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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1207853
審判番号 不服2006-20079  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-08 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 特願2001-323545「洗浄用溶剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日出願公開、特開2003-129090〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成13年10月22日の出願であって、平成17年5月31日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成18年8月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し同年9月8日に拒絶査定を不服とする審判が請求され、同年11月29日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成21年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明は、平成17年8月8日付け及び平成21年5月29日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

【請求項1】
(a)1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンを25?80重量%、(b)1種または2種以上のプロピレングリコール系溶剤を20?75重量%、を含有することを特徴とする洗浄用溶剤組成物。
【請求項2】
(a)1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンを25?70重量%、(b)1種または2種以上のプロピレングリコール系溶剤を30?75重量%、を含有することを特徴とする請求項1に記載の洗浄用溶剤組成物。

第3 当審で通知した拒絶の理由
平成21年3月24日付けで当審で通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

刊行物1:特開2001-200293号公報
刊行物2:特開平5-171190号公報

第4 刊行物に記載された事項
上記刊行物1、2には、以下の事項が記載されている。

刊行物1:
(1-a)「(a)非塩素系フッ素化合物、(b)グリコールエーテル類、(c)酸化防止剤を含有する非引火性洗浄剤。」(特許請求の範囲の【請求項1】)

(1-b)「本発明は、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類を洗浄するのに好適な洗浄剤とその洗浄剤に適した洗浄方法および洗浄装置に関するものである。」(段落【0001】)

(1-c)「近年では塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類(以下HFCという)やハイドロフルオロエーテル類(以下HFEという)等のオゾン層破壊能が全くなく、不燃性のフッ素系溶剤が提案されているが、塩素原子を含まないために溶解能が低く単独では洗浄剤として使用できず、」(段落【0004】)

(1-d)「本発明は、あらゆるタイプの汚れに対して、HCFC225に匹敵するような高い洗浄力を示し、かつ、高温下における洗浄や蒸気洗浄時における酸化劣化を防止しつつ、低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くない洗浄剤・・・を提供することを課題とする。」(段落【0007】)

(1-e) 「本発明者は、上記課題を達成するため、非塩素系フッ素化合物の引火点を有さない特性を生かし、引火点の出現しない洗浄剤を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、非塩素系フッ素化合物にグリコールエーテルと酸化防止剤を加えることにより、酸化劣化を防止しつつ、あらゆる汚れを洗浄できる事を見出し、・・・本発明を完成した。」(段落【0008】)

(1-f)「本発明の洗浄剤及び組成物(f)に使用する(a)非塩素系フッ素化合物とは、炭化水素類やエーテル類の水素原子の一部がフッ素原子のみで置換され、塩素原子を含まないフッ素化合物であり、例えば、下記一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFEの、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物、及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げることができる。」(段落【0014】)

(1-g)「C_(n)H_(2n-m)F_(m) (1)
(式中、4≦n≦6、5≦m≦2n-1の整数を示す)
C_(x)H_(2x+2-y)F_(y) (2)
(式中、4≦x≦6、6≦y≦12の整数を示す)
C_(s)F_(2s+1)OR (3)
(式中、4≦s≦6、Rは炭素数1?3のアルキル基)
環状HFCの具体例としては3H,4H,4H-パーフルオロシクロブタン、・・・等を挙げることができる。
鎖状HFCの具体例としては1H,2H,3H,4H-パーフルオロブタン、・・・等を挙げることができる。 HFEの具体例としてはメチルパーフルオロブチルエーテル、・・・等を挙げることができる。」(段落【0015】?【0017】)

(1-h)「本発明の洗浄剤においては、洗浄剤に引火点を生ぜず、加工油類、グリース類、ワックス類やフラックス類等のあらゆる汚れに対する洗浄力の向上を目的に(b)グリコールエーテル類から選ばれる化合物の一種、または二種以上の組み合わせを使用する必要がある。例えば、下記一般式(4)で特定されるグリコールエーテル類を挙げることができる。

