• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1209116
審判番号 不服2007-25784  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 特願2003-167541「粘度計」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月 6日出願公開、特開2005- 3519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月12日の特許出願(2003年特許願第167541号。以下、「本件出願」という。)であって、平成19年8月10日付けで拒絶査定(発送日:同年8月21日)されたところ、拒絶査定不服審判が同年9月20日に請求されるとともに同年10月17日付けで手続補正書が提出され、当審において平成21年2月9日付けで通知した拒絶の理由に対し、意見書及び手続補正書が同年4月20日に提出されたものであって、本件出願の請求項1?3に係る発明は、平成21年4月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。

【請求項1】「ベース台に下端が固定され、粘度計本体を上下移動自在に支持するスライド支柱と、
前記ベース台に着脱可能に位置決め固定される昇降機と、
前記昇降機に着脱可能に位置決め固定され、前記粘度計本体が有する測定子が上方から浸漬される専用のサンプル容器とを備えた粘度計において、
前記スライド支柱は、前記ベース台に立設された支柱部と、前記支柱部に上下移動自在に支持され、前記粘度計本体が取り付けられたスライダーと、前記スライダーを上下移動させる移動機構とを備え、
前記昇降機は、対向配置される天板および底板と、前記天板と底板との間に設けられるパンタグラフ状の昇降機構と、前記昇降機構の調整ねじとを有し、
前記移動機構により前記スライダーを下降移動させて、前記測定子の下端が前記サンプル容器の上端に到達した位置、あるいは、前記測定子の下端が前記被測定サンプルの上面に接触する位置まで移動させる粗調整を行った後に、前記昇降機の調整ねじを操作して、前記測定子が前記被測定サンプルに所定の位置まで浸漬されるように前記サンプル容器の上下移動を微調整することを特徴とする粘度計。」

なお、請求人が補正の根拠とする本件出願の当初明細書の【発明の詳細な説明】の欄の段落【0046】には、「すなわち、粘度計本体10をサンプル容器16に向けて降下させるが、その際に、まず、スライド支柱12により粘度計本体10の上下移動を粗調整する。この粗調整は、スライド支柱12のつまみ12dを回転させて、ラックピニオン機構からなる移動機構12cによりスライダー12bを下降移動させて、測定子20の下端が、被測定サンプルの上方に所定の距離、例えば、角形容器部16の上端に到達した位置、あるいは、測定子の下端が、被測定サンプルの上面に接触する位置まで移動させる。」(下線は当審の付与したものである。)と記載されていることから、平成21年4月20日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1の記載のうち、「前記測定子の下端が前記サンプル容器内の被測定サンプルの上端に到達した位置」は、「前記測定子の下端が前記サンプル容器の上端に到達した位置」の誤記であるものとして上記のごとく認定した。

第2 当審の拒絶理由
一方、当審において平成21年2月9日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本件出願の請求項1?3に係る発明は、本件出願の日より前に頒布された、特公平8-16645号公報(以下、「引用刊行物A」という。」)に記載された発明、実願昭58-60190号(実開昭59-166156号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物B」という。)に記載された発明、及び特開平8-128940号公報(以下、「引用刊行物C」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第3 引用刊行物記載の発明
(1)上記引用刊行物Aには、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付与したものである。)
