• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200627219 審決 特許
不服20056282 審決 特許
不服20031215 審決 特許
不服200623421 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1209324
審判番号 不服2006-19580  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2009-12-16 
事件の表示 平成 8年特許願第533965号「標識物と生体有機分子間の白金介在リンカの製造法、生物有機分子の標識法、対象生物物質の検出法および診断用テストキット」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月14日国際公開、WO96/35696、平成11年 5月21日国内公表、特表平11-505533〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年5月8日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1995年5月9日ヨーロッパ特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成17年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成18年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月4日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書が提出され、その後、平成20年6月30日付けで審尋がされ、同年9月19日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年10月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年10月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正
平成18年10月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲である、
「1.下記式の標識物質を調製する方法であって、


Xは安定化した架橋を表し、Aは反応性部分を表し、Yは標識であり、
下記式の白金化合物を含むリンカを調製することと、


AおよびBは同一または異なる反応性部分を表し、該リンカは下記構造の化合物を含む原料物質に由来し、


Cは電気陰性反応性部分を表し、
リンカと標識基とを反応させ、YがBの代わりに用いられることとを含むことを特徴とする方法。
2.AおよびBが同一であることを特徴とする請求項1記載の方法。
3.Xが脂肪族ジアミンを表すことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
4.Xが2?6個の炭素原子を有するジアミンを表すことを特徴とする請求項3記載の方法。
5.Xがエチレンジアミン基であることを特徴とする請求項2記載の方法。
6.AおよびBがNO_(3)^(-)、SO_(3)^(-)、Cl^(-)、I^(-)または他のハロゲンから成る群より選ばれることを特徴とする請求項5記載の方法。
7.Cがハロゲン、NO_(3)^(-)またはSO_(3)^(-)であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。
8.請求項1の方法によって得られる標識化合物を生物有機分子と反応させ、該A基を生物有機分子と置換することを特徴とする生物有機分子の標識化法。
9.生物有機分子が蛋白質、ペプチド、DNA分子またはRNA分子あるいは(オリゴ)ヌクレオチドであることを特徴とする請求項8記載の方法。
10.関心のある生物物質の検出、判定および/または位置特定のための診断テストキットであって、請求項1?7のいずれか1項の方法に従って得られる標識物質と任意の他の適当な検出手段とを含むことを特徴とする診断テストキット。
11.関心のある生物物質の検出、判定および/または位置特定のための診断テストキットであって、任意の他の適当な検出手段を用いて、請求項8または9の方法に従って得られる標識化生物有機分子を含むことを特徴とする診断テストキット。」

「 【請求項1】 標識物質のためのリンカを調製する方法であって、リンカは下記式の白
金化合物を含み、
【化1】


Xは任意の安定化した架橋を表し、AおよびBはNO_(3)^(-)およびCl^(-)から選択される同一または異なる反応性部分を表し、
原料物質は下記構造の化合物を含み、
【化2】


原料物質をKIと反応させた後、安定化した架橋を形成するための物質と反応させ、得られた化合物をAgNO_(3)と反応させ、任意でKClまたはNaClと反応させ、任意でさらにAgNO_(3)と反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】 AおよびBが同一であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 Xが脂肪族ジアミンを表すことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】 Xが2?6個の炭素原子を有するジアミンを表すことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】 Xがエチレンジアミン基であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】 下記式の標識物質を調製する方法であって、
【化3】


Xは任意の安定化した架橋を表し、AはNO_(3)^(-)およびCl^(-)から選択された反応性部分を表し、Yは標識であり、請求項1に従って調製された下記式の化合物(式中、Xは任意の安定化した架橋を表し、AおよびBはNO_(3)^(-)およびCl^(-)から選択される同じまたは異なる反応性部分を表す)は、
【化4】


標識基と反応し、BがYに置換されることを特徴とする方法。
【請求項7】 請求項6の方法によって得られる標識化合物を生物有機分子と反応させ、該A基を生物有機分子と置換することを特徴とする生物有機分子の標識化法。
【請求項8】 生物有機分子が蛋白質、ペプチド、DNA分子またはRNA分子あるいは(オリゴ)ヌクレオチドであることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】 少なくとも1つの適当な標識および任意の他の適当な検出手段とともに、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法に従って得られるリンカを含むことを特徴とする、関心のある生物物質の検出、判定および/または位置特定のための診断テストキット。
【請求項10】 任意の他の適当な検出手段とともに、請求項6記載の方法に従って得られる標識物質を含むことを特徴とする、関心のある生物物質の検出、判定および/または位置特定のための診断テストキット。
【請求項11】 任意の他の適当な検出手段とともに、請求項7または8に記載の方法の従って得られる標識化生物有機分子を含むことを特徴とする、関心のある生物物質の検出、判定および/または位置特定のための診断テストキット。」
とするものである。

2 補正の適否
上記補正により、補正前の特許請求の範囲に記載された、「標識物質を調製する方法」(請求項1?7)、「生物有機分子の標識化法」(請求項8、9)及び「診断テストキット」(請求項10、11)なる発明は、「標識物質のためのリンカを調製する方法」(請求項1?5)、「標識物質を調製する方法」(請求項6)、「生物有機分子の標識化法」(請求項7、8)及び「診断テストキット」(請求項9?11)なる発明と補正された。
補正前後の請求項の対応関係を検討すると、補正前の請求項1?7(「標識物質を調製する方法」)は補正後の請求項6(「標識物質を調製する方法」)に、補正前の請求項8、9(「生物有機分子の標識化法」)は補正後の請求項7、8(「生物有機分子の標識化法」)に、補正前の請求項10、11(「診断テストキット」)は補正後の請求項9?11(「診断テストキット」)にそれぞれ対応するところ、補正後の請求項1?5(「標識物質のためのリンカを調製する方法」)に対応する補正前の請求項はなく、しかも、補正後の請求項1?5である「標識物質のためのリンカを調製する方法」は、「標識物質を調製する方法」の下位概念でも、「生物有機分子の標識化法」の下位概念でも、「診断テストキット」の下位概念でもないから、補正前の請求項1?11に係るいずれの発明の、発明を特定する事項を限定するものでもない。
そうしてみると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、かつ、同条同項第1、3、4号に掲げる、「請求項の削除」、「誤記の訂正」及び「明りょうでない記載の釈明」のいずれを目的とするものでもない。
3 むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成18年10月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?11に係る発明は、平成18年4月4日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち標識物質を調製する方法に係る発明は以下の請求項1?7に記載される事項によって特定されるとおりのものである。

請求項1.下記式の標識物質を調製する方法であって、


Xは安定化した架橋を表し、Aは反応性部分を表し、Yは標識であり、
下記式の白金化合物を含むリンカを調製することと、

AおよびBは同一または異なる反応性部分を表し、該リンカは下記構造の化合物を含む原料物質に由来し、

Cは電気陰性反応性部分を表し、
リンカと標識基とを反応させ、YがBの代わりに用いられることとを含むことを特徴とする方法。
請求項2.AおよびBが同一であることを特徴とする請求項1記載の方法。
請求項3.Xが脂肪族ジアミンを表すことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
請求項4.Xが2?6個の炭素原子を有するジアミンを表すことを特徴とする請求項3記載の方法。
請求項5.Xがエチレンジアミン基であることを特徴とする請求項2記載の方法。
請求項6.AおよびBがNO_(3)^(-)、SO_(3)^(-)、Cl^(-)、I^(-)または他のハロゲンから成る群より選ばれることを特徴とする請求項5記載の方法。
請求項7.Cがハロゲン、NO_(3)^(-)またはSO_(3)^(-)であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。

(以下、請求項1に記載される発明を「本願発明」という。また、請求項1において式で表される「標識物質」、「リンカ」、「原料物質」を、それぞれ「本願標識物質」、「本願リンカ」、「本願原料物質」という。)

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1?11に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、及び、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第5 当審の判断
1 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献2(特表昭56-500849号公報)及び引用文献3(特表平5-508853号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献2(特表昭56-500849号公報)
a-1 「1. 化学式:

(ただしXはNa^(+),K^(+),Li^(+),Hである。)
で示される化合物(N-ホスホンアセチル-L-アスパラタ-ト)(1,2-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)又はそのアルカリ金属塩」(請求項1)
a-2 「生成方法



上記した図式において、方法(a)はシスプラチン(NSC-194814)の従来の製法である。」(4頁左下欄17行?右下欄下から11行)

(2)引用文献3(特表平5-508853号公報)
b-1 「1.化学式シートの各構造式1または2を持つ化学式{PtII(w)(x)(y)(z)}または{PtIV(u)(v)(w)(x)(y)(z)}をとり、u、v、w、x、y、zが同一あるいは異なつた必ずしも互いに結合している必要のないリガンドを表し、その中で少なくとも一つは遊離リガンドであり、残りのリガンドのうち少なくとも一つは検出可能なマーカー基を表しているPt含有化合物。」(請求項1)
b-2 「2.遊離リガンドが(CH_(3))_(2)SO、ClまたはH_(2)Oであることを特徴とする請求項1記載の化合物。」(請求項2)
b-3 「3.検出可能なマーカー基が蛍光基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
4.蛍光基がフルオレシンまたはテトラメチルローダミンであることを特徴とする請求項3記載の化合物。」(請求項3、4)
b-4 「6.上記請求項のうちの一に記載の、化学式シートのそれぞれ構造式1または2を持つ化学式{PtII(w)(x)(y)(z)}または{PtIV(u)(v)(w)(x)(y)(z)}をとり、u、v、w、x、y、zが請求項1に記載されている意味を持つPt含有化合物の合成方法であつて、Pt含有化合物が類似化合物にとつては本質的に周知の方法で合成されることを特徴とする合成方法。」(請求項6)
b-5 「本発明は化学式シート中のそれぞれ構造式1あるいは2の化学式{PtII(w)(x)(y)(z)}・・・である化合物を提供する。
これらの化合物は本質的に新規であり、一方例えばハプテンとしてフルオレシンまたはローダミンといつた直接あるいは間接的に検出可能なマーカー基を備え、且つ一方で適切な遊離基を備える特に好適なDNA標識であり、一般的な表示PtM(Ptはプラチナを表わし、Mはマーカー基を意味する)で示され独特の性質を持つ。」(2頁右上欄18行?左下欄5行)
b-6 「実施例I
標識目的のためのPtFの合成
まず100mgのフルオレシン-N=C=Sを100mlの水に溶けた1mlのCH_(3)NH_(2)と反応させ、フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)を合成する。反応は室温、暗所で連続撹拌しながら約1時間行なつた。塩酸(1モル/リツター{M})でpHを2?3に酸性化し、得られた反応産物、フルオレシン-NH(CS)-NHCH_(3)を溶液内で沈澱させる。沈澱物を水で洗浄し回収する。
次にこの様にして得られたフルオレシン-NH(CS)NHCH_(3) 100mg(0.237mmol)を95mlの水に溶かした懸濁液に、NaOH(1M)を加えてpHを10?11に上げ、淡黄色を呈する溶液を得た。この溶液に水5mlに溶かした72mg(0.178mmol)の[Pt(エチレンジアミン)(Me_(2)SO)Cl]Clあるいは[Pt(エチレンジアミン)Cl_(2)]Cl加え、反応混合物を室温、暗所で5?10分間ゆつくりと撹拌した。続いて、HCl(1M)でpH2?3に酸性化して未反応のフルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)を沈澱させ、濾過によつて除去した。淡黄色の濾過液を凍結乾燥し、PtFと略される安定で乾燥した化合物{Pt(エチレンジアミン)(Me_(2)SO)(フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3))}あるいは{Pt(エチレンジアミン)Cl(フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3))}を得た。」(3頁右上欄19行?左下欄13行)

2 引用発明
引用文献3には、「化学式{PtII(w)(x)(y)(z)}をとり、w、x、y、zが同一あるいは異なつた必ずしも互いに結合している必要のないリガンドを表し、その中で少なくとも一つは遊離リガンドであり、残りのリガンドのうち少なくとも一つは検出可能なマーカー基を表しているPt含有化合物」(摘記b-1)が記載されている。具体的には、「{Pt(エチレンジアミン)Cl(フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3))}」(摘記b-6)(以下、「引用化合物」という。)が記載されている。この引用化合物において、「Cl」は遊離リガンド(摘記b-2)であり、「フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)」は検出可能なマーカー基(摘記b-3)である。
また、この引用化合物は、フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)の溶液に[Pt(エチレンジアミン)Cl_(2)]Cl加え、Clをフルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)に代えることにより製造されている(摘記b-6)。
そうしてみると、引用文献3には、
「式{Pt(エチレンジアミン)Cl(フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3))}で表されるPt含有化合物を、[Pt(エチレンジアミン)Cl_(2)]ClのClを検出可能なマーカー基である[フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)]に代えることにより製造する方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているとすることができる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比するにあたり、まず、本願標識物質と引用化合物とを対比すると、引用化合物における「エチレンジアミン」、「Cl」は、本願の請求項5、6を参照すれば、それぞれ、本願標識物質における「安定化した架橋X」、「反応性部分A」に相当し、引用化合物における「フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)」は検出可能なマーカー基(摘記b-3)であって、本願標識物質における「標識Y」に相当するから、引用化合物は、本願標識物質に相当するといえる。
次いで、これらの製造原料についてみると、引用化合物の製造原料である[Pt(エチレンジアミン)Cl_(2)]Clは、標識である[フルオレシン-NH(CS)NHCH_(3)]と結合し、更に生体有機分子であるDNAと結合するものであるから、本願発明でいうリンカであって(本願明細書1頁3行参照)、本願発明の「下記式の白金化合物を含むリンカ」に相当する。
そうしてみると、本願発明と引用発明とは、
「下記式の標識物質を調製する方法であって、

(ここで、Xはエチレンジアミン基であり、AはClであり、Yは標識である。)
下記式の白金化合物を含むリンカ

(ここで、AとBはClである。)
と標識基とを反応させ、標識がClの代わりに用いられることとを含む方法。」
である点で一致し、
ア 「リンカ」について、本願発明においては、「調製すること」であるのに対し、引用発明においては、調製することは示されていない点、
イ 「リンカ」が、本願発明においては、「下記構造の化合物を含む原料物質に由来する

もの」であるのに対し、引用発明においては、原料物質について特定されていない点、
で相違する。

4 相違点の検討
以下、上記の相違点ア、イについて検討する。
(1)相違点アについて
リンカは、必要なら調製するのは当然であるから、この点は、実質的に相違していない。

(2)相違点イについて
引用発明に関し、引用文献3には、「化学式{PtII(w)(x)(y)(z)}」で表されるPt含有化合物が、「Pt含有化合物が類似化合物にとつては本質的に周知の方法で合成される」(摘記b-4)と記載されているから、引用化合物は周知の方法で合成されるところ、引用文献2には、上記{PtII(w)(x)(y)(z)}と類似した、


」(摘記a-1)
で示される化合物の生成方法として、




」(摘記a-2)という図式が示され、さらに「上記した図式において、方法(a)はシスプラチン(NSC-194814)の従来の製法である。」(同摘記)と記載されている。
ところで、上記「従来の方法」(a)に用いる「K_(2)PtCl_(4)」は、本願発明において実施例1で原料として用いている「四塩化白金カリウムK_(2)PtCl_(4)」と同じであるから、本願原料物質、


」のことといえ、上記の「シスプラチン(NSC-194814)」は、本願リンカ、



」に相当する。
そうすると、
「原料物質


」から
「リンカ


」を合成することは、「従来の方法」であるから、周知の方法といえる。
そうすると、引用発明において、「リンカ」が、「下記構造の化合物を含む原料物質に由来する

もの」であることとするのは、当業者にとって容易である。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書2頁6?9行に記載されるように、「我々はこの度、式PtE_(4)(Eは電子陰性基、好ましくはハロゲン、NO_(3)^(-)またはSO_(3)^(-))で表される好適な原料化合物を選択することにより、上述の第一化合物および多くの新規化合物を含む対称性リンカの非常に簡単な信顆性の高い製造法を見出した。」点にあるといえる。
しかし、このような原料化合物を用いることは、引用文献2に記載されているように普通のことであるから(摘記a-2)、その効果も、当業者の予測の範囲内のものといえる。
したがって、本願発明の効果が格別に優れたものであるとはいえない。

5 まとめ
よって本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献3及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年9月19日付けの回答書においては、新たな補正案を示すとともに、該補正案に基づいて本願発明の特許性を主張するのみであり、また、平成18年10月4日付けで補正された審判請求書においては、本審決において却下された平成18年10月4日付けで補正された本願発明についての特許性を主張するのみであって、いずれにおいても、平成18年4月4日付けで補正された本願発明の特許性については主張していない。
そこで、平成18年4月4日付けで補正された本願発明について主張している、平成18年4月4日付けの意見書を検討する。
該意見書において、「出願当初の明細書第1頁第20行目?第2頁第19行目および第3頁第11行目?第13行目で述べられているように、本発明者は引用文献3に述べられている化合物がいっそう効率的な方法で調製される方法を発見した。本発明は標識化合物を生成することに関して特有の効果を含んでいるため進歩性を有している。」(意見書5、(6))と主張する。

上記主張において引用されている出願当初の明細書の該当箇所には、従来技術の問題点、本願発明の効果に関する以下の記載がある。
(1)「WO92/01699に開示された原料化合物は、白金(II)(エチレンジアミン)二塩化物・・・である。・・・二塩化物では、塩素イオンCl^(-)のマーカ基あるいはグアニン基に対する置換反応性が劣る。さらに二個のCl^(-)イオンが略同等の反応性を有するため、両方のイオンが標識物により置換されてしまうということが起こり、標識化物質が対象生体分子に結合するための反応性部分が残らなくなる。」
(2-1)「我々はこの度、式PtE_(4)(Eは電子陰性基、好ましくはハロゲン、NO_(3)^(-)またはSO_(3)^(-))で表される好適な原料化合物を選択することにより、上述の第一化合物および多くの新規化合物を含む対称性リンカの非常に簡単な信顆性の高い製造法を見出した。」
(2-2)「これらの化合物を使用する主な利点は、生成する白金化合物の安定な架橋を結合させるに際し、遮断試薬を使用する必要がないことである。」
(2-3)「もう一つの利点は、生成した中間体化合物が遮断試薬を用いずとも再度標識化が可能なことである。さらに、これらの反応の収率が非常に高い。」

しかし、(1)についていえば、本願発明におけるリンカは、その定義からして「白金(II)(エチレンジアミン)二塩化物」を含み、この化合物に関する問題点は本願発明においても解消されていないので、この記載に基づき効果を主張することは妥当ではない。
また、(2-1)?(2-3)は、式「PtE_(4)」で表される原料化合物を選択することにより効果がある旨の主張であるが、基「E」がハロゲンである「Cl」の化合物は、引用文献2の「方法(a)」における原料化合物であり、本願発明におけるリンカを製造するに当たり通常採用されるものといえるから、その反応及び生成物についての効果もすでに知られているというべきで、格別予測し得ない効果とすることはできない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-08 
結審通知日 2009-07-14 
審決日 2009-07-27 
出願番号 特願平8-533965
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
P 1 8・ 572- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
唐木 以知良
発明の名称 標識物と生体有機分子間の白金介在リンカの製造法、生物有機分子の標識法、対象生物物質の検出法および診断用テストキット  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 杉山 毅至  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