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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1207009
審判番号 不服2007-22309  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-10 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2002-253064「難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日出願公開、特開2004- 91583〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯

本願は、平成14年8月30日の特許出願であって、平成18年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月23日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年3月23日付けで再度拒絶理由が通知され、同年5月22日に再度意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年7月11日付けで拒絶査定がなされ、同年8月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同年10月25日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成21年8月26日に上申書が提出されたものである。



第2 本願発明の認定及び本願明細書の記載事項

1.本願発明の認定

本願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、平成19年5月22日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを主原料とし(テレフタル酸については全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占めることを意味し、1,4-ブタンジオールについては全ジオール成分の50モル%以上を占めることを意味する)、連続的に重合して得られ、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)が175℃以上であり、且つ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレート100重量部、(B)臭素化芳香族化合物系難燃剤3?50重量部、(C)アンチモン化合物1?30重量部、(D)ポリテトラフルオロエチレン0.1?5重量部および(E)強化充填材0?150重量部を含有してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレートの固有粘度が、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて30℃で測定した0.5?1.5dL/gである請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。」

2.本願明細書の記載事項

本願明細書には、以下の記載がある。

(1)「【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品に関する。さらに詳しくは、本発明は、高い難燃性を有し、成形サイクルが短く生産性に優れ、電気的接点の腐食がなく、とりわけ加水分解に対する安定性が高く、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品に関する。」(段落【0001】)

(2)「【従来の技術】
熱可塑性ポリエステル樹脂の中で代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリブチレンテレフタレート(PBTと略記することがある)は、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気・電子部品、精密機器部品などの分野で広く使用されている。ポリブチレンテレフタレートは、結晶化速度が速く、射出成形に好適であるが、さらに結晶化速度を向上し、成形サイクルを短縮して生産性を高めることが望まれている。
ポリブチレンテレフタレートは、低吸湿性であるために、常温では水の影響を本質的に受けない。しかし、高温では水や水蒸気によってエステル基が加水分解されてヒドロキシル基とカルボキシル基が生成し、カルボキシル基が自己触媒となってさらに加水分解を促進するので、湿熱環境下における使用は制限される。このために、加水分解に対する安定性が高く、湿熱環境においても使用可能なポリブチレンテレフタレートが望まれている。
また、ポリブチレンテレフタレートは、リレー部品のような電気、電子部品に使用される場合、PBTから発生する有機ガスが金属接点の腐食や金属接点への炭化物の付着の原因となり、導通不良を引き起こすおそれがある。導通不良を防止するため、成形品を真空ベーキングして脱ガスする方法が採られているが、操作が煩雑で製品の劣化を招く畏れのある、真空ベーキングの代わりに接触不良の原因となる有機ガスの発生を抑制する試みがなされている。例えば、特開平8-209004号には、PBT100重量部に、ポリオールを0.2?10重量部配合した組成物が提案されているが、この様な多量のポリオールの配合は、成形時の金型汚染の畏れがあり、また成形品の機械的特性の低下の畏れがある。」(段落【0002】)

(3)「また、電気、電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に使用される樹脂には、難燃性が求められる。近年、電気、電子部品や電装部品は、各種機器の小型化、軽量化の趨勢から薄肉小型化されてきており、それに利用される各種成型品も小型化と薄肉化が進んでいる。薄肉成形品においては、その最も薄い部分に対応する難燃性が要求される場合が多く、難燃性としてはUL-94に規定されるランクV-0の難燃性が指標とされ、一般に成形品が薄肉になるほど難燃化の達成は困難になる。所定の難燃性を達成するために、難燃剤を多量に配合したPBTは、発生ガスの増加による金属接点腐食および耐加水分解性の悪化がより惹起されやすくなる。」(段落【0003】)

(4)「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高い難燃性を有し、成形サイクルが短く生産性に優れ、電気的接点の腐食がなく、とりわけ加水分解に対する安定性が高く、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品を提供することを目的としてなされたものである。」(段落【0004】)

(5)「【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、末端カルボキシル基量が30eq/t以下、降温結晶化温度が175℃以上、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレートに特定の難燃剤および難燃助剤を配合した樹脂組成物は、成形サイクルが短く、電気的接点の腐食をさせにくく、とりわけ加水分解に対する安定性に優れことを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、(A)テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを主原料とし(テレフタル酸については全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占めることを意味し、1,4-ブタンジオールについては全ジオール成分の50モル%以上を占めることを意味する)、連続的に重合して得られ、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)が175℃以上であり、且つ、残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレート100重量部、(B)臭素化芳香族化合物系難燃剤3?50重量部、(C)アンチモン化合物1?30重量部、(D)ポリテトラフルオロエチレン0.1?5重量部および(E)強化充填材0?150重量部を含有してなる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に存する。」(段落【0005】)

