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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1209081
審判番号 不服2007-2163  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 平成11年特許願第300876号「化粧紙及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月24日出願公開、特開2001-113662〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成11年10月22日の出願であって、平成16年12月27日に刊行物等提出書が提出され、平成17年8月17日付けで拒絶理由が通知されたのち同年10月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年11月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年1月18日付けで審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、その後、平成21年5月1日付けで審尋がされ、同年7月9日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成19年1月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年1月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成19年1月18日付けの手続補正は、本件補正前の
「【請求項1】
吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、更に水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を含浸してなる樹脂含浸模様紙の絵柄模様面に、撥液性インキによる撥液性模様を設け、更に前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなることを特徴とする化粧紙。」

「【請求項1】
吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、更に水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、該樹脂の一部は原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成し、これによって樹脂含浸模様紙が構成されてなる樹脂含浸模様紙の絵柄模様面に、撥液性インキによる撥液性模様を設け、更に前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなることを特徴とする化粧紙。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の有無及び補正の目的について
上記補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における、樹脂含浸模様紙の構成を「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、該樹脂の一部は原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成し」と限定するものである。
よって、かかる補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、しかも補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明1は、平成19年1月18日付けの手続補正により補正された以下のとおりのものである。
「吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、更に水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、該樹脂の一部は原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成し、これによって樹脂含浸模様紙が構成されてなる樹脂含浸模様紙の絵柄模様面に、撥液性インキによる撥液性模様を設け、更に前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなることを特徴とする化粧紙。」

イ 刊行物
刊行物1:特開平8-174770号公報(原査定における引用文献1)
刊行物2:特開昭63-176148号公報(周知技術を示すための文献)

