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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1207767
審判番号 不服2007-16166  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-11 
確定日 2009-11-10 
事件の表示 平成10年特許願第503313号「薬剤経皮放出又はサンプリングを高めるための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月24日国際公開、WO97/48442、平成13年 6月19日国内公表、特表2001-507947号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年6月18日(パリ条約による優先権主張、1996年6月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年6月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年1月16日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「体表面の角質層を穿孔して、薬剤を導入することができ、又は、該薬剤を回収することができる通路を形成するための装置(2)にして、少なくとも1つの開口部(8)と、下方に延在している複数個のマイクロブレード(4)とを有したシート(6)を有しており、前記マイクロブレード(4)の各々が前記シート(6)に取り付けられるためのベースを有している、装置(2)であって、
前記マイクロブレード(4)の各々が前記ベースにおける幅よりも薄い厚さを有しており、
前記マイクロブレード(4)の少なくとも一部が、該マイクロブレードの長さ方向に沿った軸線(15)に対して第1の角度(α)を備えて該マイクロブレードの遠位端に位置した第1の角度の付されたセグメント(11、11’)と、該第1の角度の付されたセグメント(11、11’)に隣接し、該第1の角度(α)よりも大きな前記軸線(15)に対する角度(β)を有している第2の角度の付されたセグメント(13、13’)とを有しており、
前記マイクロブレードの前記幅が前記マイクロブレードの長さよりも小さいことを特徴とする、装置。」

