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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1207238
審判番号 不服2006-18655  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-25 
確定日 2009-11-11 
事件の表示 特願2002-277260「フラッシュメモリセルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月11日出願公開、特開2003-197782〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年9月24日(パリ条約による優先権主張、2001年12月22日、韓国)の出願であって、平成18年6月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成20年11月11日付けで審尋がなされ、平成21年2月17日に回答書が提出されたものである。

第2.拒絶理由通知、意見書、拒絶査定及び審判請求書の概要
1.原審における平成18年2月17日付けの拒絶理由通知(以下、「拒絶理由通知」という。)の概要

「3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(略)

(略)
請求項1-7
理由3:
本願の請求項1には、単に、「イオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」と記載されているため、以下のような発明まで含む物と判断せざるを得ない。
(1)トレンチ絶縁膜の側面にドープされるもののみならず、トレンチ絶縁膜の上面にのみドープしているものまで含むものと判断せざるを得ない。
(2)イオン注入する不純物として、請求項5で記載された不純物のみならず、例えば、シリコンをイオン注入する工程まで含まれるものと判断せざるを得ない(シリコンを注入すると、エッチング速度が小さくなってしまい、本願発明と矛盾するものと認められる(引用文献3の発明の実施形態参照))。
しかしながら、上記(1)及び(2)の場合には、本願発明の作用・効果を奏しないことは明らかであるから、そのような本願発明の作用・効果を奏さない発明については、本願の発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
また、本願の請求項1を引用する他の請求項についても同様である。
なお、請求項2における記載についても、(1)については、不十分である点に注意されたい。(「パッド酸化膜上に形成された部位にのみ行われる」という記載では、トレンチ絶縁膜の上面にのみドープする場合が含まれてしまう。)
また、(2)については、請求項5に限定することにより、当該拒絶の理由が解消するものと認められる。」

2.原審における平成18年5月22日付けの意見書(以下、「意見書」という。)の概要

「2.補正の概要及び根拠
(1)補正後の請求項1は、出願時の請求項1を限定したものです。
第1平坦化工程を行って前記トレンチ絶縁膜を孤立させる段階が、「前記トレンチ形成後、全体構造上にトレンチ絶縁膜を形成した後、」に行われることは、出願時の明細書の段落番号〔0011〕?〔0015〕及び図1?図3の記載に基づくものです。
前記パッド窒化膜を除去して前記トレンチ絶縁膜の突出部を露出させる段階が、「前記第1平坦化工程後」に行われることは、出願時の明細書の段落番号〔0016〕、〔0017〕及び図3の記載に基づくものです。
前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階が、「前記パッド窒化膜除去後」に行われることは、出願時の明細書の段落番号〔0017〕、〔0018〕及び図3、図4の記載に基づくものです。
前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階が、「前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って」行われることは、出願時の明細書の段落番号〔0017〕?〔0020〕及び図3、図4の記載に基づくものです。
「洗浄工程を行って前記パッド酸化膜および前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする」ことは、出願時の明細書の段落番号〔0021〕及び図4(b)の記載に基づくものです。
(2)補正後の請求項2は、出願時の請求項2を限定したものです。
イオン注入工程が、「前記トレンチ絶縁膜の突出部の側面のみにイオンを注入する」ことは、出願時の明細書の段落番号〔0017〕?〔0019〕及び図4(a)の記載に基づくものです。
(3)補正後の請求項4は、出願時の請求項4を限定したものです。
イオン注入工程が、「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」ことは、出願時の明細書の段落番号〔0018〕?〔0019〕及び図4(a)の記載に基づくものです。
(4)補正後の請求項5は、出願時の請求項5の誤記を訂正したものです。
(略)
4.[理由3]に対して
引用文献1は、基板全面にイオンを注入するので、酸化膜43の間の基板上にもイオンが注入されます。一方、本願発明はトレンチ絶縁膜のみにイオンを 注入するので、トレンチ絶縁膜突出部の間の基板及び基板上のパッド酸化膜12上にはイオンが注入されないという差異があります。
また、引用文献3においても基板全面にイオンを注入するので、絶縁膜側面にイオンが注入されない一方、本願発明ではトレン絶縁膜の突出部のみにイオンをイオンを注入するので、トレンチ絶縁膜突出部側面にイオンが注入されるという差異があります。
上記の通り、引用文献1ないし3、いずれにもパッド窒化膜除去後トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を実施し、イオン注入工程後にパッド酸化膜をとり除く段階に関する記載を見出すことができないので、本願発明の補正された請求項1項は周知技術ではないことはもちろん、引用文献等に記載された発明と具現方法が違うので、登録可能だと所存されます。したがって、本願発明の請求項1の従属項である第2項ないし7項をも登録可能だと所存されます。」

