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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C11B
管理番号 1209329
審判番号 不服2008-28698  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-10 
確定日 2009-12-21 
事件の表示 平成9年特許願第510382号「悪臭減少剤としてアリル系アルコール香料の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成9年3月6日国際公開、WO97/07778、平成11年10月19日国内公表、特表平11-512132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1996年8月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年8月31日、ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成17年11月29日付けで拒絶理由が通知され、平成18年6月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年8月6日付けで拒絶査定がされ、その後、同年11月10日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年12月26日に審判請求書の手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明の認定
この出願の請求項1?16に係る発明は、平成18年6月5日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。
「布帛を、アリル系アルコール香料前駆体およびキャリアを含む組成物で処理する、汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるための、アリル系アルコール香料前駆体の用法であって、アリル系アルコール香料はゲラニオール、ネロールおよびそれらの混合物から選択され、キャリアは水、および分子量200未満の低分子量有機溶媒およびその混合物から成る群より選択される低分子量有機溶媒からなる、上記アリル系アルコール香料前駆体の用法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

刊行物1 国際公開第95/4809号パンフレット

第4 刊行物に記載された事項
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。(審決注;日本語訳は当審による。)

(1a)「リパーゼ含有洗剤の存在下で洗浄され、かつ必要に応じて引き続き織物柔軟剤で処理される織物の芳香付け法において、前記の洗剤および/または前記の織物柔軟剤が式:

