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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C22C
管理番号 1208475
審判番号 無効2008-800267  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-28 
確定日 2009-11-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4140046号発明「球状黒鉛鋳鉄品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4140046号に係る出願(特願平11-15842号)は、平成11年1月25日に出願され(優先日 平成10年5月1日)、その特許権の設定登録は、平成20年6月20日にされ、その後、朝日工業株式会社から無効審判が請求されたものである。以下、請求以後の経緯を整理して示す。

平成20年11月28日付け 審判請求書の提出
平成21年 2月19日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書の提出
平成21年 4月 6日付け 弁駁書の提出(請求人より)
平成21年 6月26日付け 上申書(請求人より)
平成21年 7月 1日付け 口頭審理陳述要領書、及び、口頭審理陳述要 領書(2)の提出(被請求人より)
平成21年 7月 1日付け 口頭審理陳述要領書、及び、口頭審理陳述要 領書(2)の提出(請求人より)
平成21年 7月 1日 口頭審理の実施

第2 訂正請求による訂正の適否の判断

1.訂正の内容
平成21年2月19日付けの訂正請求の内容は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所である。)

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1において、
「重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.05?3.00%、P:0.10%以下、S:0.120%以下、Cu:0.40?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.005?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度600?700N/mm^(2)、伸び3%以上、又は引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。」とあるのを、
「重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.05?3.00%、P:0.10%以下、S:0.120%以下、Cu:0.40?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.005?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2において、
「重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.30?2.50%、P:0.035%以下、S:0.120%以下、Cu:0.30?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.010?0.300、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び4%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。」とあるのを、
「重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.30?2.50%、P:0.035%以下、S:0.120%以下、Cu:0.30?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.010?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び4%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項aは、訂正前の「鋳放しで、引張り強度600?700N/mm^(2)以上、伸び3%以上、又は引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上」である「球状黒鉛鋳鉄品」を、「鋳放しで、引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上」である「球状黒鉛鋳鉄品」のみに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項bは、請求項2において、訂正前の「希土類:0.010?0.300」を、「希土類:0.010?0.300%」とすることにより、希土類の含有割合を表す「%」の記号の脱落を補うものであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.訂正の適否についての結論

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、これを認める。

第3 本件特許発明

平成21年2月19日付け訂正請求は、これを容認することができるから、本件特許の請求項1?6に係る発明は、平成21年2月19日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.05?3.00%、P:0.10%以下、S:0.120%以下、Cu:0.40?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.005?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項2】
重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.30?2.50%、P:0.035%以下、S:0.120%以下、Cu:0.30?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.010?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び4%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項3】
希土類の添加量は重量比でSの1.5?5.0倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項4】
Mn%+Cu%の合計が重量比で1.20?2.80%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項5】
重量比でMoを0.3%以下含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項6】
鋳鉄品はカプラーナットであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の球状黒鉛鋳鉄品。」
(以下、本件特許の請求項1?6に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)

第4 請求人の主張の概要

請求人は、本件特許発明1?6についての特許を無効とする、審判請求の費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、本件特許発明1?6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するとの理由(以下の無効理由1?6)により無効とすべきものであると主張し、証拠方法として平成20年11月28日付けの審判請求書に添付して、以下の甲第1号証乃至甲第5号証を提出し、その後、平成21年4月6日付けの弁駁書に添付して、以下の甲第6号証、甲第7号証を提出し、さらに、平成21年6月26日付けの上申書に添付して、以下の甲第1号証の2?甲第5号証の2を提出した。
なお、以下の無効理由1?6は、平成21年7月1日に実施された口頭審理において両当事者において確認されている。