3.原審における平成18年6月7日付けの拒絶査定(以下、「拒絶査定」という。)の概要

「この出願については、平成18年 2月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由3によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

備考
・請求項1?7について
拒絶理由通知において通知したとおり、「突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」という記載のみでは、例えば、突出部の上面のみにドープすることが含まれてしまうため(例えば、基板に垂直にイオン注入する工程)、当該工程では、本願発明の作用・効果を奏さないことは明らかである。
よって、本願の請求項1乃至7に係る発明は、依然として特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであるから、拒絶すべきものである。
・請求項1?4,6,7について
拒絶理由通知において通知したとおり、イオン注入するための不純物として、「シリコン」が含まれることは明らかであり、当該工程では、本願発明の作用・効果を奏さないことも明らかである。
よって、本願の請求項1?4,6,7に係る発明は、依然として特許法第36条第6項1号の規定に違反するものであるから、拒絶すべきものである。」

4.平成18年8月25日付けの審判請求書(以下、「審判請求書」という。)の概要

「【本願発明が特許されるべき理由】
(1)補正の概要及び根拠
本日別途提出した特許請求の範囲を補正致しました。
(i)補正後の請求項1は、補正前の請求項1を限定したものです。
「前記トレンチ絶縁膜の突出部のモウトが発生する部位を除いた部位にホウ素、燐及び砒素のうちいずれか一つのイオンを利用してイオン注入工程を行」うことは、補正前の明細書中〔0018〕?〔0020〕、図4の記載に基づくものです。
「前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜をエッチングすると同時に、前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする」ことは、補正前の明細書中〔0020〕?〔0021〕、図4の記載に基づくものです。
(ii)補正前の請求項2は削除しました。
(iii)補正後の請求項3は、補正前の請求項4を限定したものです。
「前記イオン注入工程は前記基板平面に対して0°より大きく80°未満のイオン注入角で行われる」ことは、補正前の明細書中〔0019〕、図4の記載に基づくものです。 ここで、角度の基準は出願当初明細書に明記されていませんが、このような角度とした目的として「隣接しているトレンチ絶縁膜24の突出部を遮蔽層として用いることにより、トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンを注入させる」ことが記載されていることから、このような角度の基準は「基板平面」を基準としているといえます。
また、出願時の明細書には、「イオン注入角を0°?80°範囲」としていましたが、0°では、真横からのイオン注入となってしまい、突出部にイオン注入できないこととなってしまいます。従って、作用から考えて、「イオン注入角を0°?80°範囲」は、0°を含まない、「0°より大きく80°未満」を意図した記載であるといえます。

(2)拒絶理由3に対して
(i)上記の補正により、トレンチ絶縁膜の上面にのみドープしているものは、含まないことを明確にしました。
(ii)上記の補正により、イオン注入する不純物を、「ホウ素、燐及び砒素のうちいずれか一つのイオン」に限定することで、「シリコン」を含まないことを明確にしました。」

第3.平成18年8月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月25日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、明細書の0006段落を補正するとともに、補正前の請求項1ないし7のうち請求項2を削除し、補正前の請求項1,3ないし7を、それぞれ、補正後の請求項1ないし6と補正するものであって、補正前の請求項1及び4,補正後の請求項1及び3は以下のとおりである。

