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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1207585
審判番号 不服2006-20105  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-08 
確定日 2009-11-26 
事件の表示 特願2002-228066「シーラントフィルムおよびその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004-66603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年8月6日の出願であって、平成18年5月12日付けで拒絶の理由が通知されたのち同年7月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月3日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月8日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同年10月10日付けで手続補正書が提出され、その後、平成20年6月30日付けで審尋がされ、同年8月27日に回答書が提出され、平成21年4月21日付けで平成18年10月10日付けの手続補正が補正の却下の決定により却下されるとともに当審から拒絶理由が通知されたものである。
なお、平成21年4月21日付けの当審からの拒絶理由通知に対し、請求人からは何らの応答もない。

第2 本願発明
上記のように、平成18年10月10日付けの手続補正は補正の却下の決定により却下されたので、本願に係る発明は、平成18年7月13日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】 基材層(X)およびシーラント層(Y)を必須成分とする少なくとも2層から形成されるシーラントフィルムにおいて、
基材層(X)が、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?30(g/10分)、密度(ASTM D1505)が0.900?0.940(g/cm^(3))であり、かつメルトテンション(MT)とメルトフローレート(MFR)とが次の関係式
40×(MFR)^(-0.67) ≦ MT ≦ 250×(MFR)^(-0.67)を満たす高圧法ポリエチレン(A)40?95重量%、
メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.5?100(g/10分)、密度(ASTM D1505)が0.850?0.900(g/cm^(3))であり、かつ示差走査熱量分析(DSC)で求められる融点が80℃未満であるエチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)5?60重量%からなる樹脂組成物からなり、
シーラント層(Y)が、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?30(g/10分)、密度(ASTM D1505)が0.900?0.940(g/cm^(3))であり、かつメルトテンション(MT)とメルトフローレート(MFR)とが次の関係式
40×(MFR)^(-0.67) ≦ MT ≦ 250×(MFR)^(-0.67)を満たす高圧法ポリエチレン(A)70?95重量%、
メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?25(g/10分)、密度(ASTM D1505)が0.880?0.925(g/cm^(3))のブテン系重合体(C)5?30重量%
から形成されるシーラントフィルム。」

ここで、本願発明は、分説すると、以下の2層から形成される旨特定する事項を含むものである。
基材層(X)について、
a 「メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?30(g/10分)、」
b 「密度(ASTM D1505)が0.900?0.940(g/cm^(3))であり、かつ」
c 「メルトテンション(MT)とメルトフローレート(MFR)とが次の関係式
40×(MFR)^(-0.67) ≦ MT ≦ 250×(MFR)^(-0.67)を満たす」
d 「高圧法ポリエチレン(A)40?95重量%」
及び
e 「メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.5?100(g/10分)、」
f 「密度(ASTM D1505)が0.850?0.900(g/cm^(3))であり、かつ」
g 「示差走査熱量分析(DSC)で求められる融点が80℃未満である」
h 「エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)5?60重量%からなる樹脂組成物」
からなる樹脂組成物からなり、
シーラント層(Y)について、
i 「メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?30(g/10分)、」
j 「密度(ASTM D1505)が0.900?0.940(g/cm^(3))であり、かつ」
k 「メルトテンション(MT)とメルトフローレート(MFR)とが次の関係式
40×(MFR)^(-0.67) ≦ MT ≦ 250×(MFR)^(-0.67)を満たす」
l 「高圧法ポリエチレン(A)70?95重量%」
m 「メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が0.1?25(g/10分)、」
n 「密度(ASTM D1505)が0.880?0.925(g/cm^(3))の」
o 「ブテン系重合体(C)5?30重量%」
(以下、上記の各分説事項を、それぞれ項目番号に対応して、「構成a」などという。)

第3 当審で通知した拒絶理由
平成21年4月21日付けで当審より通知した拒絶理由の概要は、本願は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は特許法36条4項に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断
1 特許法36条6項1号に規定する要件について
(1) 明細書のサポート要件について
平成14年法律第24号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)36条6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討することにする。