ウ 刊行物の記載事項
(ア)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項1-a:「基材シート上に下地絵柄層と、撥液性を付与した模様層とを設けて、この全面に電子線硬化型のトップコート樹脂層を設けることにより、模様層に同調する凹凸模様を設けた化粧紙において、前記下地絵柄層と模様層との間にアンカー層を設けたことを特徴とする化粧紙。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
・摘示事項1-b:「薄葉紙などの基材シート上に下地絵柄層を印刷した後に、表面に塗布する電子線硬化型のトップコート樹脂との密着性を有するアンカー層を塗布し、このアンカー層上に撥液性を付与した模様層を印刷して、この模様層上に電子線硬化型のトップコート樹脂を塗布することにより、前記撥液性を付与した模様層がトップコート樹脂を弾いて、この模様層に同調する凹凸模様が形成されることを特徴とする化粧紙の製造方法。」(【特許請求の範囲】【請求項2】)
・摘示事項1-c:「本発明は、内装材、家具、住宅機器等に使用する化粧板に用いる化粧紙及びその製造方法で、特に天然木等に酷似して、かつ、表面の模様層に同調する凹凸模様を有する外観を備えて、しかも耐薬品性、耐摩耗性等の表面性能に優れた化粧紙及びその製造方法に関する。」(段落【0001】【産業上の利用分野】)
・摘示事項1-d「ここで基材シート(11)は、薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙を使用することができ、特に限定はされない。但し、紙の性質によっては下地絵柄層(12)の印刷に先立って、紙層を強化するためのシーラー層の形成や、隠蔽性を付与するための「べた」印刷等は適宜行っても何ら支障はない。」(段落【0010】)
・摘示事項1-e:「また、アンカー層(13)は、通常の印刷インキによる下地絵柄層(12)の保護・強化の役目を果たすとともに、表面のトップコート樹脂や撥液性を付与した印刷インキが、下地の絵柄層や紙層へ浸透する度合いを制御して、印刷速度や撥液性を付与した印刷インキの乾燥条件などに左右されることがなく、弾き方をシャープで安定したものとすることができる。特に電子線で硬化する成分を含むアンカー剤は、表面のトップコート樹脂と一体化して硬化することにより密着性にも優れ、より好ましい。このアンカー剤は、電子線により硬化する常温で固体状の樹脂を水溶化して、熱乾燥により水を蒸発させることによってタック切れするようにマット剤を配合した水性タイプであり、オンラインで連続して製造できるのでより好ましく、また、環境面においても優れていることと、表面のトップコート樹脂の硬化時に電子線を照射することにより一体化して硬化するので、物性も大いに優れている。」(段落【0012】)
・摘示事項1-f:「次に、撥液性を付与した印刷インキによる模様層(14)は、表面のトップコート樹脂との「ぬれ性」の差をもって弾かせるようにして凹凸模様を形成するもので、シリコーン樹脂、ふつ素樹脂等の撥液性の成分を含むことが必要である。」(段落「【0013】)
・摘示事項1-g:「【作用】本発明は、薄葉紙等の基材シートに、下地絵柄層、アンカー層、撥液性を付与した模様層が同調して順次設けられた化粧紙に、電子線硬化型のトップコート樹脂を塗布することにより、撥液性を付与した模様層に用いた乾燥後固体状の印刷インキと、液状のトップコート樹脂の「ぬれ性」の差によって、撥液性を付与した模様層上のトップコート樹脂が弾かれて、模様層に同調する凹凸模様を設けた化粧紙が得られる。ここでアンカー層は、下地絵柄層の印刷インキの保護・強化の役目を果たし、弾きによって境界面ができて耐性の弱い印刷インキによる下地の絵柄層が露出した場合においても、この絵柄層を保護することができる。また、アンカー層は、トップコート樹脂や撥液性を付与した模様層の印刷インキが下地の絵柄層や薄葉紙等の基材シートへ浸透する度合いを制御して、弾き方をシャープで安定したものとする。このアンカー剤及び撥液性を付与した模様層の印刷インキに、電子線により硬化する成分を含ませることにより、トップコート樹脂の硬化時に電子線を照射することで一体化して硬化するので、耐薬品性、耐溶剤性や耐摩耗性に優れた化粧紙が得られる。」(段落【0016】)
・摘示事項1-h:「【発明の効果】本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。すなわち、撥液性を付与した模様層とトップコート樹脂は、アンカー層によって下地絵柄層や紙層への浸透度合いが制御されているため、「弾き性」がシャープで、しかも弾き方を安定させるため加工条件の範囲も広くすることができる。さらに、下地絵柄層はアンカー層により保護されているので、トップコート樹脂と撥液性を付与した模様層との弾きの境界面で露出することがないので、耐薬品性や耐溶剤性に優れた化粧紙となる。また、表面のトップコート樹脂として、固形分がほぼ100%である電子線硬化型樹脂を使用することにより、「弾き性」に影響する塗液塗布量が同じであっても、溶剤や水で希釈する必要のある熱硬化型トップコートや蒸発乾燥型トップコートに比べて硬化後塗布量が多くなるため、表面耐性のよいものを得るのに有利である。」(段落【0020】)

