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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1207432
審判番号 不服2006-25102  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-06 
確定日 2009-11-18 
事件の表示 平成 9年特許願第501198号「利用者起動端末を通じて統合株式仲買取引等の金融サービスを提供するための方法とシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月19日国際公開、WO96/41293、平成11年 6月22日国内公表、特表平11-507150〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1996年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年6月7日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成18年4月25日付けで手続補正がなされ、同年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月6日付けで手続補正がなされ、平成20年11月17日付けで審尋がなされたものである。

2.平成18年12月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年12月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成18年12月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1は、
「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムであって、該システムが現金支払い能力を有する複数のデータ端末を含み、前記データ端末を通じて利用者銀行口座からの現金の引き出しおよび銀行口座間の振替を含む複数の金融サービスを利用者に提供するATMネットワークと、少なくとも1つのホスト・システムを通じて前記ATMに機能的に接続された株式仲買システムとを有し、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバーと、前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための通信ネットワークと、前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するためのサーバとを有するシステム。」
と補正された。
また、本件補正により、請求項2は、
「請求項1に記載の株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムにおいて、前記利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバーが前記証券価格情報に基づいて対応する利用者証券保有高の現在の価値を評価するシステム。」
と補正された。
また、本件補正により、請求項5は、
「請求項1に記載の株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムにおいて、前記利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバーがさらに、利用者の要求に応答して、証券の記号を、証券の名称を含む他の情報と相互参照するシステム。」
また、本件補正により、請求項6は、
「複数のATMと、前記ATMに対するサービスを行うためのホスト・システムとユーザの株式仲買口座を管理する株式仲買システムとを有する統合ネットワークにおいて、前記ATMによりユーザに株式仲買サービスを提供するための方法であって、ATMを通じてユーザからIDデータを受信し、保存された記録に基づいてコンピュータによって前記IDデータを照合するステップであって、前記株式仲買システムがユーザの代わりに株式仲買口座を管理することを照合するステップを含むステップと、前記ホスト・システムを介して前記株式仲買システムによって株式の売買その他の株式仲買取引または他の金融取引をなすために前記ATMのディスプレイにオプションを表示するステップと、前記ホスト・システムを介して前記株式仲買システムによって前記ATMから株式仲買取引オプションの選択を示す選択データを受信するステップと、前記ホスト・システムを介して前記株式仲買システムによって前記株式仲買口座に保有された証券を取り引きするためのオプションを前記ATMによって表示するステップと、前記ユーザが証券取引をする前記オプションを前記ATMを介して選択する際に、前記ユーザからATMを使用して前記ユーザの代わりに保有する証券を取り引きする注文要求を得て、取引を完了するために前記証券が取り引きされる取引所に前記注文要求を送るステップと、複数の証券の時価を判断するために前記ATMによって表示されるオプションを前記ホスト・システムを介して前記株式仲買システムによって前記ユーザに提供するステップと、複数の証券の現在の価値を判断する前記オプションを選択する際に、前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、証券価格が前記相場サーバーを介して前記データ端末へと返信される前記株式仲買システムによって前記ホスト・システムを介して前記複数の証券の選択された1つについて時価を入手し、前記ATMによって前記時価を前記利用者に表示するステップと、前記株式仲買口座で管理される前記情報に基づいて前記ユーザの代わりに保有される各証券についてコンピュータによって合計時価を計算し、前記ATMによって前記合計時価を前記ユーザに表示するステップとを含む方法。」
と補正された。
また、本件補正により、補正前の請求項10は削除され、補正前の請求項11は、補正後の請求項10とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項12は、
「統合金融システムであって、利用者インターフェースを前記金融システムに提供するための、プロセッサと、利用者から利用者情報を受け取るための入力装置と、情報を利用者に表示するためのディスプレイと、支払機手段とを含み、前記プロセッサが前記利用者情報を受取り、前記ディスプレイおよび前記支払機手段を制御する自動金銭受け払い機と、前記自動金銭受け払い機から第1データを遠隔伝送するための第1通信装置と、前記第1通信装置に接続され、前記自動金銭受け払い機からの前記第1データを解釈し、かつ第2データを前記自動金銭受け払い機に提供するフロントエンド・プロセッサ・システムであって、その際前記フロントエンド・プロセッサ・システムが前記自動金銭受け払い機のプロセッサ手段を通じて実現された複数の利用者対話式プロセスを制御するフロントエンド・プロセッサ・システムと、前記フロントエンド・プロセッサ・システムから第3データを伝送するための第2通信装置と、前記フロントエンド・プロセッサ・システムから前記第2通信装置を通じて前記第3データを受信し、そこに第4データを提供する株式仲買システムであって、その際前記株式仲買システムがコンピュータを使用して株式仲買口座に対応する記録を管理し、前記記録が前記利用者の代わりに保有する証券の番号と種類の表示を含み、またその際前記株式仲買システムが前記自動金銭受け払い機と前記フロントエンド・プロセッサ・システムとを通じて前記利用者から取引の注文を受け取り、前記注文を実現するためにコンピュータを使用して注文を出す株式仲買システムとを含む統合金融システム。」
と補正され、補正後の請求項11とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項13は、
「請求項11に記載の統合金融システムにおいて、さらに前記株式仲買システム、前記フロントエンド・プロセッサ・システムおよび前記自動金銭受け払い機を通じて前記利用者に実質上実時間で証券価格情報を提供するための相場システムを含むシステム。」
と補正され、補正後の請求項12とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項14は、
「請求項12に記載の統合金融システムにおいて、さらに前記証券価格情報に基づいて利用者の代わりに保有する証券の現在の価値を計算するサーバを含み、その際前記時価が前記利用者の要求に対して前記利用者に対して表示されるシステム。」
と補正され、補正後の請求項13とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項15は、
「請求項11に記載の統合金融システムにおいて、前記証券が株式、債券およびミューチュアル・ファンドを含むシステム。」
と補正され、補正後の請求項14とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項16は、
「請求項11に記載の統合金融システムにおいて、前記利用者対話型プロセスが、前記自動金銭受け払い機による利用者への現金の支払い、前記自動金銭受け払い機による口座残高の表示および利用者口座間の振替の要求を含むシステム。」
と補正され、補正後の請求項15とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項17は、
「請求項11に記載の統合金融システムにおいて、前記ディスプレイと前記入力装置とがタッチスクリーン画面を含むシステム。」
と補正され、補正後の請求項16とされた。
また、本件補正により、補正前の請求項18は、
「請求項11に記載の統合金融システムにおいて、さらに、利用者の要求に反応して、証券の記号を、証券の名称を含む他の情報と相互参照するためのサーバを含むシステム。」
と補正され、補正後の請求項17とされた。

