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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G01L |
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管理番号 | 1207486 |
審判番号 | 不服2007-17632 |
総通号数 | 121 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-25 |
確定日 | 2009-11-18 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第518667号「損傷センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月22日国際公開、WO97/18451、平成12年 1月11日国内公表、特表2000-500234〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、1996年11月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年11月14日、イギリス国)を国際出願日とする出願であって、平成19年3月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月24日及び同年7月25日付けで手続補正がなされたものである。 2 手続補正について (1)手続補正の内容 ア 平成19年7月24日付けの手続補正(以下「本件補正1」という。)について 本件補正1の内容は、特許請求の範囲を、補正前の 「 【請求項1】 損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)と、少なくとも一つの光検出器(8)とを、この素子(3)と検出器(8)との間の光学的な接続を与える少なくとも一つの光ファイバ(7)とともに含む、損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサであって、 前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており、この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである、前記損傷センサ。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 光ファイバ(7)が、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)からの放射によって光励起可能な染料をドープされたコアを備える、請求項1に記載の損傷センサ。 【請求項6】 (省略)」から、 「 【請求項1】 損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)と、少なくとも一つの光検出器(8)とを、この素子(3)と検出器(8)との間の光学的な接続を与える少なくとも一つの光ファイバ(7)とともに含む、損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサであって、 前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており、この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである、前記損傷センサ。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 光ファイバ(7)が、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)からの放射によって光励起可能な染料をドープされたものである、請求項1に記載の損傷センサ。 【請求項6】 (省略)」 に変更するものである。 イ 平成19年7月25日付けの手続補正(以下「本件補正2」という。)について 本件補正2の内容は、特許請求の範囲を、 「 【請求項1】 損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)と、少なくとも一つの光検出器(8)とを、この素子(3)と検出器(8)との間の光学的な接続を与える少なくとも一つの光ファイバ(7)とともに含む、損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサであって、 前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており、この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである、前記損傷センサ。 【請求項2】 (省略) 【請求項3】 (省略) 【請求項4】 (省略) 【請求項5】 光ファイバ(7)が、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)からの放射によって光励起可能な染料をドープされた光ガイド層である、請求項1に記載の損傷センサ。 【請求項6】 (省略)」 に変更するものである。 (2)本件補正1,2の適法性 手続補正がなされた順番に、本件補正1、本件補正2の適法性を検討する。 ア 本件補正1の適法性 本件補正1は、請求項5に記載した「光ファイバ(7)」と「少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)からの放射によって光励起可能な染料」との関係について、光ファイバ(7)が、補正前の染料をドープされたコアを備えるという発明特定事項を、補正後の染料をドープされたものであるという発明特定事項に変更するものである。 つまり、本件補正1は、染料をドープされる対象が、本件補正前の光ファイバ(7)のコアから、本件補正1後の「光ファイバ(7)が・・・染料をドープされたもの」即ち光ファイバ(7)に変更するものである。 