(補正前の請求項1)
【請求項1】 半導体基板上にパッド酸化膜及びパッド窒化膜を形成する段階と、
前記半導体基板にトレンチを形成する段階と、
前記トレンチ形成後、全体構造上にトレンチ絶縁膜を形成した後、第1平坦化工程を行って前記トレンチ絶縁膜を孤立させる段階と、
前記第1平坦化工程後、前記パッド窒化膜を除去して前記トレンチ絶縁膜の突出部を露出させる段階と、
前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階と、
前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜および前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階と、
全体構造上に第1ポリシリコン層を形成した後、第2平坦化工程を行って、孤立したフローティングゲートを形成する段階と、
全体構造上に誘電体膜及び第2ポリシリコン層を形成した後、エッチング工程を行ってコントロールゲートを形成する段階とを含んでなることを特徴とするフラッシュメモリセルの製造方法。」
(補正前の請求項4)
「【請求項4】 前記イオン注入工程は前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】 半導体基板上にパッド酸化膜及びパッド窒化膜を形成する段階と、
前記半導体基板にトレンチを形成する段階と、
前記トレンチ形成後、全体構造上にトレンチ絶縁膜を形成した後、第1平坦化工程を行って前記トレンチ絶縁膜を孤立させる段階と、
前記第1平坦化工程後、前記パッド窒化膜を除去して前記トレンチ絶縁膜の突出部を露出させる段階と、
前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部のモウトがよく発生する部位を除いた部位にホウ素、燐及び砒素のうちいずれか一つのイオンを利用してイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階と、
前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜をエッチングすると同時に、前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階と、
全体構造上に第1ポリシリコン層を形成した後、第2平坦化工程を行って、孤立したフローティングゲートを形成する段階と、
全体構造上に誘電体膜及び第2ポリシリコン層を形成した後、エッチング工程を行ってコントロールゲートを形成する段階とを含んでなることを特徴とするフラッシュメモリセルの製造方法。」
(補正後の請求項3)
「【請求項3】 前記イオン注入工程は、前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行うことを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。」

2.補正内容の整理
(1)補正事項1
補正前の請求項2を削除し、補正前の請求項3ないし7を、補正後の請求項2ないし6に繰り上げること。
(2)補正事項2
補正前の請求項1の「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」を、補正後の請求項1の「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部のモウトがよく発生する部位を除いた部位にホウ素、燐及び砒素のうちいずれか一つのイオンを利用してイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」と補正すること(補正事項2-1)及び、補正前の請求項1の「前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜および前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階」を、補正後の請求項1の「前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜をエッチングすると同時に、前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階」と補正すること(補正事項2-2)。
(3)補正事項3
補正前の請求項4の「前記イオン注入工程は前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」を、補正後の請求項3の「前記イオン注入工程は、前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行うこと」と補正すること、言い換えると、補正前の請求項4の「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」を削除し、補正後の請求項3の「、前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行う」を追加すること。

3.補正事項3についての補正の目的について
(1)上記2.(3)に記載したとおり、補正事項3についての補正は、補正前の請求項4の「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」を削除し、補正後の請求項3の「、前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行う」を追加するものである。
(2)本願の出願当初の明細書には、イオンを注入する角度(イオン注入角)について、「【請求項4】 前記イオン注入工程は0?360°の回転範囲で0?80°のイオン注入角で行われることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。」、及び「【0018】図4(a)を参照すると、全体構造上にマスクを形成していない状態でイオン注入角を0?80°に設定して比較的ハイチルト(High tilt)にしてイオン注入工程を行うことにより、トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンが注入される。 【0019】これはイオン注入工程時にイオン注入角を0?80°範囲で設定するとともにより(Twist)角度を0?360°の範囲で設定し、隣接しているトレンチ絶縁膜24の突出部を遮蔽層として用いることにより、トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンを注入させることが可能だからである。」との記載がある。
(3)補正前の請求項4に記載される、イオン注入角についての記載である「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」の「垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」は、上記(2)に摘記した本願の出願当初の明細書の「イオン注入角」についての記載(「0?80°」)と整合しておらず、本願の出願当初の明細書に記載されたものとは言えない。
また、半導体技術分野において、イオン注入での注入角度は、半導体表面からの法線を基準として表示することが技術常識であることを考慮しても、本願の明細書に記載される「0?80°」は、半導体表面からの法線を基準として、「0?80°」の角度範囲であると解せられるのであって、上記(2)で摘記した本願明細書の「イオン注入角」についての記載(「0?80°」)を、補正前の請求項4の「垂直線から10°ないし90°のイオン注入角」であると解することは、半導体技術分野の技術常識とも矛盾するものである。
(4)なお、請求人は、審判請求書において、
「iii)補正後の請求項3は、補正前の請求項4を限定したものです。
「前記イオン注入工程は前記基板平面に対して0°より大きく80°未満のイオン注入角で行われる」ことは、補正前の明細書中〔0019〕、図4の記載に基づくものです。 ここで、角度の基準は出願当初明細書に明記されていませんが、このような角度とした目的として「隣接しているトレンチ絶縁膜24の突出部を遮蔽層として用いることにより、トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンを注入させる」ことが記載されていることから、このような角度の基準は「基板平面」を基準としているといえます。
また、出願時の明細書には、「イオン注入角を0°?80°範囲」としていましたが、0°では、真横からのイオン注入となってしまい、突出部にイオン注入できないこととなってしまいます。従って、作用から考えて、「イオン注入角を0°?80°範囲」は、0°を含まない、「0°より大きく80°未満」を意図した記載であるといえます。」
と主張している。
しかしながら、請求人は、上記主張においても、「角度の基準は出願当初明細書に明記されていません」と認め、また、補正前の請求項4の「垂直線から10°ないし90°のイオン注入角」が、本願の出願当初の明細書又は図面に記載されていると主張するものでなく、「垂直線から10°ないし90°のイオン注入角」なる記載が、本願の出願当初の明細書の記載と整合しないことは、上記(3)で検討したとおりであって、さらに、審判請求書においては、補正後の請求項3の「前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行う」ことが、補正前の請求項4の「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」ことを限定するものである旨の根拠を示した主張はなされていないから、請求人の主張は採用できない。