[式中、
a.Rは式ROHのフレグラントアルコールから誘導される基を表し、かつYはC_(7)?C_(24)の直鎖または分枝鎖状の飽和または不飽和アルキル基または-(CH_(2))_(n)COOR基を表し、ここで、Rは前記のものを表し、かつnは0?6の整数であるか;または
b.YはC_(7)?C_(24)の直鎖または分枝鎖状の飽和または不飽和アルキル基を表し、かつRは式:(当審注;式は省略)
の基を表し、ここで、R^(1)は水素を表し、かつR^(2)は式:(当審注;式は省略)
のフレグラントアルデヒドから誘導されるアルキリデン基を表すか、
またはR^(2)はアルキリデン基を表し、かつR^(1)はアルキル基を表し、その際、R^(1)およびR^(2)は、式:(当審注;式は省略)
のフレグラントケトンから誘導され、かつ必要に応じて、炭素原子5?18個を含有しかつ置換されていてよい、点線で示されるような環の一部である]の化合物を含有することを特徴とする、織物の芳香付け法。」(41頁、請求項1)
(1b)「Rが9-デセン-1-イル、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-イル、3,7-ジメチル-6-オクテン-1-イルまたは3-メチル-5-フェニルペンチル基である式(I)の化合物を添加することよりなる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。」(44頁、請求項9)
(1c)「本発明は、香料の分野、特に改良された芳香付けされた洗剤および織物柔軟剤に関する。
その能率を改良するために織物洗剤において酵素を使用することは、長年にわたって公知であった。前記酵素のうち、リパーゼは特に有利であり、その能力の結果として、汚れたリネン上の脂肪物質を加水分解し、かつ従ってその浄化を促進する。しかしながら、場合によって、ある適用条件下で悪臭問題が生じうることが知られている。この悪臭問題を解決するために、洗剤中に入れられ、洗浄後に織物上に析出される芳香付け成分を注意深く選択することよりなる方法が提案されている(例えば欧州特許第430315号明細書参照)。従って、前記の洗剤の適当な芳香付けは、非常に重要であるように思われる。
他方、使用者がこの芳香を繊維が洗浄されかつ引き続き乾燥された長時間後ですら感知することができるぐらい、前記の洗剤および織物柔軟剤が織物に長く匂い続ける芳香を与えることができることは望ましい。」(1頁6?22行)
(1d)「『フレグラントアルコール』、『フレグラントアルデヒド』または『フレグラントケトン』とは、ここでは、洗浄および/または織物柔軟剤での処理の方法において織物または繊維に芳香を与えることができる、香料で慣用の任意のアルコール、アルデヒド、それぞれケトンを表す。つまり、このような化合物の芳香付け効果は、これらを、使用された洗剤または織物柔軟剤中の相当する化合物(I)に代替する場合に著しく改良され、かつすなわちその拡散が延長されることが分かった。
従って、この結果は、化合物(I)がそれ自体芳香を有しないか、または弱くかつ特徴のない芳香を有し、かつ従って香料に明らかに役立たないので、意想外である。本発明により使用した場合に、これらは、織物に、相当するアルコール、アルデヒドまたはケトンの特徴的芳香を与えるだけでなく、拡散のその効果を延長することもでき、従って前記の芳香は、前記の相当するアルコール、アルデヒドまたはケトンを洗剤または織物柔軟剤に直接添加する場合よりも長い期間にわたって発生する。従って、本発明方法による化合物(I)の使用は、相当するアルコール、アルデヒドおよびケトンの永続性を高める。」(3頁14?33行)
(1e)「前記アルコールにより芳香付けされた洗濯用製品で処理された繊維によい芳香を与えることができ、かつその芳香付け効果が本発明により明らかに改良される今日まで公知である式ROHのアルコールを全て完全に列挙することは不可能である。しかしながら、例として、例えば次のアルコールを挙げることができる;・・・ゲラニオール(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール)、・・・」(4頁17?22行)
(1f)「本発明の化合物(I)は、洗剤および織物柔軟剤に、単独で、または香料中で慣用の他の芳香付け成分、溶剤または補助剤と混合して添加することができる。これらを本発明による洗剤および織物柔軟剤に添加することができる濃度は、このタイプの製品に関する技術で有効な値を有する。当業者は、このような値を、芳香付けすべき製品の性質および所望の臭覚的効果の関数として選択することができる。例として、洗剤または織物柔軟剤組成物の重量に対して式(I)0.01?1%またはちょうど5%までの濃度を挙げることができる。」(7頁27?36行)
(1g)「本発明による織物洗剤および柔軟剤は、粉末または顆粒の固体、棒、ペーストまたはいまだ水性のまたは非水性の液体の形を有していてよく、かつこのタイプの製品に慣例の成分を含有していてよい。」(7頁37行?8頁2行)
(1h)「例4
織物上での試験
いくつかの試験を、種々異なる条件下で、織物上で実施し、その際、前記織物を次の一般的方法に従って処理した。
繊維の一般的処理法
32gの標準綿見本を、リパーゼ(Lipolase(登録商標) 100T;製造元:Novo Nordisk、デンマーク国)1重量%からなる標準粉末洗剤ベース1.3gおよび水260mlを含有するリニテスト(Linitest(登録商標);製造元:Hanau、ドイツ国)タイプの容器中に入れた。綿見本を、40゜で30分間洗浄した。次いで、これを容器から取り出し、かつ水200ml×3ですすいだ。次いで、これを、0.05?1%の本発明による化合物(I)または適用可能である場合相当するアルコール、アルデヒドまたはケトンからなる織物柔軟剤(これは、一定の重量%を含有する)0.6gを有する水200ml中に5分間浸した。次いで、綿見本を、すすがずにスピン乾燥させ、かつ物干しひも上で乾燥させた。
この方法は、リネン5kgを洗浄するための実際の機械で、水約20l中で洗浄し、水20l×4ですすぎ、その際、最後のすすぎ水に織物柔軟剤を適用したのに等しい。
使用した織物柔軟剤ベースは、次の組成を有した:
成分 重量%
Arquad 2HT ^(1))(75%) 5.00
ホルマリン(40%) 0.20
脱塩水 94.69
着色剤^(2)) 0.11
合計 100.00
1)製造元:Akzo,オランダ国
2)Colany Blau AR/10%溶液:製造元:ヘキスト、ドイツ国
2つの別々の試験において、綿見本を、この一般的方法により、織物柔軟剤への添加剤として、それぞれ、試験Aでは9-デセニルヘキサデカノエート(1重量%)を、試験Bでは9-デセノール(1重量%)を用いて処理した。
2つの見本を、リニテスト装置から取り出した24時間後に、ブラインドテスト評価した。評価パネルは8人からなり、彼らには、予め9-デセン-1-オール中に浸された匂いストリップを渡して、この化合物の芳香に慣れ親しませた。次いで、パネルに、前記の2つの綿見本を嗅ぎ、かつどちらの見本で9-デセン-1-オールの芳香を同定できるか示したもらった。パネルメンバーの8人中5人は、このアルコールの芳香を、試験Aで処理した見本中で認め、かつこの芳香が非常に強いことを示した一方、前記メンバーのうち一人だけが試験Bで処理された見本で芳香を同定することができた。
