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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1207316
審判番号 不服2006-11599  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-08 
確定日 2009-11-20 
事件の表示 特願2004- 36308「係り受け構造解析装置、係り受け構造解析方法、及びコンピュータで実行可能なプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日出願公開、特開2005-228060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成16年2月13日に出願したものであって、平成18年2月7日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年3月30日付けで手続補正がなされたが、同年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月8日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成21年6月26日付けで拒絶理由が通知されたものである。


2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成18年3月30日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
入力文を構成する文節間の係り受け関係の構造を解析する係り受け構造解析装置であって、
前記入力文を、節ごとに分割するための節分割手段と、
前記節分割手段によって分割された節の各々について、節内の文節間の係り受け関係の組合せとして可能なものの尤度を文節の共起頻度に基づいて計算し、最も尤度が高い係り受け関係の組合せを選択することにより、前記入力文の節レベルの係り受け関係の構造を同定するための第1の同定手段と、
前記節分割手段によって分割された節の各々について、当該節の最終文節と、当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の組合わせとして可能なものの尤度を文節の共起頻度に基づいて計算し、最も尤度が大きな係り受け関係の組合せを選択することにより、前記入力文の文レベルの係り受け関係の構造を同定するための第2の同定手段とを含む、係り受け構造解析装置。」


3.引用発明
これに対し、当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、柏岡秀紀、丸山岳彦、田中英輝、節境界と係り受け解析、言語処理学会第9回年次大会発表論文集、日本、2003.03.18発行、117?120頁(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。

(あ)「1 はじめに
近年の自然言語処理技術および、音声認識、音声合成技術の向上により、実用的な音声翻訳が身近なものとなりつつある。音声翻訳の実用化の一形態として講演などの同時通訳を考えることは自然であり、その技術は重要である。同時通訳を実現するには、時間的な制約から漸進的な処理が必要とされる。
(中略)漸進的な解析による翻訳処理を考えた場合、意味的あるいは構造的にまとまりのある翻訳単位での解析効率が重要なポイントになる。従来の翻訳処理は、文を処理単位としている。しかし、話し言葉、特に講演などの独話では、文の単位の認定が困難であり、また、1文が比較的長くなるため、文は適切な単位とはいえない[3]。(中略)そこで、述部を中心としたまとまりである「節」を、処理単位として検討する。」(117頁左欄1?24行)

(い)『「述語を中心としたまとまり」である「節」の係り受け構造は、その内部では単文の構造に類似していると考えられる。我々は、独話等の話し言葉においても明確に判定でき、また、係り受け構造としてもある程度独立して扱える処理単位として、「節」が適切であると考えた。「節」の単位を検出するために、漸進的な処理との相性を考慮し、局所的な形態素の連鎖により分割点を検出する手法を用いている。形態素に関する情報は得られていると仮定している。(中略)以後、本稿で扱っている「節」の単位より少し細かい単位を、節相当語句と記す。』(118頁左欄13?26行)

(う)『4.1 節相当語句内部の係り受け構造
まず、節相当語句内部での係り受け構造について、例を図1に示す。図1に示す円の内部で係り受け構造が閉じていれば、最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる。「裁判で/問われましたのは」や「どのような/場合に/死刑を/適用するのかという」は、節相当語句内部で係り受け構造が閉じており、最終文節である「問われましたのは」と「適用するのかという」の部分の係り先のみが、節外にある。この様な構造は、漸進的な処理に都合が良い。表3に3つのデータにおける節相当語句内から節外への係り受け関係を持つ文節数の頻度を示す。
表3に示されている節外に係る文節数が0のものは、全て文末である。他の所に文末があらわれることはなかった。また、1であるものは、節相当語句内の最終文節が他の節相当語句に係るもので、漸進的な処理に適している節相当語句である。文末を除く節相当語句に対して、漸進的処理に適している節相当語句の割合は「あすを読む」で、91.2%、「NHKニュース原稿」で87.7%、「日経新聞記事」で、89.0%であった。』(118頁右欄12?30行)