(式中、R^(1) は炭素数1?6のアルキル基、アルケニル基又はシクロアルキル基、R^(2) は水素又は炭素数1?4のアルキル基又はアルケニル基、R^(3) 、R^(4 )、R^(5)は水素またはメチル基、nは0?1の整数、mは1?3の整数を示す)
具体的には、・・・プロピレングリコールモノメチルエーテル、・・・等が挙げられる。この中で特に人体における代謝系で毒性の指摘されているアルコキシ酢酸を生成しないジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルおよびジプロピレングリコールジメチルエーテル、・・・が好ましい。」(段落【0019】?【0021】)

(1-i)「本発明の洗浄剤・・・には、(b)グリコールエーテル類の酸化を防止する目的で、(c)酸化防止剤を使用する。」(段落【0023】)

(1-j)「本発明の洗浄剤は、・・・各成分を定法に従って混合し均一化して得られる。
各成分の重量割合については、本発明の洗浄剤の特徴である、高洗浄性、低酸化劣化性、低毒性、低引火性が損なわれない範囲であれば、特に制限はないが、(a)非塩素系フッ素化合物と(b)グリコールエーテル類の重量割合の範囲が95/5?20/80であることがより好ましい。」(段落【0032】)

(1-k)「【表1】

」(段落【0081】)

(1-l)「【表2】


」(段落【0082】)

(1-m)「本発明の洗浄剤は、優れた油およびフラックス溶解性を有するとともに、酸化分解を抑制でき、かつ引火点がなく安全である。すなわち、引火点を有さないものの、加工油やフラックス等の汚れに対する溶解性に劣る(a)非塩素系フッ素化合物単体に、(b)グリコールエーテルと酸化防止剤を併用することによって、引火点を有さないという非塩素系フッ素化合物の特性をそのままに、連続した加温洗浄や蒸気洗浄時におけるグリコールエーテルの酸化劣化を防止し、各種汚れに対する優れた洗浄性を有する洗浄剤を提供できる。」(段落【0084】)

刊行物2:
(2-a)「(A) 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンと (B)1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンに可溶な溶剤とからなる洗浄用の溶剤組成物。」(特許請求の範囲の【請求項2】)

(2-b)「(B) 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンに可溶な溶剤が (b-1)炭素数5個以上のアルカン類、(b-2) 炭素数5個以上のシクロアルカン類、(b-3) アルコール類、(b-4) ケトン類、(b-5) エーテル類、(b-6) ハロゲン化炭化水素類、(b-7) 塩素化フッ素化炭化水素類から選ばれる少なくとも1種以上の溶剤である請求項2の洗浄用の溶剤組成物。」(特許請求の範囲の【請求項5】)

(2-c)「本発明は、プリント基板、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板等の脱脂洗浄やフラックス洗浄等に用いられる洗浄溶剤組成物に関する。」(段落【0001】)

(2-d)「各種油脂、フラックス等の洗浄には、不燃性、低毒性、安定性に優れる1,1,2-トリクロロ-1,2,2- トリフルオロエタン( 以下、 R113 という。) 又はこのR113とこれに可溶な溶剤との混合溶剤組成物が広く使用されている。R113は、金属、プラスチック、エラストマー等の基材を侵さず、各種の汚れを選択的に溶解する特徴を有するため、各種精密機械部品や金属、プラスチック、エラストマー等からなる各種電子部品、またこれらの電子部品を実装したプリント基板の洗浄には最適であった。」(段落【0002】)

(2-e)「本発明は、従来のR113が有している優れた特性を満足しながらオゾン層へ全く影響を与えない代替洗浄溶剤として使用できる新規なフッ素化炭化水素系洗浄溶剤組成物を提供することを目的とするものである。」(段落【0006】)

(2-f)「本発明の組成物は、(A) 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(以下、R365mfc という。)を主成分として含有するものであり、これに (B)R365mfc に可溶な溶剤として (b-1)炭素数5以上のアルカン類、(b-2) 炭素数5以上のシクロアルカン類、(b-3) アルコール類、(b-4) ケトン類、(b-5) エーテル類、(b-6) ハロゲン化炭化水素類、(b-7) 塩素化フッ素化炭化水素類から選ばれる少なくとも1種以上の溶剤・・・を配合してなるものである。」(段落【0010】)