II.引用文献の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第96/17648号(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(1)「Die Substratplatte 12 weist auf ihrer der Haut zugewandten Seite(dies ist in Fig.1 die Unterseite) viele einzelne ganz feine Nadeln 123 auf.・・・(中略)・・・Die Substanz kann nun aus dem Reservoir 11 durch die proximale Durchtrittsoffnung 120 in der Substratplatte 12 durch den Kanal 121 und durch die distale Durchtrittsoffnung 122 der jeweiligen Nadel 123 hindurch dem Patienten verabreicht werden. 」(第8頁第15行?第9頁第7行、なお、ウムラウト記号は表記できないので省略する。また、翻訳文は特表平10-510175号公報を援用する。以下同様。翻訳文:「支持層12は皮膚と対向する側(図1では下側)に複数の極めて細い針123を有する。この極めて細い針を、図1及び図2では判り易いように誇張して示してある。実際には、これらの針123は極めて細い、先のとがった針である。上面に設けたそれぞれの流入孔120をこれと対応する下面の流出孔122と連通させる1本の流路121がそれぞれの細い針123を貫通している。いわゆる使用状態にするため、この経皮システムを皮膚2に固定する。個々の針123の長さは(例えば膏剤で)システムを皮膚2に圧着させると個々の針123が角質層20を完全にまたは部分的に刺し貫くがその下の表皮層21にはほとんど、または全く影響を及ぼさないように設定されている。その結果、親油性の角質層20の中に人為的な流路が形成され、親水性の物質または巨大及び/または帯電分子を含む物質、特に蛋白質やペプチドであっても、前記流路を介して貯蔵層11から患者に投与することができる。システムを貼付しても、突き刺さる針123の長さが短いから、患者は苦痛を感じない。従って、事実上非侵入的な投与方法ということができる。
物質は貯蔵層11から支持層12の上面の流入孔120を通って流路121に流入し、それぞれの針123の下端の流出孔122を通って患者に投与される。」(公報第8頁第29行?第9頁第14行))
(2)「Allerdings ist es keinesfalls zwingend, dass die Porositat der Substratplatte durch einzeine diskrete Durchtrittsoffnungen(Nadeln) realisiert wird.・・・(中略)・・・z.B. in Form von Kreuzen 120c, wie sie in Fig.9 dargestellt sind.」(第11頁第16行?第12頁第5行、翻訳文:「ただし、支持層の多孔率を、散在する個々の孔(針)によって画定する方式が強制されるものではない。例えば図5に示すような構造も可能である。この構造では流入孔(図5においても支持層12aの貯蔵層側の孔120aを示している)がほぼ直線状に形成されている。支持層12の皮膚側の流出孔は角質層に突き刺さる極めて細い刃を有するほぼ直線状のリブとして形成される。それぞれの皮膚側流出孔はぞれぞれのリブのほぼ全長に亘って開口している。
図6及び図7は支持層の部分図であり、前記リブ123aを拡大して示している。図示のように、個々のリブ 123aは2つの鋭利な刃 124a及び 125aを含む。一方の実施例(図6)では流路 121aがその全長に亘って同じ幅を有し、他方の実施例(図7)では流路 121aが刃にむかって円錐状にテーパしている。
貯蔵層側の個々の流入孔(及びこれと対応して支持層の皮膚側に位置する刃を含むリブ)を・・・(中略)・・・、周期的に現われる他のパターン、例えば図9に示すような十字 120c状に形成することもできる。」(公報第11頁第5?19行))
(3)「Daruberhinaus ist in Fig.11 noch eine Variante gezeigt, bei der die Schneiden 124e und 125e quasi hohenversetzt sint.・・・(中略)・・・und so die distale Durchtrittsoffnung 122e verstopfen kann.」(第12頁第10?16行、翻訳文:「図11に示す実施例では、刃124e及び125eに僅かながら高低差を与えてある。このように構成することで、最初に皮膚と接触する刃125eを角質層をほぼ“切り開らき”、これに続いて第2の刃124eをこの切れ目に進入させることができるから、極めて鋭利な刃の間に組織が入り込んで皮膚側の流出孔122eを塞ぐおそれがない。」(公報第11頁第22?26行))
(4)「Auch konnen die vorstehend beschriebenen transdermalen Systeme nicht nur zum Verabreichen einer Substanz aus einem Reservoir eingesetzt werden,・・・(中略)・・・ und dies wiederum weitere Ruckschlusse erlaubt.」(第13頁第1?9行、翻訳文:「以上に述べた経皮システムは貯蔵層からの薬物投与に利用できるだけでなく、本発明の経皮システムを利用して、皮膚内に発生する特定の物質を皮膚から抽出すること(逆プロセス)ができ、このことは特に分析-または診断目的に極めて有用である。なぜなら、これによって皮膚中の特定物質またはその量を推定することができ、逆の推定も可能となるからである。」(公報第12頁第9?13行))
(5)図1、図2及び図9には、支持層12の皮膚側に位置する刃(針123)を周期的に現われるパターンに形成した実施例が示されている。また、図5及び図6には、支持層12aの皮膚側に位置する刃124a,125a(リブ123a)を直線状に連続するパターンに形成した実施例が示されている。さらに、図11には、支持層12aの皮膚側に位置し基部が支持層12aに連設される刃125eを、刃125eの長さ方向に沿った軸線に対して鋭い角度を備えて該細い刃125eの先端側に位置する鋭い角度の付された部分と、該鋭い角度の付された部分に隣接し、該鋭い角度よりも大きな前記軸線に対する角度を有している大きな角度の付された部分とに形成した実施例が示されている。また、図11には、細い刃125eが前記基部における幅よりも厚い厚さを有している点、及び、細い刃125eの前記幅が前記細い刃125eの長さよりも小さい点が図示されている。

上記各記載事項(1)?(4)及び(5)における特に図11の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、
「皮膚2の角質層20を切り開き、物質を投与することができ、又は、該物質を抽出することができる人為的な流路を形成するための経皮システムにして、流出孔122eと、皮膚側に位置する複数個の細い刃125eとを有した支持層12aを有しており、前記細い刃125eの各々が前記支持層12aに連設されるための基部を有している、経皮システムであって、
前記細い刃125eの各々が前記基部における幅よりも厚い厚さを有しており、
前記細い刃125eが、該細い刃125eの長さ方向に沿った軸線に対して鋭い角度を備えて該細い刃125eの先端側に位置した鋭い角度の付された部分と、該鋭い角度の付された部分に隣接し、該鋭い角度よりも大きな前記軸線に対する角度を有している大きな角度の付された部分とを有しており、
前記細い刃125eの前記幅が前記細い刃125eの長さよりも小さい、経皮システム。」についての発明(以下、「引用発明」という。)、
が記載されていると認められる。