1.無効理由1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

2.無効理由2
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

3.無効理由3
本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

4.無効理由4
本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

5.無効理由5
本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

6.無効理由6
本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものである。

[証拠方法]
甲第1号証;JISハンドブック1-1 鉄鋼I 用語/検査・試験/特殊 用途鋼/鋳鍛造品/その他(JIS G 5502(1995 ))の表紙、第758頁?第763頁
甲第2号証;研究報告39「球状黒鉛鋳鉄の材質高級化に関する研究(球状 黒鉛鋳鉄の材質高級化研究部会報告)」 昭和60年9月、表 紙、目次、第7?10頁(表1 研究発表の題目、発表者一覧 )、第191頁?第194頁、社団法人 日本鋳物協会 球状 黒鉛鋳鉄の材質高級化研究部会
甲第3号証;鋳物 第57巻 第12号 1985年、26頁?31頁
甲第4号証;鋳物 第64巻 第10号 1992年、693頁?698頁甲第5号証;研究報告77「球状黒鉛鋳鉄の高性能化と生産管理システムに 関する研究」 平成10年4月、表紙、目次、第3頁(3.研 究発表者・発表題目一覧)、第36頁?第44頁、第56頁? 第63頁、社団法人 日本鋳造工学会 鋳鉄材料研究部会
甲第6号証;JIS G 5502-1961、昭和36年9月10日、昭 和37年7月5日、1頁?3頁、解説頁
甲第7号証;JIS G 5502-1995、平成7年7月1日、表紙、 1頁?4頁、6頁?13頁
甲第1号証の2;甲第1号証の1996年4月20日発行を示す奥付 甲第2号証の2;甲第2号証の昭和60年9月15日発行を示す奥付 甲第3号証の2;甲第3号証の昭和60年12月25日発行を示す裏表紙
甲第4号証の2;甲第4号証の平成4年10月25日発行を示す裏表紙
甲第5号証の2;甲第5号証の平成10年3月30日発行を示す裏表紙

第5 被請求人の主張の概要

被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、平成21年2月19日付けの答弁書に添付して、以下の乙第1号証を提出している。

乙第1号証;金属便覧(昭和57年12月20日、編者:社団法人日本金属学会、発行所:丸善株式会社)の表紙、第856頁、第857頁、奥付

第6 証拠の記載事項

1.甲第1号証の記載事項
(1-1)「1.適用範囲 この規格は,球状黒鉛鋳鉄品(以下、鋳鉄品という。)について規定する。」

(1-2)「4.化学成分 鋳鉄品は,特に必要がある場合,11.4の試験を行い,その化学成分は,受渡当事者間の協定による。
なお,参考として主な化学成分の範囲を参考表1に示す。」

(1-3)「5.機械的性質 鋳鉄品は,11.5の試験を行い,その引張強さ,耐力,伸び及びシャルピー吸収エネルギーは,表2,表3による。ただし,耐力は,注文者の要求がある場合に適用する。
なお,参考として硬さの値と基地組織を示す。」

(1-4)「参考表1 化学成分 単位%
種類の記号 C Si Mn P S Mg
FCD350-22 2.5以上 2.7以上 0.4以下 0.08以下 0.02以下 0.09以下
FCD350-22L 〃 〃 〃 〃 〃 〃
FCD400-18 〃 〃 〃 〃 〃 〃
FCD400-18L 〃 〃 〃 〃 〃 〃
・・・
FCD700-2 〃 - - - 〃 〃
FCD800-2 〃 - - - 〃 〃 」
(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下同様)

(1-5)「表2 別鋳込み供試材の機械的性質
種類の記号 引張強さ・・・伸び・・・(参考)
N/mm^(2) % 基地組織
FCD350-22 350以上 22以上 フェライト
FCD350-22L 〃 〃 〃
FCD400-18 400以上 18以上 〃
FCD400-18L 〃 〃 〃
・・・
FCD700-2 700以上 2以上 パーライト
FCD800-2 800以上 〃 パーライト又は焼戻し組織 」

2.甲第2号証の記載事項
(2-1)「1.まえがき
・・・Fe-Si-Mg合金中に微量のREやCaを含有している球状化剤を用いて処理した試料の黒鉛粒数がかなり増加していることを見出した。そこで,これらのRE,Caの効果を確認し,最適な範囲を確認するためにFe-Si-Mg(8%)合金にRE,Caを単味あるいは複合で添加することにより,黒鉛粒数におよぼす影響を調べた。」(191頁の「1.まえがき」の4行?8行)

