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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F24H
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F24H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24H
管理番号 1207443
審判番号 不服2007-14984  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-24 
確定日 2009-11-19 
事件の表示 特願2004-166755号「貯湯装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月9日出願公開、特開2004-251621号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成12年10月17日に出願した特願2000-316892号(以下「原出願」という。)の一部を平成16年6月4日に新たな特許出願としたものであって、平成19年4月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月24日)、これに対し、同年5月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成19年6月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前に
「内部に高温層と、低温層と、前記高温層と前記低温層との間に形成される中温層を有する貯湯槽(3c)と、
前記貯湯槽(3a、3c)の下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽(3c)の上部に戻すヒートポンプと、
給水源から前記貯湯槽(3c)に給水する給水管(8)と、
給湯口(10)へと給水または給湯する給湯管(14)と、
前記貯湯槽において前記ヒートポンプによって加熱された湯が戻る部位よりも下方であって、前記貯湯槽(3a、3c)の側部中間位置に取付けられ、前記中温層の湯が流出する中間取水管(8c)と、
前記貯湯槽(3a、3c)よりも上流側の部位において前記給水管(8)から分岐し、前記給湯管(14)に接続される給水分配管(8a)とを備え、
前記中間取水管(8c)から流出した前記中温層の湯を給湯に用いることを特徴とする貯湯装置。」
とあったものを、
「内部に湯を貯湯し、内部の湯が高温層と低温層とを有し、前記高温層と前記低温層との間に温度成層が形成される貯湯槽(3c)と、
前記貯湯槽(3c)の下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽(3c)の上部に戻し、高温の上層部を形成する冷媒としてCO_(2)を用いるヒートポンプ(6)と、
給水源から前記貯湯槽(3c)に給水圧を利用して給水する給水管(8)と、
給湯口(10)へと給水または給湯する給湯管(14)と、
一端が前記貯湯槽(3c)の側部中間位置に取り付けられるとともに、他端が前記給湯管(14)に接続され、前記貯湯槽(3c)の中間位置から前記貯湯槽(3c)内の湯を流出させる中間取水管(8c)と、
前記貯湯槽(3c)よりも上流側の部位において前記給水管(8)から分岐し、前記給湯管(14)に接続される給水分配管(8a)とを有し、
前記中間取水管の一端は、前記ヒートポンプ(6)によって加熱された湯が前記貯湯槽(3)に戻る部位よりも下方となる位置で前記貯湯槽に接続され、前記中間取水管(8c)から流出した湯を給湯に用いることを特徴とする貯湯装置。」(下線は当審にて付与。)
と補正しようとするものである。

2.補正の目的について
上記補正は、補正前の「中間取水管から流出した前記中温層の湯を給湯に用いること」との記載を「中間取水管から流出した湯を給湯に用いること」と補正することを含むものである。
本件補正発明は「中間取水管から流出」する「湯」については、貯湯槽の中間位置から貯湯槽内の湯を流出させるというのみなので、貯湯槽の内部に形成される高温層、温度成層、低温層のうちの、貯湯槽の中間位置に存在する湯というものである。
したがって、上記補正は、「中間取水管から流出」する「湯」について、本件補正前に「中温層の湯」であったものを、貯湯層の内部に形成される高温層、温度成層、低温層のうち、貯湯槽の中間位置に存在する湯とするものであって、中温層の湯ではないから、発明を実質的に変更するものである。
ゆえに、上記補正は、限定的減縮を目的とするものではない。
そして、上記補正が、請求項の削除に該当しないことは明らかである。
次に、上記補正が、誤記の訂正を目的とするものに該当するか否かについて検討する。
上記補正は、本件補正前の「前記中間取水管から流出した前記中温層の湯を給湯に用いる」なる発明特定事項のうち、「中温層の」なる語句を削除する補正を含むものである。
そして、当該補正は、「中温層の」なる語句を、本来その意であることが明細書又は図面の記載などから明らかな内容の語句に正すものではないことから、当該補正は、誤記の訂正を目的とするものに該当しない。
また、上記補正の他の補正事項が誤記の訂正を目的とするものに該当しないことは明らかである。
さらに、本件補正前の請求項1の記載自体明りょうであるとともに、平成18年12月7日付け拒絶理由通知書、平成19年4月19日付け拒絶査定において、明りょうでない記載を理由として含むものではないことから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

3.独立特許要件について
(1)本件補正発明
本件補正については、上記2で述べたとおりであるが、さらに本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについても検討する。

