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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1208567
審判番号 不服2006-10465  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-22 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 特願2001-391073「FABI」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月10日出願公開、特開2002-253281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、平成9年8月28日(パリ条約に基づく優先権主張1996年8月28日、米国)に出願された特願平9-273231号の一部を新たな特許出願として、平成13年12月25日に出願されたものであって、平成18年2月16日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年5月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。



2.本願発明1について
本願の請求項1に係る発明は、平成18年6月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」という。)。

「【請求項1】
(a)配列番号2に示されたアミノ酸配列と全長にわたって少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(b)(a)のポリヌクレオチドと相補的であるポリヌクレオチド
からなる群から選択された1成分を有してなる単離ポリヌクレオチド。」



3.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由となった、平成17年6月23日付けで通知した拒絶理由の概要は、この出願の発明は、特許法第29条第1項柱書きに規定する要件を満たしておらず(理由1)、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(理由2)、というものである。



4.特許法第29条第1項柱書きに規定する要件についての判断
本願発明1は、上述のとおりの「配列番号2に示されたアミノ酸配列と全長にわたって少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド」に係るものであり、それは、「エシェリヒア・コリ(E.coli)FabIエノイル-ACPレダクターゼおよび前記のものの既知アミノ酸配列間の相同性により新規FAB Iとして同定されたポリペプチド」(【0012】段落)であって、FAB Iとは、「細菌による脂肪酸生合成の各サイクルに関与する4工程の反応の最終工程でエノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼ(・・・)として機能する。」(【0003】段落)というものである。

知財高裁平成17年10月19日判決・平成17年(行ケ)第10013号は、遺伝子等の化学物質の発明について、「一般に,化学物質の発明は,新規で,産業上利用できる化学物質(すなわち有用性のある化学物質)を提供することにその本質があると解されるが,その化学物質が遺伝子等の,元来,自然界に存在する物質である場合には,単に存在を明らかにした,確認したというだけでは発見にとどまるものであり,自然界に存在した状態から分離し,一定の加工を加えたとしても,物の発明としては,いまだ産業上利用できる化学物質を提供したとはいえないものというべきであり,その有用性が明らかにされ,従来技術にない新たな技術的視点が加えられることで,初めて産業上利用できる発明として成立したものと認められるものと解すべきである」(第5 2(1)ア)と判示し、そのような有用性については「机上の理論などであってはならないから,実際に試験することによって明らかにされることが原則である」(第5 2(2)ア)と判示した。
したがって、遺伝子等の化学物質の発明については、「その有用性が明らかにされ、従来技術にない新たな技術的視点が加えられ、かつそれが実際に確認されることで、初めて産業上利用できる発明として成立した」ということができるのであり、そうでなければ、産業上利用できる発明として成立した」ということができないのである。

一方、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが、エノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼとして機能する根拠として本願明細書に記載されていることは、「本発明のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)FAB Iは、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(M.tuberculosis)を含むマイコバクテリア全体に高度保存されているマイコバクテリア性タンパク質、InhAと54%の類似性を示す。エシェリヒア・コリ(E.coli)Fab Iは、ブラッシカ・ナプス(Brassica napus)(菜種)エノイル-ACPレダクターゼとは34%の同一性、57%の類似性を示すことが見いだされ、本発明のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)FAB Iもまた34%の同一性、57%の類似性を示した。さらに、本発明のFAB Iは、エシェリヒア・コリ(E.coli)とは252アミノ酸にわたって44%の同一性、64%の類似性を有することが見いだされた。本発明のFAB Iは、哺乳類2,4-ジエノイル-補酵素Aレダクターゼとの同一性は27%に過ぎず、類似性は48%である。」(【0010】段落)、「推定分子量が約27.99kDaである約256アミノ酸残基のタンパク質をコードする読み取り枠を含む。このタンパク質は、既知タンパク質の中でもエシェリヒア・コリ(E.coli)Fab Iタンパク質と最大の相同性を呈する。図1[配列番号2]のFAB Iは、エシェリヒア・コリ(E.coli)エノイル(ACP)レダクターゼ(Fab I)、スイスプロット受け入れ番号P29132のアミノ酸配列とは約44%の同一性および約64%の類似性を有する。」(【0067】段落)というものである。
そして、本願明細書においては、エノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼの活性確認方法は実施例2に記載されているものの、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが、実際にエノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼの活性を示すものであったことを確認したことは記載されていない。