(2)補正の目的
請求項1に係る本件補正は、請求項1の本件補正前後の記載からみて、以下の補正事項を含むものと認められる。

(補正事項1)
「利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理するための手段」を「利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバー」に変更する補正事項。

(補正事項2)
「前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得るための手段」を「前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための通信ネットワーク」に変更する補正事項。

(補正事項3)
「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買するための手段」を「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するためのサーバ」に変更する補正事項。

上記補正事項1-3は、いずれも、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項を限定的に限縮するものであるので、当該補正事項1-3を含む請求項1に係る本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた事項を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
以上のとおり、請求項1に係る本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた事項を目的とするものに該当するので、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)特許法第29条第1項柱書の規定について
特許法第29条第1項柱書には、「産業上利用することができる発明をした者は、・・・その発明について特許を受けることができる。」と規定され、特許法第2条第1項柱書には、特許法でいう「発明」について、「『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。
そして、本願補正発明は、「ATMネットワークを通じて株式仲買サービスを提供するためのシステムおよび方法を提供することである。」という技術的課題を解決しようとするものであって、株式仲買システムを含み、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理するためのサーバー(以下、「記録管理用サーバー」という。)と、前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための通信ネットワーク(以下、「情報取得用通信ネットワーク」という。)と、前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買するためのサーバ(以下、「証券売買用サーバ」という。)を有することを特徴とするものである。
してみれば、本願補正発明は、「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステム」であって、サーバー等のコンピュータを有する株式仲買システムを備えるものであるから、本願補正発明は、コンピュータ・システムの発明であり、その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるコンピュータ・ソフトウエア関連発明である。
そして、こうしたソフトウエアを利用するコンピュータ・ソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
請求項1の記載は前記のとおりであるから、本願補正発明において技術的課題の解決手段の根拠となるべき要部は、株式仲買システムが有する「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」である。
そこで、本願補正発明が、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かについて、上記の「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」についての記載を以下に順次検討する。

記録管理用サーバについての記載を検討すると、当該記載には、ハードウエア資源として「サーバー」が記載されているものの、「サーバー」に関する記載は、単にサーバーを使用することを特定するにすぎず、サーバーがどのような情報をどのように情報処理して利用者銀行口座に対応する記録を管理するのか具体的に記載されていないので、管理手段についての記載は、株式仲買システムのサーバーの機能を「利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理する」ことに特定するに留まり、上記管理手段についての記載では、当該機能がサーバー等のハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、記録管理用サーバーについての記載から自明な事項とも認められない。

情報取得用通信ネットワークについての記載を検討すると、当該記載には、通信ネットワークに関係するハードウエア資源として「相場サーバー」、「データ端末」、および「証券価格データベース」が記載されているものの、「相場サーバー」に関する記載は、単にサーバーを使用することを特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は情報の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、「証券価格データベース」に関する記載は、情報の要求先を「証券価格データベース」に特定するにすぎず、また、相場サーバーがデータ端末によってなされた要求のどのような情報をどのように情報処理して証券価格情報を得るのか具体的に記載されていないので、情報取得用通信ネットワークについての記載は、株式仲買システムの通信ネットワークの機能を「前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得る」ことに特定するに留まり、情報取得用通信ネットワークについての記載では、当該機能が「相場サーバー」、「データ端末」、および「証券価格データベース」等のハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、情報取得用通信ネットワークについての記載から自明な事項とも認められない。

証券売買用サーバについての記載を検討すると、当該記載には、ハードウエア資源として「サーバ」及び「データ端末」が記載されているものの、「サーバ」に関する記載は、単にサーバを使用することを特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は売買の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、また、コンピュータがデータ端末によってなされた要求に含まれるどのような情報をどのように情報処理してデータ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するのか具体的に記載されていないので、証券売買用サーバについての記載は証券仲買システムのサーバの機能を「データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買する」ことに特定するに留まり、証券売買用サーバについての記載では、当該機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、証券売買用サーバについての記載から自明な事項とも認められない。