(2-2)「2.実験方法
試験に供した原材料の化学組成を表1に示し,表2に黒鉛球状化剤および添加合金の化学組成を示した。
[実験項目]
(i)試験の目標組成;C:3.8%,Si:2.2%,
・・・
(V)球状化剤添加量;Fe-Si-Mg合金は1.6%一定量とし,これにREは0.004?0.15%,・・・の範囲でRE-Si・・・の形で添加。」(191?192頁の「2.実験方法」)

3.甲第3号証の記載事項
(3-1)「1.緒言
・・・球状黒鉛鋳鉄の黒鉛粒数の増加に対して希土類元素(RE)の添加が有効に働くことが知られており,著者らも,前述の実験を行う過程で,球状化剤中に含まれる微量のREやCaが黒鉛粒数に影響を与えることを見いだした。」(26頁)

(3-2)「2.実験方法
球状黒鉛鋳鉄用銑(C 4.19%,Si 1.58%,Mn 0.20%,P 0.06%,S 0.024%),Fe-Si(75.5%)及び電解鉄を用い,3kHz,12kWの高周波電気炉により,アルミナ・ライニングを施した6番黒鉛るつぼ中で1回の溶解量を3kgとし,目標C 3.8%,最終Si 2.2%,Mn,P,Sについては銑鉄と同じになるように溶湯の成分調整を行った。黒鉛の球状化にはRE,Caを含まないFe-Si-Mg合金(Si 45.05%,Mg 7.76%)を用い,溶湯温度1,530℃でこれの1.6%一定量をサンドイッチ法で添加した。なお,RE,Caを添加する場合には,RE-Si(Si 34.4%,RE 32.5%),Ca-Si(Si 61.3%,Ca 30.6%)をそれぞれの添加量に応じて球状化剤に単味あるいは複合で混合した。反応終了後,Fe-Si 0.4%で接種し,1,400℃で,縦横が60×60mm,肉厚3,6,9mmの階段状試験片(CO_(2)型)に注湯した。」(26頁?27頁)

4.甲第4号証の記載事項
(4-1)「1.緒言
片状黒鉛鋳鉄の機械的性質は,・・・パーライト量が多いほど,またパーライト層間げきがち密になるほど強度は向上する。基地を強化するためにはパーライト安定化元素または炭化物の生成を促進する元素を添加するのが有効である。しかし、このような元素を添加すると,一般にチル化傾向が増大する問題点がある。
前報では元湯の硫黄(S)量と化学量論的な希土類元素(RE)を添加することにより,黒鉛化が著しく促進し,チル化傾向が大幅に低減されること,・・・また基地を強化するには炭化物の生成を促進する元素であるCr,Vとパーライト安定化元素であるSn,Cuなどを添加するのが有効であると報告されている。」(693頁)

(4-2)「2.実験方法
・・・目標組成がC 3.3%,Si 1.8%,Mn 0.57%,P 0.08%,S 0.1%になるように溶湯を溶製した。溶湯の成分調整を行った後,Fe-V(83.8%),Fe-Cr(60.1%)と純Cu(99.99%)をそれぞれの添加量に応じて添加した。最高溶解温度を1723Kとし,1703KでREをミッシュメタル(Ce 48.05%,La 31.94%,Nd 15.08%,Pr 4.55%)で0.2%直接添加し,1673Kで接種しないまφ5,φ20,φ30×50mmの金型,C3号板チル試験用のシェル型とφ30×300mmmのCO_(2)型に注湯した。」(693頁?694頁)

(4-3)「3.実験結果及び考察
3.1 V,Cr及びCuの影響
・・・Cu添加した試料では,RE無添加の試料でクリアチルが多少減少するが,RE添加した試料では,いずれの試料とも無チルとなっている。Cuは鋳鉄のパーライト化促進元素であるが,凝固時において弱い黒鉛作用をもつため,Cuを多量添加することによってチル深さが減少したものと思われる。」(694頁)