2つの見本の更なる評価を、同じパネルによって、同じ条件下で、24時間後に、すなわちリニテスト装置から取り出した48時間後に実施したが、パネルメンバーのだれも9-デセン-1-オールの芳香を試験Bの見本上で同定することができなかった一方、前記メンバーのうち6人は、それを、ためらいなく、試験Aから生じる見本で同定することが分かった。
前記2つの化合物が織物柔軟剤中に0.5重量%の割合で存在する場合に、同様の結果が得られた。」(24頁25行?26頁9行)
(1i)「例7
織物上での試験
1?6まで番号付けされた6つの標準綿見本(それぞれ32g)を、別々に、かつ例4に記載されたのと同様の方法で処理した。リパーゼ中の洗剤含有率はこの場合3重量%であり、かつ最後のすすぎ水に添加された織物柔軟剤の量はこの場合1.2gであった。各場合の織物柔軟剤中へ入れられた(1重量%で)添加剤を次の第6表中に記載する:
第6表
綿見本 柔軟剤添加剤
1 (E)-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール
2 (E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)
オキサレート
3 (E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)
マロネート
4 (E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)
ブタンジオエート
5 (E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)
ペンタンジオエート
6 (E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)
ヘキサンジオエート
リニテスト機から見本を取り出した24時間後に、6つの綿見本を、10人からなるパネルにブラインド評価してもらったが、その際、彼らは、匂いストリップ上の(E)-3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オールを嗅いだ後に、見本のいずれにこのアルコールの芳香を認めるか示すべきであった。この評価の結果を、次の第7表にまとめる(断定的な同定だけを数えた):
第7表
綿見本 芳香を認めたパネルメンバーの数
1 2
2 7
3 7
4 9
5 7
6 8」(29頁1行?30頁4行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「リパーゼ含有洗剤の存在下で洗浄され、・・・引き続き織物柔軟剤で処理される織物の芳香付け法」に関し記載するものであって(摘示(1a))、上記織物柔軟剤が、式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」という。)を含有するものであり、式(I)中、「a.Rは式ROHのフレグラントアルコールから誘導される基を」表すものであり(摘示(1a))、上記Rとして、式ROHである「ゲラニオール(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール)」(摘示1e)から誘導される「3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-イル」(摘示1b)が挙げられ、上記織物柔軟剤は、「溶剤・・・と混合して添加することが」でき(摘示(1f))、「水性の・・・液体の形」を有していてもよい(摘示(1g))ものである。
そして、「例7 織物上での試験」には、具体的に、化合物(I)として、「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエート」を含有する織物柔軟剤(摘示(1i))が記載されており、ここで、上記織物柔軟剤は、織物柔軟剤ベースとして、例4(摘示(1h))に記載される組成を有し、「脱塩水」、すなわち、水を溶剤として含有する水性のものである。
したがって、刊行物1には、
「織物を、(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエートおよび水を含む水性織物柔軟剤で処理する織物の芳香付け法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「織物」は「布」の一種であるから、本願発明の「布帛」に相当し、引用発明の「水性織物柔軟剤」は、「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエートおよび水を含む」から、組成物であるといえる。他方、本願発明の「組成物」は、本願明細書の7頁6行の記載によれば、「水性布帛柔軟化組成物」を包含するものであり、「柔軟剤」の組成物と、「柔軟化組成物」とは同じであるから、引用発明の「水性織物柔軟剤」は、本願発明の「水性布帛柔軟化組成物」としての「組成物」に相当する。
そして、引用発明の「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエート」は、「ゲラニオール(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール)」から誘導されるブタン二酸エステル(コハク酸エステル又はサクシネート)であり、本願発明の「アリル系アルコール香料前駆体」に包含される「ジゲラニルサクシネート」と同一物質である。また、引用発明の当該物質を包含する化合物(I)は、「それ自体芳香を有しないか、または弱くかつ特徴のない芳香を有し、かつ従って香料に明らかに役立たない」が、「使用した場合に、これらは、織物に、相当するアルコール・・・の特徴的芳香を与える」(摘示(1d))ものであり、引用発明の「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエート」についていえば、織物に「ゲラニオール」の芳香を与えるものであるから、「ゲラニオール」の前駆体であるということができる。したがって、引用発明の「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエート」は、本願発明の「アリル系アルコール香料前駆体」に相当する。
さらに、引用発明は、アリル系アルコール香料前駆体である「ゲラニオール」の前駆体を用いた、「織物の芳香付け法」であるから、「アリル系アルコール香料前駆体の用法」であるといえる。
また、本願発明の「キャリア」は、「水、および・・・低分子量有機溶媒からなる」ものであるところ、「キャリア」とは、本願明細書の7頁6行及び12頁23行?13頁6行の記載によれば、本願発明の組成物の一形態である「水性布帛柔軟化組成物」に含有される「液体キャリア」であり、組成物を水性の液体の形になるように構成する溶剤であるといえる。そして、引用発明の「水」も、水性織物柔軟剤を構成するための溶剤として含有するものであるから、本願発明の「キャリア」に相当し、本願発明と引用発明の「キャリア」はともに、水を含むものからなる。