しかしながら、光ファイバ(7)は、光ファイバ(7)が備えるコアの他の構成を有することは明らかであるから、本件補正1により、染料をドープされる対象が限定されたとはいえない。 したがって、本件補正1は、請求項に記載した発明特定事項を限定するものでないから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 また、本件補正1は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。 よって、本件補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 イ 本件補正2の適法性 本件補正2に係る平成19年7月25日付けの手続補正書に記載した 「【請求項5】 光ファイバ(7)が、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)からの放射によって光励起可能な染料をドープされた光ガイド層を備える、請求項1に記載の損傷センサ。」なる事項が新規事項であるか否かを検討する。 本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、上記事項に関連して以下の記載がある。 「【特許請求の範囲】 1. 材料と検出器の間を接続する光ガイド手段とともに、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料および少なくとも一つの光センサを含む損傷センサ。 (略) 5. 光ガイド手段が少なくとも一つの光ファイバである、請求の範囲第1項に記載の損傷センサ。 6. 光ガイド手段が、光ガイド層より屈折率の高い材料の二つの層の間に入っている光ガイド材料の層である、請求の範囲第1項に記載の損傷センサ。 7. 光ガイド手段が、摩擦ルミネセンス材料からの放射によって光励起する染料をドープされた光ファイバである、請求の範囲第1項に記載の損傷センサ。 8. それぞれに異なって染料がドープされた複数の光ファイバが検出器と接続される、請求の範囲第7項に記載の損傷センサ。 9. 光ファイバの行列が構造内に埋め込まれる、請求の範囲第7項に記載の損傷センサ。」 「【発明の詳細な説明】 (略) 第6図は、各摩擦ルミネセンス材料に関連する様々な光励起染料をさらに有する、第5図と同様の図である。 第7図は、それぞれに複数の摩擦ルミネセンス材料から単一の検出器に光を向ける異なってドープされた三本のファイバを利用するセンサを示す透視図である。 (略) 第5図は、構造内に埋め込まれた複数の摩擦ルミネセンス材料および光ガイド層を示す断面図である。 第6図は、光ガイド材料の層41が二つの層42と43の間に挟まれた複合材料40を示す図である。三つのTL結晶44、45、46が層41内に埋め込まれる。上記の各結晶44、45、46は、光ガイド材料の第二層50内に入っている異なる三つの光励起染料47、48、49の塊である。検出器51は各染料塊47、48、49の出力に敏感である。損傷が発生すると、適当な結晶44、45、46は光を放射し、それぞれ関連する染料塊47、48、49に特性を表す波長で光を放射させ、これが層50によって検出器51にガイドされる。 第7図は、いくつかのTL結晶61、62、63をいくつもの行にして層64内に埋め込んだ複合層材料60を示す図である。光励起染料が入っている光ファイバ66、67、68は、これらの結晶61、62、63の行と光学的に接触し、光ファイバネットワーク69を介して一つまたは複数の検出器70に接続される。ファイバ66、67、68は光学的に透明な層71に埋め込まれ、複合ファイバの保護層72で覆われる。前記と同様に、結晶61、62、63は、ユウロピウム錯体、例えばユウロピウムテトラキス(ジベンゾイルメチド)トリエチルアンモニウム(TDE)錯体の一つにすることができ、ファイバ66、67、68は単モードまたはマルチモードのガラスファイバ、またはポリマーファイバにすることができ、グルーはRS[TM]バイパックスエポキシグルー、Araldite[TM]速硬性グルー、またはNorland紫外線硬化グルーにすることができる。 第7図の修正形態では、様々にドープされた光ファイバの追加のセットをいくつもの列にして配列し、様々にドープされた光ファイバのx、y行列が複合材料内に存在するようになっている。列ファイバは、第7図の場合と同様に一つまたは複数の検出器に接続される。これら二つの検出器からの信号は、行列のどこで光を受けたかを示す。」 すなわち、当初明細書等には、光ファイバが光励起可能な染料をドープされたものであることは記載されている。 しかしながら、当初明細書等には、構造内に埋め込まれた光ガイド層に、光励起染料の塊を入れることは記載されているものの、光励起染料をドープすることは記載されていない。また、当初明細書等には、上記光ガイド層と光ファイバとの関係について説明されていない。 したがって、本件補正2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでないから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。 よって、本件補正2は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3 本願発明 本件補正1及び本件補正2は、いずれも却下の決定がなされたから、本願の請求項1に係る発明は、平成19年1月17日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる(以下「本願発明」という)。 「【請求項1】 損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)と、少なくとも一つの光検出器(8)とを、この素子(3)と検出器(8)との間の光学的な接続を与える少なくとも一つの光ファイバ(7)とともに含む、損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサであって、 前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており、この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである、前記損傷センサ。」 