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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1208789 |
審判番号 | 不服2007-30106 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-05 |
確定日 | 2009-12-16 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第242393号「潤滑剤および機能流体用の添加剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成9年5月13日出願公開、特開平9-125083〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成8年9月12日(パリ条約による優先権主張 1995年9月19日 (US)米国)の出願であって、平成18年10月27日付けの拒絶理由通知に対して、平成19年1月29日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月1日付けで拒絶査定がされ、その後、同年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年12月4日に手続補正書が提出され、平成20年11月28日付けで審尋がなされ、平成21年2月26日に回答書が提出されたものである。 第2 平成19年12月4日付けの補正について 1 補正の内容 平成19年12月4日付けの補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1について、補正前の 「以下の(A)および(B)を含有する、潤滑剤において耐摩耗剤とし て使用するための組成物: (A)次式により表わされる化合物の亜鉛塩: 【化1】 ここで、式(A-I)では、X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)は、独立して、OまたはSであり、X^(1)およびX^(2)は、NR^(3)であり得、aおよびbは、独立して、0または1であり、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、独立して、ヒドロカルビル基であり、そしてR^(3)は、水素であり得る;および (B)次式により表わされる化合物: 【化3】 ここで、式(B-IA)では、R^(1)、R^(2)およびR^(5)は、独立して、1個?約18個の炭素原子を有するアルキル基である。」 を 「以下の(A)および(B)を含有する、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物: (A)次式により表わされる化合物の亜鉛塩: 【化1】 ここで、式(A-I)では、X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)は、独立して、OまたはSであり、X^(1)およびX^(2)は、NR^(3)であり得、aおよびbは、独立して、0または1であり、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、独立して、ヒドロカルビル基であり、そしてR^(3)は、水素であり得る;および (B)次式により表わされる化合物: 【化3】 ここで、式(B-IA)では、R^(1)、R^(2)およびR^(5)は、独立して、1個?約18個の炭素原子を有するアルキル基である; ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物。」 と補正し、また、補正前の特許請求の範囲の請求項6について、補正前の 「希釈剤、および約1重量%?約99重量%の請求項1に記載の組成物を含有する、濃縮物。」 を 「請求項1に記載の組成物であって、約1重量%?約99重量%の希釈剤をさらに含有する、組成物。」 と補正するものである。(注.下線は補正箇所を示す。以下、同様。) 2 補正の適否 (1) 新規事項の追加の有無 「ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物。」を付加する補正は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0120】における 「1実施態様では、これらの潤滑組成物および機能流体は、約0.12重量%まで、1実施態様では、約0.11重量%まで、1実施態様では、約0.1重量%まで、1実施態様では、約0.08重量%まで、1実施態様では、約0.05重量%までのリン含量を有する。」 という記載に基づくものであるから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。 また、 「請求項1に記載の組成物であって、約1重量%?約99重量%の希釈剤をさらに含有する、組成物。」 とする補正は、当初明細書の段落【0133】における 「1実施態様では、これらは、実質的に不活性で通常液状の有機希釈剤(例えば、鉱油、ナフサ、ベンゼン、トルエンまたはキシレン)で希釈されて、添加剤濃縮物を形成する。これらの濃縮物は、通常、約1重量%?約99重量%、1実施態様では、約10重量%?約90重量%の本発明の組成物(すなわち、成分(A)および(B))を含有し、さらに、当該技術分野で周知かまたはこの上で記述の1種またはそれ以上の他の添加剤を含有し得る。」 という記載に基づくものであるから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。 以上のとおり、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてした補正であるから、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第3項に規定する要件を満たすものであると認められる。 (2)補正の目的の適否 まず、「ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物。」という文言を付加する補正について検討する。 この補正は、平成18年10月27日付けの拒絶理由通知において、原審審査官が引用文献1ないし5を提示して、本願の請求項1-10の発明は、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず、また、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨指摘したのに対し、請求人(出願人)は平成19年1月29日付けの意見書において 「本願発明の組成物は、本願明細書の段落[0028]に記載されるように、耐摩耗性の向上、低いリンレベル、および/または酸化防止性の向上といった予期しない有意な効果を達成します。」 