(6)「【発明の実施の形態】
以下、本発明につき詳細に説明する。本発明に使用される(A)ポリブチレンテレフタレートは、末端カルボキシル基量が30eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上であり、ポリブチレンテレフタレート中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下であるポリブチレンテレフタレートである。」(段落【0006】)

(7)「本発明に使用されるポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は、25eq/t以下である。末端カルボキシル基量は、PBTを有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。PBTの末端カルボキシル基量が30eq/t以下であることにより、本発明の樹脂組成物の耐加水分解性を著しく高めることができる。PBT中のカルボキシル基は、加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下するが、本発明樹脂組成物は、末端カルボキシル基量が30eq/t以下のPBTを使用することにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解が抑制される。」(段落【0007】)

(8)「本発明に使用される、(A)ポリブチレンテレフタレートの降温結晶化温度は175℃以上であり、より好ましくは177℃以上である。本発明において、降温結晶化温度は、示差走査熱量計で、降温速度20℃/分の条件で測定した結晶化温度を意味し、この降温結晶化温度は、PBTが溶融した状態から降温速度20℃/分で冷却したときに現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。降温結晶化温度が175℃以上であると、本発明樹脂組成物を射出成形するに際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が175℃未満であると、射出成形に際して結晶化に時間がかかり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下するおそれがある。成形サイクルは、一定の成形条件下で射出成形を行い、成形片の離型の容易さ及び突き出しピン跡の有無により評価することができる。結晶化速度が遅くなるに従い、突き出しピンの跡が発生し、さらに遅くなると離型が不可能となる。」(段落【0008】)

(9)「本発明に使用される、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂中の残存テトラヒドロフラン量は、300ppm(重量比)以下であり、より好ましくは200ppm(重量比)以下である。PBT中の残存テトラヒドロフラン量は、PBTペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーで定量することにより、求めることができる。PBT中の残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下とすることにより、本発明樹脂組成物から得られる成形品を高温で使用してもテトラヒドロフランなどのガスの発生が少なく、電気的接点の腐食のおそれが少なく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる。PBT中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)を超えると、成形品を高温で使用した際に、テトラヒドロフランなどのガスの発生が多くなり、金属の腐食を引き起こすおそれがある。
残存テトラヒドロフラン量の下限は、特に限定されるものではないが、通常、50ppm(重量比)程度である。残存テトラヒドロフラン量が少ない方が、有機ガスの発生が少なくなる傾向はあるものの、残存量と、ガス発生量は必ずしも比例するものではない。また、特開平8-209004に記載される如く、少量のテトラヒドロフランの存在は、電気接点の腐食を抑制する効果も期待される。」(段落【0009】)

(10)「本発明に使用される(A)ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、連続的に重合して得られる樹脂である。連続重合の方法に特に制限はないが、直列連続槽型反応器を用いて連続的に重合することが好ましい。例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分を、1基又は複数基のエステル化反応槽内で、エステル化反応触媒の存在下に、好ましくは150?280℃、より好ましくは180?265℃の温度、好ましくは6.67?133kPa、より好ましくは9.33?101kPaの圧力で、攪拌下に2?5時間でエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物であるオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、1基又は複数基の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは210?280℃、より好ましくは220?265℃の温度、好ましくは26.7kPa以下、より好ましくは20kPa以下の減圧下で、攪拌下に2?5時間で重縮合反応させることができる。重縮合反応により得られたポリブチレンテレフタレート樹脂は、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷されたのちに、ペレタイザーで切断されてペレット状などの粒状体とされる。」(段落【0014】)

(11)「本発明に用いるエステル化反応触媒に特に制限はなく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物などを挙げることができる。これらの中で、チタン化合物を特に好適に用いることができる。エステル化触媒として用いるチタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタンアルコラート、テトラフェニルチタネートなどのチタンフェノラートなどを挙げることができる。チタン化合物触媒の使用量は、例えば、テトラブチルチタネートの場合、ポリブチレンテレフタレートの理論収量に対して、チタン原子として30?300ppm(重量比)を用いることが好ましく、50?200ppm(重量比)を用いることがより好ましい。
重縮合反応触媒としては、新たな触媒の添加を行うことなく、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒を引き続いて重縮合反応触媒として用いることができ、あるいは、重縮合反応時に、エステル化反応時に添加したエステル化反応触媒と同じ又は異なる触媒をさらに添加することもできる。例えば、テトラブチルチタネートをさらに添加する場合、その使用量は、ポリブチレンテレフタレートの理論収量に対して、チタン原子として、300ppm(重量比)以下であることが好ましく、150ppm(重量比)以下であることがより好ましい。エステル化反応触媒と異なる重縮合反応触媒としては、例えば、三酸化二アンチモンなどのアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物などを挙げることができる。」(段落【0017】)

