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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C05G
管理番号 1207861
審判番号 不服2006-18187  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-21 
確定日 2009-11-12 
事件の表示 平成11年特許願第555320号「放出調整された肥料組成物およびその調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月11日国際公開、WO99/57082、平成12年11月21日国内公表、特表2000-515484〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年5月5日を国際出願日とする出願であって、平成15年6月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成15年12月16日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成18年5月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年8月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成15年12月16日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「a)少なくとも1つの水溶性肥料配合物を含み、略滑らかな外面を持つ粒体(これらの粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である)を含む粒化コア材料と、
b)前記粒化コア材料に塗布されている略水不溶性の被覆物とを含む放出調整された肥料組成物であって、
c)この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており、
d)前記粒化コア材料中における前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体上に存在する均一で略連続している単一層の重合体フィルムから前記被覆物がなっている放出調整された肥料組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明はその出願前日本又は外国において頒布された下記刊行物A-Gに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

A.特開平9-221376号公報
B.特開平10-17389号公報
C.特開平9-30884号公報
D.特開平10-25181号公報
E.特開平10-101466号公報
F.特開昭58-45187号公報
G.特開平10-72272号公報

第4 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物Aである「特開平9-221376号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
1-a 「高分子化合物を溶剤に溶解させた溶液を、熱気流下、粒状肥料粒子の表面に噴霧することにより被覆粒状肥料を製造方法する際に、液滴径が100から360μmのノズルを使用して噴霧することを特徴とする被覆粒状肥料の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
1-b 「近年、農業人口の減少や肥料の流失による環境問題の深刻化に伴い、唯一度の施肥のみで作物の全生育期間に渡って肥料成分を連続的に供給する様な持続性肥料の開発が望まれている。この様な持続性肥料は従来から種々開発され、中でも最近、高分子物質の薄い皮膜で肥料表面を被覆した被覆肥料が注目されている。さらに、その肥料成分溶出パターンでみると、特に水稲用には、30-70日間程度の一定期間経てから肥料成分の溶出が始まるいわゆるタイムカプセル型あるいはシグモイド型(以下S型と略す)と呼ばれるタイプの需要が増加してきている。この様なS型の皮膜材料として、従来、熱可塑性樹脂が使われ、中でも透水性の低いポリオレフィン系樹脂やポリ塩化ビニリデン系樹脂などが知られている。」(【0002】)、
1-c 「さて、かかるS型被覆肥料の要件の1つとして、前記の30?70日に渡る肥料成分が溶出しない期間(以下、「溶出防止期間」と呼ぶ)中の溶出率をできるだけ低くすることが挙げられる。この様な溶出防止期間中の肥料成分の「洩れ出し」(以下、「初期溶出」と呼ぶ)は、多過ぎると、当然ながら、後に溶出が始まった時の肥料成分が不足するので好ましくない。もちろん、ある程度の初期溶出は、被覆肥料の施肥量を増やすことにより補正可能であるが、これは被覆肥料の本来の目的に反することであり、できる限り初期溶出の低い被覆肥料を作ることが望まれている。かかる問題点は、S型被覆肥料について深刻であるが、その他のタイプ、例えば、溶出防止期間を持たず施肥の時点から時間に比例して肥料成分が溶出するようないわゆる直線溶出型の被覆肥料においても、初期の溶出パターンが乱れるという点で、皮膜欠陥の発生は問題となる。」(【0003】)、
1-d 「初期溶出の原因は、主として、ピンホールなどの皮膜欠陥部分から水が侵入することであるため、初期溶出を減らすためには欠陥の少ない皮膜を作る必要がある。」(【0004】)、
1-e 「(1)被覆する粒状肥料
本発明で使用される肥料は,特に限定されない。尿素、硫安、塩安、塩化加里、硫酸加里、燐酸アンモニア等の粒状の単肥の他に、N_(1) 、K_(2) O、P_(2) O_(5) 等の多成分を含む粒状の肥料が本発明品の原肥に使用される。肥料の粒径は特に限定されないが、一般に1-4mmで、角張った形態や大変不規則な形態のものより球状に近い形態の粒子が好ましい。」(【0007】)、
1-f 「(2)被覆材料
被覆材料として高分子化合物を用いるが、その種類は、特に限定されない。例として、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル等の熱可塑性樹脂、アルキド樹脂、フェノ-ル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコ-ン樹脂、その他、天然ゴムやSBR,NBRなどの合成ゴム、更には、ポリカプトラクトン、ポリ酪酸、脂肪族ポリエステル、ポリグリコット、ポリビニルアルコ-ル、酸化ポリエチレン等の分解性ポリマ-が挙げられるが、中でも、透水性が低いため少量でも溶出防止効果の高い、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が適している。これらの樹脂は単独でも、2種以上の混合物として用いることも可能である。また、被覆する目的を損なわなければ、高分子化合物に加えて他の無機物や有機物を共存させて被覆しても構わない。例えば、上記の様な透水性の高い樹脂で被覆した場合には、溶出性の調整や樹脂の増量等の目的で、タルク、炭酸カルシウム、クレイ、ケイソウ土、シリカ、金属酸化物、イオウ等の無機質の他、界面活性剤、ワックス等の有機物質を加えても構わない。」(【0008】)、
1-g 「(4)スプレー噴霧液滴径
次に、本発明のポイントとなるスプレー噴霧液滴径について説明する。本発明で言う噴霧液滴径とは、噴霧液として21℃の清水を用い、ノズル先端から0.3mの位置で測定した平均液滴径である。測定の雰囲気は、温度20±5℃、湿度60±10%、無風の条件である。噴霧圧力は、1流体ノズルの場合、3kg/cm^(2) G、2流体ノズルの場合は、水圧2kg/cm^(2 )G、空気圧1?3kg/cm^(2) Gの条件である。測定法としてレーザー光の回折を利用したレーザー法、噴霧液をシリコンオイルでトラップして測定する液浸法が用いられる。欠陥粒子を少なくするためには、この液滴径を100から360μm、好ましくは、150から350μmとなるようなノズルを使用する。液滴径がこれより大きくなると、溶剤の乾燥が不十分となり、肥料粒子同士が接着し易くなる。このような接着粒子は、粒子間の衝突などによりコーティング中に剥離を起こし、剥離面が欠陥となる。一方、液滴径が100μmより小さすぎると、乾燥が進みすぎて、形成される皮膜層間の融着が不十分となり、細孔の多い(すなわち、肥料成分の溶出防止効果が不十分な)皮膜となる。このような液滴径が適用される乾燥条件は、通常、粒状肥料1kgに対し、乾燥ガス流量が10Nm^(3) /h以上、温度50?120℃の条件である。」(【0011】)、
1-h 「(6)製造方法
原料の粒状肥料を(4)の被覆装置に仕込み、熱風により品温を50から100℃に保ちながらスプレ-ノズルを利用して被覆材を噴霧することによりコ-ティングを行う。被覆材の添着量は、溶出防止期間をどの程度とするかなど目標とする性能によるが、通常、粒状肥料に対し3?20重量%、好ましくは5?15重量%である。次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1,2,3,4および比較例1,2,3,4)
肥料として粒状尿素を選び、これに以下の〈被覆方法〉に示す方法により被覆を行って被覆尿素を作った。得られた被覆尿素について、〈品質評価方法〉に示す方法に基ずき、被覆率、皮膜欠陥粒子数、および水中での尿素の溶出パターンを調べた。その結果を表1および図1、2にまとめた。なお、被覆装置として、回転ドラム(内径3.8m)の内側に備えたバケットにより粒状肥料を循環させながら、ドラム内に設置した落下筒(断面0.15×0.25m、長さ2m)内に肥料を連続的に落下させ、その落下筒内に被覆溶液を噴霧する方式の回転落下式コーター(サイクルコーター)を用いた(図5参照)。
〈被覆方法〉
(1)被覆溶液の調整
皮膜材料として融点106℃、密度0.918の低密度ポリエチレン1.5kg,溶出調整剤としてポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(東邦化学工業製「ノナール212」)75gを秤取り、溶剤のパロロエチレン28.5kgに加え、80℃で両材料を溶解させ被覆溶液を調整した。
(2)コーテイング
コーターの落下筒の下部から上向きに、温度100℃、空筒速度4.4m/sで空気を導入した後、回転ドラムの回転数を8rpmに合わせ、ついで粒状尿素(粒径:2.0?3.4mm)10kgをコーターに仕込み、落下筒内を肥料が連続的に落下する状態を作った。次に、落下筒上部の側面から、一流体ノズルを用いて、噴霧速度400g/minの条件で(1)の被覆溶液を50分間噴霧した。この際、噴霧位置の落下肥料中に挿入した温度センサーが60℃を維持するように落下筒へ導入する空気温度を調整した。噴霧液滴径は、ノズルを交換することで調節した。」(【0014】?【0017】)、
1-i 「〈品質評価〉
(a)欠陥粒子数の測定
被覆肥料10gを試験管にはかりとり、インク10ccを加え、40℃の恒温水中で1時間放置したのち、被覆肥料をろ過回収する。付着のインクを水洗すると皮膜の欠陥部分はインクの色が残るので、これにより欠陥のある粒子を区別できる。この様に部分的に着色した粒子と、欠陥部分が大きいため全体が着色した粒子、およびすでに尿素が溶出して皮膜だけになった殻だけの粒子の、3種類を数え、その総数を欠陥粒子数とする。なお、実施例の被覆尿素10gの総粒子数は約700個であった。
(b)溶出パターン
被覆肥料7gをはかりとり、水200gを加え、その容器を密閉して25℃の恒温槽に入れる。これを、1週間毎に取り出し、水を入れ換える。その際、水に溶出した尿素を全窒素分析計で測定し、次式で溶出率を計算する。
(式省略)
溶出率の累積値を日数に対してプロットすると溶出パターンが描ける。表1、図1、2、3、4から分かるとおり、噴霧液滴径360μmを境にして、それ以下では皮膜欠陥が少なく(初期溶出が低い)が、それ以上の径では欠陥が著しく増加する。このように本発明の効果は大きい。
【表1】


