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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1208579
審判番号 不服2006-23298  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2009-12-10 
事件の表示 特願2001-174369「被覆粒子の製造方法及び被覆粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月17日出願公開、特開2002-361064〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年6月8日を出願日とする出願であって、平成18年5月30日付けで拒絶理由が起案され、同年8月3日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、同年9月4日付けで拒絶査定が起案され、同年10月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年11月27日に前記審判に係る請求書の手続補正書の提出がなされ、同年11月28日に前記審判に係る請求書の手続補正書に係る手続補足書の提出がなされ、平成20年11月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、平成21年1月28日に前記審尋に対する回答書の提出がなされたものである。

II.平成18年10月12日付け手続補正について
平成18年10月12日付け手続補正は、請求項1及び請求項2を削除し、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6をそれぞれ新たな請求項1、請求項2、請求項3、請求項4とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の「特許法第36条第5項に規定する請求項の削除」に該当する。

III.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明は、平成18年10月12日に補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項を発明特定事項とするものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】 B/S≧1.2又は粒径度φ≦0.8(式中、BはBET表面積(m^(2)/g:窒素吸着量による表面積の測定方法)、Sは6/ρ・dpで表される(ρは粒子の真の比重、dpは粒径分布の個数%での平均粒径(μm))、φは(粒子の投影に内接する最大円の直径)/(粒子の投影に外接する最小円の直径)で表される)
を満たす不定形粒子を、常温で固体、加熱又は減圧により気体となる化合物を加圧された雰囲気内で加熱して蒸気化した後、常温付近に降温し、常圧まで減圧して得られた過飽和蒸気に接触させることにより、前記化合物を前記粒子表面に凝集析出させることを特徴とする被覆粒子の製造方法。」

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願については、平成18年5月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」であり、平成18年5月30日付け拒絶理由通知書に記載の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1、2に記載されたそれぞれの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

V.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由において刊行物1として引用された、特開平9-296128号(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
(イ)「上記の粒子表面改質装置1は、図4に示すように、粒子22の表面に表面改質剤21の膜を形成する処理、即ち表面改質処理を行うためのものである。この表面改質剤21としては、常温で液体のもの、常温で固体であるが、加熱されると液体あるいは蒸気(気体)となるもの等を使用することができる。」(段落0075)
(ロ)「本粒子表面改質方法は、例えばカーボンブラック等のインキの顔料となる粒子の表面を改質する際に実施される。この他に、電子写真用現像剤となる粒子、化粧品の原材料となる粒子、あるいは医薬品に供される粒子など様々な分野に用いられる粒子に対して、上記粒子表面改質方法を実施することができる。」(段落0078)
(ハ)「次に、上記粒子表面改質装置1による粒子表面改質方法を、図1のフローチャートに基づいて説明する。粒子表面改質装置1により粒子表面改質処理を行う際には、凝縮箱2の内壁部2a_(2)に、予め所定の表面改質剤を含ませる(S1)。
・・・
次に、凝縮箱2内の処理空間2b内に表面改質すべき粒子を導入し、その後、凝縮箱2を密閉する(S2)。
・・・
次に、処理空間2b内に表面改質剤の飽和蒸気を得るため、凝縮箱2内を加圧するとともに加熱する(S3)。
・・・
次に、処理空間2b内を常圧まで減圧し、表面改質剤21の飽和蒸気を過飽和状態にする(S5)。この際には、加圧減圧用配管14のバルブ15を開いて処理空間2bを大気に開放し、処理空間2b内における表面改質剤21の飽和蒸気を断熱膨張させる。これにより、処理空間2b内において、表面改質剤21の飽和蒸気が過飽和状態となり、図4の状態(b)に示すように、粒子22の表面にて表面改質剤21の凝縮反応が生じる。この結果、図4の状態(c)に示すように、粒子22表面に表面改質剤21の液膜が生成され、粒子22表面の改質が行われる。」(段落0079?0084)
(ニ)「本粒子表面改質方法は、上記有核凝縮現象を利用するものであり、この現象による本粒子表面改質方法での表面改質膜形成動作は、図5に示すものとなる。同図において、P_(1)とP_(2)はそれぞれ前記断熱膨張前と後における表面改質剤21の飽和曲線である。点SSは、飽和曲線上の点S_(1)(温度T_(1))において前記断熱膨張を行った場合の過飽和状態の点である。この点の表面改質剤21の蒸気圧をP_(SS)とする。また、飽和曲線P_(2)上の点S_(2) は、過飽和点SSからの凝縮が終了する飽和点である。この点の表面改質剤21の蒸気圧をP_(S)とする。従って、過飽和度はP_(SS)/P_(S)である。この過飽和度P_(SS)/P_(S)において成長させ得る最小の粒子径dは、次のKelvinの式から求めることができる。
P_(SS)/P_(S)=exp(4Mσ/RTρd)
但し、Mは分子量、σは表面張力、ρは密度、Rは気体定数、Tは温度である。
従って、上記Kelvinの式から、本粒子表面改質方法においては以下のようにして粒子22の表面に表面改質剤21の膜が得られる。図5に示すように、粒子22の周りの環境が、過飽和点SSから飽和点S_(2) まで、即ち過飽和状態から飽和状態まで変化するのに伴い、図4に示したように、粒子22の表面において蒸気の凝縮が進行する。これにより、粒子22表面において表面改質剤の膜が成長する。この成長は飽和点S_(2) にて終了する。この場合、図5における過飽和点SSから飽和点S_(2)までの蒸気圧の差に相当する蒸気量が粒子22表面に凝縮する蒸気量となる。即ち、この量の蒸気により粒子22の表面に表面改質剤21の膜が形成されることになる。従って、過飽和度P_(SS)/P_(S) が高いほど、粒子22を被覆する表面改質剤21の液膜は厚くなり、粒子22の径を大きくすることができる。」(段落0087?0089)
(ホ)「先ず、凝縮箱2の内壁部2a_(2) に表面改質剤21としてのジエチレングリコールを含ませる(S11)。
次に、一次粒子径が約0.5μm、粒子個数濃度が10^(11)個/m^(3) の酸化チタン粒子を粒子導入口4から凝縮箱2内の処理空間2bに導入し、その後、凝縮箱2を密閉する(S12)。尚、上記一次粒子とは、複数個の粒子が塊となって形成された凝集粒子に対し、それぞれが個々に離間した状態の粒子を指している。
次に、ジエチレングリコールの飽和蒸気を得るために、凝縮箱2内を加圧するとともに加熱する(S13)。加圧は、処理空間2bの圧力が常圧(大気圧)より160mmHgだけ高くなるようにする。加熱は、内壁部2a_(2) の温度が350Kとなるようにする。
・・・
次に、処理空間2bを常圧まで急激に減圧する(S15)。これにより、ジエチレングリコールは断熱膨張して過飽和状態となる。この結果、酸化チタン粒子の表面にてジエチレングリコールの凝縮反応が生じ、酸化チタン粒子の表面がジエチレングリコールの液膜で被覆された。断熱膨張開始後、粒子の成長が平衡に達するまでは、ある程度の時間を要するが、概ね数秒程度で十分である。これは以下の実施例においても同様である。
以上の工程により、ジエチレングリコールにより表面が覆われ、一次粒子径1μmのほぼ大きさの揃った、酸化チタン粒子を核とする表面改質粒子が得られた。」(段落0093?0098)