(え)『4.2 節相当語句の係り先
(中略)
図2に直後の節に係る節相当語句の節タイプ毎の割合を示す。(中略)
また、節相当語句の最終文節がどの程度離れた文節と係り受けを構成するかを調べた。「あすを読む」の結果を図3に示す。他の「NHKニュース原稿」、「日経新聞記事」でも、ほぼ同じ傾向が見られた。』(119頁右欄22行?120頁左欄16行)

(お)「5 まとめ
(中略)節相当語句は、局所的な形態素情報を利用した節分割の結果であり、係り受け構造は、茶筌、Cabochaによる係り受け解析結果による。その結果、今回利用している節相当語句は、ほぼ90%前後のものが、内部で閉じた係り受け構造をもつことから、漸進的な解析に有効な単位であることが判った。(中略)今後は、節分割を利用した節相当語句内の係り受け解析の実現を目指すとともに、節の間の解析の効率化のための分析を進めたい。」(120頁左欄17行?右欄13行)

引用文献1の記載(あ)、(い)によれば、述部を中心としたまとまりである「節」について、「節」の係り受け構造は、その内部では単文の構造に類似しており、係り受け構造としてある程度独立して扱える処理単位であること、独話等の話し言葉においても明確に判定できるものであり、局所的な形態素の連鎖により分割点を検出する手法を用いて「節」の単位を検出することが記載されているといえる。

引用文献1の記載(う)における『まず、節相当語句内部での係り受け構造について、例を図1に示す。図1に示す円の内部で係り受け構造が閉じていれば、最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる。「裁判で/問われましたのは」や「どのような/場合に/死刑を/適用するのかという」は、節相当語句内部で係り受け構造が閉じており、最終文節である「問われましたのは」と「適用するのかという」の部分の係り先のみが、節外にある。この様な構造は、漸進的な処理に都合が良い。』との一連の記載は、いずれも119頁の図「図1:節分割点と係り受け構造の関係」(以下、単に「図1」という。)について述べた記載であることは明らかである。
そして、『「裁判で/問われましたのは」や「どのような/場合に/死刑を/適用するのかという」は、節相当語句内部で係り受け構造が閉じており、最終文節である「問われましたのは」と「適用するのかという」の部分の係り先のみが、節外にある。』との記載は、図1の上段の図の文における空白を「/」で置き換えたものと対応しているといえ、該記載における『...は節相当語句内部で係り受け構造が閉じており』との記載から、「裁判で/問われましたのは」、及び、「どのような/場合に/死刑を/適用するのかという」というまとまりは、それぞれ、引用文献1でいう「節相当語句」であるといえる。また、『最終文節である「問われましたのは」と「適用するのかという」の部分の係り先のみが、節外にある』との記載から、「裁判で/問われましたのは」、及び、「どのような/場合に/死刑を/適用するのかという」の「/」で区切られたそれぞれのものは同じく「文節」であるといえる。

さらに図1を参照すると、図1における四角形はそれぞれのほぼ真下に書かれた空白で区切られた文字列(文節)と対応するといえるから、図1における四角形は「文節」を表しているいえる。また、図1における縦線は、「節相当語句」の区切り(分割点、節境界)を示していることは明らかである。
したがって、記載(う)における「図1に示す円の内部で係り受け構造が閉じていれば...」の「円」は、一つの「節相当語句」の範囲を示しているといえる。

これらのことから、引用文献1の記載(う)及び図1には、
(a)節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば、最後の文節の係り先を残して優先的に解析結果を構成することができること、及び、
(b)節相当語句内で係り受け構造が閉じており最終文節の部分のみが係り先が節外にある構造は、漸進的な処理に都合が良い構造であること
が記載されているといえる。