(2-g)「(B) R365mfc に可溶な溶剤としての (b-5)エーテル類としては、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等を挙げうるがこれに限定されない。」(段落【0014】)

(2-h)「本発明の 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンとこれに可溶な溶剤・・・とからなる洗浄溶剤組成物は、従来のR113が有している優れた特性を満足し、オゾン層へ影響を与えない等の利点がある。」(段落【0034】)

第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
刊行物1には、本願発明と同様の用途に用いられる(本願明細書の段落【0019】等参照)、「精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類を洗浄するのに好適な洗浄剤」(摘記(1-b))について記載され、この洗浄剤は、「あらゆるタイプの汚れに対して、HCFC225に匹敵するような高い洗浄力を示し、かつ、高温下における洗浄や蒸気洗浄時における酸化劣化を防止しつつ、低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くない洗浄剤」(摘記(1-d))であって、「非塩素系フッ素化合物にグリコールエーテルと酸化防止剤を加え」たもの(摘記(1-e))、すなわち、(1-a)に摘記する「(a)非塩素系フッ素化合物、(b)グリコールエーテル類、(c)酸化防止剤を含有する非引火性洗浄剤。」である。
そこで、各成分について詳しくみるに、「(a)非塩素系フッ素化合物」については、(1-f)に摘記したように、「炭化水素類やエーテル類の水素原子の一部がフッ素原子のみで置換され、塩素原子を含まないフッ素化合物」と定義され、例えば、「下記一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFE」とされ、その具体的な化合物として摘記(1-g)に鎖状HFC等が記載されるものである。
また、「(b)グリコールエーテル類」としては、(1-h)に摘記したように、「グリコールエーテル類から選ばれる化合物の一種、または二種以上の組み合わせ」、例えば、「下記一般式(4)で特定されるグリコールエーテル類」が挙げられ、その中にはプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール系のものが例示され、プロピレングリコール系のものは、(1-k)に摘記した【表1】にも記載されているように、実施例においても具体的に用いられている。
また(a)成分と(b)成分の配合割合については、「(a)非塩素系フッ素化合物と(b)グリコールエーテル類の重量割合の範囲が95/5?20/80であることがより好ましい。」(摘記(1-j))と記載されている。
そうしてみると、刊行物1には、
「非塩素系フッ素化合物を20?95重量%、1種または2種以上のプロピレングリコール類を5?80重量%、酸化防止剤を含有する非引火性洗浄剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明における「1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタン」は「非塩素系フッ素化合物」の一種であり、引用発明における「プロピレングリコール類」は「プロピレングリコール系溶剤」とほぼ同義であって、両者ともに洗浄のための組成物であるから洗浄用組成物といえる。
そうすると両者は、
「非塩素系フッ素化合物を25?80重量%、1種または2種以上のプロピレングリコール系溶剤を20?75重量%、を含有する洗浄用組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「非塩素系フッ素化合物」が、本願発明においては、「1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタン」であるのに対し、引用発明においては、「非塩素系フッ素化合物」とされるのみであって、一般式(1)で特定される環状HFC、(2)で特定される鎖状HFC、又は(3)で特定されるHFE等の例示はあるものの、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンについては示されていない点

