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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1207319
審判番号 不服2006-27504  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-07 
確定日 2009-11-20 
事件の表示 特願2001-230730「架橋された固形タイプの粘着剤組成物とその粘着シートおよび防水気密用粘着シート」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日出願公開、特開2003- 41233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年7月31日の出願であって、平成16年6月11日付けの拒絶理由通知に対して、同年8月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成18年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月26日に手続補正書が提出され、平成20年12月26日付けの審尋に対して、平成21年3月14日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年12月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成18年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成18年12月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲である
「【請求項1】少なくとも(a)ゴム質ポリマー、(b)粘着付与剤、(c)少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤、からなる架橋された固形タイプの粘着剤組成物。
【請求項2】(a)ゴム質ポリマーがブチルゴムであることを特徴とする請求項1記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物。
【請求項3】基材上に請求項1または2に記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物を粘着剤層として設けたことを特徴とする粘着シート。
【請求項4】請求項3に記載の粘着シートからなる防水気密用粘着シート。」を、
「【請求項1】基材上に、少なくとも(a)再生ブチルゴム、(b)粘着付与剤、(c)少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤、からなる架橋された固形タイプの粘着剤組成物を粘着剤層として設けたことを特徴とする粘着シートからなる防水気密用粘着用シート。」
に、補正することを含むものである。

(2)補正の適否について
(2-1)新規事項の有無及び補正の目的についての検討
上記補正後の請求項1に係る補正は、補正前の請求項1(「少なくとも(a)ゴム質ポリマー、(b)粘着付与剤、(c)少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤、からなる架橋された固形タイプの粘着剤組成物。」)、請求項2(「(a)ゴム質ポリマーがブチルゴムであることを特徴とする請求項1記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物。」)及び請求項3(「基材上に請求項1または2に記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物を粘着剤層として設けたことを特徴とする粘着シート。」)を削除し、補正前の請求項4である、「請求項3に記載の粘着シートからなる防水気密用粘着シート。」において、「ブチルゴム」を「再生ブチルゴム」とするものであって、同補正は、本願明細書の段落【0010】に記載された「本発明に用いられる(a)ゴム質ポリマーとしては、耐久性、耐候性の点でブチルゴムが好ましく用いられ、特に加工性に富む再生ブチルゴムが最も好ましい。」に基づくものであり、願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではない。よって、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同補正は、発明特定事項を限定するものであって、その補正前の請求項4に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、同条第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-2-1)刊行物の記載事項
(a)原査定で引用された引用文献1である
「特開2001-40106号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a-1)「ポリオレフィン樹脂もしくはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる防水シートの接合部の接着において、イソブチレンとp-メチルスチレン共重合体の臭素化物を主成分とする固形分3?15%の溶液をプライマーとして塗布し、その後、常温で自着性のあるブチルゴムを主成分とする自然加硫テープ状接着剤を介して接着することを特徴とする防水シートの接着方法。」(請求項1)
(a-2)「かくして、上記イソブチレンとp-メチルスチレン共重合体の臭素化物単独及び天然又は合成ゴムを10?100重量部含むブレンド体を主成分とするプライマーと自着性のある自然加硫タイプのテープ状粘着剤の使用により、初期の接着作業が容易で、かつ経時においては太陽光による輻射熱で自然加硫することにより、難接着性のポリオレフィン系TPE及びEPDM系加硫ゴム防水シートの双方に強固に接着し、優れた防水性能を得ることができる。」(段落【0025】)