全体としても、株式仲介システムで使用されるハードウエア資源として「コンピュータ」、「証券価格データベース」、及び「データ端末」が記載されているものの、「サーバー」、「相場サーバー」および「サーバ」に関する記載は、単にサーバー等のコンピュータを使用することを特定するにすぎず、「証券価格データベース」に関する記載は、情報の要求先を「証券価格データベース」に特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は情報や売買の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、また、サーバー等のコンピュータがどのような情報処理して、記録を管理したり、情報を得たり、証券を売買するのか具体的に記載されていないので、請求項1の記載は、株式仲買システムの「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」の機能を特定するに留まり、それらの機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、請求項1の記載から自明な事項とも認められない。

以上の検討によれば、「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」についての記載により特定される機能が、「株式仲買システム」のハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、どのように実現されるのか、という点に関しては、何ら具体的に記載されておらず、かつ、それぞれの情報処理の具体的内容が、「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」についての記載から当業者にとって自明であると認められるものではない。
そして、これらの「記録管理用サーバー」、「情報取得用通信ネットワーク」、および「証券売買用サーバ」を実質的な要部として含む本願補正発明は、その技術的課題を解決できるような特有の構成を具体的に提示するものではなく、一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しない。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第1項柱書の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3-2)特許法第36条第6項第2号の規定について
請求項1の記載について検討すると、以下の点でその記載が不明りょうである。
(ア)「利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバー」の記載では、サーバーがどこからどのような情報を取得し、どのように情報処理して、利用者銀行口座に対応する記録を管理するのか不明りょうである。

(イ)「前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための通信ネットワーク」の記載では、相場サーバーに送られたデータ端末からの証券価格情報要求をどのように情報処理してデータ端末によってなされた要求に応じた証券価格情報を得るのか不明りょうである。

(ウ)「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するためのサーバ」の記載では、サーバがデータ端末によってなされた要求に応じてどのような情報処理をして利用者の代わりに保有する証券を売買するのか不明りょうである。

以上のとおり、本件補正後の請求項1の記載が上記の(ア)?(ウ)の点で不明りょうであるため、本願補正発明が明確であると認められないので、本願は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-3)特許法第29条第2項の規定に関する拒絶理由について
(3-3-1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.(1)で述べた補正後の上記請求項1に記載したとおりのものである。

(3-3-2)引用例
(a)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用した特開昭64-21696号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
顧客から預かった証券の銘柄及び数量と売却指令が出された時に該売却指令及び売却取引の成立後に売却金額を含む売却済未決済データが顧客固有のデータに対応してファイルされる預かり証券データファイル(21)、及び
証券市場に上場されている証券の銘柄の時価がファイルされた証券時価ファイル(22)を備えた証券データ管理装置(2)と、
挿入された顧客固有のデータ、該顧客から預かった証券の銘柄及び数量を示すデータが記録され、且つ売却指令データを記録する領域を有するカード媒体(1)から該データを読み取る読取手段(31)、
該読取手段(31)によって読み取られた証券の銘柄のデータに基いて、該証券データ処理装置(2)へ該銘柄の時価を照会する照会手段(32)、
該照会手段(32)による照会に対して該証券データ管理装置2から応答された該銘柄の時価を表示する表示手段(33)、
該カード媒体(1)に記された該銘柄の売却数量及び売却希望単価を入力する入力手段(34)、
該表示手段(34)に表示されたデータ及び該入力手段(34)により入力された入力データに基いて該証券データ管理装置(2)へ該銘柄の売却を指令する指令手段(35)、
該売却指令データを該カード媒体(1)に記録する記録手段(36)、及び
該売却指令データを伝票媒体(10)に印字して発行する伝票発行手段(37)を備えた自動証券取引装置(2)とで構成されることを特徴とする証券取引システム。」(第1頁左下欄-右下欄第15行)

(イ)「〔概要〕
自動証券取引システムであって、株券や債券等の売却を証券預かり証の挿入によって自動指令することができる証券取引システムに関し、
証券の売却注文を自動的に行って省力化が図れる証券取引システムを提供することを目的とし、
預かり証券の銘柄及び数量と売却指令及び売却済未決済データがファイルされた預かり証券データファイル及び上場証券の時価ファイルを備えた証券データ管理装置と、顧客固有のデータ、預かり証券の銘柄及び数量等が記され、且つ売却指令の記録領域を有するカード媒体からデータを読み取る読取手段、読み取られた銘柄により証券データ管理装置2へ該銘柄の時価を照会する照会手段、応答された銘柄の時価を表示する表示手段、顧客の暗証コード及びカード媒体に記録された銘柄の売却指令の数量価格を入力する入力手段、表示データ及び入力データに基いて証券データ管理装置へ該銘柄の売却を指令する指令手段、売却指令をカード媒体に記録する記録手段、及び売却指令を伝票媒体に印字して発行する伝票発行手段を備えた自動証券取引装置とで構成する。」(第1頁右下欄第18行-第2頁左上欄第19行)

