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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10F
管理番号 1207606
審判番号 不服2007-30943  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2009-11-26 
事件の表示 特願2003- 87209「自動演奏ピアノ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-294772〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
出願 平成15年 3月27日
拒絶理由通知 平成19年 4月10日
手続補正書 平成19年 6月15日
拒絶理由通知 平成19年 7月 4日
手続補正書 平成19年 9月18日
拒絶査定 平成19年10月 9日
審判請求書 平成19年11月15日
手続補正書 平成19年12月17日
(平成21年7月14日付け補正の却下の決定により、この手続補正は 却下された)
前置報告書 平成20年 3月17日
審尋 平成21年 1月13日
回答書 平成21年 3月11日
補正の却下の決定 平成21年 7月14日
拒絶理由通知 平成21年 7月14日
手続補正書 平成21年 8月27日

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年8月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
この補正により、請求項1は次のとおり補正された。

「操作に応じて変位可能に設けられた複数の演奏操作子と、前記演奏操作子の各々に対応して設けられ、対応する演奏操作子を直接または間接的に駆動する複数のアクチュエータと、該各アクチュエータから離れた位置に設けられ、前記各演奏操作子の位置の次元の検出信号を対応する前記演奏操作子の変位に応じて連続量で出力する複数の非接触型のセンサとを有する自動演奏ピアノであって、
前記各センサは演奏情報の記録にも使用されるセンサであり、
前記各演奏操作子は、対応する前記センサの検出信号に影響を及ぼす個体差を有するものであり、
前記各センサの検出信号を、少なくとも前記各演奏操作子の動きの個体差と前記センサの出力値の個体差の双方について正規化し、その結果を位置の次元の正規化信号として出力する正規化手段と、
演奏情報を入力する演奏情報入力手段と、
該入力された演奏情報に基づいて、前記複数の演奏操作子の各々について、時間進行に応じた当該演奏操作子の目標位置である目標軌道を生成する目標軌道生成手段と、
それぞれ位置の次元の情報である前記各正規化信号と前記各目標軌道とに基づいて、前記各アクチュエータをサーボ駆動する駆動手段とを有し、 前記アクチュエータは、前記演奏操作子の変位する支点を挟む奥側に設けられ、前記センサは、前記支点を挟む前側に設けられたものであることを特徴とする自動演奏ピアノ。」
下線部は補正箇所である(以下、同様。)。

2.補正についての検討
この補正は、以下に示すように請求項1に新規事項を追加するものである。

この補正は、平成19年9月18日付けで補正された請求項1の「該検出信号を少なくとも前記各演奏操作子の動きと前記センサの出力値の個体差について正規化し、その結果を正規化信号として出力する正規化手段」を、「前記各センサの検出信号を、少なくとも前記各演奏操作子の動きの個体差と前記センサの出力値の個体差の双方について正規化し、その結果を位置の次元の正規化信号として出力する正規化手段」とする補正を含むものである。

ここで、「演奏操作子の動きの個体差とセンサの出力値の個体差の双方についての正規化」とは、演奏操作子の動きの個体差の正規化と、センサの出力値の個体差の正規化のそれぞれ両方を意味するものと解される。
審判請求人は、平成21年8月27日に提出された意見書の中で、この補正は、段落【0013】、【0016】等の記載に基づく旨、主張している。
しかし、当該箇所及びその他の箇所を参照しても、演奏操作子の動きの個体差とセンサの出力値の個体差を補正して正規化した(単一の)位置信号を出力することは記載されているものの、演奏操作子の動きの個体差についての正規化と、センサの出力値の個体差についての正規化をそれぞれ個々に行うことは記載されていないし、示唆もされていない。

それゆえ、請求項1に対する補正は、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内でしたものとすることはできない。

