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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1208875
審判番号 不服2008-265  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-04 
確定日 2009-12-17 
事件の表示 平成11年特許願第274907号「光電変換装置の製造工程管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月13日出願公開、特開2001-102604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成11年9月28日の出願であって、平成19年6月5日、同年8月3日及び同年11月1日に手続補正がなされ、平成19年11月1日付け手続補正が同年11月27日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年1月4日に拒絶査定不服審判請求がなされ、当審において、平成21年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に手続補正がなされたものである。

(2)本願発明について
本願の請求項に係る発明は、平成21年9月7日付けの手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「透光性基板の一方の面に透明電極層、半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、
これらを成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の光電変換セルを形成し、
これら光電変換セルを集積化して光電変換モジュールを形成し、
これら各層の透光性基板の周辺部をレーザースクライブして前記光電変換モジュールの発電領域と周縁領域とを電気的に分離し、
前記透光性基板を洗浄することを備える光電変換装置の製造工程において、
前記透光性基板の他方の面の周縁領域、または前記一方の面の、前記各層に対するレーザースクライブのためのレーザー光が照射されない領域にレーザーによる刻印によって製造工程における管理のための二次元コードを付し、
以後の複数の製造工程において、前記二次元コードを読み取り、前記二次元コードから読取られた基板の情報および/または該複数の製造工程の内の各製造工程の情報を利用して該複数の製造工程の内の幾つかまたはすべての製造工程の管理を行う、
ここにおいて、前記レーザーによる刻印によって製造工程における管理のための二次元コードを付すことは、透明電極層が成膜される前のガラス基板、或いは透明電極層が成膜されたガラス基板において行われ、レーザースクライブの後に前記透光性基板が洗浄される、
光電変換装置の製造工程管理方法。」

2 刊行物の記載事項
(1)当審において、平成21年7月6日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である実願平2-92041号(実開平4-51156号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決にて付した。)。

ア 「2.実用新案登録請求の範囲
(1)透光性絶縁基板の一主面上に形成された透明電極、非晶質シリコン層及び金属膜の、積層体を具備する透光性薄膜太陽電池に於て、その太陽電池の形成部以外に前記積層体から成る識別用パターンを設けたことを特徴とした透光性薄膜太陽電池。」(1頁4?10行)

イ 「(ロ)従来技術
近年、非晶質シリコンを材料とする薄膜太陽電池の応用として、透光性薄膜太陽電池が開発されている。透光性薄膜太陽電池とは、太陽電池を構成する透明電極、半導体層及び裏面電極の積層体を、同一パターンでエッチング除去することにより、太陽電池の形成内に多数個の開口部を設けたものをいう。
その特徴は、透光性絶縁基板の光入射面から入射した光の多くを、前記半導体層に吸収させ発電に寄与させるものの、その一部の光を、前記開口部を通過させることにより、吸収されることなく透過させることにある。斯る太陽電池によれば、例えば前記太陽電池を窓ガラスとして使用した場合、光入射側の風景が、前記太陽電池を介してでも光透過側で見ることができる。」(1頁15行?2頁10行)

ウ 「(ハ)考案が解決しようとする課題
然し乍ら、前記透光性薄膜太陽電池では、その製造工程を管理するための、ロット番号や、記号を書き込むことが非常に困難である。
その理由としては、まず第1に 前記透光性薄膜太陽電池に代表されるように薄膜太陽電池は、その支持基板として透光性基板を使用するため、工程の初期に該透光性基板に記入しても、目視による読み出しが困難であること。第2に、前記薄膜太陽電池では、絶縁性基板上にp型半導体薄膜やn型半導体薄膜等を形成し被着するという、成膜工程を必要とするため、成膜後の記入は、これら膜に損傷を与え、且つ発塵の原因となること、などが挙げられる。」(2頁13行?3頁6行)

エ 「(ニ)課題を解決するための手段
本考案の透光性薄膜太陽電池の特徴とするところは、透光性絶縁基板の一主面上に形成された透明電極、非晶質シリコン層及び金属膜の積層体、を具備する透光性薄膜太陽電池に於て、その太陽電池の形成部以外に前記積層体から成る識別用パターンを設けたことにある。
(ホ)作用
前記透明電極、前記非晶質シリコン層及び前記金属膜の積層体を必要な情報が記号化された識別用パターンに合わせてエッチングすることにより、前記太陽電池に多くの情報を記入することができる。
前記識別用パターンとは、一定の情報に対して例えばバーコード用のパターンや、その他の人為的取り決めによって設定されたパターンによって表示されたものであって、光学的な手段により識別し得るパターンをいう。
前記積層体は光に対して非透過性であるため、前記識別用パターンを光学的手段により情報として読み取り、前記太陽電池の工程管理、品質管理などに利用する。
(ヘ)実施例
第1図乃至第5図は、実施例として本考案透光性薄膜太陽電池を説明するための製造工程別図で、本実施例はバーコード用パターンを識別用パターンとしたものである。
第1図に示される工程では、透光性絶縁基板(1)上に透明電極(2)を形成した後、銀ペースト等からなる導電膜(3)をその透明電極(2)の一部にモールドし、その後非晶質シリコン層(4)、金属膜(5)を順次積層する。
透明電極(2)としては、ITO(Indium Tin Oxide)や酸化錫、金属膜(5)としては、アルミニュウムなどを用いる。非晶質シリコン層(4)は、プラズマCVD法等からなる従来周知の半導体膜で、p層,i層及びn層の3層構造からなる。
次に第2図に示される工程では、透光性絶縁基板側からレーザ光を局部的に照射し、導電膜(3)と金属膜(5)を溶融し接着する。
第3図に示される工程では、金属膜(5)上にスクリーン印刷法によって、光硬化性樹脂(6)をコートしパターン化する。このスクリーン印刷では、透光性薄膜太陽電池の発電領域のパターンを形成し、本考案の特徴であるバーコード用パターンを形成しない。
次に、第4図に示される工程では、太陽電池の形成部以外の前記光硬化性樹脂(6)に光照射を行いバーコード用パターン(7)を形成する。
実施例に於ては、前記光照射として液晶を光シャッタとする2次元の所謂液晶光シャッタを用い、前記光硬化性樹脂(6)に光照射を行った。
前記液晶光シャッタの照射にあたっては、太陽電池に記入すべき情報をバーコード用の信号に変換し、それを前記液晶光シャッタの入力信号とした。前記入力信号のみを変化させることにより、太陽電池の形成部は各基板共同一パターンとしながら、バーコード用パターンは各太陽電池基板毎に異なるものを記入することができる。
第5図に示す工程では、前記光硬化性樹脂(6)をマスクとして、金属膜(5)及び非晶質シリコン層(4)を順次エッチングし、開口部(9)を多数個形成するとともに、識別用パターン(10)であるバーコード用パターンを前記積層体によって形成する。これにより、素子は完成する。」(4頁1行?7頁5行)

オ 「更に、実施例では、光硬化性樹脂(6)を第3図と第4図で示された2回の工程に分けてパターニングしたが、本考案の透光性薄膜太陽電池の製造方法はこれに限るものではなく、前記液晶光シャッタアレイなどで1度に行ってもよい。」(7頁16?20行)

カ 「(ト)考案の効果
本考案による透光性薄膜太陽電池によれば、識別用パターンを該太陽電池の構成及びその材料と同一のもので形成するため、前記太陽電池と同一の製造工程で形成し得る。
又、前記識別用パターンを用いることにより、多くの情報を各基板毎に記入できるため、工程管理等が容易であり、且つ従来の手作業を不要とすることにより、工程の歩留まりが向上する。」(8頁1?9行)

キ 上記エに照らして第1図ないし第5図をみると、透光性基板上にパターン化された積層体である積層体8が複数個存在し、ある積層体8の透明電極2と、該積層体8と隣合う積層体8の金属膜5が、銀ペーストからなる導電膜3によって接続されることがみてとれる。