(2) 本願発明
本願発明については、先に第2で述べたとおりである。

(3) 本願発明の課題について
本願明細書には、本願発明の課題に関し、以下の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明はヒートシール性およびイージーピール性を兼ね備えたシーラントフィルム、さらにはそのシーラントフィルムを用いた積層体フィルムおよび容器に関する。」(段落【0001】)
「【発明の技術的背景】近年の食の多様化に伴い、様々な包装材料が提案されている。中でも、イージーピール性を有する容器は、即席麺、ヨーグルト容器、菓子容器、その他の食品容器として広く用いられている。イージーピール性を有するシーラントフィルムには、密封性とイージーピール性という相反する性能を、同時に満足することが要求されている。さらには、食品容器の多様化によって、様々なヒートシール強度を有するシーラントフィルムの開発が所望されている。一方、内容物の汚染防止および商品の外観などの点から、シール面を剥離した時に剥離跡(糸引き)が残らないことは勿論のこと、糸引き現象そのものが発生しないよう要求されている。」(段落【0002】)
「特開平10-337829号公報には、低密度ポリエチレンとポリブテン-1から形成される易開封性フィルムが開示されている。添加するポリブテン-1量によりシール強度のコントロールが可能であるが、ポリブテン-1の添加量の増加により、糸引きが発生するという問題点があった。」(段落【0003】)
「【発明が解決しようとする課題】本発明は、糸引き現象が改善されたシーラントフィルム、およびそれを用いた積層体フィルムおよび容器の提供を目的とする。」(段落【0004】)
「【発明の効果】本発明のシーラント用樹脂組成物は、それから得られるフィルムがヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れており、かつ、より低いシール温度でも高いシール強度を発現できるため、食品包装用容器に好適に使用できる。」(段落【0036】)

以上のことから、本願発明の課題は、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」の提供を目的とするところにあると認められる。

