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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1207249
審判番号 不服2007-33294  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-10 
確定日 2009-11-11 
事件の表示 特願2001-311366「電子写真プリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月25日出願公開、特開2003-122095〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成13年10月9日の出願であって、「電子写真プリンタ」に関するものである。
そして、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成19年5月7日付けの手続補正書によって補正された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
可変の帯電電圧を発生可能な帯電用電源と、この帯電用電源が発生した帯電電圧が印加される帯電ローラと、この帯電ローラによって帯電させられる感光体ドラムと、帯電させられた感光体ドラムを除電する除電手段と、前記帯電用電源と帯電ローラとの間を流れる帯電電流の値を検出する帯電電流観測手段と、前記帯電用電源が発生する帯電電圧、感光体ドラムの回転のオン・オフ、除電手段のオン・オフを制御し、また、前記帯電電流観測手段が検出した帯電電流値を入力する演算・制御手段と、この演算・制御手段に接続された記憶手段と、を有する電子写真プリンタにおいて、
前記演算・制御手段は、
前記電子写真プリンタの初期動作時に、前記除電手段をオフさせた状態で前記感光体ドラムを複数周回転させ、前記帯電用電源から前記感光体ドラムの表面電位として得たい所定の電圧を前記帯電電圧として発生させ、かつ、前記帯電電流観測手段により検出された前記帯電電流がゼロになるまでに流れた電流の総和を積算し、その積算結果を記憶手段に格納し、
実際の印刷時に、前記除電手段をオンさせた状態で感光体ドラムを回転させ、前記感光体ドラムが1回転する間に前記帯電電流観測手段により検出される帯電電流が、前記記憶手段に格納された前記積算結果と同じ値になるように前記帯電用電源から出力される帯電電圧を制御することを特徴とする、電子写真プリンタ。
【請求項2】
前記演算・制御手段は、前記積算結果から、真の帯電電流に対して誤差となる電流分を差し引いた値を前記記憶手段に格納することを特徴とする、請求項1に記載の電子写真プリンタ。
【請求項3】
前記演算・制御手段は、前記電子写真プリンタの初期動作時に、前記感光体ドラムを2周回転させ、前記帯電用電源から前記感光体ドラムの表面電位として得たい電圧を帯電電圧として発生させ、かつ、前記感光体ドラムの第1周目に前記帯電電流観測手段が検出した第1の帯電電流値と、第2周目に前記帯電電流観測手段が検出した第2の帯電電流値との比に応じた値を前記記憶手段に格納することを特徴とする、請求項1に記載の電子写真プリンタ。」

2.原審における拒絶理由及び拒絶査定の概要
2.1 拒絶理由
原審における平成18年11月2日付け拒絶理由通知書で指摘した拒絶理由の理由Aの概要は、以下のとおりである。(下線は当審で付与。)
『この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項2号に規定する要件を満たしていない。


本願発明は感光体ドラム表面の感光体膜が摩耗して帯電特性が変化しても、表面電位センサを用いずに感光体ドラムの表面電位を所望の一定値にするものであり、その手段の一部として「感光体ドラムの表面電位として得たい電圧を、帯電電圧として発生させ、」(請求項1)という構成を有している。そして、「感光体ドラムの表面電位として得たい電圧」に関して、発明の詳細な説明には「このときの帯電電圧-Vmcは、感光体ドラム2の表面電位を-Vsf、放電開始電圧をVthとすると、-Vsf-Vthである目標値に設定する。」(0018段落)と記載があり、放電開始電圧Vthを考慮して帯電電圧を設定することが記載されている。
しかし、感光体ドラムを帯電する際の放電開始電圧が感光層の膜厚により変動することは技術常識であるところ、本願明細書には膜厚に応じた放電開始電圧をどのように決めているのか記載が無く、膜厚に関係なく一定の帯電電位を維持するという効果を奏するための発明を容易に実施できる程度の記載がされていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。』

