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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C11D
管理番号 1207376
審判番号 不服2007-2782  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-23 
確定日 2009-11-16 
事件の表示 平成8年特許願第16803号「酸性固形洗浄剤及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年3月11日出願公開、特開平9-67599〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成8年2月1日(パリ条約による優先権主張1995年2月1日、米国)に、特許法第36条の2第1項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付してされた特許出願であって、同年3月6日付けで上記外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文が提出され、平成15年2月3日付けで手続補正書が提出され、同年7月25日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成16年5月6日付けで再度拒絶理由が通知され、同年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年10月25日付けで拒絶査定がされたものである。
これに対し、平成19年1月23日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、手続補正書が提出され、同年9月11日に上申書が提出され、平成20年11月28日付けで審尋が通知されたところ、同年12月22日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年1月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年1月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成19年1月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1の
「少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分と、
非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含み、汚物を懸濁する適量の界面活性剤であって、前記非イオン界面活性剤がC_(9ー12)アルキルフェノールエトキシラートを含み、前記陰イオン界面活性剤が直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む界面活性剤と、
凝固するに適当な量の尿素化合物と、
各1?6部の前記尿素化合物に対して1部の量の水と、
を含み、
前記通常液体である酸とは摂氏40度未満において液体物質の酸であり、前記通常固体である酸とは摂氏40度未満において固体で水溶液でない酸であることを特徴とする酸性固形洗浄剤。」
を、
「少なくとも10重量%の通常液体である酸あるいは酸性水溶液からなる液体の酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸とを含む少なくとも20重量%の酸成分と、
非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含み、汚物を懸濁する適量の界面活性剤であって、前記非イオン界面活性剤がC_(9ー12)アルキルフェノールエトキシラートを含み、前記陰イオン界面活性剤が直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む界面活性剤と、
凝固するに適当な量の尿素化合物と、
各1?6部の前記尿素化合物に対して1部の量の水と、
を含み、
前記通常液体である酸とは摂氏40度未満において液体物質の酸であり、前記通常固体である酸とは摂氏40度未満において固体で水溶液でない酸であることを特徴とする酸性固形洗浄剤。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
上記補正は、請求項1における酸成分が、補正前において、「少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分」であったものを、「少なくとも10重量%の通常液体である酸あるいは酸性水溶液からなる液体の酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸とを含む少なくとも20重量%の酸成分」とする補正を含むものであるが、該補正は、補正前に酸成分が「通常液体である酸」と「酸性水溶液」とを共に含むとされていたものを、「通常液体である酸あるいは酸性水溶液からなる液体の酸」として、「通常液体である酸」と「酸性水溶液」のいずれかを含むとされたものであるから、「酸成分」の範囲を実質的に拡張するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、該補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものともいえない。
したがって、該補正を含む上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項に掲げる事項のいずれを目的とするものともいえない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
上記のとおり、平成19年1月23日付けの手続補正は却下されたから、この出願の発明は、平成15年2月3日、同年11月4日及び平成16年8月13日の各日付けでした各手続補正により補正された外国語書面の翻訳文(以下、願書に最初に添付された外国語書面の翻訳文を「当初明細書」といい、補正後の外国語書面の翻訳文を「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」及び「本願発明3」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分と、
非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含み、汚物を懸濁する適量の界面活性剤であって、前記非イオン界面活性剤がC_(9ー12)アルキルフェノールエトキシラートを含み、前記陰イオン界面活性剤が直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む界面活性剤と、
凝固するに適当な量の尿素化合物と、
各1?6部の前記尿素化合物に対して1部の量の水と、
を含み、
前記通常液体である酸とは摂氏40度未満において液体物質の酸であり、前記通常固体である酸とは摂氏40度未満において固体で水溶液でない酸であることを特徴とする酸性固形洗浄剤。
【請求項2】
前記酸成分は、無機酸、有機酸、およびそれらの混合物質の群から選ぶことを特徴とする請求項1に記載の酸性固形洗浄剤。
【請求項3】
前記界面活性剤は、前記酸性固形洗浄剤の10?70重量%であることを特徴とする請求項1に記載の酸性固形洗浄剤。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要
この出願についての、原査定の拒絶の理由1?4のうち、理由1及び2の概要は、以下のとおりである。

1 平成15年11月4日付けでした手続補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないという拒絶の理由を通知したところ、平成16年8月13日付けでした手続補正によっても、該拒絶の理由を覆すことはできない。
2 この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、特許法第36条6項に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
1 拒絶の理由1
(1)本願補正
ア 平成15年11月4日付けの手続補正は、誤訳訂正書によるものではなく、請求項1を
「少なくとも5重量%の常態では液体である酸と、少なくとも5重量%の常態では固体である酸とを含む少なくとも10重量%の酸成分と、
非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含み、汚物を懸濁する適量の界面活性剤であって、前記非イオン界面活性剤がC_(9ー12)アルキルフェノールエトキシラートを含み、前記陰イオン界面活性剤が直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む界面活性剤と、
凝固するに適当な量の尿素化合物と、
各1?6部の前記尿素化合物に対して1部の量の水と、
を含み、
前記常態では液体である酸は摂氏約40度未満において液体であり、前記常態では固体である酸は摂氏約40度未満において固体であることを特徴とする酸性固形洗浄剤。」
とする補正(以下、「本願補正1」という。)を含むものである。

