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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1207141
審判番号 不服2008-6288  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-13 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2006- 12379「電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日出願公開、特開2006-113612〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1] 手続の経緯
本願は、平成12年12月1日(優先権主張、平成11年12月20日)の特許出願(特願2000-367005号)の一部を、平成18年1月20日に新たな出願としたものであって、平成19年10月18日付けで通知した拒絶理由に対して、同年12月27日付けで手続補正書が提出され、平成20年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月13日に査定不服の審判請求がなされるとともに、同年4月14日付けで手続補正がなされたものである。
さらに、平成21年3月6日付けで審尋がなされたところ、審判請求人から同年5月11日付けで回答書が提出されたものである。


[2] 平成20年4月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年4月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲を以下のように補正しようとする補正事項が含まれている。

(補正前)
「 【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層に、分極率αが
α>100(Å^(3) )
双極子モーメントPが
P<1.6(D)
を満たす電荷輸送物質及びポリアリレート樹脂を含有し、概感光層又は電荷輸送層中に含有する電荷輸送物質が45重量%以下の割合であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層にポリアリレート樹脂及び電荷輸送物質を含み、該電荷輸送物質のMOPAC93のPM3あるいはAM1パラメータを用いた構造最適化計算による分極率αの計算値αcalが、次式、
αcal>70(Å^(3) )
双極子モーメントPの計算値Pcalが、次式、
Pcal<1.8(D)
を満たすものであることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項3】
電荷輸送物質として、カルバゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合したものからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
電荷輸送物質が、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体及びブタジエン誘導体が複数結合してなるものである請求項1?3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
電荷輸送物質が、下記一般式(1)で表される構造を有するものを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化1】

(一般式(1)中、環a、環b、環c及び環dは、それぞれ1?4個の置換基を有していても良いベンゼン環を表す。)
【請求項6】
ポリアリレート樹脂が、下記一般式(2)で表されるものである請求項1?5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化2】

(一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、それぞれ1?4個の置換基を有していても良いベンゼン環を表し、Xは単結合又は2価の有機基を表す。)
【請求項7】
一般式(2)中のA、B及びCが、それぞれ、ベンゼン環、あるいは炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基及び炭素数6?20以下の置換基を有していてもよいベンゼン環から選ばれるものである請求項6に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
一般式(2)中、 環A及び環Bがそれぞれ2個のメチル基を有するベンゼン環であり、環Cが無置換のベンゼン環である請求項6または7に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
一般式(2)中のXが、単結合、下記一般式(3)、-O-、-S-、-CO-、-SO_(2)-、-(CH_(2))s-(sは2?5の整数)のいずれかから選ばれるものである請求項6?8のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化3】

(一般式(3)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)及びR^(5)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、炭素数6?20の置換基を有していても良い芳香族基のいずれかを表す。またR^(1)とR^(2)、R^(3)とR^(4)は互いに結合して環を形成していてもよい。qは0以上の整数であり、rは0?4の整数である。)
【請求項10】
一般式(2)中、Xが上記一般式(3)で表される構造であり、一般式(3)中の、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ水素原子、qは0である請求項6?9のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項11】
一般式(2)が下記構造式(4)で表されるものである請求項10に記載の電子写真感光体。
【化4】

【請求項12】
ポリアリレート樹脂の粘度平均分子量が15,000?100,000である請求項1?11のいずれか1項に記載の電子写真感光体。」

(補正後)
「 【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した感光層を有する電子写真感光体において、前記電荷輸送層に、分極率αが
α>115(Å^(3))
双極子モーメントPが
P<1.6(D)
を満たす電荷輸送物質及びバインダー樹脂としてポリアリレート樹脂を含有し、前記電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質が、前記バインダー樹脂100重量部に対して30重量部以上、前記電荷輸送層中45重量%以下の割合であり、
前記ポリアリレート樹脂が、下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする電子写真感光体。
【化1-1】

(一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、それぞれ1?4個の置換基を有していても良いベンゼン環を表し、Xが、単結合、下記一般式(3)、-O-、-S-、-CO-、-SO_(2)-、-(CH_(2))s-(sは2?5の整数)のいずれかから選ばれる。)
【化1-2】

(一般式(3)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)及びR^(5)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、炭素数6?20の置換基を有していても良い芳香族基のいずれかを表す。またR^(1)とR^(2)、R^(3)とR^(4)は互いに結合して環を形成していてもよい。qは0以上の整数であり、rは0?4の整数である。)
【請求項2】
導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した感光層を有する電子写真感光体において、前記電荷輸送層にポリアリレート樹脂及び電荷輸送物質を含み、該電荷輸送物質のMOPAC93のPM3あるいはAM1パラメータを用いた構造最適化計算による分極率αの計算値αcalが、次式、
αcal>80(Å^(3))
双極子モーメントPの計算値Pcalが、次式、
Pcal<1.8(D)
を満たし、
前記ポリアリレート樹脂が、下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする電子写真感光体。
【化2-1】

(一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、それぞれ1?4個の置換基を有していても良いベンゼン環を表し、Xが、単結合、下記一般式(3)、-O-、-S-、-CO-、-SO_(2)-、-(CH_(2))s-(sは2?5の整数)のいずれかから選ばれる。)
【化2-2】

(一般式(3)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)及びR^(5)はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、炭素数6?20の置換基を有していても良い芳香族基のいずれかを表す。またR^(1)とR^(2)、R^(3)とR^(4)は互いに結合して環を形成していてもよい。qは0以上の整数であり、rは0?4の整数である。)
【請求項3】
電荷輸送物質として、カルバゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合したものからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
電荷輸送物質が、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体及びブタジエン誘導体が複数結合してなるものである請求項1?3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
電荷輸送物質が、下記一般式(1)で表される構造を有するものを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化3】

