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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C
管理番号 1207347
審判番号 不服2008-15710  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2009-12-08 
事件の表示 特願2004-261665「樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 77283、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月8日の出願であって、平成20年2月14日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月21日付けで手続補正がなされたものの、同年5月14日付けで拒絶査定がなされたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として、同年6月19日に請求がなされたもので、同年7月22日付けで手続補正がなされたものである。
2.平成20年7月22日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年7月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1、2について、(1-1)とあるのを、(1-2)とする補正事項を有するものと認める。

(1-1)
「【請求項1】
アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板において、
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)を0.30乃至0.55μmの範囲とし、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲とし、
最大長が10μm以上であるAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm^(2)以下とし、かつ、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下としたことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製造するための樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行い、このうち、
前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)が0.30乃至0.55μmの範囲となり、前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)が0.2乃至0.8μmの範囲となるように、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さR_(a)が0.4乃至0.8μmである圧延用ワークロールを用いて行うことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1-2)
「【請求項1】
アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板において、
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行い、このうち、
前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さR_(a)が0.4乃至0.8μmである鋳鍛鋼製圧延用ワークロールを用いて行うことにより製造されたアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)を0.30乃至0.55μmの範囲とし、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲とし、
最大長が10μm以上であるAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm^(2)以下とし、かつ、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下としたことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板を製造するための樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、
Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行い、このうち、
前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)が0.30乃至0.55μmの範囲となり、前記アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)が0.2乃至0.8μmの範囲となるように、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さR_(a)が0.4乃至0.8μmである鋳鍛鋼製圧延用ワークロールを用いて行うことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

(2)判断
当該補正事項は、補正前の請求項1に、「溶解・鋳造して鋳塊を作製する第一工程、第一工程後に均質化熱処理する第二工程、第二工程後に熱間圧延する第三工程、及び第三工程後に冷間圧延する第四工程、を順に行い、このうち、
前記第三工程の熱間圧延の開始温度を450乃至550℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第四工程の冷間圧延における最終冷間圧延を、ロール軸方向におけるワークロール胴部表面の算術平均粗さR_(a)が0.4乃至0.8μmである鋳鍛鋼製圧延用ワークロールを用いて行うことにより製造された」を新たに追加し、第一工程から第四工程により成るアルミニウム合金板の製造方法について、第三工程の熱間圧延の開始温度及び第四工程の冷間圧延において用いる圧延用ワークロールの表面粗度を新たに特定するものであるが、補正前の請求項1では、第一工程から第四工程により成る製造方法については、発明を特定するために必要な事項としていないから、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものには該当しない。
そして、上記補正事項が、同特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、又は、同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明らかである。

(3)むすび
以上のとおり、上記補正事項を有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。
3.本願発明についての審決

(1)本願発明
平成20年7月20日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、同年4月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されたとおりのものであって、前記「2.(1-1)」に記載されたとおりである。(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)

(2)原査定の拒絶の理由
原審における拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「A.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1には、「アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲」に特定したアルミニウム合金板が記載されるが、斯かる物と従来の技術水準(特開2004-124250号公報)との相違が不明であるから、発明が明確ではない。
また、発明の詳細な説明では、【表2】及び【表5】を見れば明らかなように、「アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さRaを0.30乃至0.55μmの範囲」としたものは全て「アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲」となっており、ろ波中心線うねりを設定する意義も明らかにされておらず、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとも認められない。

C.本願発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1に記載された発明に基づいて、本願発明2は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1、2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2004-124250号公報
刊行物2:特開2004-183035号公報 」

(3)当審の判断

(3-1)理由Aについて
本願発明1は、アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に係る発明であり、本願明細書の【0051】には、その実施例として、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の両面に厚さ20μmのPET樹脂をラミネートし、260℃にて熱処理を行い、樹脂フィルムを被覆するアルミニウム合金板が記載されている。
これに対し、従来の技術水準とされる特開2004-124250号公報に記載された発明(以下、「従来発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、包装容器用のアルミニウム合金板に係る発明であり、具体的には、【0021】の「前記ボトル缶の内表面には、エポキシ・フェノール、エポキシ・尿素、ビニルオルガノゾル等の溶剤系あるいはアクリル変性エポキシ樹脂を含む水性塗料を用いてスプレー塗料が施され、その後オーブンで塗装焼き付きを行うことにより、塗膜が3?5μm程度形成される。」との記載によれば、塗料をスプレー塗装し、オーブンで塗装焼き付けし、3?5μm程度の塗膜を形成する包装容器用アルミニウム合金板である。
そうすると、従来発明は、3?5μm程度の塗膜を焼き付けにより形成された包装容器用アルミニウム合金板であるのに対し、本願発明1は、20μmの樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板であり、本願発明1は、被覆される樹脂の形態が相違する包装容器用アルミニウム合金板である点において、従来発明とは相違するから、本願発明は、明確であることは明らかである。

また、本願発明1において、「アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲」と設定する技術的意義は、本願明細書の【0028】の「圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)は、前記したアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)と比較して、より長波長のうねり成分である。このため、アルミニウム合金板表面上の凹凸による樹脂フィルムを固定するアンカー効果は、前記したアルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)より高いものとなる。」との記載によれば、従来の比較的薄い塗膜が焼き付けられる包装容器用アルミニウム合金板に対し、本願発明1は、より膜厚の厚い樹脂フィルムをアルミニウム合金板に対しより強固なアンカー効果により定着させるために、圧延方向と平行な方向におけるうねりを、圧延方向と直角な方向におけるうねりであるR_(a)よりもさらに大きい値に規定したことにあるものといえるから、ろ波中心線うねりを設定する意義も明らかなものと言える。

したがって、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。
また、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないということはできず、また、特許を受けようとする発明が明確ではないとすることもできない。

(3-2)理由Cについて

(3-2-1)刊行物の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2004-124250号公報)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.5?1.5質量%、Mnを0.5?1.5質量%、Feを0.2?0.7質量%、Siを0.1?0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物から構成されたアルミニウム合金板であって、
最大長が8?15μmであるAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度が179個/mm^(2)以下であると共に、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚が30nm以下であり、かつ
前記アルミニウム合金板の表面の中心線平均粗さR_(a)が0.30?0.45μmであることを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.5?1.5質量%、Mnを0.7?1.5質量%、Feを0.35?0.50質量%、Siを0.1?0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物から構成されたアルミニウム合金板であって、
最大長が10μm以上であるAl?Mn?Fe?Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度が67個/mm^(2)以下であると共に、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚が30nm以下であり、かつ
前記アルミニウム合金板の表面の中心線平均粗さRaが0.30?0.45μmであることを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、
均質化熱処理工程および圧延処理工程の前処理工程として、鋳造されたアルミニウム合金のスラブの粗大セル層を含む当該スラブの表面を除去するための面削処理工程を含むことを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1b)「【0021】の「前記ボトル缶の内表面には、エポキシ・フェノール、エポキシ・尿素、ビニルオルガノゾル等の溶剤系あるいはアクリル変性エポキシ樹脂を含む水性塗料を用いてスプレー塗料が施され、その後オーブンで塗装焼き付きを行うことにより、塗膜が3?5μm程度形成される。」

(1c)「【0059】
[B.アルミニウム合金板の表面の中心線平均粗さRaの測定]
表面粗さの測定は、前記各アルミニウム合金板の試験片に対して、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、サーフコーダSE-30D)を用いて、圧延方向に直角な方向に走査し、中心線平均粗さRa(JIS B 0601)を求めることで行った。」

(3-2-2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)の請求項2には、次の発明が記載されているといえる。

「Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.5?1.5質量%、Mnを0.7?1.5質量%、Feを0.35?0.50質量%、Siを0.1?0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物から構成されたアルミニウム合金板であって、
最大長が10μm以上であるAl?Mn?Fe?Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度が67個/mm^(2)以下であると共に、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚が30nm以下であり、かつ
前記アルミニウム合金板の表面の中心線平均粗さRaが0.30?0.45μmであることを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(3-2-3)本願発明1について
(3-2-3-1)本願発明1と刊行物1発明との対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、アルミニウム合金板の平均粗さについて、本願発明1の「圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)」は、明細書の【0044】の記載によれば、表面粗さ測定機(小坂研究所製、サーフコーダSE-30D)を用いて、圧延方向に直角な方向に走査し、算術平均粗さR_(a)(JIS B 0601-1994)を求めたのに対し、刊行物1発明の「表面の中心線平均粗さR_(a)」は、刊行物1の(1c)の「表面粗さの測定は、前記各アルミニウム合金板の試験片に対して、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、サーフコーダSE-30D)を用いて、圧延方向に直角な方向に走査し、中心線平均粗さR_(a)(JIS B 0601)を求めることで行った。」との記載によれば、本願発明1と同じ測定機を用い、圧延方向に直角な方向に走査し、同じJIS規格により測定した平均粗さであるから、本願発明1の「圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)」に相当する。