(ウ)「〔実施例〕
以下本発明の一実施例を第2図及び第3図を参照して説明する。全図を通じて同一符号は同一対象物を示す。第2図で第1図に対応するものは1点鎖線で囲んで示している。
第2図は自動証券取引システムのブロック図を示し、自動証券取引装置3aがホストコンピュータ(以下ホストという)2aに回線で接続されている。
ホスト2aにおいて、預かり証券データファイル21aは、顧客から預かった証券の売却指令が出された時に売却指令データ、及び売却取引が成立した時に金額を含む売却済未決済データが顧客の口座番号に対応してファイルされるメモリである。
証券時価ファイル22aは、株式市場に上場されている株式の銘柄の時価がファイルされているメモリで、図示省略した株価入力装置から時々刻々と変わる時価が入力されて更新される。
データ処理部23aは、自動証券取引装置2aからの照会電文により、証券時価ファイル22aにファイルされているデータにより、株券コードから該当する株券の時価を読み出して応答電文編集部24aへ送り、また株券の売却注文済データを応答電文編集部24aへ送る。更に株券の売却取引が成立した時に図示省略した入力装置から入力された取引データを売却済未決済データとして預かり証券データファイル21aへ格納する。また現金支払、或いは口座への入金が行われると、図示省略した入力装置からの入力により売却済未決済データを消去する。
応答電文編集部24は、自動証券取引装置2aからの株価照会があった時にデータ処理部23から送られる株券の時価に基いて応答電文を編集する。
自動証券取引装置3aにおいて、カードリードライト部(以下カードR/Wという)31aは、証券預かりカード(以下カードという)1aから記録データを読み取り、また売却指令時に売却指令データをカード1aに記録する。
カード1aは、証券会社等において顧客が購入した証券(以下株券で説明する)を保護預かりした時に、1取引1銘柄毎に預かり証として発行するもので、表面は通常の預かり証の記載事項が記録され、裏面に磁気記録部(例えば磁気ストライプ)を設けて、発行会社名、顧客固有のデータ(暗証番号、口座番号、氏名)、カード番号、株券銘、株数、取引年月日等の記録データが磁気記録されており、また該当株券の売却指令を出した時に売却指令データを記録する記録領域を有する磁気カードである。
照会電文編集部32aは、カード1aから読み取られた株券の銘柄に基いて、その銘柄の時価を照会する照会電文を編集する。
ディスプレイ(以下CRTという)33aは、カード1aから読み取られた株券の銘柄と株数、顧客に対する操作ガイダンス、及びホスト2aから応答された銘柄の時価を表示する。
操作パネル34aは、顧客の暗証番号、及び売却指令株数及び価格を操作入力する入力釦34bを備えている。(指値注文の時は希望単価を入力し、成行注文の時は図示省略した成行釦を押下する。)
指令電文編集部35aは、カードlaから読み取られた記録データ、即ち、株券の銘柄と株数、入力された売却数量及び売却希望単価に基いて売却指令電文を編集する。
プリンタ部37aは、図示省略した用紙供給部と印字部を備え、株券の売却が指令された時に、用紙に売却指令内容を印字して伝票10aを発行する。
また30は主制御部を示す。
このような構成及び機能を有するので、第3図のフローチャートにより売却注文時及び売却取引成立後の作用を説明する。
1)売却注文時には、第3図(a)に示すように、
(1)まず、顧客が自動証券取引装置3aにカード1aを挿入すると、カードR/W部31aで記録データが読み取られ、株券の銘柄と株数がCRT33aに表示される。
(2)一方、読み取られた株券の銘柄に基いて照会電文編集部32aで照会電文を編集してホスト3aへ時価を照会する。
(3)ホスト2aでは証券時価ファイル22aからその銘柄の時価を読み出して、応答電文編集部24で応答電文を編集して応答する。
(4)自動証券取引装置3aは応答された時価をカード1aから読み取った銘柄、株数と共にCRT33aに表示する。
(5)そこで顧客は暗証番号を入力してカード1aから読み取った暗証番号と照合確認後、売却株数及び売却希望単価を入力釦34bで入力する。
(6)するとカードR/W部31aで読み取られた口座番号と入力された売却数量、売却希望単価に基いて、指令電文編集部35aで売却指令電文を編集してホスト2aへ売却を指令する。
(7)ホスト2aは預かり証券データファイル21aから顧客の口座番号及びカード番号により銘柄及び株数を読み出して、売却指令の銘柄及び株数を照合し、売却株数が預かり株数以内であるかを確認してから、図示省略した出力装置より証券取引所へ売却注文を出し、売却注文済を預かり証券データフローチャート21aへ顧客口座番号対応にファイルすると共に、証券取引装置3aへ通知する。
(8)一方、自動証券取引装置3aはホスト2aから売却注文済の通知を受けると、カードR/W31aでカードlaに売却指令データを記録して送出すると共に、プリンタ部37aで売却指令データを伝票10aに印字して発行する。
2)売却取引が成立した時は、第3図(b)に示すように、
(1)売却済未決済データが入力装置からホスト2aに入力されて、預かり証券データファイル21aに記録される。取引成立時には通常証券会社から顧客に電話連絡があり、続いて取引伝票が郵送される。一方、決済日(例えば取引成立後4日目)には売却金額から手数料及び取引税が差引かれて顧客の口座に入金される。
(2)顧客は決済日後に証券会社へカード1aと取引伝票を持参し売却代金の決済をする。この時カード1aは回収され、その銘柄の株残数があれば改めてその銘柄の株残数が記録されたカードlaが発行される。
(3)売却代金が決済されると、入力装置から決済された旨の入力が行われて、その銘柄の株残数があれば証券データファイル21aに記憶された株数が更新され、売却済未決済データが消去される。
(4)株残数がなけばそのカードlaに対応する証券デ-タファイル21aのデータは消去される。
このようにして、顧客は証券会社に保護預かりされている証券の売却を自動証券取引装置3aによって注文することができ、証券会社側では事務の省力化を図ることができる。
本発明の自動証券取引装置の機能を現金自動支払機等の自動取引装置とを組合せることにより、売却代金を自動決済をすることも可能である。」(第3頁右上欄第18行-第5頁左上欄第8行)
(なお、(1)等は丸付き数字を表す。)