(b)原査定で引用された引用文献2である
「特開昭59-33375号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(b-1)「エチレン-プロピレン-ターポリマー、ブチルゴムあるいはこれらのブレンド物からなるゴム質ポリマーに加硫剤、加硫促進剤等を含みムーニー粘度(ML_(1+5)、100℃)5?20で自着性を有する自然加硫タイプの粘着層と、エチレン-プロピレン-ターポリマー、ブチルゴムあるいはこれらのブレンド物からなる加硫ゴムシートの基材とを積層接着せしめた接着テープを、加硫ゴムからなる防水シートの突き合せ部あるいはラップ部で両シートにまたがつた状態で積層し、上記接着テープの粘着層を自然加硫させることによつて防水シートを接合することを特徴とする防水シートの接着方法。」(特許請求の範囲)
(b-2)「かくして本発明はこのような欠点を接着テープの構造を改善することにより解消し、防水シートのラップ接合だけでなく突き合せ接合も可能であると共に接着テープの変形を阻止して施工能率を改善し、かつ防水シートを強固に接合して遮水効果を上げることを目的とするものである。」(第2頁左上欄第17行?右上欄第2行)
(b-3)「(実施例1)
下記第1表にその配合組成割合(括弧内は本実施例配合)を示す粘着層組成物を厚さ0.8mm、幅120mm、ムーニー粘度(ML_(1+5)、100℃)9のテープ状に成型したものを厚さ1mmのEPDM/IIR系合成ゴム加硫シート(第1表参照)にラミネートした接着テープの中央が厚さ1.5mmのEPDM/IIR系合成ゴム加硫シートからなる被着体を、2枚つき合せた部分にくるように、上側から設置し、線圧0.5kg/cmでローラー転圧した。
第1表
(1)粘着層組成(重量比)
IIR 70?50 (60)
EPDM 30?50 (40)
ZnO 5 (5)
ステアリン酸 1 (1)
カーボン 50 (50)
無機充填剤 50 (50)
石油系樹脂 30?60 (50)
パラフイン系軟化剤 30?60 (50)
GMF 1?5 (2)
PbO_(2) 1?5 (2)」
(第3頁左下欄第16行?右下欄下から第4行)
(b-4)「又、次にモルタルからなる鈎型模型(5)に第5図の如く防水シート(1)(1)’を貼りつけ、そのジヨイント部に接着テープ(2)を介して貼りつけ、曝露させた後、接合コーナー部の浮き状態を調べたところ、第3表に示す結果を得た。
第3表

」(第4頁左上欄第19行?右上欄第7行)

(c)原査定で引用された引用文献3である
「特開昭60-130665号」(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(c-1)「ブチルゴムを主体とするゴム質ポリマーに、(A)有機過酸化物からなる加硫剤と(B)キノンジオキシム類、マレイミド類多官能性アリール系化合物類、多官能性アクリル酸エステル類、および酸化還元作用を有する有機金属塩類から選ばれる加硫助剤の少なくとも1種以上とを配合してなる低温加硫性接着剤」(特許請求の範囲)
(c-2)「本発明の低温加硫性接着剤はこのような特異性能を有する接着剤であるため、金属、加硫ゴム、木材、プラスチックス、ガラスなどの同種材料または異種材料間の接着に使用できることはもちろん、従来より感圧接着剤が使用されていなかった分野、たとえば、高度の防風性、防水性を必要とする建築、土建分野および防水シートやゴム引布などの薄物加硫ゴム分野などにも使用できる。」(第2頁右下欄第17行?第3頁左上欄第5行)

(d)原査定で引用された引用文献4である
「特開昭54-133525号」(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(d-1)「加硫ゴムからなる防水シート間の継目を接着するにあたり、エチレンとα-オレフインと非共有二重結合を有するポリエンモノマーとからなるオレフインターポリマーが主成分として配合されてなるゴム質ポリマーに粘着付与剤、軟化剤および要すれば充填剤その他の任意成分を配合し、これに過酸化水素、ケトンパーオキサイドおよびハイドロパーオキサイドから選ばれる少なくとも一種の過酸化物からなる加硫剤と加硫助剤ないし加硫促進剤とを加えてなる低温加硫性感圧接着剤を使用し、これを継目部の防水シート間に介在させることを特徴とする防水シートの継目部の接着方法。」(特許請求の範囲)