さらに、請求人は、平成21年2月17日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、補正前の請求項4を補正後の請求項3とする補正を含む、審判請求時の手続補正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると主張している。しかしながら、拒絶査定の追って書き(「以下は、拒絶査定の理由を構成するものではない。」の下)においては、「・本願の請求項4では、「イオン注入工程は、前記基板表面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」という補正がなされているが、当該補正は、当初明細書及び図面に記載されたものとは認められない(当初明細書には、角度の基準となる基準線の定義はなされていない。なお、仮に、垂直線から90°を選択した場合には、真横からのイオン注入となってしまい、フラッシュメモリセルの内側の突出部には、イオン注入できないものと認められる。すなわち、基板上の最外周にある突出部にのみイオン注入されるのではないか?)。」と記載されており、ここで、上記「追って書き」において判断されているのは、補正前の請求項4の「イオン注入工程は、前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」が本願の出願当初の明細書又は図面に記載されていない(特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない)ということであって、補正前の請求項4の「イオン注入工程は、前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」との構成が明確でない(特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない)ということではない。
したがって、請求人の回答書における、補正事項3についての補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的としているとの主張は、採用することができない。

(5)補正後の請求項3の「前記トレンチ絶縁膜の突出部に隣接しているトレンチ絶縁膜の突出部を遮蔽層として用いて行う」ことに関して、本願の出願当初の明細書の【0019】段落には、「これはイオン注入工程時にイオン注入角を0?80°範囲で設定するとともにより(Twist)角度を0?360°の範囲で設定し、隣接しているトレンチ絶縁膜24の突出部を遮蔽層として用いることにより、トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンを注入させることが可能だからである。」と記載されている。
ここで、補正後の請求項3が引用する補正後の請求項1の「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部のモウトがよく発生する部位を除いた部位に」「イオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」に対応するのは、上記【0019】段落の「トレンチ絶縁膜24の突出部のうち、モウトがよく発生する部位Aを除いた部位のみにイオンを注入させる」段階であるが、そのための要件として、本願の明細書の【0019】段落においては、「イオン注入工程時に」、(a)「イオン注入角を0?80°範囲で設定する」こと、(b)「より(Twist)角度を0?360°の範囲で設定」すること、及び(c)「隣接しているトレンチ絶縁膜24の突出部を遮蔽層として用いること」を挙げている。
しかしながら、補正後の請求項3に発明特定事項として記載されているのは、上記(c)のみであり、上記(a)、(b)のいずれも記載されておらず、補正前の請求項4に記載の「前記イオン注入工程は前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」(上記(a)に相当すると請求人が主張しているもの)が、上記(c)に対応するものでないことも明らかである。
したがって、仮に、補正前の請求項4に記載される「垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われること」が上記(a)に相当するとしても、上記(a)ないし(c)の内の、(a)と(c)が概念の異なるものであることは明らかであって、上記(a)の要件に相当すると請求人が主張する、補正前の請求項4の「前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われる」を削除し、補正後の請求項3に上記(c)に対応する要件を構成として追加することは、概念の異なる構成を差し替えるものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの目的にも該当しないことは明らかである。