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「話し言葉、特に講演などの独話のような長文の入力文の漸進的な処理をする際の節境界判定と係り受け解析において、
局所的な形態素の連鎖により分割点を検出する手法を用いて「節」の単位を検出すること、
節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができること、
節相当語句内で係り受け構造が閉じており最終文節の部分のみが係り先が節外にある構造は、漸進的な処理に都合が良い構造であること。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における、「入力文」は、本願発明における「入力文」に相当する。
引用発明における「局所的な形態素の連鎖により分割点を検出する手法を用いて「節」の単位を検出すること」は、入力文を処理単位である「節」単位に分割するために行われることであるといえるから、「入力文を節ごとに分割するための構成」である点で、本願発明における「前記入力文を、節ごとに分割するための節分割手段」と対応する。
引用発明における「節相当語句」は、「節」に基づく処理単位である点で、本願発明における「節」と対応する。そして、引用発明における、「節相当語句の内部」は、本願発明における「節内」に対応する。
引用発明の「節相当語句内で係り受け構造が閉じており最終文節の部分のみが係り先が節外にある構造」における「節外」は、「節(節相当語句)」の外、つまり、当該最終文節のある「節相当語句内」でない部分を意味していることは明らかであり、最終文節が属する節(節相当語句)とは異なる部分である点で、本願発明における「当該最終文節が属する節と異なる節」と対応する。そして、文節単位で行われる係り受け構造の解析においては、その係り先も当然に文節であり、また、引用文献1の図1の記載からも明らかなように、引用発明における「係り先が節外にある構造」の「係り先」は文節であるといえるから、引用発明における「係り先が節外にある構造」の「係り先」は、本願発明における「当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節」と対応する。
引用発明の「節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる」における、「最後の文節」は、「節相当語句」の最後の文節であることが明らかであるから、本願発明における「当該節の最終文節」に対応する。
引用発明における「解析結果を構成する」とは、その前後の文脈から見て、入力文を構成する文節間の係り受け構造の解析結果を構成することを含むことは明らかであり、「入力文を構成する文節間の係り受け関係の構造を解析する」という点で、本願発明における「係り受け関係の構造を同定する」と共通する。

引用発明の「節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる」ことは、「残して」、「優先的に」という記載から、少なくとも、係り受け構造の解析結果を構成する(解析する)際に、その解析の対象について、「最後の文節(の係り先)」と、(最後の文節の係り先以外の)節相当語句の内部(の係り受け構造)とを区別しているといえる。そして、係り受け構造の解析を行う際に、その対象を節内の文節間と最終文節とで区別しているという点で、本願発明において、「係り受け関係の構造を同定する」ための手段が、「当該節の最終文節と、当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係」を対象とする「第2の同定手段」と、「節内の文節間の係り受け関係」を対象とする「第1の同定手段」とに分かれている構成と対応する。

してみると、本願発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、また、相違点で相違する。

(一致点)
「入力文を構成する文節間の係り受け関係の構造を解析する際に、
前記入力文を、節あるいは節相当語句(以下、まとめて「節」と表記する。)ごとに分割する構成と、
係り受け関係を解析する構成
とを有し、
前記係り受け関係を解析する構成は、解析する対象を、
節内の文節間の係り受け関係と、
当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係とで、
区別している点。」

(相違点1)
本願発明が複数の手段によって構成される「装置」であるのに対し、引用発明はそのようになっていない点。

(相違点2)
入力文を分割する単位が、本願発明が「節」であるのに対し、引用発明は「節相当語句」である点。

(相違点3)
節内の文節間の係り受け関係の解析と、当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の解析を行う、係り受け関係を解析する構成が、本願発明では「入力文の節レベルの係り受け関係の構造を同定するための第1の同定手段」と「入力文の文レベルの係り受け関係の構造を同定するための第2の同定手段」という二つの手段に分かれているが、引用発明はそのようになっていない点。

(相違点4)
係り受け関係を解析する「第1の同定手段」と「第2の同定手段」について、本願発明は、
「前記節分割手段によって分割された節の各々について、節内の文節間の係り受け関係の組合せとして可能なものの尤度を文節の共起頻度に基づいて計算し、最も尤度が高い係り受け関係の組合せを選択することにより、前記入力文の節レベルの係り受け関係の構造を同定するための第1の同定手段」と、
「前記節分割手段によって分割された節の各々について、当該節の最終文節と、当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の組合わせとして可能なものの尤度を文節の共起頻度に基づいて計算し、最も尤度が大きな係り受け関係の組合せを選択することにより、前記入力文の文レベルの係り受け関係の構造を同定するための第2の同定手段」となっており、
「係り受け関係の組合せとして可能なものの尤度を文節の共起頻度に基づいて計算し、最も尤度が高い係り受け関係の組合せを選択することにより」係り受け関係を同定(解析)するようになっているのに対して、引用発明はそのようになっていない点。