(12)「ポリブチレンテレフタレートの製造方法には、テレフタル酸ジメチルなどと、1,4-ブタンジオールとのエステル交換反応を経る方法と、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとの直接エステル化反応を経る方法がある。テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応は、原料コスト面から有利である。また、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートを容易に得ることができる。
ポリブチレンテレフタレートの製造方法には、回分式反応と連続式反応がある。回分式反応は、エステル交換反応又はエステル化反応と重縮合反応を回分式で行う方法であり、連続式反応は、エステル化反応と重縮合反応を連続的に行う方法である。テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合する場合、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加を回避して、高品質の樹脂を容易に得ることができる。」(段落【0019】)

(13)「【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、ポリブチレンテレフタレート或いはその組成物の物性の測定及び成形物の評価は下記の方法により行った。
(1)末端カルボキシル基量;
ポリブチレンテレフタレート0.1gをベンジルアルコール3mLに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定した。
(2)降温結晶化温度;
示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/分で80℃まで降温し、発熱ピークの温度を測定し、降温結晶化温度とした。
(3)残存テトラヒドロフラン量;
ポリブチレンテレフタレートのペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーにより定量した。」(段落【0030】?【0033】)

(14)「実施例1
図1に示す工程に従って連続重合を行った。テレフタル酸1.0モルに対して1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽1に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,972重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4-ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽2に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。
第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽3に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。
第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽4に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。
第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽5に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザー6で切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
得られたポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は20eq/t、降温結晶化温度は178℃、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)、固有粘度は0.85dL/gであった。」(段落【0041】?【0042】)

(15)「比較例3
回分式反応装置を用いて、重合を行った。テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,226重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。
引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。
得られたポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は170℃、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)、固有粘度は0.85dL/gであった。」(段落【0045】)

(16)「【表1】


」(段落【0048】表-1(その1))

(17)「【表2】


」(段落【0049】表-1(その2))

(18)「


」(図1)



第3 原査定の理由

原査定の理由とされた平成19年3月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は以下のとおりである。

「(理由1)
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、末端カルボキシル基量が25eq/t以下であり、降温結晶化温度が175℃以上であり、残存テトラヒドロフラン量が300ppm以下であるポリブチレンテレフタレートが記載されているが、該ポリブチレンテレフタレートとして明細書中にその製造方法が具体的に記載されているのは実施例における末端カルボキシル基量が20eq/t、降温結晶化温度が178℃、残存テトラヒドロフラン量が180ppmであるもののみであり、それ以外の各物性値を有するポリブチレンテレフタレートを如何なる方法により製造し得るかについては全く具体的記載がない(各物性値と製造条件等との相関関係に関する記載がない)。また、技術常識を勘案してみても任意の末端カルボキシル基量、降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量を有するポリブチレンテレフタレートを製造することは当業者であっても過度の試行錯誤を要するものと認められる。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1並びにこれを引用する請求項2及び請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」



第4 当審の判断

原査定の理由1は明細書の記載不備に関するものである。
ここで、特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と定めている。
これは、特許庁編「特許・実用新案 審査基準」第I部 第1章 3.2実施可能要件にも記載されているとおり、その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(以下、「当業者」という。)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない旨を意味するものと解される。
そこで、この点について以下に検討する。
本願発明1に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する成分の1つであるポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ということがある。)として、「末端カルボキシル基量が25eq/t以下」であって、「降温結晶化温度(示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度)(以下、単に「降温結晶化温度」ということもある。)が175℃以上」であり、且つ、「残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下」であるとの要件(以下、「要件X」という。)を満足するポリブチレンテレフタレートを得ることに関し、本願明細書をみるに、上記第2 2.のとおりのことが記載されている。
以上の本願明細書の記載をふまえ、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ることが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについて判断する。