(イ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項2-a:「即ち、本発明は、原紙に一種若しくは二種のインキで模様を印刷した後に、樹脂を含浸させ、ついで原紙の模様を印刷した側にトップコートを施し、かくして得られた化粧紙の模様を印刷してない側を接着剤を介してラミネーターを使用して基材に連続的に貼り合わせることによって化粧板を製造する方法に係わるものである。
本発明においては、原紙にインキで模様を印刷した後に樹脂を含浸させるので紙間強度を高めることができ、また、原紙に模様を印刷する際に浸透性に差異がある少なくとも二種のインキで模様を印刷すると原紙へのインキの浸透性の差によって模様に立体感や深みを与えることができる。」(第2ページ右上欄第17行?左下欄第9行)
・摘示事項2-b:「上記した含浸用樹脂を化粧紙に含浸させるには、ロールコート、グラビアコート、エアナイフコート、リバースコート、ディップコート、メアバーコートにより各樹脂を適当な溶剤で希釈して適性粘度として含浸させるのがよい。含浸率は、下記の式で定義される含浸率が20?50%程度となるようにする。
含浸率(%)
含浸後の紙の重量-含浸前の紙の重量
=?????????????????×100
含浸後の紙の重量 」
(第4ページ左上欄第12?20行)
・摘示事項2-c:「【実 施 例】
本発明によって得られる化粧板の構造を図面と共に説明する。
第1図A、B、C,D、Eによって本発明による化粧板の製造を工程順に示す。原紙1上にまず印刷により印刷インキ2を付着せしめ模様を形成し、全体を樹脂に含浸せしめて樹脂3を浸透せしめ、更に印刷インキ2を付着せしめた面上をトツブコート樹脂4で覆う。得られた化粧紙5を接着剤6を介して基材である合板7上に接着して第1図Eに示す構造を有する本発明による化粧板を得る。・・・(中略)
次に本発明の化粧板の製造方法を具体例を挙げて説明する。尚、部は全て重量部を示すものとする。
実施例1
米坪80g/m^(2)のチタン紙((株)興人製、AX-t(80) )の表面にグラビア印刷により下記の配合割合からなる通常のグラビアインキで木目模様を印刷した。
酢酸セルロース 2?3部
メラミン樹脂 2?3部
着色顔料 5?20部
ジブチルフタレート 2?3部
ついで、公知のジアリルフタレート、メラミン等に使用せられる含浸装置を使用し、下記の割合よりなるポリアクリル酸エステル水性エマルジョン含浸液を含浸させた。
ポリアクリル酸エステル 70部
スチレン/ブタジェン共重合体 20部
メラミン樹脂 10部
この時の含浸率は30重量%であった。ついで乾燥した後、アクリルウレタンのトップコート液(諸星インキ(株)製、UMNo.20)を使用してグラビアロールを用いたコーティングにより10g/m^(2)(乾燥時)塗工し、パターンシートを得た。
かくして得られたパターンシートは、エチレン酢酸ビニル系接着剤で910mm×1820mm×2.7mmの合板に塗布量7g/900m^(2)をウェット塗布した後、公知のラミネーターによりヒートロールを100?200℃に保って貼り合わせたところ、外観がメラミン化粧板、ジアリルフタレ-ト化粧板と同等のラミネート化粧板が得られた。本発明による化粧板は平面引張試験(JAS準拠)や耐セロテープ性(プリント合板標準規格)により試験を行ったところ紙間剥離、模様剥離がなく、耐摩耗性、耐久性の優れた化粧板であった。また、樹脂の含浸を行わない以外は上記と全く同じ方法で製造した化粧板は同様の試験を行うと表面柄が摩擦により摩耗し、また表面柄の脱離、紙間剥離が生じ、耐摩擦性に劣るものであった。」(第4ページ右下欄第13行?第5ページ左下欄第15行)
・摘示事項2-d:「

」(第1図)

エ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、化粧紙について、「基材シート上に下地絵柄層と、撥液性を付与した模様層とを設けて、この全面に電子線硬化型のトップコート樹脂層を設けることにより、模様層に同調する凹凸模様を設けた化粧紙において、前記下地絵柄層と模様層との間にアンカー層を設けたことを特徴とする化粧紙。」(摘示事項1-a)と記載されている。そして、その基材シートについて、「ここで基材シート(11)は、薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙を使用することができ・・・」(摘示事項1-d)と記載され、アンカー層については、「・・・このアンカー剤は、電子線により硬化する常温で固体状の樹脂を水溶化して、熱乾燥により水を蒸発させることによってタック切れするようにマット剤を配合した水性タイプであり・・・」(摘示事項1-e)と記載され、さらに模様層に関して、「次に、撥液性を付与した印刷インキによる模様層(14)・・・」(摘示事項1-f)と記載されている。さらに、凹凸模様の形成に関し、「・・・撥液性を付与した模様層に用いた乾燥後固体状の印刷インキと、液状のトップコート樹脂の「ぬれ性」の差によって、撥液性を付与した模様層上のトップコート樹脂が弾かれて、模様層に同調する凹凸模様を設けた化粧紙が得られる。」(摘示事項1-g)と記載されている。
してみると、刊行物1には、
「薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙上に下地絵柄層と、撥液性を付与した印刷インキによる模様層とを設けて、この全面に電子線硬化型のトップコート樹脂層を塗布することにより、撥液性を付与した模様層に用いた乾燥後固体状の印刷インキと、液状のトップコート樹脂のぬれ性の差によって、撥液性を付与した模様層上のトップコート樹脂が弾かれて、模様層に同調する凹凸模様を設けた化粧紙において、前記下地絵柄層と模様層との間に電子線により硬化する常温で固体状の樹脂を水溶化した水性タイプのアンカー層を設けた化粧紙。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
また、刊行物1の上記摘示事項1-bには、「薄葉紙などの基材シート上に下地絵柄層を印刷した後に、表面に塗布する電子線硬化型のトップコート樹脂との密着性を有するアンカー層を塗布し、このアンカー層上に撥液性を付与した模様層を印刷して、この模様層上に電子線硬化型のトップコート樹脂を塗布することにより、前記撥液性を付与した模様層がトップコート樹脂を弾いて、この模様層に同調する凹凸模様が形成されることを特徴とする化粧紙の製造方法。」についても記載されているから、刊行物1には、
「薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙上に下地絵柄層を印刷した後に、表面に塗布する電子線硬化型のトップコート樹脂との密着性を有する、常温で固体状の樹脂を水溶化した水性タイプのアンカー層を塗布し、熱乾燥後、このアンカー層上に撥液性を付与した印刷インキによる模様層を印刷して、この模様層上に電子線硬化型のトップコート樹脂を塗布することにより、前記撥液性を付与した模様層がトップコート樹脂を弾いて、この模様層に同調する凹凸模様が形成される化粧紙の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されている。