2.2 拒絶査定
原審における平成19年9月3日付け拒絶査定の概要は、以下のとおりである。(下線は当審で付与。)
『この出願については、平成18年11月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由Aによって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
・請求項1-3について
上記拒絶理由通知書の理由A記載のとおり、感光体ドラムを帯電する際の放電開始電圧が感光層の膜厚により変動することは技術常識であるところ、本願明細書には膜厚に応じた放電開始電圧をどのように決めているのか記載が無く、膜厚に関係なく一定の帯電電位を維持するという効果を奏するための発明を実施できる程度の記載がされていない。
なお、出願人は意見書において、「電子写真プリンタを製造する際、所定の温度及び湿度において、感光体膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして電子写真プリンタに保存しておきます。本願発明に係る電子写真プリンタは、上記のテーブルの情報を参照して、「膜厚に応じた放電開始電圧」を決めております。」と主張している。
しかし、発明の詳細な説明及び図面には、膜厚に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタに保存していることは、なんら開示されておらず、かつ、膜厚に応じた放電開始電圧を保存し、参照するためには、現在の膜厚を知るための手段等の特別な構成を必要とし、出願時の技術常識でもないので、上記主張を採用することはできない。』

3.請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書における請求の理由(以下、「審判請求理由」という。)において、以下のように述べている。
『【本願発明が特許されるべき理由】
1.理由の概要
ア.まず、本件出願人は、上記の認定1に対し、平成19年5月7日(提出日)付けで提出した意見書における主張(4.を参照)と同様に、テーブル(記憶手段)に予め格納された放電開始電圧の情報に基づいて感光体膜厚に応じた放電開始電圧を決定する旨を主張し、抗弁致します。

イ.さらに、本件出願人は、上記の認定1、2に対し、下記の4文献を証拠として挙げ、(1)膜圧に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタに保存し、参照する技術、及び(2)現在の膜厚を知るための手段に関する技術が、本願の出願時における技術常識である旨を主張し、抗弁致します。

文献1:特開平9-101654号公報(公開日:平成9年4月15日)
文献2:特開平5-27557号公報(公開日:平成5年2月5日)
文献3:特開平8-220950号公報(公開日:平成8年8月30日)
文献4:特許第3064643号公報(公開日:平成5年8月31日)

2.理由の詳細
まず、上記アに関し、「膜厚に応じた放電開始電圧をどのように決めているのか」について説明致します。放電開始電圧Vthは、温度と湿度の関数であり、帯電ローラの条件が決まると温度と湿度とにより一意に決定される量です。そこで、電子写真プリンタを製造する際、所定の温度及び湿度において、感光体膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして電子写真プリンタに保存しておきます。本願の場合、例えば、当初明細書に記載されたメモリ(記憶手段)13(段落[0014]参照)に測定結果を保存しておくことが可能です。これを利用し、本願発明に係る電子写真プリンタは、上記のテーブルの情報を参照することで、「膜厚に応じた放電開始電圧」を決めることができるのです。
次に、上記イに関して、(1)膜圧に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタに保存し、参照する技術、及び(2)現在の膜厚を知るための手段に関する技術が、本願の出願時における技術常識である点について述べます。
まず、上記の文献1(例えば、段落[0056]以降等)を参照すると、感光体の膜厚(Ls)に応じた放電開始電圧(Vth)を決定する手段の一例が開示されています。また、感光体表面電位VRと放電開始電圧Vthとの関係についても言及されております。
さらに、上記の文献2(例えば、段落[0024]?[0040]等、特に[表4]を参照)には、膜圧に応じた帯電開始電圧(Vth)をテーブルとして保持する構成が記載されています。
一方、上記の文献3(例えば、段落[0010][0021][0022][0040][0058]等を参照)には、感光体の膜厚を検知する手段が開示されており、特に、所定の湿度、温度に応じた膜厚の検知手段が記載されております。また、そうした検出値等をメモリに記憶する旨の記載もあります。
そして、上記の文献4(例えば、段落[0025]、[0029]?[0040]、[0097]、[0100]、図3?図5等を参照)には、感光体の膜圧を検知する手段が記載されており、さらに、膜圧に応じた電圧特性をROMに記録して利用する構成が記載されています。
尚、文献1?4に関し、上記の指摘箇所以外にも、該当記載が散見されます。
このように、感光体の膜圧に応じた放電開始電圧を決定する技術、及び、予め測定し結果を電子写真プリンタのメモリに保持する技術は、本願の出願時における技術常識であり、当業者であれば、感光体の膜圧に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタのメモリに保持しておくことは技術常識の範疇に属するものと確信致します。
また、上記の通り、膜圧を検知する手段は、出願時において複数の手段が提案されており、当然に、出願時の技術常識の範疇に属するものと確信致します。
従いまして、(1)膜圧に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタに保存し、参照する技術、及び(2)現在の膜厚を知るための手段に関する技術が、本願の出願時における技術常識であり、上記の認定2は誤認であると確信致します。