上記摘記事項(ウ)の「本発明の自動証券取引装置の機能を現金自動支払機等の自動取引装置とを組合せることにより、売却代金を自動決済をすることも可能である。」の記載からみて、引用例に記載された事項において、自動証券取引装置の代わりに、自動証券取引装置の機能が組み合わされた自動取引装置を用いることが開示されている。
また、一般的に、自動取引装置は複数設置され、自動取引装置としての従来の金融サービスを提供するために、金融コンピュータに対して自動取引装置のネットワークを形成していると認められる。
また、自動取引装置は、一般的に、顧客銀行口座からの現金の引き出し、銀行口座間の振替のサービスを提供していると認められる。

してみると、引用例1には、
『証券売却及び他の金融サービスを行うための証券取引システムであって、該証券取引システムが現金支払い能力を有する「自動取引装置」を含み、前記「自動取引装置」を通じて顧客銀行口座からの現金の引き出し、銀行口座間の振替を含む複数の金融サービスを提供する自動取引装置のネットワークと、前記「自動取引装置」と機能的に接続された「証券データ管理装置(2)」及び「金融機関のコンピュータ」とを有し、「証券データ管理装置(2)」は、利用銀行口座に対応する証券データを「証券データファイル(21)」にファイルし、「自動取引装置」によってなされた証券の時価の照会に応じて株価入力装置から時々刻々変わる時価が入力されて更新される「証券時価ファイル(22)」から該銘柄の時価を読み出し、「自動取引装置」によってなされた売却指令に応じて顧客の代わりに保有する証券を売却するための「主制御部(20)」とを有する証券取引システム。』
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(b)引用例2
原査定において周知技術の一例として引用された特開平3-98366号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(エ)「〔実施例〕
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
第3図は、本発明の一実施例を示す複合サービス端末の外観図である。図において、1は本複合サービス端末を指しており、2は電話機もしくはテレビ電話機で、送受話器を外すと、従来と同様の通話サービスが受けられる。3はIDカードリーダで、クレジットカードまたはキャッシュカード等の、決済資金を保証するカードを挿入する。4は表示器で、操作ガイダンスを表示するとともに、画像情報も表示する。5はプリペイドカードリーダで、テレホンカードの如きカードを挿入する。6はドキュメント部で、FAX送信紙の挿入または受信紙の排出、もしくは、情報の印字出力紙の排出を行う。
7は現金入出金機の紙幣入出金部で、紙幣の入金と出金を行う。8は現金入出金機の硬貨入出金部で、硬貨の入出金を行う。9は操作部で、ボタンもしくは表示器にセットされたタッチパネルにより、サービスを受けるために必要な入力操作を行う。上述の各構成要素は、第1図に示す如く、マイクロプロセッサを含む制御部10に接続されている。なお、第1図において、ビデオディスク,CD ROMは、画像情報,音声情報等を記録してあるものである。また、回線制御部11は、一般に開放されている電話網,パケット網,ISDN等に接続するインタフェースを有している。
第2図は、上記回線網を介して接続されるサービスの提供ネットの一例を示すものである。前述の複合サービス端末は、接続先として、第2図に示す相手先から、それぞれのサービスを受けることができる。」(第2頁右下欄第9行-第3頁右上欄第1行)

(オ)「(3)銀行サービスネット
銀行のサービスネットに接続し、キャッシュカードを利用して現金入出金機による現金の入出金,口座残高照会,振込みまたは振替え等の銀行取引サービスを受ける。」(第3頁右上欄第11行-第15行)

(カ)「(5)金融サービスネット
金融機関のサービスネットに接続し、金融情報(各種金融レート,株価情報等)の表示サービスや、投資相談を行い、株式や債券の販売を行う。」(第3頁左下欄第1行-第5行)

