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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1207972
審判番号 不服2007-9797  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-12-04 
事件の表示 特願2001-320114「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月22日出願公開、特開2003-117146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一.手続の経緯
本願は、平成13年10月18日の出願であって、拒絶理由通知に対応して平成18年10月2日に手続補正書が提出され、その後なされた拒絶査定に対し、平成19年4月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同月16日に手続補正がなされ、その後、当審において平成21年6月25日付けで拒絶理由を通知し、この拒絶理由通知に対応して同年8月28日に手続補正がなされたものである。
本願請求項1に係る発明は、平成21年8月28日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「識別情報が設定された複数の図柄オブジェクトと、該図柄オブジェクトに対する視点とを変動表示領域を含んで設けられた仮想三次元空間に配置し、識別情報が設定された複数の図柄オブジェクトを変動表示領域で変動表示する変動表示装置と、変動表示装置における変動表示ゲームの表示制御を行う表示制御装置とを備え、前記変動表示ゲームの結果態様に関連して特定の遊技価値を付与する特別遊技状態を発生可能な遊技機において、
変動表示中の図柄オブジェクトを除いて既に停止した図柄オブジェクトが前記特別遊技の組み合わせを発生させる可能性のあるリーチ状態を発生可能に構成され、
前記複数の図柄オブジェクトの各々には、一意の識別情報の形状が設定され、
前記複数の図柄オブジェクトは、複数のグループに組分けされるとともに、前記組分けされた複数のグループ毎に共通の模様がそれぞれ付され、
前記表示制御装置は、
前記図柄オブジェクトを、当該図柄オブジェクトの形状の全て及び該図柄オブジェクトに付された模様が前記変動表示領域に表示された第1の状態と、当該図柄オブジェクトの形状が一切表示されず、当該図柄オブジェクトに付された模様のみが識別可能に変動表示領域に表示された第2の状態と、で表示可能に構成され、
仮想三次元空間内で視点を移動させて、図柄オブジェクトと視点との距離を変化させて、図柄オブジェクトと視点との相対的な位置関係を変更する位置関係変更手段と、
図柄オブジェクトの形状を切り替える識別情報切替手段とを、備え、
前記リーチ状態が発生した場合に、当該リーチ状態において既に停止している図柄オブジェクトを前記第1の状態で表示した状態で、前記位置関係変更手段によって、前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトと視点との距離を近づけることにより、当該リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトを前記第2の状態に変更し、
前記第2の状態で表示した前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトの形状を、前記識別情報切替手段によって模様を共通とするグループの、異なる形状の識別情報に変更し、
当該リーチ状態において既に停止している図柄オブジェクトを前記第1の状態で表示した状態で、前記位置関係変更手段によって、前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトと視点との距離を遠ざけることにより、当該リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトを前記第1の状態に変更することを特徴とする遊技機。」

2.引用例
(1)引用刊行物記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2001?104569号公報(以下「引用文献1」という。)には、次のような記載がある。(なお、段落【0044】、【0096】、【0130】の記載において、原文には、丸囲みの数字が用いられているが、この数字の記載については、括弧を付した数字に変えて以下のとおり記載した。)
