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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1209176
審判番号 不服2008-28187  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-05 
確定日 2009-12-24 
事件の表示 平成10年特許願第 48477号「ずれ防止固定リング」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 3日出願公開、特開平11-210713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成10年1月26日の出願であって、平成20年9月29日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月21日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成20年11月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年11月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成20年11月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
自動車に取り付けられたスタビライザのずれを防止すべく取付手段に隣接して前記スタビライザを緊締するアルミ材、軟鋼材または強化プラスチックからなるずれ防止固定リングであって、緊締前は概ねU字状の1本の帯体であり、該帯体の一端には長さ方向に突出するとともにその先端寄りを拡幅した凸部を、他端には前記凸部をきつめの嵌合で受け入れる凹部を備え、前記凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させることにより、前記スタビライザの外周を直接緊締するようにしたことを特徴とするずれ防止固定リング。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「取付対象」を「自動車」に限定するとともに、同じく「円管あるいは丸棒」を「スタビライザ」に限定し、また、同じく「先端寄りを拡幅した凸部」について、「長さ方向に突出するとともにその」との限定を付加し、更に、同じく「外周を緊締する」ことについて、外周を「直接」緊締するとの限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。なお、本件補正前の「緊締時には前記凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させて1個のリング状とし」について、「緊締時には」との限定を削除するとともに、「加圧嵌合させて1個のリング状とし」を「加圧嵌合させることにより」とする補正は、重複する記載を削除して特許請求の範囲の記載を明りょうにすることを目的とするものである。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下で検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-106866号(実開平5--54011号)のCD-ROM(以下「刊行物1」という。)には、「スタビライザの支持装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、サスペンション装置におけるスタビライザの車幅方向に対応した横すべりを防止するスタビライザの支持装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、車両のサスペンションには、旋回時の車体のロール挙動を減少させるために、左右のサスペンションアーム間に渡ってスタビライザを設けるのが一般的である。
【0003】
また、スタビライザは一般的にサスペンションアームとスタビライザとの間での角度変位を吸収するために、コントロールリンクを介してサスペンションアームに連結する。よって、スタビライザを車体に対し上下方向に回動自在に固定するクランプ部材だけでは、横ずれを起こすという問題が生じる。」

(イ) 「【0006】
本考案は、大径部を形成することなく、容易に、スタビライザの横ずれ防止を行うことのできるスタビライザの支持装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため本考案のスタビライザの支持装置は、下記のように構成されている。
【0008】
請求項1記載の構成は車輪を支持する左右のサスペンションアームに両端が連結され、車体に対して中央部がクランプ部材により回動可能に軸支されたスタビライザの横方向の移動を規制するよう、車体とスタビライザとの間に変位規制部材を備えたものにおいて、
【0009】
前記変位規制部材は端部に設けられた係止部と、該係止部と一体的に構成され、該係止部に対して係合する係合部を有した弾性変形可能なバンド部と、該バンド部に設けられスタビライザに対して滑りを防止するラバー部材とから構成されていることを特徴とするものである。」

(ウ) 「【0012】
【考案の作用・効果】
請求項1のスタビライザの支持装置の構成によれば、変位規制部材のバンド部を車体に対して横方向に変位が生じないようスタビライザに巻き付けて、係止部に係合部を係合させるという簡単な作業により、作業が終了するので、容易に装着でき、さらに、バンド部のスタビライザへの当接部に滑り防止用の接着部材を設けているため、スタビライザの横ずれも確実に防止することができる。またスタビライザそのものには、手を加えなくてもよいので、スタビライザの特性もほぼ一定のものが得られる。さらに、コストも従来のものより低減することができる。」

(エ) 「【0017】
図1は本考案のスタビライザの支持装置が採用されたサスペンション装置の全体図である。1、2は夫々車輪3、4を支持する左右のサスペンションアームで、車体(図示せず)に固定されたサブフレーム5に回動自在に支持されている。スタビライザ6は、このサスペンションアーム1、2に夫々両端がコントロールリンク7、8を介して連結され、中央部で車体(図示せず)に2つのクランプ部材9、10によって、取り付けられている。
【0018】
クランプ部材9、10は、図2に示すようにラバー11とクランプ金具12によって構成され、従来と同様にラバー11によりスタビライザ6の全周を包み、そのラバー11で包んだ部分をクランプ金具12により車体に固定し、スタビライザ6を回動自在に軸支している。
【0019】
このクランプ部材9、10の車体内方側には図2、図3に示すように、スタビライザ6の横ずれを防止する変位規制部材13が装着してある。この変位規制部材13は図4?図7に示すように、樹脂で一体成形され、端部に設けられた略角筒状の係止部14と、スタビライザ6の外周よりも長く設定された弾性変形可能なバンド部15とから成り、係止部14には弾性変形する係止片16及び、その係止片16と一体的に、係止片16の係合関係を解除することができる解除片17(解除機構)が設けられている。またバンド部15には複数の係合爪18(係合部)が設けられ、またバンド部13の裏側には、ラバー19(接着部材)が両側端に溶着されている。複数の○形状の部分20は、バンド部15にラバー19を確実に固定するために、ラバー19を溶かし込んでいる部分である。
【0020】
この変位規制部材13をスタビライザ6に装着する際には、ラバー19に接着剤を塗布し、バンド部15のラバー19側をスタビライザ6に当接させ、バンド部15をスタビライザ6に巻き付け、バンド部15の端部を係止部14に貫通させ、締め付けることにより、係合爪18を係止片16に係合させる。このようにラバー19に接着剤を塗布する方法も考えられるが、両面テープなどで代用して接着効果を得てもよい。」

上記記載事項(ア)?(エ)及び図面の記載を総合すると、刊行物1には、
「車体に取り付けられたスタビライザ6の横ずれを防止すべくクランプ部材9、10に隣接して前記スタビライザ6を締め付ける樹脂製の変位規制部材13であって、締め付け前は概ね平坦な1本の帯体であり、端部に設けられた係止部14と、該係止部14と一体的に構成され、該係止部14に対して係合する係合爪(係合部)18を有した弾性変形可能なバンド部15とを備え、前記係合爪(係合部)18を前記係止部14に設けられた係止片16に係合させることにより、前記スタビライザ6の外周をラバー19(接着部材)を介して締め付けるようにした変位規制部材13。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「車体」は本願補正発明の「自動車」に相当し、以下同様に、「スタビライザ6」は「スタビライザ」に、「横ずれ」は「ずれ」に、「クランプ部材9、10」は「取付手段」に、それぞれに相当する。
また、引用発明の「締め付ける」と本願補正発明の「緊締する」とは、両者の技術的意味を相違点において検討することとすると、少なくともスタビライザを「締め付ける」という点においてはひとまず共通する。
さらに、引用発明の「変位規制部材13」と本願補正発明の「ずれ防止固定リング」とは、その具体的な構成を相違点において検討することとすると、自動車に取り付けられたスタビライザのずれを防止すべく取付手段に隣接して上記スタビライザを締め付ける部材であって、締め付け時には、上記スタビライザの外周を締め付けるようにリング状にされる機能を有するものである点でひとまず共通するものである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「自動車に取り付けられたスタビライザのずれを防止すべく取付手段に隣接して前記スタビライザを締め付けるずれ防止固定リングであって、締め付け前は1本の帯体であり、前記スタビライザの外周を締め付けるようにしたずれ防止固定リング。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
ずれ防止固定リングが、本願補正発明では、スタビライザを「緊締する」ずれ防止固定リングであって、「該帯体の一端には長さ方向に突出するとともにその先端寄りを拡幅した凸部を、他端には前記凸部をきつめの嵌合で受け入れる凹部を備え、前記凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させることにより」、上記スタビライザの外周を「直接」「緊締する」ようにしたずれ防止固定リングであるのに対して、引用発明では、スタビライザ6を「締め付ける」変位規制部材13であって、「端部に設けられた係止部14と、該係止部14と一体的に構成され、該係止部14に対して係合する係合爪(係合部)18を有した弾性変形可能なバンド部15とを備え、前記係合爪(係合部)18を前記係止部14に設けられた係止片16に係合させることにより」、上記スタビライザ6の外周を「ラバー19(接着部材)を介して」「締め付ける」ようにした変位規制部材13である点。

[相違点2]
ずれ防止固定リングの材質が、本願補正発明では、「アルミ材、軟鋼材または強化プラスチックからなる」のに対して、引用発明では、「樹脂製」である点。

[相違点3]
ずれ防止固定リングの締め付け前の状態が、本願補正発明では、「概ねU字状の」1本の帯体であるのに対して、引用発明では、「概ね平坦な」1本の帯体である点。

4.当審の判断

(1)相違点1について
引用発明と本願補正発明とは、上記一致点において挙げたように、スタビライザの「ずれ防止固定リング」といえるものである点で共通の技術分野に属するものである。そして、引用発明と本願補正発明の課題について検討するに、引用発明は、従来のスタビライザの支持装置において「スタビライザを車体に対し上下方向に回動自在に固定するクランプ部材だけでは、横ずれを起こすという問題」(上記記載事項(ア))があることから、「大径部を形成することなく、容易に、スタビライザの横ずれ防止を行うことのできるスタビライザの支持装置を提供すること」を考案が解決しようとする課題(上記記載事項(イ))としているところ、本願補正発明も、従来の横滑り防止手段が「ゴム板と鉄帯とで構成されるため、滑り防止力に限度があり、必要な防止力が得られず、支障が発生することがあった。また、部品点数も多いので価格も割高なものとなっていた。さらに対温度特性も充分なものとはいえないものであった。本発明は、このような問題点を解消したスタビライザのずれ(横滑り)防止手段としての固定リングを提供すること」を発明が解決しようとする課題(本願の明細書の段落【0007】)としており、両者は、従来のスタビライザのずれ(横滑り)を防止する構成においては違いがあるものの、スタビライザのずれ(横滑り)を防止するという課題において実質的な差異がない。
そうすると、引用発明と本願補正発明は、スタビライザの外周に帯体を固着することによってスタビライザのずれ(横滑り)を防止するという技術思想において軌を一にするものであり、上記相違点1は、上記技術思想を具現化する手段として、上記帯体をスタビライザの外周にどのように固着するかの違いに起因するものということができる。
ところで、本願補正発明における「緊締」、「きつめの嵌合」、「加圧嵌合」との特定は、その技術的意義が明確ではなく、特許請求の範囲には定義されていないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、次の(a)?(j)の記載がある。

(a)「上記の課題は本発明によれば、取付対象に取り付けられた円管あるいは丸棒のずれを防止すべく取付手段に隣接して円管あるいは丸棒を緊締するリングであって、緊締前は概ねU字状の1本の帯体であり、該帯体の一端には先端寄りを拡幅した凸部を、他端には前記凸部をきつめの嵌合で受け入れる凹部を備え、緊締時には前記凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させて1個のリング状としたずれ防止固定リングとすることで解決される。」(段落【0008】)
(b)「また、前項までの解決手段において、固定リングの材質はアルミ材、または軟鋼材、あるいは強化プラスチックで形成することによって、上記の課題を解決するものとすることができる。」(段落【0012】)
(c)「本発明のずれ防止固定リングは、帯状の部材の両端に凹凸関係のクリンチを設けておき、円管あるいは丸棒に対する緊締時に両端のクリンチを相互に嵌合させて1本のリング状として取付手段に隣接して固定し、取付対象に取り付けられた円管あるいは丸棒のずれを防止するものである。
帯状の部材の両端に凹凸関係のクリンチは、きつめの嵌合状態が得られるような形状寸法に設定し、強力に加圧して嵌合させて1個のリングとする。」(段落【0013】及び【0014】)
(d)「クリンチの形状はきつめの嵌合状態が得られるものであればよいが、例えば先端が拡幅した水滴状あるいは台形の凸側クリンチと、これをきつめの嵌合で受け入れる凹側クリンチなどが考えられる。
固定リングの内面には金剛砂等の硬質の粒体を塗布しておいてから対象に組付けることによって固定力をさらに強力なものとすることができる。
固定リングの材質はアルミ材または軟鋼材、あるいは強化プラスチックで形成することによって、それぞれ材質相応の固定力が得られる。」(段落【0017】?【0019】)
(e)「凸側クリンチ11a,12aは先端寄りをやや拡幅した水滴状であり、凹側クリンチ11b,12bは凸側クリンチ11a,12aを加圧して嵌合させ加圧圧接するに適した寸法形状とする。」(段落【0021】)
(f)「両リングを強力な加圧によって加圧圧接する。この加圧圧接により、アルミ材は接合面の酸化被膜が剥がされ強力に結合される。」(段落【0022】)
(g)「図3は互いに組付けた図であって、(a)は正面図、(b)は中央断面図であり、このように上側リング11と下側リング12と強力な加圧によって加圧圧接され、一体の固定リング10となり、取付手段2の左右両側においてスタビライザ1の軸方向へのずれ(横滑り)を抑える。」(段落【0023】)
(h)「本実施例においては、固定リング13は帯状に一体型として形成され、スタビライザ1に巻き付けた上で一方の端部に備える凸側クリンチ13aと、他方の端部に形成した凹側クリンチ13bとを嵌め込み強力な加圧によって加圧圧接する。この加圧圧接により、アルミ材は接合面の酸化被膜が剥がされ強力に結合される。」(段落【0024】)
(i)「このように、本発明の固定リングによってスタビライザ等の円管や丸棒を取付対象に取り付けた手段の左右両側を緊締することによって、スタビライザ等の円管や丸棒が軸方向へずれ(横滑り)ることを抑えることができる。
以上の実施例は、自動車のスタビライザに本発明を用いた例としたが、本発明は前記の実施例に限定されるものではなく、円管あるいは丸棒の外周を緊締して取付手段に対するずれを防止する目的であれば実施可能なものである。
また、以上の実施例では材料をアルミ材としたが、該アルミ材は冷間鍛造で製造されるので機械加工が不要である利点があるが、その他の材料、例えば、軟鋼材や強化プラスチック等を用いても相応の効果が得られるものである。」(段落【0025】?【0027】)
(j)「以上のように本発明によれば、スタビライザ等の円管や丸棒形状の部材の取付手段の左右に設け、ずれ(横滑り)を防止する固定リングを、1本または上と下の2本に分割したリングで構成し、各端末に凹凸関係で嵌合可能なクリンチを備えたものとし、該クリンチを強力に加圧し加圧圧接して一体のリングとして円管や丸棒の外径を緊締するようにしたので、強力な横滑り防止力が得られるものとなった。」(段落【0030】)

上記(a)?(j)の記載及び図1?4の記載を参酌すれば、本願補正発明の「ずれ防止固定リング」は、アルミ材、軟鋼材または強化プラスチックからなるものであり、アルミ材からなるずれ防止固定リングは、凸部と凹部が加圧圧接されて接合面の酸化被膜が剥がされ強力に結合されるものと解されるが、軟鋼材、あるいは強化プラスチックからなる凸部と凹部は、「それぞれ材質相応の固定力が得られる」(上記(d)の段落【0019】)、及び「その他の材料、例えば、軟鋼材や強化プラスチック等を用いても相応の効果が得られる」(上記(i)の段落【0027】)との記載があるものの、少なくともプラスチックの凸部と凹部は「加圧圧接されて接合面の酸化被膜が剥がされ強力に結合されるもの」ではなく、本願補正発明の「強化プラスチック」がどのように「加圧嵌合」されるのかについての記載もない。そうすると、本願補正発明の「きつめの嵌合」、「加圧嵌合」とは、固着の技術分野において一般的に行われているような凸部と凹部とを加圧して嵌合させる(周知の技術として後述する。)ことにより、スタビライザの外周をスタビライザが軸方向へずれ(横滑り)ることを抑えることができるように「緊締」する手段と解される。そして、上記「緊締」とは、発明の詳細な説明に定義されていないが、「緊」とは「きつくしめる。ひきしまる。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)、「締」とは、「しめつける。しっかり結ぶ。とりきめる。」(同)を意味することから、実質的に、スタビライザが軸方向へずれ(横滑り)ることを抑えることができるような締め付け力で締め付けることとして捉えられる。すなわち、上記「緊締」、「きつめの嵌合」、「加圧嵌合」は、アルミ材、軟鋼材または強化プラスチックからなるずれ防止固定リングを対象としている以上、いずれも確実に固着することを定性的に表現したにすぎず、結局、スタビライザの外周をスタビライザが軸方向へずれ(横滑り)ることを抑えるために必要な強度で固着することにほかならないから、どの程度の強度で固着するかという設計的事項にすぎない。
上記相違点1について更に検討をすすめると、円管または環状部材を緊締するクランプや固定具等の固着に関する技術分野において、バンド(帯体)の一端に形成された凸状の係止部と他端に形成された凹状の係止部とを該係止部の一部が弾性変形されるように加圧して嵌合させることによって、必要な締め付け力を得るようにすることは周知の技術である(例えば、実願昭47-68768号(実開昭49-24857号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。)の明細書第3ページ第4行?第4ページ第12行及び第1図、第2図、実願平1-48446号(実開平2-138206号)のマイクロフィルム(以下「周知例2」という。)の明細書第7ページ第5?15行及び第1図、第2図を参照)。仮に、凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させて緊締することが塑性変形を含むものだとしても、凸部と凹部とを相互に加圧嵌合して緊締することも、固着に関する技術分野における周知の技術である(例えば、実願昭59-34595号(実開昭60-145639号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。)の明細書第7ページ第5行?第10ページ第5行及び第3図?第7図を参照)。
また、凸部を長さ方向に突出するとともにその先端寄りを拡幅した形状とすることは、対応する凹部の形状や、上記緊締する際に弾性変形を伴うか、塑性変形を伴うかなどによって適宜採用できる設計的事項にすぎなく、上記周知例3の第5図、第6図に記載されているように適宜実施されていることである。そして、当該凸部と凹部がどの程度のきつさの嵌合で受け入れるかは、必要とされる締め付け力に応じて、当業者が適宜設計し得るものであって、これらのことを特定したことによって予測されないような効果を奏するものではない。
ところで、引用発明では、変位規制部材13がスタビライザ6の外周をラバー19(接着部材)を介して締め付けるようにして、スタビライザ6の横ずれを確実に防止できるようにしているが、上記ラバーは変位規制部材13とスタビライザ6がクランプ部材だけでは横ずれを起こすことから摩擦力を増すために設けられていることは明らかである。すなわち、スタビライザとその外周を緊締するずれ防止固定リングは、両者の材料や表面の状態に応じて相互に接触した際の摩擦力が変わるのは当業者であれば直ちに理解できることであり、「直接」緊締するか、摩擦力を増大させる部材を介在させるかは、上記摩擦力を考慮して当業者が適宜選択できる事項にすぎなく、必要に応じて何も介在させず、単に「直接」緊締することは当業者が容易に選択できることである。
したがって、引用発明に上記周知の技術を適用して上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は、「樹脂製」であることから、プラスチックからなる本願補正発明とは材質において実質的な差異がないともいえるところ、クランプや固定具等の固着に関する技術分野において、金属や合成樹脂のうちから固着の用途や手段を考慮して最適な材質を選択することは周知の技術である(例えば、上記周知例1の明細書第1ページ第14?19行には鋼線、鋼板、板金が例示され、第3ページ第4?7行には複数の合成樹脂が例示され、第5ページ第5?7行には「硬質」を含む材料の硬さが例示され、上記周知例2の明細書第2ページ第4?12行にはステンレス鋼等の金属板が例示され、第6ページ第1?5行には合成樹脂材料が例示されている。)から、引用発明の変位規制部材13(ずれ防止固定リング)の材質として、アルミ材、軟鋼材または強化プラスチックのいずれかを選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
クランプや固定具等の固着に関する技術分野において、緊締前の状態がどのような形状であるかは、固着する手段の構造や一体的に形成するか、別部材で構成して組み立てることによって一体化するかなどに応じて適宜設計されるものであって、概ねU字状の1本の帯体とすることに困難性があるわけではなく、当業者が適宜推考できる程度のことである。また、特に、U字状の1本の帯体としたことによって、当業者が予測できないような効果を奏するものでもない。

(4)作用効果について
本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び上記各周知の技術から当業者が予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成20年11月21日付けの手続補正書(方式)により補正された請求の理由において、本願補正発明は、「帯体の一端から長さ方向に突出するとともにその先端寄りを拡幅した凸部をきつめの嵌合で受け入れる凹部を他端に備えている(1-ウ)。したがって、例えば段落[0014]に記載されているように、凸部と凹部とがクリンチとなり、両者を強力に加圧して嵌合させることにより(1-エ)、1個のずれ防止固定リングとなる。すなわち、長さ方向に突出する凸部と凹部とは、リングの周方向(帯体の長さ方向)の強力な圧力により、ずれ防止固定リングに緊張力を与えた状態で連結され、硬質なスタビライザの外周を直接緊締する(1-オ)。」(「3.(d)本願発明と引用発明との対比」の「(d-1)請求項1について」の項を参照)ものである点で引用例のいずれとも相違することなどを主張して、本願補正発明は特許すべき旨を主張している。
しかしながら、審判請求人の上記主張は、いずれもずれ防止固定リングにおける固着手段の必要な強度を確保するための相違点を述べているものであって、当該相違点が引用発明に適宜設計変更を加えるかまたは周知の技術を適用して当業者が容易に想到できたものであることは上記に説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用することができない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成20年11月21日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成19年11月27日付けの手続補正は前審において却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成19年3月19日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】取付対象に取り付けられた円管あるいは丸棒のずれを防止すべく取付手段に隣接して円管あるいは丸棒を緊締するアルミ材、軟鋼材または強化プラスチックからなるリングであって、緊締前は概ねU字状の1本の帯体であり、該帯体の一端には先端寄りを拡幅した凸部を、他端には前記凸部をきつめの嵌合で受け入れる凹部を備え、緊締時には前記凸部と凹部とを相互に加圧嵌合させて1個のリング状とし、前記円管あるいは丸棒の外周を緊締するようにしたことを特徴とするずれ防止固定リング。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「自動車」を上位概念の「取付対象」にするとともに、「スタビライザ」を上位概念の「円管あるいは丸棒」にし、また、「先端寄りを拡幅した凸部」の限定事項である「長さ方向に突出するとともにその」との事項を省き、更に、「外周を緊締する」ことの限定事項である「直接」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記【2】4.に記載したとおり、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2009-10-20 
結審通知日 2009-10-27 
審決日 2009-11-09 
出願番号 特願平10-48477
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16B)
P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩谷 一臣藤村 泰智  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 ずれ防止固定リング  
代理人 大島 陽一  

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