(キ)「(4)銀行サービス
第9図は、銀行サービスの処理フローである。銀行サービスは、一般のATMと同様に、預金の支払い,入金,残高照会,振込み等のサービスが受けられるものである。利用者は、まず、希望する取引を選択する。第9図の例は、預金の支払いを選択した場合のフローを示している。支払いが選択されると、キャッシュカードの押入が指示され、カードを挿入するとカードを読み取り、力一ドの発行銀行を確認する(ステップ91?94)。取引銀行を確認後、その銀行のサービスネットに接続して、カード情報を送信する。銀行では、その情報を基にカードの正当性をチェックして回答する(ステップ95?97)。チェックNGならば、カードを返却して拒否する。チェックOKならば、暗証証番号を入力させ、それを送信して暗証番号のチェックを受ける(ステップ98?101)。
ここで、チェックNGならば、カードを返却して拒否する。チェックOKならば、支払い金額を入力させ、それを送信する(ステップ102?104)。支払い金額が残高よりも多ければ、支払い許可を回答するとともに、当該口座の残高を更新する。支払い許可を受信すると、紙幣を計数し、また、取引明細を印字する。その後、現金と明細票,カードを返却して、サービスネットを切り離し終了する(ステップ105?109)。
以上は支払いの場合のサービスであるが、預入れサービス,残高照会サービス,振込み・振替えサービスの場合も、同様にカードから銀行を確認して、その取引を実行する(ステップ110?112)。これらのサービスは、一般のATMと同様に行われる。」(第5頁左上欄第13行-右上欄第9行)

(ク)「(5)クレジット・カタログ販売
第10図は、クレジット・カタログ販売の処理フローである。このサービスは、商品カタログを表示器に表示して購入の中し込みを受付けるものである。まず、クレジットカードの利用処理,ステップ27?44を実行する。これによって、販売できる商品の価格を予め記憶しておく。その上で、商品のメニューを表示し、その中から購入品を選択させる(ステップ113?115)。
商品が選択されると、その商品の販売先のネットに接続し、そこから商品の詳細な情報を受信して表示する。ここで、この商品を購入するかどうかを決定させ、しない場合には、カードを返却して終了する。購入する場合には、契約書の入力表示を行って入力させ、商品の予約を行う。この契約内容は、契約書として印字出力し、カードとともに利用者に渡す(ステップ116?121)。代余の請求は、商品の販売元からクレジット会社を経由して、利用者の口座から引き落とされる。」(第5頁左下欄第5行-右下欄第3行)

(ケ)「(6)金融情報サービス
第11図は、金融情報サービスの処理フローである。このサービスは、金融サービスネットに接続して、株価情報や外国為替情報、金融商品の内容等を表示するものである(ステップ122?l25)。ここで、例えば、株の購入を行う場合には、カタログ販売と同様の処理を行えば良い。」(第5頁右下欄第4行-第10行)

してみると、引用例2には、
「サービス端末において、一般のATMと同様のサービスとともに、株の販売や購入のサービスを提供する」
との事項が開示されている。

(3-3-3)対比
本願補正発明と引用発明を比較すると、「自動取引装置」は、本願補正発明の「データ端末」及び「ATM」に相当し、同じく、「証券売却」は「株式仲買」に、「自動取引装置のネットワーク」は「ATMネットワーク」に、「金融機関のコンピュータ」は、「ホスト・システム」に、「顧客」は「利用者」に、「証券の時価」は「証券価格情報」に、「証券データファイル(21)」は「証券価格データベース」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「利用銀行口座に対応する証券データを「証券データファイル(21)」にファイルする「主制御部(20)」」と本願補正発明の「利用者銀行口座に対応する記録を管理するサーバー」とは、「利用者銀行口座に対応する記録を管理する手段」という点で共通する。
また、引用発明の「「自動取引装置」によってなされた証券の時価の照会に応じて株価入力装置から時々刻々変わる時価が入力されて更新される「証券時価ファイル(22)」から該銘柄の時価を読み出すための手段」と本願補正発明の「前記データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ、前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための通信ネットワーク」とは、「データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための手段」という点で共通する。
また、引用発明の「「自動取引装置」によってなされた売却指令に応じて顧客の代わりに保有する証券を売却するための「主制御部(20)」」と本願補正発明の「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するためのサーバ」とは、「データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売却するための手段」という点で共通する。
また、引用発明の「証券データ管理装置」は本願補正発明の「株式仲買システム」とは、株式の取引を行う「株式仲買システム」であるという点で共通する。

してみれば、引用発明と本願補正発明は、
「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムであって、該システムが現金支払い能力を有する複数のデータ端末を含み、
前記データ端末を通じて利用者銀行口座からの現金引き出しおよび銀行口座間の振替を含む複数の金融サービスを利用者に提供するATMネットワークと、前記ATMに機能的に接続された株式仲買システムとを有し、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録を管理する手段と、データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための手段と、データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売却するための手段とを有するシステム。」
の点で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明では、ATMと株式仲買システムとが、少なくとも1つのホスト・システムを通じて接続されているのに対し、引用発明では、そのように接続されているかどうか明記されていない点。

(相違点2)
利用者銀行口座に対応する記録を管理するする手段が、本願補正発明では、サーバーであるのに対し、引用発明では、「主制御部(20)」であり、サーバーであるかどうかは明記されていない点。

(相違点3)
データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための手段が、本願補正発明では、データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られ通信ネットワークであるのに対し、引用発明では、証券価格データベースは内部に備えており、そのような手段ではない点。

(相違点4)
データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売却するための手段が、本願補正発明では、証券を購入するサーバであるのに対し、引用発明では、証券を売却するための「主制御部(20)」であり、証券を購入するかどうかは明記されておらず、また、サーバであるかどうかも明記されていない点。