すなわち、発明の詳細な説明に記載された本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの機能は、いずれも具体的実験により確認されたものではなく、そのアミノ酸配列と従来知られているアミノ酸配列との比較により、予測されたものである。そして、あるポリペプチドのアミノ酸配列が異なればその機能が失われ、あるいは変更されることがあることは技術常識であるから、このような予測された機能に基づいて本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの有用性を認めるためには、少なくともその予測が十分に信頼できるものであることが必要である。十分な技術開示の代償に保護を与えるという特許制度の趣旨によれば、このことは当然である。

そこで、この点について検討する。

本願の発明の詳細な説明に記載された、機能予測の根拠となる配列の相同性については、マイコバクテリア性タンパク質、InhAと54%の類似性、ブラッシカ・ナプス(Brassica napus)(菜種)エノイル-ACPレダクターゼとは34%の同一性、57%の類似性、エシェリヒア・コリ(E.coli)とは252アミノ酸にわたって44%の同一性、64%の類似性、哺乳類2,4-ジエノイル-補酵素Aレダクターゼとの同一性は27%に過ぎず、類似性は48%であるなどの記載にとどまり、これらの配列の同一性は約30?44%、類似性ですら最大64%と、同じ機能と推定できるほど配列相同性が高いとはいえない。
したがって、本願明細書の当該記載は、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドがエノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼであるということを具体的実験による確認に代わる程度に十分信頼できるに足る根拠であるとすることはできない。

上記、知財高裁平成17年10月19日判決・平成17年(行ケ)第10013号の判示のとおり、物がポリヌクレオチドあるいはポリペプチドのような化学物質である場合には、それにどのような有用性(機能)があるかが明細書に記載され、あるいは明細書の記載から類推できなければ、その化学物質をどのような産業上の利用ができるかについて記載されていないことになるが、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの有用性が具体的実験による確認、又はそれに代わる程度に明らかにされているとはいえないから、それをコードするポリヌクレオチドである本願発明1についてもまたどのような産業上の利用ができるかについて記載されていたとはいえない。

また、本願発明1に係る発明は、「配列番号2に示されたアミノ酸配列からなるポリペプチド」だけではなく、「配列番号2に示されたアミノ酸配列と全長にわたって少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド」をコードするポリヌクレオチドを含むものであり、これは、本願明細書に記載されているとおり、「FAB I変種、類似体、誘導体およびフラグメント、およびフラグメントの変種、類似体および誘導体をコードするポリヌクレオチド」を含むのであり、「これらは図1[配列番号2]のFAB Iポリペプチドのアミノ酸配列を有するが、数個、少数個、5?10、1?5、1?3、2、1または0個のアミノ酸残基が関与する置換、欠失または付加が組み合わされて存在する。」とされ、「これらの中で特に好ましいのは、FAB Iの特性および活性を改変しないサイレント置換、付加または欠失である」(【0075】,【0092】,【0093】段落)であるから、発明に含まれるもののうち、「特に好ましい」ものでないものとしてFAB Iの特性および活性を改変する置換、付加または欠失を有するポリペプチドを含むのである。
本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドがエノイル-アシル担体タンパク質(ACP)レダクターゼであることが裏付けられていないことは上述のとおりであるが、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドとしてさらにその活性の改変や機能の喪失が想定される変種の有用性、すなわち変種をコードするポリヌクレオチドの有用性が類推できないことは明らかである。

したがって、本願発明1は、産業上利用することができる発明であるとはいえず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。



5.特許法第36条第4項に規定する要件についての判断
特許法第36条第4項に規定する要件を満たすためには、当業者がその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載しなければならないところ、「その実施をすることができる」とは、「物」の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。
上述の知財高裁平成17年10月19日判決・平成17年(行ケ)第10013号は、遺伝子等の化学物質の発明について、さらに「遺伝子関連の化学物質発明においてその有用性が明らかにされる必要があることは,明細書の発明の詳細な説明の記載要領を規定した特許法旧36条4項実施可能要件についても同様である。なぜならば,当業者が,当該化学物質の発明を実施するためには,出願当時の技術常識に基づいて,その発明に係る物質を製造することができ,かつ,これを使用することができなければならないところ,発明の詳細な説明中に有用性が明らかにされていなければ,当該発明に係る物質を使用することはできず,したがって,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明に記載する必要があるからである。」(第5 2(1)ア)と判示した。
したがって、物がポリヌクレオチドあるいはポリペプチドのような化学物質である場合には、それにどのような有用性(機能)があるかが明細書に記載され、あるいは明細書の記載から類推できなければ、その化学物質をどのような産業上の利用ができるかについて記載されていないことになり、該発明について当業者がその実施ができるように発明の詳細な説明に、明確かつ十分に記載されていないことになる。
4.において述べたとおり、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、該ポリペプチドがいかなる機能を有するものかが不明であるから、どの様に使用できるのかも不明である。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明1を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に、明細書が記載されていない。