(一般式(1)中、環a、環b、環c及び環dは、それぞれ1?4個の置換基を有していても良いベンゼン環を表す。)
【請求項6】
一般式(2)中のA、B及びCが、それぞれ、ベンゼン環、あるいは炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基及び炭素数6?20以下の置換基を有していてもよいベンゼン環から選ばれるものである請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
一般式(2)中、環A及び環Bがそれぞれ2個のメチル基を有するベンゼン環であり、環Cが無置換のベンゼン環である請求項1、2、6のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
一般式(2)中、Xが上記一般式(3)で表される構造であり、一般式(3)中の、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ水素原子、qは0である請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
一般式(2)が下記構造式(4)で表されるものである請求項8に記載の電子写真感光体。
【化4】

【請求項10】
ポリアリレート樹脂の粘度平均分子量が15,000?100,000である請求項1?9のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項11】
前記電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質が、前記電荷輸送層中40重量%以下の割合である、請求項1?10のいずれか1項に記載の電子写真感光体。」

この補正事項は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項9において請求項1,請求項6を引用する部分を、新しく請求項1とするとともに、「感光層」を「電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した感光層」に限定し、「電荷輸送層」に「電荷輸送物質及びバインダー樹脂としてポリアリレート樹脂を含有」することに限定し、また、電荷輸送物質の分極率αの範囲を「α>100(Å^(3))」から「α>115(Å^(3))」に限定し、電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質の割合を「45重量%以下の割合」から「前記バインダー樹脂100重量部に対して30重量部以上、前記電荷輸送層中45重量%以下」に限定し、
補正前の請求項2を削除し、補正前の請求項9において請求項2、請求項6を引用する部分について、新しく請求項2とするとともに、「感光層」を「電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した感光層」に限定し、「電荷輸送層」に「電荷輸送物質及びバインダー樹脂としてポリアリレート樹脂を含有」することに限定し、また、電荷輸送物質の分極率αの範囲を「αcal>70(Å^(3) )」から「αcal>80(Å^(3))」に限定するものである。
また、補正前の請求項3?5は、新しい請求項1,2等を引用する形式として残され、実質的に補正前の請求項9(補正前の請求項1?8を引用していた)の内容を引き継いだ。
補正前の請求項6,請求項9は、削除されて、補正前の請求項7?8、請求項10?12は、それぞれ請求項6?7、請求項8?10に繰り上がるとともに、引用する請求項が変更になった。
また、新たに請求項11として、新たな請求項1?10において電荷輸送物質が電荷輸送層中40重量%以下の割合である旨を限定した請求項が追加になったが、ここでは、一応、特許請求の範囲を減縮した程度のことと理解しておく。

そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、及び同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された次の発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


2.引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日に頒布された特開平10-312070号公報(原査定の引用文献1。以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1a) 「【請求項1】
導電性支持体上に電荷発生物質及び電荷輸送物質を含有する感光層を有する電子写真感光体において、該電荷輸送物質が分極率αについて、次式
α>100(Å^3)
を満たし、かつ双極子モーメントPについて、次式
P<1.6(D)
を満たす有機電荷輸送物質であることを特徴とする電子写真感光体。」

(1b) 「【請求項3】 電荷輸送層中に、バインダーとしてポリカーボネートを含み、該電荷輸送層の、電場E=2e-5(V/cm)における、ホール移動度μが、
μ>7.5e-6(cm^(2 )/Vs)
であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体。」

(1c) 「【0002】
【従来の技術】従来、電子写真用感光体の感光層にはセレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛等の無機系の光導電性物質が、広く用いられていた。しかしながら、セレン、硫化カドミウムは毒物として回収が必要であり、セレンは熱により結晶化するための耐熱性に劣り、硫化カドミウム、酸化亜鉛は耐湿性に劣り、また酸化亜鉛は耐刷性がないなどの欠点を有しており、新規な感光体の開発の努力が続けられている。最近は、有機系の光導電性物質を電子写真用感光体の感光層に用いる研究が進み、そのいくつかが実用化された。有機系の光導電性物質は無機系のものに比し、軽量である、成膜が容易である、感光体の製造が容易である、種類によっては透明な感光体を製造できる等の利点を有する。
【0003】最近は、電荷キャリヤーの発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる、いわゆる機能分離型の感光体が高感度化に有効であることから、開発の主流となっており、このタイプによる有機系感光体の実用化も行なわれている。電荷キャリヤーの移動媒体(以下、「CTM」と略す。)としては、ポリビニルカルバゾールなどの高分子光導電性化合物を用いる場合と低分子光導電性化合物をバインダーポリマー中に分散溶解する場合とがある。」

(1d) 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】特に、有機系の低分子光導電性化合物は、バインダーとして皮膜性、可とう性、接着性などのすぐれたポリマーを選択することができるので容易に機械的特性の優れた感光体を得ることができる(例えば、特開昭63-172161号公報、特開昭63-174053号公報、特開平4-267261号公報、特公平5-15259号公報参照)。」

(1e) 「【0005】ここで、電子写真用感光体として要求される性能を挙げると、(1)暗所におけるコロナ放電による帯電性が高いこと、(2)コロナ帯電による表面電位の暗所における減衰が小さいこと、(3)光照射による表面電位の減衰が大きいこと、(4)光照射後の残留電位が小さいこと、(5)繰り返し使用した時の表面電位の変動や感度の低下、残留電位の蓄積等が少なく耐久性にすぐれていることなどがある。
【0006】特に残留電位が大きい場合、露光部にも電荷が残り、トナー現像を行なうと、非画線部にもトナーが現像され、いわゆるカブリ画像となる。また、プリンターなどで多く用いられる反転現像においては、画像濃度あるいはコントラストが低下し、極端な場合には画線部にトナーが付着しない欠陥が生じ、いわゆる白ぬけ画像となる。これはいずれも画像の再現性を著しく低下させ、実用に供し得ない。近年、反転現像方式のレーザプリンター等の普及により、フタロシアニン系顔料などの長波長光用電荷発生材料との組合せに適した高感度で残留電位が低く、かつ移動度が高く、耐久性にすぐれたCTMの開発が強く望まれている。」

