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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01R
管理番号 1207343
審判番号 無効2009-800017  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-02 
確定日 2009-11-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第2692055号発明「フレキシブル基板用電気コネクタ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許2692055号に係る出願は、平成5年11月18日に特許出願され、平成9年9月5日特許の設定登録がなされた。
これに対して、請求人より平成21年2月2日に、本件請求項1、2に係る発明の特許について無効審判の請求がなされ、被請求人より平成21年4月28日付で答弁書が提出された。
その後、平成21年7月24日に、請求人、被請求人より口頭審理陳述要領書が提出されると共に口頭審理が行われ、被請求人より平成21年7月30日付で上申書が提出された。


2.本件請求項1、2に係る発明
本件請求項1、2に係る発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し、ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え、上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され、該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に、側方から上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し、加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、ハウジングは、上記フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部の位置よりも奥部に、該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。
【請求項2】 回動支持部は、各接触子と対応せる軸方向位置にて複数に分割され、それぞれが上記対応せる接触子と一体に板状に形成され、ハウジングの対応保持溝に保持されていることとする請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ。」


3.請求人の主張
請求人は、本件請求項1、2に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(理由1)であり、又、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(理由2)であり、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(理由3)であり、又、甲第1号証記載の発明、甲第5号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(理由4)であり、したがって、本件請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として、甲第1号証(実願平2-104454号(実開平4-61883号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(実願昭61-196179号(実開昭63-99790号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(実願昭61-98180号(実開昭63-4088号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(特開平2-309577号公報)、甲第5号証(特開平1-315976号公報)を提出している。


4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて、又、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証記載の発明に基づいて、又、甲第1号証記載の発明、甲第5号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反せずに特許されたものであると主張している。


5.甲第1号証?甲第5号証
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
1-a「絶縁体製のハウジング本体と、可動側壁部とを具備し、前記ハウジング本体を直立する内壁を有する固定側壁部と、前記固定側壁部の両端に一体に構成したフランジ部と複数個のコンタクトの端子を配列するとともに、フラット・ケーブルの端部を挿入する中空部と、前記中空部を隔てて前記両フランジ部間に伸長する基底部とから成るものとし、前記可動側壁部を前記フランジ部に回動可能に軸受け支持し、前記可動側壁部の内面にケーブル・ロック用突起を形成し、前記突起より上方の内面を前記可動側壁部を前記固定側壁部に対して閉鎖位置にしたときに、前記固定側壁部の直立する内壁に対して末広状に伸長する傾斜壁として成るフラット・ケーブル用コネクタ。」(明細書第1頁第5?19行)

1-b「この考案はフラット・ケーブル用コネクタ、より詳細にはプリント基板にFPCケーブルを接続するのに使用するフラット・ケーブル用コネクタに関する。」(明細書第2頁第8?11行)

1-c「フラット・ケーブル用コネクタ10は絶縁体製のハウジング本体12と可動側壁部14とを具備する。ハウジング本体12は長手方向に伸長する固定側壁部16と、その長手方向の両端において一体に構成したフランジ部18と、固定側壁部16と中空部20を介して両フランジ部18間に伸長する基底部22とから成っている。固定側壁部16の中空部20側の側面、すなわち内面は直立壁に形成してあって、この中空部20に、一定の間隔をとって複数個のコンタクトの端子24が配列してある。
可動側壁部14は、これを第2図に示すように、固定側壁部16に対して開放した位置にし、可動側壁部14と固定側壁部16との間の中空部20の一部にフラット・ケーブルFを挿入して、可動側壁部14を、第3図に示すように、回動して閉塞位置にすることによって、ケーブルF中の導体をコンタクトの端子24に圧着する。
そのために、可動側壁部14の両端は外方に突出する軸部26にしてあり、ハウジング本体12の両端のフランジ部18に形成した軸受部28に嵌装するようにしてある。
また、可動側壁部14を的確に回動支持するために、可動側壁部14の一方の側面を軸部26に連続する円弧状側面30に形成し、基底部22の中空部20に対向する面を円弧状の凹面32に形成してある。
前に述べた回動側壁部16の回動によってケーブルFをコンタクトの端子Fに圧着するために、第3図に示すように、可動側壁部14の内面にはケーブル・ロック用突起34が形成してある。」(明細書第4頁第8行?第5頁第18行)

1-d「ハウジング本体12の固定側壁部16について、可動側壁部14を開放した位置にし、フラット・ケーブルFの接続側の端部を固定側壁部16のコンタクトの端子24に沿って、中空部20内に挿入する。」(明細書第7頁第2?6行)

1-e「次に、可動側壁部14を回動して固定側壁部16に押しつける。その操作によって、可動側壁部14のケーブル・ロック用突起34が挿入されているフラット・ケーブルFの表面に接し、これをコンタクトの端子24に押しつける。…これによって可動側壁部14に特別な外力を加えることなく、ケーブルFの導体をコンタクトの端子24に圧着して、いわゆるケーブルのゼロ・フォース・インサーションがなされる。」(明細書第7頁第12行?第8頁第4行)

上記1-a及び第2図、第3図の記載を考慮すると、可動側壁部が、閉塞位置と開放位置の間を移動することにより、中空部に対し蓋の機能を果たしている。

また、上記1-d、1-e及び第2図、第3図の記載を考慮すると、甲第1号証記載のコネクタは、可動側壁部開放時には、フラット・ケーブルが挿入可能な空間が可動側壁部とコンタクトの端子の間に必要であり、可動側壁部閉塞時には、フラット・ケーブルをケーブル・ロック用突起でコンタクトの端子に圧着しているから、可動側壁部のケーブル・ロック用突起は、回動軸線からの距離が異なる、フラット・ケーブル挿入用と圧着用の二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものと認められる。

上記記載に基づけば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの中空部に端子が配列された複数のコンタクトを有し、ハウジングの基底部に形成され中空部に臨む位置に設けられた可動側壁部を回動支持するための円弧状側面を備え、コンタクトに近接した閉塞位置と閉塞位置から離反した開放位置との間を蓋状の可動側壁部が円弧状側面により回動自在に支持され、可動側壁部は閉塞位置に向け回動した際に、上方から中空部に挿入されてコンタクト上に配されたフラット・ケーブルをコンタクトに対して圧着するケーブル・ロック用突起を有し、ケーブル・ロック用突起は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、可動側壁部を閉塞位置まで回動せしめたときに、コンタクトの端子がフラット・ケーブルの一側面で支点を形成し可動側壁部の移行部がフラット・ケーブルを他側面から加圧するフラットケーブル用コネクタ」

甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
2-a「可撓性を有する印刷ケーブル(1)の接続用コネクタであり、
突端部(16d)が対向するように並設させた一対の接続片(16b)を有する複数本のコンタクト(16)を植設し、該ケーブル(1)の挿入口(15)を有する第1の絶縁体(12)と、
一対の該突端部(16d)の対向間に挿入した該ケーブル(1)の接続部に沿つて該対向間に挿入し、該接続部の導体パターン(3)を一方の突端部(16d)に押接させる突起(18)を有する第2の絶縁体(13)とを具え、
該挿入ケーブル(1)の接続部の先端に近い側で該突端部(16d)の輪郭(16e)が、該先端方向に中心の位置する円弧形状であることを特徴とする印刷ケーブル用コネクタ。」(明細書第1頁第5?19行)

2-b「第1図(イ)において、コネクタ11は複数本のコンタクトを植設した第1の絶縁体12と第2の絶縁体13からなり、印刷ケーブル1の接続部は絶縁体13の長孔14を貫通し、絶縁体12のケーブル挿入口15から絶縁体12に挿入される。
第1図(ロ)、(ハ)において、プラスチックをモールド形成し、図紙の厚さ方向に複数本のコンタクト16を植設した絶縁体12は、各コンタクト16を仕切る隔壁17を一体に形成し、上に開口するケーブル挿入口15に連なって各隔壁17の中央を切り欠いてある。
プラスチックをモールド形成してなる絶縁体13は、中間部が幅方向の中央から突起18が垂下するT字形断面であり、ケーブル1の接続部を挿入する長孔14は、突起18の一側(図は右側)に沿って穿設されている。
ばね性のある金属板から形成したコンタクト16は、絶縁体12に係止する突起を有する板部16aと、板部16aの上辺に接続し絶縁体12に収容される一対の接続片16bと、板部16aの下辺に接続し絶縁体12の下面より突出するリード片16cからなる。
第1図(ロ)は絶縁体13を引き上げ、印刷ケーブル1の接続部を絶縁体12に挿入した状態であり、一対の突端部16eの間隔lは、突起18の厚さt1に印刷ケーブル1の接続部厚さt2を加えた寸法より適宜小さい値にしてある。
第1図(ハ)は絶縁体13を押下し、印刷ケーブル1をコネクタ11に接続した状態であり、突起18の挿入によって一対の接続片16bは外側に弾性変形し、右側の接続片16bの突端部16dと導体パターン3とは所定の圧力で接触するようになる。」(明細書第6頁第14行?第8頁第5行)