」(【0018】?【0022】)
1-j 「本発明の製造方法によれば、皮膜欠陥が少なく初期溶出率が低い被覆肥料が得られるため、良好なS型被覆肥料を提供することができる。従って一度の施肥のみで作物の全生育期間に渡って肥料成分を連続的に供給することが可能となる。」(【0023】)
1-k 「図1


」(5頁左下欄)
1-l 「図3


」(6頁中段)

(2)刊行物2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物Bである「特開平10-17389号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
2-a 「【請求項1】 セルロース及びその誘導体の少なくとも何れかの粉末を熱可塑性樹脂中に分散させた被覆で粒状加里肥料の表面を被覆したことを特徴とする時限溶出型被覆加里肥料。」(特許請求の範囲、請求項1)、
2-b 「【発明の属する技術分野】本発明は施用後一定期間内には溶出せず、その期間経過後に溶出を開始する所謂「時限溶出型」の加里肥料に関し、詳しくは長期間の保存後にもその誘導期間及び溶出期間の何れにも殆ど変動を来たさないことに加えて、製造ロット間における誘導期間及び溶出期間の何れにも殆ど差異を伴わない時限溶出型加里肥料粒剤(時限溶出型粒状加里肥料)に関する。」(【0001】)、
2-c 「【従来の技術とその問題点】施用後一定期間溶出せず、一定期間(以後誘導期間と表記し、溶出を開始してから溶出が終了するまでの期間を溶出期間と表記する)経過後溶出を開始する、いわゆる時限溶出被覆として、特開平6-87684号公報では樹脂に糖重合体を分散させた被覆が開示され、特公平5-29634号公報ではオレフィン系樹脂と水可溶或いは水膨潤性物質からなる第1層とオレフィン系樹脂からなる第2層で構成された被覆が提案され、特開平4-202079号公報では高吸水膨潤性物質からなる第1層とオレフィン系樹脂からなる第2層とで構成された被覆等が開示されている。」(【0002】)、
2-d 「しかしながら、この方法は如何なる肥料成分に対しても適用され得るものではない。この方法が適用できる肥料成分は設備のコスト及びランニングコスト低減の面から、尿素のように低融点のものに限られ、硫酸加里又は塩化加里に代表される加里肥料に適用することは至難であった。」(【0013】)、
2-e 「【発明の実施の形態】上記の本発明の構成について以下に詳細に説明する。本発明における「時限溶出」とは施肥後の一定期間内には溶出が抑制され、その期間経過後には速やかな溶出を開始する機能を意味する。施肥後の一定期間内には溶出が抑制される抑制期間を本明細書では「誘導期間」と称することがあり、溶出開始から溶出終了までの期間を「溶出期間」と称することがある。これらを更に具体的に規定すれば、被覆肥料(カプセル肥料)の施用直後からカプセル内の肥料分の10重量%の肥料分が溶出するまでの期間を「誘導期間」と規定し、カプセル内の肥料の10?80重量%溶出までに要した期間を「溶出期間」と規定する。」(【0024】)、
2-f 「本発明においては、所望の誘導期間及び溶出期間を実現できるように適宜に選択及び利用すれば十分である。」(【0028】)、
2-g 「従って、溶出期間を可能な限り短くする為には、被覆内においてセルロース及びその誘導体の少なくとも何れかの粉末の連続層が形成されることが求められる。この場合に粒子径の大きな側が連続層形成に有利であることから、セルロース及びその誘導体の少なくとも何れかの粉末の粒子径は膜厚に対して1/8?1倍(等倍)、好ましくは1/4?1倍であることが好ましい。尤も、この場合に粒子径と膜厚とは必ずしも全く同一数値である必要は無い。即ち、粒子径が膜厚よりも稍大きな結果として被覆表面から粒子の一部分が突出する場合であっても、樹脂被覆内に粒子が取り込まれていて薄いながらも樹脂被覆が粒子を覆っている状況であれば、本発明の目的は十分に達成される。」(【0030】)
2-h 「本発明の被覆肥料はそれが何れの方法で製造されたものであるかを問わない。とはいえ、肥料粒剤を熱可塑性樹脂で被覆する方法としては、噴流状態の肥料粒剤に樹脂溶液を噴霧及び乾燥させて被覆する方法(特公昭54-3104号公報参照)が推奨される。この方法によれば被覆作業中の粒子(芯材粒子又はその表面に既に被層が或程度の段階まで施されたものを包含)相互のブロッキングも余り生じないことから、極めて滑らかな表面の被覆が形成される。」(【0033】)
2-i 「本発明の被覆肥料の作製に用いられる肥料は水溶性加里肥料であればその種類又は形態を問わない。例えば、塩加、硫加、硝加又は燐加等の単独又は2種以上の組合せ肥料の何れを用いても、本発明の肥料を製造することができる。これらの加里肥料に対して、その効果を損なわない範囲で更に他の水溶性肥料成分を含む複合加里粒状肥料を用いても、本発明の被覆肥料を得ることができる。」(【0034】)
2-j 「<圧縮成形法と転動造粒法>本発明において用いられる圧縮成形法とは、粉体の造粒において一般に称される処の圧縮造粒法及び破砕造粒法を包含する。これらの造粒法は高い圧縮力を印加し得ることから、他の造粒法による粒状体と比べて高い硬度及び高い密度(見掛け密度)の粒状体が得られることを特色とする。
転動造粒等の湿式造粒法に比べて、圧縮成形法が顕著な溶出制度改善効果を発揮する原因は現在の処、解明されていない。現在の処では、その原因は下記の様に説明される:一般に転動造粒法を始めとする湿式造粒法は凝集性を備えた粉体に液体散布等の手段で加湿し、同時に振動、揺動及び混合作用を用いて、固・液・気系集合体の表面に蓄えられた表面エネルギーを原動力として凝集を進め、目的の形状、強度及び圧縮状態が得られた段階で、最終的に粒子内部に残った液分(液状成分)を自然蒸発又は強制蒸発させる造粒法である。
この造粒法によれば、形状良好(球形性良好)及び強度に優れたものが得られる。とはいえ、最終的に粒子内に残留する液分を蒸発させる結果として、液分の体積相当分だけの空隙(孔隙)が生ずる。転動造粒法においては例えば、目的とする形状及び強度を得る為に転動時の散布液体の量及び物温、転動時間及び転動速度等の複数の運転条件がロット毎に微妙にコントロールされており、このロット毎の微妙な運転条件の違いが粒子内への空隙の生じ方(量及び位置等)にバラツキ(ロット差;個体差等)を生じさせる。
その結果として、このバラツキが延いては被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼしていると推測される。」(【0036】?【0039】)
2-k 「本発明においては、上記圧縮成形法によって得られる粒状肥料(肥料粒剤)をその侭で被覆に供しても被覆効率の向上及びバラツキのの低下という目的は一応達成され得る。しかし、被覆効率の向上及びバラツキの一層の低下を図るには、粒子の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材として用いることが推奨される。」(【0048】)
2-l 「<分級物の表面曲面化処理>本発明では、図2に示されたように例えば、破砕造粒・コンパクティング法によって製造された粒子をその侭で芯材粒子として被覆粒状肥料の製造に供することができるが、これらの破砕物粒子は破砕物であることに起因して、その形状が部分的に尖鋭であると共に鋭利な稜部が存在する点で全体的に角張っており、如何なる見方においても球状とは言えないものを多く含んでいる。この種の非球状粒子の表面に被覆層を形成させると、期待される程には高い精度で肥料成分の溶出を制御できない場合が往々にして生ずる。その理由は得られる被覆層の厚さが往々にして均一にならず、その被覆層の薄い部分から肥料成分が溶出し易いことが影響していると説明される。
そこで本発明では、例えば上記のように破砕造粒・コンパクティング法によって製造された圧縮成形物を解砕及び分級して得られた所定粒度物の表面を平滑化処理(表面曲面化処理)して、できる限り球状に近い形状即ち、少なくとも尖鋭部分及び角張った形状の何れをも面取り処理で削除して曲面状に変えることが好ましい。」(【0061】?【0062】)
2-l' 「<被覆操作態様の説明>図4に示された噴流塔(1)に例えば窒素ガス等の不活性ガスからなる高温噴流ガスを被覆対象の粒状肥料芯材の流動化及び被覆後の乾燥に十分な程度に供給する。この噴流ガスは熱交換器(8)で被覆液(12)中の有機媒体の沸点付近の温度に加熱して置くことが好ましい。
この様にして噴流ガスを供給すると共に、流体供給ノズル(4)から被覆液(12)を塔内へ噴射させる。噴流塔(1)の内部では、下から吹き上げる噴流ガスによって、芯材粒子の少なくとも一部分が浮遊状態にあり、ここに被覆液(12)を噴霧することによって、浮遊芯材粒子の表面に被覆液(12)が付着する。しかも、噴流ガスが加熱されていることから、芯材粒子の表面に付着した被覆液(12)中の有機溶媒が気化して噴流ガスと共に排気口(3)から排出される。
なお、被覆液(12)を貯蔵する被覆液タンク(11)には通常、撹拌機が備えられており、被覆液(12)が例えばタルク又は穀物粉等のように有機溶媒に溶解しない成分を含む分散液の場合であっても、被覆液(12)を撹拌しながら噴流塔(1)内に均一で安定した状態で供給することができる。また、この被覆液(12)は流体供給ノズル(4)から噴射される前に予め加熱されていることが好ましい。例えば溶媒(又は分散媒)としてトルエンを用いる場合について説明すれば、被覆液(12)を媒体であるトルエンの沸点以下である100℃程度に加熱すると、噴流塔(1)内での有機溶媒の除去が容易になる。
上記のようにして被覆液(12)を噴射して、芯材粒子に対して上記重量比の被覆層を形成させた後に被覆液(12)の供給を停止し、次に噴流ガスの供給も停止することにより、噴流塔(1)の内部に浮遊していた被覆粒子は有底筒状体(21)内に落下してその底部に堆積する。
最後に、有底筒状体(21)の下端部の肥料取出し口(7)を開口して製造された本発明の被覆粒状肥料を取出す。この様な被覆層を形成させるには、上記の各成分に対する適当な溶媒又は分散媒であって、内包される芯材粒子を浸食しないものに溶解又は分散させて被覆液を調製し、この被覆液で芯材粒子の表面を処理する。この被覆液を用いて被覆層を形成する際の被覆液中における固形分の濃度は通常1?50重量%、好ましくは5?15重量%に調整される。
【発明の効果】本発明の時限溶出型被覆加里肥料は芯材として常温において高い飽和蒸気圧を示すと共に低い対水溶解度しか示さない加里肥料を用い、これを熱可塑性樹脂基材中に水膨潤性のセルロース及びその誘導体の少なくとも何れかで形成された粉末が分散された被覆で覆ったものであることに加えて、芯材を圧縮成形法によって粒状化して用いるから、下記の諸効果を奏することができる:
(1)短い誘導期間及び溶出期間を設定できる;
(2)長期間の保存後にも溶出パターンの変動を生じにくい;
(3)製造ロット間の溶出変動幅を格段に縮小することができる。」(【0067】?【0072】)
2-m 「[溶出試験法]窒素肥料及び加里肥料の保存処理サンプル及び窒素肥料及び加里肥料の無処理サンプルをそれぞれ10g採取してこれを水200ml中に浸漬して200mlの水中に浸漬して25℃に所定期間静置した。その後に肥料と水とを分離して、水中に溶出した尿素を定量分析によって求めた。
次に、この第1回溶出済みの窒素肥料及び加里肥料に新たな水200mlを加えて再び25℃に所定期間静置した後に、同様な定量分析を行なった。この操作を反復して水中に溶出した尿素及び加里のそれぞれの累計量を日数に対してプロットして溶出速度曲線を作成した。この曲線を利用して溶出率80%に至る日数を求めた。窒素肥料及び加里肥料の評価結果を表4に示す。
表4におけるD1は無処理サンプルの浸漬開始から溶出率10%に到るまでの日数(誘導期間;TI0)を示し、D2は無処理サンプルにおける溶出率10%から80%に到るまでの日数(溶出期間;TE0)を示す。無処理サンプルの誘導期間変動率(α)及び溶出期間変動率(β)は下記の関係式(2)及び(3)によってそれぞれ算出した。」(【0077】?【0079】)
2-o 「【実施例2】(試作粒状肥料の被覆)
本実施例において用いられた噴流カプセル化装置は図4に示されたものであった。図4において、1は噴流塔(塔径250mm×高さ2000mm)であって、その下端に接続された有底筒状体(21)上端開口の熱風出口径50mm、噴流塔(1)の下半部を構成する倒立円錐部(1d)の頂角50度、噴流塔(1)の上半部を構成する円筒部(1u)の下段に肥料粒剤投入口(2)及び上端に排ガス出口(3)が装着されている。
噴流用の熱窒素ガスは図4の下段に位置するブロアー(10)から送られて、オリフィス流量計(9)でその流量が測定及び管理された後に熱交換器(8)でその温度が管理された後に噴流塔(1)に導入され、排気はその排気ガス出口(3)から塔外へ導出された。
カプセル化処理(被覆処理)に芯材として用いられる粒状肥料(肥料粒剤)は肥料投入口(2)から投入され、他方、所定の熱風(通常は熱窒素ガス)が有底筒状部(21)の底部から上向きに噴出されて噴流が形成され、投入される粒状肥料をその噴流が浮遊させた。噴入される熱風の有底筒状部(21)内の温度(T_(1))、噴流塔(1)の円筒部(1u)下段内部のカプセル化段階における温度(T_(2))及び円筒部(1u)上段内部の温度(T_(3))はそれぞれの温度計(不図示)によって検出された。
上記の温度(T_(2))が所定の温度に達した時点で、流体供給ノズル(4)から被覆液(12)を上方に浮遊している粒状肥料に噴霧状で吹き付けた。この被覆液(12)は被覆液タンク(11)から移送管(5)経由で加圧ポンプ(6)によって加圧された状態で供給された。なお、被覆液タンク(11)内に収容された被覆液(12)はその温度を均一に一定に保持すると共に、粉体が含有されている場合にはその沈降を防止する為に攪拌されることが有用である。
粒状肥料の被覆率が所定値に達した段階でブロアー(10)を止めて被覆された肥料を有底筒状体(21)下端域に設けられた製品抜き出し口(7)から取出した。本実施例では下記の基本条件を維持しながら、所定の被覆率が実現されるまで被覆(カプセル化)を行なった:
流体供給ノズル:フルコン型;開口0.8mm;
熱風量:4m^(3)/min;
熱風温度:100℃±2℃;
粒状肥料投入量:10kg;
供試溶剤:トルエン;
被覆液濃度:固形分含有量1.5重量%;
被覆液供給量:0.1kg/min。
ここで、被覆液(12)は被覆液タンク(11)から移送管(5)経由で送られて流体供給ノズル(4)へ到るが、その過程で液温が80℃を下回らない様に移送管(5)は二重配管として、その外管内に上記を流通させて保温した。
各造粒肥料サンプルともに、各造粒ロット(30ロット)毎に被覆を施した。被覆組成と用いられた粒状肥料サンプルとの組合せを表3に示す。
【実施例3?11及び比較例2?5】表3に示された処方及び手順以外には実施例1に従って操作した。結果を表4に示す。」(【0097】?【0104】)
2-p 「【表3】


」(【0105】)
2-q 「【表4】


」(【0106】)

第5 当審の判断
第5-1 刊行物1を主引例とした判断
1 引用発明
刊行物1には、以下の記載がある。
・「肥料として粒状尿素を選び、これに以下の〈被覆方法〉に示す方法により被覆を行って被覆尿素を作った。」(摘示1-h)、
・「皮膜材料として融点106℃、密度0.918の低密度ポリエチレン1.5kg,溶出調整剤としてポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(東邦化学工業製「ノナール212」)75gを秤取り、溶剤のパロロエチレン28.5kgに加え、80℃で両材料を溶解させ被覆溶液を調整した。」(摘示1-h)、
・「コーターの落下筒の下部から上向きに、温度100℃、空筒速度4.4m/sで空気を導入した後、回転ドラムの回転数を8rpmに合わせ、ついで粒状尿素(粒径:2.0?3.4mm)10kgをコーターに仕込み、落下筒内を肥料が連続的に落下する状態を作った。次に、落下筒上部の側面から、一流体ノズルを用いて、噴霧速度400g/minの条件で(1)の被覆溶液を50分間噴霧した。」(摘示1-h)、
・「本発明の製造方法によれば、皮膜欠陥が少なく初期溶出率が低い被覆肥料が得られるため、良好なS型被覆肥料を提供することができる。」(摘示1-j)

以上によれば、刊行物1には、
「肥料として粒状尿素を選び、皮膜材料として低密度ポリエチレンを溶解させて被覆溶液を調整し、前記粒状尿素に前記被覆溶液を噴霧することにより被覆を行って得られる、皮膜欠陥が少なく初期溶出率が低いS型被覆肥料」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明1との対比
以下、本願発明と引用発明1との対応関係を、本願発明の項目符号順に示す。
・ 本願発明の発明特定事項のa)に対応するものについて
まず、刊行物1には「被覆肥料7gをはかりとり、水200gを加え、その容器を密閉して25℃の恒温槽に入れる。これを、1週間毎に取り出し、水を入れ換える。その際、水に溶出した尿素を全窒素分析計で測定し、次式で溶出率を計算する。」(摘示1-i)と記載されていることから明らかなように、引用発明1において、被覆尿素中に肥料として配合されている唯一の成分である「尿素」は、「水に溶出」することから水溶性であることが明らかであるので、本願発明の「水溶性肥料配合物」に対応する。
また、引用発明1の「粒状尿素」は、被覆材料である低密度ポリエチレンに被覆された芯材料、すなわち、コア材料として用いられているとともに、「粒状」は「粒化」されたものの形状を意味しているので、本願発明の「粒化コア材料」に対応する。
したがって、引用発明1における「粒状尿素」は、本願発明の「1つの水溶性肥料配合物を含む粒化コア材料」に対応する。

・ 本願発明の発明特定事項のb)に対応するものについて
引用発明1においては、被覆を行うために「噴霧」するところ、噴霧は塗布の一態様である(必要ならば、例えば、特開昭63-282183号公報7頁左下欄5?6行;特開平8-277191号公報【0013】及び【0017】?【0018】参照。)から、引用発明1の「噴霧」は、本願発明の「塗布」に対応する。また、引用発明1で用いている「低密度ポリエチレン」の素材自体は、水に溶解しないため、「略水不溶性」の被覆材料であるから、結局、引用発明1の「皮膜材料として低密度ポリエチレンを溶解させて被覆溶液を調整し、粒状尿素に前記被覆溶液を噴霧することにより被覆を行って得られる・・・被覆肥料」は、本願発明の「前記粒化コア材料に塗布されている略水不溶性の被覆物とを含む・・・肥料組成物」に対応する。
そして、刊行物1に「肥料成分溶出パターンでみると、特に水稲用には、30-70日間程度の一定期間経てから肥料成分の溶出が始まるいわゆるタイムカプセル型あるいはシグモイド型(以下S型と略す)と呼ばれるタイプの需要が増加してきている。」(摘示1-b)及び「かかるS型被覆肥料の要件の1つとして、前記の30?70日に渡る肥料成分が溶出しない期間(以下、「溶出防止期間」と呼ぶ)中の溶出率をできるだけ低くすることが挙げられる。」(摘示1-c)と記載されているように、引用発明1の「S型被覆肥料」とは「30?70日に渡る肥料成分が溶出しない期間中の溶出率をできるだけ低くする」ものであるし、「初期溶出率が低い」ということはそのことを述べているのであるから、引用発明1の「初期溶出率が低いS型(被覆肥料)」は、本願発明の「放出調整された(肥料組成物)」に対応する。

・ 本願発明の発明特定事項のd)に対応するものについて
刊行物1には、「被覆材料として高分子化合物を用いるが、その種類は、特に限定されない。例として、ポリオレフィン、・・・中でも、透水性が低いため少量でも溶出防止効果の高い、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が適している。」(摘示1-f)との記載があるように、引用発明1に係る「低密度ポリエチレン」は、高分子化合物であるところ、高分子化合物である「低密度ポリエチレンを溶解させて被覆溶液を調整し、前記粒状尿素に前記被覆溶液を噴霧することにより被覆を行って得られる」被覆が「重合体フィルム」に対応することは、技術常識上明らかである。
そして、上記「・ 本願発明の発明特定事項のa)に対応するものについて」で検討したように、引用発明1の「粒状尿素」は本願発明の「粒化コア材料」に対応するから、結局、引用発明1の「皮膜材料として低密度ポリエチレンを溶解させて被覆溶液を調整し、前記粒状尿素に前記被覆溶液を噴霧することにより被覆を行って得られる・・・被覆肥料」は、本願発明の「前記粒化コア材料中における前記粒体・・・上に存在する・・・重合体フィルムから前記被覆物がなっている・・・肥料組成物」に対応する。
また、刊行物1には、「初期溶出の原因は、主として、ピンホールなどの皮膜欠陥部分から水が侵入することであるため、初期溶出を減らすためには欠陥の少ない皮膜を作る必要がある。」(摘示1-d)とされているところ、引用発明1は、「皮膜欠陥が少なく初期溶出率が低いS型被覆肥料」なのであるから、ピンホールなどの皮膜欠陥部分が少ない、すなわち、被膜は略連続していることは明らかである。そうすると、引用発明1の「皮膜欠陥が少なく初期溶出率が低いS型被覆肥料」は、本願発明の「略連続している」に対応する。
そして、上記「・ 本願発明の発明特定事項のb)に対応するものについて」で検討したように、引用発明1の「初期溶出率が低いS型(被覆肥料)」は、本願発明の「放出調整された(肥料組成物)」に対応する。

以上の点を考慮して、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1は本願発明における
「a)1つの水溶性肥料配合物を含む粒化コア材料と、
b)前記粒化コア材料に塗布されている略水不溶性の被覆物とを含む放出調整された肥料組成物であって、
d)前記粒化コア材料中における前記粒体上に存在する略連続している重合体フィルムから前記被覆物がなっている放出調整された肥料組成物。」
に対応するものである点において一致するが、両者は以下の点において一応相違すると認められる。
(1) 粒化コア材料について、本願発明では「略滑らかな外面を持つ粒体(これらの粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である)」を含むと規定するのに対し、引用発明1ではかかる規定は特になされていない点
(2) 本願発明が、本願発明の発明特定事項のc)、すなわち「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており」と規定するのに対し、引用発明1ではかかる規定は特になされていない点
(3) 被覆される粒体の個数について、本願発明では「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」であると規定するのに対し、引用発明1ではかかる規定は特になされていない点
(4) 粒体上に存在する略連続している重合体フィルムが、本願発明では「均一で・・・単一層」と規定するのに対し、引用発明1ではかかる規定は特になされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点(1)」ないし「相違点(4)」という。)

3 相違点についての判断
(1) 相違点(1)について
刊行物1には、「被覆する粒状肥料」として、「角張った形態や大変不規則な形態のものより球状に近い形態の粒子が好ましい。」(摘示1-e)との記載がある。そして、放出調整された肥料組成物の粒化コア材料としては、粒子の表面が滑らかで球状性に優れたものが望ましいことは周知である(必要なら、例えば、刊行物Bである特開平10-17389号公報の【0048】及び【0062】;刊行物Eである特開平10-101466の【0009】及び【0047】参照。)。
そうすると、放出調整された肥料組成物の粒化コア材料として、粒子の表面が滑らかで球状性に優れたものをできるだけ多く、すなわち、100%近く用いようとすることは当然のことであるから、本願発明のように、粒化コア材料について、「略滑らかな外面を持つ粒体(これらの粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である)」と規定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 相違点(2)について
刊行物1の摘示1-iによると、引用発明1における「溶出パターン」について、
「被覆肥料7gをはかりとり、水200gを加え、その容器を密閉して25℃の恒温槽に入れる。これを、1週間毎に取り出し、水を入れ換える。その際、水に溶出した尿素を全窒素分析計で測定し、次式で溶出率を計算する。・・(略)・・溶出率の累積値を日数に対してプロットすると溶出パターンが描ける。」とされている。
そして、図1(摘示1-k)及び図3(摘示1-l)をみると、6週間後(42日後)の溶出率の累積値は、実施例1、実施例3及び実施例4において「10%以下」であることが見てとれる。
してみると、刊行物1の実施例1、実施例3及び実施例4における30日後の溶出率の累積値も「10%以下」であることは明らかであるから、引用発明1においても「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されて」いる場合を包含しているので、相違点(2)は実質的な相違点ではない。
また、刊行物1には「S型被覆肥料の要件の1つとして、前記の30?70日に渡る肥料成分が溶出しない期間(…)中の溶出率をできるだけ低くすることが挙げられる。」(摘示1-c)と記載されており、また「被覆材の添着量は、溶出防止期間をどの程度とするかなど目標とする性能による」(摘示1-h)と記載されているところ、上記のように、刊行物1の実施例1、実施例3及び実施例4における30日後の溶出率の累積値は「10%以下」であることが明らかであるから、溶出率や溶出防止期間などを設定するにあたり、「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(3) 相違点(3)について
刊行物1の摘示1-iによると、引用発明1に関する「欠陥粒子数の測定」は、
「被覆肥料10gを試験管にはかりとり、インク10ccを加え、40℃の恒温水中で1時間放置したのち、被覆肥料をろ過回収する。付着のインクを水洗すると皮膜の欠陥部分はインクの色が残るので、これにより欠陥のある粒子を区別できる。この様に部分的に着色した粒子と、欠陥部分が大きいため全体が着色した粒子、およびすでに尿素が溶出して皮膜だけになった殻だけの粒子の、3種類を数え、その総数を欠陥粒子数とする。なお、実施例の被覆尿素10gの総粒子数は約700個であった。」とされている。
してみると、上記欠陥粒子は、部分的に着色した粒子と、欠陥部分が大きいため全体が着色した粒子、及びすでに尿素が溶出して皮膜だけになった殻だけの粒子の3種類からなるものであり、換言すれば、これら3種類のものは、粒体上に被覆物が全体的に或いは部分的に存在しないものである。
そして、引用発明1の実施例である「実施例1」の「皮膜欠陥粒子数」は「29個/10g」すなわち約4.1%であり、「実施例2」の「皮膜欠陥粒子数」は「30個/10g」すなわち約4.3%であり、「実施例3」の「皮膜欠陥粒子数」は「36個/10g」すなわち約5.1%であり、「実施例4」の「皮膜欠陥粒子数」は「32個/10g」すなわち約4.6%であるから、引用発明1の実施例1ないし4は何れも、被覆される粒体の個数について、「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」であるものと認められるので、相違点(3)は実質的な相違点ではない。
また、表1(摘示1-i)をみると、「皮膜欠陥粒子数」が約10%(70個/10g)を境にして、約10%より少ないものが実施例で、約10%より多いものが比較例と区分されていることが明らかであるし、また、皮膜欠陥粒子数が少ないものが好ましいのは明らかであるから、被覆される粒体の個数について、「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(4) 相違点(4)について
ア 「均一で」について
被覆肥料において肥料を均一に被覆すべきことは周知である(必要なら、例えば、特開平6-157181号公報【0008】、及び特開平7-31914号公報【0001】参照。)から、被覆肥料において肥料を均一に被覆することは当業者が容易に想到し得ることである。
イ 「単一層」について
本願明細書には、「単一層」に関し、以下の記載がある。
・「実質的に連続の重合体フィルムの単一層からなることによって構成される。本発明の生成物は、特定の添加物の存在なしで被膜材料の1つの層のみの存在によって特徴付けされる。」(3頁3?5行)、
・「塗布された被膜材料は、均一な連続の重合体フィルムを形成することができるどんなある種の材料、熱可塑性或いは熱硬化性に基づくことができる。
・・・
本発明において熱硬化性被覆材料は、アルキド、変性アルキドのようなポリエステル、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノプラスチックを備えてもよい。
オプション的に、被覆物は、滑石のような非特殊添加物(不活性充てん剤)を備えてもよい。」(4頁9?23行)
これらの記載によると、重合体フィルムを形成することができる被膜材料の他に非特殊添加物が添加されてもよいが、「被膜材料の1つの層のみ」存在していれば、それは重合体フィルムの「単一層」であると解される。
そして、噴霧状で被覆材料を粒状肥料に吹き付ける場合、被覆層の種類ごとに、形成される層を一つの層として扱うのは周知(技術常識)である(例えば、特開平4-202079号公報5頁左上欄下から4行?右上欄6行;特開平9-241090号公報【0031】及び【0036】)。
以上を踏まえて刊行物1における被覆方法をみると、刊行物1には、被覆に際し、複数の種類の被覆層を形成する旨の記載はない。
また、刊行物1に記載されている具体的な被覆方法は、以下のとおりであり、
「(1)被覆溶液の調整
皮膜材料として融点106℃、密度0.918の低密度ポリエチレン1.5kg,溶出調整剤としてポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(東邦化学工業製「ノナール212」)75gを秤取り、溶剤のパロロエチレン28.5kgに加え、80℃で両材料を溶解させ被覆溶液を調整した。
(2)コーテイング
コーターの落下筒の下部から上向きに、温度100℃、空筒速度4.4m/sで空気を導入した後、回転ドラムの回転数を8rpmに合わせ、ついで粒状尿素(粒径:2.0?3.4mm)10kgをコーターに仕込み、落下筒内を肥料が連続的に落下する状態を作った。次に、落下筒上部の側面から、一流体ノズルを用いて、噴霧速度400g/minの条件で(1)の被覆溶液を50分間噴霧した。この際、噴霧位置の落下肥料中に挿入した温度センサーが60℃を維持するように落下筒へ導入する空気温度を調整した。噴霧液滴径は、ノズルを交換することで調節した。」(摘示1-h)
これによると、引用発明1においては、粒状尿素をコーターに仕込み、落下筒内を肥料が連続的に落下する状態にし、落下筒上部の側面から、一流体ノズルを用いて、被覆溶液を噴霧することにより塗布するものであって、複数の種類の被覆層を形成するものではないから、引用発明1においては、重合体フィルムは「1つの層のみ」、すなわち「単一層」として存在すると解される。
したがって、引用発明1における、粒体上に存在する略連続している重合体フィルムは、「単一層」であると認められる。
また、被覆層を単一層とするか二層以上の複数層とするかは、S型被覆の目的や用途に応じて、当業者が必要に応じて適宜決定し得る技術事項である。
ウ 「均一で・・・単一層」についての結論
以上のことから、相違点(4)は実質的な相違点であるとは認められないし、また、重合体フィルムについて「均一で・・・単一層」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