1.要件Xの定義等
前提として、末端カルボキシル基量の定義については、請求項1において特に規定されておらず、その具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0031】において、「ポリブチレンテレフタレート0.1gをベンジルアルコール3mLに溶解し、水酸化ナトリウムの0.1モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定した。」と記載されている(摘示(13))。
また、降温結晶化温度の定義については、請求項1において規定されており、さらにその具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0032】において、「示差走査熱量計[パーキンエルマー社、型式1B]を用い、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/分で80℃まで降温し、発熱ピークの温度を測定し、降温結晶化温度とした。」と記載されている(摘示(13))。
さらに、残存テトラヒドロフラン量の定義については、請求項1において特に規定されておらず、その具体的な測定評価としては、本願明細書の段落【0009】において、「PBT中の残存テトラヒドロフラン量は、PBTペレットを水に浸漬して120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーで定量することにより、求めることができる。」と記載されており(摘示(9))、本願明細書の段落【0033】において、「ポリブチレンテレフタレートのペレット5gを水10gに浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフラン量をガスクロマトグラフィーにより定量した。」と記載されている(摘示(13))。
そして、請求項1において、末端カルボキシル基量を25eq/t以下に限定した意味については、本願明細書の段落【0007】において、「PBTの末端カルボキシル基量が30eq/t以下であることにより、本発明の樹脂組成物の耐加水分解性を著しく高めることができる。PBT中のカルボキシル基は、加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tを超える末端カルボキシル基が存在すると早期に加水分解が始まり、生成したカルボキシル基が自己触媒となって、連鎖的に加水分解が進行し、樹脂の重合度が急速に低下するが、本発明樹脂組成物は、末端カルボキシル基量が30eq/t以下のPBTを使用することにより、高温、高湿の条件においても、早期の加水分解が抑制される。」と記載されている(摘示(7))。
また、請求項1において、降温結晶化温度の値を175℃以上に限定した意味については、本願明細書の段落【0008】において、「降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速い。降温結晶化温度が175℃以上であると、本発明樹脂組成物を射出成形するに際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が175℃未満であると、射出成形に際して結晶化に時間がかかり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下するおそれがある。成形サイクルは、一定の成形条件下で射出成形を行い、成形片の離型の容易さ及び突き出しピン跡の有無により評価することができる。結晶化速度が遅くなるに従い、突き出しピンの跡が発生し、さらに遅くなると離型が不可能となる。」と記載されている(摘示(8))。
さらに、請求項1において、残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下に限定した意味については、本願明細書の段落【0009】において、「PBT中の残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下とすることにより、本発明樹脂組成物から得られる成形品を高温で使用してもテトラヒドロフランなどのガスの発生が少なく、電気的接点の腐食のおそれが少なく、リレー部品などの電気・電子部品に好適に使用することができる。PBT中の残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)を超えると、成形品を高温で使用した際に、テトラヒドロフランなどのガスの発生が多くなり、金属の腐食を引き起こすおそれがある。」と記載されている(摘示(9))。

2.「発明の実施の形態」の記載について
まず、降温結晶化温度を制御する方法については、本願明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、段落【0019】において、「また、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応によれば、エステル交換反応を経る方法に比べて、降温結晶化温度が高いポリブチレンテレフタレートを容易に得ることができる。」(摘示(12))と記載されているのみである。
また、末端カルボキシル基量及び残存テトラヒドロフラン量を制御する方法については、本願明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、段落【0019】において、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合する場合、反応終了後の反応槽からの抜き出しの時間的経過に伴う分子量低下、末端カルボキシル基量の増加、残存テトラヒドロフラン量の増加を回避して、高品質の樹脂を容易に得ることができる。」(摘示(12))と記載されているのみである。
そうすると、「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」について、要件Xの数値範囲に制御するための有意な記載がされているものということができない。
ところで、ポリブチレンテレフタレートには、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、分子量を含めて数多くの種類があり、それらを製造する際の該共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素が相違することによって、得られるポリブチレンテレフタレートが有する「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる。
そうすると、本願明細書の「発明の実施の形態」における記載をもってしては、要件Xを満足してなるポリブチレンテレフタレートにおいて、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるのかが明らかであるということはできない。
仮に、要件Xを満足するための要素が、本願明細書の段落【0019】の記載から、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを連続的に重合する」方法を採用したものであるとしても、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」してなるポリブチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、エステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素が相違することによって、得られるポリブチレンテレフタレートが有する「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる。
してみると、単に「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」しさえすれば、必然的に、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるものとすることはできないから、斯かる記載をもってしては、「テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを出発原料とする直接エステル化反応」により「連続的に重合」する際に、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートが得られるのかが明らかであるということはできない。
以上のことから、本願明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Xを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか、例えばポリブチレンテレフタレートを製造する際のどのような条件であるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料あるいは製造条件をもって、あるいはそれらを組み合わせて用いて製造した場合に、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値を、要件Xに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。