第1図(ハ)を参照すると、印刷ケーブル1をコネクタに接続した状態であって、突起18と接続片16bの突端部16dで押接された印刷ケーブル1の先端部が隔壁17の中央の切欠部斜面に接していると認められる。

上記記載に基づけば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「突端部が対向するように並設させた一対の接続片を有する複数本のコンタクトを植設し、印刷ケーブルの挿入口を有する第1の絶縁体と、一対の該突端部の対向間に挿入した印刷ケーブルの接続部に沿つて該対向間に挿入し、該接続部の導体パターンを一方の突端部に押接させる突起を有する第2の絶縁体とを具え、該突起の挿入によって一対の接続片は外側に弾性変形し、一方の接続片の突端部と導体パターンとは所定の圧力で接触し、その際に、印刷ケーブルの先端部が隔壁の中央の切欠部斜面に接している印刷ケーブル用コネクタ」

甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
3-a「コンタクトを装備したカードが挿抜されるカード保持孔を具備するボデイに、先端側にばね性を有する接片部分が形成された導電片が保持されていると共に、上記接片部分にカードのコンタクトに接離されるコンタクトが設けられ、上記カード保持孔の底面の所定箇所に、カード保持孔に挿入された上記カードの先端部が乗り上がる傾斜したガイド面が設けられ、カードの先端部がこのガイド面に乗り上がつていくときに、このカードのコンタクトが上記接片部分のコンタクトに当接し、この当接後に上記接片部分がそのばね性に抗して押し上げられるように構成したことを特徴とするコネクタ。」(明細書第1頁第5?17行)

3-b「本考案は、コンピュータを装備した機器本体にコンピュータプログラムを記憶したROMカードやICカードを電気的に導通させることのために使用されるコネクタに関する。」(明細書第1頁第20行?第2頁第3行)

3-c「また、カード保持孔18の底面20の奥端部、すなわち後壁14の近傍箇所には、後壁14に近付くほど上位となるように傾斜したガイド面21が設けられている。」(明細書第8頁第18行?第9頁第1行)

3-d「次に上記コネクタの作用を説明する。
ROMカード50をカード保持孔18へ挿入し、その先端部をガイド面21の下端に突き合わせた状態を第2図に仮想線で示している。この状態では、ROMカード50の先端部50aがカード保持孔18の底面20に当たっていると共に、ROMカード50の中間部分がカード支持具43の上端部43aによって支持されている。また、ROMカード50のコンタクトは接片部分39のコンタクト40に接触していないか、接触しているとしてもその接触圧は零に近い。この状態からさらにROMカード50を押し込むと、ROMカード50の先端部50aがガイド面21に乗り上がり始める。これにより、ROMカード50のコンタクトが接片部分39のコンタクト40に当接し、この当接時点以降においては、ROMカード50のコンタクトが接片部分39のコンタクト40に当接したまま接片部分39をそのばね力に抗して押し上げる。したがって、ROMカード50の先端部50aがガイド面21に完全に乗り上がった時点、すなわち第3図のようにROMカード50の先端部50aが後壁14に当たるセット位置に達した時点では、接片部分39のばね力によってこの接片部分39のコンタクト40がROMカード50のコンタクトに弾接する。この状態では、カード支持具43によってROMカード50の中間部が支持されており、かつROMカード50の先端部50aがガイド面21に完全に乗り上がっており、しかも、上述の式1(注:原文は○内に1)で示したt≒a=lzの関係によりROMカード50ががたつきなく確実にカード保持孔18に保持されるから、ROMカード50のコンタクトと接片部分39のコンタクト40とが確実に導通される。」(明細書第12頁第19行?第14頁第11行)