4 効果について
本願明細書の記載をみても、本願発明が、上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものと認めるべき根拠は見いだせないから、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

5 小括
以上のとおり、上記各相違点は、当業者が容易に想到し得るものであるか又は実質的な相違点であるとは認められないものであり、また、本願発明が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとも認められないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 請求人の主張について
請求人は、審判請求書についての平成18年9月15日付け手続補正書において、以下の主張をしている。
(1)「引用例Aには、粒状肥料に被覆材料を被覆するための噴霧液滴径が小さ過ぎると、乾燥が進み過ぎて、形成される皮膜層間の融着が不十分になって、細孔の多いつまり肥料成分の溶出防止効果が不十分な皮膜しか形成されないので、液滴径を100μm以上にすることが記載されている(0011)。この記載は皮膜層が複数層であって単一層ではないことを明白に示しており、皮膜層が単一層であることは少なくとも記載も示唆も全くされていない。」((3-1)の項)、
(2)「好適に放出調整された肥料組成物を調製するためには如何なる比率の個数の粒状コア材料が被覆材料で被覆されなければならないのかを求めることは、単なる設計的事項では決してない。粒状コア材料が被覆材料で被覆される個数の比率を高めれば、水分に曝した後における水溶性肥料配合物の累積放出が低くなるとは考えられる。しかし、施肥が少な過ぎても好適に放出調整された肥料組成物とは言い難く、好適に放出調整された肥料組成物を調製するという意図のもとに、少なくとも90%の個数の肥料粒子上に被覆がなされるように被覆を行うことは単なる設計的事項では決してない。」((3-9)の項)

しかしながら、上記(1)の主張に関し、「皮膜層が単一層であること」については、先に「3 (4)イ」で述べたように、実質的な相違点であるとは認められないし、また被覆層を単一層とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記(2)の主張に関し、先に「3 (3)」で述べたように、刊行物1においても少なくとも90%の個数の肥料粒子上に被覆がなされるように被覆を行っているものと認められるし、また、被覆される粒体の個数について、「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、請求人の何れの主張も、上記5の判断を左右するものではない。

7 刊行物1を主引例とした場合の判断についての結論
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5-2 刊行物2を主引例とした場合の判断
1 引用発明
刊行物2には、
「セルロース及びその誘導体の少なくとも何れかの粉末を熱可塑性樹脂中に分散させた被覆で粒状加里肥料の表面を被覆したことを特徴とする時限溶出型被覆加里肥料。」(摘示2-a)
に関する発明が記載されており、また、
「本発明の被覆肥料の作製に用いられる肥料は水溶性加里肥料であればその種類又は形態を問わない。例えば、塩加、硫加、硝加又は燐加等の単独又は2種以上の組合せ肥料の何れを用いても、本発明の肥料を製造することができる。これらの加里肥料に対して、・・・更に他の水溶性肥料成分を含む複合加里粒状肥料を用いても、本発明の被覆肥料を得ることができる。」(摘示2-i)こと、
「本発明においては、・・・粒子の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材として用いることが推奨される。」(摘示2-k)こと、
「本発明の被覆肥料はそれが何れの方法で製造されたものであるかを問わない。とはいえ、肥料粒剤を熱可塑性樹脂で被覆する方法としては、噴流状態の肥料粒剤に樹脂溶液を噴霧及び乾燥させて被覆する方法・・・が推奨される。この方法によれば・・・極めて滑らかな表面の被覆が形成される。」(摘示2-h)こと、
「本発明では、・・・できる限り球状に近い形状・・・が好ましい。」(摘示2-l)こと、
「本発明は施用後一定期間内には溶出せず、その期間経過後に溶出を開始する・・・時限溶出型加里肥料粒剤(時限溶出型粒状加里肥料)に関する。」(摘示2-b)こと、
「溶出期間を可能な限り短くする為には、被覆内においてセルロース及びその誘導体の少なくとも何れかの粉末の連続層が形成されることが求められる。この場合に粒子径の大きな側が連続層形成に有利である」(摘示2-g)こと、が記載されている。
また、刊行物2の[溶出試験法]では窒素肥料及び加里肥料を水中に浸漬して、水中に溶出した尿素及び加里の溶出速度曲線を作成しており(摘示2-m)、さらに実施例2?11においては、噴流カプセル化装置を用いて、被覆液を粒状肥料(肥料粒剤)に噴霧状で吹き付けて被覆(カプセル化)を行なったことが記載されており(摘示2-o)、表3には、被覆層として、熱可塑性樹脂(低密度ポリエチレン)及びセルロースの誘導体(カルボキシメチルセルロースCa塩)を用いたことが示されている(摘示2-p)。
以上によれば、本願発明の記載ぶりに合わせると、刊行物2には、
「a)水溶性加里肥料の単独又は2種以上の組合せ肥料を含み、粒子(粒状肥料)の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材として用い、
b)前記芯材に噴霧されている、セルロースの誘導体の粉末を熱可塑性樹脂中に分散させた被覆で粒状加里肥料の表面を被覆した、施用後一定期間内には水中に溶出しない被覆物とを含む、時限溶出型被覆加里肥料であって、
d)前記芯材中における粒子(粒状肥料)表面に存在する被覆が連続層である被覆層から前記被覆物がなっている時限溶出型被覆加里肥料。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明2との対比
以下、本願発明と引用発明2との対応関係を、本願発明の項目符号順に示す。
・ 本願発明の発明特定事項のa)に対応するものについて
引用発明2の「水溶性加里肥料の単独又は2種以上の組合せ肥料を含み」は本願発明の「少なくとも1つの水溶性肥料配合物を含み」に対応する。また、引用発明2の「粒子(粒状肥料)の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材(として用い)」は本願発明の「略滑らかな外面を持つ粒体(これらの粒体が略球状である)を含む粒化コア材料」に対応する。
・ 本願発明の発明特定事項のb)に対応するものについて
引用発明2の「芯材」は粒状肥料からなるので、本願発明の「粒化コア材料」に対応する。また、噴霧は塗布の一形態であるから、引用発明2の「噴霧されている」は本願発明の「塗布されている」に対応する。そして、引用発明2の「施用後一定期間内には水中に溶出しない」は本願発明の「略水不溶性の」に対応する。さらに、引用発明2の「時限溶出型被覆加里肥料」は本願発明の「放出調整された肥料組成物」に対応する。
・ 本願発明の発明特定事項のd)に対応するものについて
引用発明2における「粒子(粒状肥料)表面に」は本願発明の「粒体上に」に対応し、また、引用発明2の「被覆層」はセルロースの誘導体や熱可塑性樹脂の層、すなわち「重合体フィルム」よりなるから、引用発明2の「粒子(粒状肥料)表面に存在する被覆が連続層である被覆層」は本願発明の「粒体上に存在する・・・略連続している・・・重合体フィルム」に対応する。そして、先に指摘したように、引用発明2の「時限溶出型被覆加里肥料」は本願発明の「放出調整された肥料組成物」に対応する。