3.結び
上記の通り、「膜厚に応じた放電開始電圧をどのように決めているのか」という点に関し、膜圧に応じた放電開始電圧を予め測定してテーブル情報として格納し、それを利用する旨について説明致しました。また、膜圧に応じた放電開始電圧を測定する手段、テーブル情報を保持する手段、膜厚を検知する手段が本願の出願時における技術常識であり、これらの手段を適用することで、膜圧に応じた放電開始電圧を予め測定してテーブル情報として格納し、それを利用する構成が実現される旨について説明致しました。
このように、本願の出願時の技術常識を参酌すると、本願の明細書等の記載は、当業者が「膜厚に関係なく一定の帯電電位を維持するという効果を奏するための発明を容易に実施できる」程度に記載されているものであると確信致します。よって、原査定を取り消す、本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求めます。

4.備考
平成18年11月7日(発送日)付けの拒絶理由通知書に記載された理由Bに付きましては、平成19年5月7日(提出日)付けで提出した意見書に記載の説明の通りです。
繰り返しますと、まず、本願発明の特徴は、帯電時の電流を検知して感光体膜の厚さを推定し、帯電電位の安定性を高めるように制御する点にあります。そのため、本願発明に係る電子写真プリンタは、感光体の膜の厚さを推定するために、除電手段をオフにした状態で帯電電圧を印加して帯電させ、そのときに流れた帯電電流量を測定します。このとき、感光体を複数回にわたり回転させ、測定された帯電電流量を合算します。そして、合算した電流量と実際に印刷する際の電流量とが同一になるように帯電電圧を制御します。
また、測定の開始時点(の膜厚)での放電開始電圧Vthは、テーブルに記載された情報をもとに決められます。そして、印加される帯電電圧-Vmcを観測しながら帯電電流が0になるまでの帯電電流の量を測定し、その総和を算出することで、感光体の膜厚に応じた帯電電流量を測定することができます。
そこで、感光体が1回転する間に測定される帯電電流量を予め除電手段がオフの状態で求めて貯蔵しておき、除電手段をオンにした状態で実際に帯電電流を測定しながら、その貯蔵されている帯電電流量と同一になるように帯電電圧を変化させます。』

4.本願明細書に記載されている事項
(下線は当審で付与。)

(a)発明の課題などに関する記載事項
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、図5に示すように、感光体ドラムの表面の感光体膜が摩耗し、感光体膜の膜厚が減少すると、感光体膜の静電容量が増加する。このとき、帯電電流を一定にすると、感光体ドラムの表面電位は低下することになり、表面電位を一定に保つことができない。
【0006】本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、感光体ドラムの表面の感光体膜が摩耗しても、表面電位を一定に保つことができる電子写真プリンタを提供するものである。」