(A-1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビーカーなどの試料容器にサンプリングされた試料液中に、回転式粘度計の円筒状の測定ロータを挿入して行なう粘度測定方法および測定装置に係り、特に、多検体について、試料液中のロータの浸漬深さを一定に保って、連続して自動的に粘度を測定するための装置に関する。」
(A-2)「【0009】図4において、昇降スタンドの構造について概要を述べる。図4において、粘度計90は、粘度計昇降スタンド100の取付部101に取りつけられている。取付部101には、昇降ハンドル102が設けてある。昇降ハンドル102の軸103には、図示省略するが、ピニオンが設けてあり、このピニオンがスタンド案内ロッド105に設けたラック106と噛合っている。
【0010】このような構造なので、昇降ハンドル102を手で回すことにより、ハンドル軸103が回転し、取付部101は、スタンド案内ロッド105に案内されて、任意の高さ位置に移動させることができる。すなわち、粘度計90の高さは、昇降ハンドル102の操作によって任意に設定することができる。また、その高さ位置で、粘度計90が重力で滑り落ちることを防ぐために、取付部101には、クランプハンドル107が設けてあり、その位置で取付部101を固定できるようにしてある。」
(A-3)「【0025】本発明の目的は、ロータを試料液に浸漬した状態で、粘度計本体の高さを変えることなく、ロータの浸漬深さ、すなわち、ロータに対する試料液の液面レベルを最適に調節することができる粘度測定装置を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】本発明では前記した粘度自動測定の問題を解決するために、粘度計を適当な一定高さまで自動下降させて、ロータを試料容器内試料液内に十分な深さまで浸漬した後、その状態でロータの標線深さが得られる様に自動的に余分な試料液を排出して、液面レベルを一定化するようにしたものである。」
(A-4)「【0032】
【実施例】以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。図7に、本発明の粘度計の一実施例の構成の概要を、図1にその要部をそれぞれ示す。図1および図7に示す本実施例の粘度計は、粘度計本体90を自動昇降させる自動昇降装置500と、試料液の液面高さを調節する装置800とを有する。そのほかの構成は、図4に示す粘度計と基本的には、同じである。すなわち、本実施例の粘度計は、粘度計本体90と、この本体下部90aから突出するロータ・ステム81と、このロータ・ステム81に取り付けられるロータ80と、粘度計本体90を支持するスタンド100とを有し、さらに、自動昇降装置500と、液面高さ調節装置800とを有する。ロータ・ステム81には、ロータの深さを示すために刻設された液面標線82を有する。この標線82は、刻設に限らず、表示が明瞭であればその表示の態様をとわない。
【0033】自動昇降装置500は、図示していないが、スタンド100に設けられるラック106に噛み合って、粘度計本体90を昇降する駆動機構と、目的位置に達すると、粘度計本体90をクランプするクランプ機構とを有する。駆動機構は、図示していないが、ラック106と噛み合うピニオンと、これを駆動する、モータを含む駆動機構と、位置決めを行なう制御装置とを有する。
【0034】液面高さ調節装置800は、試料容器からの余剰試料液を吸い出すための吸出し管85と、この吸出し管85を本体下部90a外周に取り付けるための取り付け金具84と、吸出し管85からの試料液を搬送するフレキシブル・チューブ86と、吸出し管85およびフレキシブル・チューブ86を介して試料液を吸い出すポンプ87と、容器88とを有する。」
(A-5)「【0038】次に、本実施例の粘度計による粘度測定動作について、説明する。まず、図7に示す自動昇降装置500により、粘度計本体90を下降させる。これにより、ロータ80が試料液を貯溜している容器150内に入り、さらに、試料液6内に浸漬される。この際、粘度計本体90を下降させた時に、該本体に装着したロータの下降高さ位置が、液面標線が必ず試料容器内液面よりも深くなる一定位置まで下降するようにする。そして、ポンプ87を起動する。これにより、ポンプ87は、試料液6を、フレキシブル・チューブ86を介して、吸出し管85の下端85aから吸引して、容器88内に排出する。