(1f) 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。有機電荷輸送物質の分極率αについて、次式、
α>100(Å^3)
を満たし、かつ双極子モーメントPについて、次式
P<1.6(D)
を満たす物質が、高い移動度を示し、この有機電荷輸送物質を用いることによって、帯電性、感度、残留電位等に優れた電子写真感光体が得られる。本発明者らは、上記特定のパラメータを有する電荷輸送剤が優れた性能を示す理由について、以下のように考察した。
【0009】即ち、本発明者らは、有機電子輸送機構に、隣接電子輸送剤間の軌道の重なりと、電場(局所電場を含む)に対する電荷分布の変化が大きく関与していることに着目し、該電荷輸送物質の分極率及び双極子モーメントについて考察を行った。電荷輸送剤は、その電子雲の広がりが大きいほど、電荷輸送層内で隣接電荷輸送剤との電子雲の重なりが大きくなるため電子の移動が行われやすくなり、その結果移動度が大きくなると考えられる。一方、電子雲の広がりが大きいほど、電子は正電荷を持つ原子核からの束縛が弱くなり、電場がかかった際に生じる電荷分布の変化は大きくなると考えられる。従って、電荷輸送剤の移動度は、分子に電場がかかることにより生じる電荷分布の変化に起因する分極の度合いを示す物理量である分極率が大きいほど大きくなると考えられる。
【0010】又、双極子モーメントの大きな有機電荷輸送剤は、電荷輸送層にキャリア(有機電荷輸送剤イオン)が存在するとき、キャリアの電荷と周辺の有機電荷輸送剤の双極子モーメントとに働く相互作用エネルギーが大きく、大きな安定化エネルギーを得ることから、隣接有機電荷輸送剤分子との間で電荷輸送する際の活性化エネルギーが大きくなる。それ故双極子能率がある程度小さいことを満たすことは、高い移動度を実現するため重要な要素となると考えられる。以上の理由より、上記特定の分極率及び双極子モーメントを示す電荷輸送剤が高い移動度を示すと考察した。」

(1g) 「【0015】本発明によれば、有機電荷輸送物質について、分極率及び双極子モーメントを求めることにより電子写真感光体における適否が推定できるので、適切な有機電荷輸送物質を使用して、電子写真感光体の製造を容易に行うことができる。本発明における、有機電荷輸送物質の具体例としては例えば以下のようなものが挙げられる。
【0016】
【表1】



(1h) 「【0022】これらの感光層には、有機光伝導体として優れた性能を有する公知の他のアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチルベン化合物を混合してもよい。本発明においては、特定パラメータを満たす電荷輸送媒体を含有する電荷発生層と電荷輸送層(電荷移動層)の2層からなる感光層の電荷輸送層中に用いる場合に、特に感度が高く、残留電位が小さく、かつ、繰り返し使用した場合に、表面電位の変動や感度の低下、残留電位の蓄積等が小さく、耐久性に優れた感光体を得ることができる。
【0023】具体的には通常、電荷発生材料を直接蒸着あるいはバインダーとの分散液として塗布して電荷発生層を作成し、その上に、前記電荷輸送媒体を含む有機溶剤溶液をキャストするか、あるいは電荷輸送媒体をバインダー等とともに溶解し、その分散液を塗布することにより、電荷輸送層を作成してなる積層型感光体であるが、電荷発生層と電荷輸送層の積層順序は逆の構成でも良い。」

(1i) 「【0030】
【実施例】
実施例1
X線回折スペクトルにおいて、ブラック角(2θ±0.2°)9.3°、10.6°、13.2°、15.1°、15.7°、16.1°、20.8°、23.3°、27.1°に強い回折ピークを示すチタニウムオキシフタロシアニン顔料1.0部をジメトキシエタン14部に加え、サンドグラインダーで分散処理をした後、ジメトキシエタン14部と4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 (三菱化学(株)社製)14部を加え希釈し、さらに、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名デンカブチラール#6000-C)0.5部と、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド(株)社製、商品名UCAR(商標登録)PKHH)0.5部をジメトキシエタン6部、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 6部の混合溶媒に溶解した液と混合し、分散液を得た。この分散液を75μmに膜厚のポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層の上に乾燥後の重量が0.4g/m^(2) になる様にワイヤーバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成させた。この上に前記表-1の化合物No.2を70部と下記に示すポリカーボネート樹脂100部をテトラヒドロフラン900部に溶解した塗布液を塗布、乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成させた。
【0031】
【化3】(当審注:省略する)」

(1j) 「【0032】このようにして得た2層からなる感光層を有する電子写真感光体によって感度すなわち半減露光量を測定したところ0.42μJ/cm^(2) であった。半減露光量はまず、感光体を暗所で50μAのコロナ電流により負帯電させ、次いで20ルックスの白色光を干渉フィルターに通して得られた780nmの光(露光エネルギー10μW/cm^(2 ))で露光し、表面電位が-450Vから-225Vまで減衰するのに要する露光量を測定することにより求めた。さらに露光時間を9.9秒とした時の表面電位を残留電位として測定したところ、-1Vであった。この操作を2000回繰り返したが、残留電位の上昇はみられなかった。
【0033】又該電荷輸送層の電界強度E=2e+5 (V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により測定したところ、2.2e-5 (cm^(2)/Vs)であった。該電荷輸送物質(前記表-1の化合物No.1)のイオン化ポテンシャルを、理研計器(株)製 表面分析装置AC-1を用いて測定したところ、IP=5.17(eV)であった。」