(4-4)「各元素添加量による引張強さの変化をFig.7に示す。REを0.2%添加した試料ではRE無添加の試料より引張強さが全般に高くなっている。・・・
REを0.2%添加した場合は,Cu1.2%添加した試料で引張強さが無添加試料の268MPaから310MPaまで向上・・・した。
・・・Cuを添加すると引張強さがある程度向上し,さらにチル深さには全く影響しない。したがって,CuとV及びCuとCrの複合添加により,チル深さが増加せず引張強さをさらに向上させることができるものと考えられる。・・・
Fig.9にRE0.2%添加した試料のCuとV及びCuとCrの複合添加による引張強さの変化を示す。」(695頁?696頁)

5.甲第5号証の記載事項

(5-1)「2.実験方法
球状黒鉛鋳鉄用銑(C 4.10%,Si 1.66%,Mn 0.21%,P 0.055%,S 0.021%)、Fe-Si(75.5%)及び電解鉄などを用い、3KHz,12KWの高周波誘導電気炉により、黒鉛るつぼ中で、一回の溶解量を3kgとし,目標C 3.8%,最終Si 2.2%,Mn,Pは銑鉄と同じになるように、また、Sは0.021%、0.08%と2水準になるように成分調整を行った。
球状化処理剤にはFe-Si-Mg(Mg8.20%)合金を用い、各希土類元素の添加には99.5%の各希土類金属を使用した。
溶湯温度1530℃でFe-Si-Mg合金1.6%を添加し、球状化処理を行った。」(36頁)

(5-2)「発光分光分析法による取鍋分析値をTable1に示す。 溶解原料は,銑鉄,電磁鋼板及びFe-75Siを用いた。 球状化及び接種には,Fe-Si-5.5Mg-1.5RE及びFe-75Si-2Ca-Tr.Baを用い,各々1.2%及び0.4%添加した。 鋳放し後,823K×4hの歪取り焼鈍を実施した。」(56頁)

(5-3)「Table 1 Chemical composition of specimen for mapping
analysis Chemical composition (mass%)
C:3.53、Si:2.31、Mn:0.27、P:0.037、
S:0.010、Ca:0.0027、Ce:0.016、
Mg:0.051」(56頁)

第7 当審の判断

1.無効理由1について

1-1.甲第1号証発明1の認定

ア)甲第1号証の(1-1)に記載の「球状黒鉛鋳鉄品」について、(1-2)、(1-4)には、「FCD700-2」という種類の記号を有する鋳鉄品が、Cを2.5%以上、Sを0.02%以下、Mgを0.09%以下の化学成分を含有することが記載されている。
また、「鋳鉄は鉄と炭素の合金に,Si,Mn,P,Sその他の合金元素や不純物が含まれた複雑な多元系合金である」ことが技術常識である(「鋳造工学 137頁、昭和46年8月20日、社団法人 日本金属学会発行」参照)から、(1-4)の「FCD700-2」のSi、Mn、Pの化学成分の欄に記載された「-」の記号は、それらの化学成分範囲を限定することなく含有することを意味すると解されるとともに、(1-3)、(1-5)には、「FCD700-2」は、引張強さが700N/mm^(2)以上、伸びが2%以上であることが記載されている。
以上によると、甲第1号証には、「C:2.5%以上、S:0.02%以下、Mg:0.09%以下を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、引張強さが700N/mm^(2)以上、伸びが2%以上である球状黒鉛鋳鉄品」が記載されているといえる。

イ)そして、前記鋳鉄品の成分比は、炭素の成分比からみて重量比であることは明らかであり、また、鋳鉄品の主成分はFeであるから、前記C、S、Mg、Si、Mn、およびP以外の残り、すなわち、残部に主成分としてFeを含むことも明らかである。

ウ)以上によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「重量比でC:2.5%以上、S:0.02%以下、Mg:0.09%以下を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、残部に主成分としてFeを含み、引張強さが700N/mm^(2)以上、伸びが2%以上である球状黒鉛鋳鉄品」(以下、「甲第1号証発明1」という。)

1-2.対比

本件特許発明1と甲第1号証発明1とを対比すると、甲第1号証発明1の「引張強さ」は、本件特許発明1の「引張り強度」に相当するから、両発明は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

一致点:「重量比でC:3.20?4.00%、S:0.120%以下、Mg:0.02?0.08%を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、残部にFeを含み、引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上である球状黒鉛鋳鉄品。」

