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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 B24B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B24B |
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管理番号 | 1209474 |
審判番号 | 不服2008-8638 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-04-08 |
確定日 | 2010-01-04 |
事件の表示 | 特願2002-551129「ジェットによる基板表面の仕上げ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月27日国際公開、WO02/49804、平成16年 7月15日国内公表、特表2004-520946〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成13年12月20日(優先権主張、2000年12月21日、アメリカ合州国)を国際出願日とする出願であって、同19年3月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月7日付けで手続補正がなされ、同年12月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同20年4月8日に拒絶査定に対する審判請求とともに手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、当審において、同年12月25日付けで審尋がなされ、同21年7月6日に回答書が提出されたものである。 第2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1.本願発明 本件補正は、特許請求の範囲と、関連する明細書を補正するもので、補正前後の請求項1は、以下のとおりである。 【補正前の請求項1】 「ジェット(31)による(jet-induced)基板表面(20)の仕上げシステムにおいて、 a)該表面(20)を、研磨性粒子を含む研磨性液体スラリー(abrasive liquid slurry)(14)にて被覆する手段(14)と、 b)前記スラリー以外の流体ジェットを前記スラリーに対して衝突させる手段(26)であって、該流体は研磨性粒子を含んでおらず、前記基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板(18)の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる前記衝突させる手段(26)とを備え、 前記衝突手段(26)が、ある直径(33)を有する出口先端(35)を備えるノズルを含み、 前記ノズル先端(35)が、前記ノズル直径の約6倍以下の距離だけ前記基板表面(20)から隔てられる、ジェットによる基板表面の仕上げシステム。」 【補正後の請求項1】 「ジェット(31)による(jet-induced)基板表面(20)の仕上げシステムにおいて、 a)該表面(20)を、研磨性粒子を含む研磨性液体スラリー(abrasive liquid slurry)(14)にて被覆する手段(14)と、 b)前記スラリー以外の流体ジェットを前記スラリーに対して衝突させる手段(26)であって、該流体は研磨性粒子を含んでいない気体であり、前記基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板(18)の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる前記気体衝突手段(26)とを備え、 前記気体衝突手段(26)が、ある直径(33)を有する出口先端(35)を備える気体衝突用ノズル(26)を含み、 前記ノズル(26)の先端(35)が、前記ノズル直径の約6倍以下の距離だけ前記基板表面(20)から隔てられる、ジェットによる基板表面の仕上げシステム。」 上記補正は、衝突させる手段(26)の流体を「気体」に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる改正前特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(いわゆる「独立特許要件」)について、検討する。 なお、独立特許要件の判断にあたり、新たな証拠を採用したとしても、拒絶理由を通知しなければならない旨の特許法上の規定はない。 2.先願明細書記載の発明 当審の審尋に引用され、本願優先日前に出願され、優先日後に出願公開された特願2000-306362号(特開2002-113663号)の願書に最初に添付された明細書、図面には、以下が記載されている。 ア.段落0001 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ジェット流を用いて被加工物のバリ取りなどの表面加工を行う装置および方法に関するものであり、詳しくは、液中で表面加工を行う装置および方法に関するものである。」 イ.段落0011 「【0011】本発明の液中加工装置においては、タンク内液でノズル装置から被加工物の加工対象表面に向けて加工水や加工エア等の加工流体を高圧噴射するものであるが、そのタンク内に収容される液に研磨材が混入されるものである。従って、図2の模式図に示すように、加工流体6の高圧噴射流で発生する負圧により周囲に存在する液2中の研磨材3が巻き込まれて加工流体6と共に被加工物10の加工対象表面11に噴射衝突されるので、加工流体6に研磨材が混入されていなくてもタンク内の液中の研磨材3によるブラスト効果が得られる。」 ウ.段落0016 「【0016】・・・。また、本発明による液中表面加工装置は、例えば自動車部品やOA・家電部品、半導体及び電子部品等の素地調整やバリ取りなど、各種被加工物に対する表面処理に有効であるが、・・・。」 