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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01H
管理番号 1207157
審判番号 不服2008-14265  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2002-348241号「真空スイッチ管」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月26日出願公開、特開2003-272492号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成14年11月29日(優先権主張平成14年1月11日)の出願であって、平成20年4月28日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、同年6月6日付けで本件審判が請求されるとともに、同年7月4日付けで手続補正(前置補正)がなされ、これに対して、当審において平成21年6月18日付けで拒絶理由を通知したところ、同年8月24日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1. 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成21年8月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 絶縁筒と金属筒とを有し、気密封止された真空容器を備えた真空スイッチ管において、上記絶縁筒と上記金属筒との上記真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆い、滑らかな曲面を有する外表面を備え、上記接続部の周囲の電界強度を緩和する外部中間シールドを備え、上記外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って取り付けることにより周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られないようにする固定チューブを備えたことを特徴とする真空スイッチ管。」
なお、請求項1には「上記絶縁管外面」と記載されているが、該「上記絶縁管外面」の前方に絶縁管外面なる記載は存在せず、本願の図面【3】中符号「7」、「8」が付されている部分は、本願明細書【0023】で「絶縁筒7、8」及び「絶縁管7、8」と表現されているものであるので、「上記絶縁管外面」は「上記絶縁筒外面」の誤記と認め、本願発明を上記のように認定した。

2. 引用刊行物とその記載事項
(1)当審における平成21年6月18日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭57-80625号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「本発明に係る真空しや断器は、第1図に示すように、円筒状に形成された硬質ガラス,アルミナセラミツク等の無機絶縁物からなる複数(本実施例においては2個)の絶縁筒1,1を、両端に植設したコバール等からなるリング状の封着金具2,2およびリング状の取付金具3を介して同軸的に連結するとともに、連結した絶縁筒1,1の開口端を封着金具2,2を介して金属端板4,4により気密に閉塞し、かつ内部を高真空に排気して真空容器5を形成し、この真空容器5内には、一方(第1図において上方)の金属端板4の中央部から導入しかつ気密に固着した固定側電極棒6と、他方の金属端版4の中央部から固定側電極棒6に対して接近離反すべく軸方向(第1図において上下方向)へ進退自在に導入されかつベローズ7により他方の金属端版4に気密に装着した可動側電極棒8とにより支持された1対の電極9,10が接触離反自在に設けられている。」(第2頁右上欄第5行?左下欄第7行)
(イ)「真空容器5の外周における各外側のシールド15と対応する位置には、各外側のシールド15を同心状に囲曉するほぼ円筒状の外部シールド16,16が、基部を取付金具3に取付支持されて配置されている。各外部シールド16は、・・(中略)・・両シールド13,15間の等電位線が絶縁筒1の内面とほぼ直交するように電位分布を変更するためのもので、端部は電界集中を防止すべく外側方へ湾曲した断面ほぼ円形状に設けられている。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第11行)
(ウ)「真空容器5の外周には、第1,第2の外部シールド16,17を設けたことによりその耐電圧(沿面閃絡による)が低下するのを防止すべく、各外部シールド16,17を含めて・・(中略)・・レジンモールドが施される」(第3頁右下欄第1行?第7行)

ここで、主に上記記載事項及び図面から次のことが明らかである。
(a)記載事項(イ)の外部シールド16,16は、第1図において、絶縁筒1と真空容器の長手方向の中間に位置する封着金具2との接続部の外側の面を覆う態様で記載されているものであるので、真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部シールドと言える。
(b)記載事項(ウ)のレジンモールドは、「真空容器5の外周に」「耐電圧(沿面閃絡による)が低下するのを防止すべく、各外部シールド16,17を含めて」施されるものであって、真空容器の外周に外部シールドを含めて施されるものである以上、外部シールド16外面から絶縁筒外面に跨っても施されることが自明であるので、外部シールド16外面から絶縁筒外面に跨って施されるレジンモールドと言える。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。
「絶縁筒とリング状の封着金具2,2およびリング状の取付金具3とを有し、気密封止された真空容器を備えた真空しや断器において、上記絶縁筒とリング状の封着金具2,2およびリング状の取付金具3との上記真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部シールド16,16を備え、外部シールド16外面から絶縁筒外面に跨って施されるレジンモールドを備えた真空しや断器。」