5.判断
上記相違点1?4のそれぞれについて判断する。

(相違点1について)
引用文献1の記載(あ)には、「近年の自然言語処理技術および、音声認識、音声合成技術の向上により、実用的な音声翻訳が身近なものとなりつつある。音声翻訳の実用化の一形態として講演などの同時通訳を考えることは自然であり、その技術は重要である。同時通訳を実現するには、時間的な制約から漸進的な処理が必要とされる。」と記載されており、引用文献1に記載された発明は、自然言語処理技術および、音声認識、音声合成技術を用いた音声翻訳の一形態としての同時通訳の技術分野に関するものであることが明らかである。これらの自然言語処理技術および、音声認識、音声合成技術は、いずれもコンピュータを用いた情報処理技術であり、また、節分割や係り受け構造解析をコンピュータという装置を用いて行うことは、この出願の出願前において普通に行われていることである(例えば、当審の拒絶理由で引用文献2として引用した、特開平4-211867号公報を参照。)から、引用文献1に記載された発明を、コンピュータを用いた係り受け構造解析装置として実現することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用文献1の(あ)、(い)には、「そこで、述部を中心としたまとまりである「節」を、処理単位として検討する。」、「我々は、独話等の話し言葉においても明確に判定でき、また、係り受け構造としてもある程度独立して扱える処理単位として、「節」が適切であると考えた。」といった記載があり、「節」を処理単位とすることが記載されている。してみると、引用文献1に記載された発明において、入力文を分割する単位を「節」単位とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点3について)
引用文献1には、係り受け構造の解析について、「節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる」こと、及び、「節相当語句内で係り受け構造が閉じており最終文節の部分のみが係り先が節外にある構造は、漸進的な処理に都合が良い構造である」ことが記載されている。

「4.対比」で検討したとおり、引用発明の「節相当語句の内部で係り受け構造が閉じていれば最後の文節の係り先を残して、優先的に解析結果を構成することができる」ことは、「残して」、「優先的に」という記載から、係り受け構造の解析結果を構成する(解析する)際に、その解析の対象について、「最後の文節(の係り先)」と、(最後の文節の係り先以外の)節相当語句の内部(の係り受け構造)とを区別しているといえる。
また、「優先的に」との記載から、「最後の文節の係り先」と、(最後の文節の係り先以外の)節相当語句の内部の係り受け構造とでは、節相当語句内部を先に解析すると考えるのが当然である。
つまり引用文献1には、節相当語句の係り受け構造の解析について、先に(最後の文節の係り先以外の)節相当語句の内部の係り受け構造を解析し、次に、残された最後の文節の係り先を解析することが示唆されているといえる。

次に、「節相当語句内で係り受け構造が閉じており最終文節の部分のみが係り先が節外にある構造は、漸進的な処理に都合が良い構造である」ことに関し、「漸進的な処理」とはどのような処理であるのか、引用文献1には、記載(あ)に「同時通訳を実現するには、時間的な制約から漸進的な処理が必要とされる。」、記載(う)に「この様な構造は、漸進的な処理に都合が良い。」、及び、「また、1であるものは、節相当語句内の最終文節が他の節相当語句に係るもので、漸進的な処理に適している節相当語句である。」というように「漸進的な処理」という表現が用いられており、機械翻訳で同時通訳を行うような時間的制約がある場合に必要とされる処理であるといえるものの「漸進的な処理」とはどのような処理であるのかは記載されていない。

