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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1207935
審判番号 不服2007-20259  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-22 
確定日 2009-12-08 
事件の表示 特願2002-204812「泡状金属を製造する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月15日出願公開、特開2003-112253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年6月11日(パリ条約による優先権主張2001年6月15日、2002年4月22日、オーストリア共和国)に出願したものであって、平成19年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、更に前置審査において同年10月12日付けで通知した拒絶理由に対して、平成20年1月17日付けで手続補正書が提出され、その後当審において、同年11月5日付けで前置報告書の内容について審尋がなされ、平成21年4月30日付けで回答書が提出されたものである。

そして、本願の請求項1?26に係る発明は、平成20年1月17日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 泡状金属を製造するため少なくとも1つの管により泡立つことができる金属から成る溶湯へガスを入れる装置において、ガス供給管(1)が、溶湯(S)の入り込み端部において、0.006?0.2mm^(2)の面積を持つガス用出口開口(2)の断面及び4.0mm^(2)より小さい管端面(3)を持っていることを特徴とする装置。」

2.引用文献とその記載事項
前置審査における拒絶理由通知に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された特開昭54-135626号公報(以下、「引用文献1」という。)、特表平6-507579号公報(以下、「引用文献2」という。)、及び特開2000-176613号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)引用文献1:特開昭54-135626号公報
(1a)
「(5)溶融金属へスパージング用気体を供給するための気体拡散板であつて、溶融金属に耐える物質から形成された板状ベースよりなり、該ベースはその上面に一連の間隔を置いて並んだ突出部を有し、該突出部はその中を通つて該板状ベースの下面にまで下方に延びている気体供給用オリフイス手段を有・・・するスパージング用気体供給用の気体拡散板。
(6)該突出部の先端部における最小横方向寸法は2?12.5mmの範囲内である特許請求の範囲第5項記載の気体拡散板。」
(1頁右下欄10行?2頁左上欄5行)
(1b)
「本発明は、溶融金属をガスの注入によつてスパージまたはスカベンジするための装置・・・に関する。本発明は主としてアルミニウムとその合金の処理に関する・・・。
・・・溶融金属中にガスのあわの流れを通すことによつて、溶融金属のガス含量を減少しおよび/または溶けた揮発性金属不純物を除去しおよび/または固体または液体の包含物を除去することは長い間知られている。」
(2頁左下欄9行?右下欄1行)
(1c)
「ガスオリフイスは出たガスのあわの大きさを調節するために制限された寸法の表面によつて取り囲まれている。小さな直径(または他の最小の横方向)の突起ガスノズルを使用することによつて、・・・個々のあわの体積は小さくかつ比較的調節された大きさにある。・・・あわの大きさは突起の外側端の最小の横方向寸法によつて調節される。さらに、あわの大きさは突起の頂部の横断面に関係するため、望ましくない微細なあわの形成は防止される。したがつて、ノズル突起の頂部を適切な寸法にすることによつて、あわの大きさは任意の望む用途に調節できかつ「製作」できる。」
(3頁左下欄19行?右下欄16行)
(1d)
「5mmの幅のグラフアイトの突起を用いると、直径0.5?1mmのガスオリフイスは、ガス供給圧がガスの出る流れに抗する金属静止ヘツドおよび表面張力による力に打ち勝つのに十分であるかぎり、ガスの適切な放出速度を確保することがわかつた。」
(4頁右上欄8?13行)
(1e)
「突起は円形・・・の・・・横断面であることができる。」
(4頁右下欄5?6行)