イ また、平成16年8月13日付けの手続補正は、誤訳訂正書によるものではなく、請求項1を、
「少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分と、
非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含み、汚物を懸濁する適量の界面活性剤であって、前記非イオン界面活性剤がC_(9ー12)アルキルフェノールエトキシラートを含み、前記陰イオン界面活性剤が直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む界面活性剤と、
凝固するに適当な量の尿素化合物と、
各1?6部の前記尿素化合物に対して1部の量の水と、
を含み、
前記通常液体である酸とは摂氏40度未満において液体物質の酸であり、前記通常固体である酸とは摂氏40度未満において固体で水溶液でない酸であることを特徴とする酸性固形洗浄剤。」
とする補正(以下、「本願補正2」という。)を含むものである。

(2)検討
ア はじめに
特許法第17条の2第3項は、「第1項の規定により明細書又は図面について補正をするときは、・・・願書に最初に添付した明細書又は図面(・・・外国語書面出願にあつては、・・・外国語書面の翻訳文・・・)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定されており、ここでいう「明細書又は図面(又は外国語書面の翻訳文)に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面(又は外国語書面の翻訳文)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面(又は外国語書面の翻訳文)に記載した事項の範囲内において」するものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号判決)。
そこで、上記の点にかんがみ、「本願補正1」及び「本願補正2」について検討する。

イ 当初明細書の記載
当初明細書には、以下の記載がある。
a「(a)摂氏約40度未満において固体状である酸と摂氏約40度未満において液体状である酸との混合物を含む適量の酸性洗浄剤と、(b)非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含む界面活性剤混合物であって、C_(9-12)アルキルフェノールエトキシラートを含む非イオン界面活性剤と直鎖状アルキルサルフェートまたは直鎖状アルキルスルホネートを含む陰イオン界面活性剤との混合物を含む界面活性剤混合物と、
(c)凝固するに適当な量の尿素混合物
とを含む酸性固形洗浄剤で、10重量%、あるいはそれ以下に水で希釈したときの電離定数pKaが約6以下である酸性固形洗浄剤。」(特許請求の範囲請求項1)
b「本発明による酸性洗浄剤には酸性を示す物質もしくは酸性材料も含まれている。酸性材料は単一の原料であってもよい。原料は液体もしくは固体酸、もしくはそれらの混合物である。液体酸は通常、液体物質もしくは酸性混合物水溶液である。酸性物質は使用時の希釈混合物の水素イオン濃度を6.5未満にする機能を有し、さらに化合物の洗浄効果を高める機能を有する。本発明の状況において、洗浄効果とは通常、硬質の表面を洗浄する能力を意味し、グリースや油、脂肪の汚れのような有機性の汚れを除去することである。また、本発明の組成物を使用する場合、酸性を示す物質は、床や消耗場所のような適用表面に堆積した塩(えん)やこびりついたあかの除去を促進する機能も示す。」(段落【0013】)
c「本発明の好ましい見地に従うと、本発明で使用される酸性材料は、酸性材料を基本にした液体もしくは溶液と、固体酸性材料とを組み合わせたものを含む。全体混合物比率としての酸濃度は通常、重量濃度で約10?80%と幅があり、好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%である。前記混合物は重量濃度で約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%で固体酸を含み、液体もしくは溶液をベースにした酸の材量と釣り合いがとれるよう混合するのが望ましい。」(段落【0015】)
d「さらに、酸濃縮物と混合物との全量に対する重量濃度で約10?35%の固体酸、好ましくはクエン酸と、重量濃度約10?25%の液状酸材料、好ましくは、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)(40?75%w/v水溶液)とを組み合わせると最も好ましい固形酸性洗浄剤が得られる。物質の使用範囲を以下の表に示した。酸、及び数種の界面活性剤、酸、水、尿素について表示した。最高の品質と均質な固形物を得るために使用される水の量は水1に対して、約1?6の尿素の重量比の範囲内におさまる。」(段落【0016】)