(3-3-4)当審の判断
(相違点1について)
端末と複数のシステムをどのように接続するかは設計的事項であるので、端末であるATMと株式仲買システムを、少なくとも1つのホストシステムを通じて接続することは当業者が適宜選択できる事項である。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の構成は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点2について)
処理手段としてサーバーを用いることは周知事項であるので、引用発明において、サーバーにより利用者銀行口座に対応する記録を管理することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明および周知事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点3について)
処理手段としてサーバーを用いることは周知事項であり、外部のデータベースと接続して当該データベースから必要な情報を受信して取得することは周知の技術であるので、引用発明において、データ端末からの証券価格情報要求が外部の証券価格データベースへと接続されている相場サーバーへと送られるための通信ネットワークを構成することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成は、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点4について)
引用例2には、「サービス端末において、一般のATMと同様のサービスとともに、株の販売や購入のサービスを提供する」との事項が開示されており、また、処理手段としてサーバを用いることは周知事項であるので、引用発明において、処理手段としてサーバを用い、株式の売却だけでなく、購入も行うようにすることは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点4に係る本願補正発明の構成は、引用発明、引用例2に記載された事項、及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1、引用例2、及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.請求項1について
以上のとおり、平成18年12月6日付けの手続補正は却下されたので、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月25日付けの手続補正書に記載された以下のとおりのものである。
「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムであって、現金支払い能力を有する複数のデータ端末を含み、前記データ端末を通じて利用者銀行口座からの現金の引き出しおよび銀行口座間の振替を含む複数の金融サービスを利用者に提供するATMネットワークと、少なくとも1つのホスト・システムを通じて前記ATMに機能的に接続された株式仲買システムとを含み、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理するための手段と、前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得るための手段と、前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買するための手段とを有するシステム。」

4.原査定の拒絶の理由について
(1)特許法第29条第1項柱書の規定に関する拒絶理由について
平成17年10月17日付けの拒絶理由通知及び平成18年7月28日付けの拒絶査定の記載からみて、特許法第29条第1項柱書の規定に関する拒絶理由(以下、「理由1」という。)の概要は以下のとおりである。
『請求項1の各手段に関する記載は果たすべき機能を手段として表現したものであって、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているものとはいえないから、請求項1に係る発明は、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」とは認められないので、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。』

(2)特許法第36条第6項第2号の規定に関する拒絶理由について
平成17年10月17日付けの拒絶理由通知及び平成18年7月28日付けの拒絶査定の記載からみて、特許法第36条第6項第2号の規定に関する拒絶理由(以下、「理由2」という。)の概要は以下のとおりである。
『請求項1には「前記データ端末によってなされた要求に応じて証券価格情報を得るための手段」、「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するための手段」と記載されているが、単に機能的、願望的に記載されているに過ぎずどのような技術手段により実現されるのか明確でないので、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。』

(3)特許法第29条第2項の規定に関する拒絶理由について
平成17年10月17日付けの拒絶理由通知及び平成18年7月28日付けの拒絶査定の記載からみて、特許法第29条第2項の規定に関する拒絶理由(以下、「理由3」という。)の概要は以下のとおりである。
『請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開昭64-21696号公報』

5.理由1について
特許法第29条第1項柱書には、「産業上利用することができる発明をした者は、・・・その発明について特許を受けることができる。」と規定され、特許法第2条第1項柱書には、特許法でいう「発明」について、「『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。
そして、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、「ATMネットワークを通じて株式仲買サービスを提供するためのシステムおよび方法を提供することである。」という技術的課題を解決しようとするものであって、株式仲買システムとを含み、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理するための手段(以下、「記録管理手段」という。)と、前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得るための手段(以下、「情報取得手段」という。)と、前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買するための手段(以下、「証券売買手段」という。)を有することを特徴とするものである。
してみれば、本願発明は、「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステム」であって、コンピュータを使用した記録管理手段、情報取得手段、証券売買手段の手段を有する株式仲買システムを備えるものであるから、本願発明は、コンピュータ・システムの発明であり、その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるコンピュータ・ソフトウエア関連発明である。
そして、こうしたソフトウエアを利用するコンピュータ・ソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
請求項1の記載は前記のとおりであるから、本願発明において技術的課題の解決手段の根拠となるべき要部は、上記の各手段である。
そこで、請求項1に係る発明が、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かについて、以下順次上記の各手段についての記載を検討する。

記録管理手段についての記載を検討すると、当該記載には、ハードウエア資源として「コンピュータ」が記載されているものの、「コンピュータ」に関する記載は、単にコンピュータを使用することを特定するにすぎず、コンピュータがどのような情報をどのように情報処理して利用者銀行口座に対応する記録を管理するのか具体的に記載されていないので、管理手段についての記載は、株式仲買システムの機能を「利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理する」ことに特定するに留まり、上記管理手段についての記載では、当該機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、記録管理手段についての記載から自明な事項とも認められない。

情報取得手段についての記載を検討すると、当該記載には、ハードウエア資源として「コンピュータ」及び「データ端末」が記載されているものの、「コンピュータ」に関する記載は、単にコンピュータを使用することを特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は情報の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、また、コンピュータがデータ端末によってなされた要求のどのような情報をどのように情報処理して証券価格情報を得るのか具体的に記載されていないので、情報取得手段についての記載は、株式仲買システムの機能を「前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得る」ことに特定するに留まり、管理手段についての記載では、当該機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、情報取得手段についての記載から自明な事項とも認められない。

