるといわざるを得ない。
ましてや、この結果をもってして、ポリブチレンテレフタレートの製造原料が相違する場合やポリブチレンテレフタレートの製造方法や製造条件が相違する場合をも含めて、一般的に、その具体的な製造原料や製造条件の変化に応じて、製造されるポリブチレンテレフタレートの強度保持率、離型性及び発生ガス量の各値を予測することは困難であるといわざるを得ない。
結局、ポリブチレンテレフタレートの強度保持率、離型性及び発生ガス量の各値を制御して、要件Yを満足させるためには、具体的にどの様な要素をどの様に設定すれば良いのかという点について、実施例及び比較例の数値からだけでは、依然として不明であるといわざるを得ない。
なお、本願明細書の実施例1?2と全く同じ製造方法及び条件により製造することに依れば、「末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)」を有し、要件Xを満足し、かつ、「強度保持率が50%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡が認められず、発生ガス量が6ppm(重量比)」を有し、要件Yをも満足する、あるいは「末端カルボキシル基量は25eq/tであり、降温結晶化温度は176℃であり、残存テトラヒドロフラン量は200ppm(重量比)」を有し、要件Xを満足し、かつ、「強度保持率が61%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡は認められず、発生ガス量が7ppm(重量比)」を有し、要件Yをも満足するするポリブチレンテレフタレートを得ること、ないしは、実施例1と同様の条件でポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、第二重縮合反応槽での滞留時間を3時間から4時間の間の任意の時間にすることにより、要件Xとともに要件Yをも満足するポリブチレンテレフタレートを得ることについては、当業者が容易に実施することが可能であるといえるとしても、上記のとおり、ポリブチレンテレフタレートの原料やそれらの組み合わせ、製造方法やその条件などによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」並びに「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」並びに「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる以上、このような第二重縮合反応槽での滞留時間を除いて全て共通するただ1点の実施をもって、要件Xによって表される「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」並びに要件Yによって表される「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」の各数値範囲全体の実施が可能であるとは、到底評価することができない。
してみると、本願明細書の実施例及び比較例を手がかりとしても、要件Yを満たすか否かを知るためには、候補ポリブチレンテレフタレートを作成し、製造されたポリブチレンテレフタレートにつき、本願明細書の段落【0015】に記載されたとおり、候補ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、逐一、ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルからなるASTM1号ダンベル片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで60時間湿熱処理し、処理前後の引張強度を、ASTM D-638に従って測定し、「強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100」の式に従い、強度保持率を求める耐加水分解性試験における強度保持率の値を求め、ポリブチレンテレフタレート樹脂のサンプルを、射出成形機を用いて、外径10mm、長さ30mm、筒状部分の厚み1mmの薄肉筒状成形品を成形し、最低充填圧、冷却時間10秒、金型温度80℃の条件で、離型の可否と突き出しピンの跡のつき具合から、離型性を評価する離型性試験における離型可能性とピン跡の有無を評価し、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット5gを内容量26mLのガラス製バイヤル瓶に入れ、150℃で2時間加熱したのち、気相部からマイクロシリンジを用いてサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析して、クロマトグラム上のピーク面積の合計を求め、その面積に相当する量のテトラヒドロフラン重量の試料重量に対する比(ppm)として表す発生ガス試験における発生ガス量を測定し、その結果得られたデータに基いて判断する外はないのであって、斯かる候補ポリブチレンテレフタレートとして、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を種々変更しかつそれらを組み合わせて製造してなる各種候補ポリブチレンテレフタレートについて、上記した試験を逐一繰り返し、その結果において要件Yを満たしているか否かを確認する操作を、候補ポリブチレンテレフタレートを種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
したがって、本願発明1に規定するポリブチレンテレフタレート樹脂を得るに際しては、要件Xを満たしているか否かを確認する操作に加えて、さらに要件Yを満たしているか否かを確認する操作を繰り返さなければならないから、このような試験操作は、なおさら当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
仮に、ポリブチレンテレフタレート樹脂として、要件Xを満たしていれば、必ず、要件Yを満たすものであったとしても、上記第4 2.[1]?[3]で述べたとおり、ポリブチレンテレフタレート樹脂を得るに際して、要件Xを満たしているか否かを確認する操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
そうすると、要件X(及び要件Y)を満足するポリブチレンテレフタレートを得ることが当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることから、要件X(及び要件Y)を満足するポリブチレンテレフタレートを用いてなるポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法もまた当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることは明らかである。