(e)原査定で引用された引用文献5である
「特開平6-158007号」(以下、「刊行物5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(e-1)「加硫可能なゴム、軟化剤、粘着付与剤および加硫成分からなる粘着組成物であって、これを成形時に熱軟化可能に加硫してなる加硫粘着組成物。」(請求項1)
(e-2)「本発明の加硫粘着組成物は、上記粘着成分に以下の加硫剤、加硫促進剤および加硫助剤よりなる加硫成分を配合して、これを適度に加硫することを特徴とする。上記加硫剤としては、イオウ、モホリン・ジスルフィド等のイオウ化合物、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン等のイオウを含む加硫促進剤、酸化マグネシウム、リサージ、亜鉛華等のイオウ以外の無機加硫剤、パラキノンジオキシム等のオキシム類、ジクミルペルオキシド等の過酸化物有機ペルオキシド等が挙げられる。」(段落【0013】)
(e-3)「なお、上記加硫剤には、従来使用されている、加硫促進剤、加硫助剤を併用できる。加硫促進剤としては、一般のゴムに使用される、アルデヒドアンモニア系、アルデヒドアミン系、チオウレア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系の加硫促進剤が挙げられる。また加硫助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛等の無機酸化物と、ステアリン酸等の脂肪酸が挙げられる。」(段落【0014】)
(e-4)「さらに、本発明の加硫粘着組成物は、上記加硫成分を配合した粘着組成物に予め適度な加硫を施しておくことを特徴とする。上記組合せによって、加硫粘着組成物を成形時に熱軟化できるようになる。なお、上記の『適度な加硫』状態とは、換言すれば粘着組成物に必要な加硫度をもたせることであって、その加硫条件は粘着成分や加硫成分の種類、その配合割合等によって決定される。一例を示すと、上記のような加硫成分配合量の場合は、粘着組成物を140?150℃で5?20分間加熱することで『適度な加硫』がなされる。」(段落【0016】)
(e-5)「実施例1
表1に示す配合の各成分を70℃で加圧ニーダにより混練し混合物を得た。次にこの混合物を、温度を140℃に設定したミキシングロールで練りながら加硫を行った。なお、上記加硫は加硫の初期段階において行った。上記加硫によって得られた混和物を、温度を100℃に設定したミキシングロールで成形し、その成形性を以下の基準に従って目視で判定したところ、表2に示す結果が得られた。
○…混和物がロールに均一に巻きついている
△…混和物がロールにやや不均一に巻きついている
×…混和物がロールに不均一に巻きついている
次に、100?130℃の逆Lカレンダーロールを用いて、厚さ0.1mmの布基材の片面に、上記混和物を厚さ0.1mmとなるように被覆した。仕上がり厚さ0.2mmの布基材を25mm幅に切断し布テープを得た。上記布テープを用いて、JIS C 2107の180度引きはがし接着力に準じ、以下の条件で接着力特性を試験したところ、表2に示す結果が得られた。
試験条件
圧着速度 毎秒50mm
圧着回数 1往復
圧着荷重 2kgローラー」(段落【0019】?【0020】)
(e-6)「実施例2?7
上記実施例1において、粘着組成物の配合比を表1に示すように変量する以外は全て同様にして、加硫を施した混和物を得、そのそれぞれについて実施例1と同様に成形性を調べたところ、表2に示す結果が得られた。また、上記各混和物を用いて、実施例1と同様にして布テープを作製し、接着力特性を試験したところ、表2に示す結果が得られた。」(段落【0021】)
(e-7)「【表1】

」(段落【0023】)
(e-8)「【表2】

」(段落【0024】)
(e-9)「以上詳述したように、本発明の加硫粘着組成物によれば、粘着成分のタッキネスと凝集力のバランスがとれるようになり、加熱によってもタッキネスが減少することが抑止されるようになる。粘着成分に加硫成分を配合して加硫し、特定範囲の加硫度を有する加硫粘着組成物にしたので、粘着組成物は加熱により軟化して成形可能になる。したがって、本発明によって、粘着剤のタッキネスと凝集力のバランスがとれて広範な温度域で良好な接着力を有し、成形時に熱軟化可能な粘着組成物が提供できる。」(段落【0025】)

(f)原査定で引用された引用文献6である
「特開平10-338856号」(以下、「刊行物6」という。)には、以下の事項が記載されている。
(f-1)「未加硫ゴムに加硫ゴムを、加硫ゴムの割合が10?90重量%となるように配合したムーニー粘度が60〔ML_(1+4)(100℃)〕以上であるゴム組成物を含有する粘着組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

(g)原査定で引用された引用文献7である
「特開昭54-133530号」(以下、「刊行物7」という。)には、以下の事項が記載されている。
(g-1)「エチレン、α-オレフインおよび非共役二重結合を有するポリエンモノマーからなるオレフインターポリマーを主体とするゴム質ポリマーに粘着性付与剤、軟化剤および要すれば充填剤その他の任意成分を配合し、これにハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイドおよび過酸化水素から選ばれる少なくとも一種の過酸化物からなる加硫剤と加硫助剤ないし加硫促進剤とを加えてなる低温加硫性感圧接着剤。」(特許請求の範囲)