ク アないしキからみて引用例1には、
「支持基板として透光性基板を使用するので工程の初期に製造工程を管理するためのロット番号や記号を該透光性基板に記入しても目視による読み出しが困難であるという課題を解決するために、
透光性絶縁基板上の一主面上に透明電極を形成した後、非晶質シリコン層、金属膜を順次積層する積層体を具備し、前記金属膜上にスクリーン印刷法によって光硬化性樹脂をコートしパターン化し、このスクリーン印刷では透光性薄膜太陽電池の発電領域のパターンを形成し、前記積層体がパターン化された積層体8が複数個存在し、ある積層体8の透明電極2と、該積層体8と隣合う積層体8の金属膜5が、銀ペーストからなる導電膜3によって接続され、太陽電池の形成部以外の前記積層体を必要な情報が記号化された識別用パターンに合わせて順次エッチングして成る識別用パターンとしてのバーコード用パターンを設けた透光性薄膜太陽電池の製造方法であって、
前記識別用パターンを光学的手段により情報として読み取り、前記太陽電池の工程管理に利用し、前記識別用パターンを用いることにより、多くの情報を各基板毎に記入できるため、工程管理等が容易となる、透光性薄膜太陽電池の製造方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)同じく、特開平9-68682号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】透明体を複数の処理工程にて順次処理するに際し、処理を開始する前に、透明体に対して金属板を合わせた状態で透明体を介して金属板にレーザービームを照射し、金属板の金属成分を透明体に付着させることにより、各処理工程に関する情報を有するマーキングを形成する工程と、
各処理を終えた後に、透明体に形成されたマーキングにレーザービームを照射して、その処理に関する情報を消去する工程と、
を包含することを特徴とする透明体の処理工程における管理システム。
【請求項2】 (略)
【請求項3】 前記マーキングは、情報を2次元的に表現された2次元コードである請求項1に記載の透明体の処理工程における管理システム。
【請求項4】 透明体を複数の処理工程にて順次処理するに際し、処理を開始する前に、透明体に対して金属板を合わせた状態で透明体を介して金属板にレーザービームを照射し、金属板の金属成分を透明体に付着させることにより、透明体に関する必要な情報を有するマーキングを形成する工程と、
所定の処理工程での処理を開始する前に、各透明体に設けられたマーキングを読み取り装置にてその透明体に関する情報を読み取ることを特徴とする透明体の処理工程における管理システム。」

イ 「【0013】図1は、本発明の透明体の処理工程における管理システムの実施の形態の一例として、液晶表示パネルに使用されるガラス基板の組立工程を示す模式図である。この液晶表示パネルに使用されるガラス基板の組立工程では、ガラス基板に多数のTFT(薄膜トランジスタ)がマトリクス状に設けられたTFT基板と、ガラス基板にカラーフィルターが設けられたCF(カラーフィルター)基板とが、順次、搬入される。そして、各ガラス基板10(TFT基板およびCF基板の両方を含む)が、順次、各処理工程へと移送されて、各処理工程にて所定の処理が実施される。
【0014】搬入された各ガラス基板10は、レーザービーム照射装置20が配置された受け台24上に、金属板25を介して載置されて、レーザービーム照射装置20によって、端部にマーキングが形成されるようになっている。
【0015】図2は、レーザービーム照射装置20の概略構成図である。このレーザービーム照射装置20は、コントローラー22によって制御されるYAGレーザービーム発振器21と、YAGレーザービーム発振器21から発振されるレーザービームを集光状態で走査するヘッド部23とを有している。
【0016】YAGレーザービーム発振器21は、例えば、出力50Wのレーザービームを発振するようになっており、YAGレーザー発振器21から発振されたレーザービームは、ヘッド部23に照射されている。ヘッド部23は、カルバノメーターを内蔵しており、YAGレーザー発振器21から発振されたレーザービームを、ヘッド部23の下方に配置された受け台24上に集光して、2次元方向に走査するようになっている。
【0017】ヘッド部23の下方に配置された受け台24上には、金属板25を介して、所定の処理が実施される前のガラス基板10が載置される。受け台24上に設けられた金属板25は、化学的に安定なクロム(Cr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、真鍮等の銅合金、あるいは、上記各種金属をガラス基板10上に薄膜形成した金属薄膜等によって構成されており、ヘッド部23は、レーザービームを、金属板25上に載置されたガラス基板10を通して、金属板25に集光した状態で、金属板25の表面を2次元方向に走査させるようになっている。
【0018】金属板25は、レーザービームが照射されることにより高温になり、金属板25の表面から金属成分が昇華する。昇華した金属成分は、ガラス基板10の表面(下面)に付着する。ヘッド部23は、金属板25の表面に2次元方向にレーザービームを走査しており、金属板25の表面の金属成分を、文字、パターン等の所定の形状に昇華させている。これにより、ガラス基板10の表面(下面)には、所定形状のマーキングが形成される。
【0019】ガラス基板10の表面に形成されるマーキングは、例えば、情報を線的に表現したバーコードのような1次元的なものであってもよく、また、情報を面的に表現した2次元コードであってもよい。形成されたマーキングには、ガラス基板10が、TFT基板であるかCF基板であるか、どのようなタイプであるか等のガラス基板10に関する情報と、1台のローカルコンピューター50が管理可能な処理工程の範囲内の各工程で実施されるそれれの処理に関する情報とが含まれている。ローカルコンピューター50は、一定の処理工程の範囲毎に設置されている。各ローカルコンピューター50は、液晶表示パネルの製造工程を全て管理するホストコンピューター60と接続されており、ホストコンピューター6れとの間で、データの交換および処理を行う。
【0020】このようにして、連続して搬送される各ガラス基板10に、所定のマーキングが順次形成されると、各ガラス基板10は、順次、第1洗浄工程31へと搬送される。そして、各ガラス基板10は、第1洗浄工程31にて洗浄される。この工程の管理は、ローカルコンピューター50によって行われる。」

