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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
管理番号 1207903
審判番号 不服2006-25077  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-04 
確定日 2009-12-02 
事件の表示 特願2004-225518号「経頭蓋骨脳刺激」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月14日出願公開、特開2005- 95591号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年8月15日(パリ条約による優先権主張1996年8月15日、(US)アメリカ合衆国)に出願した特願平10-510118号の一部を平成16年8月2日に新たな特許出願としたものであって、平成18年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、さらに、平成20年11月17日付けで当審による拒絶理由通知がなされ、これに対して、平成21年5月18日および同年6月5日付け意見書が提出されたものであり、その請求項1乃至35に係る発明は、平成17年10月5日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至35の記載により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「経頭蓋骨磁気神経刺激装置であって、
少なくとも0.5テスラの磁気飽和度を有している高飽和磁性材料を有すると共に、少なくとも2つの端面を有し、この2つの端面からの垂直線がヒトの頭部内で交わるような幾何学位置で設けられ、それによって、この2つの端面から送り出される磁束が患者の脳神経を刺激するようにかつ前記2つの端面がヒトの頭部表面の形状に適合するように構成されている円弧形の磁気コアと、
前記円弧形の磁気コアの少なくとも一部に巻回され、電力が印加されることにより前記磁束を発生させる巻回ワイヤーと
を有することを特徴とする経頭蓋骨磁気神経刺激装置。」

2.引用例の記載事項
当審による拒絶理由通知において引用された国際公開第96/16692号(以下、「引用例」という。)には、以下の記載および図示がある。
(a)特許請求の範囲の請求項1
「1. A magnetic nerve stimulator comprising: (a) a core of highly saturable material; (b) a stimulator coil, said coil having its longitudinal axis located within the geometric outer boundaries defined by said core; and (c) electric current means connected to said stimulator coil to create a current flow in said stimulator coil that causes said stimulator coil and said core to generate a magnetic field.」
『1.磁気神経刺激装置において、(a)高い可飽和性物質のコアと、(b)前記コアによって画定された幾何学的外側境界内に置かれた長さ方向軸を持つ刺激装置コイルと、(c)前記刺激装置コイルに接続され、前記刺激装置コイルに電流の流れを発生させることによって前記刺激装置コイルと前記コアに磁界を発生させる電流発生手段とを具備したことを特徴とする磁気神経刺激装置。』(『』内は、当審による訳。)

(b)明細書第3頁第28行から同第4頁第9行
「First, the present invention has primary applicability to the peripheral nervous system, although it can be employed to stimulate nerves in the central nervous system as well. Second, and more importantly, the previous nerve stimulation work is dominated almost exclusively by air core coils of various shapes and sizes. The present invention, as will be discussed, relates to the use of a core of a highly saturable material, preferably vanadium permendur. Among the air core stimulators are circles, ovals, figure eights, and D shaped coils. The coils are normally excited by a capacitive discharge into the winding of the core of these coils. This exponentially decaying field has a time constant typically in the neighborhood of 100 microseconds. Typical target values for the magnetic field peak happen to be near two Tesla.」
『第一に、本発明は、中枢神経系の神経を刺激するのにも同様に利用することができるが、末梢神経系への利用を主としている。第二に、そしてより重要なことに、以前の神経刺激の研究はほとんど独占的に、種々の形状およびサイズの空心コイルを用いているのに対し、本発明は、次に述べるように、高い可飽和性物質、バナジウムパーメンヂュールが望ましいが、を利用する。空心刺激装置の中には円形、長円形、数字の8、およびDの形状のコイルがある。コイルは、通常、これらのコイルの心の巻線内に容量性放電することによって励起される。この指数的に減衰する磁界は代表的に約100マイクロ秒の時定数を持っている。磁界ピークの代表的目標値は、2テスラに近くなる。』(『』内は、当審による訳。)

