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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1209058
審判番号 不服2006-610  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-10 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 特願2002-504964「ペルオキシド活性物質の安定性を高める構造体及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月 3日国際公開、WO02/00182、平成16年 1月15日国内公表、特表2004-501173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年6月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年6月28日,米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年7月25日付けで手続補正がなされたが、平成17年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月10日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年2月7日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1?31に係る発明は、平成18年2月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッドスペースを有する包装と、
前記包装の中に配置される基材と、
前記基材に隣接して配置され、0.01?40重量%の濃度を有するペルオキシド活性物質、及び0?40重量%の濃度を有する多価アルコールを含む組成物の薄層とを含み、
25℃で、実質的に光の非存在下にて保管した場合、製造後12ヵ月で、前記組成物の前記薄層が、前記ペルオキシド活性物質の本来の濃度の45%?100%を有するペルオキシド製品。」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前の刊行物である国際公開第98/55044号(以下、「引用例1」という。)と、特開平8-252299号公報(以下、「引用例2」という。)、実願平5-59899号(実開平07-028550号)のCD-ROM(以下、「引用例3」という。)、実願平2-401392号(実開平04-090340号)のマイクロフィルム(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

[引用例1](英文であるため、翻訳文で示す。)
(1-i)「1.複数の隣接する歯に歯を白くする物質を供給するための供給システムであって、
a.複数の隣接する歯の上で湾曲した形を形づくるに十分な可撓性を有する可撓性材料片であって、該供給システムが置かれた際に、永久歪なく、歯表面および歯と歯の空間に容易に適合し得うる材料片、および
b.該供給システムが該歯表面上に置かれた際に、該物質が該表面と接触して、活性成分を該表面にもたらし、該物質はまた、該材料片と該表面との間の接着アタッチメントとなり、該供給システムを該活性成分が該表面上で作用するに十分な時間、その位置に保持するような該材料片に適用した歯を白くする物質
を含む供給システム。
2.?3. ・・・略・・・
4.前記物質中の前記歯を白くする活性成分は、過酸化物、金属亜塩素酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩、過酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される請求の範囲第1項、第2項又は第3項に記載の供給システム。」(第15頁の請求項1,4参照)
(1-ii)「歯に面した材料片の側面には、歯を白くする物質が塗布されている。該物質は、好ましくはゲルなど粘性状態であり、したがって、歯表面と該材料片との間に活性成分のみならず、粘着性をもたらし、該材料片をその位置に保持する。適合し得る材料片は、好ましくは歯に向けて置かれた際に、上部または下部の歯列の前歯6?8本に個々にフィットする大きさである。柔らかく適合し得る材料であるので、該片は物理的な刺激を生じることなく、着用者の歯茎に接触するようになるであろう。該材料片はそこに軽く押しつけられることによって、および/または着用者が歯と歯の隙間を通して静かに吸い込むことによって歯に容易に適合する。該材料片は供給システムがそこに置かれた際に、歯の形に永久歪なく、容易に適合し得る。該材料片は着用者が使用後に剥がすことにより容易に取り除かれる。望ましくは、治療を繰り返す毎に新しい材料片を使用する。」(第3頁下から10行?第4頁3行参照)
(1-iii)「図面を参照すると、特にFig1およびFig2には、一般的に10にて示される本発明の第1の好ましい態様が示される。態様10は歯を白くする物質の供給システムを示す。供給システム10は、まずは、実質的に平らであり望ましくは丸めた角をもつ材料片12を有する。
歯を白くする物質14が材料片12上に適用または塗布されている。望ましくは、物質14はFig3に示されるように、材料片12上に均質で、均一かつ連続して塗布されている。しかしながら、物質14は、また成分の積層または別々の層、成分の無定形混合物、異なった成分の別々の片またはスポットまたは他のパターン、あるいは材料片12の一部の縦軸に沿った口腔ケア物質14の連続塗膜を含む、これらの構造の組合せであってもよい。」(第5頁下から5行?第6頁7行参照)
(1-iv)「Fig9およびFig10は、任意の放出ライナー27を示す。放出ライナー27は物質14によって材料片12に付着している。物質14は放出ライナー27に面した材料片12の側面上にある。この側面は、一旦、放出ライナー27を除いてから歯表面に適用される。」(第6頁下から4行?末行参照)、Fig9,10として次の図が示されている。