ウ 本願補正1について
本願補正1は、酸成分を、「少なくとも5重量%の常態では液体である酸と、少なくとも5重量%の常態では固体である酸とを含む少なくとも10重量%の酸成分・・・前記常態では液体である酸は摂氏約40度未満において液体であり、前記常態では固体である酸は摂氏約40度未満において固体である」とする補正を含むものである。
以下、該補正について検討する。
当初明細書には、「(a)摂氏約40度未満において固体状である酸と摂氏約40度未満において液体状である酸との混合物を含む適量の酸性洗浄剤と、(b)非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤との混合物を含む界面活性剤混合物・・・含む界面活性剤混合物と、(c)凝固するに適当な量の尿素混合物とを含む・・・酸性固形洗浄剤」(摘示a)が記載されており、上記「酸性洗浄剤」は、「酸性を示す物質もしくは酸性材料」(摘示b)を含むものであるから、本願補正1における「酸成分」と対応するものである。
さらに、酸成分全体については、「全体混合物比率としての酸濃度は通常、重量濃度で約10?80%と幅があり、好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%」(摘示c)と記載されている。そして、個々の酸については、「前記混合物は重量濃度で約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%で固体酸を含み、液体もしくは溶液をベースにした酸の材量と釣り合いがとれるよう混合するのが望ましい」(摘示c)と記載されているから、常態では固体である酸、すなわち上記固体酸の濃度として、「約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%」が記載されているといえ、常態では液体である酸、すなわち上記液体もしくは溶液をベースにした酸は、上記酸成分全体の酸濃度である「約10?80%・・・好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%」の範囲内で、上記常態では固体である酸の濃度との釣り合いがとれる量で混合されることが記載されているといえる。
また、「酸濃縮物と混合物との全量に対する重量濃度で約10?35%の固体酸、・・・重量濃度約10?25%の液状酸材料・・・とを組み合わせると最も好ましい固形酸性洗浄剤が得られる」(摘示d)と記載されているから、常態では液体である酸、すなわち上記液状酸材料について、「約10?25%」という数値範囲、常態では固体である酸について、「約10?35%」という数値範囲も記載されているといえる。
しかしながら、これらの記載からは、「常態では液体である酸」及び「常態では固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」とする数値範囲を導き出すことはできない。
また、当初明細書の実施例(段落【0023】?【0033】)には、使用例1-42(表3-7)が示されているが、このうち、使用例8-11のみが、本願補正1で特定される全ての物質を含み、他の使用例は陰イオン界面活性剤である「LAS,直鎖アルカンスルホネート」を含有していないものであり、また、表10に記載の組成A及びBも、非イオン界面活性剤としてのC_(9-12)アルキルフェノールエトキシラートを含むものではないから、本願補正1で特定される全ての物質を含有していないものであるところ、上記使用例8-11の組成からも、「常態では液体である酸」及び「常態では固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」とする数値範囲を導き出すことはできない。
よって、当初明細書の記載を総合しても、「常態では液体である酸」及び「常態では固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」とする数値範囲を導き出すことはできず、該数値範囲が、当業者によって、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
したがって、該補正を含む本願補正1は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

エ 本願補正2について
本願補正2は、酸成分を、「少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分」とする補正を含むものであるところ、上記「通常液体である酸」は、本願補正1の「常態では液体である酸」に、上記「通常固体である酸」は、本願補正1の「常態では固体である酸」に、それぞれ対応するといえ、当初明細書の記載を総合しても、「通常液体である酸」及び「通常固体である酸」の濃度を「少なくとも5重量%」とする数値範囲を導き出すことができないことは、上記ウに示したとおりである。
よって、本願補正1と同様の理由により、本願補正2は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成15年11月4日付けの意見書で、「(3)補正の根拠」について、「混合物(固体酸性洗浄剤)中には酸濃度が重量濃度で約10?80%含まれており、このうち、最も好ましい場合には固体酸と液体の酸の量とが釣り合いがとれるよう混合するのが望ましいと記載され、また固体酸は重量濃度で約10?35%、液体の酸は重量濃度で約10?25%と記載されています。この記載から考慮すると、固体酸と液体の酸とを釣り合いがとれるよう混合する場合、例えば、酸濃度が重量濃度で約10%の場合、固体酸と液体の酸とは混合物(固体酸性洗浄剤)中に同じ量、すなわち、それぞれ重量濃度で少なくとも5%含むことになり、補正された請求項1の数値限定を支持しています。」と主張する。
しかしながら、「固体酸と液体の酸の量とが釣り合いがとれるよう混合」することが、直ちに、固体酸と液体酸とを「混合物中に同じ量」ずつ含むことを意味するものではないから、「釣り合いがとれる」という記載から、「常態では液体である酸」及び「常態では固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」とする数値範囲を導き出すことができるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)拒絶の理由1についてのまとめ
以上のとおり、本願補正1を含む平成15年11月4日付けでした手続補正は、本願補正2を含む平成16年8月13日付けでした手続補正によっても、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2 拒絶の理由2
(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)であるから、この観点に立って検討する。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。」)には、以下の事項が記載されている。
a’「(発明の属する技術分野)
本発明は、硬質表面の洗浄用に改良された洗浄組成物及びその洗浄組成物の製造方法に関するものである。特に、酸性成分を含有する固形状洗浄組成物に関するものである。また、酸性成分の汚れの洗浄能力を高め、洗浄作用の対象を広めるために多様な所定の成分をもつ酸性固形状洗浄剤に関する。さらに、本発明は硬質表面の洗浄方法に関するもので、水溶液スプレー(aqueous spray)を用いて酸性固形洗浄剤に接触して濃縮物を調製し、適切な量の希釈水で前記濃縮物を希釈して酸性洗浄製品を調製し、調整した洗浄製品で汚れた表面を洗浄する方法に関する。」(段落【0001】)
b’「液体水性酸性洗浄剤は多様な硬質表面から汚れを除去するのに有効であるが、利用者が経済面及び安全面から考慮した場合、水性液体物質には実質的な欠点がすでに存在している。したがって、酸性洗浄剤が費用面、安全面においてより効果的になるよう、酸性洗浄剤を改善する必要性が実質的に存在する。」(段落【0005】)
c’「(発明の要約)
本発明は酸性洗浄剤と、陰イオン界面活性剤、もしくは非イオン界面活性剤、あるいはこれらの混合物質のいずれかの界面活性剤混合物と、約100g以上の固体量を維持できる結合剤あるいは凝固剤とを含む固体マトリックスの酸性固形洗浄剤に関する。本発明によると、好ましい酸性固形洗浄剤には、固体、もしくは摂氏約40度未満で実質上固体である酸性材料と、摂氏約40度以下で液体で存在する酸と、アルコールエトキシラート、もしくはノニルフェノールエトキシラート、もしくはエトキシラートとプロポキシラートの共重合体、もしくは前記物質の混合物のいずれかである非イオン界面活性剤と、アルキルサルフェート、もしくはアルキルスルホネート、もしくはアリールサルフェート、もしくはアリールスルホネート、もしくはアルキルアリールサルフェート、もしくはアルキルアリールスルホネート、もしくは前記物質の混合物のいずれかである陰イオン界面活性剤と、好ましくは尿素である凝固剤とが備わっている。また、前記酸性固形洗浄剤合成物は電離定数pKaが約1?3である。本発明は本発明による合成物の使用方法及び製造方法も含む。
また、本発明では固形の洗浄剤混合物を含む特徴的な生成物の形式を開発した。本発明の固形洗浄剤混合物は使用時に水で希釈すると(約1重量%の活性水溶液)、約pH6以下の生成物もしくは使用溶液を提供する。前記固形洗浄剤は、通常室温で固体状態である酸と液体状態である酸を含むことが可能である。固体マトリックスは固体状態から分散されることが可能であり、実質上の割合を占める酸構成成分と、酸性洗浄剤の効果を高めその適用範囲を広げることが可能な別の添加物とをもつ水溶性濃縮物が形成される。以上のような濃縮物はさらに水で希釈され、使用溶液となる。本発明による混合物は床、カウンターの台の上部、クリーニング、食品を扱う物の表面など、様々な物質に適用される。また、前記使用溶液は施設や病院、産業分野における多様な硬質表面の、多様な形態の汚れの除去にに適用される。」(段落【0006】?【0007】)