4 引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭58-59166号(実開昭59-163937号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。 〈記載事項1〉 「2.実用新案登録請求の範囲) (1)機械的応力を光に変換するトリボ発光体を、光ファイバの複数箇所に塗着し、光ファイバの端部に受光器を配置し、機械的応力によって誘起されるトリボ発光体の発光を受光器で検知し、その発光特性の差異から外力作用位置を知るように構成した光学的位置検知装置。」(明細書第1第4?10行) 〈記載事項2〉 「<考案の分野> この考案は、検知部に加えられる機械的応力を光学的に検知して、外力作用位置を知るように構成された光学的位置検知装置に関するものである。」(明細書第2頁第4?7行) 〈記載事項3〉 「<従来技術とその問題点> 従来、検知部に加えられる外力の作用位置を知る手段として、時間分解法を利用したものがあった。このものは、高精度の検知を期待できるが、技術的には高度のものを必要とする欠点があった。 そこで、光ファイバの特徴を利用した光学的な位置検知装置が注目されている。」(明細書第2頁第8?14行) 〈記載事項4〉 「<考案の構成と効果> この考案の光学的位置検知装置は、機械的応力を光に変換するトリボ発光体を、光ファイバ・・・構成したものである。 このような光学的位置検知装置によれば、特別な光源が必要でなく、耐EMI性、遠隔計測性、耐蝕性、可撓性、軽量性などのオプトメリットがすべて満足され、また、s/nが高くなり、実用上望ましい。」(明細書第2頁第19行?同第3頁第9行) 〈記載事項5〉 「<実施例の説明> 第1図はこの考案の基本的な実施例を示している。すなわち、光ファイバ1の複数箇所A.B.Cに、機械的応力を光に変換するトリボ発光体(後述する)を塗着して、これらのトリボ発光体と光ファイバ1とを光学的に接続し、光ファイバ1の端部に受光器2を配置し、機械的応力によって誘起される各箇所A.B.Cのトリボ発光体の発光特性の差異から、外力作用位置を知るように構成したものである。」(明細書第3頁第9?19行) 〈記載事項6〉 「第1図は、外的作用位置をポイント測定し得るものであるが、第2図のものは、エリア測定を可能にした例を示している。すなわち、第2図のものは、光ファイバ1を短形ループ状に配設し、その各辺部A1,B1,C1にそれぞれ、発光特性の異なるトリボ発光体を光学的に接続し、光ファイバ1の端部に受光器2を配置したものである。」(明細書第3頁第20行?同第4頁第6行) 〈記載事項7〉 「外力作用位置の検知因子であるトリボ発光体の発光特性としては、波長.残光時間などの特性を選択することが可能である。」(明細書第4頁第7?9行) 〈記載事項8〉 「第3図は、波長の異なる発光特性を有する複類種類のトリボ発光体3a、3b、3cを、光ファイバ1の複数箇所においてそれぞれ光学的に接続した実施例を示している。すなわち、受光器2に最も近い箇所に配置されているトリボ発光体3aは、光ファイバ1のコア1aの表面に塗着され、この箇所以外のコア1aの表面はクラッド1bにより覆われている。また、トリボ発光体3aの外側は、遮光性および可とう性を具備した被覆材4によって覆われており、トリボ発光体3aの発光が外部に漏光しない構成となっている。被覆材4としては、ナイロン、ゴムなどの使用が可能である。他のトリボ発光体3aにつても同様である。」(明細書第4頁第10行?同第5頁第26行) 記載事項1及び第1図の記載からみて、以下の点が明らかである。 光学的位置検知装置は、トリボ発光体と、受光器2とを、光ファイバ1とともに含むこと、及びトリボ発光体が光ファイバ1に複数箇所塗着されていること。 また、第7図から、トリボ発光体に作用する応力の大きさに応じてその発光輝度が変化することを読み取ることができる。 そして、引用刊行物1の記載から、以下のアないしエの点を読み取ることができる。 ア 検知部に加えられる機械的応力の作用位置を知るための光学的位置検知 装置(記載事項2,3) イ 光学的位置検知装置は、トリボ発光体と、受光器2とを、光ファイバ1 とともに含む点(記載事項1、第1図) ウ 検知部に加えられる機械的応力を光に変換するトリボ発光体(記載事項 2,4) エ 受光器2(記載事項5) オ トリボ発光体が光学的に接続され、その端部に受光器2が配置される光 ファイバ1(記載事項5)。 カ トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されている点(記載事項 1及び図1)。 したがって、上記記載事項1ないし8及び図面に基づけば、引用刊行物1には、 「検知部に加えられる機械的応力を光に変換するトリボ発光体と、受光器2とを、このトリボ発光体が光学的に接続され、その端部に受光器2が配置される光ファイバ1とともに含む、上記機械的応力の作用位置を知るための光学的位置検知装置であって、 前記トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されている、前記機械的応力の作用位置を知るための光学的位置検知装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 5 対比 本願発明と引用発明とを比較する。 (1) 引用発明の「検知部に加えられる機械的応力を光に変換するトリボ発光体」は、本願発明の「少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子」に相当し、以下同様に、「受光器2」は「少なくとも一つの光検出器(8)」に、「光ファイバ1」は「少なくとも一つの光ファイバ(7)」に、それぞれ相当する。 (2) 引用発明の「光学的位置検知装置」と本願発明の「損傷センサ」は、センサという点で共通する。 (3) 引用発明の「前記トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されている」と本願発明の「前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており」とは、前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子が、前記少なくとも一つの光ファイバに設けられている点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明の両者は、 「少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子と、少なくとも一つの光検出器とを、この素子と検出器との間の光学的な接続を与える少なくとも一つの光ファイバとともに含む、センサであって、 前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子が、前記少なくとも一つの光ファイバに設けられている前記センサ。」の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 摩擦ルミネセンス材料素子が、本願発明は「損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する」のに対して、引用発明は、そのように限定されていない点。 [相違点2] 本願発明の対象は、「損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサ」であるのに対して、引用発明の対象は、「光学的位置検知装置」である点。 [相違点3] 少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子が、少なくとも一つの光ファイバに設けられる点に関して、本願発明は、「少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており、この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである」のに対して、引用発明は、「トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されている」点。 6 当審の判断 (1)相違点1,2について 本願の明細書には、「現在ではいくつかの技術を使用して構造内の応力を監視するが、これらの技術には感圧箔センサおよび場合によっては埋め込み式光ファイバが含まれ、応力によりキャパシタンス、抵抗、または光信号がそれぞれある程度まで変化する。 航空機のプラスチック複合材料などの構造は、検出、修理、または交換しなければ故障に結びつく隠れた損傷を引き起こす衝撃を受ける可能性がある。修理することができるように損傷が発生した正確な領域の位置を突き止めることは、とりわけ航空機などの大規模構造では時間のかかるプロセスである。」と記載されている。 この記載から、航空機のプラスチック複合材料などの構造、即ち、構造体に加えられる応力により構造体内に埋め込まれた光ファイバの光信号が変化することを利用して、構造体の損傷を監視する技術は、請求人が認めているように従来周知の技術である。そして、該従来周知の技術においては、例えば、特開昭63-285448号公報、特開昭62-231142号公報にも記載されているように、特別の光源を必要とするものであった。 そして、引用刊行物1には、「第7図aは外力の大きさと作用時間の関係を、また、同図bはトリボ発光体の発光揮度と時間の関係をそれぞれ表わしたものである。(実線は応力が大きい場合、破線は応力が小さい場合を示す。)」(明細書第6頁第19行?同第7頁3行)と記載されている。 この記載によれば、引用発明で用いられているトリボ発光体は、応力の大きさに応じて発光揮度が変化するから、引用発明の光ファイバを利用した光学的位置検知装置は、応力の位置だけでなく、応力の大きさも検知する機能を有するものである。 また、構造体に加えられる応力の大きさ及び位置は、該構造物の損傷を検知したり予測したりするための重要な要素であることは技術常識である。 してみると、引用発明の「光学的位置検知装置」を、上記従来周知の構造体の損傷を監視する技術に適用することは当業者ならば困難なことではない。 そして、引用発明を上記従来周知の構造体の損傷を監視する技術に適用する際、引用発明の「検知部に加えられる機械的応力を光に変換するトリボ発光体」(摩擦ルミネセンス材料素子)を、本願発明のように「損傷の検出を必要とする構造(2)のある領域に位置する」ことや(相違点1に関する事項)、引用発明の「機械的応力の作用位置を知るための光学的位置検知装置」を本願発明の「損傷の検出を必要とする構造(2)と組み合わせる損傷センサ」とすることは(相違点2に関する事項)、当業者が容易に想到し得る事項に過ぎない。 よって、相違点1および2に係る本願発明の発明特定事項は、従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項に過ぎない。 (2)相違点3について ア 相違点3に係る本願発明の「前記少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、前記少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置されており」という発明特定事項(以下「発明特定事項1」という。)について (ア) 引用発明において、トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されているが、引用刊行物1の第1図によれば、該複数箇所は、上記光ファイバ1の軸方向に沿った複数箇所である。 一方、本願発明において、摩擦ルミネセンス材料素子(3)が配置される光ファイバ(7)の構造について、特段限定されていないことは、本願の請求項1の記載から明らかである。 