オ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明1と引用発明1とを対比する。
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】に、「原紙1は本発明の化粧紙の支持体となるものであって、本発明においては後に樹脂の含浸が可能な吸水性の良い紙であれば良く、例えば薄葉紙、チタン紙、上質紙、クラフト紙等が使用可能である。」と記載されていることから、引用発明1の「薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙」は、本願補正発明1の「吸水性の良い原紙」に相当する。
また、引用発明1の「下地絵柄層」、「凹凸模様」は、それぞれ本願補正発明1の「絵柄模様」、「凹陥部」に相当する。そして、引用発明1の「電子線により硬化する常温で固体状の樹脂を水溶化した水性タイプのアンカー層」の樹脂は、本願補正発明1の「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂」に相当し、引用発明1の「撥液性を付与した印刷インキによる模様層」は、本願補正発明1の「撥液性インキによる撥液性模様」に相当する。さらに、引用発明1の「電子線硬化型のトップコート樹脂」は、撥液性を付与した模様層がトップコート樹脂を弾くのであるから、本願補正発明1の「撥液性インキによりはじかれる樹脂」に相当する。
そうすると、本願補正発明1と引用発明1とは、本願補正発明1の記載になぞらえると、
「吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、更に水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂の一部は原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成し、前記絵柄模様面に、撥液性インキによる撥液性模様を設け、更に前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなる化粧紙。」
の点で一致するのに対し、以下の点で相違している。
本願補正発明1は、「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、これによって樹脂含浸模様紙が構成」されているのに対し、引用発明1は、そのことについて明確に規定されていない点(以下、「相違点A」という。)