よって、両者は、
「布帛を、アリル系アルコール香料前駆体およびキャリアを含む水性布帛柔軟化組成物で処理する、アリル系アルコール香料前駆体の用法であって、アリル系アルコール香料はゲラニオールから選択され、キャリアは水を含むものからなる、上記アリル系アルコール香料前駆体の用法。」
である点で一致するが、以下のA及びBの点で一応相違するといえる。
A 「水を含むもの」からなるキャリアが、本願発明においては、「水、および分子量200未満の低分子量有機溶媒およびその混合物から成る群より選択される低分子量有機溶媒からなる」のに対し、引用発明においては、水以外の成分について明らかでない点
B 「アリル系アルコール香料前駆体の用法」が、本願発明においては、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」の用法であるのに対し、引用発明においては、「芳香付け法」である点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点A」、「相違点B」という。)

3 相違点についての判断-1
(1)相違点Aについて
引用発明は、キャリア、すなわち溶媒が「水を含むもの」からなる「水性織物柔軟剤」で処理する方法の発明である。ここで、「水性」とは、摘示(1g)によれば、「非水性」との対比で用いられており、「非水性」が、水を全く含まない溶媒を用いる性状を意味することから、それに対する「水性」は、「非水性」以外、すなわち、「水を含む溶媒」を用いる性状を意味するものと認められ、該「水を含む溶媒」には、水だけでなく、水と有機溶媒との混合溶媒を包含することは自明である。そして、溶媒は、柔軟剤の使用温度の常温付近で液体である程度の低分子量であるから、水と共に含む有機溶媒は、通常分子量200未満の低分子量であるといえる。
しかも、水性織物柔軟剤の分野において、「水性」のキャリアが、水だけでなく、水と、エタノール等の水と相溶性のある分子量200未満程度の低分子量有機溶媒との混合物も包含することを意味するということは自明であるといえる(例えば、特開平4-332765号公報の請求項1、段落【0040】、特開平3-33196号公報の請求項11、17頁右上欄12?14行、特開平2-191769号公報の請求項1、9頁右上欄3?11行、特開平1-229877号公報の請求項1、5頁右上欄12?17行参照)。
よって、引用発明の「水性織物柔軟剤」には、「水を含むもの」からなるキャリアとして、「水、および分子量約200未満の低分子量有機溶媒およびその混合物から成る群より選択される低分子量有機溶媒からなる」ものを実質的に包含するものであり、相違点Aは、実質的な相違点であるとはいえない。