相違点2:「組成物」が、本願発明においては、他の成分を必須としていないのに対し、引用発明においては、「酸化防止剤」を含有するものである点

相違点3:「組成物」が、本願発明においては、「洗浄用溶剤組成物」であるのに対し、引用発明においては、「非引火性洗浄剤」である点

3 判断
上記相違点及び本願発明の奏する効果について検討する。
(1)相違点1について
引用発明は、「精密機械部品、光学機械部品、電気電子部品」を洗浄するものであって(摘記(1-b))、「HCFC225に匹敵するような高い洗浄力を示し、・・・低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くない洗浄剤」(摘記(1-d))であるところ、刊行物2にも同様に、「プリント基板、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板等」の洗浄に用いるものであって(摘記(2-c))、「従来のR113が有している優れた特性を満足しながらオゾン層へ全く影響を与えない代替洗浄溶剤として使用できる新規なフッ素化炭化水素系洗浄溶剤組成物」(摘記(2-e)、(2-h))について記載されている。
この刊行物2に記載の「新規なフッ素化炭化水素系洗浄溶剤組成物」とは「 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(以下、R365mfc という。)を主成分とし」(摘記(2-f))、これと、「 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンに可溶な溶剤とからなる洗浄用の溶剤組成物」(摘記(2-a))であり、「 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンに可溶な溶剤」としては、(2-b)、(2-f)に摘記したように、アルカン類、シクロアルカン類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、塩素化フッ素化炭化水素類と、幅広く挙げられており、グリコールエーテル類である「メチルセロソルブ」も例示されている(摘記(2-g))。
そうしてみると、刊行物2の記載に接した当業者なら、引用発明においても、従来の塩素系フッ素化合物であるR113が有している優れた特性を満足しながらオゾン層へ全く影響を与えない代替洗浄溶剤である、 1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンを用いてみようとするのは寧ろ当然といえ、メチルセロソルブと溶解し合うのであるから、プロピレングリコール系溶剤と溶解し合うであろうことも当然に予測しうることである。
したがって、引用発明において、「非塩素系フッ素化合物」として、「1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタン」を用いるのは、当業者にとって容易である。

(2)相違点2について
引用発明において、酸化防止剤を用いるのは、グリコールエーテル類の酸化を防止する目的である(摘記(1-i))ところ、酸化防止剤の添加の有無が引火点、油溶解性、フラックス溶解性に影響を与えないことは、【表2】に示されている(摘記(1-l)において、実施例10、11と、比較例3、4との対比から明らかである。)。そうしてみると、酸化安定性を求める発明においては酸化防止剤を添加し、酸化安定性を特に求めない発明においては酸化防止剤を必須とせず、必要になれば添加すればよいという程度のものであるから、酸化防止剤の添加の有無は当業者の所望に応じてなし得るものといえる。
したがって、引用発明において、酸化防止剤を含有しないものとすることは、当業者にとって容易である。

(3)相違点3について
本願発明における洗浄用溶剤組成物は、非引火性である(本願明細書段落【0010】、【0042】等参照)。
一方、グリコールエーテル類が溶剤であることは技術常識であり、また、摘記(1-c)にあるように、塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類すなわち非塩素系フッ素化合物も、溶剤といえるものであるから、引用発明における非引火性洗浄剤は、溶剤組成物であるといえる。
そうしてみると、本願発明における「洗浄用溶剤組成物」と引用発明における「非引火性洗浄剤」とは、その意味するところに差異はない。
したがって、相違点3は、実質的に相違していない。

(4)本願発明の奏する効果について
本願発明の奏する効果は、本願明細書の段落【0042】に記載されるとおり、「洗浄能力、特に脱脂洗浄能力の大幅なアップが図れ、各種洗浄剤としては、十分な性能を発揮させることができる。しかも、プロピレングリコール系溶剤は、毒性もなく非常に安全で取り扱い易く、さらにその分子構造中に塩素やフッ素を含まず、オゾン破壊係数(ODP)も温暖化係数(GWP)も小さいため、環境に優しいクリーンであるという優れた特性を有している。さらに、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンとの組合せにより、プロピレングリコール系溶剤の欠点である引火性の問題についても克服することができ、引火性がなく安全な難燃物にすることができる」というものであり、これをまとめると、「洗浄性、特に脱脂洗浄能力に優れ、毒性もなく非常に安全で、オゾン破壊係数(ODP)も温暖化係数(GWP)も小さく、環境に優しくクリーンであり、引火性がなく安全な難燃物である」、というものであるといえる。
ところで、(1-m)に摘記したように、引用発明は優れた油およびフラックス溶解性を有し、引火点がなく安全であり、各種汚れに対する優れた洗浄性を有するものであり、(1-c)に摘記したように、塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類はオゾン層破壊能が全くないものであり、(1-h)に摘記したように、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等は人体における代謝系で毒性がないものである。
そうしてみると、本願発明の奏する効果は、すべて、引用発明が有しているか、あるいは刊行物1の記載から当業者が予測しうる程度のものといえる。
したがって、本願発明の効果が格別に優れているとすることはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張
(1)主張の内容
請求人は、平成21年5月29日付け意見書において、次の主張をし、本願発明は刊行物1及び2に記載された発明から容易になし得たものではないとしている。
ア 「当業者が容易に本願発明を着想するためには、刊行物1において式2で表わされる鎖状ハイドロフルオロカーボンを、本願の1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンで代替するという動機づけ、すなわち、代替できるという成功の期待が必要である。しかしながら、「非塩素系フッ素化合物」には具体的には多くの種類が存在し、引火性の有無や洗浄性能等に関わる個々の特性や物性等は、実験によって確認する以外に調べる方法がないのは当業者にとっての技術常識である。
本願明細書にも記載されているように、非引火性や洗浄性の条件を満たした場合であっても、組成割合が変わっただけで、非引火性や洗浄効果が無くなってしまうのである。しかも、審判官殿も認めるように、刊行物1で記載されている鎖状ハイドロカーボンには本願の1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンは包含されていないし、好ましい非塩素系フッ素化合物の実施例としての開示もされていない。」