(1-v)「材料片
材料片は唾液が歯を白くする物質に接触し、さらに着用者の唇、舌および他の柔らかい組織によって歯の表面から歯を白くする物質が浸出および/または侵食することを実質的に防ぐための保護障壁として役に立つ。歯を白くする物質中の活性成分が数分から数時間の長い期間にわたって歯表面で作用するためには、このような浸出および/または侵食を最小限にすることが重要である。ここでは、「作用する」との語は所望の変化を引き起こすことと定義される。たとえば、もしも該物質が歯を白くする物質であるならば、これは着色体を漂白し、白化(whitening)を引き起こす。
該材料片はポリマー、天然および合成の織布、不織布、箔、紙、ゴムおよびこれらの組合せなどの材料を含んでいてもよい。該材料片は材料の単層または1種以上の積層物であってもよい。」(第7頁1行?13行参照)
(1-vi)「白化に適した活性成分としては、漂白または汚れ除去をもたらす、口腔内で使用するにあって安全な材料の全てが挙げられる。白化に適した活性成分は、過酸化物、金属亜塩素酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸およびこれらの組合せからなる群から選択される。好適な過酸化化合物としては、過酸化水素、過酸化カルシウム、過酸化カルバミド(carbamide peroxide)およびこれらの混合物が挙げられる。もっとも好ましいものは過酸化カルバミドである。好適な金属亜塩素酸塩としては、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸バリウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸ナトリウムおよび亜塩素酸カリウムが挙げられる。別な白化活性成分としては、次亜塩素酸塩および二酸化塩素であってもよい。好ましい亜塩素酸塩は亜塩素酸ナトリウムである。
歯を白くする活性成分の量は、該物質重量当たり約0.01%?約40%である。もしも過酸化化合物が活性成分として選択されるなら、該過酸化化合物は、該物質重量の、約0.1%?約20%、好ましくは約0.5%?約10%、およびもっとも好ましくは約1%?約7%に等しい量の過酸化水素をもたらすべきである。この量の過酸化水素等価物を供給するために、過酸化カルバミドなどの過酸化化合物は、一般的に該物質重量の約0.1%?約30%および好ましくは約3%?約20%の量で存在する。」(第10頁11行?27行参照)
(1-vii)「付加的な担体物質もまた、該物質に添加できる。担体物質は湿潤剤であってもよい。好適な湿潤剤としては、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、および他の可食性多価アルコールが挙げられる。湿潤剤は一般的には、該物質重量の約10%?約95%、好ましくは約20%?約80%およびより好ましくは約50%?約70%の量である。本発明のゲルである上記物質に加えて、多くの他の成分もまた該物質に添加してもよい。」(第12頁16行?23行参照)
(1-viii)「放出ライナー
放出ライナーは物質がそれ自体および材料片に対して示すよりも、物質に対して、より低い親和性を示す、いかなる物質から形成されていてもよい。この放出ライナーは、好ましくは、ポリエチレン、紙、ポリエステルまたは非粘着型物質を塗布した他の物質などの硬シート材料を含む。」(第12頁27行?33行参照)
(1-ix)「実施例
材料片は、好ましくは厚さ0.013mmのポリエチレンフィルム薄片である。このフィルムは、好ましくは、通常、横0.4mmおよび深さ0.1mmの浅いくぼみの列を有する。この材料片は、試験法ASTM D2923-95により、ペンシルヴァニア州、フィラデルフィアのスウィング-アルバート・インストルメント・カンパニー(Thwing-Albert Instrument Co.)から入手し得るハンドル・オー・メーター(Handle-O-Meter)、モデル#211-300で測定して、約0.6グラム/cmの曲げ剛性を有する。
歯漂白剤の1つの例として、下記のゲルがある。:グリセリン70%、カルボキシポリメチレン5%、過酸化カルバミド10%、および水酸化ナトリウムでpH6.5に調整した水15%を混合する。均質になるまで混合する。
・・・中略・・・
グリセリン25%、水69.7%、キサンタンゴム2%、カルボキシメチルセルロース3%、および過酸化カルバミド0.3%を混合する。均質になるまで混合する。
・・・中略・・・
オパーレセンス(Opalescence)およびヌープロ・ゴールド(Nu-Pro Gold)などの市販歯を白くする物質もまた、本発明の供給システムに使用できる。」(第13頁7行?30行参照)