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-121157号公報(以下「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(a)「本発明は、給湯路が上部に接続された貯湯タンクと、その貯湯タンク内に湯水が温度成層を形成して貯湯されるように、貯湯タンクの底部から取り出した湯水を加熱手段にて加熱したのち、その温水を前記貯湯タンクの上部に供給する貯湯用循環状態で湯水を循環する湯水循環手段と、運転を制御する制御手段とが設けられた貯湯式の給湯熱源装置に関する。」(段落【0001】)
(b)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のものでは、貯湯タンクへの貯湯を行う熱交換部と外部放熱部が兼用するように設けられているために、貯湯タンクへの貯湯を行うときには、加熱手段による熱を外部放熱部に奪われ、逆に、外部放熱部における放熱を行うときには、加熱手段による熱を熱交換部に奪われ、貯湯タンクへの貯湯および外部放熱部における放熱のそれぞれを効率よく行えないことがあった。
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、貯湯タンクへの貯湯および外部放熱部における放熱のそれぞれを効率よく行うことができる貯湯式の給湯熱源装置を提供する点にある。」(段落【0004】および【0005】、下線は当審にて付与、以下同様。)
(c)「【発明の実施の形態】本発明にかかる貯湯式の給湯熱源装置をエンジンヒートポンプ式冷暖房給湯システムに適応した例を図面に基づいて説明する。このエンジンヒートポンプ式冷暖房給湯システムは、図1に示すように、室内の冷暖房をするエンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cが設けられ、このエンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cのエンジン排熱およびヒートポンプ式冷暖房における排熱、ならびに、補助熱源を利用しながら貯湯タンク1内の湯水を加熱する加熱手段としての加熱部K、貯湯タンク1内の湯を利用して放熱する外部放熱部Hのそれぞれが貯湯タンク1内の湯水を循環するための循環路2に設けられ、循環ポンプ3を作動させて貯湯タンク1内の湯水を循環路2にて循環するようにしている。そして、エンジンヒートポンプ式冷暖房装置Cの運転、加熱部Kおよび循環ポンプ3などの動作を制御する制御手段としての制御装置Sが設けられている。
前記貯湯タンク1には、その底部から貯湯タンク1に水道水圧を用いて給水する給水路4が接続され、その上部から風呂場や台所などの給湯栓5に給湯する給湯路6が接続され、給湯栓5で使用された量だけの水を給水路4から貯湯タンク1に給水するようにしている。また、循環路2を通流する湯水を貯湯タンク1内に戻す、または、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すために、循環路2と貯湯タンク1とが、貯湯タンク1の上部、中間部、底部の3箇所で連通接続されている。
つまり、貯湯タンク1の上部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する上部接続路7aと、循環路2と上部接続路7aとの接続箇所に上部用三方弁7bとが設けられ、貯湯タンク1の中間部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する中間部接続路8aと、循環路2と中間部接続路8aとの接続箇所に中間部用三方弁8bとが設けられ、貯湯タンク1の底部には、循環路2と貯湯タンク1とを接続する底部接続路9aと、循環路2と底部接続路9aとの接続箇所に底部用三方弁9bとが設けられている。
したがって、各三方弁7b,8b,9bを切換えることによって、循環路2を通流する湯水を貯湯タンク1に戻したり、または、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すようにし、湯水循環手段Jが、循環路2、循環ポンプ3、各接続路7a,8a,9a、各三方弁7b,8b,9bなどによって構成されている。また、上部用三方弁7bにより、加熱部Kにて加熱した温水を、外部放熱部Hに分岐供給する温水量を変更調節自在に構成している。
また、貯湯タンク1内に加熱された湯を貯湯する際には、底部接続路9aにより貯湯タンク1の底部の水を循環路2に取り出し、その水を加熱部Kで加熱しながら循環路2を循環させて、その加熱された湯を上部接続路7aにより貯湯タンク1の上部に戻して温度成層を形成して貯湯する。そして、その貯湯量が必要最小貯湯量以上であるかを、その湯温を検出することにより検出する貯湯温サーミスタ10、必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量以上であるかを、その湯温を検出することにより検出する余剰貯湯状態検出手段としての余剰湯温サーミスタ11が設けられている。なお、必要最小貯湯量とは、給湯栓5にて給湯することが予測される範囲の給湯量で行われるときに、湯切れが生じないように予め貯湯しておく貯湯量のことである。そして、貯湯温サーミスタ10の設置位置は、貯湯タンク1と中間接続路8aとの接続箇所よりも上方に位置し、余剰湯温サーミスタ11の設置位置は、貯湯タンク1と中間部接続路8aとの接続箇所よりも下方に位置する。」(段落【0012】ないし【0016】)