(4) 本願発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
ア 発明の詳細な説明(実施例を除く)の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)には、本願発明の構成a?構成oに関連して、以下の事項が記載されている。
(a) 「エチレン系重合体(A)
本発明においてエチレン系重合体(A)としては、ASTM D1238に準じ190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(以下MFRと略記する)が0.1?30、好ましくは0.5?20(g/10分)であり、密度(ASTM D1505)が0.900?0.940、好ましくは0.900?0.930(g/cm^(3))であり、かつメルトテンション(MT)とメルトフローレート(MFR)とが次の関係式
40×(MFR)^(-0.67)≦MT≦250×(MFR)^(-0.67)を満たす。
MFRが上記範囲にあり、MTが上記関係式の範囲内にあることで、エチレン系重合体の溶融張力を高め、成形性が良好となる。」(段落」【0008】?【0009】)
(b) 「本発明の組成物に使用されるエチレン系重合体(A)は、前記の物性を満たしている限り、ラジカル触媒を用いて高圧下で製造されたいわゆる高圧法ポリエチレンであっても、あるいはチーグラー触媒またはメタロセン触媒を用い、エチレンとα-オレフィン等のコモノマーの存在下、中低圧下で製造されたいわゆる中低圧ポリエチレンであってもよい。高圧法ポリエチレンでは、分子鎖中に長鎖分岐が存在し、これにより高い溶融張力を示すことから、本発明においては好ましく使用できる。」(段落【0010】)
(c) 「エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)
本発明において(B)成分として使用されるエチレン・α-オレフィンランダム共重合体は、エチレンと炭素数3?20、好ましくは3?10までのα?オレフィンとを共重合することによって得られるランダム共重合体である。α?オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられ、好ましくは1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。共重合体中のα-オレフィン含量としては、通常5?50モル%、好ましくは7?30モル%である。このような好ましいコモノマーを選択することで、得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きく、また、生産時のフィルムのロールへのベタツキも少ないため、生産性も良好で好ましい。」(段落【0011】)
(d) 「エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のMFR(ASTMD 1238、190℃、2.16kg荷重)は0.5?100、好ましくは2.0?70(g/10分)、さらに好ましくは10?70(g/10分)であり、密度(ASTMD 1505)が0.850?0.900(g/cm^(3))、好ましくは0.850?0.890(g/cm^(3))であり、かつ示差走査熱量分析(DSC)で求められる融点が80℃未満または融点が観測されない非晶性である。このような好ましいMFRおよび密度の範囲にあると、得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きい。」(段落【0012】)
(e) 「ブテン系重合体(C)
本発明の樹脂組成物において使用されるブテン系重合体(C)としては、1-ブテン単独重合体、あるいは1-ブテンと1-ブテンを除く炭素数2?20、好ましくは2?10のα-オレフィンとの共重合体である。α-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンを挙げることができる。ブテン系重合体中の1-ブテン含有量としては、60?100、好ましくは70?100(モル%)である。
ブテン系重合体(C)の密度は、0.880?0.925、好ましくは0.885?0.920(g/cm3)である。この密度範囲にあると、粘着性が小さいことから、フィルムから容器を製造する際に、高い充填速度で内容物を充填することが可能である。 また、MFR(190℃)は0.1?25、好ましくは0.5?25、より好ましくは1?25(g/10分)の範囲にある。この範囲内にあると、成形機のモーター過大な負荷を与えることなく、高い成形スピードでフィルムを成形することができる。」(段落【0015】?【0017】)
(f) 「シーラントフィルム
本発明のシーラントフィルムは、基材層(X)とシーラント層(Y)の少なくとも2層からなる。・・・基材層(X)における各成分の混合割合は、エチレン系重合体(A)が40?95重量%、好ましくは50?90重量%、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が5?60重量%、好ましくは10?50重量%の範囲にある。シーラント層(Y)における混合割合は、エチレン系重合体(A)が70?95重量%、好ましくは70?90重量%、ブテン系重合体(C)が5?30重量%、好ましくは10?30重量%の範囲にある。各成分の割合がこの範囲内にあると、その組成物から得られるフィルムは、シール強度とイージーピール性とのバランスに優れており、実用上好適な易開封性容器が得られる。
本発明のシーラントフィルムの特徴として、ある特定の性質を持つエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を基材層(X)の構成成分として使用することにある。前記のようなエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を使用することで、糸引きが発生すること無しに、シール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなる。また例えば押出ラミネート等の高速で成形する場合においても、成形加工性を損なうことなく容易に成形できる。」(段落【0019】?【0020】)
そして、本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)には、上記(a)?(f)に摘記した以外に、本願発明の課題についての技術的な意味を明らかにする記載はない。

