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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12P 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P |
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管理番号 | 1207961 |
審判番号 | 不服2006-22344 |
総通号数 | 121 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-10-04 |
確定日 | 2009-12-04 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第151970号「β-1,3-グルカンの製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 3月14日出願公開、特開平 7- 67679〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成6年7月4日(優先日 平成5年7月5日,特願平5-165791号)を出願日とする特許出願であって,平成17年1月19日付で第1回の拒絶理由が通知され,平成17年3月10日に特許請求の範囲について手続補正され,平成17年4月6日付で第2回の拒絶理由が通知され,平成18年8月30日付で拒絶査定がなされ,同年10月4日に審判請求がなされるとともに,特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 2.平成18年10月4日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年10月4日付の手続補正を補正却下する。 [理由] (1)補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を 補正前の 「アグロバクテリウム・エスピー・バイオバー I株より誘導された,アグロバクテリウム属に属し,β-1,3-グルカンを生産する能力を有し,ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が低下ないしは欠損する,受託番号FERM BP-4350またはFERM BP-4351である微生物。」から,補正後の 「TCA回路にあずかる有機酸ならびにアミノ酸非資化性であり,ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が低下している,β-1,3-グルカン生産能を有する受託番号FERM BP-4350またはFERM BP-4351である微生物。」に変更するものである。 (2)補正の適否の判断 補正後の請求項1は,補正前の請求項1における「アグロバクテリウム・エスピー・バイオバー I株より誘導された,アグロバクテリウム属に属し」という特定事項が削除されており,上記特定事項の削除は,特許請求の範囲の限縮,誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 また,補正後の請求項1には,「TCA回路にあずかる有機酸ならびにアミノ酸非資化性であり」という特定事項が付加されているが,補正前の請求項1には,資化性については何ら記載されていないから,上記特定事項の付加は,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく,特許請求の範囲の限定的限縮,誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから,本件補正は,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 平成18年10月4日付手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成17年3月10日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】アグロバクテリウム・エスピー・バイオバー I株より誘導された,アグロバクテリウム属に属し,β-1,3-グルカンを生産する能力を有し,ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が低下ないしは欠損する,受託番号FERM BP-4350またはFERM BP-4351である微生物。」 4.引用例 原査定の第2回の拒絶理由で引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である,武田研究所報,1992,Vol.51, p.99-108(以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。 (1)「カードラン型ポリサッカライド,細菌性ゲルを形成するβ-1,3-グルカン,の生産性が,その工業的生産の開発のために,3つの菌株:Alcaligenes faecalis var. myxogenes 10C3K(カードラン,ポリサッカライド10C3K,カードラン10C3Kを生産する菌株),親の10C3K株から由来するウラシル要求性変異株NTK-u(Alcaligenes faecalis var. myxogenes IFO13140, ポリサッカライド13140,カードラン13140を生産する)及び,Agrobacterium radiobacter IFO 13127(ポリサッカライド13127,カードラン13127を生産する)を比較して調査された。