3.むすび
以上のとおり、請求項1に対する補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成21年8月27日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成19年12月17日付けの手続補正も平成21年7月14日付けの補正の却下の決定で却下されているので、本願の各請求項に係る発明は、平成19年9月18日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項3までに記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「操作に応じて変位可能に設けられた複数の演奏操作子と、前記演奏操作子を直接または間接的に駆動する複数のアクチュエータと、該各アクチュエータから離れた位置に設けられ、前記各演奏操作子の位置、速度または加速度のうち何れか一の次元の検出信号を対応する前記演奏操作子の変位に応じて連続量で出力する複数のセンサとを有する自動演奏ピアノであって、
前記各センサは演奏情報の記録にも使用されるセンサであり、
前記各演奏操作子は、対応する前記センサの検出信号に影響を及ぼす個体差を有するものであり、
該検出信号を少なくとも前記各演奏操作子の動きと前記センサの出力値の個体差について正規化し、その結果を正規化信号として出力する正規化手段と、
演奏情報を入力する演奏情報入力手段と、
該入力された演奏情報に基づいて、前記複数の演奏操作子の各々について、時間進行に応じた当該演奏操作子の目標位置である目標軌道を生成する目標軌道生成手段と、
前記各正規化信号と、前記各目標軌道とに基づいて、前記各アクチュエータをサーボ駆動する駆動手段と
を有することを特徴とする自動演奏ピアノ。」

2.当審が通知した拒絶理由の要旨
当審が通知した拒絶理由の要旨は、本願発明は、特開平5-313655号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開平10-26982号公報(以下、「引用文献2」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用文献に記載の発明
当審が拒絶の理由に引用した引用文献1には、次の(1)?(4)の事項が記載されている。

(1)
「【0010】図3に示すように、自動ピアノは、複数の鍵31と、各鍵31の運動をハンマー32にそれぞれ伝達する複数のアクション33と、これらのハンマー32によってそれぞれ打弦される複数の弦34と、鍵31を駆動するソレノイド35と、を有している。鍵31はバランスピンを支点として揺動自在に設けられている。押鍵、または、ソレノイド35のプランジャが吸引されて鍵31の演奏者側を引き下げることにより、鍵31に連動してアクション33が動作し、ハンマー32を回動、打弦させる構成である。
【0011】また、この自動ピアノには、各鍵31の動きを検出するセンサ36と、図示していないペダル機構の操作の有無を検出するセンサと、が配設されている。センサ36は、例えば鍵31の底面からの反射光を検出するもので、一対の発光素子と受光素子とを備えたフォトリフレクタで構成することができる。
【0012】更に、この自動演奏ピアノにあっては、コントローラを有しており、このコントローラは、図3に示すように、記録モードで機能する記録装置37と、再生モードで機能する再生装置38と、で構成している。記録装置37は演奏、すなわち鍵31の動き(軌道)の記録が可能であって、記憶メディア39(例えばフロッピーディスク)への記録も可能である。再生装置38は、例えば記憶メディア39に記録した演奏の再生が可能である。
【0013】図4は、この自動演奏ピアノのコントローラ部分をブロック図により示すものである。すなわち、センサ36からのアナログ信号出力はAD変換器41を介してサンプルホールド回路42に入力され、このサンプルホールド回路42を介してMPU43に入力されるものである。MPU43は内部にROM、RAM等を備え、更に、フロッピーディスクドライバFDD44との間で信号の授受を行いフロッピーディスク39に演奏情報を記憶させ(記録モード時)、あるいは、フロッピーディスク39から演奏情報を読み出す(再生モード時)。・・・(中略)・・・
【0014】図5は上記自動ピアノにおける鍵31の変位と時刻との関係の一例を示すものである。このグラフに示す鍵31の軌道(曲線)を複数の区間に分割して検出し、記録するものである。例えば時刻t0?t1,t1?t2,t2?t3,t3?t4,t4?t5,t5?t6の6区間に軌道を分割し、各区間についてその曲線を算出し、さらに、この曲線をパラメータで表示して記憶するものである。」