d’「酸性固形洗浄剤
本発明による酸性洗浄剤は基本的には結合剤と、界面活性剤混合物と、酸性を示す物質もしくは酸性材料である。前記酸性洗浄剤は基本的に結合剤、もしくは凝固剤として1種類以上の物質を含み、構成成分を半固体状もしくは固体状の堅さにするよう機能する。本発明に従えば、様々な結合剤が使用される。好ましい結合剤のひとつは尿素である。尿素は酸性物質と界面活性剤混合物を結合させ、水溶性の分散固形マトリックスを形成することがわかった。結合機構については十分に解明されていないが、尿素は酸性物質及び界面活性剤の両方を包接した機構を通じて反応することは明らかである。ここでいう包接とは基本的に2種類以上の成分を混合して付加体を形成する機能を指す。一般的に尿素複合体は1つの結晶物質を形成する2つの化合物を含む。尿素は、炭化水素、アルコール、脂肪酸、脂肪エステル、ポリエチレングリコールのようなポリオキシアルキレンポリマー、その他の化合物と包接化合物を形成する。包接化合物は例えるなら、宿主と寄生の関係にあり、宿主が尿素で、寄生に例えられる分子の周囲に宿主たる尿素が絡んでいる、と言うことができる。」(段落【0010】)
e’「界面活性剤混合物は非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤の混合物を含む。好ましくは、非イオン界面活性剤は、約5?15モルのエチレンオキシド(EO)から構成されるC_(6ー12)のアルキルフェノールエトキシラートを含み、陰イオン界面活性剤は好ましくは直鎖状のアルキルサルフェートもしくは直鎖状アルキルスルホネートで、アルキル鎖はC_(8ー18)であるものを使用する。つまり、界面活性剤混合物はこの好ましいモードでの混合物の全量に対して約10?70重量%であり、陰イオン界面活性剤はこの好ましいモードでの混合物の全量に対して約0?60重量%、最も好ましくは約1?55%である。」(段落【0026】)
f’「本発明による酸性洗浄剤には酸性を示す物質もしくは酸性材料も含まれている。酸性材料は単一の原料であってもよい。原料は液体もしくは固体酸、もしくはそれらの混合物である。液体酸は通常、液体物質もしくは酸性混合物水溶液である。酸性物質は使用時の希釈混合物のpHを6.5未満にする機能を有し、さらに化合物の洗浄効果を高める機能を有する。本発明の状況において、洗浄効果とは通常、硬質の表面を洗浄する能力を意味し、グリースや油、脂肪の汚れのような有機性の汚れを除去することである。また、本発明の組成物を使用する場合、酸性を示す物質は、床や消耗場所のような適用表面に堆積した塩(えん)やこびりついたあかの除去を促進する機能も示す。」(段落【0027】)
g’「一般的に通常、液体もしくは固体のどの酸性材料も、固体生成物の形成を促進し、本発明の混合物に使用される。有機酸及び無機酸も基本的に当該混合物に使用されることがわかった。本発明に従って使用される有機酸には、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、グルコン酸、イタコン酸、トリクロロ酢酸、安息香酸、などが含まれる。また、本発明に従って使用される有機ジカルボン酸には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、テレフタル酸などが含まれる。前記有機酸のどれと組み合わせが混合されて使用されても、別の有機酸と組み合わせて使用されても、本発明の混合物を適切に形成することが可能である。本発明に従って使用される無機酸にはリン酸、硫酸、スルファミン酸、メチルスルファミン酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸などを含む。前記酸もまた、別の無機酸や、前記無機酸と組み合わせて使用可能である。」(段落【0028】)
h’「本発明の好ましい見地に従うと、本発明で使用される酸性材料は、酸性材料を基本にした液体もしくは溶液と、固体酸性材料とを組み合わせたものを含む。全体混合物比率としての酸濃度は通常、重量濃度で約10?80%と幅があり、好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%である。前記混合物は重量濃度で約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%で固体酸を含み、液体もしくは溶液をベースにした酸の材量と釣り合いがとれるよう混合するのが望ましい。」(段落【0029】)
i’「さらに、酸濃縮物と混合物との全量に対する重量濃度で約10?35%の固体酸、好ましくはクエン酸と、重量濃度約10?25%の液状酸材料、好ましくは、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)(40?75%w/v水溶液)とを組み合わせると最も好ましい固形酸性洗浄剤が得られる。物質の使用範囲を以下の表に示した。酸、及び数種の界面活性剤、酸、水、尿素について表示した。最高の品質と均質な固形物を得るために使用される水の量は水1に対して、約1?6の尿素の重量比の範囲内におさまる。
【表1】