(d)「具体的に説明すると、給湯用操作装置KSにより運転が指令されている状態で、貯湯タンク1内に必要最小貯湯量の貯湯がされていないと、すなわち、貯湯温サーミスタ10による検出温度が設定温度未満であると、図3に示すように、循環ポンプ3を作動させ、貯湯タンク1の底部の水を循環路2に取り出すように底部用三方弁9bを切換えて、貯湯タンク1の底部の水を加熱部Kにて加熱しながら循環させる。そして、例えば、循環路2を通流する湯水が十分に加熱される設定時間が経過すると、あるいは、循環路2における湯水の温度が設定温度以上になると、循環路2を通流する湯を貯湯タンク1の上部に戻すように上部用三方弁7bを切り換えて、加熱された湯を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯を行う。
このようにして、貯湯タンク1内に湯水が温度成層を形成して貯湯されるように、その貯湯量が必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量になるまで、すなわち、余剰湯温サーミスタ11による検出温度が設定温度以上になるまで、貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱したのち、その温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯用循環状態において貯湯を行う貯湯運転を実行する。
また、上述の貯湯タンク1への貯湯が行われた後、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されるか、床暖房装置の運転が開始されるか、または、その両方がされて、風呂追焚き用循環ポンプ15aや床暖房用循環ポンプ16aが作動され、放熱処理の実行が要求されると、循環ポンプ3を作動させ、底部接続路9aからの湯水と循環路2からの湯水とが混合するように底部用三方弁9bを切り換え、加熱部Kにて加熱された温水の全量または一部を外部放熱部Hに分岐供給するように上部用三方弁7bを切り換える。そして、図4に示すように、加熱部Kにて加熱した温水の全量または一部を外部放熱部Hに分岐供給しかつその外部放熱部Hからの湯水の全量を貯湯タンク1を迂回して加熱部Kに直接戻す形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において、貯湯タンク1の底部の湯水を加熱部Kにて加熱して、その一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱する。その後、貯湯タンク1の底部の湯水と外部放熱部Hにて熱源として放熱された湯水を混合させて、再び加熱部Kにて加熱するように循環させる。
このようにして、貯湯タンクへの貯湯を行うときには、湯水循環手段を貯湯用循環状態に切換えて貯湯運転状態において、加熱手段にて加熱された温水を貯湯タンクの上部に供給して的確に貯湯を行うことができ、外部放熱部における放熱を行うときには、湯水循環手段を外部放熱用循環状態に切換えて放熱運転状態において、加熱手段にて加熱した温水の全量を外部放熱部に供給して外部放熱部における放熱を的確に行うことができ、または、加熱手段にて加熱した温水の一部を外部放熱部に、残りを貯湯タンクの上部に供給して、加熱手段にて余剰に加熱された温水を放熱を行うとともに、貯湯にも利用することができる。
そして、外部放熱用循環状態においては、加熱手段にて加熱した温水の全量または一部を外部放熱部に分岐供給しかつその外部放熱部からの湯水の全量を貯湯タンクを迂回して加熱手段に直接戻す形態で湯水を循環させるので、貯湯タンクの底部の給水温度に近い湯水を加熱することなく、外部放熱部にて放熱に使用され、給水温度近くまで温度が低下していない湯水を直接加熱手段にて加熱することができ、外部放熱部における放熱を確実に行うことができる。」(段落【0032】ないし【0036】)
(e)「このようにして、貯湯処理を実行して、その貯湯量が必要最小貯湯量よりも設定量だけ多い余剰貯湯量になると、すなわち、余剰湯温サーミスタ11による検出温度TYが設定温度以上になると、貯湯処理の終了が要求されて、停止処理を実行して貯湯運転を終了する。つまり、循環ポンプ3が作動中であればその作動を停止させ、第1?3熱交換部12,13,14にて循環路2の湯水が加熱されないように、第1排熱切換機構17および第2排熱切換機構18が加熱状態に切換えられていると排熱状態に切換えるとともに、バーナBが燃焼中であればバーナBでの燃焼を停止させる。
また、貯湯運転を実行する時間帯などの貯湯運転の実行タイミングであって、貯湯タンク1内に必要最小貯湯量の貯湯がされているときに、すなわち、貯湯温サーミスタ10の検出温度TKが設定温度以上のときに、貯湯タンク1への貯湯を行う貯湯処理を実行している貯湯運転中であると、その貯湯処理が継続して実行される。そして、貯湯タンク1内に余剰貯湯量の貯湯が行われて、貯湯運転が終了された後に、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されるか、床暖房装置の運転が開始されるか、または、その両方がされて、放熱処理の実行が要求されると、放熱運転を開始して放熱処理を実行する。つまり、循環ポンプ3を作動させ、底部接続路9aからの湯水と循環路2からの湯水とが混合するように底部用三方弁9bを切り換え、循環路2の湯水の一部を貯湯タンク1に戻すように上部用三方弁7bを切り換える。そして、貯湯タンク1の底部の湯水を加熱部Kにて加熱して、その一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱する。その後、貯湯タンク1の底部の湯水と外部放熱部Hにて熱源として放熱された湯水を混合させて、再び加熱部Kにて加熱するように循環させる。」(段落【0042】および【0043】)