(3)同じく、特開平2-202069号公報(以下「引用例3」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

「先ず、ガラス基板51上に全面に渡り透明電極52となる透明導電膜、例えば酸化錫、酸化インジウムを被着した後、第1のレーザ照射によりスクライブ55を形成し透明導電膜を各発電区域毎に分割し、複数個の透明電極52を形成する。さらに、複数個の透明電極52上に非晶質シリコン半導体層53を被着し、分割された透明電極52の端部が露出するように第2のレーザ照射により非晶質シリコン半導体層53にスクライブ56を形成する。これにより、非晶質シリコン半導体層53は各発電区域毎に分割される。さらに、非晶質シリコン半導体層53の全面に渡り金属電極54となるアルミニウムなどの金属を被着した後、第3のレーザ照射によりスクライブ57を形成する。これにより、金属電極54は各発電区域毎、かつ非晶質シリコン半導体層53の一部より露出する隣接する発電区域の透明電極52にまで延びるように形成される。
以上の構造をした複数個の発電区域が直列接続した非晶質太陽電池は、一般に大型の絶縁基板(以下非晶質太陽電池の基板と区別するためにマザー基板と言う。)上に20?50セルの非晶質太陽電池が製造され、最終工程で切断される。
この切断の工程まで加味した従来のレーザ照射の非晶質太陽電池は、例えば、特開昭60-3164号公報や特開昭60-59785号公報などに提案されている。具体的には、第3のレーザ照射により分離して金属電極を形成した後、非晶質太陽電池毎の切断時に透明電極と金属電極が短絡しないよう(非晶質シリコン半導体層は高々1μm程度であり、切断時に非晶質シリコン半導体層の破壊が生じて短絡発生がある)切断部分の両側又はマザー基板の最外周を第4のレーザ照射により、金属電極54または金属電極54及び非晶質シリコン半導体層53、必要に応じて全積層体にスクライブ58を形成する。」(2頁左上欄18行?左下欄14行)

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「透光性絶縁基板」、「透明電極」、「非晶質シリコン層」及び「薄膜太陽電池」は、本願発明の「透光性基板」、「透明電極層」、「半導体層」及び「光電変換装置」に相当する。

(2)引用発明は、金属膜上に光硬化性樹脂をコートしパターン化し、透光性薄膜太陽電池の発電領域のパターンを形成するものであるから、引用発明の「金属膜」のうち発電領域のパターンに位置するものが、本願発明の「裏面電極層」に相当することは明らかである。

(3)上記(2)より、引用発明においては、透光性絶縁基板上に透明電極を形成した後、非晶質シリコン層、「裏面電極層(『金属膜』のうち発電領域のパターンに位置するもの)」を順次積層するから、引用発明は、本願発明の「透光性基板の一方の面に透明電極層、半導体層、および裏面電極層を順次成膜し」との事項を備える。