【0039】ポンプ87による試料液6の吸引は、吸出し管85の下端85aが、ロータ・ステム81に刻設されている液面標線82の高さに合わせて位置決めしてあるので、試料液6の液面6aが、このレベルまで下がると、吸出し管85の下端85aが大気開放される。従って、試料液6は、ポンプ87によって吸引されなくなる。そこで、ポンプ87を停止させる。
【0040】以上により、粘度計本体90を試料液6の液面レベル調節のために移動させることなく、吸出し管85から試料液を吸い出すことにより、自動的に標線82を液面に一致させることができる。」
(A-6)上記摘記事項(A-2)の記載を参照すると、図7には、台にスタンド案内ロッド105が支持されてスタンド100を構成することが描かれている。

上記(A-1)?(A-6)の摘記事項を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「台に支持され、ラック106に噛み合って粘度計本体90が昇降するスタンド案内ロッド105を有するスタンド100と、
ラック106に噛み合って駆動して粘度計本体90を自動昇降させる駆動機構を有する自動昇降装置500と、
粘度計本体90の下部から突出し液面標線82が刻設されたロータ・ステム81に取り付けられたロータ80が、入る容器150と、
下端85aが液面標線82の高さに合わせて位置決めしてある吸出し管85と、吸出し管85を介して試料液6を吸い出すポンプ97とを有する海面高さ調節装置800とからなり、
自動昇降装置500の駆動機構は粘度計本体90を液面標線82が必ず試料容器内の液面よりも深くなる一定位置まで下降させ、
液面高さ調節装置800のポンプ97は吸出し管85から試料液を吸い出すことにより、自動的に液面標線82を液面に一致させる粘度測定装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(B)上記引用刊行物Bには、次の事項が図面とともに記載されている。
(B-1)「本発明は曳糸性測定機の改良に関する。」(明細書2頁2行)
(B-2)「図面において、可動垂直軸(10)は、ヘリカルギアを内蔵する駆動装置(11)及び駆動モーター(6)と共に架台(12)上に立設された支柱(13)上に取付けられている。
上記架台(12)上には、さらにコントロールボックス(14)が据付られて・・・いる。なお、可動垂直軸(10)の上端部(10a)の付近にスケール(21)が鉛直方向に沿って固定され、該上端部(10a)の移動距離を直接読取ることができる。
・・・
測定用試料(S)は容器(V)内へ収容され、パントグラフ式スタンド(P)上に載せられて可動垂直軸(10)の直下に位置せしめられる。そしてプローブ(1)は、糸(2)を介して上記垂直軸(10)の下端部(10b)から吊下げられる。
以上の装置による測定操作は以下の如くにして行なう。
I :スナップスイッチ(16)をONにする。・・・
II :試料(S)を容れた容器(V)パントグラフ式スタンド(P)上に載せる。
III :スタンド(P)の高さを調整してプローブ(1)の標線(1a)を試料(S)の液面に一致させる。
IV :垂直軸の上端に対応するスケール(21)に目盛を読む・・・。
V :押ボタンスイッチ(赤,18a)を押す。・・・モーター(6)が回転を始め、垂直軸(10)が徐々に上昇する(この上昇につれ、曳糸が発生する)。
VI :曳糸の状態を観察し、糸が切れるや否やスイッチ(16)をOFFにする。
VII :スケール(21)の目盛を読む・・・。
VIII:スナップスイッチ(16)を再びONにし、押ボタンスイッチ・・・を押す・・・と同時にモーター(6)が逆転を始め、垂直軸(10)が下降する。・・・該軸は測定に適当な位置で自動的に停止する。」(明細書6頁2行?8頁12行)
(B-3)第2図には、架台(12)上に設けられたパントグラフ式スタンド(P)の上部に容器(V)を載せる板状の部材と、下部に板状部材と、高さを調整するためのハンドルが描かれている。

(C)上記引用刊行物Cには次の事項が図面とともに記載されている。
(C-1)「【0009】
【実施例】図2は本発明の一実施例を示す図で、本測定方法に用いられる粘度測定装置の構造を示している。」
(C-2)「【0016】以上の構造において、図2のほか図4?6に示すように、所定の試料を採取した試料容器12をテーブル11の上に載せた上、ハンドル13を回転操作して試料容器12を位置決め金具14とハンドル13との間で押圧固定する。」

