• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1207380
審判番号 不服2007-18651  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-07 
確定日 2009-11-16 
事件の表示 特願2006-113906「ヒト由来プロスタサイクリンシンターゼ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-262902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1. 手続の経緯及び本願発明

本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成7年4月27日(優先日,平成6年4月28日)を国際出願日とする特願平7-528118号の一部を平成17年8月26日に新たな特許出願としたものの分割出願であって,その請求項1に係る発明は,平成19年7月9日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下,「本願発明1」という。)

「【請求項1】 配列表の配列番号12で示されるヒト由来プロスタサイクリンシンターゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAを培養細胞内に導入することを特徴とするプロスタグランジンI_(2)の産生を促進する方法。」

2. 引用例

これに対して,平成20年1月18日付け拒絶理由通知書にて,拒絶の理由に引用文献1,2として引用された,本願の優先権主張日前に頒布された2つの刊行物には,以下の記載がなされている。

(1) 引用刊行物1. Biochem. Biophys. Res. Commun., Vol.197, No.3, (30 Dec. 1993), p.1041-1048 (以下,「引用例1」という。)

ア. 「 図4.ウシPGISの部分配列
A. ゲル精製されたPGIS由来の部分アミノ酸配列 ・・・
B.プライマーI1及びI2の間の塩基配列及び推定アミノ酸配列 ・・・」 ( 第1047頁 図4, アミノ酸配列及び塩基配列 省略 )

イ. 「界面活性剤による可溶化,Sephacryl S-300 ゲル濾過及びMono-Q高速液体クロマトグラフィを含む従来の精製工程を用いて,ウシの大動脈からプロスタサイクリンシンターゼ(PGIS)を精製した。」
( 第1041頁 要約 第1?3行目 )

ウ. 「(精製されたPGISの)52kDa蛋白をPVDF膜にブロットし,N末端の塩基配列決定に供した。・・・・N末端及び中間ペプチドに対応する縮重オリゴヌクレオチドを,ウシの大動脈λgt10 cDNAライブラリーのPCR増幅のために使用した。・・・・I1及びI4を1セットとしたプライマーを用いて115bpの増幅(DNA)断片を得た。・・・・I1/I4の増幅(DNA)断片の塩基配列を表4Bに示す。」
( 第1046頁 第8行目?第1047頁 第3行目 )

(2) 引用刊行物2. J. Cell. Physiol., Vol.142, (1990), p.514-522
(以下「引用例2」という。)

「この報告は,aFGFとヘパリンとを共存(aFGF/ヘパリン)させると,・・・,ヒト血管内皮細胞において,プロスタグランジンH合成酵素(PGH合成酵素,シクロオキシゲナーゼ)及びPGI_(2)合成酵素の機能共に,経時的及び容量依存的減少が誘発されることの証拠を提示する。」
( 第514頁 左欄 13行目?18行目 )

3. 対比

引用例1には,プロスタサイクリンシンターゼ(PGIS)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAに係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

本願発明1と引用発明とを対比すると,

両者は,プロスタサイクリンシンターゼ(PGIS)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAに係る発明である点,で一致し,

(i) 本願発明1で用いられるDNAは,本願明細書中の配列番号12で示される’ヒト由来’PGISのアミノ酸配列の’全長’をコードする塩基配列を有するもの,であるのに対し,
引用発明のDNAは,’ウシ由来’PGISのアミノ酸配列の’一部’をコードする塩基配列を有するもの,である点,
(ii) 本願発明1は,さらに,該DNAを培養細胞内に導入することによりプロスタグランジンI_(2)の産生を促進する方法,であるのに対し,
引用発明は,該DNA自体の発明であって,そのような方法の発明ではない点,
で相違する。

4. 当審の判断

上記3.で述べた相違点(i)及び(ii)について,以下検討する。

(1) 上記相違点(i)について

引用例1の上記2.(1)ア.図4 B.に記載されているウシPGISの部分配列DNAの塩基配列及び推定アミノ酸配列に関し,塩基配列については,本願明細書中の配列番号12のアミノ酸配列をコードする塩基配列が記載されている配列番号11の52?117位の塩基配列と5つの塩基以外は同一(92%同一性)であり,また推定アミノ酸配列については,本願明細書中の配列番号11,12に示されるアミノ酸配列の9?30位のアミノ酸配列と1つのアミノ酸以外は同一(95%同一性)である。