(2)
「【0016】まず、記録モードにあっては、まず、センサ36よりAD変換器41、サンプルホールド回路42を経由して、MPU43のメモリに1ms毎の鍵盤の生演奏データを入力する(S601)。このセンサ36には生演奏のデータすなわち鍵変位量をアナログ信号として出力するものである。」

(3)
「【0019】・・・(中略)・・・このように、各区間の初速とその時刻、終速とその時刻を記憶することにより、鍵変位軌道を表す放物線方程式の各係数値情報を間接的に記憶することができる。」

(4)
「【0023】そして、軌道指令値をアクチュエータ制御装置である軌道制御回路45に出力する。この軌道制御回路45ではセンサで検出した鍵31の変位が軌道指令値となるようにフィードバック制御を行う。そして、この制御に応じてソレノイドドライブ回路46はソレノイド35を軌道指令値に基づいて駆動する。」

以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「操作に応じて変位可能に設けられた複数の鍵と、前記鍵の各々に対応して設けられ、対応する鍵を直接に駆動する複数のソレノイドと、該各ソレノイドから離れた位置に設けられ、前記各鍵の変位量を検出してアナログ信号を出力するフォトリフレクタからなる複数のセンサとを有する自動演奏ピアノであって、
前記各センサは演奏情報の記録にも使用されるものであり、
演奏情報を入力する記録装置、再生装置と、
該入力された演奏情報に基づいて、前記複数の鍵の各々について、1ms毎の鍵盤の生演奏データが入力されて、鍵変位軌道を表す軌道指令値を生成する手段と、
前記各センサの出力信号と、前記各軌道指令値とに基づいて、前記各ソレノイドをフィードバック制御する駆動手段とを有した自動演奏ピアノ。」

3.対比
引用発明の「鍵」、「ソレノイド」、「フィードバック制御する駆動手段」は、本願発明の「演奏操作子」、「アクチュエータ」、「サーボ駆動する駆動手段」に相当する。
本願発明における択一的な発明特定事項である「演奏操作子を直接または間接的に駆動する」点は、引用発明が「直接または間接的に」の一方である「鍵を直接に駆動する」ものであるから、この点において実質的に相違しない。
引用発明における「各鍵の変位量」の検出が、各鍵の位置の検出であることは明らかであり、引用発明は各鍵の変位量を検出して「アナログ信号を出力する」のであるから、鍵の位置が、鍵の変位に応じて連続量で出力されるものである。
引用発明は、明示的な「演奏情報入力手段」は備えていないものの、入力された演奏情報に基づいて軌道指令値を生成する機能を有するものであるから、実質的に「演奏情報入力手段」を備えているものと解される。
本願発明における択一的な発明特定事項である「各演奏操作子の位置、速度または加速度のうち何れか一の次元の検出信号を・・・(中略)・・・出力する」点は、引用発明が「位置、速度または加速度のうち」の一つである「鍵の変位」に応じて検出信号が出力されるものであるから、演奏操作子の位置の次元の検出信号を出力するものであって、この点において相違しない。
引用発明は「1ms毎の鍵盤の生演奏データが入力されて、鍵変位軌道を表す軌道指令値を生成する」ものであるから、本願発明の「時間進行に応じた当該演奏操作子の目標位置である目標軌道を生成する」ことと実質的に相違しない。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し相違する。
<一致点>
「操作に応じて変位可能に設けられた複数の演奏操作子と、前記演奏操作子を直接に駆動する複数のアクチュエータと、該各アクチュエータから離れた位置に設けられ、前記各演奏操作子の位置の次元の検出信号を対応する前記演奏操作子の変位に応じて連続量で出力する複数のセンサとを有する自動演奏ピアノであって、
前記各センサは演奏情報の記録にも使用されるセンサであり、
演奏情報を入力する演奏情報入力手段と、
該入力された演奏情報に基づいて、前記複数の演奏操作子の各々について、時間進行に応じた当該演奏操作子の目標位置である目標軌道を生成する目標軌道生成手段と、
前記センサの出力信号と、前記各目標軌道とに基づいて、前記各アクチュエータをサーボ駆動する駆動手段と
を有することを特徴とする自動演奏ピアノ。」

