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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1208775
審判番号 不服2006-24790  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-02 
確定日 2009-12-16 
事件の表示 特願2003-207278「立体印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月30日出願公開、特開2004-130779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年8月12日(優先権主張・平成14年8月12日)の出願であって、平成18年8月3日付け拒絶理由通知に対して、同年9月27日付けで手続補正がされたが、同年10月19日付けで拒絶査定され、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年同月29日付けで特許請求の範囲および明細書の手続補正がなされたものである。
これに対し、当審において、平成18年12月28日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成20年4月22日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年6月23日付けで回答書を提出した。
当審においてこれを審理した結果、平成21年7月29日付けで新たな拒絶理由(いわゆる「最初」の拒絶理由)を通知したところ、審判請求人は同年9月28日付けで意見書及び特許請求の範囲についての手続補正書を提出した。さらに、審判請求人側からの要求により、当審において同年同月30日に面接が行われた。


2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年7月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「プラスチック製の収納ケース又は前記収納ケースを覆う紙製のパッケージ又はガラス容器の表面に多色刷り又は単色刷りのスクリーン印刷を施し図柄や文字を印刷するスクリーン印刷工程と、立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚を調節して製版したUV版を使用し、前記スクリーン印刷した部分に光硬化性樹脂を用いた透明又は着色したクリアーインクであるUVインクを重ね刷り又は1面刷りするUV印刷工程と、被印刷物をベルトコンベアーに載せ次々とより紫外線照射機の下を通して紫外線を3秒間当てることにより前記UVインクを固める紫外線照射工程とからなり、前記UVインクの下に印刷されたスクリーン印刷が盛り上がっているように見えることを特徴とする立体印刷方法。」


3 周知引例[引用文献]
当審の拒絶理由では、本願出願前に頒布された以下の刊行物を提示して、当該技術分野における周知の技術としての事項を認定している。
・周知技術を示す刊行物1:特開2002-205452号公報(当審の拒
絶理由における引用文献1。以下「周知引例1
」という。)
・周知技術を示す刊行物2:特開昭56-117658号公報(当審の拒絶
理由における引用文献2。以下「周知引例2」
という。)