(h)原査定で引用された引用文献8である
「特開平10-195405号」(以下、「刊行物8」という。)には、以下の事項が記載されている。
(h-1)「オキシム系架橋剤を酸化剤と共に配合し、架橋するブチルゴム粘着剤組成物において、ブチルゴム100重量部に対して、イミダゾール系架橋促進剤を少なくとも0.2重量部以上配合したことを特徴とするブチルゴム粘着剤組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

(i)原査定で引用された引用文献9である
「特公昭49-47256号」(以下、「刊行物9」という。)には、以下の事項が記載されている。
(i-1)「エチレン-プロピレンターポリマー(EPT)100部に対し、高分子量のポリイソブチレン(平均分子量50000?100000)50?150部、低分子量のポリイソブチレン(平均分子量約3000)5?50部、テルペン系樹脂、クロマン-インデン樹脂、フエノール系樹脂の如き樹脂系粘着性附与剤5?50部及び充填剤50?200部添加したものを母体コンパウンドとし、これに加硫剤、加硫促進剤を添加してテープ状に成形し加硫してなる自己融着性絶縁テープ。」(特許請求の範囲)

(2-2-2)刊行物5に記載された発明
刊行物5には、「加硫可能なゴム、軟化剤、粘着付与剤および加硫成分からなる粘着組成物であって、これを成形時に熱軟化可能に加硫してなる加硫粘着組成物。」(摘記(e-1))との記載があり、実施例7は【表1】に示される配合成分を有する混和物を布基材の片面に被覆して布テープを作製することが記載されている(摘記(e-5)?(e-7))。この混和物の具体的配合成分は、表1では「(*)実施例7では、ブチルゴムを使用」(摘記(e-7))とあることから、実施例7の布テープは、加硫可能なゴム(ブチルゴム)100重量部、非加硫高分子物質(ポリイソブチレン)50重量部、軟化剤(プロセスオイル)20重量部、粘着付与剤(石油系樹脂60重量部、ロジンエステル10重量部)、充填剤(重質炭酸カルシウム)70重量部、加硫剤2重量部、加硫促進剤2重量部、加硫助剤(酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸0.2重量部)、計319.2重量部を配合成分とする混和物を有する布テープであるといえる。さらに、この混和物は、「上記実施例1において、粘着組成物の配合比を表1に示すように変量する以外は全て同様にして、加硫を施した混和物を得」(摘記(e-6))ることが記載されることから、加硫処理の行われた「加硫粘着組成物」と認められる。また、「加硫粘着組成物」は、「成形時に熱軟化できるようになる」(摘記(e-4))ものであることから、加熱により軟化するものであって、有機溶剤や水を使用しない固形タイプの組成物であり、実施例7の配合成分を有する混和物を布基材の片面に被覆して布テープを作製する(摘記(e-5))のであるから、布テープは布基材上に加硫粘着組成物が粘着剤層として設けられているものと認められる。
以上のことから、刊行物5には、
「布基材上に、ブチルゴム、軟化剤、粘着付与剤および加硫成分からなる加硫された固形タイプの加硫粘着組成物を粘着剤層として設けた布テープ」(以下、「引用発明」という。)という発明が記載されている。

(2-2-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「加硫された」は、ゴムに対して架橋構造が付与された状態を意味することから、本願補正発明の「架橋された」に相当し、同様に引用発明の「加硫成分」は、本願補正発明の「架橋剤」に相当し、引用発明の「加硫粘着組成物」は加硫された粘着組成物であるから、本願補正発明の「粘着組成物」に相当し、また引用発明の「布テープ」は、上述のように粘着剤層を設けているから、本願補正発明の「粘着シート」に相当し、引用発明の「布基材」は本願補正発明の「基材」に相当する。
したがって、両者は、
「基材上に、少なくとも(a)ブチルゴム、(b)粘着付与剤、(c)架橋剤、からなる架橋された固形タイプの粘着剤組成物を粘着剤層として設けた粘着シート。」で一致し、次の点で相違する。