(イ)相違点の検討
刊行物1の「天然木に酷似して、・・・外観を備えて」(摘示事項1-c)の記載からして、引用発明1の「下地絵柄層」は、具体的には、木目模様と認められるところ、木目の印刷は、例えば刊行物2の上記摘示事項2-dに示されるように、木目の印刷インキがのっている部分と印刷インキがのっていない部分とが存在すると考えるのが通常である。そして、引用発明1におけるアンカー層の樹脂は水性タイプであり、また化粧原紙も吸水性の良いものであるから、引用発明1は、アンカー層の樹脂が印刷インキののっていない部分から化粧原紙に染み込んで、含浸していく可能性を備えているものと認められる。
また、刊行物1に、「・・・紙の性質によっては下地絵柄層(12)の印刷に先立って、紙層を強化するためのシーラー層の形成や・・・」(摘示事項1-d)と記載されているように、紙層自体を強化することについて言及されている。
そして、例えば刊行物2の上記摘示事項2-a?上記摘示事項2-cに示されるように、化粧紙において、紙間強度を高めるために、原紙にインキで模様を印刷した後に原紙の全体に樹脂を含浸させることは周知の技術である。
してみると、引用発明1において、紙層を強化するために、上記周知技術を採用して、水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂の塗布量を多くして、原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成するとともに、「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、これによって樹脂含浸模様紙が構成」されるようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
本願補正発明1の効果は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0048】?【0052】によると、「従来の同種の化粧紙と比較して、表面強度(表面硬度、耐摩耗性、耐セロハンテープ性等)、耐薬品性、耐汚染性等の各種の表面物性に優れると共に、高価な撥液剤や撥液インキが節約可能で経済的であり、しかも十分に鮮鋭且つ立体的な意匠感が得られ、生産性良く安定的に製造可能である」ことと認められる。
化粧紙において、周知技術として示した刊行物2には、「本発明による化粧板は平面引張試験(JAS準拠)や耐セロテープ性(プリント合板標準規格)により試験を行ったところ紙間剥離、模様剥離がなく、耐摩耗性、耐久性の優れた化粧板であった。また、樹脂の含浸を行わない以外は上記と全く同じ方法で製造した化粧板は同様の試験を行うと表面柄が摩擦により摩耗し、また表面柄の脱離、紙間剥離が生じ、耐摩擦性に劣るものであった。」(摘示事項2-c)と記載されていることから、従来の同種の化粧紙と比較して、表面強度(表面硬度、耐摩耗性、耐セロハンテープ性等)に優れる効果は、引用発明1及び周知技術から当然に予測されるものに過ぎない。
また、刊行物1には、「・・・さらに、下地絵柄層はアンカー層により保護されているので、トップコート樹脂と撥液性を付与した模様層との弾きの境界面で露出することがないので、耐薬品性や耐溶剤性に優れた化粧紙となる。・・・」(摘示事項1-h)と記載されているから、引用発明1自体、耐薬品性や耐溶剤性に優れる効果を有している。その上、引用発明1に周知技術を適用して容易に想到し得た発明は、撥液性インキ層の下の絵柄模様のインキ層は含浸樹脂により原紙と一体化するのであるから、従来の化粧紙よりも耐薬品性、耐汚染性等についても格段に向上する効果も予測の範囲のものである。
そして、刊行物1には、「・・・撥液性を付与した模様層とトップコート樹脂は、アンカー層によって下地絵柄層や紙層への浸透度合いが制御されているため、「弾き性」がシャープ・・・」(摘示事項1-h)と記載されていることから、凹陥部もシャープな形状となり、もって微細な凹陥部の再現性も向上し得るものと認められる。
さらに、引用発明1に周知技術を適用して容易に想到し得た発明は、さらに原紙の全体に樹脂が含浸され、撥液性インキが原紙中や絵柄模様のインキ層中に吸収されることがないから、表面樹脂層に鮮鋭な凹陥部が設けられ立体的意匠性に優れた化粧紙を、経済的且つ生産効率良く製造することができる効果も予測の範囲のものである。

カ まとめ
よって、本願補正発明1は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
る。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年1月18日付けの手続補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成17年10月12日付けの手続補正により補正された次のとおりのものである。
「【請求項1】
吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、更に水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を含浸してなる樹脂含浸模様紙の絵柄模様面に、撥液性インキによる撥液性模様を設け、更に前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなることを特徴とする化粧紙。
【請求項2】
吸水性の良い原紙に絵柄模様を施し、熱乾燥後、これに水中に溶解又は分散した樹脂を浸漬含浸し、熱乾燥後、絵柄模様面に撥液性インキによる撥液性模様を設け、前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなることを特徴とする化粧紙の製造方法。」
(以下、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明を、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」といい、両者をあわせて「本願発明」という。)