(f)「〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、加熱部Kにて加熱した温水の一部を外部放熱部Hに分岐供給する形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において放熱処理を実行するようにしているが、外部放熱用循環状態に加え、貯湯タンク1の中間部から取り出した湯水の全量または一部を外部放熱部Hに供給して貯湯タンク1の底部に戻す形態で湯水を循環させる余剰分外部放熱循環状態において余剰分放熱状態にて外部放熱部Hにて放熱するようにしてもよい。具体的に説明すると、図6に示すように、貯湯温サーミスタ10の検出温度が設定温度以上のときにおいて、給湯用操作装置KSの指令により風呂追焚きが指令されたり、床暖房装置の運転が開始されたりして、風呂追焚き用循環ポンプ15aや床暖房用循環ポンプ16aが作動されるに伴って、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すように中間部用三方弁8bを切り換え、循環路2の湯水の一部を貯湯タンク1に戻すように上部用三方弁7bを切り換える。そして、貯湯タンク1の中間部の湯水の一部を貯湯タンク1の上部に戻して貯湯するとともに、残りの湯水を熱源として外部放熱部Hにて放熱して貯湯タンク1の底部に戻す。
(2)上記実施形態では、加熱部Kにて加熱した温水の一部を外部放熱部Hに分岐供給する形態で湯水を循環させる外部放熱用循環状態において放熱処理を実行するようにしているが、外部放熱用循環状態に加え、貯湯タンク1の上部から取り出した湯水を外部放熱部Hに供給して貯湯タンク1の底部に戻す外部放熱専用循環状態において放熱専用運転状態に切り換えて放熱処理を実行するようにしてもよい。つまり、図7に示すように、上部接続路7aよりも湯水循環方向下流側の循環路2に上部取出し用ポンプ3aを設けて、この上部取出し用ポンプ3aを作動させて、貯湯タンク1内の湯水を循環路2に取り出すように上部用三方弁7bを切換え、循環路2の湯水を貯湯タンク1内に戻すように底部用三方弁9bを切換えて、貯湯タンク1の上部から取り出した湯水を外部放熱部Hに供給して貯湯タンクの底部に戻す形態で、外部放熱部Hにおける放熱を行うようにする。なお、このときに、別実施形態(1)のごとく、余剰放熱運転状態においても外部放熱部Hにおける放熱を行うようにしてもよい。」(段落【0046】および【0047】)
(g)上記摘記事項(d)の記載によると、貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段が示されているといえる。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物には、次の発明が記載されている。
「湯水が温度成層を形成して貯湯される貯湯タンク1と、
貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段と、
給水源から貯湯タンク1に給水圧を利用して給水する給水路4と、
貯湯タンク1の上部から給湯栓5に給湯する給湯路6と、
を有する貯湯式の給湯熱源装置。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物に記載された発明を対比する。
刊行物に記載された発明の「湯水が温度成層を形成して貯湯される」ことについて、貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転の実行手段により、温度成層を形成するものであるから、貯湯タンク1の上部に加熱された温水が供給され、底部に加熱前の温水が層を形成して貯湯されるのであって、また、一般に、温度成層は、加熱された高温の温水層と、加熱前の温水層との間に形成されるものといえるので、本件補正発明の「内部に湯を貯湯し、内部の湯が高温層と低温層とを有し、高温層と低温層との間に温度成層が形成される」に相当し、同様に、
「貯湯タンク1」は、その構成および機能からみて、「貯湯槽」に相当する。
そして、刊行物に記載された発明の「貯湯タンク1の底部から取り出した湯水を加熱部Kにて加熱した後、加熱された温水を貯湯タンク1の上部に供給する貯湯運転実行手段」と本件補正発明の「貯湯槽の下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を貯湯槽の上部に戻し、高温の上層部を形成する冷媒としてCO_(2)を用いるヒートポンプ」とは、「貯湯槽の下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を貯湯槽の上部に戻し、高温の上層部を形成する貯湯運転実行手段」である点で共通する。
また、「給水源から貯湯タンク1に給水圧を利用して給水する給水路4」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「給水源から貯湯槽に給水圧を利用して給水する給水管」に、以下同様に、
「給湯栓5に給湯する給湯路6」は「給湯口へと」「給湯する給湯管」に、
「貯湯式の給湯熱源装置」は「貯湯装置」に、
それぞれ相当する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点]
「内部に湯を貯湯し、内部の湯が高温層と低温層とを有し、前記高温層と前記低温層との間に温度成層が形成される貯湯槽と、
前記貯湯槽の下部から流出した湯を加熱し、加熱した湯を前記貯湯槽の上部に戻し、高温の上層部を形成する貯湯運転実行手段と、
給水源から貯湯槽に給水圧を利用して給水する給水配管、
給湯口へと給湯する給湯管とを有する貯湯装置。」