(2)同じく当審における,平成21年6月18日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実願平3-25812号(実開平4-121634号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、真空インタラプタに関して図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(エ)「【0002】
【従来の技術】
しゃ断部に真空インタラプタを使用した開閉装置は一般的に知られており、そして真空インタラプタを絶縁媒体(ガス、空気、油)中に配置したり、固体絶縁物で包囲する、といった絶縁手段によって一層の小型縮小化を図った真空インタラプタ及び開閉装置を得ることが行われている。
・・(中略)・・
【0004】
図3で説明したような真空インタラプタは、前述したような絶縁配置手段によって各種開閉装置にしゃ断部として組み込まれ使用されるものであり、この種開閉装置の一例として図4に示すような開閉装置がある。・・(中略)・・上記のように配置構成された、上記主回路導体21、真空インタラプタ1、コンタクトケース22は、その外周部に絶縁ゴム、ゴムコンパウンド等からなる応力緩和層25を施し、そして全体をエポキシ樹脂等のモールド層26で一体化してしゃ断部2を構成している。」
(オ)「【0009】
・・(中略)・・2:真空インタラプタを包囲する絶縁物はモールド層、熱収縮チューブの如き固体絶縁物に限らず、絶縁媒体(ガス、空気、油)であっても差し支えない。・・(中略)・・
【0010】
【作用】
真空インタラプタの真空容器を形成する金属部材を導電性部材で覆って金属構成部材形状による凹凸形状を無くしたので、金属部材(例えば端版部分)での電界集中を緩和でき、耐電圧特性を向上できる。
【0011】
また、真空インタラプタを固体絶縁物で包囲した場合に、万一この部分に空隙が存在していたとしても部分放電は発生せず耐電圧特性を向上でき、しかも応力緩和層の設置は簡便となり、作業性が向上し、歩留まりも向上する。」
(カ)「【0016】
【考案の効果】
真空インタラプタの真空容器を形成する金属部材を導電性部材で覆って金属構成部材形状による凹凸を無くしたので・・(中略)・・耐電圧特性を向上でき、一層の小形縮小化が図れる。また、真空インタラプタを包囲して固体絶縁物層を設けた場合に、万一導電性部材を設けた部分に空隙が存在したとしても部分放電等の問題は発生せず耐電圧特性を向上でき、しかも応力緩和層の設置は簡便となり、作業性が向上し、歩留まりも向上する。」

3. 本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
・引用発明の「リング状の封着金具2,2およびリング状の取付金具3」、「真空しや断器」は、それぞれ本願発明の「金属筒」、「真空スイッチ管」に相当する。
・引用発明の「絶縁筒とリング状の封着金具2,2およびリング状の取付金具3との上記真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部シールド16,16」は、絶縁筒と金属筒との真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部中間シールドである点において、本願発明の「絶縁筒と上記金属筒との上記真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆い、滑らかな曲面を有する外表面を備え、上記接続部の周囲の電界強度を緩和する外部中間シールド」と共通する。
・引用発明の「外部シールド16外面から絶縁筒外面に跨って施されるレジンモールド」は、外部中間シールド外面から絶縁筒外面に跨って設けられる絶縁物である点において、本願発明の「外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って取り付けることにより周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られないようにする固定チューブ」と共通する。

(2)両発明の一致点
「絶縁筒と金属筒とを有し、気密封止された真空容器を備えた真空スイッチ管において、上記絶縁筒と上記金属筒との真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部中間シールドを備え、上記外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って設けられる絶縁物を備えた真空スイッチ管。」

(3)両発明の相違点
(ア)「真空容器の長手方向の中間に位置する接続部の外表面を覆う外部中間シールド」が、本願発明は「滑らかな曲面を有する外表面を備え、上記接続部の周囲の電界強度を緩和する外部中間シールド」であるのに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。
(イ)「外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って設けられる絶縁物」が、本願発明は「外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って取り付けることにより周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られないようにする固定チューブ」であるのに対して、引用発明は「レジンモールド」であって、「固定チューブ」でなく、「取り付けることにより周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られないようにする」との特定がなされていない点。