2 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成17年 8月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由1又は2によって、拒絶をすべきものである。」とされ、その理由2は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、その具体的理由は、その拒絶理由通知書の備考において、引用文献1(刊行物1)として、特開平8-174770号公報を引用し、「引用文献1には、薄葉紙などの基材シート上に下地絵柄層を印刷した後、アンカー層を塗布し、この上に撥液性を付与した模様層を印刷して、この模様層上にトップコート樹脂を塗布することにより、模様層に同調する凹凸模様が形成された化粧紙が記載されおり、アンカー層は下地絵柄層の保護・強化の役目を果たすとともに表面のトップコート層や撥液性を付与した印刷インキが下地の絵柄層や紙層へ浸透する度合いを制御して、弾き方をシャープで安定したものとすること(【0012】)が記載されている。」とされ、さらに原査定の備考において、「引用文献1の【0012】段落には、「このアンカー剤は、電子線により硬化する常温で個体状の樹脂を水溶化して、・・・水性タイプであり、」と記載されているように、水中に溶解又は分散してなる樹脂を用いることが記載されており、そしてこれは引用文献1の【0010】段落に例示された薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙に含浸可能なものと認められる。また、引用文献1の【0012】段落に記載されたアンカー層の作用・効果の記載にふれた当業者であれば、アンカー層を紙層に含浸させることは適宜なし得ることであり、本願発明による効果も当業者が予測し得ない格別顕著なものとは認められない。
したがって、上記出願人の主張は採用できない。」というものである。

3 当審の判断
(1)刊行物、刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
刊行物1:特開平8-174770号公報
刊行物2:特開昭63-176148号公報(周知技術を示すための文献)
上記「2 原査定の理由」における刊行物1、2は、上記「第2 2 (2)イ」で示した刊行物1、2である。そして、これらの刊行物の記載事項は、上記「第2 2 (2)ウ」で示したとおりであるし、また、刊行物1に記載された発明は、上記「第2 2 (2)エ」で示したとおりである。

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
本願発明1は、樹脂含浸模様紙に関し、本願補正発明1における「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を、該絵柄模様を含む原紙の全体に樹脂が含浸され、該樹脂の一部は原紙及び絵柄模様上に樹脂層を形成し、これによって樹脂樹脂含浸模様紙が構成されている」発明特定事項に代えて、「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を含浸してなる」発明特定事項とするものである。
してみると、本願発明1と引用発明1との相違点は、以下の点のみである。
本願発明1は、吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した模様紙が、「水中に溶解又は分散して含浸可能な樹脂を含浸してなる」のに対し、引用発明1はそのことについて明確に規定されていない点(以下、「相違点A’」という。)
ここで、「含浸してなる」について、どのように含浸しているのかが不明確であるため、本願明細書を参酌してみる。その発明の詳細な説明の段落【0026】に、「樹脂の含浸は、絵柄模様2を設けた原紙1の絵柄模様2面側から行っても良いし、反対面側から行っても良い。また、片面ずつ2回に分けて含浸させたり、両面から同時に含浸させたりしても良い。樹脂の含浸率(含浸後の重量にしめる含浸樹脂の重量の比率)は、絵柄模様2の形成前の原紙に樹脂が含浸される通常の樹脂含浸紙の場合と概略同様で、通例10?60%程度であり、中でも25?40%程度の範囲内が最も望ましい。重要なことは、絵柄模様2を含む原紙1の全体に均一に樹脂が含浸されることである。」と記載されていることから、本願発明1における「含浸してなる」とは、表層のみならず、原紙の「全体に」樹脂が「含浸」している状態を意味しているものと解される。
そうすると、上記相違点A’は、上記相違点Aと実質的に同じといえるから、本願発明1は、上記「第2 2 (2)オ(イ)」で示したのと同様の理由により、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、ということができる。
また、本願発明1の効果も、「第2 2 (2)オ(ウ)」で示したのと同様、引用発明1及び周知技術から当業者が容易に予測し得るものである。