[5]小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
また、請求項2に係る発明は、請求項1を引用してなるものであるから、これについても本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2に係る発明を容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということもできない。
してみれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、請求項1及び請求項2に係るポリブチレンテレフタレートをどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、同発明の詳細な説明は、本願請求項1?2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

[6]請求人の主張の検討

(ア)平成19年5月9日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)について
請求人は、「本願発明の構成上の特徴は、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを主原料とし、これらを連続的に重縮合して得られ、末端カルボキシル基量、降温結晶化温度および残存テトラヒドロフラン量が本発明の規定内のポリブチレンテレフタレート樹脂であります。すなわち、直接エステル化反応する連続的重縮合で製造された樹脂(通称『直連重』の樹脂)であって、末端カルボキシル基量、降温結晶化温度および残存テトラヒドロフラン量の3項目の一体的物性値を有する樹脂である構成であります。
そして、この構成によって、成形サイクルが短く、生産性に優れ、加水分解に対する安定性が高く、電気的接点の腐食がなく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができるポリブチレンテレフタレート樹脂成形材料となる点に特徴があります。」と主張している。
しかしながら、上記のとおり、ポリブチレンテレフタレート樹脂を製造するに際し、直接エステル化反応する連続的重縮合(通称『直連重』)で製造すれば、必ず、要件X(及び要件Y)を満足するものが得られるということはできないし、要件X(及び要件Y)の各値について、本願明細書の記載をもってしては、上記したとおり、それらの各物性値を制御するために、具体的にどのような要素をどのようにすれば良いのか不明であるし、しかも、それらの相互に複合的に関連して影響を受ける3つ(ひいては6つ)の物性を同時に制御して、その結果として要件X(及び要件Y)に規定する各数値範囲の値を満足させるためには、具体的にどのようにして実施すれば良いのか、依然として不明であるといわざるを得ない。

(イ)平成21年1月23日に提出した回答書について
請求人は、「前置報告書には、本請求人が、本審判請求書において、本願発明と同様の降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を得る方法として、
1.テレフタル酸を主原料とすること
2.連続的に重合すること
3.比較的長い反応時間(滞留時間)を有すること
4.特段に脱気しやすい条件を採用すること
が必要であると主張したとされています。しかし、本請求人はこのような主張はしていません。
上記4条件は、本願発明の二つの物性値を達成するための十分条件でもなく、必要条件でもありません。また、この4条件は、本願発明の樹脂の3要件を充足するための必要条件でも十分条件でもありません。
ただし、残存テトラヒドロフラン量を本願発明の物性値まで低下させるためには、上記の3の条件及び4の条件(真空下の滞留時間)が必要であることだけは溶剤の揮発性の観点から明らかであります。しかしながら、この条件が過剰になると、残存テトラヒドロフラン量が50?300ppmの下限値よりも低くなります。
そして、他の要件、特に降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)が175℃以上の要件と、製造条件との相関関係は、全く予測できないものであります。」と主張している。
しかしながら、直接エステル化反応する連続的重縮合で製造されたポリブチレンテレフタレート樹脂であれば、必ず、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上であるものが得られるとすることはできないことは上記のとおりであるし、請求人が上記で主張するとおりであるならば、なおさら、要件X(及び要件Y)を満足するための条件は依然として不明であるといわざるを得ないし、特に、降温結晶化温度が175℃以上の要件と、製造条件との相関関係は、全く予測できないものといわざるを得ない。