(1)周知引例1:特開2002-205452号公報
周知引例1には、図示とともに以下アないしエに示す記載がある。(審決注.下線は当審において付した。)
ア 「【請求項2】 印刷基材の表面に、スクリーン印刷によって印刷パターンを形成する印刷前処理工程と、前記印刷前処理工程での印刷パターン以外の部分にスクリーン印刷によって離形剤を印刷する第1工程と、前記第1工程により離形剤が印刷されていない部分に、スクリーン印刷によって樹脂インクを厚盛り印刷する第2工程と、前記第2工程による厚盛り印刷部分を硬化させる第3工程と、前記第3工程により厚盛り印刷部分に強度が発生したら、前記第1工程の離形剤層を剥離除去する第4工程とからなり、第1工程での離形剤層が、第2工程での厚盛り印刷部分をブロックするようにしたことを特徴とするスクリーン印刷による厚盛り印刷方法。」
イ 「【0014】前記印刷基材1は、特に材質を限定するものではないが、一般的には紙、樹脂板、金属板を使用することができる。したがって、印刷基材1の表面には、第1工程により離形剤2により印刷されている部分3と、印刷されていない部分4とが発生する(図1)。」
ウ 「【0017】本発明の第3工程では、前記第2工程における印刷基材1上の樹脂インク5を硬化させることにある。樹脂インク5の硬化方法としては、樹脂インク5が紫外線硬化型インクであれば紫外線を照射し、また熱重合型インクであれば加熱すればよい。」
エ 「【0020】図4から図9は本発明の第2実施例に示すもので、予め、印刷基材1の表面に、通常のスクリーン印刷によって印刷パターン11を形成する印刷前処理工程を有する(図4)。
【0021】次に、前記第1実施例と同様にして、印刷基材1の表面に、スクリーン印刷によって離形剤2を印刷する第1工程を行う。この第1工程では、離形剤2を、前記印刷パターン11が存在しない部分だけであって、印刷パターン11の上面には離形剤を印刷しない(図5)。したがって、離形剤が印刷されていない部分4は前記印刷パターン11と同一で、それ以外の部分が離形剤の印刷されている部分3となる。なお、前記離形剤3は、前記印刷パターン11の印刷層より厚く印刷する。
【0022】次に、第2工程として、前記第1実施例と同様に、スクリーン印刷によって樹脂インク5を、前記離形剤が印刷されていない部分4に厚盛り印刷するので、樹脂インク5は印刷前処理工程での印刷パターン11と同一の位置である。
【0023】この本発明の第2実施例においては、第2工程での樹脂インク5の印刷形態を、前記印刷パターン11より僅かに大きくして周縁部分を、離形剤層の表面にのせている(図6)。
【0024】したがって、樹脂インク5による印刷部分の下面と、印刷パターン11の表面との間には、印刷パターン11と離形剤層との厚さの相違により、空部12が発生する。そして、前記樹脂インク5は、硬化していない状態では流動状であるから、前記樹脂インク5が自重、及び樹脂インクと離形剤との反発により前記空部12に流下することになる(図7)。
【0025】そして、前記空部12に樹脂インク5が充満すると(図8)、前記第1実施例と同様に、樹脂インク5と離形剤2とは反発するので、上記反発力及び樹脂インクの表面張力によって、樹脂インクの周縁が離形剤2の印刷されている部分3の内周縁で止められてブロックされるためオーバーフローしたりにじみ出ないことになり、安定した鮮明な印刷パターンになるし、大きく盛り上がることになる。なお、樹脂インク5の周縁が離形剤2の表面にのる部分は、0.05?0.4mm程度の幅でよい。
【0026】前記のように、樹脂インク5が空部12に充満して安定すると、前記第1実施例と同様に第3工程により紫外線、若しくは熱によって前記樹脂インク5を硬化させ、樹脂インク5に充分な強度が発現したら、第4工程によって離形剤を剥離除去する(図9)。したがって、印刷基材1の表面には、印刷パターン11の表面に樹脂インク5が厚盛りされた状態となり、樹脂インク5が透明であれば、印刷パターン11が表面に臨むことになり、樹脂インク5が印刷パターンのレンズ効果をもたらせることになる。また、樹脂インク5が半透明であれば、印刷基材1に表面には樹脂インク5と印刷パターン11とが混合した色彩の印刷パターンとなる。」
オ 周知引例1の明細書ならびに図面全体を参酌しつつ、上記記載アないしエを検討すると、周知引例1には次の発明が記載されている(以下、「周知引例1記載発明」という。)と認められる。
「紙、樹脂板、金属板よりなる印刷基材の表面に、スクリーン印刷によって印刷パターンを形成する印刷前処理工程と、前記印刷前処理工程での印刷パターン以外の部分にスクリーン印刷によって離形剤を印刷する第1工程と、前記第1工程により離形剤が印刷されていない部分に、スクリーン印刷によって樹脂インクを厚盛り印刷する第2工程と、前記第2工程による厚盛り印刷部分を硬化させる第3工程とからなり、前記樹脂インクが紫外線硬化型インクよりなり、前記硬化させる第3工程は紫外線を照射することよりなるものであって、前記樹脂インクが透明であれば、印刷パターンのレンズ効果をもたらせることになる、厚盛り印刷方法。」