相違点1:本件特許発明1は、「Si:2.00?3.20%、Mn:0.05?3.00%、P:0.10%以下」、「Cu:0.40?2.00%」、「希土類:0.005?0.300%」を含有し、「残部Fe」であり、「鋳放しで」引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上であるのに対し、甲第1号証発明1は、Si、Mn、Pの具体的な成分比について、また、残部の主成分Fe以外の成分として、Cu、希土類を含有するものであるかについては不明であり、鋳放しで前記引張り強度及び伸びであるのか不明である点。

1-3.判断

ア)本件特許発明1と甲第1号証発明1とが属する鋳鉄品の技術分野において、「鋳鉄」が複雑な「多元系合金」であることは、前記「1-1 ア)」に示す技術常識であるところ、例えば、金属材料技術用語辞典(金属材料技術研究所編 178頁、昭和63年11月20日、日刊工業新聞社発行)に記載されるように、合金とは、「2種以上の金属元素,あるいは金属元素と金属以外の元素から成り,金属的な性質を示す物質をいう。金属組織学的には,成分元素が原子オーダーで混り合った固溶体,成分元素同志の化合物(金属間化合物)とそれらの混合物から成り,成分元素がこれに加わることもある。組成が全く同じ合金でも,温度により合金を構成する相の量や形態が異なるので,熱処理の方法によって性質が大きく変わることが多い」ものである。
したがって、合金を構成する成分元素やその添加量(組成)によって合金の性質が影響を受けることはもちろんであるが、組成が全く同じ合金であっても、熱処理の方法によって相の量や形態(組織)が影響を受けるから、合金の成分元素やその添加量が異なり、かつ、熱処理の方法によって組織が異なる場合に、合金の性質にどのような影響を与えるかについては、一般的に予測可能性が極めて低いものであるということができるし、鋳鉄品の合金についても、同様のことがいえる。

イ)甲第2号証、甲第3号証、及び、甲第5号証には、球状黒鉛鋳鉄に関し、それぞれ、甲第2号証の(2-1)及び(2-2)によれば、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mg:0.128%、希土類及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」が、甲第3号証の(3-1)及び(3-2)によれば、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mn:0.20%、P:0.06%、S:0.024%、Mg:0.124%、希土類及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」が、また、甲第5号証の(5-1)?(5-3)によれば、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mn:0.21%、P:0.055%、S:0.021%または0.08%、Mg:0.131%、希土類、及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」及び「重量比でC:3.53%、Si:2.31%、Mn:0.27%、P:0.037%、S:0.010%、Ca:0.0027%、Ce:0.016%、Mg:0.051%、及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」が記載されていると認められる。
また、甲第2、3、5号証の上記記載によれば、希土類元素は、黒鉛球状化剤に添加されて用いられ、さらに、甲第2、3号証の記載によれば、黒鉛球状化剤に添加された希土類元素は、黒鉛粒数に影響をおよぼす元素であることが理解できる。
そうすると、本件特許発明1とSi、Mn、および、Pの重量比において重複し、黒鉛粒数に影響をおよぼす元素として希土類元素を含有する球状黒鉛鋳鉄は、出願前に知られていたとすることはできるものの、甲第2、3、5号証は、希土類元素の添加による球状黒鉛鋳鉄の引張り強度や伸びとの関連については、何ら示唆するところがない。
また、Cuを含有する球状黒鉛鋳鉄についても、甲第2、3、5号証には記載も示唆もない。

したがって、甲第1号証発明1の球状黒鉛鋳鉄において、甲第2、3、5号証に記載の量のSi、Mn、Pを含有し、かつ黒鉛粒数に影響をおよぼす元素として希土類元素を含有するものとしても、Cuを含有し、鋳放しで、引張り強さ700N/mm^(2)以上、伸び2%以上の球状黒鉛鋳鉄とすることは、甲第2、3、5号証の記載事項及び技術常識を加味しても、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