(2)相違点Bについて
ア 引用発明の「芳香付け法」は、「織物柔軟剤が織物に長く匂い続ける芳香を与える」(摘示(1c))という効果を奏するものであるが、本願発明における「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させる」効果も、引用発明の「長く匂い続ける芳香を与える」効果も、共に、水性織物柔軟化組成物による処理後に、布帛に、ゲラニオールの前駆体及び/又は前駆体から得られる相当するゲラニオール(以下、「ゲラニオール又はその前駆体」という。)が付着することによって奏される効果であるといえる。
また、「水性布帛柔軟化組成物」による処理の具体的な操作方法を比較してみても、本願発明は、本願明細書の5頁17?20行によれば、アリル系アルコール香料前駆体を「典型的には組成物の約0.01?約10重量%、好ましくは約0.05?約5%、更に好ましくは約0.1?約2%」含有させて処理し、特に、本願明細書の実施例(14?17頁)によれば、液体布帛柔軟化組成物A中に0.44重量%含有させて処理するのに対し、引用発明は、刊行物1の上記摘示によれば、化合物(I)を、「織物柔軟剤組成物の重量に対して・・・0.01?1%またはちょうど5%までの濃度」として処理し(摘示(1f))、例えば、織物柔軟剤中に、「(E,E)-ビス(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエニル)ブタンジオエート」を1重量%添加して処理する(摘示(1i))から、アリル系アルコール香料前駆体の使用量が異なる等の、操作上の差異があるとはいえない。
そうすると、本願発明と引用発明とは、布帛を同じゲラニオールの前駆体を含有する水性織物柔軟化組成物で処理し、ゲラニオール又はその前駆体を布帛に付着させて、付着した化合物による特性を付与する方法として同じであり、本願発明が「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」の用法であり、引用発明が「長く匂い続ける芳香を与える」ための「芳香付け法」であっても、両発明の実施の形態に実質的な差異がないから、用法としても実質的な差異があるとはいえない。
よって、相違点Bは実質的な相違点であるとはいえない。

イ ここで、用法としての同一性だけでなく、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」という観点からも、念のため検討する。
刊行物1には、リパーゼ含有洗剤の存在下で洗浄を行うことで、「汚れたリネン上の脂肪物質を加水分解し、・・・浄化を促進する。しかしながら、場合によって、・・・悪臭問題が生じうることが知られて」おり、「この悪臭問題を解決するために、洗剤中に入れられ、洗浄後に織物上に析出される芳香付け成分を注意深く選択することよりなる方法が提案されている」(摘示(1c))との記載があることから、引用発明の「芳香付け法」は、悪臭を減少させるために使用するという目的も包含するものであるといえる。そして、上記「汚れたリネン上の脂肪物質を加水分解」することによって生じる「悪臭」とは、布帛と人体の接触により、汗等の汚れによる脂肪物質が布帛に付着したことを起因とする悪臭を含むことは明らかであるから、引用発明の「芳香付け法」は、「汗・・から選択される悪臭を減少させるための」という目的を包含するともいえる。
そうすると、本願発明は、引用発明の目的とするところと一致するから、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」という観点からも、相違点Bは、実質的な相違点であるとはいえない、という判断に変わりはない。

(3)相違点についての判断-1のまとめ
したがって、上記相違点A及びBは、実質的な相違点であるとはいえず、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