エ.段落0018 「【0018】さらに、ノズル装置を加工対象表面に対して相対移動させる駆動機構は、水平面上を前後左右(X,Y方向)および上下(Z方向)に昇降させるものであればよく、被加工物側、ノズル装置側のどちらを移動させてもよいが、できるだけ設計および駆動が容易な構成が望ましい。・・・。」 オ.段落0024?0026 「【0024】なお、本ノズル装置によるから高圧噴射流は、ウォータジェットに限らずエアジェットでも良く、加工流体として各種液体および気体が利用可能である。・・・。 【0025】 【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態として、加工流体に水を用いる場合の液中表面加工装置を図1に示す。本表面加工装置は、内部に水2とこれに混入される研磨材3とが収容され、水中の所定位置に被加工物10が架台ベース12上にクランプ13で載置固定されるタンク1を備え、このタンク1上方に設置されるノズル装置4の先端のノズル5が水中で被加工物10の加工対象表面11に向けて加工液16を高圧噴射するものである。 【0026】ノズル装置4には、ポンプ装置8によって外部の加工液層から汲み上げられた加工液(水)16が高圧ホース7を介して加圧供給されている。このノズル装置4は、不図示の駆動機構によって水平(X,Y)方向への移動、上下(Z)方向への昇降が駆動制御される。」 カ.図2 上記イ.エ.オ.の記載を踏まえ、図2を参照すると、被加工物10は、液中に置かれるため、その素地表面が、研磨材3を含む研磨材混入液で被覆されていること、ノズル5の先端が、被加工物10の加工対象表面11から隔てられていることが、看取できる。 これらを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、補正発明に照らして整理すると、特願2000-306362号の願書に最初に添付された明細書、図面には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「ジェットによる素地の表面加工装置において、 a)該表面を、研磨材3を含む研磨材混入液にて被覆する手段と、 b)前記研磨材混入液以外の加工流体6を前記研磨材混入液に対して噴射させるノズル装置4であって、該加工流体6は研磨材3を含んでいない気体であり、加工流体6の高圧噴射流で発生する負圧により周囲に存在する液2中の研磨材3が巻き込まれて加工流体6と共に被加工物10の加工対象表面11に噴射衝突され被加工物のバリ取りなどの表面加工を行うノズル装置4とを備え、 前記ノズル装置4が、ある直径を有する出口先端を備えるノズル5を含み、 前記ノズル5の先端が、被加工物10の加工対象表面11から隔てられ、上下(Z)方向への昇降距離が駆動制御される、 ジェットによる素地の表面加工装置。」 3.対比 補正発明と先願発明とを対比する。 補正発明の「基板」は、明細書の段落0002の記載からみて「剛い物品」を含むから、「素地」を含むものである。 また、補正発明の「仕上げ」は、明細書の段落0003の「表面を整形するための研磨、ポリシング及び加工を含む全ての除去過程は、全体として「仕上げ」と称される」なる記載からみて、「表面加工」を含むものである。 よって、先願発明の「素地の表面加工装置」、「加工対象表面11」は、それぞれ補正発明の「基板表面の仕上げシステム」、「基板表面(20)」に相当する。 先願発明の「研磨材3」、「研磨材混入液」、「加工流体6」、「ノズル装置4」、「ノズル5」は、それぞれ補正発明の「研磨性粒子」、「研磨性液体スラリー(14)」、「流体(ジェット)」、「衝突させる手段(26)」、「気体衝突用ノズル(26)」に相当する。 先願発明の「加工流体6の高圧噴射流で発生する負圧により周囲に存在する液2中の研磨材3が巻き込まれて加工流体6と共に被加工物10の加工対象表面11に噴射衝突され被加工物のバリ取りなどの表面加工を行う」と、補正発明の「基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板(18)の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる」とは、その機能、作用からみて、実質的に一致している。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「ジェットによる基板表面の仕上げシステムにおいて、 a)該表面を、研磨性粒子を含む研磨性液体スラリーにて被覆する手段と、 b)前記スラリー以外の流体ジェットを前記スラリーに対して衝突させる手段であって、該流体は研磨性粒子を含んでいない気体であり、前記基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる前記気体衝突手段とを備え、 前記気体衝突手段が、ある直径を有する出口先端を備える気体衝突用ノズルを含み、 前記ノズルの先端が、ある距離をもって、前記基板表面から隔てられる、ジェットによる基板表面の仕上げシステム。」 そして、以下の点で、一応相違する。 ノズルの先端が、基板表面から隔てられる「距離」について、補正発明は、「ノズル直径の約6倍以下の距離」であるが、先願発明は、「距離が駆動制御」されるものの特定されていない点。 4.判断 相違点について検討する。 先願発明は、ノズルの先端と基板表面との距離が特定されていないが、「加工流体が基板表面に噴射衝突される」ものであって「衝突」効果を奏するものである以上、両者の距離が近いことが望ましいことは当然であるから、先願発明の実施の一態様として「ノズル直径の約6倍以下の距離」を含むことは明らかである。 したがって、補正発明は、先願発明と同一であり、しかも、補正発明の発明者、出願人が、先願発明の発明者、出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により、出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の1.