(ア)架橋剤について、本願補正発明では、「少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤」として特定されているのに対し、引用発明では、「架橋剤」の種類が特定されていない点(以下、相違点(ア)という。)
(イ)粘着シートについて、本願補正発明では、「防水気密用粘着シート」であると特定されているのに対して、引用発明では、「粘着シート」の用途が特定されていない点(以下、相違点(イ)という。)
(ウ)ブチルゴムについて、本願補正発明では、「再生ブチルゴム」であると特定されているのに対し、引用発明では、「ブチルゴム」の種類について特定されていない点(以下、相違点(ウ)という。)

(2-2-4)相違点についての判断
(a)相違点(ア)について
刊行物5には、「本発明の加硫粘着組成物は、上記粘着成分に以下の加硫剤、加硫促進剤および加硫助剤よりなる加硫成分を配合して、これを適度に加硫することを特徴とする。上記加硫剤としては、イオウ、モホリン・ジスルフィド等のイオウ化合物、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン等のイオウを含む加硫促進剤、酸化マグネシウム、リサージ、亜鉛華等のイオウ以外の無機加硫剤、パラキノンジオキシム等のオキシム類、ジクミルペルオキシド等の過酸化物有機ペルオキシド等が挙げられる。」(摘記(e-2))及び「加硫促進剤としては、一般のゴムに使用される、アルデヒドアンモニア系、アルデヒドアミン系、チオウレア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系の加硫促進剤が挙げられる。また加硫助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛等の無機酸化物と、ステアリン酸等の脂肪酸が挙げられる。」(摘記(e-3))との記載があり、加硫剤として、パラキノンジオキシム等のオキシム類は挙げられているが、キノイド加硫剤は記載されていない。
しかしながら、キノイド加硫剤であるポリ-p-ジニトロソベンゼンが弱い加硫作用を有し、ブチルゴムの熱処理助剤として用いられること、及び、熱処理助剤として、キノイド加硫剤であるポリ-p-ジニトロソベンゼンがパラキノンジオキシムと同様に有用であることは周知事項(下記文献A参照)である。
すなわち、キノイド加硫剤の一種であるポリ-p-ジニトロソベンゼンは、加硫作用が弱いので、ブチルゴムの熱処理助剤として作用し、この熱処理助剤は加硫作用が弱いものの、未加硫ゴムの「コールドフローを防止」や「押出しなどの作業性を向上」を達成するものであって、未加硫ゴム内での架橋を起因とした作用を達成しようとするものであるから、加硫剤の一種と認められる。
そうしてみると、刊行物5には加硫剤としてパラキノンジオキシムが記載されているところ、キノイド加硫剤であるポリ-p-ジニトロソベンゼンがパラキノンジオキシムと同様に用いられるものであるから、引用発明において、「架橋剤」を「少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤」とすることは、当業者が容易になし得ることである。


文献A:「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品 新訂版」、株式会社ラバーダイジェスト社、2001年4月27日発行(同文献は、原査定にて周知慣用の技術を示すために挙げられた文献である)
文献Aの第14?15頁には、「d.オキシム類,ニトロソ化合物」として,p-キノンジオキシム及びポリ-p-ジニトロソベンゼンが挙げられており,ポリ-p-ジニトロソベンゼンの項には、「[作用]加硫作用が弱いので,ブチルゴムの熱処理助剤(注を参照)あるいはブチル配合物の可塑度調節剤とする。・・・
注-ブチルゴムの熱処理助剤 ブチルゴムにチャンネルブラックのような表面に酸素を吸着したブラックを配合し,170?180℃の高温で5?10分間混練りすることにより,加工性や加硫物物性の向上が認められる。また,他のカーボンブラックや無機充てん剤の場合でも,熱処理助剤を配合すれば短時間に熱処理効果が得られ,未加硫ゴムの不加硫強度を向上させ,押出しなどの作業性を改良するとともに,コールドフローを阻止し,加硫物の電気的特性,動的特性,引張り強さなどを高めることができる。
なお,熱処理助剤としては,前記のポリ-p-ジニトロソベンゼン,p-キノンジオキシム・・・も有用で」と記載されている。