(1k) 「【0034】又、該電荷輸送物質(前記表-1の化合物No.2)の分極率及び双極子モーメントを、前記文献J.Chem.Phys.75,3572(1981)に従い測定したところ、分極率α=130.4 (Å^3)及び双極子モーメントP=1.37 (D)であった。」

(1m) 「【0042】
【表5】(表-2)(当審注:省略する)
表-2より、明らかに実施例1の化合物は比較例1、2、3の化合物に比べ、感度、残留電位、移動度いずれも優れた数値を示すことがわかる。」

これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層の上に、電荷発生層を形成させ、電荷輸送層を形成させてなる、2層からなる感光層を有する電子写真感光体において、
電荷輸送層が、
分極率α=130.4 (Å^3)、及び、双極子モーメントP=1.37 (D)である、刊行物1の表-1の化合物No.2の電荷輸送物質70部、及び、バインダーとして特定のポリカーボネート樹脂100部を含有する、
電子写真感光体。」


(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開平10-312071号公報(原査定の引用文献2。以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a) 「【0003】
最近は、電荷キャリヤーの発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる、いわゆる機能分離型の感光体が高感度化に有効であることから、開発の主流となっており、このタイプによる有機系感光体の実用化も行なわれている。電荷キャリヤーの移動媒体(以下、「CTM」と略す。)としては、ポリビニルカルバゾールなどの高分子光導電性化合物を用いる場合と低分子光導電性化合物をバインダーポリマー中に分散溶解する場合とがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特に、有機系の低分子光導電性化合物は、バインダーとして皮膜性、可とう性、接着性などのすぐれたポリマーを選択することができるので容易に機械的特性の優れた感光体を得ることができる(例えば、特開昭63-172161号公報、特開昭63-174053号公報、特開平4-267261号公報、特公平5-15259号公報参照)。」

(2b) 「【0030】
【実施例】
実施例1
X線回折スペクトルにおいて、ブラック角(2θ±0.2°)9.3°、10.6°、13.2°、15.1°、15.7°、16.1°、20.8°、23.3°、27.1°に強い回折ピークを示すチタニウムオキシフタロシアニン顔料1.0部をジメトキシエタン14部に加え、サンドグラインダーで分散処理をした後、ジメトキシエタン14部と4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 (三菱化学(株)社製)14部を加え希釈し、さらに、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名デンカブチラール#6000-C)0.5部と、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド(株)社製、商品名UCAR(商標登録)PKHH)0.5部をジメトキシエタン6部、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 6部の混合溶媒に溶解した液と混合し、分散液を得た。この分散液を75μmに膜厚のポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層の上に乾燥後の重量が0.4g/m^(2) になる様にワイヤーバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成させた。この上に前記表-1の化合物No.1 70部と下記に示すポリカーボネート樹脂
【0031】
【化2】(当審注:省略する)
【0032】100部をテトラヒドロフラン900部に溶解した塗布液を塗布、乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成させた。このようにして得た2層からなる感光層を有する電子写真感光体によって感度すなわち半減露光量を測定したところ0.42μJ/cm^(2) であった。半減露光量はまず、感光体を暗所で50μAのコロナ電流により負帯電させ、次いで20ルックスの白色光を干渉フィルターに通して得られた780nmの光(露光エネルギー10μW/cm^(2) )で露光し、表面電位が-450Vから-225Vまで減衰するのに要する露光量を測定することにより求めた。さらに露光時間を9.9秒とした時の表面電位を残留電位として測定したところ、-1Vであった。この操作を2000回繰り返したが、残留電位の上昇はみられなかった。
【0033】又該電荷輸送層の電界強度E=2e+5 (V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により測定したところ、2.2e-5 (cm^(2)/Vs)であった。該電荷輸送物質(前記表-1の化合物No.1)のイオン化ポテンシャル、分極率及び双極子モーメントを、MOPAC93により計算したところ、イオン化ポテンシャル=8.07eV、分極率αcal=93.7(Å^3)及び双極子モーメントPcal=0.79(D)であった。」

(3)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開平4-267261号公報(原査定の引用文献3。以下「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(3a) 「【請求項1】
下記一般式(I)で示されるヒドラゾン化合物を含有する感光層が導電性支持体上に形成されていることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】(当審注:省略する)
(式中、A,Bは置換基を含んでもよいアリール基,複素環基,炭素数1?4のアルキル基であり、Rは置換基を含んでもよいアリール基,炭素数1?4のアルキル基,アリル基であり、R′は炭素数1?2のアルキル基又はアルコキシ基である。)」

(3b) 「【0029】
これらヒドラゾン化合物を電子写真感光体として用いる態様には、種々の方法が考えられる。例えばヒドラゾン化合物と増感染料を、必要によっては、化学増感剤や電子吸引性化合物を添加して、結合剤樹脂中に溶解もしくは分散させたものを導電性支持体上に設けて成る感光体あるいは、電荷キャリヤー発生効率の高いキャリヤー発生層とキャリヤー移動層とからなる積層構造の形態において導電性支持体上に増感染料又はアゾ系顔料,フタロシアニン系顔料を代表とする顔料を主体として設けられたキャリヤー発生層上に本ヒドラゾン化合物を必要によって、酸化防止化合物や電子吸引性化合物を添加して結合剤中に溶解もしくは分散させこれをキャリヤー移動層として設けて成る積層感光体などがあるが,いずれの場合にも適用することが可能である。本発明の化合物を用いて感光体を作成するに際しては金属ドラム,金属板,導電性加工を施した紙,プラスチックフィルムの様な支持体上へ重合体フィルム形成性結合剤の助けを借りて皮膜にする。この場合、更に感度を上げるためには後述するような増感剤及び重合性フィルム形成結合剤に対する可塑性を付与する物質を加えて均一な感光体皮膜にするのが望ましい。」