ウ)ここで、Cuの添加に関して、甲第4号証の(4-1)?(4-4)には、重量比でC;3.3%、Si;1.8%、Mn;0.57%、P;0.08%、S;0.1%、残部Feの片状黒鉛鋳鉄に対して、重量比でRE、すなわち、希土類元素を0.2%、Cuを1.2%添加することにより、引張強さが無添加試料では268MPa、すなわち、268N/mm^(2)であったものが310MPa、すなわち、310N/mm^(2)まで向上したことが記載されている。
しかし、前記ア)においてすでに指摘したように、合金とは、その成分組成及び組織によって、その性質がどのように変化するかについては、予測可能性の極めて低い分野に属する技術であるところ、甲第4号証に記載された片状黒鉛鋳鉄におけるSiの重量比1.8%は、甲第2、3、5号証に記載されたSiの重量比2.2%、又は、2.31%と相違するから、Cuの添加の有無を除いても甲第2、3、5号証に記載された合金組成と甲第4号証に記載された合金組成は一致しない。
しかも、甲第4号証に記載された片状黒鉛鋳鉄とは、ねずみ鋳鉄ともいわれるもので、鋳鉄の凝固組織中に片状の黒鉛組織を生じるものであるから、球状の黒鉛組織を生じる甲第1号証発明1や、甲第2、3、5号証に記載された球状黒鉛鋳鉄とは、黒鉛組織を異にするものであって、JIS規格で規定される引張強さは、高々100N/mm^(2)以上から最大で350N/mm^(2)程度(「JIS G 5501-1995 ねずみ鋳鉄品」参照)であるから、700N/mm^(2)以上の引張強さとなり得る甲第1号証発明1と、その性質も大いに異なるものである。
さらに、引張強さの上昇に相反して減少する関係にあることが一般的に知られている伸びに関して、甲第4号証には、Cuの添加を行った際に、引張強さの上昇に対して、どの程度の伸びを確保できるかについては何ら記載も示唆もないのであるから、このような伸びの確保に関して記載も示唆もないCuの添加技術を甲第1号証発明1に適用することは当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

したがって、甲第1号証発明1の球状黒鉛鋳鉄において、甲第2、3、5号証に記載の量のSi、Mn、Pを含有し、かつ黒鉛粒数に影響をおよぼす元素として希土類元素を含有するものとすることまでは、当業者が容易に想到し得るとしても、これにさらに甲第4号証記載の量のCuを含有するものとし、鋳放しで、引張り強さ700N/mm^(2)以上、伸び2%以上の球状黒鉛鋳鉄とすることは、甲第2号証?甲第5号証の記載事項及び技術常識を加味しても、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

エ)以上のとおり、前記相違点1は、甲第1号証発明1に、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証発明1に、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2.無効理由2について

2-1.甲第1号証発明2の認定

ア)甲第1号証の(1-1)に記載の「球状黒鉛鋳鉄品」について、(1-2)、(1-4)には、「FCD800-2」という種類の記号を有する鋳鉄品が、Cを2.5%以上、Sを0.02%以下、Mgを0.09%以下の化学成分を含有することが記載されている。
また、前記「1-1.ア)」に記載したとおり、「鋳鉄は鉄と炭素の合金に,Si,Mn,P,Sその他の合金元素や不純物が含まれた複雑な多元系合金である」ことが技術常識であるから、(1-4)の「FCD800-2」のSi、Mn、Pの化学成分の欄に記載された「-」の記号は、それらの化学成分範囲を限定することなく含有することを意味すると解されるとともに、(1-3)、(1-5)には、「FCD800-2」は、引張強さが800N/mm^(2)以上、伸びが2%以上であることが記載されている。
以上によると、甲第1号証には、「C:2.5%以上、S:0.02%以下、Mg:0.09%以下を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、引張強さが800N/mm^(2)以上、伸びが2%以上である球状黒鉛鋳鉄品」が記載されているといえる。

イ)そして、前記「1-1.イ)」に記載したとおり、前記鋳鉄品の成分比は、炭素の成分比からみて重量比であり、また、鋳鉄品の残部に主成分としてFeを含むことも明らかである。

ウ)以上によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「重量比でC:2.5%以上、S:0.02%以下、Mg:0.09%以下を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、残部に主成分としてFeを含み、引張強さが800N/mm^(2)以上、伸びが2%以上である球状黒鉛鋳鉄品」(以下、「甲第1号証発明2」という。)