そこで、上記(a)?(f)に摘記した事項と本願発明の課題との関係について検討する。
まず、糸引き現象が改善される点に関しては、本願明細書には、
(ア-1) 「共重合体中のα-オレフィン含量としては、通常5?50モル%、好ましくは7?30モル%である。このような好ましいコモノマーを選択することで、得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きく、また、生産時のフィルムのロールへのベタツキも少ないため、生産性も良好で好ましい。」(摘記(c))
(ア-2) 「エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のMFR(ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)は0.5?100、好ましくは2.0?70(g/10分)、さらに好ましくは10?70(g/10分)であり、密度(ASTM D1505)が0.850?0.900(g/cm^(3))、好ましくは0.850?0.890(g/cm^(3))であり、かつ示差走査熱量分析(DSC)で求められる融点が80℃未満または融点が観測されない非晶性である。このような好ましいMFRおよび密度の範囲にあると、得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きい。」(摘記(d))
及び
(ア-3) 「本発明のシーラントフィルムの特徴として、ある特定の性質を持つエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を基材層(X)の構成成分として使用することにある。前記のようなエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を使用することで、糸引きが発生すること無しに、シール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなる。また例えば押出ラミネート等の高速で成形する場合においても、成形加工性を損なうことなく容易に成形できる。」(摘記(f))
と記載されている。
しかしながら、上記(ア-1)の記載事項は構成a?構成oの何れにも関係しないし、また、当然のことながら、上記(ア-1)の記載事項から、構成a?構成oを規定したことの妥当性、及び構成a?構成oで規定する数的条件の範囲内であるならば糸引き現象が改善されると認めるべき技術的根拠は見いだせない。
次に、上記(ア-2)の記載事項は構成e?構成hと関係するが、上記(ア-2)においては、構成e?構成gを充足すれば得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きいと記載されてはいるものの、なぜ構成e?構成hを充足すれば得られるシーラントフィルムの糸引き抑制効果が大きくなるのか、また、構成e?構成gの数的範囲が合理的な範囲であるのか、など、上記(ア-2)の記載事項は、構成e?構成hを規定した理由(技術的根拠)について何ら明らかにしていないので、上記(ア-2)の記載事項から、構成a?構成oを規定したことの妥当性、及び構成a?構成oで規定する数的条件の範囲内であるならば糸引き現象が改善されると認めるべき技術的根拠、は見いだせない。
最後に、上記(ア-3)の記載事項は構成e?構成hと関係するが、上記(ア-3)においては、構成e?構成hを充足するエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を基材層(X)の構成成分として使用することで、糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなる旨の記載はされているものの、なぜ構成e?構成hを充足すれば糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなるのか、また、構成e?構成hの数的範囲が合理的な範囲であるのか、など、上記(ア-3)の記載事項は、構成e?構成hを規定した理由(技術的根拠)について何ら明らかにしていないので、上記(ア-3)の記載事項から、構成a?構成oを規定したことの妥当性、及び構成a?構成oで規定する数的条件の範囲内であるならば糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなると認めるべき技術的根拠、は見いだせない。

次に、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルムに関しては、本願明細書には、
「シーラントフィルム
本発明のシーラントフィルムは、基材層(X)とシーラント層(Y)の少なくとも2層からなる。・・・基材層(X)における各成分の混合割合は、エチレン系重合体(A)が40?95重量%、好ましくは50?90重量%、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が5?60重量%、好ましくは10?50重量%の範囲にある。シーラント層(Y)における混合割合は、エチレン系重合体(A)が70?95重量%、好ましくは70?90重量%、ブテン系重合体(C)が5?30重量%、好ましくは10?30重量%の範囲にある。各成分の割合がこの範囲内にあると、その組成物から得られるフィルムは、シール強度とイージーピール性とのバランスに優れており、実用上好適な易開封性容器が得られる。
本発明のシーラントフィルムの特徴として、ある特定の性質を持つエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を基材層(X)の構成成分として使用することにある。前記のようなエチレン・α-オレフィンランダム共重合体を使用することで、糸引きが発生すること無しに、シール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなる。また例えば押出ラミネート等の高速で成形する場合においても、成形加工性を損なうことなく容易に成形できる。」(摘記(f))
との記載がなされている。
しかしながら、上記の記載事項は構成d、構成h、構成l及び構成oと関係するが、上記の記載事項においては、構成d、構成h、構成l及び構成oを充足することで、糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなる旨の記載はされているものの、なぜ構成d、構成h、構成l及び構成oを充足すれば糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなるのか、また、構成d、構成h、構成l及び構成oの数的範囲が合理的な範囲であるのか、など、上記の記載事項は、構成d、構成h、構成l及び構成oを規定した理由(技術的根拠)について何ら明らかにしていないので、上記の記載事項から、構成a?構成oを規定したことの妥当性、及び構成a?構成oで規定する数的条件の範囲内であるならば糸引きが発生すること無しにシール強度およびイージーピール性とのバランスに優れたフィルムとなると認めるべき技術的根拠、は見いだせない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明(実施例を除く)の記載からは、本願発明の構成a?構成oを充足すれば、他の発明特定事項と相俟って、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」を提供するという本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように本願明細書が記載されているとは認められない。