[相違点1]
貯湯運転実行手段が、
本件補正発明では、冷媒としてCO_(2)を用いるヒートポンプであるのに対して、
刊行物に記載された発明では、当該発明特定事項を有するか否か不明な点。

[相違点2]
本件補正発明では、「一端が前記貯湯槽の側部中間位置に取り付けられるとともに、他端が給湯管に接続され、貯湯槽の中間位置から貯湯槽内の湯を流出させる中間取水管」を有し、「中間取水管の一端は、ヒートポンプによって加熱された湯が貯湯槽に戻る部位よりも下方となる位置で貯湯槽に接続され、中間取水管から流出した湯を給湯に用いる」のに対して、
刊行物に記載された発明では、貯湯運転実行手段により加熱された温水が貯湯タンク1の上部に供給されるが、上記のような中間取水管を有していない点。

[相違点3]
本件補正発明では、貯湯槽よりも上流側の部位において給水管から分岐し、給湯管に接続される給水分配管を有し、給湯管により給湯口へ給水または給湯するのに対して、
刊行物に記載された発明では、給水分配管を有しておらず、給湯管により給湯口へ給湯するのみである点。

(4)当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
(4-1)相違点1について
貯湯装置の技術分野において、貯湯運転実行手段として、冷媒としてCO_(2)を用いるヒートポンプを採用することは、原出願の出願前に周知の技術事項である(例えば、特開2000-213806号公報の段落【0023】参照。)。
したがって、刊行物に記載された発明の貯湯運転実行手段に、上記周知の技術事項を適用して、上記相違点1における本件補正発明が備える発明特定事項に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(4-2)相違点2について
貯湯タンク1から給湯するに際して、高温部に貯えられた湯に比して低温の貯湯タンク1の中間部に貯えられた湯を給湯に用いることは、原出願の出願前に、周知の技術事項である(例えば、特開平1-225838号公報の第2頁右上欄第10行ないし同左下欄第15行、第1図、特開平4-36546号公報の第4頁右上欄第9行ないし同右下欄第8行、第7頁左下欄第17行ないし同右下欄第9行、第3図、特開平1-234749号公報第5頁左下欄第10行ないし第6頁左上欄第8行、特開昭61-153341号公報の第2頁右下欄第4行ないし同第10行、第3頁右下欄第3行ないし同第8行、第1図、特開昭63-187048号公報の第2頁右上欄第12行ないし同第15行、第1図参照。)。
また、貯湯槽の上部に接続される給湯管に、貯湯槽の側部中間位置に一端が接続される取水管の他端を合流接続することも、原出願の出願前に周知の技術事項であり(例えば、上記特開平1-225838号公報、上記特開平4-36546号公報、上記特開昭61-153341号公報、上記特開昭63-187048号公報参照。)、当該取水管を用いて貯湯タンク1の中間部に貯えられた湯を給湯に用いることは、当業者にとって格別のことではない。
しかも、本件補正発明が、上記相違点2における発明特定事項を備えることにより奏する効果は、単に、貯湯槽内の中間位置に貯えられている湯を給湯に用いるに過ぎないものであって、格別なものではない。
したがって、刊行物に記載された発明に上記周知の技術事項を適用して、上記相違点2における本件補正発明が備える発明特定事項に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(4-3)相違点3について
貯湯装置の技術分野において、給水管の貯湯槽から上流側の部位から分岐し、給湯管に接続される給水分配管を備えるとともに、給湯管により給湯口へ給水または給湯することは、原出願の出願前に周知の技術事項である(例えば、特開昭60-57149号公報の第2頁右下欄第1行ないし同第5行、第2図、特開昭59-81714号公報の右下欄第16行ないし第3頁左上欄第3行、第1図、実願昭55-117991号(実開昭57-40024号)のマイクロフィルム第6頁第11行ないし第7頁第2行、第4図、特開平9-126547号公報の段落【0041】、【図1】参照。)。
したがって、刊行物に記載された発明に上記周知の技術事項を適用して、上記相違点3における本件補正発明が備える発明特定事項に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(4-4)小括
そして、本件補正発明が、全体として奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明および周知の技術事項が奏する効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