そこで、引用文献1における「漸進的な処理」について検討する。
まず、一般的な語義として、「漸進」とは「段階を追って次第に進むこと(広辞苑第6版)」であり、また、「同時通訳」とは「通訳にあたる者が話し手の発言とほぼ同時に通訳する方式(広辞苑第6版)」であるといえる。
次に、当審の拒絶理由で引用文献3として引用した、丸岡岳彦、柏岡秀紀、熊野正、田中英輝、節境界自動検出ルールの作成と評価、言語処理学会第9回年次大会発表論文集、日本、2003.03.18発行、517?520頁(以下、「引用文献3」という。)には、「漸進的な処理」に関連する記載として、「さらに,独話を機械翻訳する場合,発話に追従して翻訳を出力する同時通訳としての運用が望ましいが[4],文を処理単位とすると,同時通訳としての追従性に欠けるという問題がある.このため,発話の中から文よりも短い単位を随時検出し,各種の処理を漸進的に行なっていく手法が求められる.」(517頁左欄16?21行)、「節境界を自動的に検出する手法としてまず考えられるのは,構文解析器を用いて文を解析した結果から,節境界に相当する位置を特定するという方法である.しかし,構文解析器は一般に入力として「文」を要求するものであり,文末が入力されて構文解析が済むまで,節境界の検出を始めることは難しい.この制約は,同時通訳のように入力を漸進的に処理していく必要がある場合,望ましくない.漸進的な処理を行なうためには,発話の入力中であっても,局所的な情報のみから節境界の位置を検出できることが望ましい.」(517頁右欄13?22行)、「4.1 同時通訳のための文分割処理(中略)特に1 文が長くなる傾向を持つ独話を同時通訳する場面においては,入力される発話を漸進的に細かい処理単位に分割する過程が必要であるが,局所的な情報だけで決定可能であるという点で,節境界は有力な分割点候補として考えられる.」(520頁左欄14?23行)という記載がある。
引用文献3のこれらの記載からは、漸進的な処理について「発話の中から文よりも短い単位を随時検出」、「発話の入力中であっても,局所的な情報のみから節境界の位置を検出」、「入力される発話を漸進的に細かい処理単位に分割する」といった表現がされれており、文よりも短い単位(細かい処理単位)を、発話の入力中に随時検出して処理をすることと関連しているといえる。また、「文末が入力されて構文解析が済むまで,節境界の検出を始めることは難しい.この制約は,同時通訳のように入力を漸進的に処理していく必要がある場合,望ましくない.」とあるから、文末が入力されてから節境界の検出を始める方法は、漸進的な処理をする必要がある場合に望ましくないといえる。
これらの引用文献3の記載と、上記一般的な語義を勘案すると、引用文献3において、機械翻訳で同時通訳する際の「漸進的な処理」とは、入力される発話に対し、文が最後まで入力される前の入力中の段階で、入力される発話をより細かい処理単位に分割する処理等の各種の処理を進めることを意味していると解される。

そして、引用文献1及び3は、いずれも機械翻訳による同時通訳という共通の技術分野に属するものであること、同時期(言語処理学会第9回年次大会)の発表であり著者が一部重複していること、文献を相互に引用していることからみて、引用文献1と3で「漸進的」という用語が異なる意味で用いられていると解すべき事情はないから、引用文献1及び3における「漸進的」という用語は同様の意味で用いられていることは明らかである。
してみると、引用文献1における「漸進的な処理」とは、引用文献3と同様に、入力される発話に対し、文が最後まで入力される前の入力中の段階で、入力される発話をより細かい処理単位に分割する等の各種の処理を進めることを意味していると認められる。

これらのことを踏まえて、引用発明における係り受け構造の解析を、本願発明における「入力文の節レベルの係り受け関係の構造を同定するための第1の同定手段」と「入力文の文レベルの係り受け関係の構造を同定するための第2の同定手段」という二つの手段として構成することが、当業者にとって容易になし得たことであるかどうか検討する。