(2)引用文献2:特表平6-507579号公報
(2a)
「発泡金属のスラブを製造する装置であって、・・・溶融金属複合材料中に、その表面下で気泡を放出するための・・・ガス放出手段と、・・・発泡体を固化発泡金属スラブに形成するために適用される、・・・ベルトを備えた装置。」
(2頁右上欄17?23行)
(2b)
「溶融マトリクスは発泡させることができる金属なら何からでも構成することができる。これらの例としては、アルミニウム・・・が挙げられる。」
(3頁左下欄4?6行)
(2c)
「発泡体のセルの大きさは、ガスの流速、及び、羽根車のデザインと使用部位での回転速度、または振動または揺れシステムが使用される部位での振動または揺れの大きさと数を調整することにより、制御することができる。」
(3頁左下欄17?19行)
(2d)
「気泡は崩壊したり合体したりしないので、・・・その発泡体・・・全体にわたり一様な細孔の大きさを有する発泡体が得られる。」
(3頁左下欄25?27行)

(3)引用文献3:特開2000-176613号公報
(3a)
「溶融金属中へ微細気泡を導入することは、鉄鋼精錬・連鋳工程で気泡付着による微量介在非金属の除去のため、さらには発泡金属の製造などへの応用面などの点から必要なことである。」
(【0002】)

3.当審の判断
3-1.引用文献1に記載された発明
(1)摘記事項(1a)には、「溶融金属に耐える物質から形成された板状ベースよりなり、該ベースはその上面に一連の間隔を置いて並んだ突出部を有する板状ベースよりなり、該突出部はその中を通つて該板状ベースの下面にまで下方に延びている気体供給用オリフイス手段を有し、該突出部の先端部における最小横方向寸法は2?12.5mmの範囲内である、溶融金属へのスパージング用気体供給用の気体拡散板」が記載されているものと認められ、上記気体拡散板によって溶融金属へスパージング用気体を供給するための装置も記載されているものと認められる。
(2)摘記事項(1b)によれば、溶融金属にガス(気体)を通すのは、不純物の除去等を目的とするものであることが理解できるし、溶融金属として、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金を用いることができることも理解できる。
(3)摘記事項(1e)には、突起(突出部)の横断面を円形とすることが記載されており、その場合、摘記事項(1a)における突出部の「最小横方向寸法が2?12.5mmの範囲内」とは、突出部の「直径が2?12.5mmの範囲内」であるといえる。また、摘記事項(1d)には、ガスオリフイス(気体供給用オリフイス手段)の直径が0.5?1mmであることが記載されている。
すると、引用文献1における気体供給用オリフイス手段の開口部の断面積は、
π・(0.5/2)^(2)?π・(1/2)^(2)mm^(2)=0.196?0.785mm^(2)の範囲内であり、突出部の端面の面積は、突出部の直径が2mmかつ気体供給用オリフイス手段の開口部の直径が1mmのときに最小値[(π・(2/2)^(2)-π・(1/2)^(2))mm^(2)=2.36mm^(2)]となり、突出部の直径が12.5mmかつ気体供給用オリフイス手段の開口部の直径が0.5mmのときに最大値[(π・(12.5/2)^(2)-π・(0.5/2)^(2))mm^(2)=123mm^(2)]となる、すなわち、2.36?123mm^(2)の範囲内であるといえる。

そこで、上記(1)?(3)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。
「気体拡散板によって、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金へスパージング用気体を供給するための装置であって、該気体拡散板は、溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金に耐える物質から形成された板状ベースよりなり、該ベースはその上面に一連の間隔を置いて並んだ突出部を有する板状ベースよりなり、該突出部はその中を通つて該板状ベースの下面にまで下方に延びている気体供給用オリフイス手段を有し、気体供給用オリフイス手段の開口部の断面積が0.196mm^(2)?0.785mm^(2)であり、該突出部の端面の面積が2.36mm^(2)?123mm^(2)である、不純物の除去等のための装置。」