(ウ)平成21年8月31日に提出した意見書について
請求人は、「本願発明は、要件Xを有する樹脂の発明ではありません。要件Xを有する樹脂を原料とする製造方法の発明であります。
従って、要件Xを有する樹脂の作成例は1例あればよく、これによって、再現性よく、本願発明を実施することができます。本願明細書実施例1及び実施例2がその事例であります。
要件Xを有するポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法の条件が網羅されていなくとも、本願発明請求項1は、実施例1及び実施例2のように実施できます。」と主張している。
しかしながら、本願発明1?2が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を射出成形してなるポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法に係るものであったとしても、当業者が、本願発明1?2を実施するに際しては、まず要件X(及び要件Y)を満足するポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることが前提となるのであって、そのためには、要件X(及び要件Y)を満足するポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることについて、本願明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、本願発明1?2を実施することができる程度に、明細書の発明の詳細な説明を記載しなければならないことにおいては何ら異なるところがないのであるから、要件Xを有する樹脂を原料とする製造方法の発明であるという理由によって要件Xを有する樹脂の作成例が1例あればよいという請求人の主張は採用することができない。

2.理由第5について

当審が通知した拒絶理由第5は明細書の記載不備に関するものである。
ここで、特許法第36条第6項第1号は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。
これは、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることをその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が認識できるように記載された範囲を超えるものであってはならないことを意味するものと解される。
本願明細書の記載をふまえ、本願発明1が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かについて、以下に検討する。

[1]本願発明1について
本願発明1は、上記第2 1.のとおり、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法に係るポリブチレンテレフタレート樹脂として、「要件X」を満足し、かつ、「要件Y」を満足するポリブチレンテレフタレートを射出成形するポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法に係るものである。
そして、本願発明1における要件Xは、望ましい機能・特性等を数値限定することにより、物であるポリブチレンテレフタレートを特定しようとするものであり、本願発明1における要件Yは、もたらされる結果による機能・特性等を数値限定することにより、物であるポリブチレンテレフタレートを特定しようとするものであると認められる。

[2]要件Xについて
本願明細書をみるに、上記第2 2.のとおりのことが記載されている。
それによれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1の課題は、成形サイクルが短く生産性に優れ、加水分解に対する安定性が高く、電気的接点の腐食がなく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができるポリブチレンテレフタレート樹脂及び成形品を提供することを目的としてなされたものであると記載されている(摘示(3))。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明において、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂として具体的に示されたものとしては、実施例1に記載された「末端カルボキシル基量は20eq/tであり、降温結晶化温度は178℃であり、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)」であるものと、実施例2に記載された「末端カルボキシル基量は25eq/tであり、降温結晶化温度は176℃であり、残存テトラヒドロフラン量は200ppm(重量比)」であるものの2つのみである。ここで、実施例1及び実施例2においては、ともに、第二重縮合反応槽における滞留時間を変更した以外全く同1条件の連続式直接エステル化反応により製造してなるものである(摘示(12))。
そこで、実施例1及び実施例2において記載された数値範囲についてみると、「末端カルボキシル基量」は20?25eq/tであり、「降温結晶化温度」は176?178℃であり、「残存テトラヒドロフラン量」は180?200ppm(重量比)となるものの、この範囲は、請求項1に規定された「末端カルボキシル基量」が25eq/t以下であり、「降温結晶化温度」が175℃以上であり、「残存テトラヒドロフラン量」が50?300ppm(重量比)の各々一部分にすぎない。
ところで、上記第4 1.[1]?[3]でも述べたとおり、本願明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Xを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか、例えばポリブチレンテレフタレートを製造する際のどのような条件であるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料あるいは製造条件をもって、あるいはそれらを組み合わせて用いて製造した場合に、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値を、要件Xに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。
特に、「降温結晶化温度が175℃以上」であるポリブチレンテレフタレートを製造するに際して、用いる共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせが異なれば、それに応じて、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を最適なものに設定・変更する必要があるものと認められる。
また、本願出願時に、ポリブチレンテレフタレート樹脂において、要件Xを満足するもの、特に、「降温結晶化温度が175℃以上」であるものを製造することが技術常識であったと認めることもできない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2において、ただ2つのポリブチレンテレフタレート樹脂を使用して射出成形してなる成形品の製造方法が記載されているものの、上記で述べたとおり、用いるポリブチレンテレフタレート樹脂の原料の種類が異なれば、それに応じて、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を最適なものに設定・変更する必要があるものと認められるのであるから、要件Xを満足する具体的なポリブチレンテレフタレート樹脂として、その製造方法及び条件として一般的な記載がなされていることと、その具体的なものをただ2つ(製造方法としては、ただ1つ)示したことをもってしては、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂として、例えば、実施例1ないし実施例2における値以外の「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値を有するポリブチレンテレフタレート樹脂や実施例1ないし実施例2におけるものとは用いる原料の種類が異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を含めて、要件Xを満足するあらゆるポリブチレンテレフタレート樹脂が、本願明細書の実施例と同様に製造されるものと直ちに認めることはできない。
したがって、望ましい機能・特性等を数値限定することにより物を特定しようとする本願発明1において、発明の詳細な説明の他所の記載をみても、また、本願出願時の技術常識に照らしても、当該実施例から請求項1に記載された要件Xを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂全体にまで拡張ないし一般化できるということはできない。