4.まとめ
以上2、3において検討したとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成19年6月25日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年10月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、前記第2.1の補正前の請求項1に記載されたとおりのものである。

2.新規事項について
平成19年4月19日付け拒絶査定における拒絶の理由である、平成18年12月7日付け拒絶理由通知書に記載した(理由B)、平成18年10月27日付けでした手続補正(以下「本願補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものである。
そして、本願補正は、「中温層の湯が流出する中間取水管」および「中間取水管から流出した中温層の湯」なる発明特定事項を付加することを含むとともに、補正後の特許請求の範囲の記載との整合性をとるべく、発明の詳細な説明の記載を補正するものである。
そこで、本願補正により付加された当該発明特定事項が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書」という。)に記載されていたか否かについて検討する。
上記事項について、当初明細書には、「図2に示す貯湯装置1は、貯湯設備3として貯湯槽3cを1つのみ備えるものであり、1タンク方式のものである。また、貯湯装置1には、給水分配管8aの他、熱交換器7の加熱をするための中間取水管8cも設けている。本実施形態では、この中間取水管8cの途中に三方弁5を設けて三つ又構造とし、管8bを取り付け、各管8b,8cを貯湯槽3の上部および側部中間位置に取り付けている。各管8b,8cにはそれぞれバルブ11d,11eを設ける。また、給水分配管8aと給湯管14との接続部には別の三方弁15を設けている。このため、三方弁5,15やポンプ12,13などの働きにより、湯2を図中で示すように貯湯槽3の中間層から抜き出し、またはで示すように貯湯槽3の上層から抜き出して熱交換器7側へと導くことができる。また、熱交換器7の加熱を終え、温度が下がった湯2を再び貯湯槽3に戻して廃熱を回収するのは第1の実施形態の場合と同じである。ここで、温度が下がった湯2は貯湯槽3cの下部側に戻されることから下層が低温領域となるが、貯湯槽3cの側部中間位置に設けた管8cによってこの低温領域側の湯2を抜き出し給湯に優先的に用いることができる。」(段落【0022】、下線は当審にて付与。)と記載されている。
この記載によると、貯湯槽3cの側部中間位置に設けた中間取水管8cによって抜き出す湯が「低温領域側の湯2」であることおよび「中間層」の「湯」であることは記載されているが、抜き出す湯が「中温層の湯」であることは記載されていない。また、本願発明によると、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に「高温層と、低温層と、前記高温層と前記低温層との間に形成される中温層」と記載されていることから、「中温層」の湯は、「高温層と低温層との間に形成される」湯であって、「低温領域の湯2」に相当しないことは明らかである。しかも、「低温領域の湯2」が「中温層の湯」に相当することを示唆する記載もない。
そうすると、「中温層の湯が流出する中間取水管」および「中間取水管から流出した中温層の湯」なる発明特定事項は、当初明細書の記載から自明なものでもなく、また、当該発明特定事項を付加することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、平成18年10月27日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

なお、仮に、本願補正により補正された発明特定事項である「中温層の湯が流出する中間取水管」を、本件補正発明における発明特定事項である「貯湯槽の中間位置から貯湯槽内の湯を流出させる中間取水管」であるとしても、実質的に本願発明の発明特定事項のすべてを含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2(3)対比および(4)当審の判断」に記載したとおり、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ゆえに、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-27 
結審通知日 2009-09-01 
審決日 2009-10-05 
出願番号 特願2004-166755(P2004-166755)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24H)
P 1 8・ 575- Z (F24H)
P 1 8・ 561- Z (F24H)
P 1 8・ 572- Z (F24H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長崎 洋一
清水 富夫
発明の名称 貯湯装置  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  

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