[引用例2]
(2-i)「【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記欠点に鑑みてなされたものであって、その目的は、貼付剤中の薬剤や添加剤等の揮散を防止して長期間安定した品質を保つことができ、しかも貼付時の使用感が良好な貼付剤の包装体を提供することにある。
【0008】【課題を解決するための手段】
【0009】本発明の貼付剤の包装体は、金属箔の片面に設けられた離型処理部分に、不織布又は樹脂フィルム支持体上に粘着剤層が形成された貼付剤が貼り合わされ、さらに該貼付剤上に別の金属箔が載置され、両方の金属箔の周辺部同士がヒートシールされて密封状態となされたものである。」(段落【0007】?【0008】参照)
(2-ii)「【図3】本発明の貼付剤の包装体の構成を示す模式断面図である。」(【図面の簡単な説明】参照)
(2-iii)「1,4 金属箔 2,5 保護層 3,6 樹脂層 11 離型処理面 A 貼付剤 a 粘着剤層」(【符号の説明】参照)
(2-iv)図3として下図が示されている。


[引用例3]
(3-i)「【0008】【考案が解決しようとする課題】
本考案は、上記欠点に鑑みてなされたものであって、その目的は、貼付剤を長期間保存しても、薬剤が移行したり透過することがなく、安定した状態で保存が可能な貼付剤用包装袋を提供することにある。
【0009】【課題を解決するための手段】
【0010】本考案の貼付剤用包装袋は、該包装袋中で貼付剤と実質的に接触する包装袋の内面が金属箔から形成されている。」(段落【0008】?【0010】参照)
(3-ii)「【図3】図1の積層体の周辺をヒートシールして得られた包装袋に貼付剤が密封された状態を示す模式断面図である。」(【図面の簡単な説明】参照)
(3-iii)「1,4 アルミ箔 2,5 保護剤 3,6 熱融着性樹脂 A 貼付剤」(【符号の説明】参照)
(3-iv)図3として下図が示されている。


[引用例4]
(4-i)「【0002】【考案の背景】
・・・中略・・・
ところで、この種の封入袋に薬剤、例えばニトログリセリンを含んだテープ剤が封入されていると、テープ剤中野ニトログリセリンが次第に減少して行くことが判明して来た。」(段落【0002】参照)
(4-ii)「このような知見を基にして本考案が達成されたものであり、本考案の第1の目的は、薬剤の減少が防止され、保存性に富む薬剤手封入袋を提供することである。
又、本考案の第2の目的は、密封性及び開封性に優れた薬剤封入袋を提供することである。
・・・(後略)。」(段落【0004】参照)
(4-iii)「【図1】薬剤封入袋の断面である。」(【図面の簡単な説明】参照)
(4-iv)「1 アルミニウム箔 2 ポリエチレン層 3 ポリエチレン層 4 アンカーコート剤 5 ポリエチレンテレフタレート層」(【符号の説明】参照)
(4-v)図1として下図が示されている(T:ニトログリセリンを含んだテープ剤(段落【0010】参照))。


4.対比、判断
引用例1には、上記「1.」の[引用例1]の摘示事項からみて、歯を白くする物質を供給するための供給システムが記載されている(例えば、摘示(1-i)参照)ところ、(α)歯を白くする活性成分として、過酸化化合物などが用いられ、該歯を白くする活性成分の量は、該物質重量当たり約0.01%?約40%であること(摘示(1-i),(1-vi)参照)、及び、(β)付加的な担体物質として多価アルコールなどの湿潤剤を、該物質重量の好ましくは約20%?80%の量で添加され(摘示(1-vii)参照)、実施例において、グリセリン(多価アルコールに該当)25%と過酸化カルバミド(過酸化化合物に該当)0.3%を混合したものが処方されていること(摘示(1-ix)参照)を勘案すると、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「複数の隣接する歯に歯を白くする物質を供給するための供給システムであって、
a.複数の隣接する歯の上で湾曲した形を形づくるに十分な可撓性を有する可撓性材料片であって、該供給システムが置かれた際に、永久歪なく、歯表面および歯と歯の空間に容易に適合し得うる材料片、および
b.該供給システムが該歯表面上に置かれた際に、該物質が該表面と接触して、活性成分を該表面にもたらし、該物質はまた、該材料片と該表面との間の接着アタッチメントとなり、該供給システムを該活性成分が該表面上で作用するに十分な時間、その位置に保持するような該材料片に適用した歯を白くする物質、
を含み、
該歯を白くする活性成分の量は、該物質重量当たり約0.01%?約40%であり、
該歯を白くする活性成分は、過酸化化合物であることができ、
該物質に付加的な担体物質として多価アルコールを添加し、
該多価アルコールの量は、該物質重量当たり約20?80%である
供給システム。」