そもそも,本願明細書の段落番号【0002】の【背景技術】に記載されているように,PGISは,PGH_(2)から,強力な血小板凝集抑制作用及び血管平滑筋弛緩作用を有する物質であるPGI_(2)への変換を触媒する酵素であること,及び,心筋梗塞血栓症や動脈硬化書等の循環器系疾患は,とりわけPGI_(2)の産生低下に基づく血管系の機能不全によって生じるものと考えられていることは,本願優先日当時,既に周知事項であった。[ 必要であれば,本願明細書の段落番号【0002】に【非特許文献1】として記載されているBr. J. Pharmacol., Vol.76, (1982), p.3-31参照。]
そして,引用例2の上記2.(2)の記載からも明らかなように,ヒトにおいて,PGI_(2)合成酵素即ちPGISが存在することは,本願優先日前既に公知であったことから,ヒトの循環器系疾患の治療を目指し,ヒトPGI_(2)をPGI_(2)合成酵素であるヒトPGISを用いて効率的に産生し供給できるよう,ヒトPGISを遺伝子組換え技術を用いて効率的に産生しようとすること,及び,そのためにヒト由来のPGIS遺伝子を取得しようとすることは,本願優先日当時,周知の課題であった。

また,一般に,哺乳動物間では,有用蛋白質のアミノ酸配列及びそれをコードするDNAの塩基配列の同一性は高いことから,ある哺乳動物由来の有用蛋白質をコードするDNAの一部分が公知の場合,ヒト由来の有用蛋白質をコードするDNAを取得する目的で,該公知の一部分に基づき作製されたプローブやプライマー等を用いて,ヒトDNAライブラリーから同じ機能を有するヒト由来の有用蛋白質をコードするDNAを取得することは,本願優先日前,周知技術であった。

そうすると,上記周知の課題,即ち,ヒトの循環器系疾患の治療を目指し,ヒトPGI_(2)をPGI_(2)合成酵素であるヒトPGISを用いて効率的に産生し供給できるよう,ヒトPGISを遺伝子組換え技術を用いて効率的に産生しようとして,引用例1の上記2.(1)ア.図4 B.に記載されているウシPGISの部分配列DNAに対し,上記周知技術を適用し,該塩基配列に基づきプローブを作製し,該プローブを用いてヒトDNAライブラリーをスクリーニングする等の手段により,ヒト由来のPGIS遺伝子を取得することは,当業者が容易に想到し得たことと認める。

(2) 上記相違点(ii)について

一般に,有用蛋白質をコードするDNAを取得した場合,該DNAの機能を確認する目的で,該DNAを有する組換え発現ベクターを培養細胞内へ導入し,該DNAがコードする蛋白質を発現させることは,本願優先日当時,周知技術であった。
また,上記 4.(1)で述べたように,そもそも,PGISは,PGH_(2)から,強力な血小板凝集抑制作用及び血管平滑筋弛緩作用を有する物質であるPGI_(2)への変換を触媒する酵素であることは,本願優先日当時,既に周知事項であった。

そうすると,上記 4.(1)で述べた,上記引用例1,2に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に想到し取得し得たヒト由来のPGIS遺伝子に関し,該ヒトPGIS遺伝子の機能を確認する目的で,該ヒトPGIS遺伝子に対し,上記周知技術を適用し,該ヒトPGIS遺伝子を有する組換え発現ベクターを培養細胞内へ導入し,該ヒトPGIS遺伝子がコードする蛋白質を発現させることも,当業者が容易になし得たことである。
そして,上記周知事項,即ち,PGISはPGH_(2)からPGI_(2)への変換を触媒する酵素であることを勘案すれば,ヒトPGISが培養細胞内で発現した結果として,該発現したヒトPGISが細胞内のPGH_(2)に作用しPGI_(2)の産生を促進することは,当業者が予測し得る効果にすぎない。

