• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1208967
審判番号 不服2008-24532  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-25 
確定日 2009-12-14 
事件の表示 特願2001-132802「複層軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月15日出願公開、特開2002-327750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯の概要
本願は、平成13年4月27日の出願であって、平成20年8月20日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年9月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年10月27日付けで明細書の手続補正がなされたものである。

【2】平成20年10月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 金属裏金の表面に形成された銅あるいは銅合金の焼結金属からなる多孔質層と、この多孔質層に含浸被覆された含浸被覆組成物とからなる複層軸受において、
前記含浸被覆組成物は、鉛類を含まず、 ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂に、ポリイミド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂と、
硫酸カルシウム粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、チタン酸カリウム粉末から選ばれる少なくとも一つの平均粒子径8?40μmの粒状無機充填材と、炭素繊維とを配合してなり、
前記含浸被覆組成物において、前記合成樹脂が5?30体積%、前記粒状無機充填材が3?30体積%、前記炭素繊維が1?15体積%、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする複層軸受。」に補正された(なお、下線は、請求人が付した本件補正による補正箇所を示す)。

上記補正は、請求項1についてみると、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「多孔質層」について「銅あるいは銅合金の焼結金属からなる」と、「含浸被覆組成物」について「鉛類を含まず」と構成を限定するものであるから、新規事項を追加するものではなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する補正の目的に合致する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか (平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-184225号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「すべり軸受用複合材料及びその製造方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「特許請求の範囲
1.金属製粗面下地上にポリマーから成る厚さ0.01?2.0mmの摩擦すべり層が存在するように、ポリマーから成るマトリックスが前記粗面下地と結合しているすべり軸受用複合材料において、前記マトリックスに粒径範囲が0.1?1.0μmの硫化亜鉛又は硫酸バリウム5?40容量%が含有されてなることを特徴とするすべり軸受用複合材料。」(第1ページ左下欄第4行?12行)

(イ)「7.粗面下地が、金属製支持層上、好ましくは鋼から成る支持層上に多孔焼結又は溶射された青銅層によって形成されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項?第5項のいずれか一項に記載のすべり軸受用複合材料。」(第2ページ左上欄第6行?10行)

(ウ)「本発明の課題は、冒頭に述べた形式のすべり軸受用複合材料に改良を加えて、特にその摩擦すべり層の耐摩耗性を向上させ、ひいてはこの材料から製作されるすべり軸受の使用寿命を延ばし、しかもその場合、優れた摩擦特性及び耐熱性、有効な熱膨張特性、摩擦すべり層と粗面下地との間の緊密な結合状態などに不都合な影響が及ばないようにすることにある。」(第4ページ左上欄第10行?17行)

(エ)「前記課題を解決すべく提案された本発明の措置によれば、マトリックスに、粒径が0.1?1.0μmで、好ましくは平均粒径が0.3μmの硫化亜鉛又は硫酸バリウム5?40容量%が含有されている。このように微粒の硫化亜鉛又は硫酸バリウムを用いると、すべり軸受用複合材料の摩擦すべり層の摩耗特性が著しく改善されので、その使用寿命が35%程度まで高められ、しかも、他の機械工学的な諸特性がこれによって不都合な影響を及ぼされることがない。」(第4ページ右上欄第1行?10行)

(オ)「「ポリマー」なる用語は、特にポリテトラフルオロエチレン、…(略)…ポリイミド、ポリアミドなどの既知ポリマーを包含している。これらのポリマーは、それぞれ単独で又は5?35%の容量比で混合した少くとも2種の混合物として本発明のすべり軸受用複合材料における摩擦すべり層のマトリックスを形成する。」(第4ページ左下欄第16行?右下欄第5行)

(カ)「本発明における別の構成の範囲内で、強度を高める添加物としてのガラス繊維、ガラス球、炭素繊維、…(略)…それぞれ単独で又は組合わせで5?40容量%、好ましくは10?25容量%の量でマトリックスに含まれる場合には、硫化亜鉛又は硫酸バリウムが乾式潤滑媒体の作用を発揮する。」(第4ページ右下欄第10行?17行)