以上の点を考慮して、本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2は本願発明における
「a)少なくとも1つの水溶性肥料配合物を含み、略滑らかな外面を持つ粒体(これらの粒体が略球状である)を含む粒化コア材料と、
b)前記粒化コア材料に塗布されている略水不溶性の被覆物とを含む放出調整された肥料組成物であって、
d)前記粒化コア材料中における粒体上に存在する略連続している重合体フィルムから前記被覆物がなっている放出調整された肥料組成物。」
に対応するものである点において一致するが、両者は以下の点において一応相違すると認められる。
(1) 略球状である粒体の個数について、本願発明が「これらの粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である」と規定するのに対し、引用発明2は「これらの粒体が略球状である」と規定する点
(2) 本願発明が、本願発明の発明特定事項のc)、すなわち「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており」と規定するのに対し、引用発明2ではかかる規定は特になされていない点
(3) 被覆される粒体の個数について、本願発明が「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」と規定するのに対し、引用発明2ではかかる規定は特になされていない点
(4) 重合体フィルムについて、本願発明が「均一で・・・単一層」と規定するのに対し、引用発明2ではかかる規定は特になされていない点
(5) 被覆物について、引用発明2が「セルロースの誘導体の粉末を熱可塑性樹脂中に分散させた」と規定するのに対し、本願発明ではかかる規定は特になされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点(1)」ないし「相違点(5)」という。)