4.むすび
以上のとおりであるから、補正事項1及び2についての補正について検討するまでもなく、補正事項3についての補正を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4.本願の明細書について
平成18年8月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の明細書および図面は、平成18年5月22日付けの手続補正により補正された明細書および図面であって、その特許請求の範囲に記載される、請求項1ないし7は以下のとおりである。

「 【請求項1】 半導体基板上にパッド酸化膜及びパッド窒化膜を形成する段階と、
前記半導体基板にトレンチを形成する段階と、
前記トレンチ形成後、全体構造上にトレンチ絶縁膜を形成した後、第1平坦化工程を行って前記トレンチ絶縁膜を孤立させる段階と、
前記第1平坦化工程後、前記パッド窒化膜を除去して前記トレンチ絶縁膜の突出部を露出させる段階と、
前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階と、
前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜および前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階と、
全体構造上に第1ポリシリコン層を形成した後、第2平坦化工程を行って、孤立したフローティングゲートを形成する段階と、
全体構造上に誘電体膜及び第2ポリシリコン層を形成した後、エッチング工程を行ってコントロールゲートを形成する段階とを含んでなることを特徴とするフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項2】 前記イオン注入工程は、前記トレンチ絶縁膜の突出部の側面のみにイオンを注入することを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項3】 前記パッド酸化膜は前記イオン注入工程時に半導体基板の上部表面を保護するための保護膜として使用されることを特徴とする請求項2記載のフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項4】 前記イオン注入工程は前記基板平面に対して垂直線から10°ないし90°のイオン注入角で行われることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項5】 前記イオン注入工程は、1E10?1E13ions/cm^(2)のドーズを有する硼素、リン及び砒素のいずれかイオンを用いて2?5KeVの低いイオン注入エネルギーで行われることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項6】 前記洗浄工程はHFとNH_(4)OHが所定の比率で混合された溶液を用いて250秒?550秒間行うウェットエッチング方式であることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。
【請求項7】 前記洗浄工程はHFを用いたドライエッチング方式であることを特徴とする請求項1記載のフラッシュメモリセルの製造方法。」

第5.当審の判断
1.原審における拒絶理由通知において、本願の請求項1ないし7は、以下の理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと指摘している。

「本願の請求項1には、単に、「イオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」と記載されているため、以下のような発明まで含む物と判断せざるを得ない。
(1)トレンチ絶縁膜の側面にドープされるもののみならず、トレンチ絶縁膜の上面にのみドープしているものまで含むものと判断せざるを得ない。
(2)イオン注入する不純物として、請求項5で記載された不純物のみならず、例えば、シリコンをイオン注入する工程まで含まれるものと判断せざるを得ない(シリコンを注入すると、エッチング速度が小さくなってしまい、本願発明と矛盾するものと認められる(引用文献3の発明の実施形態参照))。
しかしながら、上記(1)及び(2)の場合には、本願発明の作用・効果を奏しないことは明らかであるから、そのような本願発明の作用・効果を奏さない発明については、本願の発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
また、本願の請求項1を引用する他の請求項についても同様である。」

2.拒絶理由の(1)について
イオン注入について、請求項1には、「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」と記載されている。
請求項1の「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」においては、「前記トレンチ絶縁膜の突出部」のどの部分にドープするかについて何ら限定がされていないので、拒絶理由通知で指摘したとおり、「トレンチ絶縁膜の上面にのみドープしているものまで含むものと判断せざるを得」ない。そして、「トレンチ絶縁膜の上面にのみドープ」された場合には、その後の、「前記イオン注入工程後、洗浄工程を行って前記パッド酸化膜および前記トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅にエッチングする段階」において、「トレンチ絶縁膜の突出部」の側面と、「モウトがよく発生する部位A」とのエッチング速度はほぼ同等であるので、本願の明細書の【0026】段落及び【0027】段落に記載される「本発明は、トレンチ絶縁膜の突出部を所定の幅のニップル状にエッチングするための洗浄工程前にイオン注入工程を行って、トレンチ絶縁膜の突出部のうちモウトの発生する部位を除いた部位のエッチング率を増加させることにより、トレンチ絶縁膜のモウト発生を抑制し且つフローティングゲートのスペーシングを最適化することが可能なパターンを形成することができる。」、「本発明は、イオン注入工程を行ってモウト発生を防止することにより、後続工程でトンネル酸化膜が薄く形成されることを防止することができる。」との作用効果が奏せられないことは、当業者にとって明らかである。
したがって、請求項1に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、請求項1を引用する請求項3,5ないし7に係る発明も、同様な理由により、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