(2)引用文献2:特開昭56-117658号公報
周知引例2には、図示とともに以下アないしエに示す記載がある。(審決注.下線は当審において付した。)
ア 「特許請求の範囲
1.板状基材の表面に適宜の色模様を施し、その上に少くとも合成樹脂結合材、透明性体質顔料及び1色以上の着色合成樹脂粒よりなる塗料組成物にてスクリーン印刷法により任意の凸部模様を形成し、必要に応じ前記凸部模様の表面を研磨し、透明なトップコートを塗布した化粧板。
2.合成樹脂結合材が紫外線硬化型の重合性樹脂であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の化粧板。」
イ 「第1図は本発明の化粧板の断面図を示すものであつて、板状基材1に目止、薄紙の貼着等の適宜下地処理を行つた後、適宜の方法により色模様2を施し、その上に少くとも合成樹脂結合材、透明体質顔料及び1色以上の着色合成樹脂粒よりなる塗料組成物にてスクリーン印刷法により着色合成樹脂粒含有の凸部模様3を形成し、該凸部模様の表面から前記色模様2を透視できるようにしたものである。尚、第2図に示す如く凸部模様3の表面を研磨し、透明なトツプコート4を施した場合には、着色合成樹脂粒が凸部模様3の最上部に多数現われ、より鮮明な化粧板が得られる。
又、凸部模様3の合成樹脂結合材として紫外線重合型の樹脂を使用すると固形分が100%に近い塗料となり、塗料中に着色合成樹脂粒が混入していても凸部模様の表面は平滑となり、かつ熱硬化性樹脂であるから表面の保護を必要としない化粧板が得られる。紫外線重合型の樹脂による凸部模様層が厚い場合、又着色合成樹脂粒の含有量が多い場合、透明性が悪い場合は紫外線の透過が悪く凸部模様の下部は重合硬化しにくくなるので、過酸化物を含有した塗料、インキ層を基材表面の全面又は凸部模様の接触する部分に形成しておくことにより、凸部模様の下部は熱によつても硬化させることができる。
本発明でいう板状基材とは、合板、繊維板、無機質板、金属板等をいうものである。該板状基材に色模様を施す方法としては、グラビア、オフセツトグラビア、フレキソ、スクリーン印刷等一般に行われる印刷方法が適応できる。」(1頁右下欄16行?2頁右上欄3行)
ウ 「本願発明の化粧板は板状機材表面に施された色模様をスクリーン印刷により形成された凸部模様をとおして透視でき、更に前記凸部模様を形成する塗料中に配合された着色合成樹脂粒による色調変化の為平面的および立体的な即ち三次元的な色調変化を同時に備えた非常に雅趣に富んだものである。
特に着色合成樹脂粒が透明である場合には凸部模様の色調と干渉して特殊な趣きを有する。」(2頁左下欄10?16行)
エ 「実施例 2
厚さ6mmのケイ酸カルシウム板の表面にウレタンシーラーを50g/m2塗布乾燥し、白色のウレタンエナメルを50g/m2塗布乾燥した。次にメチルエチルケトンパーオキサイドを5%含有したアクリル樹脂よりなる塗料で石目模様を全面にスクリーン印刷で印刷し、乾燥後紫外線硬化型スクリーン用塗料でイタリアンタイル模様を印刷した。 紫外線硬化型塗料の配合割合
不飽和ポリエステル樹脂(感光剤含有) 100部
シリカ 100部
着色ポリエステル樹脂粒(粒径100?200μ)
赤 色 10部
黄 色 20部
パール色 10部
しかる後高圧水銀ランプ(松下電器製HQC-4000)で2分間照射し所望の化粧板を得た。」(3頁左上欄5行?同頁右上欄1行)
オ 上記記載イおよびエから、引用文献2には、化粧板に「凸部模様」を印刷にて形成する凸部模様印刷方法が記載されているといえる。
カ 周知引例2の明細書ならびに図面全体を参酌しつつ、上記記載アないしオを検討すると、周知引例2には次の発明が記載されている(以下、「周知引例2記載発明」という。)と認められる。
「板状基材1に目止、薄紙の貼着等の適宜下地処理を行つた後、適宜の方法により色模様2を施し、その上に少くとも合成樹脂結合材、透明体質顔料及び1色以上の着色合成樹脂粒よりなる塗料組成物にてスクリーン印刷法により着色合成樹脂粒含有の凸部模様3を形成することにより、平面的および立体的な即ち三次元的な色調変化を同時に備えた非常に雅趣に富んだ化粧板を得るための凸部模様印刷方法であって、前記板状部材1は合板、繊維板、無機質板、金属板等よりなり、前記色模様2はスクリーン印刷で印刷され、前記凸部模様3は紫外線硬化型スクリーン用塗料で印刷され、しかる後高圧水銀ランプ(松下電器製HQC-4000)で2分間照射し所望の化粧板を得る凸部模様印刷方法。」