[3]要件Yについて
要件Yについても、本願明細書においては、その具体的なものとして、実施例1において、「強度保持率が50%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡が認められず、発生ガス量が6ppm(重量比)」と記載されており、実施例2において、「強度保持率が61%であり、離型性試験において、離型が可能であり、成形品にピン跡は認められず、発生ガス量が7ppm(重量比)」であるものがそれぞれ記載されているだけである。
そこで、実施例1及び実施例2において記載された数値範囲についてみると、「強度保持率」は50?61%であり、「発生ガス量」は6?7ppm(重量比)となるものの、この範囲は、請求項1に規定された「強度保持率」が50%以上であり、「発生ガス量」が7ppm(重量比)以下の各々一部分にすぎない。
ところで、上記第4 1.[4]でも述べたとおり、本願明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Yを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか、例えばポリブチレンテレフタレートを製造する際のどのような条件であるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料あるいは製造条件をもって、あるいはそれらを組み合わせて用いて製造した場合に、得られるポリブチレンテレフタレートの「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」の各値を、要件Yに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。
また、本願出願時に、ポリブチレンテレフタレート樹脂において、要件Yを満足するものを製造することが技術常識であったと認めることもできない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2において、ただ2つのポリブチレンテレフタレート樹脂を使用して射出成形してなる成形品の製造方法が記載されているものの、上記で述べたとおり、用いるポリブチレンテレフタレート樹脂の原料の種類が異なれば、それに応じて、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を最適なものに設定・変更する必要があるものと認められるのであるから、要件Yを満足する具体的なポリブチレンテレフタレート樹脂として、その製造方法及び条件として一般的な記載がなされていることと、その具体的なものをただ2つ(製造方法としては、ただ1つ)示したことをもってしては、要件Yを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂として、例えば、実施例1ないし実施例2における値以外の「強度保持率」、「離型性」及び「発生ガス量」の各値を有するポリブチレンテレフタレート樹脂や実施例1ないし実施例2におけるものとは用いる原料の種類が異なるポリブチレンテレフタレート樹脂を含めて、要件Yを満足するあらゆるポリブチレンテレフタレート樹脂が、本願明細書の実施例と同様に製造されるものと直ちに認めることはできない。
したがって、本願発明1は、もたらされる結果により発明を特定しようとするものにおいて、発明の詳細な説明には、特定の手段による発明の具体例しか記載されておらず、本願出願時の技術常識からみて、当業者が当該特定の教示を請求項1に記載された要件Yを満足するポリブチレンテレフタレート樹脂全体にまで拡張ないし一般化できるということはできない。