また、当審決において周知例1として提示する本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平11-169705号公報には、次の事項が記載されている。
(ヘ)「〔実施例1〕前記の表面改質装置1を用いて表面改質粒子を製造した。即ち、改質塔2の内壁部2aに表面改質剤としてのn-エイコサンを付着させた後、改質塔2を密閉し、圧力調節管6を用いて内部を所定の圧力に加圧した。次に、加熱装置7を用いて改質塔2を250℃に加熱することにより、n-エイコサンの飽和蒸気を発生させた。
次いで、一次粒子径0.5μmの酸化チタン粒子を窒素ガス(不活性ガス)と共に、粒子供給管4を介して改質塔2内部に供給した。そして、酸化チタン粒子を供給した後、圧力調節管6を用いて改質塔2内部を減圧状態とすることにより、n-エイコサンの飽和蒸気を断熱膨張させて過飽和蒸気を形成し、酸化チタン粒子表面にn-エイコサンを凝縮させた。
改質塔2内部を減圧状態とした時点から3分間経過後、粒子取出管5を介して改質塔2内部から、酸化チタン粒子表面がn-エイコサンにて被覆された表面改質粒子を取り出した。即ち、本発明にかかる表面改質粒子を得た。光学測定装置3によって測定された該表面改質粒子の一次粒子径は0.8μmであり、大きさがほぼ均一であった。」(段落0070?0072)
さらに、原査定の拒絶の理由において刊行物2として引用され、当審決において周知例2として提示する本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開2000-254485号公報には、次の事項が記載されている。
(ト)「本発明、微粒子の表面が、微粒子表面の性質を改質させるための改質剤の膜で被覆されてなる被覆微粒子の製造方法及び製造装置に関するものである」(段落0001)
(チ)「〔実施例5〕図4に示す被覆微粒子製造装置60において、まず、蒸気供給部10aの多孔質壁部14にアジポイルクロリドを含ませ、多孔質壁部14の温度が430Kとなるようにする。一方、蒸気供給部10bの多孔質壁部14には1,6-ヘキサンジアミンを含ませ、多孔質壁部14の温度が470Kとなるようにする。
これらの蒸気を混合部63の処理空間部62に導入し処理空間部62内壁の温度を310Kに調整するとともに、250K に冷却された粒子径0. 5μm 、粒子個数濃度が10^(11)個/m^(3) の酸化チタン粒子を導入管74を介して処理空間部62に導入する。また、処理空間部62及びその上部の緩冷却部61の内壁近傍に、気体流25として冷却した清浄窒素ガス(273K)を混合気体と同速度で導入する。
アジポイルクロリド及び1,6-ヘキサンジアミンの飽和蒸気と酸化チタン粒子は、処理空間部62において混合され、アジポイルクロリド及び1,6-ヘキサンジアミンの飽和蒸気は酸化チタン粒子により冷却され過飽和状態になり、酸化チタンの表面にてアジポイルクロリドの蒸気及び1,6-ヘキサンジアミンの蒸気の凝縮が生じる。
その結果、酸化チタン粒子の表面上でアジポイルクロリドと1,6-ヘキサンジアミンの重縮合反応が起こってポリアミド樹脂が生成し、一次粒子径3μmのほぼ大きさの揃ったポリアミド樹脂膜を表面に有する樹脂被覆粒子が得られた。」(段落0099?0102)

VI.引用発明の認定
引用例1の記載事項(ハ)を本願に則して整理すると、記載事項(ハ)には「凝縮箱の内壁部に予め、所定の表面改質剤を含ませ、凝縮箱内の処理空間内に表面改質すべき粒子を導入し、処理空間内に表面改質剤の飽和蒸気を得るため、凝縮箱内を加圧するとともに加熱し、処理空間内を常圧まで減圧し、表面改質剤の飽和蒸気を過飽和状態にし、粒子表面に表面改質剤の液膜を生成する表面改質方法」が記載されているといえる。
そうすると、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。
「凝縮箱の内壁部に予め加熱されると蒸気(気体)となる表面改質剤を含ませ、凝縮箱内の処理空間内に表面改質すべき粒子を導入し、処理空間内に表面改質剤の飽和蒸気を得るため、凝縮箱内を加圧するとともに加熱し、処理空間内を常圧まで減圧し、表面改質剤の飽和蒸気を過飽和状態にし、粒子表面に表面改質剤の液膜を生成する表面改質方法」(以下、「引用発明」という)