(3)引用周知発明
ア 上記周知引例1記載発明の「印刷基材」及び周知引例2記載発明の「板状基材」は、ともに「被印刷物」である。
イ 上記周知引例1記載発明の「印刷パターン」及び周知引例2記載発明の「色模様2」は、「図柄や文字」より構成されるものである。
ウ 上記周知引例1記載発明の「厚盛り印刷」及び周知引例2記載発明の「凸部模様を形成」は、ともに立体的に盛り上げた印刷を行うことを意味するものであるから、「立体印刷」ということができるものである。
エ 上記周知引例1記載発明の「紫外線硬化型インク」及び周知引例2記載発明の「紫外線硬化型スクリーン用塗料」は、ともに「UVインク」ということができるものである。
オ 上記周知引例2記載発明の「高圧水銀ランプ(松下電器製HQC-4000)」は、「紫外線を照射する」ものである。
カ 上記周知引例1記載発明の「印刷パターンのレンズ効果」及び周知引例2記載発明の「平面的および立体的な即ち三次元的な色調変化」は、ともに、UVインクの下に印刷されている図柄や文字が立体的に変化して「盛り上がっているように見える」ことを述べているものといえる。
キ したがって、周知引例1記載発明及び周知引例2記載発明から、次の発明が周知のものであったと認められる。
「紙や樹脂板、金属板等よりなる基材に、スクリーン印刷を施し図柄や文字を印刷するスクリーン印刷工程と、前記スクリーン印刷した部分にスクリーン印刷によって透明なUVインクを印刷するUV印刷工程と、被印刷物に紫外線を当ててUVインクを固める紫外線照射工程とからなり、前記UVインクの下に印刷されたスクリーン印刷が盛り上がっているように見える立体印刷方法。」(以下「引用周知発明」という。)


4 対比
本願発明と引用周知発明とを対比する。

(1)引用周知発明の「紙や樹脂板、金属板等よりなる被印刷物」と、本願発明の「プラスチック製の収納ケース又は前記収納ケースを覆う紙製のパッケージ又はガラス瓶容器」とは、「紙や樹脂板、金属板等よりなる被印刷物」である点で一致する。

(2)引用周知発明の「スクリーン印刷を施し」は、本願発明の「多色刷り又は単色刷りのスクリーン印刷を施し」に相当する。

(3)引用周知発明の「透明なUVインク」は、本願発明の「光硬化性樹脂を用いた透明又は着色したクリアーインクであるUVインク」に相当する。

(4)引用周知発明の「スクリーン印刷した部分にスクリーン印刷によってUVインクを印刷するUV印刷工程」は、UV印刷のためにスクリーン印刷の版を使用して「透明又は着色したクリアーインクであるUVインク」を印刷するものであるから、本願発明の「立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚を調節して製版したUV版を使用し、スクリーン印刷した部分に光硬化性樹脂を用いた透明又は着色したクリアーインクであるUVインクを重ね刷り又は1面刷りするUV印刷工程」とは、「UV版を使用し前記スクリーン印刷した部分に光硬化性樹脂を用いた透明又は着色したクリアーインクであるUVインクを印刷するUV印刷工程」である点で一致する。

(5)したがって、本願発明と引用周知発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「紙や樹脂板、金属板等よりなる被印刷物に、多色刷り又は単色刷りのスクリーン印刷を施し図柄や文字を印刷するスクリーン印刷工程と、UV版を使用し前記スクリーン印刷した部分に光硬化性樹脂を用いた透明又は着色したクリアーインクであるUVインクを印刷するUV印刷工程と、被印刷物に紫外線を当ててUVインクを固める紫外線照射工程とからなり、前記UVインクの下に印刷されたスクリーン印刷が盛り上がっているように見える立体印刷方法。」

(6)一方で、本願発明と引用周知発明とは以下の点で相違する。
ア <相違点1>
本願発明の「被印刷物」は「プラスチック製の収納ケース又は前記収納ケースを覆う紙製のパッケージ又はガラス瓶容器」であるとの特定を有するのに対し、引用周知発明の「被印刷物」は、上記特定を有さない点。
イ <相違点2>
本願発明の「UV版」は「立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚を調節して製版」されるとの特定を有するのに対し、引用周知発明はUVインクの印刷に使用されるスクリーン印刷の版の「膜厚」に関する明示がなく、上記特定を有するものであるかどうか不明である点。
ウ <相違点3>
本願発明の「UV印刷工程」は「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」ものであるとの特定を有するのに対し、引用周知発明は「UVインク」を刷り方に関する明示がなく、上記特定を有するものであるかどうか不明である点。
エ <相違点4>
本願発明の「紫外線照射工程」は「被印刷物をベルトコンベアーに載せ次々とより紫外線照射機の下を通して紫外線を3秒間当てることにより前記UVインクを固める紫外線照射工程」であるとの特定を有するのに対し、引用周知発明の「紫外線照射工程」は、上記特定を有さない点。