(キ)「第1図に示したすべり軸受用複合材料は、鋼製支持層1と、この支持層上に多孔焼結されて開放細孔容積率35%を有する亜鉛-鉛-青銅製粗面下地2と、粗面下地2上に圧延され、硫化亜鉛粒子20容量%及びガラス繊維20容量%を含むポリテトラフルオロエチレンとから構成されている。」(第6ページ左上欄第7行?12行)

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
[刊行物1記載の発明]
「金属製支持層上に形成された多孔焼結加工された青銅製粗面下地と、この青銅製粗面下地に結合されたマトリックスとからなるすべり軸受において、
前記マトリックスは、
ポリテトラフルオロエチレンとポリイミドの混合物であり、
粒径が0.1?1.0μmの硫化亜鉛又は硫酸バリウムと、炭素繊維とを配合してなり、
前記マトリックスにおいて、前記硫化亜鉛又は硫酸バリウムが5?40容量%、前記炭素繊維が5?40容量%含まれているすべり軸受。」

(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-55054号(以下、「刊行物2」という。)には、「複層軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ク)「【請求項1】 金属裏金の表面に形成された多孔質層と、この多孔質層に含浸被覆された含浸被覆組成物とからなる複層軸受において、
前記含浸被覆組成物は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂に炭素繊維およびモース硬度4以下のウィスカを配合してなることを特徴とする複層軸受。
【請求項2】 前記含浸被覆組成物は、前記炭素繊維が3?30体積%であり、前記ウィスカが1?25体積%であり、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の複層軸受。
【請求項3】 前記樹脂は、融点280℃以上の結晶性樹脂が配合されてなることを特徴とする請求項1記載の複層軸受。
【請求項4】 前記含浸被覆組成物は、前記炭素繊維が3?30体積%であり、前記ウィスカが1?25体積%であり、前記結晶性樹脂が5?40体積%であり、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項3記載の複層軸受。
【請求項5】 前記結晶性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂およびポリイミド樹脂から選ばれた少なくとも一つの樹脂であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の複層軸受。」

(ケ)「【0002】
【従来の技術】鋼板などの金属板に裏打ちされた多孔質層に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)と、鉛または酸化鉛等の鉛類を含む含浸被覆組成物を含浸被覆させてなる複層軸受は、高面圧下での摺動特性に優れた軸受として知られている(例えば、特公昭39-16950号公報、特公平7-35513号公報、特公平7-35514号公報)。一方、環境保全のため、鉛または鉛化合物の使用は望ましくないことから、ポリフッ化ビニリデンと酸化クロムおよび酸化鉄の一方からなる非毒性金属酸化物を用いた軸受用材料(特許第2630938号)、PTFEとフェノール樹脂粉末を用いた複層摺動部材(特許第2660853号)等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、摺動面に存在することで、摩擦係数を下げ、摩耗量を減少させ、さらに耐焼付け性を向上させることのできる鉛または鉛化合物を含んだ含浸被覆組成物に代わる優れた材料は見つかっていないという問題がある。特に車のシュレッダーダスト等に含まれる鉛を西暦2000年に1/2、2005年に1/3に減少させるとの通産省産業構造審議会の答申もあり、全く鉛を含まない鉛レス複層軸受が望まれている。
【0004】本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、鉛または鉛化合物を含まない含浸被覆組成物を用いても、高面圧下において、従来の複層軸受と同等もしくは同等以上の摺動特性を有する複層軸受を提供することを目的とする。」

(コ)「【0014】本発明に係る融点280℃以上の結晶性樹脂は、耐熱性に優れ、炭素繊維およびモース硬度4以下のウィスカとPTFEとの配合において、耐摩耗特性、耐クリープ特性を向上させることのできる樹脂であれば使用することができる。例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ナイロン46樹脂等を挙げることができる。これらの中で耐摩耗特性、耐クリープ特性をより向上させることのできるポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂が好ましく、最も好ましいのはポリフェニレンスルフィド樹脂である。」

(サ)「【0019】…(略)…炭素繊維の配合量が30体積%を越えると成形性に問題が生じ、3体積%未満であると補強効果に乏しく、十分な耐クリープ性、耐摩耗性が得られない。モース硬度4以下のウィスカが25体積%を越えると成形が困難となり、1体積%未満であると所望するミクロ補強効果、損傷緩和効果に乏しく、十分な摺動特性が得られない。融点280℃以上の結晶性樹脂が40体積%を越えると高荷重下で摩擦係数が上昇し、初期トルクの増大および摩擦による発熱量の増大等の不具合が生じ、5体積%未満であると補強効果が発揮できない。PTFE樹脂の配合量は、全配合量の残部とすることができる。」