(4)引用発明の「積層体8」は、透光性薄膜太陽電池の発電領域をパターン化したものであるから、本願発明の「光電変換セル」に相当し、引用発明においては、1つのモジュールを形成し得る透光性基板上に積層体8が複数個存在し、積層体8の透明電極2と、該積層体8と隣合う積層体8の金属膜5が、銀ペーストからなる導電膜3によって接続されているので、引用発明の積層体8は、集積化してモジュールを形成しているといえるから、透明電極層、半導体層、および裏面電極層を順次成膜したものにより複数の光電変換セルを形成し、これら光電変換セルを集積化して光電変換モジュールを形成する点において、引用発明は、本願発明の「これら各層により複数の光電変換セルを形成し、これら光電変換セルを集積化して光電変換モジュールを形成し」との事項と一致する。

(5)引用発明の「透光性薄膜太陽電池の製造方法」は、太陽電池の形成部以外の積層体を、必要な情報が記号化された識別用パターンに合わせてエッチングして成る識別用パターンを設け、前記識別用パターンを光学的手段により情報として読み取り、前記太陽電池の製造工程の工程管理に利用するものであって、該製造工程を管理するための前記必要な情報としてロット番号などの基板の情報が含まれること、前記製造工程の数が複数であって、そのうち工程管理される製造工程の数が1以上であることは明らかであるから、引用発明の「透光性薄膜太陽電池の製造方法」は、本願発明の「光電変換装置の製造工程」と、「前記透光性基板の前記一方の面に製造工程における管理のためのコードを付し、以後の複数の製造工程において、前記コードを読み取り、前記コードから読取られた基板の情報を利用して該複数の製造工程の内の幾つかまたはすべての製造工程の管理を行う」点で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)からみて、本願発明と引用発明とは、
「透光性基板の一方の面に透明電極層、半導体層、および裏面電極層を順次成膜し、
これら各層により複数の光電変換セルを形成し、
これら光電変換セルを集積化して光電変換モジュールを形成し、
前記透光性基板の前記一方の面に製造工程における管理のためのコードを付し、
以後の複数の製造工程において、前記コードを読み取り、前記コードから読取られた基板の情報を利用して該複数の製造工程の内の幾つかまたはすべての製造工程の管理を行う、光電変換装置の製造工程管理方法。」で一致し、次の点で相違する。

ア 本願発明は、透明電極層、半導体層、および裏面電極層に複数の光電変換セルを形成するに際して、「成膜ごとに各層をレーザスクライブ」し、「これら各層の透光性基板の周辺部をレーザースクライブして前記光電変換モジュールの発電領域と周縁領域とを電気的に分離」するものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点(以下「相違点1」という。)。

イ 光電変換装置の製造工程において、本願発明は、「透光性基板を洗浄する」工程を備え、「レーザースクライブの後に透光性基板が洗浄される」工程を備えるのに対し、引用発明は、そのような工程を備えているか否か不明である点(以下「相違点2」という。)。

ウ 製造工程において付される管理のためのコードについて、
(ア)コードの種類が、本願発明においては、「二次元コード」であるのに対し、引用発明においては、「バーコード」である点(以下「相違点3」という。)。

(イ)コードを付す箇所が、本願発明においては、「透光性基板の他方の面の周縁領域、または前記一方の面の、前記各層に対するレーザースクライブのためのレーザー光が照射されない領域」であるのに対し、引用発明においては、太陽電池の形成部以外である点(以下「相違点4」という。)。

(ウ)コードが、本願発明においては、「透光性基板(ガラス基板)」に「レーザーによる刻印」によって付されるのに対し、引用発明においては、透明電極、非晶質シリコン層及び金属膜からなる積層体にエッチングによって付される点(以下「相違点5」という。)。

(エ)ガラス基板にコードを付す時期が、本願発明においては、「透明電極層が成膜される前」あるいは「透明電極層が成膜された」後であるのに対し、引用発明においては、「透明電極層が成膜される前」、「或いは透明電極層が成膜された」後でもない点(以下「相違点6」という。)。