*1 界面活性剤の全量*2 水の全含有量。他の成分に含まれる水分を含む。
全水分量は尿素1?6に対してそれぞれ1である。」(段落【0030】?【0032】)
j’「 使用例1ー42
使用例1ー42は本発明の酸性固形混合物を提供するために示された。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

」(段落【0042】?【0047】)
k’「目的
床用酸性洗浄剤のうち2種類が消毒能力の定量のために提出された。
実験手順
実験方法
消毒殺菌剤による殺菌並びに洗浄の衛生作用-最終作用(実験方法第A OAC 960.09 消毒殺菌剤による殺菌並びに洗浄の衛生作用)
検査試料
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538)
大腸菌(Escherichia coli ATCC 11229)
洗浄剤にさらす時間
30秒、1分、5分
実験温度
摂氏25度
ニュートラライザー(Neutralizer)
チャンバーズニュートラライザー (Chamber's Neutralizer)
継代培養のための培地
トリプトングルコース抽出寒天 (Tryptone Glucose Extract Agar)
培養条件
摂氏37度、48時間
結果
【表8】

【表9】

【表10】

結論
床用酸性洗浄剤PO6144Aは、30秒間洗浄液にさらすだけで黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対して殺菌効果が示された。床用酸性洗浄剤PO9204Aは、5分以上洗剤にさらしても効果があまりみられなかった。また、黄色ブドウ球菌よりも大腸菌に対する効果が低かった。」(段落【0048】?【0052】)
l’「本発明の混合物を使用すれば、脂肪酸とその他の残留物とが結合した食物由来のカルシウム脂肪酸塩の大部分がすぐに落ちることを、通常行われる試験方法で実施した。基本的に、本発明の混合物は、堅い床表面やその他の堅い表面から、約60%以上、ほとんどの場合は約70?85%の前記汚れを落とすことができる。人工の汚れを堅い表面から除去する場合の評価方法を以下に説明する。
台所の床の汚れ
ガードナー ストレート ライン 汚れ除去実験方法
目的
様々な洗浄剤の洗浄効果を比較するため、ガードナー ストレート ライン(Gardner Straigt Line )洗浄機を使用して台所の汚れを除去し、洗浄効果を確かめた。エコラブ(Ecolab)社製品の競合製品と比較する方法を使用した。
原理
汚れた無釉の床タイルを華氏200度で2時間焼き、レストランの台所の汚れた床を再現した。タイルはウルトラスキャン スペクトロフォトメーター(Ultra Scan Spectrophotometer)で実験前と後に測定した。
ガードナー ストレート ライン洗浄機(WG8100モデル)はナイロンブラシ(ガードナー製)と濃縮洗浄剤の希釈溶液を利用して床面タイルを洗浄する機械である。
装置及び材料
1.ガードナー ストレート ライン洗浄機にはプラスチック製のテンプレートがあり、大きさは21ー15/16×6-15/16×1/2(インチ)である。2つの穴は3-1/16×3-1/16(インチ)である。
2.ウルトラスキャン スペクトロフォトメーター。詳細は説明書の通りである。
3.クリーム色の無釉タイル。大きさは3×3(インチ)。カラータイル社(セントポール、ミネソタ州)製である。
4.ペイントブラシ。幅1インチ(ナイロン製ではない)である。
5.ガードナー ストレート ライン ブラシ。2つのブラシが組合わさっている。幅2-3/4×長さ3-1/2(インチ)である。
6.はかり。
7.目盛り付きシリンダー(200ml)。
8.オーブン(華氏200度まで予熱)。
汚れの調整方法
1.ウルトラスキャンを使用する場合はタイル表面の初期データをとる必要がある。無釉タイルの滑らかな面のデータをとる(各実験に対して4枚のタイルを使う)。
2.タイルに塗るカルシウム脂肪酸からなる汚れを混合する。汚れの濃度はタイルに広げられる程度の堅さにする。タイルをはかりの上に置き、風袋を計る。汚れを2.0gタイルの上にのせ、ペイントブラシで汚れをタイル表面になでつけて伸ばす。ブラシで1方向になでた後、タイルを回して、先になでた方向と交差するようにして、ブラシで伸ばす。タイルだけに汚れを付けること。
3.タイルを華氏200度に予熱してあったオーブンに入れ、2時間焼く。焼いた後、タイルを一晩放置する(1日以上経過したタイルは使用しないこと)。
汚れ除去の実験方法
1.試験溶液を調整する。通常、濃度は2オンス/ガロン(1.5重量%)とし、適切な量の水を加えて調整する。使用する水は全ての試験溶液に共通させること。
2.ガードナーストレートラインの内部にプラスチックのテンプレートを取り付けブラシをケースの中に設置する。
3.2枚の汚れたタイルをテンプレートの開口部に置く。
4.目盛り付きシリンダーで200mlの試験溶液をトレーの中に注ぐ。
5.機械をすぐに作動させる。タイルの洗浄は32回行われる。つまりタイルを各方向に8回ずつ回転させて洗浄を行う。
6.ブラシとタイルを外し、暖かい水で洗う。
7.タイルを空気乾燥させる。
データの記録
任意のウルトラスキャン装置を使用して、汚れたタイルの洗浄前(B)と洗浄後(A)の数値を記録する。
計算
(A-B)/(初期:B)×100=CE
A=後(After)、B=前(Before)。
結果の説明
汚れの製造バッチを変えたり、試験を行う人を変えると、その実験結果を比較することが不可能になるので、必ず実験は同じ日に行い、製造バッチが同じ汚れを用い、同一人物が実施しなければならない。本実施例は比較の目的のためにのみ、有効な経験的な実験である。他の全ての洗浄剤と比較した結果がある製品については、それぞれの実験を行うときにその都度テストに加える。」(段落【0054】?【0062】)

上記摘示によれば、発明の詳細な説明には、「硬質表面の洗浄用に改良された洗浄組成物・・・特に、酸性成分を含有する固形状洗浄組成物」(摘示a’)についての発明が記載されており、酸性洗浄剤の分野において、従来から用いられる「液体水性酸性洗浄剤は多様な硬質表面から汚れを除去するのに有効であるが、利用者が経済面及び安全面から考慮した場合、・・・実質的な欠点が・・・存在し・・・、酸性洗浄剤が費用面、安全面においてより効果的になるよう、酸性洗浄剤を改善する必要性が実質的に存在する」(摘示b’)ため、「酸性成分の汚れの洗浄能力を高め、洗浄作用の対象を広めるために多様な所定の成分をもつ酸性固形状洗浄剤」を提供することを課題とするものであって、「本発明による混合物は床、カウンターの台の上部、クリーニング、食品を扱う物の表面など、様々な物質に適用される。また、前記使用溶液は施設や病院、産業分野における多様な硬質表面の、多様な形態の汚れの除去」に適用される(摘示c’)という効果を奏することが記載されていると認められる。
また、上記固形状洗浄組成物は、「基本的には結合剤と、界面活性剤混合物と、酸性を示す物質もしくは酸性材料」からなり、「結合剤、もしくは凝固剤として1種類以上の物質を含み、構成成分を半固体状もしくは固体状の堅さにするよう機能する。・・・好ましい結合剤のひとつは尿素である」(摘示d’)ものであり、さらに、上記好ましい酸性を示す物質もしくは酸性材料としては、「固体、もしくは摂氏約40度未満で実質上固体である酸性材料と、摂氏約40度以下で液体で存在する酸」との混合物(摘示c’、f’?i’)が、界面活性剤混合物としては、「アルコールエトキシラート、もしくはノニルフェノールエトキシラート、もしくはエトキシラートとプロポキシラートの共重合体、もしくは前記物質の混合物のいずれかである非イオン界面活性剤と、アルキルサルフェート、もしくはアルキルスルホネート、もしくはアリールサルフェート、もしくはアリールスルホネート、もしくはアルキルアリールサルフェート、もしくはアルキルアリールスルホネート、もしくは前記物質の混合物のいずれかである陰イオン界面活性剤」(摘示c’、e’)とが挙げられ、「水の量は水1に対して、約1?6の尿素の重量比の範囲内におさまる」(摘示i’)ものである。
そして、具体的に、使用例1-42として、表3-7に示される配合を有する酸性固形混合物の組成及びそれぞれの物質の状態(固形、ペースト等)について記載されており(摘示j’)、床用酸性洗浄剤としての洗浄剤A及びBの黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する消毒能力について記載されている(摘示k’)。また、「人工の汚れを堅い表面から除去する場合の評価方法」についても記載されているが(摘示l’)が、具体的にいかなる組成の酸性固形洗浄剤が使用され、それに対し、どのような評価が得られるのか特定されていないから、実施例であるとはいえないものである。