イ 「刊行物2に「低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くないものとして1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタン」が開示されていると指摘されているが、この刊行物にも、本願発明に係る1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンとプロピレングリコール系溶剤の組み合わせは記載されておらず、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンとプロピレングリコール系溶剤を混合する動機付け、さらにその組み合わせを実施したときに有効な洗浄溶剤組成物を得られるという成功の期待が高いとは理解できない。」

ウ 「本願に係る発明のような、複数の液体を混合して成る溶剤組成物の特性に関しては、洗浄力や引火性に限らず予測不可能であることが一般に知られている。・・・
つまり、混合溶剤組成物が所望の性質を持つか否かはその組み合わせを実際に混合して、実験してみなければ調べることができないのである。」

(2)検討
アの主張について
刊行物1には、刊行物1に記載の鎖状ハイドロフルオロカーボンを、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンで代替するという示唆はされていない。しかし、これと刊行物2を併せ考慮すれば、「非塩素系フッ素化合物」として、「1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタン」を選択することは、当業者にとって容易であることは、上記「3(1)」に示したとおりである。
また、組成割合が引用発明との相違点にはならないことは、上記「1」に示したとおりである。
したがって、請求人のアの主張は採用できない。

イの主張について
刊行物2に、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンと組み合わせるのに、エチルセルソルブ、すなわちエチレングリコール系溶剤が適している旨、記載されているのであるから、これと似た化学構造を有するプロピレングリコール系溶剤と組み合わせるという動機付けは十分に存在するといえる。
そして、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンとプロピレングリコール系溶剤とを組み合わせると洗浄性と非引火性の効果を奏することは本願明細書に記載されているものの、この効果が、1, 1, 1, 3, 3‐ペンタフルオロブタンと他のグリコール系溶剤とを組み合わせたものに比べて、あるいは、他の非塩素系フッ素化合物とプロピレングリコール系溶剤とを組み合わせたものに比べて、当業者の予測を超える程優れたものであることは、本願明細書中に何ら示されておらず、その合理的説明もなされておらず、しかも、拒絶理由通知に対して、実験データを提示しての反論もなされていない。
そうしてみると、本願発明の効果も予測の範囲といわざるを得ない。
したがって、請求人のイの主張は採用できない。

ウの主張について
仮に、複数の液体を混合して成る溶剤組成物の特性に関しては、洗浄力や引火性に限らず予測不可能であることが一般に知られているとしても、類似した発明が刊行物1に記載され、これに比べてその効果が格別優れているとはいえないことは上記「3(4)」に示したとおりであるから、この主張も採用できない。

以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-19 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-08 
出願番号 特願2001-323545(P2001-323545)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 浩  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
原 健司
発明の名称 洗浄用溶剤組成物  
代理人 一色国際特許業務法人  

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