3.実施例の記載について
そこで、さらに、本願明細書の実施例の記載を手がかりとして、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ることが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについて検討する。
実施例1においては、「図1に示す工程に従って連続重合を行った。テレフタル酸1.0モルに対して1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で両原料をスラリー調製槽1に供給し、攪拌装置で混合して調製したスラリー2,972重量部(テレフタル酸9.06モル部、1,4-ブタンジオール16.31モル部)を、連続的にギヤポンプにより、温度230℃、圧力101kPaに調整した第一エステル化反応槽2に移送するとともに、テトラブチルチタネート3.14重量部を供給し、滞留時間2時間で、攪拌下にエステル化反応させてオリゴマーを得た。第一エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度240℃、圧力101kPaに調整した第二エステル化反応槽3に移送し、滞留時間1時間で、撹拌下にエステル化反応をさらに進めた。第二エステル化反応槽から、オリゴマーを、温度250℃、圧力6.67kPaに調整した第一重縮合反応槽4に移送し、滞留時間2時間で、攪拌下に重縮合反応させ、プレポリマーを得た。第一重縮合反応槽から、プレポリマーを、温度250℃、圧力133Paに調整した第二重縮合反応槽5に移送し、滞留時間3時間で、攪拌下に重縮合反応をさらに進めて、ポリマーを得た。このポリマーを第二重縮合槽から抜き出してダイに移送し、ストランド状に引き出して、ペレタイザー6で切断することにより、ベレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。」と記載されており、「得られたポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は20eq/t、降温結晶化温度は178℃、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)、固有粘度は0.85dL/gであった」ことが記載されている(摘示(14))とおりであって、製造されたポリブチレンテレフタレートは、要件Xを満足するものである。
一方、比較例3においては、「回分式反応装置を用いて、重合を行った。テレフタル酸ジメチル1.0モルに対して、1,4-ブタンジオール1.8モルの割合で、合計3,226重量部をエステル交換反応槽に供給し、テトラブチルチタネート3.14重量部を添加し、温度210℃、圧力101kPaで、3時間エステル交換反応させて、オリゴマーを得た。引き続いて、このオリゴマーを、重縮合反応槽に移送し、攪拌下に、温度250℃、圧力133Paで、3時間重縮合反応を進めてポリマーを得た。次いで、窒素圧をかけてストランド状に抜き出し、ペレタイザーで切断することにより、ペレット状のポリブチレンテレフタレートを得た。」と記載されており、「得られたポリブチレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は41eq/tであり、降温結晶化温度は170℃、残存テトラヒドロフラン量は680ppm(重量比)、固有粘度は0.85dL/gであった」ことが記載されている(摘示(15))とおりであって、要件Xを満足しないものである。
ここで、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートとして実施例において記載されているのは、唯一実施例1において得られたもののみであって、また要件Xを満足しないポリブチレンテレフタレートとして比較例において記載されているのは、唯一比較例3において得られたもののみである。
しかるに、実施例1の記載と比較例3の記載とを比較すると、連続式反応により製造したか回分式反応により製造したかという点で相違するものであるが、上記のとおり、連続式反応により製造したポリブチレンテレフタレートであれば、必ず要件Xを満足するものであるということはできないから、両者を単純に比較しただけでは、実施例1において要件Xを満足している理由や比較例3において要件Xを満足していない理由が、ポリブチレンテレフタレートを製造するに際してのどのような製造条件等の要素によるものであるのかという点については明らかとはいえない。
なお、本願明細書の実施例1と全く同じ製造方法及び条件により製造することに依れば、「末端カルボキシル基量は20eq/t、降温結晶化温度は178℃、残存テトラヒドロフラン量は180ppm(重量比)」を有し、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ることは容易に実施することが可能であるといえるとしても、上記のとおり、ポリブチレンテレフタレートの原料やそれらの組み合わせ、製造方法やその条件などによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」は、何れも大きく影響を受けるものと認められ、しかも、それらの製造原料や製造条件の違いによって、得られるポリブチレンテレフタレートの「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各値が相互に複合的に関連して影響を受けることになると認められる以上、このようなただ1点の実施をもって、要件Xによって表される「末端カルボキシル基量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」の各数値範囲全体の実施が可能であるとは、到底評価することができない。
してみると、本願明細書の実施例を手がかりとしても、要件Xを満たすか否かを知るためには、候補ポリブチレンテレフタレートを作成し、製造されたポリブチレンテレフタレートにつき、本願明細書の段落【0030】?【0033】に記載されたとおり、候補ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、逐一、水酸化ナトリウム溶液を用いた滴定により末端カルボキシル基量を測定し、示差走査熱量計を用い、示差走査熱量計で昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温したのち、降温速度20℃/minで80℃まで降温したときの発熱ピークの温度である降温結晶化温度を測定し、ポリブチレンテレフタレートのペレットを水に浸漬し、加圧下に120℃で6時間処理し、水中に溶出したテトラヒドロフランをガスクロマトグラフィーにより定量することにより残存テトラヒドロフラン量を測定し、その結果得られたデータに基いて判断する外はないのであって、斯かる候補ポリブチレンテレフタレートとして、テレフタル酸以外のジカルボン酸や1,4-ブタンジオール以外のジオールなどの共重合成分の種類やその共重合量並びにそれらの組み合わせ、さらに、エステル交換反応工程あるいはエステル化反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、重縮合反応工程の温度、圧力や時間、反応段数、使用する触媒の種類や使用量などの反応条件、連続式か回分式かという違い、あるいは製造後の後処理・後変性などの各種要素を種々変更しかつそれらを組み合わせて製造してなる各種候補ポリブチレンテレフタレートについて、上記した試験を逐一繰り返し、その結果において要件Xを満たしているか否かを確認する操作を、候補ポリブチレンテレフタレートを種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
そうすると、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを得ることが当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることから、要件Xを満足するポリブチレンテレフタレートを組成物の1成分として含有してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることもまた当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることは明らかである。