引用発明において、節への分割と係り受け解析の先後関係は、処理単位を「節」とすることから、まず節への分割を行い、その結果を受けて係り受け解析を行うという手順であることは、明らかである。そして、引用文献1では、節への分割に関し、記載(う)に『「節」の単位を検出するために、漸進的な処理との相性を考慮し、局所的な形態素の連鎖により分割点を検出する手法を用いている。』とあるように、漸進的な処理に適した方法を用いることが記載されている。したがって「節」への分割を漸進的に行うことが示唆されているといえる。入力文を漸進的に「節」に分割することで、入力文が文として完結する前に、随時検出された「節」が得られることは当業者にとって自明のことである。

そして、これを受けて漸進的処理により係り受け解析を行う際に、節相当語句内部で係り受け構造が閉じていれば当該節については「最後の文節を残して」優先的に係り受け解析の結果を構成できることが記載されており、また、引用文献1の記載(お)には、90%前後の節が節相当語句内部で係り受け構造が閉じていたことが記載されていることから、節相当語句内の係り受け解析を各々の節について随時行い、文が完結したところで、文全体(本願でいう「文レベル」)の係り受け構造を、残しておいた各節相当語句の「最後の文節」の各々について行えばよいことは、引用文献1及び3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たことである。

また、引用文献1では、記載(う)の「4.1 節相当語句内部の係り受け構造」で節相当語句内の係り受け構造について検討し、記載(え)の「4.2 節相当語句の係り先」で節間の係り受け構造について検討しており、それぞれ別のものとして扱っており、節内の文節間の係り受け関係の解析と、当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の解析を、別個の処理として行うことを阻害するような記載は引用文献1にはない。

してみれば、引用発明において、漸進的な処理を行うために、節内の文節間の係り受け関係の解析と、当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の解析を、別個の処理として行うことは、当業者が容易になし得たことである。

そして、コンピュータ関連発明において、個々の処理を「??部」、「??手段」のように物として表現することは一般的に行われていることであるから(例えば、当審の拒絶理由で引用文献2として引用した、特開平4-211867号公報を参照)、引用発明において、節内の文節間の係り受け関係の解析を行う手段と、当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の解析を行う手段として、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、引用発明では、「節相当語句内部で係り受け構造が閉じていれば」という条件が付されているが、引用文献1の記載(え)によれば、今回利用している節相当語句のほぼ90%前後のものが内部で閉じた係り受け構造を持つ漸進的な解析に有効な単位であることが記載されており、内部で閉じた係り受け構造を持つものと仮定して一律に処理をするように構成することは、当業者が必要に応じて適宜選択・決定すべき程度の事項である。

(相違点4について)
当審の拒絶理由で引用文献4として引用した、大野誠寛、松原茂樹、河口信夫、稲垣康善、日本語音声対話文の統計的係り受け解析とその評価、情報処理学会 第65回(平成15年)全国大会講演論文集(2) 人工知能と認知科学、日本、2003.03.25発行、2-1?2-2頁(以下、「引用文献4」という。)には、係り受け構造の解析を行う際に、共起頻度に基づき文節間の係り受け関係がある確率を計算し、最尤の係り受け構造を動的計画法を用いて計算することが、記載されている(2-1頁左欄16行?同頁右欄12行の「2 話し言葉の統計的係り受け解析」の項を参照。)。
引用文献1及び4はいずれも係り受け解析という同一技術分野に属するものであり、また、引用文献1には、「節」が係り受け構造としてもある程度独立して扱える処理単位であることが記載されており、節内の係り受け構造の解析に適用することを阻害する特段の事情は認められないことから、引用発明における、節内の文節間の係り受け関係の解析と、当該節の最終文節と当該最終文節が属する節と異なる節に属する文節との間の係り受け関係の解析のそれぞれに引用文献4に記載された発明を適用することは、当業者が容易になし得たことである。

(効果について)
また、本願発明の効果は引用文献1?4及び周知の事項から当業者が予想可能な範囲内のものであり、格別のものではない。

以上のとおり、本願発明は、引用文献1?4に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2004-36308(P2004-36308)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 飯田 清司
菅原 浩二
発明の名称 係り受け構造解析装置、係り受け構造解析方法、及びコンピュータで実行可能なプログラム  
代理人 清水 敏  

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