してみると、引用発明において「トリボ発光体が、光ファイバ1に複数箇所塗着されている」ことにより、トリボ発光体と光ファイバ1との位置関係は、トリボ発光体が、光ファイバ1の外側に配置されるとともに、該光ファイバ1の長手方向軸に対して側方に配置される位置関係になっていることは明らかである。 そして、上記位置関係は、本願発明の「少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、少なくとも一つの光ファイバ(7)の外側に配置されるとともに、該光ファイバの長手方向軸に対して側方に配置され」ることに相当する。 したがって、相違点3に係る本願発明の上記発明特定事項1は、格別なものとはいえない。 (イ)次に、摩擦ルミネセンス材料素子(3)が配置される光ファイバ(7)の構造がコアとクラッドからなりと特定され、少なくとも一つの摩擦ルミネセンス材料素子(3)が、少なくとも一つの光ファイバ(7)のクラッドの外側に配置されることが限定されたとして、予備的に検討する。 引用刊行物1において、第1図に示された基本的な実施例、第2図に示された変形例で用いられる光ファイバ1の構造について特段の説明がされていないから、第1,2図に示された光ファイバ1の構造は、いずれも通常の光ファイバで採用されている、その中心軸のコアとその周りに接するクラッドからなるものであるといえる。そして、上記クラッドの表面にトリボ発光体が、塗着されていることは明らかである。 したがって、仮に、発明特定事項1が上記のように限定されていたとしても、相違点3に係る本願発明の上記発明特定事項1は、格別なものとはいえない。 イ 相違点3に係る本願発明の「この配置は、既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである」という発明特定事項(以下「発明特定事項2」という。)について 上記発明特定事項2における「既知の所定しきい値と観察可能な構造の破壊との間の隠れた損傷」という事項は、本願明細書において明確に説明されていないが、「肉眼では確認できないが許容範囲を超えた損傷」を意味すると解され、構造体の健全性を監視する際、損傷と判定される損傷の程度を規定したに過ぎず格別なものではない。 次に、上記発明特定事項2における「この配置」は、「損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである」という事項は、本願の明細書に明確に説明されていないが、「摩擦ルミネセンス材料」について「放射強度が衝撃およびそれによる損傷を示すこともできる。」と記載されていることも参照すると(第2ページ第19行?第3ページ第1行)、上記記載は、検出器に接続された光ファイバ(7)に摩擦ルミネセンス材料素子(3)が光学的に結合されていることにより損傷の位置及び量の両方を決定することができる配置を意味すると解することができる。 「(1)相違点1,2について」の項で述べたように、引用発明の「光学的位置検知装置」を、上記従来周知の構造体の損傷を監視する技術に適用することは当業者ならば困難なことではなく、また、引用発明で用いられているトリボ発光体は、構造体の損傷の要因となる応力の大きさに応じて発光揮度が変化するものであり、さらには、検出器(2)が配置された光ファイバ(1)に上記トリボ発光体は光学的に結合しているといえる。 してみると、引用発明の「光学的位置検知装置」を、上記従来周知の構造体の損傷を監視する技術に適用したものにおけるトリボ発光体の「配置」も、上記発明特定事項2における「損傷の位置および量の両方を決定することができるようなものである」といえる。 よって、相違点3に係る本願発明の上記発明特定事項2は、引用発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項に過ぎない。 ウ ア及びイで検討したことから、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項に過ぎない。 そして、本願発明が奏する効果は、引用刊行物1に記載の事項から当業者が予測し得る範囲内のものというべきである。 したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、本件補正2が適法な補正であるとした場合、本願の特許請求の範囲の請求項1は、平成19年7月25日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1となるが、該請求項1に記載した事項は、平成19年1月17日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載した事項と同一であるから、上記請求項1に係る発明に関する認定、判断は、本願発明に関する認定、判断と同じである。 してみると、本件補正2についての却下の有無にかかわらず、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 以上のとおり、本件補正2についての却下の有無にかかわらず、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-06-19 |
結審通知日 | 2009-06-23 |
審決日 | 2009-07-08 |
出願番号 | 特願平9-518667 |
審決分類 |
P
1
8・
571-
Z
(G01L)
P 1 8・ 121- Z (G01L) P 1 8・ 572- Z (G01L) P 1 8・ 561- Z (G01L) P 1 8・ 573- Z (G01L) P 1 8・ 574- Z (G01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森口 正治、越川 康弘、岸 智史 |
特許庁審判長 |
江塚 政弘 |
特許庁審判官 |
波多江 進 山川 雅也 |
発明の名称 | 損傷センサ |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 大崎 勝真 |