と述べたところ、原審審査官は 「先の拒絶理由1、2は、依然として解消していない。」 として拒絶したことに基づいてなされたものであると認められる。 そして、本願明細書の記載によると、「ほぼ40年間にわたって、エンジン潤滑油の主要な耐摩耗添加剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)であった。しかしながら、ZDDPは、典型的には、耐摩耗性に必要な工業上の標準試験に合格するために、潤滑油では、0.12重量%以上のリン含量を与えるのに充分な濃度で使用されている。」(段落【0002】)のに対し、本願発明の組成物は「従来技術のものと比較すると、低いリンレベルにより特徴づけられ・・・る」(段落【0028】)ものであることが明らかである。 してみると、本件補正において「ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物。」を付加する補正は、本願の請求項1に係る発明の組成物が従来技術のものと比較すると低いリンレベルのものであることを示して、上記拒絶理由通知書において指摘された拒絶の理由を回避しようとするものであると認められるから、かかる補正は「明りようでない記載の釈明」に当たるとともに、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」であるということができる。 次に、補正前の特許請求の範囲の請求項6について、補正前の 「希釈剤、および約1重量%?約99重量%の請求項1に記載の組成物を含有する、濃縮物。」 を 「請求項1に記載の組成物であって、約1重量%?約99重量%の希釈剤をさらに含有する、組成物。」 とする補正について検討する。 この補正は、平成18年10月27日付けの拒絶理由通知において、原審審査官が 「D、請求項1-9に規定された組成物の用途が不明である。」 と指摘したのに対し、請求人(出願人)は平成19年1月29日付けの手続補正書において、請求項6を 「希釈剤、および約1重量%?約99重量%の請求項1に記載の組成物を含有する、濃縮物。」 と補正したところ、原審審査官は 「請求項6に記載された「濃縮物」が何の濃縮物であるのかが不明であるから、同請求項に規定された組成物の用途が不明確である。」 として拒絶したことに基づいてなされたものであると認められる。 してみると、 「請求項1に記載の組成物であって、約1重量%?約99重量%の希釈剤をさらに含有する、組成物。」 とする補正は、「明りようでない記載の釈明」に当たるとともに、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」に当たることは明らかである。 してみると、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項4号に挙げられた「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当する。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項及び同第4項の規定に適合するから、適法になされたものと認める。 第3 本願発明 上記したように、本件補正は適法になされたものであるので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年12月4日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「以下の(A)および(B)を含有する、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物: (A)次式により表わされる化合物の亜鉛塩: 【化1】 ここで、式(A-I)では、X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)は、独立して、OまたはSであり、X^(1)およびX^(2)は、NR^(3)であり得、aおよびbは、独立して、0または1であり、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、独立して、ヒドロカルビル基であり、そしてR^(3)は、水素であり得る;および (B)次式により表わされる化合物: 【化3】 ここで、式(B-IA)では、R^(1)、R^(2)およびR^(5)は、独立して、1個?約18個の炭素原子を有するアルキル基である; ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物。」 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前日本又は外国において頒布された下記刊行物(1)-(5)に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができず、また、本願発明は、その出願前日本又は外国において頒布された下記刊行物(1)-(5)に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という事項を含むものである。 記 (1)特開平6-41568号公報 (2)特開昭60-84394号公報 (3)特開平6-228582号公報 (4)特開平7-150167号公報 (5)特開平6-184578号公報 第5 当審の判断 1 引用文献及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物(3)である特開平6-228582号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 1-a 「【請求項1】主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩、を含有する、潤滑組成物:ここで、該潤滑組成物は、1.5重量%より少ない無灰分分散剤を含有し、該無灰分分散剤は、ポリイソブテン置換無水コハク酸とポリアミンとの反応生成物であるが、但し、(A)が、硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩であるとき、該潤滑組成物は、(B)少なくとも1種のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物を含有する。 ・・・ 【請求項10】さらに、(B)リン含有またはホウ素含有の耐摩耗剤または極圧剤を含有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項11】(B)が、ジチオリン酸金属、リン酸エステルまたはそれらの塩、リン酸トリヒドロカルビル、亜リン酸エステル、リン含有カルボン酸エステル、それらのエーテルまたはアミド、ホウ酸塩分散剤、アルカリ金属ホウ酸塩または混合したアルカリ金属アルカリ土類金属ホウ酸塩、ホウ酸塩化しオーバーベース化した化合物、ホウ酸塩化リン脂質、およびホウ酸エステルからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。 ・・・ 【請求項21】さらに、(C)少なくとも1種のイオウ含有化合物を含有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項22】前記イオウ含有化合物が、硫化有機化合物またはジチオカーバメート含有化合物である、請求項21に記載の組成物。」(特許請求の範囲) 1-b 「【発明の要旨】本発明は、主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩を含有する潤滑組成物を包含し、ここで、この潤滑組成物は、1.5重量%より少ない無灰分分散剤を含有し、この無灰分分散剤は、ポリイソブテン置換無水コハク酸とポリアミンとの反応生成物であるが、但し、(A)が、硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩であるとき、この潤滑組成物は、(B)少なくとも1種のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物を含有する。本発明はまた、亜硫酸塩および硫酸塩のオーバーベース化金属塩を含有するグリース組成物および機能流体(例えば、切削油剤など)を包含する。これらの組成物は、改良された耐摩耗特性、耐溶接特性および極圧特性を有する。」(段落【0004】) 1-c 「リン含有またはホウ素含有試薬(B):1実施態様では、本発明の硫化オーバーベース化生成物は、少なくとも1種のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤と組み合わせて、用いられる。本実施態様では、このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤(B)は、潤滑剤および機能流体に、耐摩耗特性、耐溶接特性、および/または極圧特性を与えるのに充分な量で、存在する。このリン含有またはホウ素含有試薬(B)は、典型的には、潤滑剤および機能流体にて、潤滑剤、機能流体またはグリースの全重量を基準にして、約20重量%までのレベル、好ましくは、約10重量%までのレベルで存在する。典型的には、このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、潤滑剤および機能流体中にて、約0.01重量%から、または約0.05重量%から、または約0.08重量%からのレベルで、存在する。このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、約10重量%までの量、または約3重量%までの量、または約1重量%までの量で存在する。」(段落【0057】) 1-d 「1実施態様では、(B)は、チオリン酸金属、好ましくは、ジチオリン酸金属である。このチオリン酸金属は、当業者に周知の方法により調製される。ジチオリン酸金属の例には、イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(ノニル)ジチオリン酸バリウム、ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(ヘキシル)ジチオリン酸カルシウム、イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛が包含される。」(段落【0087】) 1-e 「イオウ含有化合物 1実施態様では、この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩(A)は、少なくとも一種のイオウ含有化合物(C)と組み合わせて用いられ得る。このイオウ含有化合物には、硫化有機化合物、およびジチオカーバメート含有化合物が挙げられる。この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩(A)は、このイオウ含有化合物(C)とだけ用いられるか、または(A)は、(C)とリン含有化合物またはホウ素含有化合物(B)とを組み合わせて、用いられ得る。1実施態様では、このイオウ含有化合物は、潤滑組成物の約0.05重量%以上、または約1重量%以上、または約2重量%以上の量で存在する。このイオウ含有化合物は、一般に、約10重量%まで、または約7重量%まで、または約6重量%までの量で、存在する。」(段落【0113】) 1-f 「他の実施態様では、(C)は、ジチオカーバメート含有化合物である。・・・ 1実施態様では、このジチオカーバメート含有化合物は、ジアミルアミンと二硫化炭素との反応生成物から誘導され、これにより、最終的にアクリルアミドと反応するジチオカルバミン酸が形成される。他の実施態様では、このジチオカルバミン酸は、ジエチルアミンおよび二硫化炭素から形成される。得られるジチオカルバミン酸は、次いで、アクリル酸メチルと反応する。米国特許第4,758,362号および第4,997,969号は、ジチオカーバメート化合物およびそれらの製造方法を記述している。これらの特許の内容は、ジチオカーバメート化合物およびそれらの製造方法の開示について、本明細書中に参考として援用されている。」(段落【0124】?【0125】) 1-g 「潤滑剤 先に示したように、この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩(A)は、潤滑剤の添加剤として有用であり、ここで、これらは、主として、耐摩耗剤、耐溶接剤、極圧剤、腐食防止剤、酸化防止剤および/または摩擦調整剤として機能し得る。これらは、潤滑粘性のある多様なオイル(これには、天然および合成の潤滑油およびそれらの混合物が含まれる)をベースにした種々の潤滑剤中にて、使用され得る。これらの潤滑剤には、火花点火および圧縮点火の内燃機関(これには、自動車およびトラックのエンジン、2サイクルエンジン、航空機のピストンエンジン、船舶および鉄道のディーゼルエンジンなどが含まれる)のクランク室潤滑油が挙げられる。これらはまた、ガスエンジン、定置出力エンジンおよびタービンなどで用いられ得る。自動変速機油、トランスアクシル潤滑剤、ギア潤滑剤、トラクター潤滑剤、金属加工潤滑剤、油圧作動液および他の潤滑油およびグリース組成物もまた、本発明の組成物を混合することで利点がある。」(段落【0134】) 1-h 「他の実施態様では、この潤滑粘性のあるオイルは、クランク室用(例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン用)の潤滑組成物を得るために、選択される。典型的には、この潤滑組成物は、10W、20Wまたは30WのSAEクランク室粘度数の潤滑剤を得るために、選択される。この潤滑組成物はまた、いわゆるマルチグレード等級(例えば、SAE 5W-30、10W-30、10W-40、20W-50など)を有し得る。上で記述のように、マルチグレード等級の潤滑剤は、上記の潤滑剤等級を得るために、潤滑粘性のあるオイルと処方される粘度改良剤を含有する。」(段落【0142】) 1-i 「1実施態様では、この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(段落【0143】) 1-j 「(実施例IX)実施例1の生成物3.75重量%、ジ(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛-2-エチルヘキサノエート(これは、酸化亜鉛、2-エチルヘキサン酸、ジ(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸および亜リン酸トリフェニルを用いて調製した)2.4重量%、カルボン酸誘導体可溶化剤(これは、N,N-ジエチルエタノールアミンとポリブチレン無水コハク酸とを、1:1のモル比で反応させることにより調製し、ここで、このポリブテン無水コハク酸は、約1000の数平均分子量を有するポリブテン重合体から誘導した置換基を含有する)0.31重量%、C_(8-18)およびC_(4)アルコールでエステル化しアミノプロピルモルホリンで後処理した無水マレイン酸-スチレン共重合体1重量%、大豆油の硫化混合物および16個および18個の炭素原子を有するα-オレフィンの混合物1重量%、およびジチオカーバメートエステル(これは、ジブチルアミンと、二硫化炭素およびアクリル酸メチルとを反応させることにより、調製した)3重量%を、50%の250ニュートラル鉱油および50%の65ニュートラル鉱油を含有するオイル混合物に混合することにより、潤滑剤を調製する。」(段落【0165】) 2 引用発明 刊行物1には 「【請求項1】主要量の潤滑粘性のあるオイル、および少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩、を含有する、潤滑組成物:ここで、該潤滑組成物は、1.5重量%より少ない無灰分分散剤を含有し、該無灰分分散剤は、ポリイソブテン置換無水コハク酸とポリアミンとの反応生成物であるが、但し、(A)が、硫酸塩のオーバーベース化金属塩またはホウ酸塩化オーバーベース化金属塩であるとき、該潤滑組成物は、(B)少なくとも1種のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物を含有する。 ・・・ 【請求項10】さらに、(B)リン含有またはホウ素含有の耐摩耗剤または極圧剤を含有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項11】(B)が、ジチオリン酸金属、リン酸エステルまたはそれらの塩、リン酸トリヒドロカルビル、亜リン酸エステル、リン含有カルボン酸エステル、それらのエーテルまたはアミド、ホウ酸塩分散剤、アルカリ金属ホウ酸塩または混合したアルカリ金属アルカリ土類金属ホウ酸塩、ホウ酸塩化しオーバーベース化した化合物、ホウ酸塩化リン脂質、およびホウ酸エステルからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。 ・・・ 【請求項21】さらに、(C)少なくとも1種のイオウ含有化合物を含有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項22】前記イオウ含有化合物が、硫化有機化合物またはジチオカーバメート含有化合物である、請求項21に記載の組成物。」(摘示1-a) に関する発明が記載されており、また、刊行物1には、以下の記載がなされている。 ・「イオウ含有化合物 1実施態様では、この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩(A)は、少なくとも一種のイオウ含有化合物(C)と組み合わせて用いられ得る。このイオウ含有化合物には、硫化有機化合物、およびジチオカーバメート含有化合物が挙げられる。この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩(A)は、このイオウ含有化合物(C)・・・とリン含有化合物・・・(B)とを組み合わせて、用いられ得る。」(摘示1-e) ・「この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(摘示1-i) そして、実施例IXには、「(A)酸性有機化合物の硫酸塩のオーバーベース化金属塩」である「実施例1の生成物」とともに、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」である「ジ(2-エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛-2-エチルヘキサノエート」、及び「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」である「ジチオカーバメートエステル(これは、ジブチルアミンと、二硫化炭素およびアクリル酸メチルとを反応させることにより、調製した)」を含む潤滑剤(潤滑組成物)を調製する例が示されている(摘示1-j)。 してみると、刊行物1には、 「主要量の潤滑粘性のあるオイル、少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩、(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤、及び(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物、を含有する、改良された摩耗特性および酸化特性を有する潤滑組成物。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 3 対比 (1) 引用発明における「改良された摩耗特性・・・を有する潤滑組成物」は、本願発明における「潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物」に対応する。 (2) 本願発明の式(A-I)により表わされる化合物の亜鉛塩は、リンを含有するので、「リン含有化合物」であるということができる。 (3) 本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物は、ジチオカーバメート基を含有する化合物であるとともに、当然イオウを含有するので、「ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」であるということができる。 (4) 引用発明においては「少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩」を含有すると規定するのに対し、本願発明においては「少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩」を含有するとは特に規定していないが、エンジン潤滑油に関する技術分野において、金属系清浄剤として「少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩」を含有するエンジン潤滑油を用いることは周知慣用の技術手段である(必要なら、例えば、原審において引用文献(1)として提示された特開平6-41568号公報の段落【0013】?