(3)特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか、についての判断
ア 特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、少なくとも、特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要と認める事項が、発明の詳細な説明に記載されている必要がある。
そこで、本願発明1を特定するために必要と認める事項である、「少なくとも5重量%の通常液体である酸と、少なくとも5重量%の通常固体である酸と、前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液とを含む少なくとも20重量%の酸成分」(下線は、当審による。)なる事項が、実施例以外の発明の詳細な説明に記載されているか否かについて検討し、次に、上記事項及び本願発明1が実施例に記載されているか否かについて、検討する。

イ 「少なくとも5重量%の通常液体である酸」及び「少なくとも5重量%の通常固体である酸」について
まず、通常液体である酸及び通常固体である酸の濃度について検討する。
発明の詳細な説明には、酸成分全体については、「全体混合物比率としての酸濃度は通常、重量濃度で約10?80%と幅があり、好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%」(摘示h’)と記載されている。そして、個々の酸については、「前記混合物は重量濃度で約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%で固体酸を含み、液体もしくは溶液をベースにした酸の材量と釣り合いがとれるよう混合するのが望ましい」(摘示h’)と記載されているから、通常固体である酸、すなわち上記固体酸の濃度として、「約0?80%、好ましくは約1?60%、最も好ましくは約1?40%」が記載されているといえ、通常液体である酸、すなわち上記液体をベースとした酸は、上記酸成分全体の酸濃度である「約10?80%・・・好ましくは約20?60%、最も好ましくは約30?50%」の範囲内で、通常固体である酸の濃度との釣り合いがとれる量で混合されることが記載されているといえる。また、「酸濃縮物と混合物との全量に対する重量濃度で約10?35%の固体酸、・・・重量濃度約10?25%の液状酸材料・・・とを組み合わせると最も好ましい固形酸性洗浄剤が得られる」(摘示i’)と記載されているから、通常液体である酸、すなわち上記液状酸材料について、「約10?25%」という数値範囲、通常固体である酸について、「約10?35%」という数値範囲も記載されているといえる。
しかしながら、これらの記載からは、「通常液体である酸」及び「通常固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」という数値範囲とすることについて記載されているとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、該数値範囲の根拠を説明する記載がないのであるから、発明の詳細な説明の記載には、本願発明1において、該数値範囲とすることにより、酸性固形状洗浄剤における「洗浄能力の向上」という課題を解決できることが記載されているということもできず、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明1において、当該数値範囲とすることにより、上記課題を解決できると認識できるともいえない。

ウ 「通常液体である酸」と「通常固体である酸」と「前記通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液」とを含む「酸成分」について
発明の詳細な説明には、酸成分として、「原料は液体もしくは固体酸、もしくはそれらの混合物である。液体酸は通常、液体物質もしくは酸性混合物水溶液である。酸性物質は使用時の希釈混合物のpHを6.5未満にする機能を有し、さらに化合物の洗浄効果を高める機能を有する」(摘示f’)と記載されており、さらに、「一般的に通常、液体もしくは固体のどの酸性材料も、固体生成物の形成を促進し、本発明の混合物に使用される」こと(摘示g’)、「好ましい見地に従うと、本発明で使用される酸性材料は、酸性材料を基本にした液体もしくは溶液と、固体酸性材料とを組み合わせたものを含む」こと(摘示h’)、「酸濃縮物と混合物との全量に対する重量濃度で約10?35%の固体酸、好ましくはクエン酸と、重量濃度約10?25%の液状酸材料、好ましくは、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)(40?75%w/v水溶液)とを組み合わせると最も好ましい固形酸性洗浄剤が得られる」(摘示i’)が記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、酸性物質が「洗浄能力の向上」の課題を解決するために用いられること、「酸性材料を基本にした液体もしくは溶液と、固体酸性材料とを組み合わせたものを含む」混合物が好ましいことについては記載されているものの、「通常液体である酸」と「通常固体である酸」と「通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液」とを含む「酸成分」、すなわち3成分の組み合わせとすることについて記載されているとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、上記3成分の組み合わせとすることの根拠を説明する記載がないのであるから、発明の詳細な説明には、本願発明1において、上記3成分の組み合わせとすることにより、上記課題を解決できることが記載されているということもできず、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明1において、上記3成分の組み合わせとすることにより、上記課題を解決できると認識できるともいえない。