第4 本願発明と引用発明との対比・判断
(4-1)対比
(i)引用発明の(a)「台」、(b)「粘度計本体90」、及び(c)「スタンド100」が、それぞれ本願発明の(a’)「ベース台」、(b’)「粘度計本体」、及び(c’)「スライド支柱」に相当する。
さらに、引用発明の「スタンド100」が本願発明の「スライド支柱」と同様に「台」に下端が固定されることは明らかである。
そして、引用発明では、スタンド100のスタンド案内ロッド105を粘度計本体90が昇降することから、引用発明の「スタンド100」は本願発明の「スライド支柱」と同様に「粘度計本体(10)を上下移動自在に支持する」ものである。
(ii)引用発明の(d)「ロータ80」及び(e)「容器150」がそれぞれ本願発明の(d’)「粘度計本体が有する測定子」及び(e’)「専用のサンプル容器(16)」に相当する。
そして、引用発明の「容器150」内の試料液には、自動昇降する粘度計本体90の下部から突出するロータ・ステム81に取り付けられたロータ80が入ることから、引用発明の「容器150」と本願発明の「専用のサンプル容器(16)」とは「前記粘度計本体が有する測定子が上方から浸漬される専用のサンプル容器(16)」である点で共通するものである。
(iii)引用発明の「粘度測定装置」が本願発明の「粘度計」に相当する。
(iv)引用発明の(f)「スタンド案内ロッド105」及び(g)「粘度計本体90を自動昇降させる駆動機構」がそれぞれ本願発明の(f’)「ベース台に立設された支柱部」及び(g’)「移動機構」に相当する。
そして、引用発明の「自動昇降装置500」は、スタンド100が有するスタンド案内ロッド105のラック1006に噛み合って粘度計本体90を自動昇降させる駆動機構を有することから、本願発明の「スライド支柱」と同様に「ベース台に立設された支柱部」と、「スライダー」と、「移動機構」とを備えていることは明らかである。
さらに、引用発明の「粘度計本体90を自動昇降させる駆動機構」は、本願発明の「スライダー」と同様に、ラック106に噛み合ってスライドする「支柱部に上下移動自在に支持され、前記粘度計本体が取り付けられたスライダー」であることは明らかである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「ベース台に下端が固定され、粘度計本体を上下移動自在に支持するスライド支柱と、
前記粘度計本体が有する測定子が上方から浸漬される専用のサンプル容器とを備えた粘度計において、
前記スライド支柱は、前記ベース台に立設された支柱部と、前記支柱部に上下移動自在に支持され、前記粘度計本体が取り付けられたスライダーと、 前記スライダーを上下移動させる移動機構とを備えた粘度計」
である点で一致し、次の相違点(あ)で相違している。

・相違点(あ)
本願発明の粘度計は「ベース台に着脱可能に位置決め固定される昇降機」を備え、専用のサンプル容器は「昇降機に着脱可能に位置決め固定され」、「昇降機は、対向配置される天板および底板と、前記天板と底板との間に設けられるパンタグラフ状の昇降機構と、前記昇降機構の調整ねじとを有し」、「前記移動機構により前記スライダーを下降移動させて、前記測定子の下端が前記サンプル容器の上端に到達した位置、あるいは、前記測定子の下端が前記被測定サンプルの上面に接触する位置まで移動させる粗調整を行った後に、前記昇降機の調整ねじを操作して、前記測定子が前記被測定サンプルに所定の位置まで浸漬されるように前記サンプル容器の上下移動を微調整する」のに対して、引用発明では昇降機を備えておらず、自動昇降装置500の駆動機構は粘度計本体90を液面標線82が必ず試料容器内液面よりも深くなる一定位置まで下降させ、液面高さ調節装置800のポンプ97は吸出し管85から試料液を吸い出すことにより、自動的に液面標線82を液面に一致させる点。

(4-2)当審の判断
上記相違点(あ)について判断する。
(あ-1)引用発明の粘度測定装置では、自動昇降装置500の駆動機構により粘度計本体90を液面標線82が必ず試料容器内液面よりも深くなる一定位置まで下降させ、液面高さ調節装置800のポンプ97により吸出し管85から試料液を吸い出し、自動的に液面標線82を液面に一致させていることから、引用発明では、自動昇降装置500の駆動機構により粗調整を行い、液面高さ調節装置800により微調整を行っていることが明らかである。