【0014】参照。)し、しかも、本願発明においても金属系清浄剤として「少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩」を含有するエンジン潤滑油を用いる態様を包含している(段落【0122】及び段落【0147】の【表1】参照。)ので、引用発明において「少量の(A)酸性有機化合物の亜硫酸塩または硫酸塩のオーバーベース化金属塩」を含有すると規定する点は、本願発明と実質的に相違するものではない。 (5) 以上の点を踏まえ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「以下の(A)および(B)を含有する、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物: (A)リン含有化合物;および (B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」 である点で一致するが、以下のア?ウの点で一応相違すると認められる。 ア 「(A)リン含有化合物」について、本願発明においては 「(A)次式により表わされる化合物の亜鉛塩: 【化1】 ここで、式(A-I)では、X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)は、独立して、OまたはSであり、X^(1)およびX^(2)は、NR^(3)であり得、aおよびbは、独立して、0または1であり、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、独立して、ヒドロカルビル基であり、そしてR^(3)は、水素であり得る」 と規定されているのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点 イ 「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」について、本願発明においては 「(B)次式により表わされる化合物: 【化3】 ここで、式(B-IA)では、R^(1)、R^(2)およびR^(5)は、独立して、1個?約18個の炭素原子を有するアルキル基である」 と規定されているのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点 ウ 潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量について、本願発明においては 「ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物」 と規定されているのに対し、引用発明においてはかかる規定は特になされていない点 (以下、これらの一応の相違点を、それぞれ「相違点ア」、「相違点イ」及び「相違点ウ」という。) 4 相違点についての判断(その1) (1) 相違点アについて 刊行物1には、「(A)リン含有化合物」に対応する(B)のジチオリン酸金属について、 「1実施態様では、(B)は、チオリン酸金属、好ましくは、ジチオリン酸金属である。・・・ジチオリン酸金属の例には、イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、・・・ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、・・・イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛が包含される。」(摘示1-d) と記載されているところ、「イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛」は本願発明の式(A-I)により表わされる化合物の亜鉛塩に包含されるので、本願発明と引用発明とは、「(A)リン含有化合物」について、「イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛」を包含する点において重複している。 してみると、相違点アは実質的な相違点であるとは認められない。 (2) 相違点イについて 刊行物1には、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」に対応するイオウ含有化合物(C)について、 「他の実施態様では、(C)は、ジチオカーバメート含有化合物である。・・・1実施態様では、このジチオカーバメート含有化合物は、ジアミルアミンと二硫化炭素との反応生成物から誘導され、これにより、最終的にアクリルアミドと反応するジチオカルバミン酸が形成される。他の実施態様では、このジチオカルバミン酸は、ジエチルアミンおよび二硫化炭素から形成される。得られるジチオカルバミン酸は、次いで、アクリル酸メチルと反応する。」(摘示1-f) と記載されているところ、ここに示されるジチオカルバミン酸とアクリル酸メチルとの反応生成物は、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物において、R^(1)及びR^(2)がエチル基(2個の炭素原子を有するアルキル基)であってR^(5)がメチル基(1個の炭素原子を有するアルキル基)であるものに対応する。 また、刊行物1には、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」に対応するイオウ含有化合物(C)の例として、「ジチオカーバメートエステル(これは、ジブチルアミンと、二硫化炭素およびアクリル酸メチルとを反応させることにより、調製した)」(摘示1-j)を用いる例が示されているところ、ここに示されるジチオカーバメートエステルは、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物において、R^(1)及びR^(2)がブチル基(4個の炭素原子を有するアルキル基)であってR^(5)がメチル基(1個の炭素原子を有するアルキル基)であるものに対応する。 してみると、本願発明と引用発明とは、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」について、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物において、R^(1)及びR^(2)が2又は4個の炭素原子を有するアルキル基であってR^(5)が1個の炭素原子を有するアルキル基であるものを包含する点において重複しているので、相違点イは実質的な相違点であるとは認められない。 (3) 相違点ウについて 刊行物1には、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量について、 「リン含有またはホウ素含有試薬(B):・・・このリン含有またはホウ素含有試薬(B)は、典型的には、潤滑剤および機能流体にて、潤滑剤、機能流体またはグリースの全重量を基準にして、約20重量%までのレベル、好ましくは、約10重量%までのレベルで存在する。典型的には、このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、潤滑剤および機能流体中にて、約0.01重量%から、または約0.05重量%から、または約0.08重量%からのレベルで、存在する。このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、約10重量%までの量、または約3重量%までの量、または約1重量%までの量で存在する。」(摘示1-c) と記載されているので、引用発明の潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量は約0.01重量%から約10重量%までの量であると認められる。 してみると、本願発明と引用発明とは、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量について、約0.01重量%から約0.1重量%までの量である点において重複しているので、相違点ウは実質的な相違点であるとは認められない。 (4) 相違点についての判断(その1)の結論 したがって、上記各相違点は実質的な相違点であるとは認められないので、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 ところで、先に第4で述べたように、原査定の拒絶の理由においては、本願発明はその出願前日本又は外国において頒布された下記刊行物(1)-(5)に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないとする認定判断とともに、本願発明はその出願前日本又は外国において頒布された下記刊行物(1)-(5)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの認定判断が併せて示されている。 そして、原査定の拒絶の理由において、(特許法29条1項3号とともに)特許法29条2項を適用した趣旨は、仮に上記各相違点が実質的な相違点であったとしても、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由を含むことが明らかであるので、進んで、仮に上記各相違点が実質的な相違点とした場合に、本願発明が刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるか否かについても、検討しておくことにする。 5 相違点についての判断(その2) (1) 相違点アについて 刊行物1には、「(A)リン含有化合物」に対応する(B)のジチオリン酸金属について、 「1実施態様では、(B)は、チオリン酸金属、好ましくは、ジチオリン酸金属である。・・・ジチオリン酸金属の例には、イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、・・・ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、・・・イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛が包含される。」(摘示1-d) と記載されているところ、「イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛」は本願発明の式(A-I)により表わされる化合物の亜鉛塩に包含されるので、引用発明において、「(A)リン含有化合物」として、本願発明の式(A-I)により表わされる化合物の亜鉛塩に包含されるもののうち、「イソプロピルメチルアミルジチオリン酸亜鉛、イソプロピルイソオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(シクロヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(イソブチル)ジチオリン酸亜鉛、イソブチルイソアミルジチオリン酸亜鉛、およびイソプロピル第二級ブチルジチオリン酸亜鉛」を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2) 相違点イについて 刊行物1には、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」に対応するイオウ含有化合物(C)について、 「他の実施態様では、(C)は、ジチオカーバメート含有化合物である。・・・1実施態様では、このジチオカーバメート含有化合物は、ジアミルアミンと二硫化炭素との反応生成物から誘導され、これにより、最終的にアクリルアミドと反応するジチオカルバミン酸が形成される。他の実施態様では、このジチオカルバミン酸は、ジエチルアミンおよび二硫化炭素から形成される。得られるジチオカルバミン酸は、次いで、アクリル酸メチルと反応する。」(摘示1-f) と記載されているところ、ここに示されるジチオカルバミン酸とアクリル酸メチルとの反応生成物は、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物において、R^(1)及びR^(2)がエチル基(2個の炭素原子を有するアルキル基)であってR^(5)がメチル基(1個の炭素原子を有するアルキル基)であるものに対応する。 また、刊行物1には、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」であるイオウ含有化合物(C)の例として、「ジチオカーバメートエステル(これは、ジブチルアミンと、二硫化炭素およびアクリル酸メチルとを反応させることにより、調製した)」(摘示1-j)を用いる例が示されているところ、ここに示されるジチオカーバメートエステルは、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物において、R^(1)及びR^(2)がブチル基(4個の炭素原子を有するアルキル基)であってR^(5)がメチル基(1個の炭素原子を有するアルキル基)であるものに対応する。 してみると、引用発明において、「(B)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」について、本願発明の式(B-IA)により表わされる化合物に包含されるもののうち、R^(1)及びR^(2)が2又は4個の炭素原子を有するアルキル基であってR^(5)が1個の炭素原子を有するアルキル基であるものを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3) 相違点ウについて 刊行物1には、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量について、 「リン含有またはホウ素含有試薬(B):・・・このリン含有またはホウ素含有試薬(B)は、典型的には、潤滑剤および機能流体にて、潤滑剤、機能流体またはグリースの全重量を基準にして、約20重量%までのレベル、好ましくは、約10重量%までのレベルで存在する。