(c)明細書第6頁第2から同第16行
「It is desirable to focus the magnetic field into the region targeted for stimulus to the exclusion of surrounding regions. The specially designed cores offered by this invention realize that focusability, whereas the air core coils used by the prior art do not.
The simplest core that might be selected would be that of a "C" shaped core. The span of the "C" must be carefully chosen; the span affects both the penetration depth and the magnitude of the field. Possibly of more importance is the construction of the core. The best cores are constructed from thin laminate, highly saturable material. A typical core might be wound using two mil stock of vanadium permendur. A long ribbon of such material is wound on a mandrel (e.g. a mandrel of wood or plastic) for the radius, thickness and depth desired. Each side of the ribbon is coated with a thin insulative coating to electrically isolate it from its neighbor. A generic core that might be used at various locations around the body might span an angle of about 210°.」
『周囲の領域を除外して、刺激の目標とされる領域に磁界を集束することが望ましい。従来技術によって利用された空心コイルでは実現されなかったそのような集束可能性が、本発明によって提供された特定設計磁心では実現されている。選択され得る最も簡単なコアは、「C」型コアであろう。「C」のスパンは慎重に選択されねばならない;スパンは磁界の浸透深さおよび大きさの両者に影響を及ぼす。より重要なことは恐らくコアの構造である。最良のコアは、薄い層の、高い可飽和性物質から構成される。代表的なコアは2ミリのバナジウムパーメンヂュールを使用して巻かれることができる。長いリボン状のそのような物質が、所望の半径、厚さおよび深さで、心棒(例えば、木またはプラスチック製の心棒)の上に巻かれる。リボンの各側は薄い絶縁コーティングで覆われていて、それをその近傍から絶縁する。身体中のさまざまな部位で利用され得る基本的磁心は、約210°の角度に広がることができる。』(『』内は、当審による訳。)

(d)明細書第10頁第25行から同第11頁第3行
「The characteristic magnetic fields in the cores have strengths in the range of two Tesla. The laminate material must be constructed of a highly saturable material. Preferably, vanadium permendur is used. This material carries a high field density. In this application, high saturation is more important than high permeability. A winding or coil 4 is then wrapped around the core in such a way as to drive the flux through the cut ends 5. The field lines 6 give an indication of the depth of penetration and degree of focusing expected with such a core.」
『コア内の特徴的磁界は2テスラの範囲内の強さを持っている。薄層材料は高い可飽和性物質から構成されなければならない。バナジウムパーメンヂュールが使用されることが望ましい。この物質は高い磁界密度を備えている。この利用では、高飽和度の方が高透磁率より重要である。次いで、巻線すなわちコイル4は、カット面5を通って磁束を送るように、コアの周りに巻かれる。磁界ライン6は、そのようなコアについて期待される浸透の深さおよび集束度を表わしている。』(『』内は、当審による訳。)

(e)Figure1には、「2つのカット面5を有し、コイル4が巻かれたコア2」が図示されている。

(f)上記(a)で示した「・・・磁気神経刺激装置・・・」との記載事項、同(b)で示した「・・・第一に、本発明は、中枢神経系の神経を刺激するのにも同様に利用することができる・・・」との記載事項、および、中枢神経系に脳神経が含まれることは技術常識であることからして、引用例には、「磁気脳神経刺激装置」が記載されているに等しい。

(g)上記(a)で示した「・・・前記刺激装置コイルに電流の流れを発生させことによって前記刺激装置コイルと前記コアに磁界を発生させる電流発生手段とを具備した・・・」との記載事項、および同(d)で示した「・・・巻線すなわちコイル4は、カット面5を通って磁束を送るように、コアの周りに巻かれる。・・・」との記載事項からして、引用例には、「電流(電力)が印加されることにより磁束を発生するコイル4」が記載されているに等しい。

