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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1207160
審判番号 不服2008-15444  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 特願2003-368525「転写部材および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-134509〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、平成15年10月29日の出願であって、平成19年9月3日付の拒絶理由通知に対して、同年11月1日付で手続補正書が提出され、平成20年1月9日付で通知した最後の拒絶理由通知に対して、同年3月12日付で手続補正書が提出され、同年4月18日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月18日付で手続補正がなされ、その後、審判において平成21年4月1日付で通知した審尋に対して同年5月29日付で回答書が提出されたものである。


2 平成20年7月18日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月18日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成20年3月12日付で補正された本願の特許請求の範囲、請求項1は、審判請求時の本件補正により、

「 転写機構部の転写部材が複数の導電性部材から構成されており、
電流10μAを発生させる前後の電圧を比較電圧V1及び比較電圧V2(=2×V1)とし、比較電圧V1における抵抗値R(V1)及び比較電圧V2における抵抗値R(V2)に基づき、ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)により電気抵抗の電圧依存度ΔRを定義すると、
上記複数の導電性部材の内、トナー像担持体に接触する導電性部材は、導電性ポリマーを8?40[wt%]添加して得られたポリウレタン樹脂からなると共に、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.34であり、
上記複数の導電性部材の内、トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材は、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.63≦ΔR≦0.8であり、
トナー像担持体に接触する上記導電性部材と、トナー像担持体との間に適切なニップを確保する上記導電性部材との合成電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.62である
ことを特徴とする画像形成装置。」
と補正された。
なお、本件補正後の請求項1に記載された発明を、以下「本願補正発明1」という。

上記補正は、その補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トナー像担持体に接触する導電性部材」について、該部材を「導電性ポリマーを8?40[wt%]添加して得られたポリウレタン樹脂からなる」ものに限定するものであるので、該補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、本件補正は、本件補正がなされる前の請求項3、5においても、これら請求項3、5に記載の発明の特定に必要な事項である「トナー像担持体に接触する導電性部材」について上記と同様な限定を加えるものであり、これらの補正も特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
なお、以下本件補正後の請求項3、5に記載された発明を、「本願補正発明3」、「本願補正発明5」という。

そこで、「本願補正発明1」、「本願補正発明3」及び「本願補正発明5」が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)独立特許要件について
本願明細書の特許請求の範囲、請求項1には、「電気抵抗の電圧依存度ΔR」という語に対して「電流10μAを発生させる前後の電圧を比較電圧V1及び比較電圧V2(=2×V1)とし、比較電圧V1における抵抗値R(V1)及び比較電圧V2における抵抗値R(V2)に基づき、ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)により電気抵抗の電圧依存度ΔRを定義する」という規定が設けられ、その後に、「トナー像担持体に接触する導電性部材は、・・・(略)・・・電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.34であり、」、「トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材は、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.63≦ΔR≦0.8であり、」、「トナー像担持体に接触する上記導電性部材と、トナー像担持体との間に適切なニップを確保する上記導電性部材との合成電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.62である」という記載が続き、これらの記載により前記の各部材及び組合せ部材はそれらの電気抵抗の電圧依存度ΔRにより規定されることが示されている。

そこで、前記請求項1において複数箇所に記載された「電気抵抗の電圧依存度ΔR」が、明確に特定されたものであるのかどうかについて検討する。

前記請求項1は、「電気抵抗の電圧依存度ΔR」の算出式を示すが、式中のV1(比較電圧)というパラメータは、電流10μAを発生させる前の電圧(領域)におけるどの点を意味するのか特定されておらず、比較電圧V1と比較電圧V2(=2×V1)が、具体的にどういう電圧を意味するのか明らかでないため、比較電圧V1における抵抗値R(V1)及び比較電圧V2における抵抗値R(V2)を特定の値に定めることができない。
つまり、一つの部材について、比較電圧V1の値を種々に選ぶことができるのでV1とV2(=2×V1)の値における電気抵抗値から計算される「電気抵抗の電圧依存度ΔR」は一つの値にはならない。
比較電圧V1を、電流10μAを発生させる前の電圧(領域)のどの値にするかによってΔRが異なることは、前記の「トナー像担持体に接触する導電性部材」及び「トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材」の電気抵抗が電圧依存性であること、印加電圧の上昇に対し転写電流の変化が曲線となること(本願図面欄の図12、14等参照)から明らかである。

ΔRに関して、請求人は、請求の理由において、
「[3-3-2]しかしながら、10μAの電流値を発生させるための電圧は、導電性部材が特定されれば、一義的に決定されるものです。また、V1およびV2(=2×V1)は、10μAの電流値を発生させる電圧の前後の電圧として特定されるものです。
例えば、図14及び図15に示した転写搬送ベルトPU(1)を例にとって説明しますと、10μAの電流値を発生させる電圧は494[V]であり、この494[V]の前後に(すなわち494Vからの隔たりが比較的小さくなるように)V1およびV2(=2×V1)を設定すると、V1=330[V]、V2=660[V]となります。
もちろん、例えばV1=350[V]、V2=700[V]といった別の設定も可能ですが、このように設定したとしても、ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)の値がほぼ同じであることは、図14の曲線から理解されると考えます。」と主張している。
また、請求人は、平成21年5月29日付の回答書においては、「審査官のご指摘の通り、比較電圧V1、V2はそれぞれ複数の値を取り得るものですが、V1、V2の範囲は、10μAの電流値を発生させる電圧に基づいて定まりますので、当該範囲の比較電圧に基づいて電圧依存度ΔRを規定することができます。」(2頁13?17行)と主張するが、そのことを裏付ける具体的根拠は何も示していない。