ところで、先に上記第3で述べたように、原査定の拒絶の理由においては、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、とする判断とともに、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とする判断も示されている。
原査定の拒絶の理由において、特許法第29条第1項第3号とともに、特許法第29条第2項を適用した趣旨は、仮に上記相違点A及びBが実質的な相違点であったとしても、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由を含むことにあることが明らかである。
そこで、仮に上記各相違点が実質的な相違点とした場合に、本願発明が、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについても、以下に検討する。

4 相違点についての判断-2
(1)相違点Aについて
引用発明は、キャリア、すなわち溶媒が「水を含むもの」からなる「水性織物柔軟剤」で処理する方法の発明であり、水性織物柔軟剤の分野において、「水性」のキャリアが、水だけでなく、水と、エタノール等の水と相溶性のある分子量200未満程度の低分子量有機溶媒との混合物も包含することは自明なことであるから(例えば、特開平4-332765号公報の請求項1、段落【0040】、特開平3-33196号公報の請求項11、17頁右上欄12?14行、特開平2-191769号公報の請求項1、9頁右上欄3?11行、特開平1-229877号公報の請求項1、5頁右上欄12?17行参照)、引用発明の「水性織物柔軟剤」のキャリアとして、水に加え、エタノール等の水と相溶性のある分子量200未満程度の低分子量有機溶媒を含むものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
よって、引用発明において、「水を含むもの」からなるキャリアとして、「水、および分子量200未満の低分子量有機溶媒およびその混合物から成る群より選択される低分子量有機溶媒からなる」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点Bについて
ア 従来より、芳香性物質(香気精油等)の発する香気によって悪臭や異臭を隠蔽し、感じにくくする方法は周知である(例えば、特開平5-269185号公報の段落【0003】参照)から、引用発明の「芳香付け法」を、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」の用法として用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ また、刊行物1には、リパーゼ含有洗剤の存在下で洗浄を行うことで、「汚れたリネン上の脂肪物質を加水分解し、・・・浄化を促進する。しかしながら、場合によって、・・・悪臭問題が生じうることが知られて」おり、「この悪臭問題を解決するために、洗剤中に入れられ、洗浄後に織物上に析出される芳香付け成分を注意深く選択することよりなる方法が提案されている」(摘示(1c))との記載があることから、引用発明の「芳香付け法」は、悪臭を減少させるために使用するという目的も包含するものであるといえる。そして、上記「汚れたリネン上の脂肪物質を加水分解」することによって生じる「悪臭」とは、布帛と人体の接触により、汗等の汚れによる脂肪物質が、布帛に付着したことを起因とする悪臭を含むことは明らかであるから、引用発明の「芳香付け法」は、「汗・・から選択される悪臭を減少させるための」という目的を包含するともいえる。
そうすると、上記目的から鑑みて、引用発明の「芳香付け法」を、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」の用法として用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ よって、上記ア及びイに示したとおり、引用発明において、「アリル系アルコール香料前駆体の用法」として、「芳香付け法」を、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合物から選択される悪臭を減少させるため」の用法とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)本願発明の効果について
ア 相違点Aについて
本願発明の「キャリア」について、本願明細書の12頁23行?13頁4行に、「本組成物で用いられる液体キャリアは、その低コスト、比較的入手し易さ、安全性および環境適合性のために、好ましくは少くとも主として水である。液体キャリア中における水のレベルは、好ましくはキャリアの少くとも約50重量%・・・である。水と低分子量、例えば<約200の有機溶媒、例えば・・・低級アルコールとの混合物が、液体キャリアとして有用である。」との記載、及び、同書の13頁20?22行に、「液体洗剤組成物はキャリアとして水および他の溶媒を含有することができる。・・・一価アルコールが界面活性剤を溶解させる上で好ましい・・・」との記載がある。また、同書の実施例(14?17頁)には、本発明の態様であるとされる液体布帛柔軟化組成物Aが記載されているものの、該組成物Aのキャリアとして、水に加え、「分子量約200未満の低分子量有機溶媒」に相当する物質を含むことは記載されていない。
そうすると、本願発明が、キャリアとして、水に加え、「分子量200未満の低分子量有機溶媒およびその混合物から成る群より選択される低分子量有機溶媒」を含むことにより奏される効果について、本願明細書には、実質的に示されているとはいえない。
また、本願発明は、本願明細書の2頁下から2行?3頁3行に記載されるように、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合から選択される悪臭に後で暴されたクリーニング乾燥表面および/または洗濯乾燥布帛上で減少させる」という効果を奏するものであるが、分子量が約200未満であるいかなる有機溶媒であっても、「水、および・・・低分子量有機溶媒」からなるキャリアとすることにより、上記効果を奏するともいえない。
よって、本願発明は、「水、および・・・低分子量有機溶媒」からなるキャリアとすることによって奏される効果が、格別顕著なものであるとはいえない。

イ 相違点Bについて
上記アにも示したとおり、本願発明は、「汗、煙、キッチン臭およびそれらの混合から選択される悪臭に後で暴されたクリーニング乾燥表面および/または洗濯乾燥布帛上で減少させる」という効果を奏するものである。
しかしながら、上記(2)に示したように、従来より、芳香性物質(香気精油等)の発する香気によって悪臭や異臭を隠蔽し、感じにくくする方法は周知であり、しかも、刊行物1には、「悪臭問題を解決するために、洗剤中に入れられ、洗浄後に織物上に析出される芳香付け成分を注意深く選択する」(摘示(1c))との記載があるから、引用発明の「芳香付け法」は、悪臭を減少させるために使用するという目的も包含するものであるといえる。
よって、上記本願発明によって奏される効果は、周知技術(従来技術)及び刊行物1の記載から予想できるので、格別顕著なものであるとはいえない。

(4)相違点についての判断-2のまとめ
したがって、仮に、上記各相違点が実質的な相違点であったとしても、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
請求人は、平成20年12月26日付けの審判請求書の手続補正書の「(1)」において、「審査官殿のこのようなご指摘・ご判断は、本願発明の課題並びにその解決手段の正しい認識に基づくものではなく、本請求人は到底承服し得ず、よって、以下、その理由を詳しくご説明申し上げます。」と主張したうえで、
「(2)-II」において、
「本願明細書の「発明の背景」の項の記載から明らかなように、・・・刊行物1は、専ら、洗濯された布帛や織物に、清潔で新鮮な芳香性を与える方法に関するものでありますが、本願発明は、これとは全く別の側面の方法、即ち、汗・・・のような強い悪臭への暴露後に洗濯された布帛や織物に依然として残される悪臭を減少させる方法に関するものであります。・・・すなわち、刊行物1及び3は、いずれも、汗・・・のような強い悪臭への暴露後に洗濯された布帛や織物に依然として残されている悪臭の減少という課題を何ら認識するものではないのであります。
よって、当該課題を有する当業者が、芳香性付与に専ら関する・・・刊行物1及び3に目を向けることなど、到底ありうることではない、と考えます。言換えるならば、当該課題を、ゲラニオール及びネロールという特定のアリル系アルコールの前駆体或いはそれらの混合物の使用、並びに、水と分子量200未満の低分子量有機溶媒とからなる特定のキャリアの使用により解決し得た本願発明が、上記しましたような技術の開示に止まる刊行物1及び2に基づいて容易に想到し得たなどとは、たとえ当業者といえども全く言えるものではない、と確信するものであります。」と主張する。
しかし、上記3で示したように、本願発明と引用発明とは、課題の認識の有無にかかわらず、その実施の態様において実質的に相違するものではなく、仮に、本願発明と引用発明の相違点を考慮したとしても、上記4に示したとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、上記各相違点が実質的な相違点であるとはいえず、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮に、上記各相違点が実質的な相違点であったとしても、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-27 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-11 
出願番号 特願平9-510382
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C11B)
P 1 8・ 121- Z (C11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之渡辺 陽子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
唐木 以知良
発明の名称 悪臭減少剤としてアリル系アルコール香料の使用  
代理人 吉武 賢次  
代理人 横田 修孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 紺野 昭男  

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