• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1208974
審判番号 不服2009-1906  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-23 
確定日 2009-12-10 
事件の表示 特願2003-169401「超薄肉形転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月 6日出願公開、特開2005- 3152〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年6月13日の出願であって、平成20年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成21年2月23日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年2月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
低騒音、低振動、低トルク及び長寿命が要求される医療機器に組込まれる超薄肉形転がり軸受において、玉の直径とピッチ円径との比の値が0.03以下の超薄肉形の大形組合せアンギュラ玉軸受であり、軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)としたことを特徴とする医療機器用超薄肉形転がり軸受。
【請求項2】
CTスキャナ装置のガントリ部用であることを特徴とする請求項1の医療機器用超薄肉形転がり軸受。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「超薄肉形転がり軸受」を「低騒音、低振動、低トルク及び長寿命が要求される医療機器に組込まれる超薄肉形転がり軸受」に減縮し、同じく「大形転がり軸受」を「大形組合せアンギュラ玉軸受」に減縮し、さらに、同じく「104%以上でかつ108%以下とした」という事項を「104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)とした」という事項に減縮するものであって、これは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとともに、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2000-329143号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【請求項1】 内周面に転動体が転動する複列の軌道面が設けられた外方部材と、
外方部材の内周側に配置され、環状部材と環状部材の外周に嵌合されかつ当該環状部材との間に軸方向隙間を介在させた嵌合部材とからなり、環状部材および嵌合部材の外周面にそれぞれ転動体が転動する軌道面が設けられた内方部材; 外方部材および内方部材間に複列に介装され、ピッチ円径との比が0.03以
下の径で形成された転動体と、上記嵌合部材の加圧により、上記軸方向隙間を縮小させて予圧を付与する予圧付与手段とを具備することを特徴とする超薄肉形転がり軸受。」
(い)「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図1乃至図9に基づいて説明する。
【0016】図1は、図8に示すCTスキャナ装置の軸受25の構造を示すものである。この軸受25は、リング状の外方部材1と、外方部材1の内周側に同心配置した同じくリング状の内方部材2と、内方部材2と外方部材1との間に介装した転動体3と、転動体3を円周方向等間隔で保持する保持器4と、軸受の両端開口部を密封するシール5a、5bと、軸受内部に予圧を付与するための予圧付与手段Sとを主な構成要素とする。
【0017】この軸受25は、転動体3の列数を2列とした複列軸受であり、本実施形態では、転動体としてのボール3を2列に配置した複列アンギュラ玉軸受を例示する。両軸受部分の組合わせは、図9に示す背面組合わせと同じであり、転動体荷重の作用線Qの交点はピッチ円Pの外側にある。両軸受部の接触角(転動体荷重の方向と軸受の中心軸に垂直な平面とのなす角)は、例えば30°とされる。
【0018】この複列アンギュラ玉軸受は、ボール3の径(直径)dB とピッチ円径(直径)PCDとの比φを0.03以下(φ=dB /PCD ≦0.03)とした超薄肉形転がり軸受であり、例えばボール直径は1/2インチ(12.7mm)、PCDは1041.4mmm 、両者の比φは0.012に設定される。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「CTスキャナ装置に組込まれる超薄肉形転がり軸受において、ボール3の直径とピッチ円径PCDとの比が0.03以下の超薄肉形の組合せアンギュラ玉軸受であるCTスキャナ装置用超薄肉形転がり軸受。」
(2-2)引用例2
特開平9-177795号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、産業機械用、特に工作機械用の玉軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】深溝玉軸受およびアンギュラ玉軸受の内外輪における円弧溝状の転走面の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、
(内輪転走面曲率半径)=0.51dw
(外輪転走面曲率半径)=0.52dw
と転走面幅の全体にわたって一定である。また、高速用としては、
(内輪転走面曲率半径)=0.54dw
(外輪転走面曲率半径)=0.54dw
の一定値が用いられている。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「CTスキャナ装置」は前者の「医療機器」に相当し、「ボール3」は「玉」に相当する。また、引用例1発明の「超薄肉形転がり軸受」は「CTスキャナ装置用」であることから、実質的に「大型」ということができる。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「医療機器に組込まれる超薄肉形転がり軸受において、玉の直径とピッチ円径との比の値が0.03以下の超薄肉形の大形組合せアンギュラ玉軸受である医療機器用超薄肉形転がり軸受。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明は、「軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)とした」という事項を具備するのに対し、引用例1発明は、そのような事項を具備していない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明においても、内輪及び外輪における軌道溝の曲率直径と玉直径との寸法関係を設定することを要することは明らかであり、どのような関係に設定するかは、用途や所要の軸受性能等に応じて適宜設計する事項にすぎない。