【0044】図柄17A?17Iは、各種「海の生物」のキャラクタと、(1)?(9)の数字との組合せによって構成されている。・・・なお、図柄17Aの「タコ」のキャラクタ、図柄17Fの「クマノミ」のキャラクタ、及び図柄17Iの「カニ」のキャラクタは、赤を主体とした着色が施されている。また、図柄17Bの「ハリセンボン」のキャラクタ、図柄17Dの「サメ」のキャラクタ、及び図柄17Gの「セイウチ」のキャラクタは、青(又は青紫)及び白を主体とした着色が施されている。さらに、図柄17Cの「カメ」のキャラクタは、緑及び茶を主体とした独自の着色が施されている。併せて、図柄17Eの「エビ」のキャラクタは、ピンクを主体とした独自の着色が施されている。また、図柄17Hの「望遠魚」のキャラクタは、緑、黄、赤を主体とした独自の着色が施されている。
【0051】本実施の形態では、中央の縦ライン(図2(c)参照)、左右の縦ライン、及び斜め(右上がり、右下がり)の2本のライン(図2(b)参照)によって大当たりラインが構成されている(5ラインと称される)。大当たりの組合せが成立すると、特別電動役物が作動し(大入賞口4が開かれ)、遊技者にとって有利な大当たり状態の到来、すなわち、より多くの景品球を獲得することが可能となる。
【0052】また、図4(a)?(c)に示すように、リーチ状態とは、大当たり直前の状態をいう(もちろん大当たり状態に至らない場合もある)。リーチ状態には、下図柄列16の図柄変動が、大当たりライン上において上図柄列14の停止図柄と同一種類の図柄で停止する状態が含まれる。例えば図4(a)に示す例では、右下がりの斜めの大当たりライン上において、上図柄列14及び下図柄列16が同一の図柄17Gで停止しており、中図柄列15の図柄17A?17I,17Kが未だ変動中の状態を示している。この場合において、中図柄列15の大当たりライン上における停止図柄が上下図柄列14,16と同一の図柄(図では図柄17G)であることを必要条件に、大当たり状態が発生させられる。
【0053】上記のリーチ状態には、中図柄列15の図柄変動が、最終的に上・下両図柄列14,16の停止図柄と同一種類の図柄(大当たり図柄)で停止して大当たり状態になるもの以外にも、異なる種類の図柄(これを「外れリーチ図柄」という)で停止して、大当たり状態とならないもの(以下、「外れリーチ状態」という)が含まれる。さらには、中図柄列15の図柄変動が一旦停止した後、再度全図柄列(或いは一部の図柄列)が差替えられ、その後全図柄列14?16の図柄17A?17I,17Kが確定表示されるような場合(本実施の形態では「奥行き再変動リーチ」と称する)も含まれる。
【0096】続いて、制御装置24は、ステップS131において、「奥行き再変動処理」を実行する。より詳しくは、図16の「奥行き再変動処理ルーチン」に示すように、装置装置24は、ステップS1311において、ステップS905で取得したリーチパターンが、「奥行き再変動リーチ」であるか否かを判定する。そして、否定判定された場合には、何らの処理をも行うことなく、本ルーチンを一旦終了する。これに対し、肯定判定された場合には、以後「奥行き再変動リーチ」の処理を実行するべく、ステップS1312へ移行する。ステップS1312においては、まず、図18(a),(b)に示すように、表示部13aに一旦停止表示された図柄17A?17I,17Kが奥行き方向(後ろ向き方向)に向いたかの如く表示を行う。このとき、図柄17A?17Iのうち、キャラクタのみが奥行き方向(後ろ向き方向)に向いたかのような表示がなされ、(1)、(2)等の数字については、そのままの状態が維持される。
【0098】続いて、ステップS1314において、制御装置24は、図18(f)に示すように、所定時間T1(T1=1秒?10秒、より好ましくは3秒?6秒、さらに好ましくは4秒?5秒)かけて図柄17A?17I,17Kが奥行き方向に移動しているかの表示を行い、図柄17A?17I,17Kを識別困難な状態にする。・・・
【0099】そして、ステップS1315において、図柄17A?17I,17Kの差替えを行う。つまり、ステップS902又はステップS904で記憶した最終停止図柄(後述する奥行き再抽選処理を行う場合には、仮停止大当たり図柄)に差替え表示を行う。ただし、この時点では、あまりにも図柄17A?17I,17Kが小さすぎて差し替えが行われたことは遊技者には視認することができない。・・・
【0100】その後、ステップS1316において、図19(a)に示すように、差替え後の図柄17A?17Iが手前方向に(泳いで)移動しているかの如く表示を行い、ステップS1317において、図19(b),(c)に示すように、所定時間T2(T2=1秒?10秒、より好ましくは3秒?6秒、さらに好ましくは4秒?5秒)かけて図柄17A?17I,17Kが手前方向に移動しているかの表示を行い、図柄17A?17I,17Kを識別可能な状態にする。このとき、手前方向に移動している初期の段階では、遊技者は、いかなる図柄17A?17Iが移動しているのかを識別することができず、途中からやっと識別できるようになる。また、本実施の形態では、同系色の図柄17A?17Iが用意されているため、図柄17A?17Iが元の状態に戻る直前までは、遊技者が、図柄17A?17Iを特定できない場合が生じうる。
【0119】また、上記図柄17A?17Iの差替えは、図柄17A?17I,17Kが遊技者にとって識別困難な程度に変化表示させられたときに行われる。このため、差替えによって図柄17A?17I,17Kがそれまでとは全く異なったものになったとしても、差替えに際しての不自然さが解消されうる。
【0120】・・・なお、奥行き方向に移動しているかの如く表示を行う手法としては、単に経時的に縮小表示する方法、或いは、3次元ポリゴンを用いて、図柄17A?17I,17Kとそれを映す視点との距離を遠ざけることによって表示する方法等が挙げられる。
【0124】さらに、複数の図柄17A?17Iのうち、少なくとも2つは相互に同系色を有している。このため、同系色を有する図柄17A?17I間での差替えが行われた場合、差替えの事実に一時的に気づかないケースが起こりうる。また、差替えが行われた場合、図柄17A?17Iの色彩だけでは、その種類を特定することが困難な場合が生じ、さらに面白味が増す。例えば、「奥行き再変動リーチ」及び「奥行き再抽選処理」において、図柄が手前方向に戻ってくるときに、その図柄が赤い図柄であることがわかったとする。ところが、赤い図柄には、3種類の図柄17A,17F,17Iが存在するため、色彩が判別できただけでは、どの図柄で大当たりになるのかがわからずに、遊技者は、どきどきしうる。このため、興趣の向上に拍車がかけられることとなる。
【0126】尚、上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0127】(a)上記実施の形態では、図柄17A?17I,17Kが奥行き方向に移動しているかの如く見せることで、識別が困難な状態としたが、他の方法にとって識別困難な状態としてもよい。例えば、図柄が手前方向に移動しているかの如く見せることとしてもよい。この場合には、図柄を拡大表示させる手法、或いは、図柄と該図柄を映す視点との距離を近づけることにより表示させる手法を採用することができる。
【0130】(d)上記実施の形態では特に言及しなかったが、前記差替えによって確定表示される図柄は、一旦停止表示された図柄とは無関係に決定されるようにしてもよいし、一旦停止表示された図柄に関連して決定されるようにしてもよい。一旦停止表示された図柄に関連して決定される場合の例としては、一旦停止表示された図柄と共通した規則性を有する図柄とすること(例えば、一旦停止図柄が奇数ばかりであれば、奇数の図柄とすること)、一旦停止表示された図柄の少なくとも1つと一致している図柄とすること(例えば、一旦停止図柄に(7)図柄17Gが含まれている場合には当該図柄17Gとすること)、3つの図柄列14?16のうち最も共通する図柄とすること(例えば、上図柄列14の一旦停止図柄が(7)図柄17Gで、中図柄列15の一旦停止図柄が(7)図柄17Gで、下図柄列16の一旦停止図柄が(6)図柄17Fであれば、(7)図柄17Gとすること)等が挙げられる。
と記載されており、さらに、段落【0130】には、差替えによって確定表示される図柄を、一旦停止した図柄に関連して決定されるようにしてもよい、との開示があり、具体的には3つの図柄列14?16のうち最も共通する図柄とすることが例示されている。すなわち、リーチ状態のとき、3つの図柄列のうち2つの図柄列が同一の図柄で停止しており、この停止した同一の図柄が最も共通する図柄といえる。よって、段落【0130】の上記記載及び、段落【0052】の「右下がりの斜めの大当たりライン上において、上図柄列14及び下図柄列16が同一の図柄17Gで停止しており、中図柄列15の図柄17A?17I,17Kが未だ変動中の状態を示している。」との記載から、リーチ状態では未だ変動中の中図柄のみを変更する、技術が開示されているものと認められる。
また、図3に図示された図柄17A?17Iの複数のキャラクタは、それぞれその名称どおりの形状で表示されている。

よって、摘記した上記の記載や図面等によれば、引用文献1には、