(b)相違点(イ)について
刊行物2の実施例1では、IIR(ブチルゴム)、石油系樹脂(粘着付与剤)GMF、PbO_(2)を含む粘着層組成物をテープ状に成型したものを、加硫シートにラミネートした接着テープが記載され、防水シートのジョイント部に接着テープを介して貼りつけ、曝露させた後、経日によっても浮きなしの結果が得られ(摘記(b-3)、(b-4))、「防水シートを強固に結合して遮水効果をあげること」(摘記(b-2))が示されており、また刊行物1、3及び4においても、ブチルゴムを主成分とする接着剤の貼付け対象物として「防水シート」(摘記(a-1)、(a-2)、(c-1)、(c-2)、(d-1))が記載されていることからみて、ブチルゴムを主成分とする粘着剤組成物の用途として防水用とすることは周知事項であるといえ、また、強固な基材に対する接着性能が達成される点において気密用も付随的な用途といえる。そうしてみると、同様にブチルゴムを主成分とする引用発明の粘着シートの用途として、防水気密用とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(c)相違点(ウ)について
引用発明では「ブチルゴム」を用いるものであるところ、耐久性や施工性の高い防水シートを得るために、防水シートの粘着剤に「再生ブチルゴム」を用いることは周知事項(下記文献B及びC参照)であるから、引用発明における「ブチルゴム」の代わりに「再生ブチルゴム」を利用することは、当業者であれば容易になし得ることである。


文献B:特開平6-279754号公報
同文献には、「本発明は建築物の屋根下地面に用いられる防滑性を有する防水テープに関する。」(段落【0001】)、「粘着材層3は、防水テープを屋根下地パネルに貼着し、かつ防水性を発揮するためのもので、・・・とくに耐久性にすぐれている非加硫ブチルゴム系の組成の一例を示すと、つぎのようである。
ブチルゴム 25(重量%)
再生ブチルゴム 12
ポリブテン 8
石油樹脂(粘着附与樹脂) 8
プロセスオイル(軟化剤) 4
炭酸カルシウム 42.6
老化防止剤 0.4
───────────────────────────
100
・・・
本発明の防水シートの製造手順については、芯材層2aに塗装をほどこして塗膜層1を形成せしめ、次いで芯材層2bに粘着材層3を複合させた後、所定の幅にスリットしてテープ状となす方法、・・・を用いても製造することが可能である。」(段落【0007】?【0008】)との記載がある。

文献C:特開2001-140413号公報
同文献には、「本発明は、ビル等の建築物の屋根屋上に使用される防水シートに関するものである。」(段落【0001】)、「得られた再生ブチルゴム490重量部と樹脂ペレット210重量部とを配合して、この例の配合物を得た。なお、オキシム系架橋剤として、p-キノンジオキシムを7.35重量部、加硫促進剤として、ジベンゾチアジルジスルフィドを19.6重量部、亜鉛華(3号)24.5重量部及びステアリン酸4.9重量部を配合した。配合物を2軸混練押出機により溶融混練し、樹脂相中に分散したゴム相を混練中に加硫し、加硫物を、2軸混練押出機のダイス部出口より約2mm厚のシート状に押し出し、得られたシートを冷却して、防水シートを製造した。」(段落【0048】?【0049】)、「本発明によれば、・・・再生されていないブチルゴムを用いるのと比べ、引張強度と引張伸びと熱融着性とに著しく優れ、耐久性及び施工性が極めて高い防水シートが得られる。」(段落【0055】)との記載がある。

(d)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、「接着力とともに保持力にも優れ、特に低温下での接着力は糊厚を薄くした場合でも低下がない」、「加熱により軟化して容易に成形できるので、有機溶剤や水を使用せずに粘着シートの製造が可能」及び「塗工後の乾燥工程が不要であって省エネルギー化に寄与」(段落【0038】)するというものである。
しかしながら、刊行物5には、「粘着剤のタッキネスと凝集力のバランスがとれて広範な温度域で良好な接着力を有し、成形時に熱軟化可能な粘着組成物が提供できる。」(摘記(e-9))とあり、粘着剤が熱軟化可能な固形タイプであることが示されることから、有機溶剤や水を使用することなく粘着シートの製造が可能であり、また乾燥工程も不要であることが理解できる。そして被着体に対する接着力についても、実施例7に記載される加硫粘着組成物を厚さ0.1mmとなるように布基材に被覆した場合の接着力特性は、0℃では3820g/25mm(約37.4N/25mm)、60℃では1200g/25mm(約11.8N/25mm)であり(摘記(e-8))、糊厚を薄くした場合でも特に低温下での接着力は低下がないことが明らかである。
よって、本願補正発明の効果については格別のものとすることはできない。