[4]小括
以上のとおり、当業者が、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明に開示された内容から、本願発明1に係る、要件X(及び要件Y)を満足してなるポリブチレンテレフタレート樹脂全般の範囲にまで拡張ないし一般化できるものということはできないから、本願発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
さらに、本願発明2は、本願発明1を引用してなるものであって、要件X(及び要件Y)を、発明を特定するために必要な事項として含むものであるから、これについても発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1?2に規定されたポリブチレンテレフタレート樹脂が記載されているとすることはできず、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[5]請求人の主張の検討
請求人は、平成21年8月31日に提出した意見書において、「本願発明のポリブチレンテレフタレート樹脂の3物性に関しては、第1表に次の通りの開示があります。
(a)末端カルボキシル基量25eq/t以下
実施例 20?25eq/t
比較例 41?50eq/t
(b)降温結晶化温度175℃以上
実施例 176?178℃
比較例 168?170℃
(c)残存テトラヒドロフラン量50?300ppm
実施例 180?200ppm
比較例 680?790ppm
特許請求の範囲の記載が『末端カルボキシル基量25eq/t以下』であることは、比較例の末端カルボキシル基量が41?50eq/tであるのに対して、実施例では25eq/t以下である開示があり、十分に、特許請求の範囲の構成をサポートしています。
同様に、特許請求の範囲の降温結晶化温度が175℃以上であることは、比較例の168?170℃に対して、実施例の176?178℃の開示があり、十分に、特許請求の範囲の構成をサポートしています。降温結晶化温度175℃以上との下限値のみの特定は、上限の数値はありませんが、降温結晶化温度175℃は、ポリブチレンテレフタレート樹脂では既に上限値に近く、無限大にまでなることはありえません。
『残存テトラヒドロフラン量50?300ppm』の構成も、同様に、実施例180?200ppmと比較例680?790ppmの数値によって、サポートされています。
そして、これら3要件を有する実施例の樹脂は、射出成形品の3物性、強度保持率、離型性及び発生ガスの物性値を充足することも、第1表に示されています。
すなわち、本願明細書第1表には、本願発明の3物性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて、成形品の3物性を満たす請求項1の発明が明確に開示されています。 補正後の本願発明は、特許法第36条第6項第1号の拒絶理由は解消しています。」と主張している。
しかしながら、仮に、これらの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各数値範囲が、その主張のとおりであるとしても、上記のとおり、本願明細書の実施例1及び実施例2において記載された数値範囲についてみると、「末端カルボキシル基量」は20?25eq/tであり、「降温結晶化温度」は176?178℃であり、「残存テトラヒドロフラン量」は180?200ppm(重量比)となるものの、この範囲は、請求項1に規定された「末端カルボキシル基量」が25eq/t以下であり、「降温結晶化温度」が175℃以上であり、「残存テトラヒドロフラン量」が50?300ppm(重量比)の各々一部分にすぎないし、「末端カルボキシル基量」及び「残存テトラヒドロフラン量」が増加すると「降温結晶化温度」が減少する傾向が見て取れることから、斯かる2つの実施例の結果をもってしては、本願明細書には、請求項1に記載された数値範囲全体にわたる十分な数の具体例が示されているとすることはできないし、斯かる3つの数値範囲の値の範囲について実施例においてサポートしていさえすれば、そのことだけでサポート要件を満足しているといえるのではなく、上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、例えば、用いる共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせが実施例におけるものと異なるポリブチレンテレフタレート樹脂であって、「降温結晶化温度が175℃以上であ」るポリブチレンテレフタレート樹脂についてまで記載されているということはできないから、その様なポリブチレンテレフタレート樹脂をも包含する本願発明は、依然として発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

3.まとめ

当審が通知した拒絶の理由第5及び第7はいずれも妥当なものであるから、本願発明1?2は、本願明細書に記載したものということはできないし、本願明細書の記載は、当業者が本願発明1?2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



第5 むすび

以上のとおりであるから、本願は、当審が通知した拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-04 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2002-121083(P2002-121083)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C08G)
P 1 8・ 537- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 小野寺 務
亀ヶ谷 明久
発明の名称 ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造方法  
代理人 内山 充  

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