3.拒絶理由の(2)について
イオン注入について、請求項1には、「前記パッド窒化膜除去後、前記トレンチ絶縁膜の突出部にイオン注入工程を行って前記トレンチ絶縁膜の突出部をドープさせる段階」と記載されているが、何をイオン注入するか、どの程度の量及びエネルギーでドープするかについて何ら記載されていない。
これに対し、拒絶理由通知では、「(2)イオン注入する不純物として、請求項5で記載された不純物のみならず、例えば、シリコンをイオン注入する工程まで含まれるものと判断せざるを得ない(シリコンを注入すると、エッチング速度が小さくなってしまい、本願発明と矛盾するものと認められる(引用文献3の発明の実施形態参照))。」と指摘している。
ここで、拒絶理由通知で引用文献3として引用した特開平11-121607号公報には、図2とともに、「【0014】CVD酸化膜6をトレンチ溝5の内部に埋め込んだ後、CMP法によって、CVD酸化膜6をストッパーであるCVD窒化膜3が顕われるまで平坦化する(図2(a))。この後、基板全面にシリコンをドーズ量4×10^(14)乃至9×10^(15)atoms/cm^(2)で、注入エネルギーは10乃至30keVでイオン注入する。シリコンイオン注入は酸化膜中でのシリコン濃度が%オーダーになる程度注入する。尚、この条件でのシリコンイオン注入によって、CVD酸化膜6中にその表面からおよそ30乃至80nmの厚さに渡って、シリコンを1乃至10%過剰に含むシリコン注入層8が形成される(図2(b))。続いて、ストッパーであったCVD窒化膜3をリン酸系のエッチング液で剥離する(図2(c))。 【0015】この状態で、基板全体を温度900℃の窒素雰囲気中で、10乃至60分間程度の熱処理を行う。この熱処理は、トレンチ溝5内のCVD酸化膜6中にイオン注入されたシリコンのCVD酸化膜6の中での結合を確実にする目的で行う。・・・この後、ふっ酸系のエッチング液でパッド酸化膜2を除去するが、この時、トレンチ溝5内のCVD酸化膜6は、その表面にシリコン注入CVD酸化膜層8があるため、ふっ酸系のエッチング液に対するエッチングレートが小さくなり、従来の製造方法で問題となっていたトレンチの肩部でのCVD酸化膜6の膜減りを防ぐことができる(図2(d))。」と記載されている。
請求項1の、イオン注入をするための上記段落において、シリコンをイオン注入すると、シリコンが注入された部分では、引用文献3の上記記載に従えば、むしろ、エッチング速度が遅くなり、イオン注入した部分のエッチング速度(エッチング率)を増加することはできないから、上記2.で引用した本願の明細書の【0026】段落及び【0027】段落に記載される作用効果が奏せられないことは、当業者にとって明らかであり、また、引用文献3でのイオン注入の量及びエネルギーが本願の明細書に記載されるイオン注入の量及びエネルギーと相違するとしても、請求項1には、イオン注入の量及びエネルギーのいずれについても記載されていないから、本願の明細書に記載される作用効果が、請求項1に係る発明により奏せられないことは明らかである。
したがって、請求項1に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、請求項1を引用する請求項2ないし4,6及び7に係る発明も、同様な理由により、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-17 
結審通知日 2009-06-23 
審決日 2009-06-26 
出願番号 特願2002-277260(P2002-277260)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松嶋 秀忠  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 廣瀬 文雄
安田 雅彦
発明の名称 フラッシュメモリセルの製造方法  
代理人 中川 裕幸  

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