イ 本願発明2について
(ア)対比
本願発明2と上記「第2 2 (2)エ」で認定した引用発明2とを対比する。
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】に、「原紙1は本発明の化粧紙の支持体となるものであって、本発明においては後に樹脂の含浸が可能な吸水性の良い紙であれば良く、例えば薄葉紙、チタン紙、上質紙、クラフト紙等が使用可能である。」と記載されていることから、引用発明2の「薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙等の化粧原紙」は、本願発明2の「吸水性の良い原紙」に相当する。
また、引用発明2の「下地絵柄層」、「凹凸模様」は、それぞれ本願発明2の「絵柄模様」、「凹陥部」に相当する。そして、引用発明2の電子線により硬化する「常温で固体状の樹脂を水溶化した水性タイプのアンカー層」の樹脂は、本願発明2の「水中に溶解又は分散した樹脂」に相当し、引用発明2の「撥液性を付与した印刷インキによる模様層」は、本願発明2の「撥液性インキによる撥液性模様」に相当する。さらに、引用発明2の「電子線硬化型のトップコート樹脂」は、撥液性を付与した模様層がトップコート樹脂を弾くのであるから、本願発明2の「撥液性インキによりはじかれる樹脂」に相当する。
そうすると、本願発明2と引用発明2とは、本願発明2の記載になぞらえると、
「吸水性の良い原紙に絵柄模様を施し、絵柄模様面に撥液性インキによる撥液性模様を設け、前記撥液性インキによりはじかれる樹脂を塗工して、前記撥液性模様上ではじかせることにより凹陥部を形成してなる化粧紙の製造方法。」
である点で一致しているのに対し、以下の点で相違している。
i)吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後の工程について、本願発明2では、熱乾燥を行うと規定されているのに対し、引用発明2では、その規定がされていない点(以下、「相違点i)」という。)
ii)吸水性の良い原紙に絵柄模様を施し、熱乾燥後の工程について、本願発明2では、「水中に溶解又は分散した樹脂を浸漬含浸」しているのに対し、引用発明2では、「水中に溶解又は分散した樹脂を塗布」している点

(イ)相違点の検討
・相違点i)の検討
印刷インキで印刷を施した場合、熱乾燥することは常套手段であるから、引用発明2において、吸水性の良い原紙に絵柄模様を施した後、熱乾燥することは当業者が容易になし得ることである。

・相違点ii)の検討
刊行物1の「天然木に酷似して、・・・外観を備えて」(摘示事項1-c)の記載からして、引用発明2の「下地絵柄層」は、具体的には、木目模様と認められるところ、木目の印刷は、例えば刊行物2の上記摘示事項2-dに示されるように、木目の印刷インキがのっている部分と印刷インキがのっていない部分とが存在すると考えるのが通常である。そして、引用発明2におけるアンカー層の樹脂は水性タイプであり、また化粧原紙も吸水性の良いものであるから、引用発明2は、アンカー層の樹脂が印刷インキののっていない部分から化粧原紙に染み込んで、含浸していく可能性を備えているものと認められる。
また、刊行物1に、「・・・紙の性質によっては下地絵柄層(12)の印刷に先立って、紙層を強化するためのシーラー層の形成や・・・」(摘示事項1-d)と記載されているように、紙層自体を強化することについて言及されている。
そして、例えば刊行物2の上記摘示事項2-a?上記摘示事項2-cに示されるように、化粧紙において、紙間強度を高めるために、原紙にインキで模様を印刷した後に原紙の全体に樹脂を含浸させることは周知の技術であり、その含浸手法として、ディップコート、すなわち浸漬することも上記摘示事項2-bに示されるように周知慣用の手法である。
してみると、引用発明2において、紙層を強化するために、上記周知技術を採用して、「水中に溶解又は分散した樹脂を塗布」することに代えて、「水中に溶解又は分散した樹脂を浸漬含浸」することは当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果
引用発明2と引用発明1の発明特定事項を比較すると、引用発明2は、実質的に引用発明1である「化粧紙」を「化粧紙の製造方法」に代えたものといえる。
また、本願発明2と本願発明1の発明特定事項を比較すると、本願発明2も、いわば本願発明1である「化粧紙」の「製造方法」といえ、奏する効果も本願発明1又は本願補正発明1の効果と同じである。
そうすると、本願発明2の効果も、本願発明1又は本願補正発明1と同様、引用発明2及び周知技術から当業者が容易に予測し得るものである。

(3)まとめ
よって、本願発明は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-16 
結審通知日 2009-10-20 
審決日 2009-11-09 
出願番号 特願平11-300876
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 西川 和子
細井 龍史
発明の名称 化粧紙及びその製造方法  

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