<相違点>
本願発明は、「各演奏操作子」が「対応する前記センサの検出信号に影響を及ぼす個体差を有するものであり、該検出信号を少なくとも前記各演奏操作子の動きと前記センサの出力値の個体差について正規化し、その結果を正規化信号として出力する正規化手段」を備えているのに対して、引用発明は、演奏操作子が対応するセンサの検出信号に影響を及ぼす個体差を有するかどうかが不明であり、また、センサの検出信号を正規化する正規化手段を備えていない点。

4.相違点に対する判断
本願発明の各演奏操作子も引用発明の各演奏操作子も共にそれぞれが別体で構成されている以上、そもそも個体差を生じ得るものであって、かつ、本願発明の演奏操作子が、特段、個体差がより大きく生じるような構成を備えているものでもない以上、引用発明も、本願発明と同様に、センサの検出信号に影響を及ぼす個体差を有していると捉えるのが相当である。

一般に、複数のセンサを備えた装置において、個々のセンサから得られる出力がばらつかないようにその出力を正規化することは普通に行われていることであり、電子鍵盤楽器の分野においても、引用文献2に記載されているように、鍵の押下を検出するセンサの出力を正規化してバラツキを抑えることが知られている。

引用文献2の段落【0016】には、「これらの構成によると、電源供給の開始時に、第1のバラツキデータメモリ内のバラツキデータを第2のバラツキデータメモリに転送して演奏準備をし、奏者により鍵が操作開始された後にその鍵の押下の都度、その鍵による感圧素子への押圧発生の際に、第2のバラツキデータメモリ内に記憶され押圧された感圧素子から得られる押下位置情報に対応するバラツキデータに基づいて、押圧された感圧素子から得られる押圧度合い情報を補正し、この押圧度合い情報を正しい押圧情報として出力する。」と記載されており、また、段落【0023】には、「フエルト22a、補強板23a、電極24a、感圧誘電層25a、絶縁スペーサ26aは、ともに材質および厚みにバラツキがあり、その結果、感圧素子から得られる独立アフタータッチ情報には、感圧素子の個体差によるバラツキ、および各感圧素子毎にそれぞれに対応する鍵により押さえられる位置の違いによるバラツキが含まれる。」と記載されている。
段落【0023】の記載によれば、当該センサの出力の補正が、感圧素子の個体差によるバラツキのみならず、感圧素子周辺の部材によるバラツキ、ひいては鍵固有のバラツキも含めてなされるものと解釈されるものであり、その物理的構造上、むしろこれらを分離して感圧素子のバラツキのみを補正することを想定することは困難である

このような、センサから得られる出力を正規化してバラツキを抑えるという技術思想は該センサの出力信号がどのように用いられるかによらず普遍的に用い得るものである。
それゆえ、引用発明において、各演奏操作子の動きとセンサの出力値の個体差も含め、センサの検出信号にバラツキが出ないように正規化する正規化手段を設けることは、当業者が容易に想到し得たものである。