「各種「海の生物」のキャラクタによって構成されている図柄17A?17Iを有し、大当たりライン上にて、上図柄列14及び下図柄列16が同一の図柄17Gで停止し、かつ中図柄列15の図柄17A?17I,17Kが未だ変動中の状態をリーチ状態とし、リーチ状態では未だ変動中の中図柄のみを変更し、中図柄列15の大当たりライン上における停止図柄が上下図柄列14,16と同一の図柄であることを条件に、大当たり状態が発生させられるものであり、「奥行き再変動リーチ」のときは、3次元ポリゴンを用いて図柄17A?17I,17Kとそれを映す視点との距離を遠ざけることによって、図柄17A?17I、17Kを奥行き方向に移動しているかの如く表示を行い、図柄17A?17I,17Kを、あまりにも図柄17A?17I,17Kが小さすぎて差し替えが行われたことが遊技者には視認することができない程度に識別困難な状態にした後、図柄17A?17I,17Kの差替えを行い、その後、差替え後の図柄17A?17Iが手前方向に移動しているかの如く表示を行うことで、途中からやっと識別できるようになり、続いて図柄17A?17Iを停止表示し、大当たりの組合せが成立すると、特別電動役物が作動し、遊技者にとって有利な大当たり状態の到来となる、パチンコ機1において、
図柄17Aの「タコ」のキャラクタ、図柄17Fの「クマノミ」のキャラクタ、及び図柄17Iの「カニ」のキャラクタは、赤を主体とした着色が施されており、図柄17Bの「ハリセンボン」のキャラクタ、図柄17Dの「サメ」のキャラクタ、及び図柄17Gの「セイウチ」のキャラクタは、青及び白を主体とした着色が施されており、その他のキャラクタは、それぞれいずれのキャラクタとは異なる着色が施されており、同系色の図柄17A?17Iで差し替えられた場合に、図柄17A?17Iが元の状態に戻る直前までは、遊技者が、図柄17A?17Iを特定できないように構成された、パチンコ機1。」
の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

(2)引用発明と本願発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、
引用発明の「図柄17A?17I」は、本願発明の「複数の図柄オブジェクト」に相当し、以下同様に、
「各種「海の生物」のキャラクタによって構成されている」は「識別情報が設定された」に、
「大当たり状態」は「特別遊技状態」に、
「大当たりの組合せが成立すると、特別電動役物が作動し、遊技者にとって有利な大当たり状態の到来となる」は「前記変動表示ゲームの結果態様に関連して特定の遊技価値を付与する特別遊技状態を発生可能」に、
「パチンコ機1」は、「遊技機」に、各々相当する。
さらに、引用文献1の記載等からみて、以下のことが言える。

a.引用発明の「3次元ポリゴンを用いて図柄17A?17I,17Kとそれを映す視点との距離を遠ざけることによって、図柄17A?17I,17Kを奥行き方向に移動しているかの如く表示を行い」との記載は、図柄17A?17I,17Kを仮想三次元空間内に配置し、仮想三次元空間内で図柄17A?17I,17Kとそれを映す視点とを相対的に移動させることで距離を離す方向に変化させて、図柄17A?17I,17Kと視点との相対的な位置関係を変更することに他ならないから、引用発明と本願発明とは、「仮想三次元空間内で視点を移動させて、図柄オブジェクトと視点との距離を変化させて、図柄オブジェクトと視点との相対的な位置関係を変更する位置関係変更手段」を有する点で共通する。
また、「図柄17A?17I,17Kを奥行き方向に移動しているかの如く表示を行う」ことは、図柄17A?17I,17Kが奥行き方向に移動している状態を表示し続けるための制御を必要とするから、図柄17A?17I,17Kは、変動表示領域で変動表示を行うよう表示制御されているものと認められ、引用発明と本願発明とは、「該図柄オブジェクトに対する視点とを変動表示領域を含んで設けられた仮想三次元空間に配置し、識別情報が設定された複数の図柄オブジェクトを変動表示領域で変動表示する変動表示装置と、変動表示装置における変動表示ゲームの表示制御を行う表示制御装置とを備え」た点においても共通する。
b.引用文献1に記載された図柄17A?17Iの複数のキャラクタは、図3に図示されているように、それぞれその名称どおりの形状で表示されているので、引用発明と本願発明とは、「前記複数の図柄オブジェクトの各々には、一意の識別情報の形状が設定され」た点で共通する。
c.引用発明の「大当たりライン上において、上図柄列14及び下図柄列16が同一の図柄17Gで停止しており、中図柄列15の図柄17A?17I,17Kが未だ変動中の状態をリーチ状態とし、」について、一般に、「リーチ状態」とは、引用文献1の段落【0052】に記載されているように、大当たり直前の状態をいうものであって、引用発明においては、上図柄、中図柄、下図柄の停止図柄が同一の図柄であることを条件に、大当たり状態が発生させられるものであるから、引用発明と本願発明とは、「変動表示中の図柄オブジェクトを除いて既に停止した図柄オブジェクトが前記特別遊技の組み合わせを発生させる可能性のあるリーチ状態を発生可能に構成され」た点で共通する。