VII.対比
引用発明は「粒子表面に表面改質剤の液膜を生成する」ものであるから、引用発明は被覆粒子を製造する方法であるといえ、引用発明の「表面改質剤」と本願発明の「化合物」は少なくとも粒子を被覆する物質である点において共通するものである。また、「凝縮箱の内壁部に予め、加熱されると蒸気(気体)となる表面改質剤を含ませ、・・・処理空間内に表面改質剤の飽和蒸気を得るため、凝縮箱内を加圧するとともに加熱」することは、凝縮箱の内壁に含まれている「表面改質剤」を加圧下で加熱して該表面改質剤の飽和蒸気を得る操作であるから、操作自体は本願発明の「加熱又は減圧により気体となる化合物を加圧された雰囲気内で加熱して蒸気化し」に相当するといえる。また、引用発明の「処理空間内を常圧まで減圧し、表面改質剤の飽和蒸気を過飽和状態に」することが本願発明の「常圧まで減圧」に相当すること及び引用発明においては粒子が改質剤の過飽和蒸気に接触していることは明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、「粒子を、加熱又は減圧により気体となる物質を加圧された雰囲気内で加熱して蒸気化した後、常圧まで減圧して得られた過飽和蒸気に接触させる被覆粒子の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、被覆される粒子が「B/S≧1.2又は粒径度φ≦0.8(式中、BはBET表面積(m^(2)/g:窒素吸着量による表面積の測定方法)、Sは6/ρ・dpで表される(ρは粒子の真の比重、dpは粒径分布の個数%での平均粒径(μm))、φは(粒子の投影に内接する最大円の直径)/(粒子の投影に外接する最小円の直径)で表される)を満たす不定形」(以下、「不定形」という。)であるのに対し、引用発明では被覆される粒子が特定されていない点。
(相違点2)
本願は、粒子が化合物で被覆されるのに対し、引用発明では表面改質剤で被覆される点。
(相違点3)
本願発明では、常温付近に降温しているが、引用発明では常温付近への降温が特定されていない点。
(相違点4)
本願発明では、被覆に用いる化合物が常温で固体で、粒子表面に凝集析出しているのに対し、引用発明では被覆に用いる表面改質剤の液膜を生成している点。

VIII.判断
これら相違点について、以下検討する。
・相違点1について:
引用例1の記載事項(ロ)から、引用発明においては、被覆対象の粒子が特定されておらず、「様々な分野に用いられる粒子」をその処理対象とし、記載事項(ホ)のとおり実施例において酸化チタンを用いる点で、本願明細書段落0012「不定形粒子としては、酸化チタン・・・が挙げられる。」の記載と共通しているといえる。
他方、粒径度φ((粒子の投影に内接する最大円の直径)/(粒子の投影に外接する最小円の直径)で表される)≦0.8の粒子にはそれほど凹凸がない回転楕円体(例えば米粒)も含まれることを考慮すると、本願発明の「不定形」は「ほぼ真球」以外の粒子を意味することであって、しかも、φ≦0.8については臨界的意義を有する数値限定とすることはできない。
そして、不定形粒子が粒子として特別なものとはいえず、引用発明において、不定形粒子がその処理対象から積極的に除外されているとはいえない以上、不定形粒子をその処理対象とすることに格別の困難性は見あたらない。
したがって、引用発明において粒径度φ≦0.8程度の不定形粒子を処理対象とすることは当業者が容易に為し得たことである。
・相違点2について:
記載事項(ホ)のとおり、引用発明の表面改質剤として実施例において用いられているジエチレングリコールは、2種類以上の元素からなる単一物質であって化合物であることは明らかであり、本願発明と相違するものではない。
・相違点3について:
出願人が本願明細書の段落0014に「飽和蒸気から過飽和蒸気にするための減圧又は降温は、過飽和の程度、使用する化合物の種類によって適宜に設定することができる。」と記載しているように、過飽和状態とするための降温、減圧プロセスの細部は、使用する化合物や過飽和の程度等に応じて、当業者が適宜に設定する事項といえる。また、飽和蒸気が降温及び減圧により受ける影響は、使用する化合物の性質や加圧時の条件等に影響されるため、これらの条件を特定することなしに常温への降温及び常圧への減圧を選択することのみによって特定の効果が必ず奏されるとはいえない。
加えて、常温は、標準的な状態であるから、そのような状態を処理を行う状態として選択することに困難性は見いだせない。
したがって、相違点3は当業者が発明の実施にあたって行う通常の創作能力の発揮の範囲を出るものではない。
・相違点4について
例えば周知例1の記載事項(ヘ)や周知例2の記載事項(ト)及び(チ)に記載されているように、常温で固体で加熱により気体となる化合物(n-エイコサンの常圧での融点は36.7℃である。また、1,6ヘキサンジアミンの常圧での融点は42℃である。)からなる表面改質剤の過飽和蒸気と粒子を接触させて該粒子を被覆することは周知である。
そして、化合物の過飽和蒸気と粒子の接触において、化合物がどのような形体で被覆を行うかは、粒子表面に被覆に用いる化合物の融点と接触時の温度及び圧力の条件の違いによって生ずるものであり、引用例1の記載事項(イ)には、表面改質剤として常温で固体であるが、加熱されると蒸気(気体)となるものを用いることが開示されているといえるから、被覆に用いる化合物を常温で固体、加熱により気体となるものとし、過飽和蒸気を作成する際に常温までの温度降下を行った上で過飽和蒸気と粒子の接触を行えば、粒子表面には該化合物が凝縮反応ではなく、凝集析出することは自明である。
したがって、引用発明において、表面改質剤として常温で固体で加熱により気体となる化合物よりなる改質剤を採用して凝集析出することは、当業者が容易に為し得たことである。