NTK-u株はそれらの中で最も効率的にポリサッカライドを生産した。最適化された培養条件下で,ポリサッカライド生産量は,10%のグルコース含有合成培地中で,46mg/mlのレベルまで達した。ポリサッカライドは,8%グルコースの主培地を含む6000lファーメンター中で,32℃,90時間で,38mg/mlのレベルで生産された。Alcaligenes faecalis var. myxogenes IFO13140はカードラン型ポリサッカライドの工業的生産のために利用できることが結論付けられるであろう。」(第99頁第8?21行) (2)「Kimura^(2))及びNakanishi他^(3,4))は同様のポリサッカライド:1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソグアニジン(NTG)で親の10C3K株を処理することによって得られたウラシル要求性変異株NTK-u(IFO13140)からのポリサッカライド13140,及び,Agrobacterium radiobacter IFO 13127からのポリサッカライド13127を報告している。」(第99頁下から2行?第100頁第3行) (3)4?10%グルコース含有培地での3菌株によるカードラン型ポリサッカライドの生産量(第101頁,表-I) (4)「3.3 6000lファーメンターでのカードラン13140の生産 Alcaligenes faecalis var. myxogenes NTK-u,IFO13140の新鮮な培養物の一白金耳量が,2l坂口フラスコ中の0.01%のウラシルを含む種培地500mlに接種され,往復振盪機上で,28℃,24時間振盪培養によって培養された。;500ml坂口フラスコ培養物は,1000lファーメンター中の0.01%のウラシルを含む種培地450lに接種され,50%(v/v毎分)の通気下で,140rpm.で攪拌して32℃,24時間培養した。この450lの種培養物は,6000lファーメンター中の8%のグルコース及び0.07%のウラシルを含む4050lの主培地に移され,10%(v/v毎分)の通気下で,150rpm.で攪拌して,32℃,90時間培養した。培養の時間経過を図6に示す。微生物の成長は,約20時間までに最大値に達する。;培養物のpHも約20時間までに最低レベル(約5)に落ち込み,その後両者は,ほぼ一定に維持された。カードラン13140は,微生物の成長が最大値に達する時期に急速に生産され始め,生産量は培地中のグルコースの減少とともにほぼ直線的に増加し,カードラン13140の蓄積は90時間内で38mg/ml(47.5%の収率)に達した。」(第106頁第1行?第108頁第2行,図6) 5.対比 本願発明のBP-4350菌株及びBP-4351菌株は,本願明細書の実施例1を参照すると,親の10C3K株をNTGにより処理して,変異を誘起させた後,グルタミン酸を唯一の炭素源として含む培地Bで生育しないか又は生育が遅い菌として選びだされた菌株である。そして,実施例1?5に記載されるように,この2種の変異株は,親株と比較して,ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ(PEPCK)活性が低く,コハク酸,グルタミン酸,フマール酸,α-ケトグルタール酸又はリンゴ酸を唯一の炭素源とした培地では生育しないという性質を有する株であるとともに,親の10C3K株と比較して,カードラン生成能が高い株である。 また,本願明細書の従来技術にも説明されているように,引用例に記載されたAlcaligenes faecalis var. myxogenes 10C3Kは,後に改名されて,Agrobacterium sp. biovar I となったものである。 よって,本願発明と引用例に記載されたIFO13140株とを対比すると,両者は,「アグロバクテリウム・エスピー・バイオバー I株より誘導された,アグロバクテリウム属に属し,β-1,3-グルカンを生産する能力を有する微生物。」であって,親株よりカードラン生成能が高い菌株である点で一致し,本願発明の菌株は,PEPCK活性が低下ないしは欠損する性質を有し,コハク酸等のTCA回路にあずかる有機酸ならびにアミノ酸非資化性であり,ウラシル非要求性の菌株であるのに対し,引用例に記載された菌株は,PEPCK活性及び,TCA回路にあずかる有機酸ならびにアミノ酸の資化性については不明であり,ウラシル要求性の菌株である点で相違する。 6.判断 (1)上記相違点について 引用例には,カードランを工業的に生産することが記載されており,10C3K株を親株として,突然変異株を作出し,よりカードランの生産性の高いIFO13140株を得たことが記載されている。 そして,IFO13140株と同様に,より生産性の高い新たな菌株を育種することは,当業者にとって自明の技術課題であるから,IFO13140株と同様に,10C3K株を変異処理して,カードランの生産性の高い新菌株を作出することは,当業者が容易に想到し得たものである。 ここで,突然変異育種法は,人為的に突然変異を起こさせることによって,親株が持たない性質を有する新たな個体を得る育種法であり,変異を起こした菌株を親株から単離するために,様々な培地を用いて培養を行い,親株とは異なる性質を示す菌株を選択してくることは常套手段である。また,突然変異の性質上,全く同じ突然変異株を再度得ることは不可能であるから,突然変異育種法により得られた新菌株が,資化性や栄養要求性等の何らかの性質において,親株やIFO13140株とは異なる性質を有するものとなることは,当業者が当然に予想するものである。 