d.引用発明において「図柄17A?17I,17Kの差替えを行」うことは、本願発明の「図柄オブジェクトの形状を切り替える」ことに相当するから、引用発明は本願発明の「識別情報切替手段」に相当する構成を備えているということができる。
e.引用発明の「リーチ状態では未だ変動中の中図柄のみを変更し、」について、「奥行き再変動リーチ」のときは、図柄17A?17I、17Kの差替えを行っており、上記d.で述べたことを考え合わせると、それは、本願発明において、「リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトの形状を、前記識別情報切替手段によって異なる形状の識別情報に変更」することに相当する。

以上を総合すると、両者は、
「識別情報が設定された複数の図柄オブジェクトと、該図柄オブジェクトに対する視点とを変動表示領域を含んで設けられた仮想三次元空間に配置し、識別情報が設定された複数の図柄オブジェクトを変動表示領域で変動表示する変動表示装置と、変動表示装置における変動表示ゲームの表示制御を行う表示制御装置とを備え、前記変動表示ゲームの結果態様に関連して特定の遊技価値を付与する特別遊技状態を発生可能な遊技機において、
変動表示中の図柄オブジェクトを除いて既に停止した図柄オブジェクトが前記特別遊技の組み合わせを発生させる可能性のあるリーチ状態を発生可能に構成され、
前記複数の図柄オブジェクトの各々には、一意の識別情報の形状が設定され、
前記表示制御装置は、
仮想三次元空間内で視点を移動させて、図柄オブジェクトと視点との距離を変化させて、図柄オブジェクトと視点との相対的な位置関係を変更する位置関係変更手段と、
図柄オブジェクトの形状を切り替える識別情報切替手段とを、備え、リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトの形状を識別情報切替手段によって異なる形状の識別情報に変更する、遊技機。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「前記複数の図柄オブジェクトは、複数のグループに組分けされるとともに、前記組分けされた複数のグループ毎に共通の模様がそれぞれ付され」ているのに対し、引用発明は、各種「海の生物」のキャラクタによって構成されている図柄17A?17Iは、模様ではなく、異なる色(赤を主体としたものと、青及び白を主体としたもの)の着色によって、一部の図柄が2つのグループに組み分けされる点。
[相違点2]
本願発明は、「前記図柄オブジェクトを、当該図柄オブジェクトの形状の全て及び該図柄オブジェクトに付された模様が前記変動表示領域に表示された第1の状態と、当該図柄オブジェクトの形状が一切表示されず、当該図柄オブジェクトに付された模様のみが識別可能に変動表示領域に表示された第2の状態と、で表示可能に構成され」かつ「前記リーチ状態が発生した場合に、当該リーチ状態において既に停止している図柄オブジェクトを前記第1の状態で表示した状態で、前記位置関係変更手段によって、前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトと視点との距離を近づけることにより、当該リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトを前記第2の状態に変更し、
前記第2の状態で表示した前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトの形状を、前記識別情報切替手段によって模様を共通とするグループの、異なる形状の識別情報に変更し、
当該リーチ状態において既に停止している図柄オブジェクトを前記第1の状態で表示した状態で、前記位置関係変更手段によって、前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトと視点との距離を遠ざけることにより、当該リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトを前記第1の状態に変更する」のに対し、引用発明では、上記相違点1に加え、奥行き再変動リーチが発生した場合に、図柄17A?17I、17Kを奥行き方向に移動しているかの如く表示を行い、図柄17A?17I,17Kの差替えを行った後に差替え後の図柄17A?17Iが手前方向に移動しているかの如く表示を行っており、本願発明とは図柄(本願発明の「図柄オブジェクト」に相当)の移動方向が逆である点

(3)相違点の検討及び判断
[相違点1、2について]
相違点1は、相違点2と関連するので、あわせて検討する。
引用文献1の段落【0127】には、図柄17A?17I、17Kが奥行き方向に移動しているかの如く見せることで、識別が困難な状態とした手法に代えて、図柄17A?17I、17Kが手前方向に移動しているかの如く見せるように、すなわち、図柄と図柄を映す視点との距離を近づけることにより表示させる手法を採用してもよいことが開示されている。
しかしながら、引用発明において、図柄と図柄を映す視点との距離を近づけることにより表示させる手法を採用した場合には、リーチ状態における、(1)どの図柄(停止した図柄なのか、変動中の図柄なのか、若しくは、全ての図柄なのか)に対して図柄を映す視点との距離を近づけるのか具体的に記載がなく、さらに、(2)移動させる図柄をどの程度まで視点との距離を近づけるのか、そして、(3)図柄と図柄を映す視点との距離を近づけて図柄を差替えた後の処理についても記載がないので、この点について検討する。
まず、上記(1)について検討すると、リーチ状態における未だ変動中の中図柄のみを変更するときに、遊技者にとって最も注目される図柄は変動中の中図柄であり、確定停止した図柄を表示した状態で変動中の中図柄を拡大表示することは、特開2001?37999号公報(特に図12参照。)、特開平7?88230号公報(特に図24参照。)、特開2001?170291号公報(特に図3参照。)に記載されているように、周知の技術であるから、周知の技術に基づき未だ変動中の中図柄のみを拡大すべく、中図柄のみ、視点との距離を近づけるようにし、停止している同一の図柄(本願発明の「既に停止している図柄オブジェクト」に相当)については、形状の全て及び色を表示した状態にすることは、遊技機の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)にとって容易に想到しうることである。
次に、(2)について検討すると、差替えが行われた場合に、面白みが増すのは、差し替えられた図柄の種類を特定することが困難な場合であると段落【0124】に記載されており、図柄の形状の一部が表示された状態で差替えられた場合には、その表示された形状からどの図柄の可能性が高いのか、といった図柄の識別に役立つ情報を遊技者に与えてしまうので、図柄と該図柄を映す視点との距離を近づけたときに、図柄の形状を一切表示しないようにすることは、当業者なら当然行うべき自明な事項であるといえる。
(3)については、引用発明において、「図柄と図柄を映す視点との距離を近づけることにより表示させ」て、図柄を差替えた後に、遊技者が差替えられた図柄を確認できるように、「図柄17A?17I」の「キャラクタ」の形状の全て及び色を表示することは、当業者にとって当然行うべき自明な事項である。
また、本願発明の「前記第2の状態で表示した前記リーチ状態における変動表示中の図柄オブジェクトの形状を、前記識別情報切替手段によって模様を共通とするグループの、異なる形状の識別情報に変更し、」について、引用文献1の段落【0124】には、「同系色を有する図柄17A?17I間での差替えが行われた場合、・・・図柄17A?17Iの色彩だけでは、その種類を特定することが困難な場合が生じ、さらに面白味が増す。」との記載があるので、引用発明において、面白みを増すために、同系色を有する図柄を1つのグループとして、そのグループ内で異なる形状の図柄17A?17Iに変更することは、当業者にとって格別な困難性はない。
さらに、図柄のグループを同系色を有するもの、すなわち色を共通とするものとするか、模様を共通とするものとするかについては、いずれも、本願発明における効果、すなわち、「三次元表示の特性を生かした違和感のない図柄オブジェクトの切り替えをすることができる」(本願当初明細書段落【0126】参照)という効果を奏することは、引用文献1の段落【0124】の記載等からみても、当業者にとって明らかな事項ということができるから、当業者にとって、適宜選択しうる設計事項にすぎない。
さらに、引用発明における全ての図柄をいずれかのグループに組分けされるように図柄の模様を付することも、当業者にとって容易に想到しうることである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、周知の技術に基づき、当業者が予測できる範囲のものである。

3.むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2001-320114(P2001-320114)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 川島 陵司
井上 昌宏
発明の名称 遊技機  
代理人 後藤 政喜  

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