4. 容易想到性の検討
(1)相違点(ア)に関して、
まず、引用発明の外部シールド16,16(本願発明の「外部中間シールド」に相当)は、「2.(1)(a)」に記載したように「真空容器の長手方向の中間側の絶縁筒1と封着金具2との接続部の外側の面を覆う」形態のものである以上、該接続部の周囲の電界強度を緩和する外部中間シールドとして機能することは技術常識である。
さらに、引用発明の外部シールド16,16は、記載事項(イ)に「端部は電界集中を防止すべく外側方へ湾曲した断面ほぼ円形状に設けられている」と記載されているように、電界集中防止を意図した形状のものであり、電界集中を防止する形状として、滑らかな曲面を有する外表面のものが当業者に周知である以上、引用発明の外部シールドを該周知の形状として、相違点(ア)に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(2)相違点(イ)に関して、
刊行物2には、「2.(2)」の記載事項(オ)に摘記したように、真空インタラプタを包囲する絶縁物はモールド層、熱収縮チューブであっても良いことが記載されている。
そして、引用発明のレジンモールドと、刊行物2に記載の熱収縮チューブは絶縁物である点で共通するものであり、かつ、刊行物2には熱収縮チューブが、モールド層(引用発明の「レジンモールド」に対応するもの)と置き換え可能なものとして記載されており、かつ、熱収縮チューブによる包囲が、固定機能を有することも自明であるので、刊行物1記載のレジンモールドに代えて、刊行物2記載の熱収縮チューブを用いることは容易である。
さらに、該熱収縮チューブでの包囲に、本願明細書【0024】で「このような真空スイッチ管は、外部中間シールド16および絶縁管7、8の外側面を薄い固定チューブ17a、17bで固定しているので、突起物が見られないので、周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られない。」と言う所の、固定のための「突起物」が必要なものではないので、突起物が存在しない形態、すなわち、本願発明の「外部中間シールド外面から上記絶縁筒外面に跨って取り付けることにより周囲の構造物との間に大きな電界強度が見られないようにする固定チューブ」(なお、該記載は本願明細書【0023】【0024】を根拠としてなされた補正箇所である。)とすることにも困難性は認められない。
よって、相違点(イ)に係る構成とすることも、当業者であれば容易に想到し得たものである。

なお、請求人は、平成21年8月24日付け意見書において、「刊行物2の段落0004には従来の真空インタラプタが説明されていますが、その中で刊行物1に記載のように『外部シールド16を含めて真空容器の外周をレジンモールドする』だけでは『凹凸が生じている部分に部分放電が生じて、限界を超えた場合には、絶縁破壊を起こしてしゃ断不能にいたる』と問題提起しています。従って、刊行物1に記載のレジンモールドは電界集中を緩和する機能を果たすことはできないものと理解されます。
すなわち、刊行物2においては、導電性部材により表面の凹凸形状を無くしていますので、真空インタラプタを包囲する絶縁物は金属部材での電界集中を緩和する機能は期待されていません。
そこで、刊行物1記載のレジンモールドに代えて、刊行物2記載の導電性部材を用いることは当業者であれば容易に想到し得ると思われますが、絶縁物である刊行物2記載の熱収縮チューブを用いることは、当業者であっても容易には想到し得ないものと考えます。」旨主張しているが、まず、(a)刊行物2において熱収縮チューブを例示とした絶縁物は、記載事項(エ)で【従来の技術】としても取り扱われており、刊行物2において「導電性部材」を配する以前から「絶縁手段」として認識されているものであり、また、(b)引用発明のレジンモールドもエポキシ樹脂等の絶縁性の材料で構成されて、記載事項(ウ)の「外部シールド16,17を設けたことによりその耐電圧(沿面閃絡による)が低下するのを防止」するものであるので絶縁手段と認識されるものであるので、(c)両者が絶縁という機能の点で共通し、かつ、置き換え可能なものとして記載されている以上、意見書の主張を検討しても刊行物1記載のレジンモールドに代えて、刊行物2記載の熱収縮チューブを用いることに特段の困難性が存在するようなものとはいえない。

(3)総合判断
そして、本願発明の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の事項、上記周知技術から、当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の事項、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5. むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-29 
出願番号 特願2002-348241(P2002-348241)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片岡 功行  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 中川 真一
渡邉 洋
発明の名称 真空スイッチ管  
代理人 大宅 一宏  
代理人 古川 秀利  
代理人 上田 俊一  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  

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