図5は、以下に示すものである。


(b)実施例に関する記載事項
「【0016】図2は、印刷プロセスの最初に感光体ドラム2の表面を帯電させる系を、等価回路に置き換えた回路図である。帯電ローラ1は抵抗Rに、感光体ドラム2はコンデンサCに置き換えてある。
【0017】この図2および図1を参照し、電子写真プリンタの電源立ち上げ直後のウォーミングアップ時等に行われる初期動作を説明する。なお、以下の説明においては、感光体ドラム2は常に回転しているものとする。まず、図1に示した除電手段11がCPU12からの指令によってオンされ、感光体ドラム2の表面上の電荷が除去される。これは、図2においては、感光体ドラム2を意味するコンデンサCに充電された電荷が放電され、ゼロとされることを意味する。
【0018】次に、除電手段11がオフされ、帯電用高圧電源3から帯電ローラ1を介して感光体ドラム2の表面に電荷が送り込まれ、感光体ドラム2の表面が帯電させられる。すなわち、帯電電圧-Vmcを発生する帯電用高圧電源3によって、帯電電流Imcが流れる。このときの帯電電圧-Vmcは、感光体ドラム2の表面電位を-Vsf、放電開始電圧をVthとすると、-Vsf-Vthである目標値に設定する。このImcは図2の回路ではCの充電が完了するに従い減少していってしまい、連続の値とはならないように見えるが、実際は、ドラムが回転し、図2のCが次々と切り替わってゆく事になるので、連続した電流となる。本説明では、動作の説明を平易にする為、図2の等価回路に近似して説明を行う。
【0019】感光体ドラム2の表面の帯電が進むと(コンデンサCへの充電が進むと)、感光体ドラム2の表面電位-Vsfが-(Vmc-Vth)に近づき、帯電電流Imcが減少する。やがて、感光体ドラム2の表面電位-Vsfが-(Vmc-Vth)と同じになり、帯電電流Imcがゼロになる。
【0020】図3は、時間の経過と共に帯電電流Imcが減少する様子を示すグラフである。帯電電流Imcは、帯電電流観測手段4によって検出され、このグラフにおける斜線を引いた部分の面積、すなわち帯電電流Imcがゼロになるまでに流れた電流の総和が、CPU12によって算出される。
【0021】そして、実際の印刷時には、除電手段11がオンされ、上記の初期動作で算出された電流の総和が、感光体ドラム2が1回転する間に流れるように、帯電電流Imcが決められる。具体的には、CPU12が、帯電電流観測手段4が検出する帯電電流Imcを見ながら、帯電用高圧電源3が出力する帯電電圧-Vmcを制御する。図3に示した例では、実際の印刷時には、帯電電流Imc=Imc1+Imc2+Imc3+Imc4+Imc5+Imc6+…とされる。すると、感光体ドラム2が1回転する間の、感光体ドラム2の表面の帯電(コンデンサCへの充電)によって、所望の表面電位が得られる。」

図2は、以下に示すものである。


(c)効果についての記載事項
「【0025】
【発明の効果】本発明によれば、高価な表面電位センサを用いなくても、感光体ドラムの表面電位を所望の一定値とすることができる。これにより、価格を上昇させることなく、感光体ドラムの表面電位を一定にすることができる。特に、感光体ドラムの表面が摩耗しても、感光体ドラムの寿命末期まで、感光体ドラムの表面電位を一定に保つことができ、従って、寿命末期まで、印刷される写真等の画質を維持することが可能な電子写真プリンタを実現できる。」

