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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q
管理番号 1207593
審判番号 不服2007-7516  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-14 
確定日 2009-11-26 
事件の表示 特願2002-272719「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日出願公開、特開2004-112391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月19日の出願であって、平成19年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成21年6月1日付けで拒絶理由通知がなされ、平成21年7月30日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年7月30日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「アンテナ素子(1)と、このアンテナ素子の下側に配設された誘電体(2)と、この誘電体の下側に配設されたグランド板(3)とから構成されたパッチアンテナを、導電材料により形成された基板(4)の一面側に配設してなり、前記基板は、この基板の一面側から他面側に凹むように形成されて電流の流れる電流経路が長くなりインピーダンスを大きくすることができる溝部(4b)を有することを特徴とするアンテナ装置。」

3.引用発明
A.当審の拒絶理由に引用された特開平2-215204号公報(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「誘電体基板の上面に所望の周波数で共振する金属箔からなる放射素子面を有し、下面に金属箔からなるグランド面を有する構造のマイクロストリップアンテナにおいて、車体に装着される磁気ガイド付きの磁石をアンテナ下面に備え、磁気ガイドの一部が実効的グランド面となるように磁気ガイドとグランド面を接触させたことを特徴とする車載用アンテナ。」(1頁左下欄、特許請求の範囲第1項)
ロ.「第1図(a)は本発明の一実施例の断面図である。本実施例のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板2の上面に放射素子面1を有し、下面にグランド面3を有し、磁気ガイド15の付いた磁石16を導電性接着剤でグランド面3に接着した構造を有する。磁気ガイド15は、そのスカート部がアンテナのグランド面3の端部に位置するように配置してある。この構造のアンテナの漏れ電界Elは、第1図(b)に示すように、磁気ガイド15のスカート部に阻止されて、グランド面3の裏面への回り込みは極端に少なくなる。これは、第1図(c)に示すように、磁気ガイド15のスカート部の長さだけ、グランド面3の長さを延長した構造とほぼ等価であり、それ故、アンテナの特性もほとんど劣化しない。ある条件下では、アンテナ特性を劣化させることなく、約60?70%の小型化が可能であるという実験結果が得られた。」(3頁左上欄、2?18行目)

上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「放射素子面と、この放射素子面の下側に配設された誘電体基板と、この誘電体基板の下側に配設されたグランド面とから構成されたマイクロストリップアンテナを、実効的グランド面となる磁気ガイドの一面側に配設してなり、前記磁気ガイドは、この磁気ガイドの一面側から他面側に延長するように形成されてグランド面の長さを延長するスカート部を有する車載用アンテナ。」

B.同じく、当審の拒絶理由に引用された特開平11-284429号公報(以下、「引用例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0017】図8に示されているマイクロストリップアンテナは従来の技術1及び2と同様のマイクロストリップアンテナであり、上記アンテナ基板に相当する構成は誘電体基板602である。また、誘電体基板602の表面には放射素子605が設けられている。さらに、誘電体基板602においては、その裏面には地導体603が備えられている。
【0018】図7や図8に示されている構成において、上記従来の技術1や2と異なる点は、λ/4チョーク511や611が地導体503、603の端部に設けられていることである。ここで、λは、電磁波の波長を表すのでλ/4チョーク511や611は、1/4波長のチョークを意味する。
【0019】図7、図8に示されているように、このλ/4チョーク511、611はその先端が短絡されている。さて、図7や図8に示されているλ/4チョーク511、611などにおいては、そのショートされた先端からλ/4すなわち4分の1波長離れた点におけるインピーダンスが無限大になることが知られている。そして、このインピーダンスが無限大になる点と、地導体503や603の端部とが一致するようにこのλ/4チョークの位置が調整されている(図7及び図8参照)。このような構成により、地導体503、603の端部に電流が流れるのを阻止することができ、地導体503、603の端部から回折波が発生するのを防止している。」(3頁4欄、段落17?19)