(刊行物3)
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-219895号(以下、「刊行物3」という。)には、「摺動部材料用組成物」に関して、下記の事項が記載されている。

(シ)「この発明は、機械的要素に不可欠の摺動部材料用組成物に関するものである。」(第1ページ左下欄第12行?13行)

(ス)「さらに、この発明におけるカルシウム化合物は、カルシウムの炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物であって、中でも炭酸カルシウムおよび硫酸カルシウムが好ましい。これらカルシウム化合物の平均粒径を0.5?40μm好ましくは1?30μmの範囲に限定する理由は、0.5μm未満の小粒では粒子間の凝集が起こり、均一分散が困難となり、また40μmを超える大粒では表面平滑性が悪くなって好ましくないからである。
これらのこの発明における必須成分の配合割合をそれぞれ炭素繊維2?20重量%、好ましくは5?20重量%、カルシウム化合物0.5?50重量%、好ましくは2?35重量%、残部を四フッ化エチレン樹脂とする理由は、炭素繊維が前記下限値未満の少量では耐摩耗性の向上を殆ど期待することが出来ず、また上限値を超える多量のときは軟質相手材を摩耗させるようになり、カルシウム化合物が上記の下限値未満の少量のときも同様に軟質相手材を摩耗させ、逆に上限値を超える多量のときには機械的特性の低下を招き好ましくないからである。」(第2ページ右上欄第13行?左下欄第13行)

3.対比・判断
本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、その機能からみて、刊行物1記載の発明の「金属製支持層上」は本願補正発明の「金属裏金の表面」に相当し、以下同様に、「多孔焼結加工された」は「焼結金属からなる」に、「青銅製粗面下地」は「多孔質層」に、「ポリイミド」は「ポリイミド樹脂」に、「硫化亜鉛又は硫酸バリウム」は「粒状無機充填材」に、それぞれ相当する。
また、図1を参酌すると、マトリックスは青銅製粗面下地に含浸被覆されていると認められるから、刊行物1記載の発明の「結合した」は、本願補正発明の「含浸被覆された」に相当し、そうすると前者の「マトリックス」は、後者の「含浸被覆組成物」に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明の粗面下地は青銅製であることから、銅又は銅合金からなることは明らかである。
したがって、本願補正発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「金属裏金の表面に形成された銅あるいは銅合金の焼結金属からなる多孔質層と、この多孔質層に含浸被覆された含浸被覆組成物とからなる複層軸受において、
前記含浸被覆組成物は、
ポリテトラフルオロエチレンとポリイミド樹脂を含み、
粒状無機充填材と、炭素繊維とを配合してなる複層軸受。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明の含浸被覆組成物は「鉛類を含ま」ないのに対し、刊行物1記載の発明では、不明である点。

[相違点2]
本願補正発明の含浸被覆組成物は「ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂に、ポリイミド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂」が配合されているのに対し、刊行物1記載の発明は、マトリックスがポリテトラフルオロエチレンとポリイミドからなるものの、どちらが主成分であるのか不明である点。

[相違点3]
本願補正発明は、粒状無機充填材が「硫酸カルシウム粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、チタン酸カリウム粉末から選ばれる少なくとも一つの平均粒子径 8?40μm」であるのに対し、刊行物1記載の発明は、「粒径が0.1?1.0μmの硫化亜鉛又は硫酸バリウム」である点。

[相違点4]
本願補正発明は、含浸被覆組成物が「合成樹脂が5?30体積%、粒状無機充填材が3?30体積%、炭素繊維が1?15体積%、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂である」のに対し、刊行物1記載の発明のマトリックスは、「硫化亜鉛又は硫酸バリウムが5?40容量%、前記炭素繊維が5?40容量%」としか限定されていない点。