(3c) 「【0030】
これら重合性フィルム形成結合剤としては、利用分野に応じて種々のものがあげられる。すなわち、複写機用もしくはプリンター用感光体の分野では、ポリスチレン樹脂,ポリビニルアセタ-ル樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリフェニレンオキサイド樹脂,ポリエステル樹脂,アルキッド樹脂,ポリアリレート樹脂等が好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して用いてもよい。」

(3d) 「【0031】
中でも、ポリスチレン,ポリカーボネート,ポリアリレート,ポリフェニレンオキサイド等の樹脂は、体積抵抗値が10^(13)Ω以上であり、 又皮膜性、電位特性等にもすぐれている。」

(3e) 「【0032】
又、これら結合剤の本発明のヒドラゾン化合物に対して加える量は、重量比で0.2?20倍の割合、好ましくは0.6?3倍の範囲であり、0.6以下になると、ヒドラゾン化合物が感光体表面より析出してくるという欠点が生じ、又3倍以上になると著しく感度低下をまねく。」

(3f) 「【0044】
実施例1?5
アルミ蒸着のポリエステルフィルム(膜厚80μ)を支持体とし、その上に下記構造式
【0045】
【化6】(当審注:省略する)
【0046】で示されるビスアゾ顔料をポリビニルブチラール樹脂(日信化学工業社製エスレックB)を溶かした1%のTHF溶液中に重量で樹脂と同量加え、次いでペイントコンディショナー(レッドレベル社製)中で直径1.5mmのガラスビーズと一緒の状態で約2時間分散を行いドクターブレイド法により塗布乾燥した。乾燥後の膜厚は0.2μであった。
【0047】この顔料層(電荷発生層)の上に本発明の例示化合物No8,No12,No14,No26,No35各1gをポリアリレート樹脂(ユニチカ製U-100)1.2gを2塩化エタンに溶かした15%の溶液をスキージングドクターにより塗布し、乾燥膜厚25μの樹脂-ヒドラゾン化合物固溶相(電荷移動層)を作成した。」

(3g) 「【0054】実施例6
アルミ蒸着のポリエステルフィルム上にx型無金属フタロシアニン(大日本インキ社製ファストゲンブルー8120)0.4gを塩ビ:酢ビ共重合体樹脂(日信化学工業社製エスレックスM)0.3gを溶かした酢酸エチル溶液30ml中に加え、ペイントコンディショナー中で約20分間分散を行いドクターブレイド法により塗布し、乾燥後の膜厚0.4μになる様に電荷発生層を形成させた。この電荷発生層の上に例示化合物No23のヒドラゾン化合物を50%(重量比)含有したポリアリレート層を積層して2層構成からなる感光体を作成した。
本感光体の780nmの分光感度を電位が700ボルトから50ボルトに減少するに要したエネルギー及び初期電位(-V_(0))を求めた所V_(0)=970(-ボルト),E_(50)=3.5(エルグ/cm^(2))と非常に感度の高い、かつ高帯電性の感光体であった。またシャープ社製レーザープリンター(WD-580P)を改造し、ドラム部に本感光体をはりつけ、連続空コピー(Non Copy Aging)を1万回行った後初期電位低下、感度の低下の度合を調べた。その結果はV_(0)=960(-ボルト),E_(50)=3.6(エルグ/cm^(2))と第1回目と比べてほとんど値の変動は見られなかった。」

(3h) 「【0058】実施例7?10
アルミ基盤表面をアルマイト加工(アルマイト層7μ)した支持体の上に本発明のヒドラゾン化合物各1g下記構造式で示されるポリアリレート樹脂1.1g及びN,N-3,5-キシリル-3,4-キシリル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシルジイミド0.15g及び紫外線吸収剤0.05gを塩化メチレン中に溶解した(尚イミド化合物は一部分散状態)溶液をアプリケーターにより塗布し乾燥膜厚20μの単層感光体を得た。
【0059】
【化9】



(4)刊行物4
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開平10-288846号公報(原査定の引用文献4。以下「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(4a) 「【請求項1】
導電性基体上に、少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層のバインダー樹脂が一般式(1)で表されるポリアリレート樹脂を含み、該ポリアリレート樹脂の濃度0.6g/dlのジクロロメタン溶液の20℃における動粘度が0.45cSt以上の値を有することを特徴とし、かつ、感光体の周速度が12m/分以上で使用されることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】

(式中、X^(1) 、X^(2 )、X^(3) 、X^(4 )はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1?4のアルキル基を示し、Yは、無置換あるいは任意の置換基を有するフェニレン基、ビフェニレン基、またはナフチレン基を示す。)」

(4b) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子写真感光体に関するものである。詳しくは、特定のバインダーを使用した耐久性、特に耐摩耗性にすぐれた電子写真感光体に関するものである。」

(4c) 「【0004】
これまで電荷移動層のバインダーポリマーとしてはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂が用いられてきている。数あるバインダーポリマーのなかではポリカーボネート樹脂が比較的優れた性能を有しており、これまで種々のポリカーボネート樹脂が開発され実用に供されている。例えば特開昭50-98332号公報にはビスフェノールPタイプのポリカーボネートが、特開昭59-71057号公報にはビスフェノールZタイプのポリカーボネートが、特開昭59-184251号公報にはビスフェノールPおよびビスフェノールAの共重合タイプのポリカーボネートをバインダーポリマーとして使用することがそれぞれ開示されている。また、特願平3-274279号明細書には、重量平均分子量150,000以上の特定の構造のポリカーボネートを使用することにより大幅な耐摩耗性の向上が見られたことが開示されている。一方、特開昭56-135844号公報には、商品名「U-ポリマー」として市販されている下記構造のポリアリレート樹脂をバインダーとして用いた電子写真感光体の技術が開示されている。
【0005】
【化3】