(e)請求人の主張について
請求人は、平成18年12月7日に提出した審判請求書の手続補正書において、「防水気密用粘着シートとしての具体的開示のない引例5-9においては、再生ブチルゴムに粘着付与剤と少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤を配合する架橋された固形タイプの粘着剤組成物を開示も示唆ものではありません。」との主張をしている。
しかしながら、(2-2-4)(b)で判断したように、ブチルゴムを主成分とする粘着剤組成物の用途として防水用とすることは周知事項であるといえ、引用発明の粘着シートを防水気密用粘着シートとすることは当業者が容易になし得ることであり、粘着剤組成物に再生ブチルゴムを配合すること及び粘着付与剤と少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤を配合することについても、それぞれ、(2-2-4)(c)及び(a)で判断したとおり、当業者が容易になし得ることであるから、請求人の上記主張を是認することができない。

(2-2-6)まとめ
したがって、本願補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、この補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
よって、本件補正は、その余の点を検討するまでもなく、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成16年8月20日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1(「少なくとも(a)ゴム質ポリマー、(b)粘着付与剤、(c)少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤、からなる架橋された固形タイプの粘着剤組成物。」)、請求項2(「(a)ゴム質ポリマーがブチルゴムであることを特徴とする請求項1記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物。」)及び請求項3(「基材上に請求項1または2に記載の架橋された固形タイプの粘着剤組成物を粘着剤層として設けたことを特徴とする粘着シート。」)を引用した次のとおりのものである。

「請求項3に記載の粘着シートからなる防水気密用粘着シート。」(以下、請求項2を引用した請求項3を引用した請求項4に係る発明を「本願発明4」という。)

(2)原査定の理由2及び引用文献の記載事項
拒絶査定における拒絶の理由(平成18年10月19日付けの「理由2」)の概要は、本願の各請求項記載の発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2001-40106号公報)、引用文献2(特開昭59-33375号公報)、引用文献3(特開昭60-130665号)、引用文献4(特開昭54-133525号)、引用文献5(特開平6-158007号)、引用文献6(特開平10-338856号)、引用文献7(特開昭54-133530号)、引用文献8(特開平10-195405号)及び引用文献9(特公昭49-47256号)は、それぞれ上記刊行物1?9であるから、その記載事項及び引用発明は上記の(2-2-1)及び(2-2-2)に記載されたとおりである。

(3)対比
本願発明4は、本願補正発明の粘着剤組成物を構成するゴムについて、「再生ブチルゴム」を「ブチルゴム」とするものであり、特許請求の範囲が拡張されたものに相当するから、本願発明4と引用発明とは、以下の点で相違する。

(ア’)架橋剤について、本願発明4では、「少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤」として特定されているのに対し、引用発明では、「架橋剤」の種類が特定されていない点(以下、相違点(ア’)という。)

(イ’)粘着シートについて、本願発明4では、「防水気密用粘着シート」であると特定されているのに対して、引用発明では、「粘着シート」の用途が特定されていない点(以下、相違点(イ)という。)

(4)判断
相違点(ア’)及び(イ’)は、上記相違点(ア)及び(イ)と実質的に等しいから、上記2.(2)(2-2-4)の「(a)相違点(ア)について」及び「(b)相違点(イ)について」において示した理由と同様の理由で、引用発明において、「架橋剤」を「少なくともキノイド加硫剤を含む架橋剤」とすること、及び、「粘着シート」の用途について「防水気密用」とすることは、それぞれ当業者であれば容易になし得ることである。
また、本願発明4の効果についても、上記2.(2)(2-2-4)の「(d)本願補正発明の効果について」に示したとおり、格別なものであるということはできない。
そうすると、本願発明4は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明4は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-10 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2001-230730(P2001-230730)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
P 1 8・ 575- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 栄和  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 西川 和子
坂崎 恵美子
発明の名称 架橋された固形タイプの粘着剤組成物とその粘着シートおよび防水気密用粘着シート  

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