4.まとめ
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
また、請求項2及び請求項3に係る発明は、直接的あるいは間接的に請求項1を引用してなるものであるから、これらについても本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2及び請求項3に係る発明を容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということもできない。
してみれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、請求項1並びに同請求項を直接的又は間接的に引用する請求項2及び請求項3に係るポリブチレンテレフタレートをどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、同発明の詳細な説明は、本願請求項1?3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



第5 請求人の主張の検討

1.平成19年5月22日に提出された意見書について
請求人は、PBTの製造における個々の条件と本願の請求項1で規定する物性値との関係は、本願出願前より数多く報告され、本願出願前に当業者にとっては良く知られている事項であると主張し、(b-1)末端カルボキシル基含量については、特開平10-95843号公報を挙げて、「ポリエステルの熱分解を促進させることなく、速い反応速度で反応させることで、反応槽における反応物の滞留時間をできるだけ短縮させてポリエステルを製造すること」により、実際、実施例1では末端カルボキシル基含量「6eq/T」のPBTを得ており、(b-2)降温結晶化温度については、「結晶核」の量に依存するものであり、チタン触媒の失活による異物(チタンの失活量)に起因するものであり、有機チタン化合物の添加量に関係した物性であることが理解され、(b-3)残存テトラヒドロフラン(THF)量については、特開平10-330469号公報を挙げて、「酸成分とグリコール成分の比は、テトラヒドロフランの副生などの副反応を抑制するために、グリコール成分の酸成分に対するモル比(P)が1.1?1.6である必要がある。」と記載されているから、本願の請求項1で規定する範囲内の物性値を有する幾つかの種類のPBTについては、若干の試行錯誤を要するにしても、本願の実施例および比較例に記載のPBTをも参考にし、当業者ならば製造し得ない筈はないものと主張している。
しかしながら、ポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、「末端カルボキシル基含量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」について、本願明細書の記載をもってしては、上記したとおり、それらの各物性値を制御するために、具体的にどのような要素をどのようにすれば良いのか不明であるし、しかも、それらの相互に複合的に関連して影響を受ける3つの物性を同時に制御して、その結果として要件Xに規定する各数値範囲の値を満足させるためには、具体的にどのようにして実施すれば良いのか、依然として不明であるといわざるを得ない。
そして、「末端カルボキシル基含量」、「降温結晶化温度」及び「残存テトラヒドロフラン量」を制御するものに関して、請求人が主張する各要素は、本願明細書に一切記載されていない事項であって、本願明細書の記載に基かない主張であるし、しかも、請求人の挙げる証拠は、各々ただ1件の公開特許公報にすぎないから、斯かる証拠をもってしては、それらの事項が、本願出願時における技術常識であるとすることもできない。
たとえ、それら3つの物性を制御する各要素が、請求人の主張のとおりであったとしても、本願明細書の実施例1以外の場合にも、特に、「降温結晶化温度」については、チタン化合物の添加量の調節のみによって、当該降温結晶化温度が、実際に「175℃以上」であるものまでを製造することができるとする何らの証拠や根拠も見あたらない。
さらに、それら3つの物性の各々の値が、請求人の主張する各要素を変更することにより変化するものであることが事実であったとしても、それら3つの物性の各々の数値変化に影響を与える要素としては、請求人が主張する各要素だけに限られるものと認めることはできず、上記した製造原料や製造条件などという他の様々な要素を変更した場合にも、それら3つの物性が各々変化するものと認められるのであるから、上記した製造原料や製造条件などという他の様々な要素を変更したとしても、その変更に拘わらず、請求人が主張する各要素を変更するだけで、それら3つの物性を制御することができるとは、到底いうことはできない。
加えて、それら3つの物性の各々の値が、請求人の主張する各要素を変更することにより変化するものであることが事実であったとしても、請求人の主張する各要素のうち何れか1つを変更することによって、請求人が制御できるとする1つの物性だけでなく、それ以外の物性も影響を受けることとなり、その結果、当該1つの物性の値の変化のみに留まらず、他の物性値も併せて様々に変化することとなるものと認められるから、それら3つの物性を制御して、結果において要件Xを満足させるようにすることは、依然として当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
したがって、請求人のいう「速い反応速度で反応させることで、反応槽における反応物の滞留時間をできるだけ短縮させてポリエステルを製造すること」により、「末端カルボキシル基含量を25eq/t以下」とし、「有機チタン化合物の添加量を増加させる」ことにより、「降温結晶化温度を175℃以上」とし、且つ、「グリコール成分の酸成分に対するモル比(P)が1.1?1.6である」とすることにより、「残存テトラヒドロフラン量を300ppm(重量比)以下」とすることができるとの主張は、採用することができない。