IX.出願人の主張について
出願人は、審判請求書及び回答書において、本願発明は「常温で固体、加熱又は減圧により気体となる化合物」という被覆物と、「常温付近に降温し、常圧まで減圧して」という操作を組み合わせることで、「被覆が困難な不定形粒子への安定かつ均一な極薄膜状の被覆膜の形成」という顕著な効果が得られる選択発明である旨主張している。
しかしながら、出願人は「常温で固体、加熱又は減圧により気体となる化合物」を用い、「常温付近に降温し、常圧まで減圧」した実施例と被覆物及び過飽和蒸気形成時における降温、減圧条件を異ならせた実施例との間での客観的な比較を行っていないため、出願人が主張する不定形粒子に対する被覆における効果の顕著性はその根拠を欠くものである。
また、そもそも、出願人が本願明細書の段落0027に「不定形粒子は、従来から、完全な被覆を行うためには、積層膜を形成したり、不完全な被覆とならないように厚膜の被覆膜を形成することを要していたが、本発明においては、曲率の小さな面ほど凝集析出の成長を早めることができ、安定かつ均一な被覆膜を、効率よく形成することが可能となる。」と記載しているように、粒子への被覆の困難さには粒子表面の曲率が大きな役割を果たすといえるが、曲率は粒子の形状だけではなく粒子のサイズにも依存する値であるところ、本願発明においては粒子のサイズ等は特定されていないため、上記「VIII.判断の相違点1について」でも記載したとおり、粒径度φ((粒子の投影に内接する最大円の直径)/(粒子の投影に外接する最小円の直径)で表される)≦0.8の粒子にはそれほど凹凸がなく曲率の小さい回転楕円体(例えば米粒)も含まれてしまうから、本願発明における不定形粒子に含まれるすべてのケースにおいて被覆が困難であるとはいえない。したがって、出願人の主張はその前提において根拠を欠いている。
また、記載事項(ホ)から、引用例1には、引用発明の実施例として、本願明細書において不定形粒子として列挙されている酸化チタン粒子を処理対象とし、常温で液体であるジエチレングリコールを用いて被膜を形成することが記載されているといえるから、本願発明は不定形粒子に対する被膜の形
成という点について引用発明と比較して顕著な効果を有しているとはいえない。
加えて、記載事項(ニ)から、引用例1には、過飽和度を調整することによって粒子表面に形成する被膜の厚さを制御できることが記載されているといえ、過飽和度は加熱の条件や圧力、温度等を制御することによって適宜に設定できる値であることを考慮すると、本願発明の効果は被覆する膜の厚さという点でも、引用例1に記載された事項から当業者が想到可能な範囲を出るものとはいえない。
したがって、出願人の選択発明であるという主張は採用することができない。

X.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願日前に頒布された引用例1に記載された発明並びに周知例1及び周知例2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-07 
結審通知日 2009-10-13 
審決日 2009-10-27 
出願番号 特願2001-174369(P2001-174369)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平富永 正史  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
安齋 美佐子
発明の名称 被覆粒子の製造方法及び被覆粒子  
代理人 野河 信太郎  

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