5.当審の判断
本願発明は、上記段落【0018】等に記載されているように、実際の印刷の前に行われる初期動作時において、「帯電電圧-Vmc」を、「-Vsf-Vthである目標値」に設定するものである(「感光体ドラム2の所望の表面電位」を-Vsf、「放電開始電圧」をVthとする)。
ところで、上記図5に示されているように、感光体の膜厚は使用初期と寿命末期とで大きく異なるし、帯電電圧を一定とした場合の感光体ドラムの帯電電流、表面電位も、帯電ローラの環境(温度/湿度)や経時変化により大きく影響される。
そして、放電開始電圧Vthが感光体ドラムの膜厚や環境により変化することは技術常識であって、これに関し、上記したように、審判請求人は上記審判請求書において、「放電開始電圧Vthは、温度と湿度の関数であり、帯電ローラの条件が決まると温度と湿度とにより一意に決定される量です。そこで、電子写真プリンタを製造する際、所定の温度及び湿度において、感光体膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして電子写真プリンタに保存しておきます。本願の場合、例えば、当初明細書に記載されたメモリ(記憶手段)13(段落[0014]参照)に測定結果を保存しておくことが可能です。これを利用し、本願発明に係る電子写真プリンタは、上記のテーブルの情報を参照することで、「膜厚に応じた放電開始電圧」を決めることができるのです。」と述べている。
ところが、本願明細書には、「電子写真プリンタを製造する際、所定の温度及び湿度において、感光体膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして電子写真プリンタに保存」することについて何ら記載されていない。
仮に、請求人が主張するように、このような測定結果が、審判請求人が提示している文献2(特開平5-27557号公報)の[表4]に記載のように、感光体の膜厚に応じた放電開始電圧がテーブルにして電子写真プリンタに保存されているものとしても、テーブルを参照して放電開始電圧を読み出すためには、実際の印刷の前に行われる初期動作時における感光体の膜厚を検出する必要があることは明らかである。
しかしながら、本願明細書には、初期動作時における感光体の膜厚をどのようにして検出するのかについて何ら記載されていない。
審判請求人は、放電開始電圧Pthは、感光体膜の厚さに応じて変化し、温度と湿度の関数であって、帯電ローラの条件が決まると温度と湿度により一意に決定される量であるということも主張している。
そして、審判請求人は、「電子写真プリンタを製造する際、所定の温度及び湿度において、感光体膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして電子写真プリンタに保存」しておくものと主張しているが、放電開始電圧Pthが、帯電ローラの条件、及び、温度及び湿度に応じて決まる値である以上、実際の印刷の前に行われる初期動作時における帯電ローラの条件、及び、温度及び湿度を検出する手段、及び、検出された値に基づいて放電開始電圧を決定する手段が必要とされることも明らかである。
しかしながら、本願明細書には、帯電ローラの条件や温度及び湿度を検出する手段についても何ら記載されていない。
ところで、審判請求人は、上記審判請求理由における「4.備考」において、「繰り返しますと、まず、本願発明の特徴は、帯電時の電流を検知して感光体膜の厚さを推定し、帯電電位の安定性を高めるように制御する点にあります。そのため、本願発明に係る電子写真プリンタは、感光体の膜の厚さを推定するために、除電手段をオフにした状態で帯電電圧を印加して帯電させ、そのときに流れた帯電電流量を測定します。」と主張している。
この主張に対して、感光膜の厚さに対応する放電開始電圧を実験的に測定しておき、その測定結果をテーブルにして保存し、このテーブルの情報を参照することで、「膜厚に応じた放電開始電圧」を決めることができるという審判請求人の前記主張は矛盾するものである。
さらに、審判請求人は上記「4.備考」において、「また、測定の開始時点(の膜厚)での放電開始電圧Vthは、テーブルに記載された情報をもとに決められます。」とも述べているが、測定の開始時点における膜厚の値を検出しているのであるか否かが不明であるし、「テーブルに記載された情報」が何であり、どのようにして測定の開始時点(の膜厚)での放電開始電圧Vthが決められるのであるかについても全く不明である。
以上述べた理由により、拒絶査定時における、「発明の詳細な説明及び図面には、膜厚に応じた放電開始電圧を電子写真プリンタに保存していることは、なんら開示されておらず、かつ、膜厚に応じた放電開始電圧を保存し、参照するためには、現在の膜厚を知るための特別な構成を必要とし、出願時の技術常識でもないので、上記主張を採用することはできない。」という指摘は妥当である。
したがって、本願明細書における発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

6.むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-10 
結審通知日 2009-06-16 
審決日 2009-06-29 
出願番号 特願2001-311366(P2001-311366)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮山 文男目黒 光司  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 森川 元嗣
一宮 誠
発明の名称 電子写真プリンタ  
代理人 亀谷 美明  

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