2.平成19年10月25日に提出された審判請求書の手続補正書(方式)について
請求人は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の製造条件とPBTの物性との関係が分かっていれば物性の異なるPBTの製造は容易であるから、PBTの「物性の具体値」が異なっていても、PBTの製造条件をどう変更すれば物性値がどうなるという両者の関係(傾向)が解れば、本願のPBTを製造することは容易であると主張している。
しかしながら、本願のPBTを当業者が容易に製造することができるとするためには、PBTの製造条件をどう変更すれば物性値がどうなるという両者の関係(傾向)が解るだけでは十分とはいえず、さらに斯かる物性値(請求人のいう「物性の具体値」)を実際に達成することができることも必要であると認められるから、この点についての請求人の主張は採用することができない。
そして、上記第5 1.でも述べたとおり、例えば、「降温結晶化温度」について、その値が請求人の主張するとおり有機チタン化合物の添加量に関係した物性であることが事実であったとしても、本願明細書の実施例1以外の場合にも、有機チタン化合物の添加量の調節のみによって、実際に「降温結晶化温度が175℃以上」であるものを製造することができるとする何らの証拠や根拠も見あたらない。
また、請求人は、新たに4件の公報を挙げて、「(b-1)末端カルボキシル基含量」と「(b-2)降温結晶化温度」についても、ここに記載の関係が成立することを示す、追試実験に代わるデータを以下に示すとも主張しているが、そもそも、これら4件の公報(出願A?出願D)は何れも本願出願時公知の文献ではないし、しかもそのうち2件は本願よりも後願のものであることから、これら4件の公報の存在をもってして、斯かる関係が公知文献に十分に記載されて当業者にとっては良く知られている事項であるとは到底いうことはできず、斯かる主張は前提において誤りである。
さらに、請求人は、当業者にとって周知の通り、1つの製造条件が1つの物性のみに影響を与えるなどということはあり得ず、前述の(b-1)?(b-3)に記載の製造条件と物性値との関係は1つの側面を表しているにすぎず、程度の差を別にすれば、ここに記載の「製造条件と物性値の関係」以外の関係もありえるし、また、PBTのような高分子化合物は製造条件によって異なる物性のものとなり、そして、製造条件と物性との関係は、例えば「製造条件Aと物性X」のような代表的な関係が存在するにせよ、程度の差は別にして、物性Xが他の製造条件Bの影響を受けることもあり、また、製造条件Aによって他の物性Yが変化することもあるから、PBTのような高分子化合物の製造においては、物性Xのみが異なる他のPBTを製造しようとして製造条件Aを変更しても、物性Xのみならず物性Yも異なる他のPBTが得られるということが現状であり、PBTの各物性値を個別に思うがままに制御(任意に制御)するには限界があり、そのような製造条件の記載は一般的に言って困難であるとも主張している。
しかしながら、その様に請求人も認めるとおりであるならば、なおさら、それら3つの物性の各々の数値変化に影響を与える要素としては、請求人が主張する各要素だけに限られるものと認めることはできず、上記した他の様々な要素を変更した場合にも、それら3つの物性が各々変化するものと認められるのであるから、上記した製造原料や製造条件などという他の様々な要素を変更したとしても、その変更に拘わらず、請求人が主張する各要素を変更するだけで、それら3つの物性を制御することができるとは、到底いうことはできないし、請求人の主張する各要素のうち何れか1つを変更することによって、請求人が制御できるとする1つの物性だけでなく、それ以外の物性も影響を受けることとなり、その結果、当該1つの物性の値の変化のみに留まらず、他の物性値も併せて様々に変化することとなるものと認められるから、それら3つの物性を制御して、結果において要件Xを満足させるようにすることは、依然として当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。