ここで、上記に摘記したとおり、引用例2には、産業機械用、特に工作機械用のアンギュラ玉軸受において、一般的に、内輪における軌道溝の曲率直径が玉直径の102%、外輪における軌道溝の曲率直径が玉直径の104%であるものが用いられていること、また、高速用としては、内輪、外輪とも軌道溝の曲率直径が玉直径の108%であるものが用いられていることが示されている。
引用例1発明のような内輪及び外輪における軌道溝の曲率直径と玉直径との寸法関係を設定する場合、まず、従来用いられている例を参考にし、さらに特定の用途や所要性能に応じて理論計算や実験等によってそれに適宜修正・改良を加えるというやり方は普通に行われている、ないし容易に想起し得る1つの設計手法であるということができる。引用例2の上記事項は特に工作機械用のアンギュラ玉軸受であって、CTスキャナ用のアンギュラ玉軸受とは使用状況・条件等が格段に異なり得るものではあるが、アンギュラ玉軸受である点では共通するから、引用例2の上記事項は、引用例1発明の内輪及び外輪における軌道溝の曲率直径と玉直径との寸法関係を設定するにあたって1つの従来例として十分に参考例となり得るものである。そして、(a)引用例2において一般的に用いられるとされている外輪における軌道溝の曲率直径が玉直径の104%という数値、及び高速用として用いられているとされる内輪、外輪とも軌道溝の曲率直径が玉直径の108%という数値は、本願補正発明の数値範囲に極めて近いこと、及び、(b)本願の図6、7等をみても、本願補正発明の数値範囲の上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは到底認められないこと、を合わせ勘案すると、「軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)とした」という点は、まず引用例2の上記事項を参考にし、さらに実験等によりCTスキャナ装置としての所定の所要性能に合わせて適宜修正・改良を加えた程度のものといわざるを得ず、結局、上記のような普通に行われている、ないし容易に想起し得る設計手法に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、請求人は審判請求の理由ないし回答書において、概ね、「引用文献2の記載が、当業者が軸受設計において当然に準拠するような性質の事項を現しているとするならば、当該記載は、むしろ、回転数120rpm程度の軸受の場合には内輪転走面曲率半径を0.51dw、外輪転走面曲率半径を0.52dwとすることの動機づけになりこそすれ、回転数120rpm程度のものに、「高速用」と考えられている転走面曲率半径を0.54dwを適用することの動機づけとなるとはなりえないというべきです。しかも、引用文献1は本願発明と同様、CTスキャナ装置等の医療機器に用いる超薄肉形転がり軸受に関するものであり、当業者は、これに引用文献2に記載してあるような工作機械用軸受技術を適用することはありません。このように、本願発明は、機械部品として大量生産される汎用の玉軸受とは異なる、CTスキャナのような医療機器用の超薄肉形転がり軸受において、「軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)」としたことを特徴とするものであり、この範囲の仕様は引用文献には開示も示唆もされておらず、この範囲を採用することによって本願発明は所期の課題を解決し、「CTスキャナ装置等医療機器用の超薄肉形転がり軸受で重要な起動トルクの低減と長寿命化という相反する要求に対して、両者を満足することができる」(段落0028)という明細書に記載の格別な効果を奏するものです。加えて、すでに述べたとおり、医療機器では、検査を受ける患者に対して不安感や恐怖感を与えないような配慮が必要とされ、特にCTスキャナ装置の場合、患者自身がガントリと呼ばれるトンネルの入口のような部分に入るため、機械的な運転音や電気的な励磁音が嫌われるところ、本願発明の超薄肉形転がり軸受を採用することでこれらの問題点が解消し、さらに、軸受の騒音を下げることにより臓器の萎縮を防ぐことができる、という顕著な作用効果があります。」と主張している。
しかし、「軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)とした」という点は、引用例2の上記事項を参考にして当業者が容易に想到し得たものと認められること、また、本願の図6、7等をみても、本願補正発明の数値範囲の上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは到底認められず、本願補正発明の作用効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものであることは、上述のとおりである。

したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年2月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成20年9月16日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
玉の直径とピッチ円径との比の値が0.03以下の超薄肉形の大形転がり軸受であって、軌道溝の曲率直径を内輪、外輪とも玉直径の104%以上でかつ108%以下としたことを特徴とする医療機器用超薄肉形転がり軸受。
【請求項2】
アンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1の医療機器用超薄肉形転がり軸受。
【請求項3】
複列アンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項2の医療機器用超薄肉形転がり軸受。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「低騒音、低振動、低トルク及び長寿命が要求される医療機器に組込まれる超薄肉形転がり軸受」を「超薄肉形転がり軸受」に拡張し、「大形組合せアンギュラ玉軸受」を「大形転がり軸受」に拡張し、さらに、「104%以上でかつ108%以下(ただし、104%および108%を除く)とした」という事項を「104%以上でかつ108%以下とした」という事項に拡張するものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2、3について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-13 
結審通知日 2009-10-14 
審決日 2009-10-29 
出願番号 特願2003-169401(P2003-169401)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔山崎 勝司  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
川本 真裕
発明の名称 超薄肉形転がり軸受  
代理人 白石 吉之  
代理人 田中 秀佳  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