4 判断
上記各相違点について判断する。
(1)相違点1について
ア 上記2(3)より、引用例3には、ガラス基板上に全面に渡り透明電極となる透明導電膜を被着した後、第1のレーザ照射によりスクライブを形成し透明導電膜を各発電区域毎に分割し、複数個の透明電極を形成し、この複数個の透明電極上に非晶質シリコン半導体層を被着し、分割された透明電極の端部が露出するように第2のレーザ照射により非晶質シリコン半導体層にスクライブを形成し、非晶質シリコン半導体層は各発電区域毎に分割され、さらに、非晶質シリコン半導体層の全面に渡り金属電極となる金属を被着した後、第3のレーザ照射によりスクライブを形成し、金属電極は各発電区域毎、かつ非晶質シリコン半導体層の一部より露出する隣接する発電区域の透明電極にまで延びるように形成されること、及び、第3のレーザ照射により分離して金属電極を形成されること、及び、以上の構造をした複数個の発電区域が直列接続した非晶質太陽電池は、一般に大型の絶縁基板上に20?50セルの非晶質太陽電池が製造されること、ならびに、前記非晶質太陽電池は最終工程で切断され、非晶質太陽電池毎の切断時に透明電極と金属電極が短絡しないよう切断部分の両側又はマザー基板の最外周を第4のレーザ照射により、全積層体にスクライブを形成する旨の開示がなされているものと認められる。

イ 上記アより、引用例3には、ガラス基板に一方の面に透明電極、非晶質シリコン半導体層、および金属電極層を順次成膜し、これらを成膜ごとに各層をレーザースクライブして複数の発電区域を形成する技術事項、及び、最終工程において、これら各層をレーザースクライブすることにより非晶質太陽電池を電気的に分離し切断する技術事項が開示されているといえる。

ウ 引用発明において、上記イの技術事項を適用し、透光性絶縁基板上の透明電極層、非晶質シリコン層、金属膜の積層体に対するパターン化を、各層ごとにレーザースクライブして複数の発電区域を形成するものとし、最終工程においてこれら各層をレーザースクライブすることにより非晶質太陽電池を電気的に分離し切断することとなして、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(2)相違点2について
ア 光電変換装置の製造工程において、透光性基板を洗浄する工程は、本願出願前に周知である(例.特開平9-186212号公報(段落【0062】?【0065】を参照。)、特開平10-209477号公報(段落【0018】?【0024】を参照。)、特開平11-261095号公報(段落【0113】を参照。)、以下「周知技術1」という。)。

イ レーザースクライブの際に発塵することは当業者に自明であるから、引用発明において、レーザースクライブの後に周知技術1の透光性基板を洗浄する工程を採用し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(3) 相違点3ないし6について
ア 上記2(2)によれば、引用例2には、処理を開始する前の透明体の表面の端部あるいは下面の端部に対して、各処理工程に関する情報を有する二次元コードのマーキングを付す技術事項が開示されている。

イ また、ガラス素子にレーザーによる刻印を行い、該刻印を光学的に読み取ることは、本願出願前に周知である(例.特開平10-132942号公報(段落【0036】?【0046】、【0058】を参照。)、特開平11-232369号公報(段落【0022】を参照。)、以下「周知技術2」という。)。

ウ ここで、引用発明が「支持基板として透光性基板を使用するので工程の初期に製造工程を管理するためのロット番号や記号を該透光性基板に記入しても目視による読み出しが困難であるという課題を解決するため」のものであることに照らせば、工程の初期に製造工程を管理するためのロット番号や記号を透光性基板に付す必要性があることを引用発明は示唆するものといえる。してみると、引用発明において、コードを付す手段として周知技術2のレーザーによる刻印を採用しつつ、上記アの技術事項を適用し、透明電極層が成膜されたガラス基板に、二次元コードをレーザーによる刻印によって付すことは、当業者にとって困難とはいえず、相違点3、相違点5及び相違点6に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ また、周知技術2及び上記アの技術事項の適用に際して、二次元コードを形成する部位として、透光性基板の他方の面の周縁領域または前記一方の面の、前記各層に対するレーザースクライブのためのレーザー光が照射されない領域を選択し、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が当然考慮する程度のことである。

(4)そして、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用例2,3の記載事項並びに周知技術1,2から当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著なものとは認められない。

(5)したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2,3の記載事項並びに周知技術1,2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2,3の記載事項並びに周知技術1,2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2009-10-16 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-02 
出願番号 特願平11-274907
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 田部 元史
右田 昌士
発明の名称 光電変換装置の製造工程管理方法  
代理人 野河 信久  
代理人 竹内 将訓  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河井 将次  
代理人 峰 隆司  
代理人 山下 元  
代理人 橋本 良郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 白根 俊郎  
代理人 風間 鉄也  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 河野 哲  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 福原 淑弘  
代理人 市原 卓三  
代理人 勝村 紘  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 直樹  

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