上記記載に基づけば、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「コンタクトを装備したカードが挿抜されるカード保持孔を具備するボデイに、先端側にばね性を有する接片部分が形成された導電片が保持されていると共に、上記接片部分にカードのコンタクトに接離されるコンタクトが設けられ、上記カード保持孔の底面の後壁の近傍箇所に、カード保持孔に挿入された上記カードの先端部が乗り上がる傾斜したガイド面が設けられ、カードの先端部が上記ガイド面に乗り上がったときに、カード支持具によってカードの中間部が支持されるとともに、上記カードのコンタクトが上記接片部分のコンタクトに当接して、上記接片部分がそのばね性に抗して押し上げられるコネクタ」

甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
4-a「回路板のパッドにフレキシブルケーブルの導体部を接続する回路板エッジコネクタにおいて、
該回路板を受け入れる回路板受入部と、
前記回路板受入部近傍に配設され、露出導体部をもつケーブルを受け入れ、収納するケーブル受入部と、
前記回路板受入部近傍に配設され、前記回路板受入部及びケーブル受入部に受け入れられている前記回路板及びケーブルを支持する支持部と、
前記回路板受入部へ前記回路板を収容した状態で、前記回路板のコネクタ及び前記ケーブルの露出導体部を互いに弾性的に押圧して、前記回路板のパッド及びケーブルの導体部間の電気的接続および前記支持部による支持を確実にする弾性手段と、
を備えることを特徴とする回路板エッジコネクタ」(第1頁左下欄第5行?右下欄第2行)

4-b「本発明は、回路板エッジコネクタに関し、特に平板状可撓性ケーブル等のケーブルを回路板に設けられたパッドと電気的に接続する回路板エッジコネクタに関する。」(第1頁右下欄第5?8行)

4-c「嵌合部46は、中間部50から延びており、略C形の構成を有する。各嵌合部46の一端には弧状カム面54が、対向端部には拡大部材56が設けられ、この部材は回路板6がコネクタ2のハウジング10中へ完全に挿入されたとき、回路板に力を及ぼす。部材56とカム面54との接続部は弾性部分58である。弾性部分58は、部材56が第5図に示す第1位置と、第4図に示す第2位置の間でカム面54に関して運動するのを可能とするに必要な弾性を与える。」(第4頁左上欄第1?10行)

4-d「前縁表面78がハウジング10の第1停止面22に係合するまで、回路板6は角度を付けて挿入される。
回路板6の前縁表面78がハウジング10の表面22と係合した場合、回路板6はカム面54を中心として、第7図に示す位置までピボット運動する。」(第5頁左上欄第15行?右上欄第1行)

4-e「回路板6をカム面54を中心として完全に回転させた場合、回路板6は第7図の矢印で示されている方向へ移動する。この運動は、第8図に示すように、前縁が第2停止面26に係合するまで継続する。この完全に挿入された位置において、ロック突起32は回路板6に設けられた開口にスナップ嵌合する。開口84との突起32の協働がコネクタ2からの偶発的な逸脱を防止する。回路板6は、カム面54、拡大部材56、及び壁20の固定肩24によって、下面18との平行関係に維持される。この完全に挿入された位置において、部材56は、変位された位置にとどまり、回路板6に下向きの力を及ぼす。しかしながら、回路板の下向きの運動が肩24及びカム面54によって妨げられるので、回路板は第3図及び第8図に示す位置に固定される。」(第5頁右上欄第16行?左下欄第11行)

上記記載に基づけば、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「回路板のパッドにフレキシブルケーブルの導体部を接続する回路板エッジコネクタにおいて、回路板受入部へ回路板を収容した状態で、回路板は、カム面、拡大部材、及び壁の固定肩によって、ハウジング下面との平行関係に維持され、回路板及びフレキシブルケーブルを互いに弾性的に押圧して、回路板及びフラットケーブルの電気的接続およびカム面、及び壁の固定肩による支持を確実にする、先端に拡大部材を有する弾性部分からなる回路板エッジコネクタ」

甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
5-a「この発明は、電気導体を印刷回路板の回路に接続する無挿入力式電気コネクタに関する。」(第3頁右上欄第2?3行)

5-b「まず第1図を参照して、本発明の電気コネクタ2は、平可撓ケーブル200の電気トレース202を印刷回路板210に接続する。」(第5頁右上欄第8?10行)

5-c「今度は第14,15図を参照して、本発明のコネクタによって平リボンケーブル700の導体702を印刷回路板の印刷回路板トレースに接続することもできる。」(第8頁左上欄第4?7行)

5-d「電気コネクタ602の主要構成要素として絶縁ハウジング604、複数の端子630ならびにカム670がある。
同じく第14,第15図を参照して、ハウジング604に線受入面606と、印刷回路板に当接させる取付け面608がある。線受入面606に設けられている複数の線受入穴610が端子受入空洞部612に連通している(第16図参照)。ハウジング604の出張り部614がハウジングの前面から突出しており、出張り部614に複数の並置溝620が設けられている。第15図に示すごとく、ハウジング604の上面に輪郭研削した陥没部616がある。」(第8頁左上欄第7?18行)

5-e「次は第22図を参照しつつ端子630について詳述する。端子630の第1U字形部分634は第1アーム636と第2アーム638によって境界が仕切られている。第1アーム636、第2アーム638の自由側端部に各々線接触部640,642がある。…第1U字形部分634と第2U字形部分648は共に両U字形部分をレグ652に接続しているウェブ部分650を介して端子の他の部分に接続されている。レグ652は、回路板ポスト656が下向きに突出している本体654に一体化接続されている。
再び第14図を参照して、カム670のアーム部分672がコネクタの前面を遮断している水平軸674に接続されている。水平軸676の幅に沿って複数の溝676があり、各溝にカム部分がある。第16,17,18,19図に示すごとく、カムは全体的に円形でありながら、円筒部の長手方向に沿って円筒部から取去った2つの平坦平行部分があり、第17図に示すごとく偏心器680が形成されている。」(第8頁左上欄第19行?右上欄第20行)

5-f「第16図に示すごとく、端子の第2U字形部分が水平軸部分に重なっており、カム670を保持している。また、第3アームの自由側端部が相手溝620の中にはまり、端子とカム670の横方向移動を阻止している。この集合体は、端子自体がカムを保持するためにカムとハウジングとの間の保持(ラッチ)手段が不要であり、高度の成形装置が不要であり、構造が簡素でありながら極めて機能的に優れている電気コネクタであるということを関係者は理解されよう。」(第8頁左下欄第7?16行)

5-g「第16,17図を参照して、この電気コネクタを用いて、ハンドルを第16図に示す位置から第17図に示す位置へ回すだけで多導体ケーブル700の固体導体を印刷回路板トレースに接続することができる。第16図に示す位置ではカム678の平坦面が端子の第3レグ部分646に平行に隣接している。カムを第17図の位置へ移動させれば偏心器部分680が第1レグ636、第2レグ638の延長部になっている第3レグ646に接触し、2つの接触部640,642を互いに一定間隔だけ隔てる。
この電気端子/カムシステムは輪郭研削されており、接点640,642の間に間隙があるために挿入力をかけることなく裸導体を両接点の間に挿入することができ、そのためこのシステムは一般に無挿入力(zero insertion force ZIF)コネクタと呼ばれている。導体702を接点640,642の間に完全に挿入すればカム670を第14,16図の第1位置へ戻し、接点640,642を導体に接触させることができる。電気端子が第22図に示す自由状態にある時は、接点640,642間の間隙は接触させるべき導体の直径よりも小さい。
それ故、導体を2つの接触部の間に入れればU字形部分634と2つのアーム636,638が導体702に対する蓄積エネルギー電気接続体になる。」(第8頁左下欄第17行?右下欄第20行)

上記記載に基づけば、甲第5号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「上方に開口せる絶縁ハウジング604の開口部に接点640,642が配列された複数の端子630と、該絶縁ハウジング604に保持された端子630に形成され上記開口部に臨む位置に設けられた第2U字形部分648と、偏心器部分680が端子の第3レグ部分646に接触する位置と平坦面が端子の第3レグ部分646に平行に隣接する位置との間の回動に端子の第2U字形部分がカム670の水平軸部分を保持し、上記接触する位置に向け回動した際に2つの接点640,642を互いに一定間隔だけ隔て、上記平行に隣接する位置に回動した際に2つの接点640,642を導体と接触する元の位置に戻すようにするためのカム670を備える無挿入力式電気コネクタにおいて、第2U字形部分648は、該第2U字形部分648の回動軸線方向における各端子630と対応せる位置で複数に分割され、それぞれが上記対応せる端子630と一体に形成され、絶縁ハウジング604の対応端子受入空洞部612に保持されていることを特徴とする無挿入力式電気コネクタ」


6.対比
そこで、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明を比較すると、甲第1号証に記載された発明の「中空部」、「端子」、「コンタクト」、「可動側壁部を回動支持するための円弧状側面」、「閉塞位置」、「可動側壁部」、「フラット・ケーブル」、「圧着する」、「ケーブル・ロック用突起」は、各々その機能をも考慮すると、本件請求項1に係る発明の「開口部」、「弾性接触部」、「接触子」、「回動支持部」、「所定位置」、「加圧部材」、「フレキシブル基板」、「圧する」、「加圧部」に、それぞれ相当し、甲第1号証に記載された発明の「ハウジングの基底部」は、ハウジングの一部であるから、本件請求項1に係る発明の「ハウジング」に相当するから、両者は、
「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し、ハウジングが上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え、上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され、該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に、上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し、加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の一面で支点を形成して上記加圧部材の移行部がフレキシブル基板を他面から加圧するフラットケーブル用コネクタ」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件請求項1に係る発明の「上方」、「側方」は、それぞれ甲第1号証に記載された発明の「側方」、「上方」に相当しており、本件請求項1に係る発明は、フレキシブル基板は側方から開口部に挿入されるのに対し、甲第1号証に記載された発明は、フレキシブル基板は上方から開口部に挿入され、又、本件請求項1に係る発明は、加圧部材がフレキシブル基板を上方側から加圧するのに対し、甲第1号証に記載された発明は、加圧部材がフレキシブル基板を側方から加圧する点。
〔相違点2〕
本件請求項1に係る発明は、フレキシブル基板の支持のために、ハウジングは、フレキシブル基板の挿入方向にて弾性接触部の位置よりも奥部に、フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して、加圧部材の移行部が二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧しているのに対し、甲第1号証に記載された発明は、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の一側面で支点を形成して加圧部材の移行部がフレキシブル基板を他側面から加圧している点。


7.本件請求項1に係る発明についての判断
〔相違点1〕について
本件請求項1に係る発明も甲第1号証に記載された発明も、ハウジングは開口部を有しており、この開口部の開口方向を上方・側方とするか、側方・上方とするかは、電気コネクタが配置される装置において、電気コネクタの構成を、他部材との相対的位置関係等を考慮して決定されるものであるから、当業者であれば開口方向は適宜決定できるものと認められる。

〔相違点2〕について
(1)請求人の主張のうち、(理由1)に基づいて判断する。
甲第2号証の第1図では、印刷ケーブルの先端部が隔壁の中央の切欠部斜面に接しているものと認められる。
しかし、甲第2号証には、コンタクトの二股部分で印刷ケーブルを所定の圧力で加圧支持することは記載はあるものの、隔壁の中央の切欠部斜面で印刷ケーブルの先端部分を、単なる接触ではなく支持する点については、記載も示唆もない。
また、甲第2号証記載のものは、二股になっているコンタクトの該二股を加圧部材で開口して、当該開口に加圧部材を挿入し、即ち二股で加圧部材を狭持して、二股が閉口しないようして電気的接続を行うものであって、被請求人が挟持型コネクタと呼称するものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明は、ハウジングの開口部の接触子に相当するコンタクト上に、フレキシブル基板に相当するフラット・ケーブルを加圧部材の動作とは無関係に載置し、その後、接触子に相当するコンタクトに近接した所定位置に向け加圧部材を回動させ、加圧部材でフレキシブル基板に相当するフラット・ケーブルを接触子に相当するコンタクトに対して圧するものであって、被請求人が回動・加圧型コネクタと呼称するものである。
したがって、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用しようとしても、甲第1号証記載のものが、接触子に相当するコンタクトで加圧部材を挟持する必要が無いから、甲第1号証記載の回動・加圧型コネクタとはタイプの異なる甲第2号証記載の挟持型コネクタを適用することは、当業者であっても容易に考えられたものとは認められず、又、仮に甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用できたとしても、甲第1号証記載のものが、フレキシブル基板を挟んで加圧部材の反対側は、接触子に相当するコンタクトが支持するのみで、二支点で支持する点について記載も示唆も無く、甲第2号証記載のものもフレキシブル基板を二支点で支持することが記載も示唆もされていないから、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明から、フレキシブル基板を二支点で支持することが導き出されず、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
そして、本件請求項1に係る発明は、〔相違点2〕に係る構成を備えることにより、加圧部材を一旦所定位置まで回動すれば、フレキシブル基板の結線が不用意に外れることがなくなり、かかる外れを防止するためのロック機構をコネクタの側部等に設ける必要もなくなり、加圧部材の加圧部が二支点の間で押圧するようになっているので、フレキシブル基板は撓み変形を生じるようになり、各部の位置及び寸法の精度のバラツキがあっても、接触信頼性に大きな差をもたらさないという効果をもたらすものであり、この様な効果は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から、当業者といえども予測し得るものでは無い。

(2)請求人の主張のうち、(理由2)に基づいて判断する。
請求人は、甲第2?4号証には、本件請求項1の「ハウジングは、上記フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部の位置よりも奥部に、該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっている」点が記載されており、当該技術がコネクタの分野において本件出願前に既に周知技術である旨主張している。
しかし、甲第2号証記載のものは、上述したように挟持型コネクタであって、回動・加圧型コネクタとはタイプが異なっている。
また、甲第3号証記載のものは、ハウジングが、フレキシブル基板の挿入方向にて弾性接触部に相当するコンタクトの接片部分の位置よりも奥部に、フレキシブル基板の先端部を接触子に相当するコンタクト側に近接せしめる状態で支持するための支持部とカード支持具で二支点支持する点は記載されてはいるが、当該両支持部のフレキシブル基板を挟んで反対側は、弾性接触部に相当するコンタクトの接片部分が接するのみで、接触子に近接した所定位置に向け加圧部材を回動させ、加圧部材でフレキシブル基板を接触子に対して加圧する点、即ち回動・加圧型コネクタである点は記載も示唆もない。
また、甲第4号証記載のものは、ハウジングが、回路板の挿入方向にて弾性接触部に相当する拡大部材の位置よりも奥部に、回路板の先端部を拡大部材側に近接せしめる状態で支持するための壁の固定肩とカム面を有する点は記載されてはいるが、壁の固定肩・カム面の基板を挟んで反対側は、拡大部材が接触するのみで、接触子に近接した所定位置に向け加圧部材を回動させ、加圧部材でフレキシブル基板を接触子に対して加圧する点、即ち回動・加圧型コネクタである点は記載も示唆もない。
したがって、甲第2?4号証記載のものは、何れも甲第1号証記載のもののような回動・加圧型コネクタを前提としてフレキシブル基板を二支点で支持するものでは無いから、コネクタ全般の技術分野において、上記請求人の主張する点が本件出願前に既に周知技術であったとは認められず、したがって、請求人が主張するように甲第1号証記載の発明に甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術を適用しようとしても、甲第1号証記載の回動・加圧型コネクタとはタイプの異なるコネクタを前提とする技術を適用することは、当業者であっても容易に考えられたものとは認められない。


8.本件請求項2に係る発明についての判断
(1)請求人の主張のうち、(理由3)(理由4)に基づいて判断する。
請求人は、甲第5号証には、本件請求項2の「回動支持部は、各接触子と対応せる軸方向位置にて複数に分割され、それぞれが上記対応せる接触子と一体に板状に形成され、ハウジングの対応保持溝に保持されている」点が記載されている旨主張している。
しかし、本件請求項1に係る発明が、上述のとおり、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、又、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件請求項1に係る発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本件請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、又、甲第1号証記載の発明、甲第5号証記載の発明及び甲第2号証?甲第4号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件請求項1に係る発明の特許及び請求項2に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-15 
結審通知日 2009-09-17 
審決日 2009-10-06 
出願番号 特願平5-311078
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深沢 正志  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 佐野 遵
岡本 昌直
登録日 1997-09-05 
登録番号 特許第2692055号(P2692055)
発明の名称 フレキシブル基板用電気コネクタ  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 佐竹 勝一  
代理人 高石 秀樹  
代理人 吉田 精孝  
代理人 市川 英彦  
代理人 西島 孝喜  
代理人 柳 順一郎  
代理人 吉田 和彦  
代理人 長内 行雄  
代理人 小和田 敦子  

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