上記引用例2には、「マイクロストリップアンテナの地導体に折返し形の延長部を設け、該延長部の位置を調整して前記地導体端部のインピーダンスを無限大にする」技術手段が開示されている。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「パッチアンテナ」と引用発明の「マイクロストリップアンテナ」が同じものであることは例えば特開平11-234033号公報段落2又は特開平9-205305号公報段落14等の記載から明らかであるので、本願発明の「アンテナ素子」、「誘電体」、「グランド板」及び「パッチアンテナ」と引用発明の「放射素子面」、「誘電体基板」、「グランド面」及び「マイクロストリップアンテナ」はそれぞれ同じ構成のアンテナ及びその部材を指す用語であって、これらの間に実質的な差異はない。
また引用発明の「実効的グランド面となる磁気ガイド」は「グランド面」となる板状体であるから、当該「磁気ガイド」がアンテナを載置する導電材料により作られた実質的な基板であることは当業者であれば自明のことである。したがって、本願発明の「導電材料により形成された基板」と引用発明の「実効的グランド面となる磁気ガイド」はいずれも「導電材料により形成された基板」である点で一致している。
また本願発明の「前記基板は、この基板の一面側から他面側に凹むように形成されて電流の流れる電流経路が長くなりインピーダンスを大きくすることができる溝部を有する」という構成と、引用発明の「前記磁気ガイドは、この磁気ガイドの一面側から他面側に延長するように形成されてグランド面の長さを延長するスカート部を有する」という構成は、いずれも「前記基板は、この基板の一面側から他面側に突出するように形成されてその長さを延長する突出部を有する」という構成の点で一致している。
また本願発明の「アンテナ装置」は車両用である(本願明細書段落21参照)から、本願発明の「アンテナ装置」と引用発明の「車載用アンテナ」の間に実質的な差異はない。
したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「アンテナ素子と、このアンテナ素子の下側に配設された誘電体と、この誘電体の下側に配設されたグランド板とから構成されたパッチアンテナを、導電材料により形成された基板の一面側に配設してなり、前記基板は、この基板の一面側から他面側に突出するように形成されてその長さを延長する突出部を有するアンテナ装置。」

<相違点>
「前記基板は、この基板の一面側から他面側に突出するように形成されてその長さを延長する突出部を有する」という構成に関し、本願発明は「前記基板は、この基板の一面側から他面側に凹むように形成されて電流の流れる電流経路が長くなりインピーダンスを大きくすることができる溝部を有する」という構成であるのに対し、引用発明は「前記磁気ガイドは、この磁気ガイドの一面側から他面側に延長するように形成されてグランド面の長さを延長するスカート部を有する」という構成である点。

5.判断
そこで、上記相違点について検討するに、上記引用例2には「マイクロストリップアンテナの地導体に折返し形の延長部を設け、該延長部の位置を調整して前記地導体端部のインピーダンスを無限大にする」技術手段が開示されているところ、引用発明の「スカート部」は「磁気ガイド(即ち、基板)」の延長部であるから、当該技術手段を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見あたらない。そして、延長された分だけ電流の流れる電流経路が長くなることは本願発明と同様であり、電流経路が長くなればインピーダンスが大きくなることも本願発明と同様である。またインピーダンスを大きくするために突出部の位置の調整を行うことも有効であることは上記引用例2に開示されているとおりである。
したがって、前記引用例2に開示されている技術手段に基づいて引用発明の「スカート部」の構成を折返し形(即ち「溝部」)とするとともに、延長部を含めた基板のインピーダンスを大きくすることにより、引用発明の「前記磁気ガイドは、この磁気ガイドの一面側から他面側に延長するように形成されてグランド面の長さを延長するスカート部を有する」という構成を本願発明のような「前記基板は、この基板の一面側から他面側に凹むように形成されて電流の流れる電流経路が長くなりインピーダンスを大きくすることができる溝部を有する」という構成とする程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に開示された技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-24 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願2002-272719(P2002-272719)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 圭一郎  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 萩原 義則
柳下 勝幸
発明の名称 アンテナ装置  
代理人 水野 史博  
代理人 水野 史博  
代理人 三浦 高広  
代理人 三浦 高広  
代理人 伊藤 洋二  
代理人 伊藤 洋二  

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