3-2.本願発明1と引用文献1発明との対比
本願発明1と引用文献1発明を対比すると、
引用文献1発明における「突出部」は、本願発明1における「ガス供給管」に相当し、以下同様に、「気体供給用オリフイス手段」は「ガス用出口」に、「突出部の端面」は「管端面」に、それぞれ相当する。
本願明細書の【0030】に、「金属溶湯が軽金属なるべくアルミニウム又はアルミニウム合金から作成されると」と記載され、【0048】に、「種々のアルミニウム合金・・・が、溶融るつぼの中で溶融され」と記載されていることからみて、本願発明1における「泡立つことができる金属」とは、アルミニウムまたはアルミニウム合金を包含するものと認められるから、引用文献1発明における「溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金」は、本願発明1における「泡立つことができる金属から成る溶湯」に相当するといえる。
引用文献1発明における「スパージング用気体」は、本願発明1における「ガス」に対応する。
引用文献1発明における「気体供給用オリフイス手段の開口部の断面積」と、本願発明1における「ガス用出口開口」の断面積とは、0.196?0.2mm^(2)の範囲で重複し、引用文献1発明における「突出部の端面の面積」と、本願発明1における「管端面」の断面積とは、2.36?4.0mm^(2)の範囲で重複する。

そうすると、両者は、
「少なくとも1つの管により泡立つことができる金属から成る溶湯へガスを入れる装置において、ガス供給管が、溶湯の入り込み端部において、0.196?0.2mm^(2)の面積を持つガス用出口開口の断面及び2.36?4.0mm^(2)の面積を有する管端面を持っていることを特徴とする装置。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点:本願発明1は、「泡状金属を製造するため」に溶湯へガスを入れるのに対して、引用文献1発明は、「不純物の除去等のため」に溶湯へガスを入れるものである点。

3-3.相違点についての検討
引用文献1発明において、突起部の寸法を所定範囲のものとする技術的意義について、摘記事項(1c)には、「あわの大きさは突起の頂部の横断面に関係するため、望ましくない微細なあわの形成は防止される。したがつて、ノズル突起の頂部を適切な寸法にすることによつて、あわの大きさは任意の望む用途に調節できかつ「製作」できる。」と記載されている。上記記載によれば、所定の寸法を有する突起部を用いて溶融アルミニウムまたは溶融アルミニウム合金へスパージング用気体を入れることによって、あわの大きさを調節できることが理解できるし、微細なあわの形成を防止できる、すなわち、あわの大きさを均一なものにできることも理解できる。
他方、溶融金属へ気泡を放出することによって発泡金属(泡状金属)を製造すること、該溶融金属としてアルミニウムが用いられることは、それぞれ引用文献2の摘記事項(2a)、(2b)に記載されているように本願の優先権主張日前に公知のものと認められる。また、このような泡状金属の製造に際して、気泡の大きさを制御すべきこと、及び気泡を一様な大きさとすることも、摘記事項(2c)及び(2d)にそれぞれ記載されている。
すると、引用文献1発明のような「不純物の除去等のため」に溶湯へガスを入れる装置と、引用文献2に記載されているような「泡状金属を製造するため」に溶湯へガスを入れる装置とは、ともに、アルミニウムを用いる点で材料が共通し、気泡の大きさを制御するとともに、気泡を均一な大きさとするという課題も共通するといえる。
さらに、引用文献3の摘記事項(3a)によれば、溶融金属中へ微細気泡を導入する技術の応用分野として、微量介在非金属の除去、発泡金属の製造がともに公知のものであり、両者の技術を相互に転用可能であることも認められる。
してみると、「泡状金属を製造するため」に溶湯へガスを入れる装置である引用文献1発明を、材料及び課題が共通し、相互に転用可能な技術分野である、「泡状金属を製造するため」に溶湯へガスを入れる装置に適用することは、当業者が容易に想到し得るものというべきである。

また、本願発明1の奏する効果も、引用文献1?3の記載から予測される範囲のものであって、格別に顕著なものとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用文献1?3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-02 
結審通知日 2009-07-07 
審決日 2009-07-21 
出願番号 特願2002-204812(P2002-204812)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 敬士真々田 忠博加藤 志麻子  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 國方 康伸
鈴木 正紀
発明の名称 泡状金属を製造する装置及び方法  
代理人 中平 治  

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