5.補足
(1)仮に平成21年8月27日付けで補正された、「演奏操作子の動きの個体差とセンサの出力値の個体差の双方についての正規化」に関して、演奏操作子の動きの個体差とセンサの出力値の個体差とが切り分け可能なものではなく、一体化して捉えるべきものであって、該補正を却下すべきではないとしても、次に示す理由により、本願発明は特許を受けることができない。
平成21年8月27日付けで補正された請求項1と、本審決が対象とした平成19年9月18日付けで補正された請求項1とは、字句を補うことにより発明を明確化した箇所を除けば、前者が“アクチュエータが演奏操作子の変位する支点を挟む奥側に設けられ、センサが、前記支点を挟む前側に設けられたものである”ことが発明特定事項として追加している点で実質的に相違し、この点は引用発明にはない事項であるので、判断を示す。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-274980号公報の【図1】や、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-219526号公報の【図11】には、共に、アクチュエータを演奏操作子の変位する支点を挟む奥側に設けた電子鍵盤楽器が記載されているように、本願出願前周知であり、センサと同じくアクチュエータも、演奏操作子の変位する支点の前側に設けた引用発明ものにおいても、当該構成を採用して、アクチュエータを演奏操作子の変位する支点を挟む奥側に設けることに格別の困難性は見出せない。
それゆえ、平成21年8月27日付けで補正された請求項1に記載の発明も、引用文献1及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)審判請求人は、平成21年8月27日付け意見書の中で、本願発明と引用文献1及び引用文献2との差異について、以下(ア)?(ウ)を主張しているが、(ア)?(ウ)に付記したようにいずれも失当である。
(ア)審判請求人は、引用文献1における記録データの逆正規化と、本願発明における「正規化手段」による正規化とは、等価な処理ではなく、本願発明に特有の効果がある旨、主張している。
しかし、そもそも本審決では、引用文献1における記録データの逆正規化について、本願発明の正規化と等価な処理であるとは認定していない。

(イ)審判請求人は、引用文献2は、電子楽器のいわゆるアフタセンサの出力を正規化する技術に関するものであって、本願発明のようなサーボ駆動とは関係のない情報の正規化に係るものであるが、本願発明は、駆動手段によって、それぞれ位置の次元の情報である各正規化信号と各目標軌道とに基づいて、各アクチュエータがサーボ駆動されるものである。したがって、引用文献2では、本願発明のように、センサの検出信号をサーボ駆動で用いる信号と同じ位置の次元の信号となるように正規化することは示唆され得ない旨、主張している。
しかし、上記4において述べたように、一般に、複数のセンサを備えた装置において、個々のセンサから得られる出力がばらつかないようにその出力を正規化することは普通に行われていることであり、電子鍵盤楽器の分野においても、引用文献2に記載されているように、鍵の押下を検出するセンサの出力を正規化してバラツキを抑えることが知られていて、このような、センサの出力を正規化してバラツキを抑えるという技術思想は該センサの出力信号がどのように用いられるかによらず普遍的に用い得るものである。
それゆえ、本願出願時に、鍵の押下を検出するセンサから得られる出力のばらつきを抑制するという課題認識は、該センサから得られる出力をどのように利用するかによらず当然にあったというべきものであり、鍵を駆動するソレノイドをフィードバック制御する引用発明においても、各演奏操作子の動きとセンサの出力値の個体差も含め、センサの検出信号にバラツキが出ないように正規化する正規化手段を設けることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)審判請求人は、本願発明では、アクチュエータは、支点を挟む奥側に設けられ、センサは、支点を挟む前側に設けられ、これにより、通常演奏時には、アクチュエータ及びセンサのいずれも反力作用を及ぼさないから、鍵のタッチ感に、センサ及びアクチュエータのそれぞれの影響を与えることがなく、良好なタッチ感が得られるようになるという利点があると主張している。
しかし、アクチュエータが支点を挟む奥側に設けられ、センサが支点を挟む前側に設けられる構成をとることに格別困難な点がないことは上記補足(1)で述べたとおりであり、良好なタッチ感が得られるという効果も予期し得る効果にすぎない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-25 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願2003-87209(P2003-87209)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G10F)
P 1 8・ 561- WZ (G10F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 剛史間宮 嘉誉新川 圭二  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 板橋 通孝
廣川 浩
発明の名称 自動演奏ピアノ  
代理人 村松 聡  
代理人 別役 重尚  

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