(3) 本件請求人の主張に対する反論

本件請求人は,平成21年8月17日付け回答書において,
ア. 本願発明者を含むPGIS研究者は,1983年DeWittとSmithによるウシPGIS精製の報告があった後,現実に1994年ウシPGIS完全cDNA及びそれを使ったヒト完全cDNAを取得するまで10年近くの試行錯誤を要しており,一般論に基づくクローニングが容易であるとの推測を本願発明に適応することは不合理であること,及び,
イ. 本願発明を完成させる上での具体的な困難性として,酵素(PGIS)を精製し正確且つ有効な部分アミノ酸配列が必要であった事実があり,材料に制限があるヒトPGISの完全cDNA取得には,ウシPGISの完全cDNAを取得することが前提であったこと,
それ故,本願発明は,引用例1,2に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない旨,主張している。

上記ア.については,確かに,DeWittとSmithによる報告があった1983年当時は,精製ウシPGISを基にヒト完全cDNAを取得するには,当業者といえども相当の試行錯誤を要したかもしれない。
しかしながら,当審が検討している引用発明は,1993年12月30日に,精製ウシPGISのみならず,ウシPGISの部分配列DNAの塩基配列も併せ公表されたものである。1993年当時及び本願優先年の1994年当時は,ヒトを含めた哺乳動物由来の有用蛋白をコードするDNAがかなり多種類取得されていたのみならず,世界的規模でヒトゲノム解析が進められ,ヒトcDNAを取得しその塩基配列や対応する推定アミノ酸配列の解析が盛んになされていた状況であった。このような状況であった1993,1994年当時の技術水準は,1983年当時とは異なりかなり高いものであった。
このような技術水準を勘案すると,1993年に公表された引用発明は,精製ウシPGISのみならず,ウシPGISの部分配列DNAの塩基配列もある以上,本願優先年の1994年当時であれば,この引用発明を基に,当業者がヒトPGISをコードするDNAを取得するのに要した労力は,通常想定される試行錯誤の範囲内である。

上記イ.については,酵素(ウシPGIS)を精製したことは,引用例1の上記2.(1)イ.に記載されている。
また,そのウシPGISの部分アミノ酸配列は,引用例1の上記2.(1)ア.に明記されており,このアミノ酸配列は,上記4.(1)でも述べたように,本願明細書中の配列番号11,12に示されるアミノ酸配列の9?30位のアミノ酸配列と95%同一性を有するものであることから,正確且つ有効な部分アミノ酸配列といえる。
そして,この正確且つ有効な部分アミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列(引用例1の上記2.(1)ア.に明記)は,本願明細書中の配列番号11に示される塩基配列の52?117位の塩基配列と92%同一性を有するものである。

そうすると,本願発明を完成させる上での具体的な困難性である,酵素(PGIS)を精製し正確且つ有効な部分アミノ酸配列については,双方共に引用例1に記載されていたと認められる。そのような状況である以上,上記4.(1)でも述べたように,ヒトの循環器系疾患の治療を目指し,ヒトPGI_(2)をPGI_(2)合成酵素であるヒトPGISを用いて効率的に産生し供給できるよう,ヒトPGISを遺伝子組換え技術を用いて,この正確な部分アミノ酸配列をコードするDNAに対し,本願優先日当時の周知技術を適用し,例えば,該塩基配列に基づきプローブを作製し,該プローブを用いて,ヒトDNAライブラリーからヒト由来のPGIS遺伝子を取得することは,当業者が容易に想到し得たことであり,ヒトPGISの完全cDNAをスクリーニングするためには,ウシPGISの完全cDNAを取得する必要はない。

したがって,本件請求人の上記主張は採用できない。

5. むすび

以上のとおりであるから,本願発明1は,上記引用例1,2に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-14 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-30 
出願番号 特願2006-113906(P2006-113906)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 深草 亜子
齊藤 真由美
発明の名称 ヒト由来プロスタサイクリンシンターゼ  
代理人 田村 榮一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