証券売買手段についての記載を検討すると、当該記載には、ハードウエア資源として「コンピュータ」及び「データ端末」が記載されているものの、「コンピュータ」に関する記載は、単にコンピュータを使用することを特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は売買の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、また、コンピュータがデータ端末によってなされた要求に含まれるどのような情報をどのように情報処理してデータ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を売買するのか具体的に記載されていないので、証券売買手段についての記載は証券仲買システムの機能を「データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買する」ことに特定するに留まり、証券売買手段についての記載では、当該機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、証券売買手段についての記載から自明な事項とも認められない。

全体としても、株式仲介システムで使用されるハードウエア資源として「コンピュータ」及び「データ端末」が記載されているものの、「コンピュータ」に関する記載は、単にコンピュータを使用することを特定するにすぎず、「データ端末」に関する記載は情報や売買の要求元をデータ端末に特定するにすぎず、また、コンピュータがどのような情報処理して、記録を管理したり、情報を得たり、証券を売買するのか具体的に記載されていないので、これらの記載は、株式仲買システムの機能を特定するに留まり、それらの機能がハードウエア資源をどのように用いて実現されるのか具体的に記載されておらず、また、請求項1の記載から自明な事項とも認められない。

以上の検討によれば、各手段で特定される機能が、「株式仲買システム」のハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、どのように実現されるのか、という点に関しては、何ら具体的に記載されておらず、かつ、それぞれの情報処理の具体的内容が、各手段の記載から当業者にとって自明であると認められるものではない。

そして、これらの各手段を実質的な要部として含む本願発明は、その技術的課題を解決できるような特有の構成を具体的に提示するものではなく、一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しない。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。

6.理由2について
請求項1の記載について検討すると、以下の記載が以下の点で不明りょうである。

(ア)「利用者銀行口座に対応する記録をコンピュータを使用して管理するための手段」の記載では、どのような情報を取得し、コンピュータをどのように使用してその情報を情報処理して利用者銀行口座に対応する記録を管理するのか不明である。

(イ)「前記データ端末によってなされた要求に応じてコンピュータを使用して証券価格情報を得るための手段」の記載では、データ端末によってなされた要求がどのような情報を含み、コンピュータをどのように使用して、その情報をどのように情報処理して証券価格情報を得るのか不明である。

(ウ)「前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券をコンピュータを使用して売買するための手段」の記載では、データ端末によってなされた要求のどのような情報をどのように情報処理して利用者の保有する証券を売買するのか不明である。

以上のとおり、請求項1の記載が不明りょうであるため、請求項1に係る発明が明確であるとは認められないので、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

7.理由3について
(1)引用例
引用例1および引用例2の記載事項は、上記2.(3-3-2)に記載されたとおりである。

(2)対比
本願発明と引用発明とを比較すると、両者は、
「株式仲買および他の金融サービスを行うためのシステムであって、現金支払い能力を有する複数のデータ端末を含み、前記データ端末を通じて利用者銀行口座からの現金の引き出しをおよび銀行口座間の振替を含む複数の金融サービスを利用者に提供するATMネットワークと、少なくとも1つのホスト・システムを通じて前記ATMに機能的に接続された株式仲買システムとを含み、該株式仲買システムが、利用者銀行口座に対応する記録を処理手段を使用して管理するための手段と、前記データ端末によってなされた要求に応じて処理手段を使用して証券価格情報を得るための手段と、前記データ端末によってなされた要求に応じて利用者の代わりに保有する証券を処理手段を使用して売却するための手段とを有するシステム。」
の点で一致し、上記相違点1および以下の点で相違する。

(相違点5)
本願発明では、処理手段としてコンピュータを使用しているのに対し、引用発明では、コンピュータかどうか明記されていない点。

(相違点6)
本願発明では証券を売買しているのに対し、引用発明では、証券を売却しているものの、証券を買っているかどうか明記されていない点。

(3)判断
(相違点1について)
上記2.(3-3-4)で検討したとおりである。

(相違点5について)
処理手段としてコンピュータを使用することは周知事項であるので、引用発明において、主制御部としてコンピュータを使用することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点5に係る本願発明の構成は、引用発明および周知事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点6について)
引用例2には、「サービス端末において、一般のATMと同様のサービスとともに、株の販売や購入のサービスを提供する」との事項が開示されているので、引用発明において、証券を売買するように構成することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点6に係る本願発明の構成は、引用発明および引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1、引用例2、及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

8.むすび
上記5.で述べたとおり、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないので、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。
また、仮に、本願発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとしても、上記6.で述べたとおり、本願発明は明確ではないので、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。
さらに、仮に、本願発明が明確であるとしても、上記7.で述べたとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-17 
結審通知日 2009-06-23 
審決日 2009-07-06 
出願番号 特願平9-501198
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06Q)
P 1 8・ 1- Z (G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 満  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 清田 健一
松田 直也
発明の名称 利用者起動端末を通じて統合株式仲買取引等の金融サービスを提供するための方法とシステム  
代理人 石田 正己  
代理人 ▲高▼部 育子  
代理人 橋本 千賀子  
代理人 松嶋 さやか  
代理人 松原 伸之  
代理人 村木 清司  

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