そして、上記引用刊行物Bには、曳糸性測定装置において、糸(2)により吊り下げられたプローブ(1)がモーター(6)により下降し、容器(V)の適当な位置で停止されたプローブ(1)の標線(1a)と容器(V)の試料(S)の液面を一致させるために、上部に容器(V)を載せる板状の部材と、下部に板状部材と、高さを調整するためのハンドルを有するパントグラフ式スタンド(P)を架台(12)上に設け、パントグラフ式スタンド(P)の上部の板状の部材に容器(V)を載せ、ハンドルを操作して上部に載せた容器(V)の高さを調節することによりプローブ(1)の標線(1a)と容器(V)の試料(S)の液面を一致させることが記載されており、さらに、上記引用刊行物Bの試料の曳糸性を測定することは、例えば、特開2002-310878号公報の段落【0004】に「液状物の粘性を測定する手段として、液状物の曳糸性を利用し糸引きの長さを測定してこの測定値を粘性のパラメータとして用いる方法がある。」と記載されているように、試料の粘性の測定と関連性があり、また、引用発明の粘度測定装置と上記引用刊行物Bに記載された発明の曳糸性測定装置とは容器の試料の液面と測定部材の標線とを一致させて測定する点で共通するものであるから、引用発明において、ロータ・ステム81の液面標線82と試料液の液面とを一致させるための手段として、ポンプ97で吸出し管85から試料液を吸い出す液面高さ調節装置800を用いる代わりに、上記引用刊行物Bに記載された、上部に容器を載せる板状の部材と、下部に板状部材と、高さを調整するためのハンドルを有するパントグラフ式スタンドを採用するとともに、このパントグラフ式スタンドを引用発明の台に設け、パントグラフ式スタンドのハンドルを操作してロータ・ステム81の液面標線82と試料液の液面とを一致させることにより、本願発明のごとく、「ベース台に昇降機」を備え、「昇降機は、対向配置される天板および底板と、前記天板と底板との間に設けられるパンタグラフ状の昇降機構と、前記昇降機構の調整ねじとを有し」、「前記移動機構により前記スライダーを下降移動させて、」「粗調整を行った後に、前記昇降機の調整ねじを操作して、前記測定子が前記被測定サンプルに所定の位置まで浸漬されるように前記サンプル容器の上下移動を微調整する」ことは当業者が容易になし得るものである。
(あ-2)ところで、引用発明の液面高さ調節装置800のポンプ97は吸出し管85から試料液を吸い出して自動的に液面標線82を液面に一致させるものであるが、上記引用刊行物Bの高さを調整するためのハンドルを有するパントグラフ式スタンド(P)は、架台12からの高さを上下に調整して、プローブ(1)の標線(1a)と容器(V)の試料(S)の液面を一致させるものであるから、引用発明のロータ・ステム81の液面標線82と試料液の液面とを一致させるための手段として、試料液を吸い出す液面高さ調節装置800を用いる代わりに、上記引用刊行物Bに記載された発明のごとく、高さを調整するためのハンドルを有するパントグラフ式スタンドを採用した場合には、引用発明のロータ・ステム81の液面標線82と試料液の液面とを一致させる前にロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面よりも深くなる一定位置まで必ず下降させる必要があるものではなく、ロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面より上の位置まで下降してもよいことは明らかであり、ロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面よりも深くなる一定位置まで下降させるか、又はロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面より上の位置まで下降させるかのどちらを選択するかは当業者が必要に応じて適宜採用し得る選択的事項にすぎないものである。
(あ-3)さらに、引用発明では、自動昇降装置500の駆動機構が粘度計本体90を下降させて、ロータ・ステム81の液面標線82を液面に一致させる際に、液面標線82が必ず試料容器内の液面よりも深くなる一定位置まで下降させていることから、上記(あ-2)で検討したように、ロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面より上の位置まで下降させる構成を採用した場合においても、引用発明の自動昇降装置500の駆動機構が粘度計本体90を下降させて粗調整をする際には、液面標線82が必ず試料容器内の液面から一定位置上方まで下降させることは当然の設計事項である。