III.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、上記引用発明における「皮膚2の角質層20を切り開き」は、本願発明の「体表面の角質層を穿孔して」に相当し、以下同様に、「物質」は「薬剤」に、「投与する」は「導入する」に、「抽出する」は「回収する」に、「人為的な流路」は「通路」に、「経皮システム」は「装置」に、「流出孔122e」は「開口部」に、「皮膚側に位置する」は「下方に延在している」に、「細い刃125e」は「マイクロブレード」に、「支持層12a」は「シート」に、「連設される」は「取り付けられる」に、「基部」は「ベース」に、「鋭い角度」は「第1の角度」に、「先端側」は「遠位端」に、「鋭い角度の付された部分」は「第1の角度の付されたセグメント」に、そして「大きな角度の付された部分」は「第2の角度の付されたセグメント」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「前記細い刃125eの各々が前記基部における幅よりも厚い厚さを有しており」と本願発明の「前記マイクロブレード(4)の各々が前記ベースにおける幅よりも薄い厚さを有しており」とは、「前記マイクロブレードの各々が前記ベースにおける幅に対する所定の厚さを有しており」という点で共通する。
したがって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「体表面の角質層を穿孔して、薬剤を導入することができ、又は、該薬剤を回収することができる通路を形成するための装置にして、少なくとも1つの開口部と、下方に延在している複数個のマイクロブレードとを有したシートを有しており、前記マイクロブレードの各々が前記シートに取り付けられるためのベースを有している、装置であって、
前記マイクロブレードの各々が前記ベースにおける幅に対する所定の厚さを有しており、
前記マイクロブレードの少なくとも一部が、該マイクロブレードの長さ方向に沿った軸線に対して第1の角度を備えて該マイクロブレードの遠位端に位置した第1の角度の付されたセグメントと、該第1の角度の付されたセグメントに隣接し、該第1の角度よりも大きな前記軸線に対する角度を有している第2の角度の付されたセグメントとを有しており、
前記マイクロブレードの前記幅が前記マイクロブレードの長さよりも小さい、装置」である点。
〈相違点〉
マイクロブレードの各々のベースにおける幅に対する厚さが、本願発明では、ベースにおける幅よりも薄い厚さを有しているのに対して、引用発明では、ベースにおける幅よりも厚い厚さを有している点。

IV.相違点についての判断
引用例の記載事項(2)には、図5,6そして図11に示されているような、刃124a,125a(リブ123a),124e,125eを直線状に連続するパターンに形成することと、図1,2そして図9に示されているような、刃(針)を周期的に現われる分散するパターンに形成することとが、選択できることが開示されている。
そうすると、引用発明において、直線状に連続するパターンに形成されているマイクロブレード(細い刃125e)を、引用例に開示された事項に倣って、周期的に現われる分散するパターンに形成することは、当業者であれば容易に想到し得ることであり、その際に、分散して形成されたマイクロブレードの各々の幅に対する厚さをどの程度にするかは、分散の程度や開口部の大きさに応じて適宜設定し得ることであり、設計的事項にすぎないというべきである。
したがって、マイクロブレードの各々がベースにおける幅よりも薄い厚さを有するように分散の程度や開口部の大きさを適宜設定して、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び引用例に開示された事項から、当業者であれば予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

V.むすび
したがって、本願発明は、その出願前に当業者が引用発明及び引用例に開示された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-03 
結審通知日 2009-06-08 
審決日 2009-06-19 
出願番号 特願平10-503313
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 秀明西山 智宏  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 中島 成
蓮井 雅之
発明の名称 薬剤経皮放出又はサンプリングを高めるための装置  
代理人 相原 礼路  

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