2-2.対比

本件特許発明2と甲第1号証発明2とを対比すると、甲第1号証発明2の「引張強さ」は、本件特許発明2の「引張り強度」に相当するから、両発明は、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

一致点:「重量比でC:3.20?4.00%、S:0.120%以下、Mg:0.02?0.08%を含有し、さらに、Si、Mn、Pを含有し、残部にFeを含み、引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び2%以上である球状黒鉛鋳鉄品。」

相違点2:本件特許発明2は、「Si:2.00?3.20%、Mn:0.30?2.50%、P:0.035%以下」、「Cu:0.30?2.00%」、「希土類:0.010?0.300%」を含有し、「残部Fe」であり、「鋳放しで」引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び4%以上であるのに対し、甲第1号証発明2は、Si、Mn、Pの具体的な成分比について、また、残部の主成分Fe以外の成分として、Cu、希土類を含有するものであるかについては不明であり、鋳放しで前記引張り強度及び伸びであるのか不明である点。

2-3.判断

ア)本件特許発明2と甲第1号証発明2とが属する鋳鉄品の技術分野において、「鋳鉄」が複雑な「多元系合金」であることは、前記「1-1.ア)」に示す技術常識であり、また、ここで、合金とは、前記「1-3.ア)」にて説明したとおりのものであるから、その成分組成及び組織によって、その性質がどのように変化するかについては、予測可能性の極めて低い分野に属する技術であり、鋳鉄品の合金についても、同様のことがいえる。

イ)甲第2号証、甲第3号証、及び、甲第5号証には、前記「1-3.イ)」に記載したとおり、球状黒鉛鋳鉄に関し、それぞれ、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mg:0.128%、希土類及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mn:0.20%、P:0.06%、S:0.024%、Mg:0.124%、希土類及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」、「重量比でC:3.8%、Si:2.2%、Mn:0.21%、P:0.055%、S:0.021%または0.08%、Mg:0.131%、希土類、及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」及び「重量比でC:3.53%、Si:2.31%、Mn:0.27%、P:0.037%、S:0.010%、Ca:0.0027%、Ce:0.016%、Mg:0.051%、及び残部Feの球状黒鉛鋳鉄」が記載されていると認められる。
また、甲第2、3、5号証の上記記載によれば、希土類元素は、黒鉛球状化剤に添加されて用いられ、さらに、甲第2、3号証の記載によれば、黒鉛球状化剤に添加された希土類元素は、黒鉛粒数に影響をおよぼす元素であることが理解できる。
そうすると、本件特許発明1とSi、Mn、および、Pの重量比において重複し、黒鉛粒数に影響をおよぼす元素として希土類元素を含有する球状黒鉛鋳鉄は、出願前に知られていたとすることはできるものの、甲第2、3、5号証は、希土類元素の添加による球状黒鉛鋳鉄の引張り強度や伸びとの関連については、何ら示唆するところがない。
また、Cuを含有する球状黒鉛鋳鉄についても、甲第2、3、5号証には記載も示唆もない。

したがって、甲第1号証発明2の球状黒鉛鋳鉄において、甲第2、3、5号証に記載の量のSi、Mn、Pを含有し、かつ黒鉛粒数に影響をおよぼす元素として希土類元素を含有するものとしても、Cuを含有し、鋳放しで、引張り強さ800N/mm^(2)以上、伸び4%以上の球状黒鉛鋳鉄とすることは、甲第2、3、5号証の記載事項及び技術常識を加味しても、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

ウ)Cuの添加に関して、前記「1-3.ウ)」に記載したとおり、甲第4号証に、重量比でC;3.3%、Si;1.8%、Mn;0.57%、P;0.08%、S;0.1%、残部Feの片状黒鉛鋳鉄に対して、重量比で希土類元素を0.2%、Cuを1.2%添加することにより、引張強さが無添加試料では268N/mm^(2)であったものが310N/mm^(2)まで向上したことが記載されている。
しかし、前記「1-3.ア)」においてすでに指摘したように、合金とは、その成分組成及び組織によって、その性質がどのように変化するかについては、予測可能性の極めて低い分野に属する技術であるところ、甲第4号証に記載された片状黒鉛鋳鉄におけるSiの重量比1.8%は、甲第2、3、5号証に記載されたSiの重量比2.2%、又は、2.31%と相違するから、Cuの添加の有無を除いても甲第2、3、5号証に記載された合金組成と甲第4号証に記載された合金組成は一致しない。
しかも、甲第4号証に記載された片状黒鉛鋳鉄とは、前記「1-3.ウ)」にて説明したとおり、球状の黒鉛組織を生じる甲第1号証発明2や、甲第2、3、5号証に記載された球状黒鉛鋳鉄とは、黒鉛組織を異にするものであって、JIS規格で規定される引張強さは、高々100N/mm^(2)以上から最大で350N/mm^(2)程度(「JIS G 5501-1995 ねずみ鋳鉄品」参照)であるから、800N/mm^(2)以上の引張強さとなり得る甲第1号証発明2と、その性質も大いに異なるものである。
さらに、引張強さの上昇に相反して減少する関係にあることが一般的に知られている伸びに関して、甲第4号証には、Cuの添加を行った際に、引張強さの上昇に対して、どの程度の伸びを確保できるかについては何ら記載も示唆もないのであるから、このような伸びの確保に関して記載も示唆もないCuの添加技術を甲第1号証発明2に適用することは当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

したがって、甲第1号証発明2の球状黒鉛鋳鉄において、甲第2、3、5号証に記載の量のSi、Mn、Pを含有し、かつ黒鉛化剤として希土類元素を含有するものとすることまでは、当業者が容易に想到し得るとしても、これにさらに甲第4号証記載の量のCuを含有するものとし、鋳放しで、引張り強さ800N/mm^(2)以上、伸び4%以上の球状黒鉛鋳鉄とすることは、甲第2号証?甲第5号証の記載事項及び技術常識を加味しても、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

エ)以上のとおり、前記相違点2は、甲第1号証発明2に、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものとすることはできない。
よって、本件特許発明2は、甲第1号証発明2に、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3.無効理由3?6について

本件特許発明3?6のそれぞれと、甲第1号証発明1または甲第1号証発明2とを対比すると、本件特許発明3?6のそれぞれと、甲第1号証発明1とは、前記1-2.の相違点1において相違し、また、甲第1号証発明2とは、前記2-2.の相違点2において相違するものであるが、前記1-3.及び前記2-3.において検討したとおり、前記相違点1は、甲第1号証発明1と甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に成し得たものとすることができず、また、前記相違点2は、甲第1号証発明2と甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に成し得たものとすることができないのであるから、本件特許発明3?6についても、甲第1号証発明1と甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証発明2と甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に成し得たものとすることができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1?本件特許発明6についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
球状黒鉛鋳鉄品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.05?3.00%、P:0.10%以下、S:0.120%以下、Cu:0.40?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.005?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度700N/mm^(2)以上、伸び2%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項2】重量比でC:3.20?4.00%、Si:2.00?3.20%、Mn:0.30?2.50%、P:0.035%以下、S:0.120%以下、Cu:0.30?2.00%、Mg:0.02?0.08%、希土類:0.010?0.300%、残部Feからなり、鋳放しで、引張り強度800N/mm^(2)以上、伸び4%以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項3】希土類の添加量は重量比でSの1.5?5.0倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項4】Mn%+Cu%の合計が重量比で1.20?2.80%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項5】重量比でMoを0.3%以下含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の球状黒鉛鋳鉄品。
【請求項6】鋳鉄品はカプラーナットであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の球状黒鉛鋳鉄品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-09-04 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-29 
出願番号 特願平11-15842
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 守安 太郎
山本 一正
登録日 2008-06-20 
登録番号 特許第4140046号(P4140046)
発明の名称 球状黒鉛鋳鉄品  
代理人 鈴木 正次  
代理人 川上 肇  
代理人 川上 肇  
代理人 山本 典弘  
代理人 川上 肇  
代理人 涌井 謙一  
代理人 鈴木 一永  

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