3.平成21年8月26日に提出された上申書について
請求人は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の製造における個々の条件と本願の請求項1で規定する物性値との関係、つまり、製造条件をどう変更すれば物性値がどうなるという両者の関係(傾向)については、公知文献に十分に記載されて当業者にとっては良く知られている事項であるということを繰り返し主張し、その基礎として、先の意見書で提示した2件の公知文献に加えて新たな公知文献を2件挙げ、降温結晶化温度について、同一チタン量であっても、モル比(1,4-BG/TPA)ごとに異物(有機チタンの失活物)生成度合いが異なるため、同一モル比にてTi量とTcの比較をすることが必要である点を追加して主張し、「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」から、有機チタン増量(触媒残渣の増加)によりPBTのTcが上昇するという事実が理解されるとし、先の審判請求書の手続補正書(方式)で提示した出願A?出願Dを再度引用して、技術的な事実関係の立証の証拠は公知文献に限られないとも主張している。
しかしながら、請求人が追加公知文献として提出した特開昭62-141022号公報は、チタン化合物の使用量と得られたPBTの降温結晶化温度(Tc)との関係について何ら記載も示唆もするものではなく、同一モル(1,4-BG/TPA)比の条件では、有機チタン増量によりPBTのTcが上昇する(溶液ヘイズも上昇する)との主張の証拠となる公知文献は依然としてただ1つ(特開平10-95843号公報)にすぎないし、しかも、斯かる事実と主張する「チタン化合物の使用量と得られたPBTの降温結晶化温度(Tc)との関係」が当該公知文献中において明確に記載されている訳ではなく、当該公知文献中の実施例と比較例との各数値を比較対照した結果をもってして、斯かる事実が認められると主張するものであるから、斯かる証拠及び理由をもってしては、依然として、その主張する関係が本願出願時における技術常識であるとすることはできない。
そして、たとえ、請求人の主張のとおり、同一モル(1,4-BG/TPA)比の条件では、有機チタン増量によりPBTのTcが上昇する(溶液ヘイズも上昇する)ことが事実であったとしても、上記のとおり、同一モル(1,4-BG/TPA)比の条件であっても、本願明細書の実施例1以外の場合にも、有機チタン化合物の添加量の調節のみによって、実際に「降温結晶化温度が175℃以上」であるものを製造することができるとする何らの証拠や根拠も依然として見あたらない。
また、請求人が追加公知文献として提出した「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」の該当頁に記載されているのは、そもそも請求人も認めるとおり「ポリブチレンテレフタレート」ではなく、「ポリエチレンテレフタレート」についての記載であって、しかも、請求人のいう「『ポリマーに不溶性の触媒を含む系は、・・・広い温度範囲で結晶化しやすくなる・・・触媒残渣もタルクも結晶核剤として作用している』と記載され(第224頁4?7行)、触媒残渣(結晶核剤として作用)によって結晶化が促進される」との記載は、「図4.13?4.17に示したような結晶化速度に関する情報は,特に射出成形用途では重要な事項であり,・・・」(同文献第224頁)、「図4.14 PETの結晶化速度(不溶性触媒)」(同文献第225頁)及び「図4.15 PETの結晶化速度に対するタルクの効果」(同文献第225頁)と記載されているとおり、あくまでも「結晶化速度」に関する記載であると認められるから、斯かる記載をもってして、請求人が主張するTcが増加することを示しているということはできないし、仮に、降温結晶化温度が結晶化速度と対応するものであったとしても、斯かる記載をもってして、降温結晶化温度が175℃以上であるポリブチレンテレフタレートを製造することができるとすることはできない。
さらに、請求人が提示する出願A?出願Dは、上記のとおり、何れも本願出願時公知の文献ではないし、しかもそのうち2件は本願よりも後願のものであることから、仮にこれら4件の出願に記載された事項が事実であったとしても、そのことをもってして、斯かる関係が公知文献に十分に記載されて本願出願時に当業者にとっては良く知られている事項であるとまでは到底いうことはできない。
してみると、請求人も認めるとおり、公知文献中に、本願発明で規定する「降温結晶化温度が175℃以上」を満足するPBT、あるいは、本願発明で規定する「残存テトラヒドロフラン量が300ppm(重量比)以下」を満足するPBTを、ともに見出し得ていない以上、たとえ、本願発明で規定する「末端カルボキシル基量が25eq/t以下」との規定のみを満足するPBT自体が公知のものであったとしても、これら3つの要件を同時に満足するPBTを製造することは、依然として当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
したがって、「本願明細書の記載は、必ずしも十分とは言えないにしても、実施例に記載された一つの製造方法を基準として、当業者における『PBTの製造条件とPBTの物性との関係』という良く知られた事実を考慮するならば、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明のPBTとして任意の末端カルボキシル基量、降温結晶化温度及び残存テトラヒドロフラン量を有するものを製造することは可能であると判断されます。」との請求人の主張は採用することができない。



第6 むすび

以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-02 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2002-253064(P2002-253064)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 小野寺 務
亀ヶ谷 明久
発明の名称 難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形品  
代理人 岡田 数彦  
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