そこで、本願発明と引用例発明を対比する。
(a)引用例発明の「歯を白くする活性成分」である「過酸化化合物」は、具体的には過酸化カルバミド(carbamide peroxide)などが用いられていること(摘示(1-vi),(1-ix)参照)、及び、本願発明で用いる「ペルオキシド活性物質」が、例えば歯を白くするために用いられるものであり、カルバミドペルオキシドなどが用いられること(本願明細書段落【0011】参照)を勘案すると、本願発明の「ペルオキシド活性物質」に相当する。
(b)引用例発明の「複数の隣接する歯に歯を白くする物質を供給するための供給システム」は、過酸化化合物、即ちペルオキシド活性物質を含有しているので、本願発明の「ペルオキシド製品」に相当する。
(c)引用例発明の「複数の隣接する歯の上で湾曲した形を形づくるに十分な可撓性を有する可撓性材料片であって、該供給システムが置かれた際に、永久歪なく、歯表面および歯と歯の空間に容易に適合し得うる材料片」は、本願発明の「基材」に相当する。
なお、引用例発明では、放出ライナーが用いられ、歯を白くする物質が放出ライナーに面した材料面の側面上にある(摘示((1-iv)),Fig10参照)態様も記載されているところ、その態様は、本願発明のFig1,2で示されている実施の態様と同じであり、引用例発明では、放出ライナーを除いてから歯表面に適用されることを勘案すると、「放出ライナー」が本願発明の具体例で用いられている「支持材料」に相当する。
(d)引用例発明の「該多価アルコールの量は、該物質重量当たり約20?80%である」は、その実施例において過酸化カルバミド0.3%とともにグリセリン(即ち多価アルコール)25%が用いられていることに鑑み、本願発明の「0.01?40重量%の濃度を有するペルオキシド活性物質、及び0?40重量%の濃度を有する多価アルコールを含む」ことに対応し、両者は、多価アルコールの量に関し「20?40重量%」で一致する。
(e)引用例発明の「該供給システムが該歯表面上に置かれた際に、該物質が該表面と接触して、活性成分を該表面にもたらし、該物質はまた、該材料片と該表面との間の接着アタッチメントとなり、該供給システムを該活性成分が該表面上で作用するに十分な時間、その位置に保持するような該材料片に適用した歯を白くする物質」は、材料片(即ち基材;前記(c)参照)に隣接して配置されていることが明らかであり、薄層であることもFig9,10からみて明らかであり、該活性成分がペルオキシド活性物質であることも明らか(前記(a)参照)であり、多価アルコールも添加されているから、本願発明の「前記基材に隣接して配置され、」「ペルオキシド活性物質」及び「多価アルコール」を含む「組成物の薄層」に相当する。

してみると、両発明は、
「基材と、
前記基材に隣接して配置され、0.01?40重量%の濃度を有するペルオキシド活性物質、及び20?40重量%の濃度を有する多価アルコールを含む組成物の薄層とを含む、
ペルオキシド製品。」
で一致し、次の相違点A,Bで一応相違している。
<相違点>
A.本願発明では、「ヘッドスペースを有する包装」を有し、基材が「前記包装の中に配置される」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点。
B.本願発明では、「25℃で、実質的に光の非存在下にて保管した場合、製造後12ヵ月で、前記組成物の前記薄層が、前記ペルオキシド活性物質の本来の濃度の45%?100%を有する」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのことについて言及されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
引用例には、「歯を白くする物質を供給するための供給システム」(即ち、「ペルオキシド製品」)を包装することの明示的記載はない。
しかし、一般に製品を出荷する際に包装して出荷することは、通常行われていることであり、まして、飛散しやすいものを、曝した状態で保管し、出荷することは不自然であり、薬剤を包装し包装体とすることは適宜行われていることにすぎない(例えば、上記「1.」の[引用例2]?[引用例4]の摘示参照)。
してみると、引用例発明の「歯を白くする物質を供給するための供給システム」(即ち、「ペルオキシド製品」)を包装することは、当業者が容易に採用し得る程度のことというべきであり、その際に「ヘッドスペース」を設けるかどうかは、単なる設計事項と認められる。本願明細書を検討しても、ヘッドスペースを設けることによって格別の技術的意義があること説明されていないし、実施例においても、組成物の例が記載されているだけで、ヘッドスペースについ何らの言及もないばかりか、そもそも組成物の安定性について評価は何もされていない(「ペルオキシド活性物質の比率と濃度の測定方法」と「白くすることを測定する方法」が説明されているだけで、具体的に測定したことすら記載されていない。)。
よって、相違点Aに係る本願発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得る。