上記各相違点について以下に検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、一実施例として粗面下地にではあるが、鉛を含むものが記載されている(上記記載事項(キ)参照)。
しかしながら、該鉛を含む粗面下地は、あくまで実施例の一つにすぎず、刊行物1における特許請求の範囲(上記記載事項(イ)参照)の記載からも明らかなように、多孔焼結された青銅製の粗面下地であれば、鉛を含むものに限定されない(鉛を含むことが必須条件ではない)ことは、当業者に容易に理解できることである。
さらに、刊行物2に記載されているように(上記記載事項(ケ)参照)、鉛類を含む含浸被覆組成物を含浸被覆させてなる複層軸受は、環境保全の点から望ましくなく、全く鉛を含まない鉛レス化を図るべきであることは、従来周知の事項であるといえる。
そうすると、上記周知の事項を勘案し、刊行物1記載の発明のマトリックス及び青銅製粗面下地について、鉛類を含まないようなものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(相違点2について)
刊行物2には、含浸被覆組成物を、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂に、ポリイミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂とした複層軸受の発明が記載されている。
そして、刊行物1記載の発明のマトリックスとして、刊行物2記載の上記発明を適用することは、両者がともに多孔質層に含浸被覆された含浸被覆組成物とからなる複層軸受という共通の技術分野に属するものであることから、当業者であれば容易に想到し得るものである。

(相違点3について)
PTFEを主成分とする摺動部材料用組成物に、無機充填材として硫酸カルシウムを配合することは、刊行物3に記載されている(上記記載事項(ス)参照)ように従来周知の事項である。
そして、刊行物1記載の発明の含浸被覆組成物は、多孔質層に含浸被覆された組成物である点で、単なる摺動部材料用組成物とは必ずしも技術分野が同一とはいえないものの、両者とも摺動部を構成する(樹脂)組成物である点においては、機能的に共通しているといえるから、刊行物1記載の発明の含浸被覆組成物に配合される無機充填材として、上記周知の事項を勘案し、硫化亜鉛又は硫酸バリウムに代えて、硫酸カルシウムを採用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
さらに、無機充填材の平均粒径について検討する。
本願補正発明において、無機充填材の平均粒径を「8?40μm」と限定する技術的意義は、明確ではないものの、明細書の段落の【0012】、【0019】、【0023】を参酌すると、PTFEとの分散性や耐摩耗性を考慮して実験的に最適値を見出したものと認められる。
しかしながら、刊行物3に、PTFEを主成分とする摺動部材料用組成物に配合する硫酸カルシウムの粒径について、分散性を考慮して「1?30μm」の範囲とすることが記載されて(上記記載事項(ス)参照)いることからも理解できるように、一般的に配合する充填材の粒径を設定するにあたり、主成分となる樹脂との分散性や摺動部材として要求される様々な特性(例えば、耐摩耗性等)を勘案して、最適な範囲を決定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。また、硫酸カルシウムの粒径として「8?40μm」は周知のものに対して特異な数値ではなく、明細書にその上限値及び下限値を境に性質が急激に変化するなどの記載もないことから、該上限値及び下限値に臨界的意義があるとは認められない。
してみると、刊行物1記載の発明の無機充填材の粒径について、主成分とする樹脂や使用条件等を考慮して、最適な範囲を設定し、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4について)
本願補正発明において、含浸被覆組成物の配合量を「合成樹脂が5?30体積%、粒状無機充填材が3?30体積%、炭素繊維が1?15体積%、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂」と限定する技術的意義は、明確ではないものの、明細書の段落の【0015】を参酌すると、合成樹脂については摩擦係数や補強効果を、粒状無機充填材については相手部材への摩耗損傷や耐摩耗性を、炭素繊維については成形性や補強効果を考慮して実験的に最適値を見出したものと認められる。
しかしながら、刊行物2には、含浸被覆組成物の配合量に関し、合成樹脂については摩擦係数や補強効果を考慮して5?40体積%とし、炭素繊維については成形性や補強効果を考慮して3?30体積%とすることが記載されている(上記記載事項(サ)参照)。
また、刊行物3には、PTFEを主成分とする摺動部材料用組成物に配合する硫酸カルシウムの配合量に関し、相手部材への摩耗性や機械的強度を考慮して0.5?50重量%とすることが記載されている(上記記載事項(ス)参照)。
そうすると、含浸被覆組成物を構成する各材料の配合量を、合成樹脂については摩擦係数や補強効果を、粒状無機充填材については相手部材への摩耗損傷や機械的強度を、炭素繊維については成形性や補強効果を考慮して最適な範囲を決定することは、通常行われていることであり、当業者の通常の創作能力の発揮といわざるを得ない。
さらに、刊行物1記載の発明のマトリックスは、粒状無機充填材が5?40容量%、炭素繊維が5?40容量%配合され、刊行物2記載の発明では、合成樹脂が5?40体積%配合され、本願補正発明の上記数値範囲と一部重複していることからも分かるように、本願補正発明の数値範囲は公知又は周知のものに対して特異な数値ではなく、明細書に各数値範囲の上限値及び下限値を境に性質が急激に変化するなどの記載もないことから、各上限値及び下限値に臨界的意義があるとは認められない。