エ 発明の詳細な説明の実施例(使用例)の記載について
さらに、本願発明1が実施例に記載されているか否かについて検討する。
発明の詳細な説明の実施例についてみると、使用例1-42が示されているが(表3-7)、各使用例に配合される「スルホン酸」とは、通常RSO_(3)Hという構造式を有し、Rの構造について特定されていないところ、Rの構造によって、例えば、ベンゼンスルホン酸(融点50℃)のように摂氏40度未満で固体である物質も存在するから、上記使用例1-42の「スルホン酸」が、「通常液体である酸」であると特定することができず、他に「水溶液」ではない「通常液体である酸」に対応するといえる物質は使用されていないから、本願発明1を具体化した実施例が記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明の実施例も、「通常液体である酸」及び「通常固体である酸」の濃度を「少なくとも5重量%」という数値範囲とすること、及び、上記3成分の組み合わせにすることにより、上記課題を解決できると当業者が認識できる程度に、記載されているとはいえない。
また、上記のとおり、使用例1-42では「スルホン酸」のRの構造について特定されているとはいえないものの、平成16年8月13日付け意見書「(3)補正の根拠」において主張するとおり、「通常液体である酸」に対応するものであるとすると、使用例1-42のうち、使用例8-11のみが、本願発明1で特定される全ての物質を含み、他の使用例は、陰イオン界面活性剤である「LAS,直鎖アルカンスルホネート」を含有していないものであり、中でも、使用例1、19、20は「通常固体である酸」も含有しないものである。また、表10に記載の組成A及びBも、非イオン界面活性剤としてのC_(9-12)アルキルフェノールエトキシラートを含むものではないから、本願補正1で特定される全ての物質を含有しないものである。
そこで、「スルホン酸」が「通常液体である酸」であるとして、使用例8-11について検討したとしても、使用例8-11の組成から、「通常液体である酸」及び「通常固体である酸」の濃度を、それぞれ「少なくとも5重量%」とする数値範囲により、本願発明1が、上記課題を解決できると認識できるとする根拠を見いだすことができない。
しかも、使用例8-10は「物質の状態」が「固形」であるが、使用例11は、「物質の状態」が「柔らかい」であり、使用例16等に「柔らかい固形」との記載があることから、「柔らかい」は「柔らかい固形」とは異なり、「固形」の明示がないのであるから、「柔らかい」という状態は、「固形」ではないものといえる。
そうすると、本願発明1の組成を有しても、使用例11のように、「固形」とはならない場合があることになり、本願発明1の「酸性固形洗浄剤」全てが、上記課題の解決に不可欠な固形状となるということはできず、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1の全体にわたって、上記課題を解決できると当業者が認識できる程度に記載されているということはできず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明1の課題を解決できると認識できるともいえない。

オ 本願発明1についてのまとめ
よって、上記ア?エに記載した点からみて、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、発明の詳細な説明の記載から、本願発明1が、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるということもできず、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明1が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

カ 本願発明2及び3について
請求項2の記載は、請求項1の記載を引用して、「酸成分」を特定しているものであり、請求項3の記載は、請求項1の記載を引用して、「界面活性剤」の量を特定しているものであるから、請求項1に係る上記理由と同一の理由により、本願発明2及び3は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、発明の詳細な説明の記載から、本願発明2及び3が、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるということもできず、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明2及び3が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

キ 小括
したがって、本願発明1?3が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから、請求項1?3の各記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1?3が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成16年8月13日付けの意見書「(3)補正の根拠」において、「(3)・・・本発明の酸性固形洗浄剤が、(a)通常液体である酸と、(b)通常固体である酸と、(c)酸性水溶液の3つの形態の酸を含むことについては、表3から表7に提供された本発明の酸性固形洗浄剤の組成に支持されています。尚、これら3つの形態の酸を含まない例1,19,20,23は本発明の酸性固形洗浄剤から排除します。
ここで、表において、スルホン酸が(a)通常液体である酸であり、クエン酸,SOKALAN DCS,スルファミン酸が(b)通常固体である酸、リン酸水溶液,ヒドロキシ酢酸水溶液が(c)酸性水溶液に相当します。」と主張している。
また、同意見書において、「(a)通常液体である酸が少なくとも5重量%、(b)通常固体である酸が少なくとも5重量%との数量限定は、表3から表7に提供された本発明の酸性固形洗浄剤の組成において、例37で(a)通常液体である酸のスルホン酸が5重量%、(b)通常固体である酸のクエン酸が5重量%であり、他の本発明の酸性固形洗浄剤は両成分が共に5重量%より多いので、十分に支持された範囲です。」とも主張している。
しかしながら、「通常液体である酸」及び「通常固体である酸」の濃度が、それぞれ「少なくとも5重量%」であることについて、また、酸成分が、「通常液体である酸」と「通常固体である酸」と「通常液体である酸や通常固体である酸でなく水溶液である酸性水溶液」という3成分の組み合わせであることについて、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないことは、上記(3)ア?キに記載のとおりであり、請求人の上記主張は採用できない。

(5)拒絶の理由2についてのまとめ
以上のとおり、請求項1?3の各記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1?3が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するとはいえないものである。

第6 むすび
以上のとおり、平成15年11月4日付けでした手続補正は、平成16年8月13日付けでした手続補正によっても、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、この出願の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないのであるから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-19 
結審通知日 2009-06-22 
審決日 2009-07-06 
出願番号 特願平8-16803
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C11D)
P 1 8・ 55- Z (C11D)
P 1 8・ 537- Z (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 典之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 酸性固形洗浄剤及びその製造方法  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  

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