イ 実施例の記載について
本願明細書の実施例には、実施例1として、基材層(X)用樹脂として、高圧法ポリエチレン((A)成分 密度0.917g/cm^(3)、MFR 7.2g/10分、MT28mN)85重量%およびエチレン・1-ブテン共重合体((B)成分 密度0.860g/cm^(3)、MFR35g/10分、1-ブテン含量19モル%、DSCによる融点は観測されない)15重量%からなり、また、シーラント層(Y)用樹脂として、上記高圧法ポリエチレン80重量%および1-ブテン重合体((C)成分、密度0.915g/cn^(3)、MFR1.8g/10分)20重量%を用いた積層体フィルムと、比較例1として、基材層(X)用樹脂として上記高圧法ポリエチレンのみを用いた以外は実施例1と同様にしたものが示されている。
そして、表1には、実施例1と比較例1のヒートシール強度及びイージーピール性は同程度であるのに対し、実施例1は比較例1に対し糸引き性が優れていることが示されている。
この実施例1におけるエチレン・1-ブテン共重合体((B)成分)についてはDSCによる融点は観測されないものであるので、この実施例1は、本願発明の構成a?構成oのうち、構成g以外の要件、すなわち、構成a?構成f及び構成h?構成oを充足しているが、本願発明の構成gを充足しないから、実質的には本願発明の実施例であるということができず、そして本願明細書には、他に本願発明の構成a?構成oを全て充足する実施例は存在しないので、本願明細書の実施例の記載から、本願発明の構成a?構成oを充足すれば、他の発明特定事項と相俟って、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」を提供するという本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように本願明細書が記載されているとは認められない。

したがって、本願明細書の実施例の記載からは、本願発明の構成a?構成oを充足すれば、他の発明特定事項と相俟って、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」を提供するという本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように本願明細書が記載されているとは認められない。

ウ 当業者の技術常識について
さらに、当業者の技術常識を考慮しても、本願出願日当時、本願発明の構成a?構成oを規定することにより、他の発明特定事項と相俟って、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」を提供するという本願発明の課題が解決できると認めるべき技術的根拠は見いだせないので、当業者の技術常識に照らしても、本願発明の構成a?構成oを充足すれば、他の発明特定事項と相俟って、「糸引き現象が改善され、ヒートシール性とイージーピール性とのバランスに優れたシーラントフィルム」を提供するという本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように本願明細書が記載されているとは認められない。

(5) 小括
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願は特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。

2 特許法36条4項に規定する要件について
(1) 本願明細書の段落【0002】においては、「一方、内容物の汚染防止および商品の外観などの点から、シール面を剥離した時に剥離跡(糸引き)が残らないことは勿論のこと、糸引き現象そのものが発生しないよう要求されている。」旨の記載があり、この記載からは「糸引き現象」は、シール面を剥離した後に発生すると解されるところ、段落【0033】には「糸引き性:ヒートシール後のフィルムサンプルのシール面を観察し、シール面およびその周辺に糸状に樹脂が付着した場合を×とし、糸状樹脂が見られない場合を○とした。」旨記載されており、この記載からは、糸引き現象は、ヒートシール後のシール面、即ち、シール面を剥離する前に発生するものであると解される。
してみると、「糸引き現象」がいかなる現象をいうのか不明りょうである。

(2) したがって、本願発明の課題に含まれる「糸引き現象」について、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないので、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないから、本願は特許法36条4項に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしておらず、また、本願は特許法36条4項に規定する要件(実施可能要件)を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-28 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願2002-228066(P2002-228066)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B32B)
P 1 8・ 536- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 坂崎 恵美子
西川 和子
発明の名称 シーラントフィルムおよびその用途  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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