5 判断
上記各相違点について検討する。

(1)<相違点1>について
引用周知発明は、「被印刷物」が具体的にどのような物品であるのか明示はないものの、その材質として紙や樹脂板、金属板等よりなるものを使用しているものである。
さらに、UVインクを使用する印刷は、その速乾性により、様々な材質及び物品を被印刷物とし得ることは、例を挙げるまでもなく周知のものである。
してみると、引用周知発明における具体的な「被印刷物」として、樹脂すなわちプラスチックや紙等でできた種々の物品(収納ケース、パッケージ、容器など)を選択することは、当業者ならば適宜なし得る設計事項である。
よって、<相違点1>の構成は、引用発明から当業者ならば容易に想到することができたものである。

(2)<相違点2>について
ア 引用周知発明は、スクリーン印刷の版を用いてUVインクを立体印刷するものである。
イ ここで、スクリーン印刷の版を用いて立体印刷をする際に、該立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚が前記スクリーン印刷の版により調整できることは、当審の拒絶理由にて示したように、特開2002-184152号公報(特に段落【0021】参照),特開平10-22594号公報(特に段落【0002】参照。),特開平9-123389号公報(特に段落【0004】参照。)等に記載されているように、本願の出願時において、当該技術分野では周知のものであったと認められる。
ウ よって、引用周知発明において、立体印刷のための「UV版」として、立体印刷の盛り上がりの高さとなるUVインクの膜厚が所望の高さとなるように調節したものを使用することにより、もって<相違点2>の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
エ なお、審判請求人は平成21年9月28日付け意見書において、概略以下(ア)ないし(ウ)に示すように主張して、上記<相違点2>は当業者が容易に想到し得たものではない旨主張する。
(ア)上記イに示した周知技術を示す文献のうち、特開2002-184152号公報に記載された技術は「UVインク」ではなく「UV硬化接着剤」に関するものである。
(イ)上記イに示した周知技術を示す文献のうち、特開平10-22594号公報及び特開平9-123389号公報に記載された技術は、いずれも印刷の塗膜の厚さを十分に大きくできないものである。
(ウ)上記(ア)及び(イ)に示したとおりであるから、本願発明は引用周知発明及び上記イに示された周知技術とは異なるものである。
オ 上記審判請求人の主張について以下に検討する。
(ア)審判請求人の主張(ア)について
特開2002-184152号公報に記載された技術は、UV版を用いて「UV硬化接着剤」を厚みを変えて印刷するものである。
また、上記イに示した周知技術は、「UVインク」のみに関する技術ではなく「UV版」による「印刷」全般に関するものである。
したがって、特開2002-184152号公報が上記イに示した周知技術を例示する文献として不適切なものとは認められない。
(イ)審判請求人の主張(イ)について
上記イにおいて示したように、スクリーン印刷の版を用いて立体印刷をする際に、該立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚が前記スクリーン印刷の版により調整できるという技術思想が当該技術分野において周知のものであった以上、引用周知発明におけるスクリーン印刷の版の厚みを、立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚によって調整する構成を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものであると認めざるを得ない。