そして、粘度測定装置において、駆動用の測定体の先端を試料液の液面より所望の位置まで浸漬する際に、まず、測定体の先端を試料液の液面に接する位置まで下降させ、その後所望の位置まで、駆動用の測定体を浸漬させることは周知(例えば、特開平3-123839号公報の5頁左上欄左上欄2?12行、特開平6-207898号公報の段落【0050】、【0051】の記載参照)であり、この周知例の測定体の先端を試料液の液面に接する位置は、上述のごとく、ロータ・ステム81に刻設された液面標線82を試料容器内の液面より上の位置まで下降させる構成を採用した場合の液面標線82の液面からの一定位置に相当するから、引用発明において、自動昇降装置500の駆動機構が粘度計本体90のロータ80を下降させる際の試料液からの一定位置として、ロータ80の先端が試料容器内の試料液の液面に接する位置、すなわち本願発明のごとく「測定子の下端が前記被測定サンプルの上面に接触する位置」を選択し、その位置「まで移動させる」構成とすることは当業者が容易に想到しうるものである。
(あ-4)また、粘度測定装置において、試料の入った容器を台上に着脱自在に位置決め固定することは上記引用刊行物Cの摘記事項(C-2)に記載されているように周知であることから、ロータ・ステム81の液面標線82と試料液の液面とを一致させるために、引用刊行物Bのごとく、パントグラフ式スタンドを用いた場合においても、試料液の入った容器を位置決め固定することは当業者が当然なすべき設計的事項であり、さらに、試料の入った容器を安定に粘度測定装置の台に位置決め固定する際には、その容器の位置決め固定する場所がパントグラフ式スタンドが設けられる台と容器が載せられるパントグラフ式スタンドとの2ヵ所必要なことは自明な事項であるから、本願発明のごとく、昇降機は「ベース台に着脱可能に位置決め固定され」、専用のサンプル容器は「昇降機に着脱可能に位置決め固定され」る構成にすることが必要なことは明らかである。
(あ-5)なお、本願発明では、移動機構によりスライダーを下降移動させて粗調整を行う際に、上記(あ-3)で検討した「前記測定子の下端が前記被測定サンプルの上面に接触する位置まで移動させる」構成を含む発明のほかに、「前記測定子の下端が前記サンプル容器の上端に到達した位置まで移動させる」構成を含む発明も含まれるのでこの点についても一応検討する。
上記周知例の特開平6-207898号公報の段落【0050】には、「図1aに示すように、試料容器151内で液面6’の変動が起こりうる範囲に対して、ロータ下端80’が余裕がある高さgまで、粘度計90を急速降下させる(ステップS2)。」と記載されているように、試料液の液面より所定の位置だけ上方の位置を目標にして粘度計本体のロータを下降させることが記載されており、さらに、試料容器の上端は、試料容器内の試料液の液面に接する位置と同様に、試料液を有する試料容器の上端は粘度計本体90のロータ80を下降させる際の試料液の液面より上方の目標のとなる位置として当業者がすぐに着目する場所であることから、粘度計本体90のロータ80を下降させる際の試料液の液面より所定の位置だけ上方として、試料容器の上端を選択して、本願発明のごとく「測定子の下端が前記サンプル容器の上端に到達した位置まで移動させる」ことは当業者が容易になし得るものである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用刊行物Bに記載された発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用刊行物Bに記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、当審が通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-19 
結審通知日 2009-10-27 
審決日 2009-11-09 
出願番号 特願2003-167541(P2003-167541)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 宮澤 浩
信田 昌男
発明の名称 粘度計  
代理人 松本 雅利  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