典型的には、このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、潤滑剤および機能流体中にて、約0.01重量%から、または約0.05重量%から、または約0.08重量%からのレベルで、存在する。このリン含有またはホウ素含有の耐摩耗/極圧剤は、約10重量%までの量、または約3重量%までの量、または約1重量%までの量で存在する。」(摘示1-c) と記載されている。 また、刊行物1には、 「この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有・・・の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(摘示1-i) と記載されていることからみて、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」と「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」は、ともに改良された摩耗特性および酸化特性を付与し得ることが明らかである。 そして、リン成分は触媒成分を被毒させる成分であるため、米軍規格であるMIL-L-46152Eそして日米の自動車工業会が作った規格のILSAC GF-1では、エンジン油中のリン濃度を0.12重量%以下とするように規定していること(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物(1)である特開平6-41568号公報の段落【0005】参照。)、及び通常のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むエンジン油におけるリン濃度はおよそ0.1重量%であり、上記の規格に合格しているが、触媒対策のために望ましくは、リン源であるジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用量を低減させる必要があること(例えば、前記特開平6-41568号公報の段落【0006】及び【0024】参照。)は周知である。 してみると、通常のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むエンジン油におけるリン濃度はおよそ0.1重量%であるところ、リン成分は触媒成分を被毒させる成分であるから、リン源であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(注.引用発明の「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」に対応する。)の使用量を低減させる必要があるので、引用発明において、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」を単独で用いるのではなく、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」とともに、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」と同様に改良された摩耗特性および酸化特性を付与し得る「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」を用いることにより、潤滑剤において耐摩耗剤として使用するための組成物のリン含有量について、 「ここで、該組成物が、0.1重量%までのリン含有量によって特徴付けられる、組成物」 と規定することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (4) 効果について しかも、本願発明が上記各相違点に基づき格別顕著な技術的効果を奏し得たものとは認められない。 すなわち、本願明細書の段落【0153】に記載されている【発明の効果】の記載からみて、本願発明の効果は「低いリンレベル」、「充分な耐摩耗性」及び「高めた酸化防止性」であると認められるところ、刊行物1には、 「この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有・・・の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(摘示1-i) と記載されていることからみて、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」と「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」は、いずれも改良された摩耗特性および酸化特性を付与し得ることが明らかであるから、リン源であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(注.引用発明の「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」に対応する。)の使用量を、通常のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むエンジン油におけるリン濃度である0.1重量%より減量しても、その減量に見合う分量又はそれ以上の「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」を併用すれば摩耗特性を維持又は向上させ得ることは予想できるので、引用発明において、通常のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むエンジン油におけるリン濃度である0.1重量%より「低いリンレベル」としたものが「充分な耐摩耗性」及び「高めた酸化防止性」という効果を奏したとしても、かかる効果は予想し得る程度のものといわざるを得ない。 また、実施例14、14-C1および14-C2の最大カムローブ摩耗(単位:ミル)及び平均カムローブ摩耗(単位:ミル)を示す表3(段落【0152】)によれば実施例14は実施例14-C1および14-C2より耐摩耗性が優れていることを示しているが、「実施例14が、実施例B-1の生成物0.5重量%および実施例A-9の生成物0.7重量%を含有するのに対して、実施例14-C1が、実施例A-9の生成物を0.7重量%だけ含有し、そして実施例14-C2が、実施例B-1の生成物を0.5重量%だけ含有する」(段落【0148】)ものであることからみて、実施例14-C1および14-C2のものは、実施例14のものと比べ、明らかに潤滑成分の添加量が少ないから、表3の結果は、単に、実施例14-C1および14-C2における潤滑成分の添加量が、所定の潤滑性能を発現させるための必要量より少ないことを意味しているにすぎない。