そうすると、両発明は、
「Siを0.1乃至0.5質量%、Feを0.2乃至0.7質量%、Mnを0.5乃至1.5質量%、Mgを0.5乃至2.0質量%、およびCuを0.1乃至0.4質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)を0.30乃至0.55μmの範囲とし、
最大長が10μm以上であるAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物の単位面積当たりの個数密度を70個/mm^(2)以下とし、かつ、
前記アルミニウム合金板の表面に形成される酸化皮膜の平均膜厚を25nm以下とした、包装容器用アルミニウム合金板。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点1:本願発明1は、アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板であるのに対し、刊行物1発明は、そのような包装容器用アルミニウム合金板であるか不明である点。

相違点2:本願発明1は、アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)を0.2乃至0.8μmの範囲とするのに対し、刊行物1発明は、そのようにするか不明である点。

(3-2-3-2)相違点の検討
本願発明1は、前記(3-1)にも記載したとおり、アルミニウム合金板に樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板であり、具体的には、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の両面に厚さ20μmのPET樹脂をラミネートし、260℃にて熱処理を行い、樹脂フィルムを被覆するアルミニウム合金板であり、より膜厚の厚い樹脂フィルムをアルミニウム合金板に対しより強固なアンカー効果により定着させるために、圧延方向と平行な方向におけるうねりであるろ波中心線うねりW_(CA)を、圧延方向と直角な方向におけるうねりであるR_(a)よりもさらに大きい値に規定したことに技術的意義を有するものである(本願明細書【0028】、【0051】参照。)。

他方、刊行物1発明は、前記(3-1)に記載したとおり、具体的には、「塗料をスプレー塗装し、オーブンで塗装焼き付けし、3?5μm程度の塗膜を形成する包装容器用アルミニウム合金板」((1b)参照)であり、本願発明1とは、被覆される樹脂の形態、被覆方法が相違し、また、アルミニウム合金板の圧延方向に直角な方向での算術平均粗さR_(a)を規定することについては記載されているものと認められるものの、本願発明1において、技術的意義を有する、アルミニウム合金板の圧延方向に平行な方向でのろ波中心線うねりW_(CA)については何ら記載されていない。
そして、刊行物1には、刊行物1発明の包装容器用アルミニウム合金板を、樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板として用いることについて記載されているとすることはできず、示唆する記載も認められない。また、自明な事項とすることもできない。

また、刊行物2には、【0025】の「ベーキング後の耐力がベーキング前の耐力より20?30MPa低いことが好ましい(請求項2)。ここでいうベーキングとは、ネジ付アルミ缶胴の製造工程の塗料焼き付け工程を想定して、未成形の上記アルミニウム合金板を温度205℃に10分間保持する熱処理に加えることを意味する。」との記載や【0035】の「Mg_(2)Si相は、塗装焼き付け処理後の強度を維持するために必要なMg固溶量の減少および耐食性に不利となるために、板表面における面積率で1.0%以下とすることが好ましい。」との記載によれば、塗装焼き付けを行うアルミニウム合金板については記載があると認められるものの、樹脂フィルムをラミネートし、リメルト処理した後にDI成形が行われる樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板については記載されているとすることはできない。

そうすると、前記相違点1、2は、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないし、また、刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(3-2-4)本願発明2について
本願発明2は、前記「2.(1-1)」の請求項2に記載された発明であり、本願発明1を引用する、本願発明1の製造方法の発明ということができる。
他方、刊行物1の(1a)の請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された刊行物1発明を引用する製造方法の発明であるから、刊行物1発明の製造方法の発明ということができる(以下、「刊行物1製造方法発明」という。)。

そこで、本願発明2と刊行物1製造方法発明とを対比すると、両発明は、前記(3-2-3-1)に記載した、相違点1及び相違点2において相違することは明らかである。
そして、かかる相違点は、前記(3-2-3-2)において検討したとおり、刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできないのであるから、刊行物1製造方法発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3-2-5)小括
したがって、本願発明1及び本願発明2は、それぞれ刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号および第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできないから、特許を受けることができないものであるとすることはできない。
また、本願発明1及び本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとすることはできない。

そして、ほかに本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願2004-261665(P2004-261665)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C22C)
P 1 8・ 575- WY (C22C)
P 1 8・ 121- WY (C22C)
P 1 8・ 561- WY (C22C)
P 1 8・ 536- WY (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 植前 充司
大橋 賢一
発明の名称 樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法  
復代理人 多田 悦夫  
代理人 磯野 道造  
復代理人 富田 哲雄  
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