そして,本願明細書には,PEPCK活性とカードラン生産性との因果関係を説明する記載はなく,PEPCK活性が低下ないしは欠損しているという性質が,カードランを生産する上で有用な性質であるというものでもない。 したがって,本願発明における「PEPCK活性が低下ないしは欠損している」という特定事項は,単に突然変異によって得られた新菌株と親株との性質の違いを具体的に記述したものに過ぎず,この性質の違いによって,カードラン生産において,引用例から予測できない顕著な効果を奏するというものではない。 (2)請求人の主張について ア.平成20年12月3日付回答書について 請求人は,上記回答書において,引用例に記載された8%グルコース濃度の培地において,通気を行う培養条件での親株とIFO13140株の対糖収率を求め,引用例に記載されたIFO13140株は,培養時間においては親株よりも有利な効果を有しているが,対糖収率に関しては親株とわずかな差しかないこと,それに対して,本願発明のBP-4351株は,親株に比べ,培養時間,対糖収率のいずれとも生産性が向上していることを述べ,本願発明の進歩性を主張している。 しかしながら,平成21年6月25日付の審尋で示した参考文献である特公昭48-32673号公報には,上記IFO13140株が,高濃度基質を用いて短期日に,収率よくカードランを生産する菌株であることが記載され,表2には,グルコース10%の培地で通気培養すると,対糖収率は39.8%であるが,通気を行わず,攪拌の速度や加圧の条件によって,対糖収率が50.6?58.2%になることが記載され,さらに,表1には親株とIFO13140株の対糖収率が記載され,6.0%?12.5%のグルコース濃度において,IFO13140株の対糖収率が,親株に比べて顕著に高いことが記載されている。 一方,本願発明のBP-4350株及びBP-4351株の対糖収率は,明細書【0016】に記載されているように,7.5%グルコース濃度の培地で,それぞれ52.3%及び54.7%であり ,上記回答書に説明された実施例4の培養条件においても57.5%である。 してみると,本願発明の菌株が,引用例に記載されたIFO13140株と比べ,顕著に親株の対糖収率を改善したものとはいえない。 イ.平成21年8月20日付回答書について 請求人は,上記回答書において,以下の主張をしている。 (ア)引用例には,PEPCK活性の低下とβ-1,3-グルカン生産との関係に関する記載も示唆もなく,技術常識をもってしても,ウラシル要求性という本願発明の菌株とは全く異なる性質とβ-1,3-グルカン生産性との関係からは,当業者といえども本願発明を容易に想到できるものではない。 (イ)本願発明の菌株は,IFO13140株とは異なり,生育にウラシルを要求せずにβ-1,3-グルカンを高率よく生産することができるという顕著な効果を有するものであり,β-1,3-グルカンを高生産するという課題に対して,異なる解決手段,すなわち新たな選択肢を提供するものであります。 上記主張について検討する。 本願の明細書を参照しても,PEPCK活性の低下とβ-1,3-グルカン(カードラン)生産とに直接的な因果関係があることは記載されていない。 そして,6.(1)に記載したように,突然変異により育種をする際には,親株とは異なる性質によってスクリーニングするものであり,また,突然変異の性質上,全く同じ突然変異株を再度得ることは不可能であるから,資化性や栄養要求性等の何らかの性質において,親株やIFO13140株とは異なる性質を有するものとなることは,当業者が当然に予想するものである。 さらに,親株の10C3K株はウラシル非要求性株であり,本願明細書の【0002】の従来技術にも記載されるように,カードラン生産菌として,10C3K株から作出されたウラシル要求性のIFO13140株の他,ウラシル非要求性の変異株も知られており,ウラシル要求性とカードラン生産性とに直接的な因果関係がないことは明らかであるから,10C3K株を変異処理して新たに得られたカードラン生産能を有する菌株が,ウラシル非要求性の菌株であったとしても,それは当業者の予測の範囲内のものである。 最後に,新菌株の育種は,本来新たな選択肢を得ることを目的として行われるものであるから,引用例に記載されたIFO13140株と同様の手法により,IFO13140株と同様に親株よりもカードラン生産性の向上した新菌株が得られ,新たな選択肢が提供されることも,引用例及び育種分野における技術常識から予測し得るものである。 そして,本願発明によって提供された新たな選択肢は,6.(1)に記載したとおり,その利用上,当業者が予測できない顕著な効果を奏するものではないから,本願発明の進歩性は認められない。 7.むすび したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-09-29 |
結審通知日 | 2009-10-06 |
審決日 | 2009-10-19 |
出願番号 | 特願平6-151970 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12P)
P 1 8・ 572- Z (C12P) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 左海 匡子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
吉田 佳代子 齊藤 真由美 |
発明の名称 | β-1,3-グルカンの製造法 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 元山 忠行 |