(3)<相違点3>について
上記<相違点3>における「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成について、以下に検討する。
ア 「重ね刷り」について
(ア)本願の発明の詳細な説明には、重ね刷りに関連して以下に示す記載がある。
「【0011】
即ち、厚膜に製版したUV版を用いて、スクリーン印刷2aされた印刷物2b?2gの盛り上げたい部分に光硬化性樹脂を使用したUVインクを重ねていくのである。この時、必要に応じてUV版の膜厚を変えることで、盛り上がりの高さを調節することが可能である。」
(イ)また、「重ね刷り」とは、「二色印刷・多色印刷などで、印刷した上に、別のインクで刷り重ねること。(広辞苑第五版491頁)」を意味する語として通常使用されているものである。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、上記<相違点3>における「重ね刷り」は、UVインクをスクリーン印刷した部分に重ねて印刷することを意味すると認められる。
イ 「1面刷り」について
本願の発明の詳細な説明には「1面刷り」という語に関する定義はなされていないが、「1面」という語が「面の全体。あたりいっぱい。(広辞苑第五版159頁)」を意味することから、上記<相違点3>における「1面刷り」は、UVインクをスクリーン印刷した部分以外の部分を含む面の全体に印刷することを意味すると認められる。
ウ 「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成と引用周知発明
(ア)引用周知発明は、「UVインク」を「スクリーン印刷した部分」に「印刷」するものであるから、少なくとも上記アに示す「重ね刷り」を行っているものである。よって、引用周知発明は「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成を有するものであり、引用周知発明と本願発明とは「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成を有する点で一致する。したがって、上記<相違点3>は実質的な相違点ではない。
(イ)審判請求人は平成21年9月30日の面接にて、「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成とは、重ね刷り又は1面刷りの際に「UVインク」が1回のみ印刷されることにより立体印刷がなされることを意味するものである旨主張しているので、これについて検討する。
a 「UVインク」が1回のみ印刷されることにより立体印刷がなされることについては、本願の発明の詳細な説明及び図面のいずれにも記載がなく、当業者といえども「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」という本願の請求項1の記載からこのような技術事項が把握できるものとまでは認められないが、上記面接における審判請求人の意見、本願発明の「立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚を調節して製版したUV版を使用し」て「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成、及び本願の発明の詳細な説明の段落【0011】における「必要に応じてUV版の膜厚を変えることで、盛り上がりの高さを調節する」との記載を参酌して、本願発明における「UVインクを重ね刷り又は1面刷りする」構成が、「UVインク」が1回のみ印刷されることにより立体印刷がなされる」構成と善解した場合について、以下にさらに検討する。
b 引用周知発明は、UVインクを何回印刷して立体印刷を行うものであるのか明示がなく、1回の印刷でUVインクを立体印刷するものであるとも、複数回の印刷でUVインクを立体印刷するものとも解釈することが可能なものである。
c ここで、上記「(2)<相違点2>について」にて検討したように、スクリーン印刷の版を用いて立体印刷をする際に、該立体印刷の盛り上がりの高さとなる膜厚が前記スクリーン印刷の版により調整できることが当該技術分野において周知のものであることを考慮すれば、引用周知発明におけるUV印刷工程において、そのUVインクによる印刷回数を何回にするか(1回にするか、それとも複数回にするか)は、当業者が必要とされる膜厚の厚さや印刷速度、膜厚の精度等を考慮してスクリーン印刷の版を調整することにより、適宜変更することができた設計事項である。
d したがって、上記審判請求人の主張を考慮しても、<相違点3>の構成は、引用周知発明及び周知技術から、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(4)<相違点4>について
印刷物の製造方法という技術分野において、印刷されたUVインクを固める「紫外線照射工程」として、「被印刷物をベルトコンベアーに載せ次々と紫外線照射機の下を通」す手法は、特開平4-270608号公報(特に段落【0002】,【0014】及び図1参照。),特開平11-258989号公報(特に特許請求の範囲,段落【0020】及び図1参照。),特開2000-108533号公報(特に段落【0009】及び図1参照。)等に記載されているように周知のものである。
また、UVインクがどの程度の時間紫外線を照射されることにより固まるかは、UVインクの材質や照射条件等によって異なるものであり、適切な時間紫外線を照射することによってUVインクを固めるように設計することは、当業者ならば適宜なし得たものに過ぎないものである。
したがって、引用周知発明における「紫外線照射工程」として、上記周知技術である「被印刷物をベルトコンベアーにより紫外線照射機の下を通」す構成を採用するとともに、印刷されたUVインクを固めるために適切な時間だけ紫外線を照射するように設計することにより、上記<相違点4>の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(5)まとめ
上記のとおりであるから、<相違点1>ないし<相違点4>の構成は、当業者が引用周知発明及び周知技術に基づいて容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も、引用周知発明の効果及び周知技術の効果から、当業者が予測することができた程度のものに過ぎない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-19 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-04 
出願番号 特願2003-207278(P2003-207278)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 星野 浩一
上田 正樹
発明の名称 立体印刷方法  
代理人 中川 邦雄  

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