上記(a)ないし(g)の記載事項および図示内容より、引用例には、
「磁気脳神経刺激装置であって、
磁界ピークの目標値が2テスラである高い可飽和性物質を有すると共に、2つのカット面5を有し、この2つのカット面5から送り出される磁束が脳神経を刺激するようにされているC型のコア2と、
C型のコア2に巻かれ、電力が印加されることにより磁束を発生させるコイル4と
を有する、磁気脳神経刺激装置。」の発明が開示されている。

3.対比・判断
引用例記載の発明と本願発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「磁界ピークの目標値が2テスラである高い可飽和性物質」、「2つのカット面5」、「コア2」、「脳神経」、「コアに巻かれ」、「コイル4」は、
本願発明の「少なくとも0.5テスラの磁気飽和度を有している高飽和磁性材料」、「少なくとも2つの端面」、「磁気コア」、「患者の脳神経」、「コアの少なくとも一部に巻回され」、「巻回ワイヤー」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「刺激するようにされている」は、本願発明の「刺激するように」「構成されている」に相当する。

○引用例記載の発明の「磁気脳神経刺激装置」は、実用性の観点からして、頭蓋骨の外側から(経頭蓋骨で)脳神経を刺激する装置であるということができることから、本願発明の「経頭蓋骨磁気神経刺激装置」に相当する。

○引用例記載の発明の「C型」と本願発明の「円弧形」とは、「C型」という点で共通する。

上記より、引用例記載の発明は、
「経頭蓋骨磁気神経刺激装置であって、
少なくとも0.5テスラの磁気飽和度を有している高飽和磁性材料を有すると共に、少なくとも2つの端面を有し、この2つの端面から送り出される磁束が患者の脳神経を刺激するように構成されているC型の磁気コアと、
前記C型の磁気コアの少なくとも一部に巻回され、電力が印加されることにより前記磁束を発生させる巻回ワイヤーと
を有することを特徴とする経頭蓋骨磁気神経刺激装置。」に相当し、この点において両者は一致し、以下の点で相違している。

◇相違点1
本願発明では、C型が「円弧形」であるのに対して、引用例記載の発明では、C型であるものの、「円弧形」でない点。

◇相違点2
本願発明では、2つの端面から送り出される磁束が脳神経を刺激する磁気コアが「2つの端面からの垂直線がヒトの頭部内で交わるような幾何学位置で設けられ」ると共に「2つの端面がヒトの頭部表面の形状に適合するように」構成されているのに対して、
引用例記載の発明では、同磁気コアが「2つの端面から・・・設けられ」ると共に「2つの端面が・・・適合するように」構成されているかどうか明らかでない点。

上記両相違点について検討する。
◆相違点1について
引用例記載の発明の「C型」について、「C型」の一形態に「円弧形」があることは、当業者であれば十分に想起できることであることから、「C型」を「円弧形」に限定することは、当業者であれば適宜決定する設計事項である。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

◆相違点2について
引用例記載の発明の「2つの端面から送り出される磁束が脳神経を刺激する磁気コア」について、上記2.(c)で示した「・・・刺激の目標とされる領域に磁界を集束することが望ましい・・・」との記載事項からして、磁束を頭部内において収束させることが望ましいということができ、そして、上記のように収束させることにおいて、磁気コアの配置をどのようにするか、つまり、磁気コアをどのような幾何学位置(例えば、2つの端面からの垂直線がヒトの頭部内で交わるような幾何学位置)に設けるかは、当業者であれば適宜決定する設計事項であり、
また、磁気コアを上記の幾何学位置に設ける際、これの2つの端面をヒトの頭部表面の形状に適合させることは、使用感を良好にする等の観点からして、当然のことであるといえる。
したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願発明の作用効果は、引用例記載の発明から当業者であれば十分に予測し得ることである。
よって、本願発明は、引用例記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-01 
結審通知日 2009-07-07 
審決日 2009-07-21 
出願番号 特願2004-225518(P2004-225518)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 岩田 洋一
豊永 茂弘
発明の名称 経頭蓋骨脳刺激  
復代理人 矢口 太郎  

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