(4d) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、現状に用いられているポリカーボネート樹脂や「U-ポリマー」を電子写真プロセスで使おうとする場合、耐摩耗性、耐擦傷性、応答性等で未だ不十分な場合が多く、より高性能なバインダーポリマーが望まれているのが現状である。また、重量平均分子量150,000以上のポリカーボネートは耐摩耗性には優れるものの、塗布液にしたときの溶液粘度が極端に高くなり、通常のディップ塗布では塗布速度が極めて遅くなり、生産性が悪いという欠点がある。」

(4e) 「【0007】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、感光層に使用するバインダーポリマーについて詳細に検討した結果、塗布に支障ない程度に高分子量化したポリアリレート樹脂をバインダー樹脂として用いることにより十分な機械的性能を有することを見出し本発明に至った。高分子量化すると耐摩耗性が向上することは特願平3-274279号公報のポリカーボネートの例と同様に公知であるが、樹脂の種類が異なるとその分子同士の絡み合いが異なるため、同様の高分子量化で効果が上げられるものではない。本発明により、逆に塗布に支障をきたさない程度の高分子量化で、飛躍的に耐刷性が向上する事が判明した。このことにより、本発明のポリアリレート樹脂は感光体の生産性を妨げることなく、従来のポリカーボネートでは成しえなかった優れた耐摩耗性を発揮することを見いだした。」

(4f) 「【0020】
電荷輸送物質としては、従来用いられている電子輸送物質や正孔輸送物質が挙げられる。電子輸送物質を例示すると、クロラニル、ブロマニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-ジシアノメチレンフルオレノン、2,4,5,7-テトラニトロキサントン、2,4,9-トリニトロチオキサントンその他に、3,5-ジメチル-3′,5′-ジ-tert-ブチル-4′,4′-ジフェノキノンなどのジフェノキノン誘導体などの電子吸引物質やこれらの高分子物質などが挙げられる。なお、これらの1種類で使用してもよく複数以上混合するなどして使用してもよい。
【0021】正孔輸送物質を例示すると、ピレン、N-エチルカルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-メチル-N-フェニルヒドラジノ-3-メチリデン-9-エチルカルバゾール、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-メチリデン-9-エチルカルバゾール、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-メチリデン-10-エチルフェノチアジン、N,N-ジフェニルヒドラジノ-3-メチリデン-10-エチルフェノキサジン、p-ジエチルアミノベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、p-ジエチルアミノベンズアルデヒド-N-α-ナフチル-N-フェニルヒドラゾン、p-ピロリジノベンズアルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、1,3,3-トリメチルインドレニン-ω-アルデヒド-N,N-ジフェニルヒドラゾン、p-ジエチルベンズアルデヒド-3-メチルベンズチアゾリノン-2-ヒドラゾン、1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-6-カルボキシアルデヒド-1′,1′-ジフェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン類、2,5-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1-フェニル-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾン、1-〔キノリル(2)〕-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-〔レピジル(2)〕-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-(6-メトキシ-ピリジル(2)〕-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-〔ピリジル(5)〕-3-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-〔ピリジル(2)〕-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-〔ピリジル(2)〕-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-4-メチル-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-〔ピリジル(2)〕-3-(α-メチル-p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-フェニル-3-(p-ジエチルアミノスチリル)-4-メチル-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、1-フェニル-3-(α-ベンジル-p-ジエチルアミノスチリル)-5-(p-ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン、スピロピラゾリンなどのピラゾリン類、2-(p-ジエチルアミノスチリル)-δ-ジエチルアミノベンズオキサゾール、2-(p-ジエチルアミノフェニル)-4-(p-ジメチルアミノフェニル)-5-(2-クロロフェニル)オキサゾールなどのオキサゾール化合物、2-(p-ジエチルアミノスチリル)-6-ジエチルアミノベンゾチアゾールなどのチアゾール系化合物、ビス(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタンなどのトリアリールメタン系化合物、1,1-ビス(4-N,N-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)ヘプタン、1,1,2,2-テトラキス(4-N,N-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エタンなどのポリアリールアミン類、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(メチルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(エチルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(プロピルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(ブチルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(イソプロピルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(tert-ブチルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(イソブチルフェニル)ベンジジン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(クロロフェニル)ベンジジンなどのベンジジン系化合物、あるいはブタジエン系化合物、トリフェニルアミン、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ-9-ビニルフェニルアントラセン、有機ポリシラン、ピレン-ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾール-ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。これらは、1種類で使用しても複数以上混合するなどして使用することも可能である。」

(4g) 「【0022】
この場合の使用比率はバインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送材料は20から150重量部、好ましくは50から110重量部の範囲より使用される。また膜厚は10から50μm好ましくは15から45μmがよい。なお電荷輸送層には、成膜性、可とう性、塗布性などを向上させるために周知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤などの添加剤を含有させても良い。」

(4h) 「【0031】
【実施例】 以下、本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。
実施例-1
下記構造を有するビスアゾ化合物10重量部を150重量部の4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノンに加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行なった。ここで得られた顔料分散液をポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名#6000-C)の5%ジメトキシエタン溶液100部及びフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製、商品名PKHH)の5%ジメトキシエタン溶液100部の混合液に加え、最終的に固形分濃度4.0%の分散液を作製した。
【0032】
【化6】(当審注:省略する)
【0033】この様にして得られた分散液を、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布しその乾燥膜厚が0.21g/mm^(2) となるように電荷発生層を設けた。次にこのフィルム上に、次に示すヒドラゾン化合物95重量部と
【0034】
【化7】(当審注:省略する)
【0035】下記構造のシアノ化合物1.5重量部と
【0036】
【化8】(当審注:省略する)
【0037】酸化防止剤として下記構造のヒンダードフェノール3重量部と
【0038】
【化9】(当審注:省略する)
【0039】レベリング剤としてシリコーンオイル0.03重量部及び下記構造を有し、該動粘度0.451cStのポリアリレート樹脂A100重量部をジオキサン、テトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた液を塗布した後、125℃で25分乾燥させ、乾燥後の膜厚が21μmとなるように電荷移動層を設けた。この様にして得られた感光体を感光体Aとする。
【0040】
【化10】



(4i) 「【0041】 実施例-2
次に示すポリアリレート樹脂B(動粘度0.452cSt)を電荷移動層のバインダーとして用いた以外は実施例-1とすべて同様に行ない、感光体Bを作成した。
【0042】
【化11】



(4j) 「【0043】 実施例-3
次に示すポリアリレート樹脂C(動粘度0.464cSt)を電荷移動層のバインダーとして用いた以外は実施例-1とすべて同様に行ない、感光体Cを作成した。
【0044】
【化12】



(4k)「【0047】比較例-2
次に示すポリアリレート樹脂E(ユニチカ製「U-ポリマー」U-100)(動粘度0.433cSt)を電荷移動層のバインダーとして用いた以外は実施例-1とすべて同様に行ない、感光体Eを作成した。
【0048】
【化14】




3.本願補正発明と刊行物1発明との対比・判断
本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると、
刊行物1発明の「ポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層」は、本願補正発明の「導電性支持体」に相当する。
刊行物1発明の「電荷輸送物質」は、「分極率α=130.4 (Å^3)、及び、双極子モーメントP=1.37 (D)である」から、本願補正発明の「分極率αがα>115(Å^(3))、双極子モーメントPが P<1.6(D)を満たす電荷輸送物質」に相当する。
刊行物1発明の「電荷輸送物質」が、バインダーとしてのポリカーボネート樹脂100重量部に対して、70重量部含有するものであり、すなわち、電荷輸送層中約41重量%(=70/(100+70))含有するものであり、本願補正発明の「電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質が、前記バインダー樹脂100重量部に対して30重量部以上、前記電荷輸送層中45重量%以下の割合」であることと共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「 導電性支持体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した感光層を有する電子写真感光体において、前記電荷輸送層に、分極率αが
α>115(Å^(3))
双極子モーメントPが
P<1.6(D)
を満たす電荷輸送物質及びバインダー樹脂を含有し、
前記電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質が、前記バインダー樹脂100重量部に対して30重量部以上、前記電荷輸送層中45重量%以下の割合である、
電子写真感光体。」

[相違点]
本願補正発明では、電荷輸送層のバインダー樹脂が、一般式(2)で表される「ポリアリレート樹脂」であり、
電荷輸送物質が、バインダー樹脂である「ポリアリレート樹脂」100重量部に対して30重量部以上、電荷輸送層中45重量%以下の割合であるのに対し、
刊行物1発明では、電荷輸送層のバインダー樹脂が、「ポリカーボネート樹脂」であり、
電荷輸送物質が、バインダー樹脂としての「ポリカーボネート樹脂」100重量部に対して、70重量部含有するものである点。

そこで、これら相違点について、以下検討する。

(1) バインダー樹脂について
刊行物1及び刊行物2には、「有機系の低分子光導電性化合物」は、「バインダー」として皮膜性、可とう性、接着性などのすぐれたポリマーを選択することができるので容易に機械的特性の優れた感光体を得ることができることを教示している。そして、原査定の引用文献3(前記刊行物3)である、「特開平04-267261号公報」を例示している(前記(1d)、(2a)参照)。
そして、刊行物3には、「ポリカーボネート」や「ポリアリレート」が、体積抵抗値が10^(13)Ω以上であり、又皮膜性、電位特性等にもすぐれていることが記載されている(前記(3d)参照)。
刊行物3の実施例1?5に使用された「ポリアリレート樹脂(ユニチカ製U-100)」について、刊行物3には、構造式が記載されていないけれども、この「ポリアリレート樹脂(ユニチカ製U-100)」が、刊行物4の【化3】(刊行物4【0005】参照)に示された商品名「U-ポリマー」として市販されているポリアリレート樹脂の構造式と同じものであるとすれば、本願補正発明における、一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、置換基を有していない場合で、Xが、一般式(3)で、qが0で、R^(1)とR^(2)がともにメチル基である場合に相当する。
刊行物3の実施例7?10の【化9】(前記(3h)の【0059】参照)の「ポリアリレート樹脂」は、本願補正発明における、一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、置換基を有していない場合で、Xが、一般式(3)で、qが0で、R^(1)がメチル基であり、R^(2)が芳香族基である場合に相当する。
また、刊行物4には、「ポリアリレート樹脂」は、感光体の生産性を妨げることなく、従来のポリカーボネートでは成しえなかった優れた耐摩耗性を発揮することが記載されている(前記(4e)参照)。
刊行物4の実施例1の「ポリアリレート樹脂A【化10】」は(刊行物4段落【0040】参照)、本願補正発明における、一般式(2)中、環A、環B及び環Cは、置換基を有していない場合で、Xが、一般式(3)で、qが0で、R^(1)とR^(2)がともにメチル基である場合に相当する。
刊行物4の実施例2の「ポリアリレート樹脂B【化11】」は(刊行物4段落【0042】参照)、本願補正発明における、一般式(2)中、環A、環Bは、2個の置換基(3,5の位置にメチル基)を有している場合で、Xが、一般式(3)で、qが0で、R^(1)とR^(2)がともにメチル基である場合に相当する。
刊行物4の実施例3の「ポリアリレート樹脂C【化12】」は(刊行物4段落【0044】参照)、本願補正発明における、一般式(2)中、環A、環Bは、1個の置換基(3の位置にメチル基)を有している場合で、Xが、一般式(3)で、qが0で、R^(1)とR^(2)がともにメチル基である場合に相当する。