3 相違点についての判断
(1) 相違点(1)について
刊行物2には以下の記載がある。
・「この造粒法によれば、形状良好(球形性良好)及び強度に優れたものが得られる。とはいえ、最終的に粒子内に残留する液分を蒸発させる結果として、液分の体積相当分だけの空隙(孔隙)が生ずる。転動造粒法においては例えば、目的とする形状及び強度を得る為に転動時の散布液体の量及び物温、転動時間及び転動速度等の複数の運転条件がロット毎に微妙にコントロールされており、このロット毎の微妙な運転条件の違いが粒子内への空隙の生じ方(量及び位置等)にバラツキ(ロット差;個体差等)を生じさせる。
その結果として、このバラツキが延いては被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼしていると推測される。」(摘示2-j)
・「本発明においては、上記圧縮成形法によって得られる粒状肥料(肥料粒剤)をその侭で被覆に供しても被覆効率の向上及びバラツキのの低下という目的は一応達成され得る。しかし、被覆効率の向上及びバラツキの一層の低下を図るには、粒子の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材として用いることが推奨される。」(摘示2-k)
これらの記載からみて、引用発明2においては、バラツキ(ロット差;個体差等)が延いては被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼしていると推測されるところ、バラツキの一層の低下を図るには、粒子の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料を芯材として用いることを推奨していることが理解できる。
してみると、引用発明2において、バラツキ(ロット差;個体差等)を少なくするため、粒子の表面が可能な限り平滑化(曲面化)及び球状性に優れた粒状肥料、すなわち、略球状である粒体の個数について、「これらの粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 相違点(2)について
刊行物2には、溶出試験法として、加里肥料を水中に浸漬して、水中に溶出した加里の累計量を日数に対してプロットして溶出速度曲線を作成したこと及び表4におけるD1は無処理サンプルの浸漬開始から溶出率10%に到るまでの日数(誘導期間;TI0)を示すことが記載されている(摘示2-m)。そして、表4には「保存試験」及び「ロット間の変動幅確認試験」のいずれにおいても、実施例1ないし11におけるD1(日)が最低でも35であることが示されている(摘示2-q)。
してみると、刊行物2の実施例1ないし11においては、加里肥料を水中に浸漬した後の30日以内における加里肥料の累積放出が加里肥料の10%未満であることは明らかである。
したがって、引用発明2は「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており」という要件を満たしているので、相違点(2)は実質的な相違点であるとは認められない。
また、刊行物2では「本発明は施用後一定期間内には溶出せず、その期間経過後に溶出を開始する所謂『時限溶出型』の加里肥料に関」(摘示2-b)するものであり、また「本発明における『時限溶出』とは施肥後の一定期間内には溶出が抑制され、その期間経過後には速やかな溶出を開始する機能を意味する。施肥後の一定期間内には溶出が抑制される抑制期間を本明細書では『誘導期間』と称することがあ・・・る。これらを更に具体的に規定すれば、被覆肥料(カプセル肥料)の施用直後からカプセル内の肥料分の10重量%の肥料分が溶出するまでの期間を『誘導期間』と規定・・・する。」(摘示2-e)とされているところ、「本発明においては、所望の誘導期間・・・を実現できるように適宜に選択及び利用すれば十分である。」(摘示2-f)とされているのであるから、刊行物2の実施例1ないし11を考慮して所望の誘導期間を設定することにより、「この肥料組成物を水分に曝した後の30日以内における前記肥料配合物の累積放出が、前記粒化コア材料中における前記肥料配合物の全重量の10%以下になるように、前記肥料組成物が構成されており」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(3) 相違点(3)について
刊行物2には以下の記載がある。
・「この造粒法によれば、形状良好(球形性良好)及び強度に優れたものが得られる。とはいえ、最終的に粒子内に残留する液分を蒸発させる結果として、液分の体積相当分だけの空隙(孔隙)が生ずる。転動造粒法においては例えば、目的とする形状及び強度を得る為に転動時の散布液体の量及び物温、転動時間及び転動速度等の複数の運転条件がロット毎に微妙にコントロールされており、このロット毎の微妙な運転条件の違いが粒子内への空隙の生じ方(量及び位置等)にバラツキ(ロット差;個体差等)を生じさせる。
その結果として、このバラツキが延いては被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼしていると推測される。」(摘示2-j)
この記載からは、ロット毎の微妙な運転条件の違いが粒子内への空隙の生じ方(量及び位置等)にバラツキ(ロット差;個体差等)を生じさせ、その結果として、このバラツキが延いては被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼしていると推測されることが理解できる。
してみると、引用発明2において、被覆後の被覆肥料粒剤溶出パターンのバラツキ等に影響を及ぼす原因である被覆に関するバラツキ(ロット差;個体差等)を低減するため、被覆される粒体の個数について、「前記粒体のうちの少なくとも90%の個数の粒体」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(4) 相違点(4)について
ア 「均一で」について
刊行物2には以下の記載がある。(なお、下線は当審による。)
「非球状粒子の表面に被覆層を形成させると、期待される程には高い精度で肥料成分の溶出を制御できない場合が往々にして生ずる。その理由は得られる被覆層の厚さが往々にして均一にならず、その被覆層の薄い部分から肥料成分が溶出し易いことが影響していると説明される。そこで本発明では、・・・できる限り球状に近い形状・・・が好ましい。」(摘示2-l)
「被覆液(12)を貯蔵する被覆液タンク(11)には通常、撹拌機が備えられており、被覆液(12)が例えばタルク又は穀物粉等のように有機溶媒に溶解しない成分を含む分散液の場合であっても、被覆液(12)を撹拌しながら噴流塔(1)内に均一で安定した状態で供給することができる。
・・・
【発明の効果】本発明の時限溶出型被覆加里肥料は・・・下記の諸効果を奏することができる:
・・・
(3)製造ロット間の溶出変動幅を格段に縮小することができる。」(摘示2-l')
以上の記載から判断すると、引用発明2における被覆層は均一であると認められる。
また、以上の記載に加え、被覆肥料において肥料を均一に被覆することは周知である(必要なら、例えば、特開平6-157181号公報【0008】、及び特開平7-31914号公報【0001】参照。)から、均一に被覆することは当業者が容易に想到し得ることである。
イ 「単一層」について
刊行物2には、試作粒状肥料の被覆について、以下の記載がある。
「【従来の技術とその問題点】施用後一定期間溶出せず、一定期間(以後誘導期間と表記し、溶出を開始してから溶出が終了するまでの期間を溶出期間と表記する)経過後溶出を開始する、いわゆる時限溶出被覆として、特開平6-87684号公報では樹脂に糖重合体を分散させた被覆が開示され、特公平5-29634号公報ではオレフィン系樹脂と水可溶或いは水膨潤性物質からなる第1層とオレフィン系樹脂からなる第2層で構成された被覆が提案され、特開平4-202079号公報では高吸水膨潤性物質からなる第1層とオレフィン系樹脂からなる第2層とで構成された被覆等が開示されている。」(摘示2-c)
このように、当技術分野においては、被覆層の種類ごとに、形成される層を一つの層として扱うのが周知(技術常識)であるし、刊行物2においてもそのような判断を示している。
そして、刊行物2においては、被覆に際し、複数の種類の被覆層を形成する旨の記載はない。
むしろ、例えば刊行物2の実施例2には粒状肥料の被覆を行う例が記載されているところ、その被覆層を形成する工程は以下のようなものであり、この記載によれば、被覆液は一種類のものしか用いていないので、刊行物2の実施例2においては単一層の被覆を行っていると解するほかはない。
「上記の温度(T_(2))が所定の温度に達した時点で、流体供給ノズル(4)から被覆液(12)を上方に浮遊している粒状肥料に噴霧状で吹き付けた。この被覆液(12)は被覆液タンク(11)から移送管(5)経由で加圧ポンプ(6)によって加圧された状態で供給された。なお、被覆液タンク(11)内に収容された被覆液(12)はその温度を均一に一定に保持すると共に、粉体が含有されている場合にはその沈降を防止する為に攪拌されることが有用である。
粒状肥料の被覆率が所定値に達した段階でブロアー(10)を止めて被覆された肥料を有底筒状体(21)下端域に設けられた製品抜き出し口(7)から取出した。本実施例では下記の基本条件を維持しながら、所定の被覆率が実現されるまで被覆(カプセル化)を行なった:
流体供給ノズル:フルコン型;開口0.8mm;
熱風量:4m^(3)/min;
熱風温度:100℃±2℃;
粒状肥料投入量:10kg;
供試溶剤:トルエン;
被覆液濃度:固形分含有量1.5重量%;
被覆液供給量:0.1kg/min。」(摘示2-o)
してみると、引用発明2においては、被覆層が単一層からなるものと認められる。
また、被覆層を単一層とするか二層以上の複数層とするかは、時限溶出被覆の目的や用途に応じて、当業者が必要に応じて適宜決定し得る技術事項である。
ウ 「均一で・・・単一層」についての結論
以上のことから、相違点(4)は実質的な相違点であるとは認められないし、また、重合体フィルムについて「均一で・・・単一層」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(5) 相違点(5)について
本願明細書には以下の記載がある。 (なお、下線は、当審による。)
「塗布された被膜材料は、均一な連続の重合体フィルムを形成することができるどんなある種の材料、熱可塑性或いは熱硬化性に基づくことができる。
本発明においては、熱可塑性被覆物が、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(二塩化ビニリデン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアセタール)、ポリ(ビニルメチルアセトアミド)のようなビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレンのようなポリオレフィン、スチレン基礎重合体、アクリル重合体、ポリ(テレフタル酸アルキレン)、ポリ(カプロラクトン)のようなポリエステル、ポリ(オキシアルキレン)例えばポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)およびセルロース誘導体例えば酢酸セルロース、ポリアミド、ポリアミン、ポリカーボネット、ポリイミド、ポリスルホン、ポリスルフィド、多糖類を備えてもよい。
本発明において熱硬化性被覆材料は、アルキド、変性アルキドのようなポリエステル、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノプラスチックを備えてもよい。
オプション的に、被覆物は、滑石のような非特殊添加物(不活性充てん剤)を備えてもよい。被膜材料は、溶液或は分散液から塗布されてもよい。溶液から塗布される場合には、樹脂が全温度で溶解する溶媒が使用され、従って40重量%以上のかなり高い固形分を持つ樹脂溶液を用いることができることが好ましい。」(4頁9?25行)
そして、被覆材料を2種以上の混合物として用いることは周知である(必要なら,例えば、刊行物1である特開平9-221376号公報の3頁3欄18?20行及び刊行物Cである特開平9-30884号公報の3頁3欄26?28行参照。)。
してみると、本願発明は、被覆物について、「セルロースの誘導体の粉末を熱可塑性樹脂中に分散させた」ものを用いる態様を包含する点において引用発明2と差異がないので、相違点(5)は実質的な相違点であるとは認められない。

4 効果について
しかも、本願発明が、上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものと認めるべき根拠は見いだせないから、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

5 小括
以上のとおり、上記各相違点は、当業者が容易に想到し得るものであるか又は実質的な相違点であるとは認められないものであり、また、本願発明が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとも認められないから、本願発明は、刊行物2に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 請求人の主張について
請求人は、審判請求書についての平成18年9月15日付け手続補正書において、以下の主張をしている。
(1) 「(3-2) 引用例Bでは、粒状肥料のうちの少なくとも90%の個数の粒状肥料が被覆材料で被覆されることも、被覆層が単一層であることも、記載は勿論のこと示唆さえもされていない。」(「(3)請求項13に係る発明と引用例との対比」の項)
(2) 「本願の請求項1、4に係る発明は、粒化コア材料に含まれている粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状であるという請求項13に係る発明にはない構成要件を有しており、しかも、この構成要件は、引用例A-Gの何れにも記載も示唆もされていない。」(「(4)請求項1?12に係る発明の説明」の項)

しかしながら、上記(1)の主張について、「粒状肥料のうちの少なくとも90%の個数の粒状肥料が被覆材料で被覆されること」については、先に「3 (3)」で述べたように、当業者が容易に想到し得ることである。また、「被覆層が単一層であること」については、先に「3 (4)」で述べたように、実質的な相違点であるとは認められないし、また当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記(2)の主張について、「粒化コア材料に含まれている粒体のうちの少なくとも95%の個数の粒体が略球状である」点については、先に「3 (1)」で述べたように、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、請求人の何れの主張も、上記5の判断を左右するものではない。

7 刊行物2を主引例とした場合の判断についての結論
したがって、本願発明は、刊行物2に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに刊行物2に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について判断するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-12 
結審通知日 2009-06-17 
審決日 2009-06-30 
出願番号 特願平11-555320
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C05G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 原 健司
松本 直子
発明の名称 放出調整された肥料組成物およびその調製方法  
代理人 土屋 勝  

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