してみると、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用したものにおいて、マトリックスに配合する合成樹脂、粒状無機充填材及び炭素繊維の配合量を、使用条件等に応じて要求される特性を考慮して、最適な範囲を設定し、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明の奏する効果についてみても、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項から当業者が予測できるものであって、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由に関する平成20年12月11日付けの手続補正において、「これらの評価試験の結果が示すように、高速・高面圧条件下で使用される複層軸受(引用文献3)の含浸被覆組成物と、金属裏金や多孔質層を有さない引用文献2のような四フッ化エチレン樹脂組成物からなる軸受とでは、無機充填剤等の配合物が必ずしも同じ効果を発揮するものではないことは明らかです。
このことから考えても、引用文献2や周知技術文献1において所定の無機充填材等を配合することが記載されているとしても、これをもって、本願や引用文献1、引用文献3のような高速・高面圧条件下で使用され、相手材が軟質金属ではない複層軸受に同様に採用することは、当業者であっても容易に想到し得るものではないと考えます。」(「3.本願発明が特許されるべき理由(d-4)軸受使用条件と、無機充填剤の配合効果との関係」の項を参照。)と主張し、前置審尋に対する平成21年7月13日付けの回答書において、請求の範囲の補正案を提示している。
しかしながら、刊行物1記載の発明のマトリックスと刊行物3記載の摺動部材料用組成物が摺動部を構成する(樹脂)組成物である点において、機能的に共通しているといえることは、上記【2】3.の(相違点3について)で検討したとおりであり、配合する粒状無機充填材の具体的材料と平均粒径について、最適なものを設定するにあたり、刊行物3のような摺動部材料用組成物で用いられている周知の材料や平均粒径を採用する動機付けは十分にあるといえる。また、明細書の段落の【0015】には、「粒状無機充填材が30体積%をこえると相手材がアルミニウム合金等の軟質材の場合に相手部材を摩耗損傷するおそれがあり、3体積%未満であると耐摩耗性効果が発現しない。」と記載されており、審判請求人の上記「相手材が軟質金属ではない複層軸受」の主張と矛盾する。
さらに、上記補正案において限定した点について検討しても、アスペクト比が3以下の球状、板状、不定形状の粒状無機充填材はそれ自体が周知である以上、粒状無機充填材をそのように限定しても、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないといわざるを得ず、上記【2】3.の判断を左右するものではない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

4.むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明
平成20年10月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年10月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、本願発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】 金属裏金の表面に形成された多孔質層と、この多孔質層に含浸被覆された含浸被覆組成物とからなる複層軸受において、
前記含浸被覆組成物は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂に、ポリイミド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂から選ばれる少なくとも一つの合成樹脂と、
硫酸カルシウム粉末、ホウ酸アルミニウム粉末、チタン酸カリウム粉末から選ばれる少なくとも一つの平均粒子径8?40μmの粒状無機充填材と、炭素繊維とを配合してなり、
前記含浸被覆組成物において、前記合成樹脂が5?30体積%、前記粒状無機充填材が3?30体積%、前記炭素繊維が1?15体積%、残部がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする複層軸受。」

1.本願発明について
(1)本願発明
上記のとおりである。

(2)引用刊行物とその記載事項
上記【2】2.に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記【2】3.で検討した本願補正発明の「多孔質層」について「銅あるいは銅合金の焼結金属からなる」と、「含浸被覆組成物」について「鉛類を含まず」という事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記【2】に記載したとおり、刊行物1、2記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-25 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2001-132802(P2001-132802)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司冨岡 和人  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 益喜
藤村 聖子
発明の名称 複層軸受  
代理人 和気 操  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