6.請求人の主張
請求人は、平成18年8月3日付け審判請求の理由を補充する手続補正書及び平成20年9月4日付け回答書において、ア.ないしキ.のように主張している。

ア.平成18年8月3日付け審判請求の理由を補充する手続補正書に添付した参考資料1(The Journal of Biological Chemistry, 1995, Vol.270. No.44, pp.26538-26542)の図1に示されるように、エノイル-ACPレダクターゼ活性を有する酵素がFabIであり、本明細書中の「スタフィロコッカスFabI」なる記載から、かかる物質がスタフィロコッカス由来のエノイル-ACPレダクターゼ活性を有するものと直ちに認識するはずである。

イ.平成18年8月3日付け審判請求の理由を補充する手続補正書に添付した参考資料2(Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2002, Vol.46, No.11, p.3343-3347)に示されるように、トリクロザンなる物質は細菌性脂肪酸生合成の伸長サイクルの最終工程に関与するエノイル-ACPレダクターゼを阻害する。そして、参考資料3(Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 2001, Vol.48, p.1-6)は、その要約において、トリクロザンがスタフィロコッカス・アウレウスにてその活性を有意に阻害したことを示しているから、スタフィロコッカス・アウレウスはエノイル-ACPレダクターゼ活性を有するものであり、本発明のポリペプチドがイー・コリFabIと44%の同一性(64%の類似性)を有するものであれば、当該ポリペプチドはエノイル-ACPレダクターゼ活性を有する蓋然性が高いと認識されるはずであり、本願発明が産業上利用することができる発明に該当しないとする旨の主張は失当である。

ウ.平成20年9月4日付け回答書に添付した参考資料1として提出する一次配列アライメントより明らかなように、スタフィロコッカス・アウレウスFabIの191位に隣接する領域が種間で高度に保存されていると確認されており、このことはかかる領域が蛋白の機能において重要であることを示唆する。

エ.本願明細書には、その「フラグメント」のセクション中、段落番号[0103]にて、「エシェリヒア・コリ(E.coli)エノイル(ACP)レダクターゼ、FabIを含む、図1[配列番号2]に示された関連ポリペプチドの活性領域に対して配列、または位置または両配列が相同的である領域を含むフラグメント」がFABIの活性を介在する領域である、と記載されている。
平成20年9月4日付け回答書に添付した参考資料2として提出するエシェリヒア・コリとスタフィロコッカス・アウレウスの間のアライメントによれば、両者の間には多数の保存領域があり、出願の時点で発明者により認識されるように、数字としては同一性が44%であるとしても、スタフィロコッカス・アウレウスFabIがエノイルACPレダクターゼ活性を有するであろうことが解る。

オ.平成20年9月4日付け回答書に添付した参考資料3(The Journal of Biological Chemistry, 1995, Vol.270, No.44, pp.26538-26542)にて、スタフィロコッカス・アウレウスを含むであろうII型細菌系について、パラダイムとしてのエシェリヒア・コリのエノイル(ACP)レダクターゼ活性が議論されており、他の細菌系、例えばマイコバクテリウム・ツベルキュロシスがエノイル・レダクターゼ活性を有することが具体的に示されている。

カ.平成20年9月4日付け回答書に添付した参考資料4に示されるように、sbjctであるスタフィロコッカス・アウレウスの191位付近の領域がqueryであるマイコバクテリウム・ツベルキュロシスにて保存されていることを考慮しても、スタフィロコッカス・アウレウスがエノイル・レダクターゼ活性を有することが推論できる。

キ.平成20年9月4日付け回答書に添付した参考資料5(DENNIS E. VANCE et al. Biochemistry of Lipids, Lipoproteins and Membrances, 1996)(第47頁、セクション6.4.4.を参照のこと)は、その中で、エシェリヒア・コリとマイコバクテリウム・ツベルキュロシスとの同一または類似する領域で変異に付すと、薬剤耐性変異が生じる旨を提示し、保存された領域がエノイル・レダクターゼ活性に起因するものであることを示唆している。


しかしながら、ア.については、上述のとおり、予測された機能に基づいて本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの有用性を認めるためには、少なくともその予測が十分に信頼できるものであるか否かが問題であり、本件において予測された機能の記載の有無が問題となっているわけではないから、本願明細書中に、「スタフィロコッカスFabI」なる記載があることで拒絶の理由が解消されることはない。
してみれば、本願明細書中に、44%程度の同一性といった低い配列相同性に基づいて、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが「スタフィロコッカス由来のエノイル-ACPレダクターゼ活性を有する」旨の主張がなされていても、それを十分に信頼できるものとして本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの有用性を認めることはできないのであって、請求人の主張を採用することはできない。

また、イ.については、平成18年8月3日付け審判請求の理由を補充する手続補正書に添付された参考資料2(Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2002, Vol.46, No.11, p.3343-3347)、参考資料3(Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 2001, Vol.48, p.1-6)は、いずれも本願の出願(1997年)より、後に公開されたものであって、それらを、本願出願日当時の技術常識を参酌する証拠として採用することはできない。

また、ウ.については、平成20年9月4日付け回答書に添付された参考資料1に記載された一次配列アライメントのうち、HI1703配列及びEF0282配列は国際公開2001/70955号により2001年に公開されたものであり、PA1805配列はJ.Bacteriol,191,p.5489-5497により1999年に公開されたものであるなど、大腸菌以外の比較対象となる配列の公知日はいずれも本願出願後であるから、出願後の情報を基礎として作製された参考資料1は出願日当時の技術常識を示すものとして参酌することができない。

また、エ.については、平成20年9月4日付け回答書に添付された参考資料2の段落【0103】の「相同的である領域を含むフラグメントがFABIの活性を介在する領域である」との記載は、大腸菌の各領域が活性とどのような活性があったのかは、出願日当時技術常識としては何ら明らかではなかったから、そもそもその根拠を欠くものである。したがって、大腸菌の当該タンパク質がエノイル(ACP)レダクターゼの機能を有していたとしても、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドとはごく一部の領域しか類似しておらず、その類似している部位が当該活性を担っていたことが出願日当時の技術常識として明らかではなかったのだから、本願発明がエノイル(ACP)レダクターゼの機能を有していたということはできない。

また、オ.については、平成20年9月4日付け回答書に添付された参考資料3(The Journal of Biological Chemistry, 1995, Vol.270, No.44, pp.26538-26542)の記載は、大腸菌の脂肪酸合成系がタイプII又は解離型脂肪酸合成系の例であることを述べるに過ぎず、スタフィロコッカス・アウレウスがエノイル・レダクターゼ活性を有することを示唆するものではないから請求人の主張は採用できない。

また、カ.については、平成20年9月4日付け回答書に添付された参考資料4の記載のうち、「エノイルアシルキャリア領域」という記載は、出願日当時の技術常識を示すものではない。また参考資料4からは、inhAについてエノイル・レダクターゼ活性が191位付近の領域に担われているということが出願日当時の技術常識であったということはできないから、本願発明1に係るポリヌクレオチドがコードするポリペプチドがエノイル・レダクターゼ活性を有することが明らかであったことの根拠とはなり得ない。

また、キ.については、平成20年9月4日付け回答書に添付された参考資料5(DENNIS E. VANCE et al. Biochemistry of Lipids, Lipoproteins and Membrances, 1996)の記載は、「大腸菌ジアザボリン抵抗性変異体はenvM遺伝子に損傷があり大腸菌又はネズミチフス菌のいずれか由来の野生型遺伝子を発現するプラスミドは、envM変異体の温度感受性成長を克服することができる。双方の生物においてジアザボリン抵抗性変異体は同一である。天然型タンパク質はNADH依存エノイルACPレダクターゼ活性を有し、当該遺伝子はfabIと改名された。FabIアミノ酸配列はマイコバクテリア由来のinhAと呼ばれた遺伝子の産物と類似している。InhA遺伝子中のミスセンス変異は、抗結核薬イソニアジド及びエチオナミドへの抵抗性を獲得する。これらの薬剤はミコール酸の生合成を阻害するから、これら独特のマイコバクテリアの酸の合成がエノイルACPレダクターゼ様のタンパク質を必要とするということは本当にありそうに思える。」というものである。
すなわち、当該記載は、FabIとinhAが類似していることについては述べているものの、両者の保存された領域については何ら述べておらず、保存された領域がエノイル・レダクターゼ活性に起因するものであることを示唆するものではなく、単にミコール酸の合成にはエノイルACPレダクターゼ様のタンパク質を必要とするらしいことを述べるに過ぎない。

以上のとおりであるから、請求人のこれらの主張ア.?キ.はいずれも採用するができない。



7.むすび
以上のとおり、本願は、本願発明1について、特許法第29条第1項柱書に規定する要件、及び、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-09 
結審通知日 2009-07-14 
審決日 2009-07-30 
出願番号 特願2001-391073(P2001-391073)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 14- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晴絵伏見 邦彦  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
上條 肇
発明の名称 FABI  
代理人 松谷 道子  
代理人 田中 光雄  
代理人 元山 忠行  
代理人 冨田 憲史  
代理人 青山 葆  

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