上記主張につき検討する。
請求人は、10μAの電流値を発生させる電圧は494[V]である場合において、V1=330[V]、V2=660[V]と設定しても、V1=350[V]、V2=700[V]と設定しても、ΔRの値がほぼ同じであると主張するが、「電流10μAを発生させる前後の電圧を比較電圧V1及び比較電圧V2(=2×V1)とし、比較電圧V1における抵抗値R(V1)及び比較電圧V2における抵抗値R(V2)に基づき、ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)により電気抵抗の電圧依存度ΔRを定義する」とあるとおり、V1、V2の設定は、「電流10μAを発生させる前後の電圧」であって、「494Vからの隔たりが比較的小さくなるように」などの定義はないから、任意に設定できるものである。
そうすると、例えば、V2が494Vに近い設定(V1=250[V]、V2=500[V])と、V1が494Vに近い設定(V1=490[V]、V2=980[V])とで、「ΔRの値がほぼ同じ」といえないことは、明らかである。
また、仮に、「ΔRの値がほぼ同じ」といえるような近い値であったとしても、ある値の比較電圧V1、V2(=2×V1)の組により、ΔRが、0.05≦ΔR≦0.34を満たしても、他の比較電圧V1、V2(=2×V1)の組において、ΔRが、0.05≦ΔR≦0.34を満たさないこともあり得るから、前記の式ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)は一つの部材について、特定の一つのΔR値が得られることを定義していない。

したがって、前記請求項1に記載の「電気抵抗の電圧依存度ΔR」は、特定された物性であるとはいえず、また同じく請求項1記載の「トナー像担持体に接触する導電性部材」と「トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材」はΔRによって規定されているからこれらも特定されたものであるとはいえず、「本願補正発明1」は、特許を受けようとする発明が明確でない。

「本願補正発明3」と「本願補正発明5」も、発明の特定事項として電気抵抗の電圧依存度ΔR、ΔRによって規定される導電性部材を含むので、上記と同じ理由により、特許を受けようとする発明が明確でない。

よって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、「本願補正発明1」、「本願補正発明3」及び「本願補正発明5」は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3 本願発明について
平成20年7月18日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲、請求項1?6に係る発明は、平成20年3月12日付の手続補正書の特許請求の範囲、請求項1?6に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」と言う。)は次のとおりである。

「転写機構部の転写部材が複数の導電性部材から構成されており、
電流10μAを発生させる前後の電圧を比較電圧V1及び比較電圧V2(=2×V1)
とし、比較電圧V1における抵抗値R(V1)及び比較電圧V2における抵抗値R(V2)に基づき、ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)により電気抵抗の電圧依存度ΔRを定義すると、
上記複数の導電性部材の内、トナー像担持体に接触する導電性部材は、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.34であり、
上記複数の導電性部材の内、トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材は、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.63≦ΔR≦0.8であり、
トナー像担持体に接触する上記導電性部材と、トナー像担持体との間に適切なニップを確保する上記導電性部材との合成電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.62であることを特徴とする画像形成装置。」

4 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由は、平成20年1月9日付で通知した拒絶理由の理由1、Aであり、その内容は次のとおりである。
(なお、原査定の拒絶理由に記載した請求項7、8、9、11は、平成20年3月12日付で補正された特許請求の範囲の請求項1、2、3、5にそれぞれ対応する。)

「理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


A.請求項1には、「トナー像担持体に接触する導電性部材であって、電気抵抗の電圧依存度ΔRが0.05≦ΔR≦0.34である導電性部材」と記載されているが、例えば、発明の詳細な説明の図9等からわかるように電圧依存度ΔRは比較の際に印加する電圧に依存するので、印加する電圧をなんら規定しない電圧依存度により規定された導電性部材を物として特定することができない。
また、電気抵抗値は測定の仕方により値が異なるので、測定の仕方を規定しない電気抵抗値により定義される電圧依存度ΔRは明確ではない。
請求項5、7、8、9、11にも同様の理由がある。」


5.当審の判断
本願明細書(平成20年3月12日付の補正明細書)の特許請求の範囲、請求項1(補正前の請求項7に対応する。)には、「電気抵抗の電圧依存度ΔR」について「ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)」の式を含む規定が加えられた。
しかし、 本願明細書の請求項1に記載の「ΔR=(R(V1)-R(V2))/R(V1)」の式を含む「電気抵抗の電圧依存度ΔR」の規定、「トナー像担持体に接触する導電性部材」と「トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材」の電気抵抗の電圧依存度ΔR、これらの組合せ部材の合成電気抵抗の電圧依存度ΔRが一定範囲であるとする規定は、本願の審判請求時の手続補正により補正された請求項1における記載と同じである。

したがって、本願の請求項1に記載の「電気抵抗の電圧依存度ΔR」は、上記の2[理由]「(2)独立特許要件について」に記載したのと同様の理由により、特定された物性であるとはいえず、同じく請求項1記載の「トナー像担持体に接触する導電性部材」と「トナー像担持体との間に適切なニップを確保する導電性部材」はΔRによって規定されているからこれらも特定されたものであるとはいえず、「本願発明1」は、特許を受けようとする発明が明確でない。

また、本願明細書(平成20年3月12日付の補正明細書)の請求項2、3、5(補正前の請求項8、9、11に対応する。)に記載された発明も、上記と同じ理由により、特許を受けようとする発明が明確でない。


6 むすび
以上のとおりであり、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-11 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2003-368525(P2003-368525)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 目黒 光司中澤 俊彦  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 紀本 孝
一宮 誠
発明の名称 転写部材および画像形成装置  
代理人 山形 洋一  
代理人 前田 実  
代理人 篠原 昌彦  

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