そうすると、刊行物1発明において、電荷輸送層のバインダー樹脂として、ポリカーボネート樹脂に換えて、機械的特性に優れた性質を有する、本願補正発明における一般式(2)で示される「ポリアリレート樹脂」を使用することは、当業者ならば、機械的特性の向上を図る観点から、容易に想到し得ることである。

(2)電荷輸送物質の含有割合について
刊行物4には、バインダーが「ポリアリレート樹脂」であることが記載されている。そして、刊行物4には、「バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送材料は20から150重量部、好ましくは50から110重量部の範囲より使用される。」ことが記載されている。すなわち、重量%で表せば、約16重量%(=20/(100+20))?約60重量%、好ましくは、約33重量%?約52重量%である。これは、本願補正発明の数値範囲の大部分と重複するものである。

また、本願補正発明は、電荷輸送物質が、バインダー樹脂である「ポリアリレート樹脂」100重量部に対して30重量部以上、電荷輸送層中45重量%以下の割合であることを規定するところ、本願の実施例はすべて、本願補正発明の条件を満たす電荷輸送物質60重量部と、一般式(2)を満たす「ポリアリレート樹脂」100重量部との組み合わせの例だけであり(この場合、60/(100+60)=37.5重量%となる。)、これを除いた、本願補正発明の数値範囲に含まれる他の組み合わせについては、効果は確認されておらず、電荷輸送物質の含有割合に関する本願補正発明の臨界的意義は明確でない。
そして、本願補正発明の数値範囲の意味について、本願明細書の説明は、「感光層又は電荷輸送層における電荷輸送物質の含有量は、耐刷性の点から、該電荷輸送層中45重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下、特に好ましくは30重量%以下とすることが好ましい。」(【0072】)や、「バインダー樹脂と電荷輸送物質の割合は、通常、バインダー樹脂100重量部に対して、電荷輸送物質が、通常30?200重量部用いられるが、好ましくは40?150重量部以下、最も好ましくは上限を90重量部以下とするのが、ポリアリレートの機械特性を維持する上で有利である。」(【0081】)というものであるが、刊行物1発明や刊行物4の上記事項と比較しても、本願補正発明が特別な範囲であることを窺わせる説明ではない。

これらのことからみて、刊行物1発明において、電荷輸送層のバインダー樹脂として、バインダー樹脂として本願補正発明における一般式(2)で示されるポリアリレート樹脂を採用した際に、本願補正発明のごとく、電荷輸送層中に含有される電荷輸送物質を、バインダー樹脂100重量部に対して30重量部以上、電荷輸送層中45重量%以下の割合とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(効果について)
本願補正発明の効果について、請求人は、回答書で、
「本願発明は、溶解性が改善された特定構造のポリアリレート樹脂に、分極率又はその計算値が相対的に大きく(π電子雲の広がりが大きく)、双極子モーメント又はその計算値が相対的に小さい(ホール移動度を大きくできる)電荷輸送物質を組み合わせて用いたものであります。こうした組み合わせにより、電荷輸送層中での電荷輸送物質の含有量を45重量%以下と少なくすることができるとともに、十分な機械的特性を有し、非ハロゲン系溶媒にも高い溶解性/塗布液の安定性が向上し、かつ電気特性(特に応答性)に優れる電子写真感光体を得ることができるという効果を奏します。
・・・(中略)・・・
しかしながら、本願明細書に記載の実施例と比較例3とを比較すると、ポリアリレート樹脂を用いた場合には、ポリカーボネート樹脂を用いた場合と比較して電気特性と機械特性の双方に優れたことが示されています。このような顕著な効果は、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂とが同程度の効果を示すものと当業者に予測させる引用文献1,2の記載からは、容易に想到し得るものではないと思料します。 」
と主張する。

しかし、本願の実施例で使用されている特定構造のポリアリレート樹脂は、以下に示す、「P-1とM-1の組み合わせのもの」及び「P-1とP-7の組み合わせのもの」だけである。
そして、これら組み合わせ以外のものであって、本願補正発明の一般式(2)に含まれるものについては、効果が全く確認されていない。
なお、本願の実施例で使用されているポリアリレート樹脂は、本願補正発明の一般式(2)に含まれる、ユニチカ製「U-ポリマー」(登録商標)(刊行物4の(4c)(4k)参照)とも異なるものである。







したがって、本願補正発明の全範囲について、効果が格別のものであるとすることはできない。

(まとめ)
以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び、刊行物1?刊行物4記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



[3]本願発明について
1.本願の請求項1に係る発明
平成20年4月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年12月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。

「 【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層に、分極率αが
α>100(Å^(3) )
双極子モーメントPが
P<1.6(D)
を満たす電荷輸送物質及びポリアリレート樹脂を含有し、概感光層又は電荷輸送層中に含有する電荷輸送物質が45重量%以下の割合であることを特徴とする電子写真感光体。」

なお、上記「概感光層」は「該感光層」の誤記である。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?引用文献4(本審決では上記の刊行物1?刊行物4)及びその記載事項は、前記「[2]2.」の「(1)刊行物1」?「(4)刊行物4」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明のポリアリレート樹脂から「一般式(2)で表されるものである」との限定事項を省くなど、複数の限定事項を省いたものに相当する。
本願発明1と刊行物1記載の発明を対比すると、上記「[2]3.」で示した相違点から基本的に一般式(2)に係る事項を除いたものが、相違点となるところ、
この相違点に係る本願発明1のごとくなすことは、本願補正発明の相違点について示したのと基本的に同様の理由により、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明、及び、刊行物1?刊行物4記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2006-12379(P2006-12379)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿久津 弘菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伊藤 裕美
伏見 隆夫
発明の名称 電子写真感光体  
代理人 吉村 俊一  
代理人 長谷川 曉司  

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