(2)相違点Bについて
製品が安定して保管できることは当然に望まれることと言え、「ペルオキシド製品」の要である薄層中の「ペルオキシド活性物質の濃度」が100%維持できることが望ましいことは明らかである。なお、相違点Bにかかる本願発明の発明特定事項は、本願発明の作用効果そのものと認められる。
そして、本願明細書を検討すると、「歯を白くする組成物の安定性を高める手段は」、<1>「多価アルコールの濃度」、<2>「薄層24の体積と薄層24の露出した表面積との比」、<3>「薄層24の体積と該薄層の露出していない表面積との比」、<4>「組成物に接触する基材22又は支持剤利用26の表面の少なくとも一部を形成する物質」、<5>「薄層24の体積と包装ヘッドスペースとの体積の比」、または<6>「それらの組合せ」であるとされている(段落【0007】参照)が、本願発明で規定されているのは、<1>に該当する「0.01?40重量%の濃度を有するペルオキシド活性物質、及び20?40重量%の濃度を有する多価アルコールを含む」点のみであって、他の手段の規定はないところ、その唯一の手段は、上記検討のとおり、引用例発明でその実施例において既に採用されていることにすぎない。
してみると、本願発明の「25℃で、実質的に光の非存在下にて保管した場合、製造後12ヵ月で、前記組成物の前記薄層が、前記ペルオキシド活性物質の本来の濃度の45%?100%を有する」との点は、引用例発明においても、その言及はなくとも達成されていると言う他ない。
よって、相違点Bは、実質的な相違点ではない。

この点に関し、請求人は、意見書(平成17年7月25日付け)において、「約25℃で、実質的に光の非存在下にて保管した場合、製造後12ヵ月で、前記組成物の前記薄層が、前記ペルオキシド活性物質の本来の濃度の約45%?約100%を有する」との性質Bについて、「多価アルコールの濃度を0?40重量%にしたものが「性質B」を有することになります」と主張し、また、審判請求理由(請求理由についての平成18年2月7日付け補正書(方式)参照)において、「組成物の薄層に含まれる多価アルコールの濃度を0?40重量%にすることにより、25℃で、実質的に光の非存在下にて保管した場合、製造後12ヵ月で、組成物の薄層に含まれるペルオキシド活性物質が本来の濃度の45%?100%を有するという安定性を維持する点に特徴があります。すなわち、請求項1に係る発明は、多価アルコールが存在するとペルオキシド活性物質を含む組成物の安定性に悪影響を及ぼすので、この悪影響を抑えるために多価アルコールの濃度を限定したものであります。」と主張しているのであるから、請求人も、<1>の手段によって特定した安定性が得られと主張していることになり、前記前提の判断は、請求人の主張と相違しない。

なお、請求人は、審判請求理由において、引用文献には、「多価アルコールによる悪影響は記載されておらず、多価アルコールの濃度として広い範囲が記載されており、その中には40重量%を超過する記載もあります。例えば、引用文献1(注:引用例1)には、多価アルコールの濃度として、「10?95重量%、好ましくは20?80重量%、さらに好ましくは50?70重量%」なる記載があります。この場合には、多価アルコールによる悪影響が引き起こされてしまう可能性があるので、必ずしも本願の請求項1に記載される安定性は得られません。」と主張している。
しかし、引用例1において多価アルコールの量が本願発明で特定する範囲を外れている場合があるとしても、前記検討しているように、引用例1の実施例では、過酸化カルバミド0.3%とともにグリセリン25%が用いられているのであって、これらの量は本願発明と一致しているから、その構成と作用効果の因果関係について言及はなくとも、その本願発明と一致する構成が実施例で現に採用されていてその作用効果に差異が生じると解することはでぎず、前記請求人の主張は、失当という他なく、採用できない。

よって、本願発明は、周知技術や引用例2?3の記載を勘案し、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の点並びに他の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-24 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-10 
出願番号 特願2002-504964(P2002-504964)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 井上 典之
弘實 謙二
発明の名称 ペルオキシド活性物質の安定性を高める構造体及び組成物  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  

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