また、刊行物1には、 「この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有・・・の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(摘示1-i) と記載されていることからみて、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」と「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」は、ともに改良された摩耗特性および酸化特性を付与し得ることが明らかであるから、実施例A-9の生成物を0.7重量%だけ含有する実施例14-C1の組成物や実施例B-1の生成物を0.5重量%だけ含有する実施例14-C2の組成物より、実施例B-1の生成物0.5重量%および実施例A-9の生成物0.7重量%を含有する実施例14の組成物が、潤滑成分の添加量が多いことにより、優れた摩耗特性および酸化特性を有することは予想し得ることである。したがって、表3をみても、本願発明が格別顕著な技術的効果を奏するものとは認められない。 また、本願明細書のその他の記載をみても、本願発明が上記各相違点により格別顕著な技術的効果を奏し得たものとは認められない。 (5) 相違点についての判断(その2)の結論 したがって、仮に上記各相違点が実質的な相違点であったとしても、上記各相違点は当業者が容易に想到し得るものであり、また、本願明細書を検討しても、本願発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 6 請求人の主張について 請求人は、審判請求書についての平成20年1月16日付け手続補正書の「4.2.3 本願発明と引用文献との対比」の項目において、以下の主張をしている。 「ほぼ40年間にわたって、エンジン潤滑油の主要な耐摩耗添加剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)であり、ZDDPは、典型的には、耐摩耗性に必要な工業規格試験に合格するために、潤滑油では、0.12重量%以上のリン含量を与えるのに充分な濃度で使用されていました。従来においては、摩耗性に問題がある場合、ZDDPの濃度を増加させていました。それに対して、本願発明では、かなり低レベルのリンの使用であっても、ASTM Sequence VE Engine試験のような摩耗性についての工業規格試験を合格する潤滑油組成物を提供しています。平成19年1月29日付けの意見書とともに提出いたしました甲第1号証に示されるように、リンのレベルが0.05重量%および0.07重量%であっても、スラッジ、バーニッシュおよび摩耗において良好な結果を得ています。このような結果は、引用文献からは容易に予測できません。」 しかしながら、平成19年1月29日付けの意見書とともに提出された甲第1号証をみても、そもそもサンプルC-1及びC-2のものは、サンプル1?3のものと比べ、明らかに潤滑成分の添加量が少ないから、甲第1号証に示された結果は、サンプルC-1及びC-2における潤滑成分の添加量が、所定の潤滑性能を発現させるための必要量より少ないことを意味しているにすぎない。 また、試験サンプル1?3には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用量を0.7重量%及び0.45重量%に減量しても、チオカルバメートを0.25?0.5重量%併用すれば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を0.9重量%加えチオカルバメートを併用しない試験サンプルC-3と同程度又はそれより若干優れた耐摩耗特性を示すことが記載されているが、刊行物1には、 「この亜硫酸金属塩および硫酸金属塩は、潤滑組成物にて、(B)上のリン含有・・・の耐摩耗/極圧剤、または(C)イオウ含有化合物のいずれかと共に、用いられる。これらの物質の配合物を含有する潤滑組成物は、改良された摩耗特性および酸化特性を有する。」(摘示1-i) と記載されていることからみて、「(B)ジチオリン酸金属からなるリン含有の耐摩耗/極圧剤」に相当するジアルキルジチオリン酸亜鉛と「(C)ジチオカーバメート含有化合物からなるイオウ含有化合物」に相当するチオカルバメートは、いずれも摩耗特性を向上させ得ることが明らかであるから、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の使用量を通常のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むエンジン油におけるリン濃度である0.1重量%より減量しても、その減量に見合う分量又はそれ以上のチオカルバメートを併用すれば、摩耗特性を維持又は向上させ得ることは予想できるので、甲第1号証に示された試験結果は当業者が予想し得る程度のものであるといわざるを得ない。 (なお、甲第1号証の各試験サンプルの試験結果からみて、ジアルキルジチオリン酸亜鉛はチオカルバメートより優れた耐摩耗特性を示すことが窺われるが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、実用されている各種のエンジン油のほとんど全てにおいて用いられているというような、耐摩耗性向上剤として非常に優れた特性を有することは周知である(必要なら、例えば、原審において引用文献(1)として提示された特開平6-41568号公報の段落【0004】参照。)から、ジアルキルジチオリン酸亜鉛がチオカルバメートより優れた耐摩耗特性を示したとしても、そのことが格別顕著な効果であるとは認められない。) したがって、請求人の主張は前記の結論を左右するものではない。 第6 むすび 以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点であるとは認められないので、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであり、仮に上記各相違点が実質的な相違点であったとしても、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-17 |
結審通知日 | 2009-07-21 |
審決日 | 2009-08-06 |
出願番号 | 特願平8-242393 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
P 1 8・ 113- Z (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 昌広、木村 敏康 |
特許庁審判長 |
唐木 以知良 |
特許庁審判官 |
西川 和子 細井 龍史 |
発明の名称 | 潤滑剤および機能流体用の添加剤組成物 |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |