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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01N |
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管理番号 | 1209327 |
審判番号 | 不服2007-24862 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-10 |
確定日 | 2009-11-26 |
事件の表示 | 平成9年特許願第524000号「相乗的殺虫剤混合物」拒絶査定不服審判事件〔平成9年7月10日国際公開、WO97/24032、平成12年4月25日国内公表、特表2000-505070〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、1996年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年12月27日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成15年7月31日付けで手続補正書が提出され、平成18年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成19年4月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月4日付けで拒絶査定がされたものであり、これに対し、同年9月10日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。 第2 本願発明について この出願の発明は、平成15年7月31日付け及び平成19年4月17日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである(以下、請求項1?6に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明6」といい、それらをまとめて「本願発明」ということがある。)。 「フィプロニル(fipronil)対式(IIh) で表される化合物の割合が1:100?100:1の範囲内にある、フィプロニルと式(IIk)(審決注;「式(IIh)」の誤記と認められる。)で表される化合物の組成物。」 (以下、式(IIh)で表される化合物を、「クロチアニジン」という。) 第3 原査定の拒絶の理由の概要 この出願についての、原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 発明の詳細な説明には、本願発明の具体的な実施例が記載されておらず、本願発明の効果の具体的な程度が全く不明であるから、本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。」 第4 当審の判断 1 はじめに 特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。 以下、この観点に立って、本願発明について検討する。 2 本願明細書の発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 a「本発明は、工業材料の保護のためおよび作物保護剤としての、フィプロニル(fipronil)およびニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストの相乗的殺虫剤混合物に関する。」(1頁3?5行) b「フィプロニルおよび式(I)で示されるアセチルコリン受容体の少なくとも一種のアゴニストまたはアンタゴニストの混合物は、相乗的活性を有しそして昆虫による攻撃に対して、工業材料、特に木材を保護するのに適していることが今回見出された。これらの混合物はまた、動物有害生物を防除するための作物保護にも適している。この相乗効果のために、著しく低い量の活性化合物が使用することができる、即ち、混合物の活性は個々の成分の活性より大きい。」(1頁19行?2頁3行) c「ニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストおよびアンタゴニストは既知の化合物であり、・・・好適には、これらの化合物は一般式(I)のもとに要約することができる、式(I)(審決注;式は省略)・・・」(2頁4行?3頁11行) d「ニコチン性アセチルコリン受容体の極めて特に好適なアゴニストおよびアンタゴニストは下記の式で示される化合物である: ・・・ 」(10頁3?末行) e「使用された式(I)で示される化合物およびフィプロニルの比率、並びに混合物の全量は、昆虫の種および発生に依存する。最適な比率および全適用率は、試験群による各場合の各使用で決定することができる。一般的には、一般式(I)で示される化合物およびフィプロニルの比率は1:100?100:1、好適には1:10?10:1である。」(13頁2?6行) f「活性化合物混合物は、農業、林業、貯蔵製品および材料の保護並びに衛生分野において遭遇する動物有害生物、特に昆虫類、クモ類および線虫類を防除するのに適し、そして良好な植物許容性および温血動物に対する好都合な毒性を有する。それらは通常に感受性の種および耐性種に対しておよび発生のすべてのまたは幾つかの段階に対して活性である。」(27頁20行?28頁1行) 上記摘示によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、 「工業材料の保護のためおよび作物保護剤としての、フィプロニル(fipronil)およびニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストの相乗的殺虫剤混合物」(摘示a)に関し記載され、上記「アゴニストまたはアンタゴニスト」の「極めて好適な」ものの一つとして、式(IIh)であるクロチアニジンが例示され(摘示d)、上記「アゴニストまたはアンタゴニスト」および「フィプロニル」の「比率は1:100?100:1・・・である」(摘示c及びe)ことが記載されており、上記混合物は、「農業、林業、貯蔵製品および材料の保護並びに衛生分野において遭遇する動物有害生物、特に昆虫類、クモ類および線虫類を防除するのに」適する(摘示f)と記載されているが、上記混合物を調製し、使用する具体的な例に関する記載は一切ない。 3 本願発明1についての検討 (1)発明の詳細な説明の記載について ア 本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか否か、また、発明の詳細な説明の記載から、本願発明1が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて、検討する。 イ まず、殺虫剤混合物の分野においては、殺虫剤成分の特定の組み合わせによる作用効果、特に相乗効果を予測するのは困難であり、少なくとも、混合物に関する相乗効果が具体的なデータによって裏付けられてはじめて、当該混合物が作用効果を有することを確認することができ、当該混合物が実質的に記載されているものということができる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、上記摘示のとおり、「相乗的活性を有し」、「著しく低い量の活性化合物が使用することができる、即ち、混合物の活性は個々の成分の活性より大きい」(摘示b)という記載と、上記「アゴニストまたはアンタゴニスト」として、クロチアニジンを好適であるものの一つとして例示する記載(摘示d)があるものの、本願発明1であるフィプロニルとクロチアニジンの組成物を動物有害生物に使用したときに、作用効果を有することを具体的に裏付ける記載がない。しかも、発明の詳細な説明には、具体例の記載が全くないから、本願発明1の作用効果を、例えば、クロチアニジン以外の上記「アゴニストまたはアンタゴニスト」に基づいて類推することさえできない。 そうすると、本願発明1であるフィプロニルとクロチアニジンの組成物が、具体的に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 ウ また、本願発明1の課題は、「相乗的活性を有しそして昆虫による攻撃に対して、工業材料、特に木材を保護するのに適し、・・・動物有害生物を防除するための作物保護にも適し」たもの(摘示b)を提供する点にあるものと認められる。 しかしながら、発明の詳細な説明には、上記のとおり、本願発明1であるフィプロニルとクロチアニジンの組成物を動物有害生物に使用したときに、相乗効果を奏することを具体的に裏付ける記載がない。 そうすると、本願発明1が上記課題を解決できるものとして、発明の詳細な説明に記載されているということができない。 エ よって、上記イ及びウにより、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、発明の詳細な説明の記載から、本願発明1が、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 (2)出願時の技術常識について 殺虫剤混合物の分野において、2種以上の殺虫剤成分の混合物における相乗的活性は、予期される活性を導き出すColbyの式(例えば、特開昭63-179808号公報6頁左上欄12行?同右上欄7行参照)により判定するのが一般的な手法の一つであるが、上記方法においては、実測値が理論値より大きい値を示すことをもって、相乗効果を有すると判定するのであるから、混合物の活性を実際に測定してみなければ、当業者が相乗効果を示すかどうか理解することが困難であるという技術常識があるものといえる。 よって、上記(1)にも説示したとおり、殺虫剤混合物の分野においては、少なくとも、混合物に関する相乗効果が具体的なデータに裏付けられてはじめて、その効果を確認することができるという技術常識があるといえるから、当業者の技術常識に照らしても、本願発明1が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 (3)請求人の主張及び実験成績報告書について ア 請求人は、平成19年11月29日付けで手続補正された審判請求書において、資料1として、同年4月17日付けの意見書に、資料1として添付したのと同一の実験成績報告書を提示し、 「〔3〕3-2.」において、「本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、それらの請求項に記載された事項に対応する事項が発明の詳細な説明に具体的に記載されていると、信じる。 具体的には、請求項1に係る発明において、フィプロニルと組み合わせるニコチン性アンタゴニストとして選択された式(IIh)で表される化合物は、明細書第10頁第3-4行に 「ニコチン性アセチルコリン受容体の極めて特に好適なアゴニスト及びアンタゴニストは下記の式で示される化合物である:」 として挙げられた特に好適なものの一つであり、かつ、同第1頁下から第4行-同第2頁第3行には、かような成分の組み合せ組成物が 「フィプロニルおよび式(I)で示されるアセチルコリン受容体の少なくとも一種のアゴニストまたはアンタゴニストの混合物は、相乗的活性を有しそして昆虫による攻撃に対して、工業材料、特に木材を保護するのに適していることが今回見出された。これらの混合物はまた、動物有害寄生虫を防除するための作物保護にも適している。この相乗効果のために、著しく低い量の活性化合物が使用することができる、即ち、混合物の活性は個々の成分の活性より大きい。」との相乗効果を奏することも記載されている。・・・ さらに、本願発明の作用効果については、当業者であれば、本願の優先日当時の当該技術分野の技術常識に照らして本願明細書の記載、特に上記の記載を参酌すれば、容易に確認できたものと信じる。かような本願発明の効果を確認する上で、当業者であれば、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行うこうことを要求されるものでもないと、信じる。 現に、本願発明に従う組成物は、資料1として添付する実験成績証明書に示すとおり、植物の動物有害生物による攻撃からの防御について相乗効果を示すことが容易に確認できる。」と主張する。 イ しかしながら、発明の詳細な説明の記載から、本願発明1が、当業者が当該発明の課題である「相乗的活性」を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないことは、上記(1)及び(2)において説示したとおりである。 ウ 次に、本願発明の作用効果の確認に関する主張について検討するために、上記実験成績報告書について検討する。 実験成績報告書には、以下の記載がある。 「実験A ワタアブラムシ(Aphis gossypii)試験 溶媒: 30重量部のジメチルホルムアミド 乳化剤: 1重量部のアルキルアリールポリグリコールエーテル ・・・ ワタアブラムシ(・・・)の十分に寄生した綿花の葉(・・・)を、所望の濃度の活性化合物の製剤中に浸すことにより処理した。試験結果を表Aに示す。 特定の期間後、死亡率(%)を決定した。100%はすべてのアブラムシが死んだことを意味し、0%はアブラムシは全く死ななかったことを意味する。 この試験では、本発明に従う、例えば、下記の組み合わせ物が、各単一化合物に比べて相乗作用を示す。 2つの化合物の組み合わせの効果に関する式: ・・・E=X+Y-(X×Y)/100 観察された組み合わせ物の殺虫効果が、一つの計算された“E”より高い(2つの化合物の加算値より高い)場合には、相乗効果が存在することになる。 」 そうすると、実験成績報告書には、活性化合物のワタアブラムシの十分に寄生した綿花の葉と接触させる試験(実験A)について記載されており、それによると、フィプロニル0.32ppm又はクロチアニジン0.32ppmを接触させた場合に比べて、フィプロニル0.32ppmとクロチアニジン0.32ppmの組成物を接触させた場合に、高い効果を有し、その効果が、Colby式により計算された効果より高かったことが示されているといえる。 しかしながら、出願後に実験成績報告書を示し、本願発明1の作用効果が実験によって過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことを要求しうるものはでないと主張したとしても、当該主張により、発明の詳細な説明に、フィプロニルとクロチアニジンの特定の組成物が相乗的活性を有するものとして具体的に示されていることにはならず、発明の詳細な説明の記載から、本願発明1が上記課題を解決できることを認識できる範囲のものであるということができるものではない。また、出願後に示された実験成績報告書によって、本願発明1が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるという出願時の技術常識があったということもできない。 なお、上記実験Aは、本願発明1の適用される殺虫剤混合物の分野のうち、特定の昆虫であるワタアブラムシを、特定の植物である綿花の葉に適用した事例を示すものに過ぎず、フィプロニルとクロチアニジンの割合も特定の1:1の組成物を使用するのみであるから、上記実験成績報告書は、本願発明1の組成物全体にわたって、上記課題を解決できると認識できる程度に記載されているとはいえないものである。 よって、上記請求人の主張は採用できない。 (4)本願発明1についてのまとめ したがって、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから、請求項1の記載は、同項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。 4 本願発明2?6についての検討 本願発明1を引用する本願発明2?6は、フィプロニルとクロチアニジンの特定用途の組成物、その使用又はその調製方法に関する発明であるから、本願発明1と同様の課題を有し、本願発明1について上記3に説示したのと同様の理由により、請求項2?6の記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明2?6が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1?6の各記載は、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする本願発明1?6が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものであるとはいえないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余のことを検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-06-18 |
結審通知日 | 2009-06-23 |
審決日 | 2009-07-08 |
出願番号 | 特願平9-524000 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 泰之 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
松本 直子 原 健司 |
発明の名称 | 相乗的殺虫剤混合物 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |