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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1209193
審判番号 不服2007-4709  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2009-12-21 
事件の表示 平成 9年特許願第300096号「化粧シート」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月18日出願公開、特開平11-129426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成9年10月31日の出願であって、平成18年7月24日付けで拒絶理由が通知されたのち平成19年1月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年2月15日付けで審判請求がされ、さらに同年3月15日付けで手続補正書とともに審判請求書の手続補正書が提出され、その後、平成21年5月19日付けで審尋がされ、同年7月13日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成19年3月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年3月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成19年3月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の
「【請求項1】 ポリ-L-乳酸を主成分とするポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施したことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】 延伸したポリ乳酸系樹脂シートを基材シートに用いた請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】 ポリ-L-乳酸を主成分とするポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層したことを特徴とする化粧シート。
【請求項4】 延伸したポリ乳酸系樹脂シートを基材シートに用い、未延伸のポリ乳酸系樹脂を表面保護層に用いた請求項3に記載の化粧シート。」

「【請求項1】 ポリ-L-乳酸を主成分とするポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層してなる化粧シートであって、延伸したポリ乳酸系樹脂シートを基材シートに用い、表面保護層としてポリ乳酸系樹脂をTダイから熔融状態で押し出すことにより、基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施したことを特徴とする化粧シート。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の有無及び補正の目的について
上記補正は、本件補正前の請求項1ないし3を削除するとともに、請求項4における表面保護層について、「ポリ乳酸系樹脂をTダイから熔融状態で押し出すことにより、基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施した」という補正事項を追加するものである。
この補正事項は、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】に、「そして、図3に示すように、圧力ロール(圧胴)11と冷却ロール(エンボス版胴)12の間に基材シート1を通しながら、表面保護層7としてポリ乳酸系樹脂をTダイ13から熔融状態で押し出すことにより、基材シート1に表面保護層7を積層すると同時にエンボス版を兼用した冷却ロール12の作用により表面保護層7に凹凸模様を賦形する。」と記載されており、この補正事項を追加する補正は新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。また、本件補正前の請求項1ないし3を削除して、本件補正前の請求項4を本件補正後の請求項1とする補正は、本件補正前の請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正前の請求項4に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 本願補正発明
平成19年3月15日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「ポリ-L-乳酸を主成分とするポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層してなる化粧シートであって、延伸したポリ乳酸系樹脂シートを基材シートに用い、表面保護層としてポリ乳酸系樹脂をTダイから熔融状態で押し出すことにより、基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施したことを特徴とする化粧シート。」

イ 刊行物
刊行物1:特開平8-323949号公報(原査定における引用文献2)
刊行物2:特開平6-330001号公報(原査定における引用文献1)
刊行物3:特開平9-188077号公報(原査定における引用文献4)
刊行物4:特開平8-300570号公報(原査定における引用文献5)
刊行物5:特開平4-004148号公報(周知技術を示すための文献)
刊行物6:特開平5-278137号公報(周知技術を示すための文献)

ウ 刊行物の記載事項
(ア)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項1-a:「分解性プラスチックからなる基体シート上に分解性プラスチックを含む図柄層が設けられ、その上に分解性プラスチックからなるカバーシートが設けられたことを特徴とする加飾フィルム。」(【特許請求の範囲】【請求項2】)
・摘示事項1-b:「生分解性プラスチックはその全部または一部が、土中または水中のバクテリア、菌類、藻類などの微生物の働きで、二酸化炭素、水、メタンなどの低分子化合物に分解される高分子物または配合物を含むものである。生分解性プラスチックとしては、次のようなものがある。
(1)化学合成脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリエステルオレフィン系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエステルエーテル系樹脂など)
(2)天然高分子ポリビニルアルコール系樹脂(澱粉変性ポリビニルアルコール共重合体系樹脂、エチレンポリビニルアルコール共重合体系樹脂など)
(3)天然高分子澱粉ポリカプロラクトン系樹脂
(4)天然高分子セルロース系樹脂
(5)化学合成ポリ乳酸系樹脂
(6)微生物生産ポリエステル系樹脂(ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂など)」(段落【0013】)
・摘示事項1-c:「また、上記した各材料どうしのポリマーアロイや、ポリエチレンに澱粉や植物性油などの生分解誘引剤を混ぜて生分解するようにした分解性プラスチックを用いてもよい。分解性プラスチックを基体シート2として用いるためにフィルム化する方法としては、インフレーションフィルム成形法、押出成形法などによる方法が一般的である。また、引っ張り強度や寸法安定性を高めるために、2軸延伸を行うとよい。」(段落【0015】)
・摘示事項1-d:「また、図柄層3の上に、さらに分解性プラスチックからなるカバーシート4を積層してもよい(図2参照)。基体シート2とカバーシート4で図柄層3を挟み込んで図柄層3の耐久性を高めることができる。カバーシート4の積層方法は、ダイレクトラミネート法、ドライラミネート法、ヒートシール法などがあり、これらのなかでもヒートシール法が簡単で好ましい。」(段落【0017】)
・摘示事項1-e:「【発明の効果】この発明は、以上のとおりの構成、作用を有するので、次のような優れた効果を有する。
この発明の加飾フィルムは、基体シートが分解性プラスチックからなり、図柄層が分解性プラスチックを含み、分解性プラスチックからなる成形品に対して加飾フィルムを接着した加飾フィルム成形品を土中に埋めるなどすると、加飾フィルムの図柄層は、加飾フィルムの基体シートと成形品自身とともに分解するので、加飾フィルム成形品を土中などに廃棄しても公害問題を起こさない。」(段落【0028】【0029】)

(イ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項2-a:「以下、本発明について詳細に説明する。本発明において乳酸系ポリマーとは、ポリ乳酸および乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーを指し、生体吸収性ポリマーとして既に知られているものである。好ましく用いられる乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーは、乳酸またはラクチドとヒドロキシカルボン酸またはそれらの環状二量体とのコポリマーである。なお、乳酸にはL-体とD-体とが存在するが、本発明において単に乳酸という場合は、特に断りがない場合は、L-体とD-体との両者を指すこととする。また、ポリマーの分子量は特に断りのない場合は重量平均分子量のことを指すものとする。
本発明に用いるポリ乳酸としては、構成単位がL-乳酸のみからなるポリ(L-乳酸)や、D-乳酸のみからなるポリ(D-乳酸)、およびL-乳酸単位とD-乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(DL-乳酸)のいずれもが使用できる。本発明に用いる乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーのコモノマーであるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が例示される。」(段落【0017】【0018】)
・摘示事項2-b:「分解性粘着フィルムは、屋外で使用される場合が多いので、その基材フィルムには紫外線吸収剤または光安定剤が添加されていることが好ましい。また、用途に応じて可塑剤が添加された柔軟性に富む基材フィルムを用いることが好ましい。その他、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、顔料、着色剤等の他の添加剤が配合されても差支えない。
基材フィルムに紫外線吸収剤または光安定剤を含ませる場合、開環重合または脱水重縮合により得られた乳酸系ポリマー100重量部に対し、紫外線吸収剤および光安定剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を0.001?5重量部、さらに好ましくは0.05?5重量部添加、混合する。紫外線吸収剤および光安定剤の添加量が少ないと、分解性粘着フィルムを屋外で使用した場合の耐候性、すなわち、紫外線暴露等による分解の促進を抑制する効果が十分に認めらず、また、多過ぎると乳酸系ポリマーが本来有する特性を損なうことになり易い。かかることを考慮すると紫外線吸収剤および光安定剤の添加量は上記範囲であることが好ましい。」(段落【0028】【0029】)

(ウ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項3-a:「(コ)ポリ乳酸は、乳酸または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸から直接脱水重縮合するか、乳酸の環状2量体であるラクタイドまたはヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライド(GLD)や6-ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε-カプロラクトン(CL)等の共重合可能なモノマーを適宜用いて開環重合させたものでもよい。直接縮合する場合は、乳酸または乳酸と他のヒドトキシカルボン酸を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した強度を持つ高分子量のポリ乳酸が得られる。原料としての乳酸は、L-乳酸またはD-乳酸またはそれらの混合物のいずれでもよい。通常、(コ)ポリ乳酸に含まれるL-乳酸の割合は、70%以上であることが好ましい。これ以下の割合では、塗布される分解性ポリマー溶液の溶剤によって基体が犯されて好ましくない場合がある。」(段落【0013】)

(エ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項4-a:「以下に、本発明で使用する乳酸系ポリエステルについて順に説明する。本発明で言うラクタイドとは、乳酸二分子が脱水縮合した環状の化合物であり、これを構成する2つの乳酸単位が、L体のみの場合L-ラクタイド、D体のみの場合D-ラクタイド、D体とL体からなる場合メソラクタイド、L-ラクタイドとD-ラクタイド等量から成る場合DL-ラクタイドと呼ばれる。
本発明で、特に高い耐熱性、耐油性などの特性を発現する為には、ラクタイドはL-ラクタイドを総ラクタイド中、75%以上を含むものが好ましく、更に高い特性を発現するには、ラクタイドはL-ラクタイドを総ラクタイド中90%以上を含むものが好ましい。」(段落【0010】【0011】)

(オ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物5には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項5-a:「なお、ラミネート加工方法としては、各種プラスチックフィルム等を基材とし、溶剤型接着剤または無溶剤型接着剤を使用し、フィルムを積層するドライラミネート加工方法、イミン系、ウレタン系アンカー剤を使用し、溶融ポリエチレンを積層するエクストルージョンラミネート加工方法、更には延伸ポリプロピレン(OPP)を基材フィルムとして、アンカーコート剤、接着剤は用いず、直接溶融ポリプロピレンで被覆するラミネート加工方法(通常、PPダイレクトラミネートあるいは、PPルーダ-と呼ばれている)が行なわれている。」(第2ページ右下欄第9?20行)
・摘示事項5-b:「溶融ポリプロピレンをラミネートする方法は、公知の方法で容易に行なうことができるが、本発明においては、通常300℃前後に加熱したポリプロピレンを、Tダイにより押し出し、接着剤又はアンカー剤を塗布することなく、印刷されたフィルム上に10?30μの厚さでラミネートされる。」(第9ページ右上欄第7?12行)

(カ)本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物6には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項6-a:「【実施例】<実施例1>基材シートとしてポリオレフィン系無機充填シート(タツノ化学(株)製「タフパー」)を用い、この表面にグラビア印刷法により木目模様を印刷した。この上にウレタン樹脂系接着剤を塗布し、温風乾燥後、表1のNo.1の組合わせになる透明熱可塑性樹脂を多軸エクストルーダーよりTダイにて押出し、直ちに道管エンボス版とゴムロールでニップしてエンボスとラミネートを同時に行った。各層の厚さを表面保護層10μm、接着層10μm、中間層40μmとしたところ、得られた化粧シートは適度の柔軟性を備え、表面の耐傷性や、汚染性に優れ、耐候性にも優れているばかりでなくエンボスの再現性が極めて良好であり商品価値の高いものであった。各層間の接着強度の点でも特に問題は無かった。」(段落【0025】)

エ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「分解性プラスチックからなる基体シート上に分解性プラスチックを含む図柄層が設けられ、その上に分解性プラスチックからなるカバーシートが設けられたことを特徴とする加飾フィルム。」(摘示事項1-a)と記載されている。その分解性プラスチックについて、「生分解性プラスチックとしては、次のようなものがある。・・・(5)化学合成ポリ乳酸系樹脂」(摘示事項1-b)と記載され、また、基体シートに関して、「分解性プラスチックを基体シート2として用いるためにフィルム化する方法としては、・・・また、引っ張り強度や寸法安定性を高めるために、2軸延伸を行うとよい。」(摘示事項1-c)と記載され、さらに、カバーシートの積層方法として、「カバーシート4の積層方法は、ダイレクトラミネート法・・・などがあり」(摘示事項1-d)と記載されている。
してみると、刊行物1には、
「化学合成ポリ乳酸系樹脂からなる生分解性プラスチックからなる二軸延伸した基体シート上に分解性プラスチックを含む図柄層が設けられ、その上に化学合成ポリ乳酸系樹脂からなる生分解性プラスチックからなるカバーシートがダイレクトラミネート法により積層された加飾フィルム。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

オ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「基体シート」、「加飾フィルム」は、それぞれ本願補正発明の「基材シート」、「化粧シート」に相当する。そして、引用発明の「カバーシート」は、引用発明が記載されている刊行物1に、「また、図柄層3の上に、さらに分解性プラスチックからなるカバーシート4を積層してもよい(図2参照)。基体シート2とカバーシート4で図柄層3を挟み込んで図柄層3の耐久性を高めることができる。」(摘示事項1-d)と記載されているように、表面を保護するものであるから、本願補正発明の「表面保護層」に相当する。また、引用発明の「図柄層」を設けることは、本願補正発明の「装飾」処理を施すことに相当する。さらに、例えば刊行物5(摘示事項5-a、摘示事項5-b)に示されるように、引用発明の「ダイレクトラミネート法」とは、基材フィルムに、アンカーコート剤を介さずにTダイから直接溶融した樹脂を被覆するラミネート加工方法である。
してみると、両者は、
「ポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層してなる化粧シートであって、延伸したポリ乳酸系樹脂シートを基材シートに用い、表面保護層としてポリ乳酸系樹脂をTダイから熔融状態で押し出すことにより、基材シートに表面保護層を積層する化粧シート。」
である点で一致するのに対し、以下の点で相違する。
i)基材シートの材料であるポリ乳酸系樹脂について、本願補正発明はポリ-L-乳酸を主成分とすることが規定されているのに対し、引用発明はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i)」という。)
ii)表面保護層について、本願補正発明は基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施したことが規定されているのに対し、引用発明はそのような規定がされていない点(以下、「相違点ii)」という。)

(イ)相違点の検討
・相違点i)について
例えば、刊行物2ないし刊行物4(摘示事項2-aないし摘示事項4-a)に示されるように、ポリ乳酸系樹脂として、構成する乳酸単位がL体のみの場合、D体のみの場合、D体とL体からなる場合があることは周知の事項であり、そのいずれを選択するかは当業者の設計的事項であるから、引用発明において、ポリ乳酸系樹脂として、ポリ-L-乳酸を主成分とするものを選択することは当業者が容易になし得ることである。

・相違点ii)について
化粧シートとして、装飾性を高めるため、例えば、代表的な図柄である木目模様を形成する際に、表面層に導管部を表現するために、凹凸模様を施すことは、例えば刊行物6(摘示事項6-a)に示されるように至極一般的な技術である。また、基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施すようにすることも、例えば刊行物6(摘示事項6-a)に示されるように周知技術であるから、引用発明において、化粧シートの装飾性を高めるために凹凸模様を形成すること、そして、その凹凸模様の形成手法として、基材シートに表面保護層を積層すると同時にエンボス版により表面保護層に凹凸模様を施すことは、周知技術に基づいて当業者が容易になし得ることである。

・請求人の主張
請求人は、審判請求書の手続補正書の「(4)本願発明と引用文献との対比」において、「これらの文献にそれぞれ記載されている断片的な構成を組み合わせて本願の請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者と言えども決して簡単なことではない。」と、主張している。
しかしながら、本願補正発明と引用発明との相違点である発明特定事項は、先にも示したように周知技術に基づいて容易に想到されるものであって、その容易想到性の論理は、各刊行物にそれぞれ記載されている断片的な構成を組み合わせて本願補正発明の発明特定事項とするものではない。
よって、請求人の上記主張は、採用できるものではない。

(ウ)効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の発明の詳細な説明の段落【0033】によると、「化粧シートに必要な耐候性、成形加工適正を備えており、建築物の内装材等に用いられている間は空気中の水分や細菌で生分解変質せず、しかも一旦廃棄処分して土壌に接して或いは土壌中に放置した際にその基材シートが土中の微生物の働きにより水と炭酸ガスに完全に分解して消滅するので、地球環境にとって好ましい」ことと認められる。
引用発明が開示されている刊行物1には、「この発明の加飾フィルムは、基体シートが分解性プラスチックからなり、図柄層が分解性プラスチックを含み、分解性プラスチックからなる成形品に対して加飾フィルムを接着した加飾フィルム成形品を土中に埋めるなどすると、加飾フィルムの図柄層は、加飾フィルムの基体シートと成形品自身とともに分解するので、加飾フィルム成形品を土中などに廃棄しても公害問題を起こさない。」(摘示事項1-e)と記載されていることから、引用発明は、「建築物の内装材等に用いられている間は空気中の水分や細菌で生分解変質せず、一旦廃棄処分して土壌に接して或いは土壌中に放置した際にその基材シートが土中の微生物の働きにより水と炭酸ガスに完全に分解して消滅するので、地球環境にとって好ましい」という効果を有しているものと認められる。
そして、本願補正発明においては、本願補正明細書の発明の詳細な説明(【0007】【0008】【0027】?【0031】)を参酌すると、耐候性を向上させるために紫外線吸収剤や光安定剤等の添加剤を加えているが、そのような添加剤を加えることは本願補正発明の発明特定事項となっていないのであるから、本願補正発明が、化粧シートに必要な耐候性を備えているという効果は奏するとは認められない。
なお、耐候性を向上させるために紫外線吸収剤や光安定剤等の添加剤を加えることは、例えば刊行物3に示されるように周知慣用技術ではあるから、引用発明において、紫外線吸収剤や光安定剤等の添加剤を加えたことにより、耐候性が向上する効果は当業者の予測の範囲のものである。
また、ポリ乳酸系樹脂として、ポリ-L-乳酸を主成分とするものを選択したことにより優れた効果を奏することは、本願補正明細書に何ら記載されていないため、その選択による効果は格別なものとは認められない。
さらに、引用発明は、引っ張り強度や寸法安定性を高めるために、基材として2軸延伸したものを用いているし、また、表面シートとして未延伸シートを用いているから、基材がVカットされて、折り曲げられた際に、表面保護層である未延伸シートは伸びやすく、その形状に追従することから、成形加工適正を備える効果も当業者の予測の範囲のものと認められる。

カ まとめ
よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項3は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項3の以下のとおりのものである。
「ポリ-L-乳酸を主成分とするポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層したことを特徴とする化粧シート。」(以下、「本願発明」という。)

第4 当審の判断
1 原査定の理由及び刊行物
原査定における拒絶理由の概要は、本願の請求項3、4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、具体的には、「引用文献2には、分解性プラスチックからなる基体シート上に図柄層が設けられ、その上に分解性プラスチックからなるカバーシートが設けられた加飾フィルムが記載されており、分解性プラスチックとして化学合成ポリ乳酸系樹脂が挙げられている(【0013】)。・・・引用文献2,3記載の発明において、引用文献1に記載されているように用途に応じてポリ(L-乳酸)を選択することは、当業者が容易に想到し得ることである。また、引用文献4,5(引用文献4:【0013】,引用文献5:【0011】)にも記載されているように、L-乳酸を主成分とするポリ乳酸が耐溶剤性等の諸特性に優れることも本願出願前に公知である。」というものである。

刊行物1:特開平8-323949号公報(原査定における引用文献2)
刊行物2:特開平6-330001号公報(原査定における引用文献1)
刊行物3:特開平9-188077号公報(原査定における引用文献4)
刊行物4:特開平8-300570号公報(原査定における引用文献5)

2 刊行物の記載事項、及び刊行物1に記載された発明
上記「1」における刊行物1ないし4は、上記「第2 2(2)イ」で示した刊行物1ないし4である。そして、これらの刊行物の記載事項は、上記「第2 2(2)ウ」で示したとおりであるし、また、刊行物1に記載された発明は、上記「第2 2(2)エ」で示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「基体シート」、「加飾フィルム」は、それぞれ本願発明の「基材シート」、「化粧シート」に相当する。そして、引用発明の「カバーシート」は、引用発明が記載されている刊行物1に、「また、図柄層3の上に、さらに分解性プラスチックからなるカバーシート4を積層してもよい(図2参照)。基体シート2とカバーシート4で図柄層3を挟み込んで図柄層3の耐久性を高めることができる。」(摘示事項1-d)と記載されているように、表面を保護するものであるから、本願発明の「表面保護層」に相当する。また、引用発明の「図柄層」を設けることは、本願発明の「装飾」処理を施すことに相当する。
してみると、両者は、
「ポリ乳酸系樹脂シートからなる基材シートに装飾処理を施し、該基材シートに表面保護層を積層した化粧シート。」
である点で一致するのに対し、以下の点で相違する。
i’)基材シートの材料であるポリ乳酸系樹脂について、本願発明はポリ-L-乳酸を主成分とすることが規定されているのに対し、引用発明はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i’)」という。)
してみると、相違点i’)は、上記「第2 2(2)オ(ア)」における相違点i)と同じであるから、本願発明は、上記「第2 2(2)オ(イ)」で示したのと同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、ということができる。
また、本願発明の効果も、「第2 2(2)オ(ウ)」で示したのと同様、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測し得るものである。

4 まとめ
よって、本願発明は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-23 
結審通知日 2009-10-27 
審決日 2009-11-09 
出願番号 特願平9-300096
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 原 健司
細井 龍史
発明の名称 化粧シート  
代理人 土井 育郎  

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