【補正前の請求項1】のとおりのものと認める。 2.刊行物記載の発明 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平2-262962号公報には、以下が記載されている。 ア.第2ページ左上欄第14?19行 「[発明が解決しようとする課題] 本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、短い作業時間で、確実に円筒内面の異物を除去できるような、優れた円筒内面研掃装置を提供することである。」 イ.第3ページ右下欄第15行?第4ページ左上欄第14行 「以上のような構成を有する本実施例の作用は次の通りである。 まず、円筒1を第3の駆動機構23の上の所定位置に支持し、この状態で、第1の駆動機構21の駆動力により、研掃ヘッド2を円筒1内に挿入する。すると、研掃ヘッド2の2枚の円盤3,4とシール弾性体5とによって、円筒1内に、2枚の円盤3,4に挟まれた研掃空間が構成される。この状態で、水圧ポンプ11を動作させ、高圧水用配管10を介し、高圧水噴射ノズルユニット7の噴射ノズル9から高圧水を噴射すると同時に、スラリーポンプ12を動作させ、スラリー流出管8を介し、そのスラリー流出口8aからスラリーを流出する。すると、研掃空間内に溜る高圧水とスラリーとの混合水が、攪拌噴流となり、高い水圧と、スラリーに含まれた研掃材の作用により、円筒1の内面を短時間に効率よく研掃できる。この場合の研掃範囲は、第3図に示すように、噴射ノズル9から噴射される高圧ジェット水が当接する範囲に対応する。」 ウ.第2図、第3図 上記イ.の記載を踏まえ、第2図、第3図を参照すると、2枚の円盤3,4に挟まれた研掃空間において、円筒1の内面が、スラリーで被覆されていることが、看取できる。 これら記載を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、特開平2-262962号公報には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認められる。 「ジェットによる円筒内面の研掃装置において、 a)該円筒内面を、研掃材を含むスラリーにて被覆する手段と、 b)前記スラリー以外の高圧水を前記スラリーに対して噴射させる高圧水噴射ノズルユニット7であって、該高圧水は研掃材を含んでおらず、高圧水とスラリーとの混合水が、攪拌噴流となり、高い水圧と、スラリーに含まれた研掃材の作用により、円筒内面を短時間に効率よく研掃できる高圧水噴射ノズルユニット7を備え、 前記高圧水噴射ノズルユニット7が、ある直径を有する出口先端を備える噴射ノズル9を含む、 ジェットによる円筒内面の研掃装置。」 3.対比 本願発明と刊行物発明とを対比する。 本願発明の「基板」は、明細書の段落0002の記載からみて「剛い物品」を含むから、「円筒内面」を含むものである。 また、本願発明の「仕上げ」は、明細書の段落0003の「表面を整形するための研磨、ポリシング及び加工を含む全ての除去過程は、全体として「仕上げ」と称される」なる記載からみて、「異物を除去」する「研掃」を含むものである。 よって、刊行物発明の「円筒内面の研掃装置」は、本願発明の「基板表面の仕上げシステム」に相当する。 刊行物発明の「研掃材」、「スラリー」、「高圧水」、「噴射させる高圧水噴射ノズルユニット7」、「噴射ノズル9」は、それぞれ本願発明の「研磨性粒子」、「研磨性液体スラリー(14)」、「流体(ジェット)」、「衝突させる手段(26)」、「ノズル」に相当する。 刊行物発明の「高圧水とスラリーとの混合水が、攪拌噴流となり、高い水圧と、スラリーに含まれた研掃材の作用により、円筒内面を短時間に効率よく研掃できる」と、本願発明の「基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板(18)の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる」とは、その機能、作用からみて、実質的に一致している。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「ジェットによる基板表面の仕上げシステムにおいて、 a)該表面を、研磨性粒子を含む研磨性液体スラリーにて被覆する手段と、 b)前記スラリー以外の流体ジェットを前記スラリーに対して衝突させる手段であって、該流体は研磨性粒子を含んでおらず、前記基板表面に隣接して前記スラリー内にせん断力を発生させ、これにより、前記基板の部分が前記スラリーによって除去され、前記基板表面の形状を所定の形状に向けて変化させる前記衝突させる手段とを備え、 前記衝突手段が、ある直径を有する出口先端を備える気体衝突用ノズルを含む、 ジェットによる基板表面の仕上げシステム。」 そして、以下の点で、相違する。 本願発明は、「ノズル先端が、前記ノズル直径の約6倍以下の距離だけ前記基板表面から隔てられる」ものであるが、刊行物発明は、明らかでない点。 4.判断 相違点について検討する。 刊行物発明は、ノズルの先端と基板表面との距離が明らかでないが、「噴射ノズル9から噴射される高圧ジェット水」を利用するものである以上、両者の距離が近いことが望ましいことは当然である。 両者の距離は、本願発明では「約6倍以下」と特定されており、その技術的意義についてみると、請求項3は「約2倍以下」とされ、明細書の段落0014、図3、図4をみても、「約6倍以下」と特定することにより、格別な技術的意義、臨界的効果を見いだすことはできない。 よって、両者の距離について、本願発明の「約6倍以下」なる特定は、「近いことが望ましい」程度であり格別な意義はないと解さざるを得ないことから、適宜なしうる設計的事項にすぎない。 したがって、本願発明は、当業者が刊行物発明に基づき、容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-07 |
結審通知日 | 2009-08-10 |
審決日 | 2009-08-24 |
出願番号 | 特願2002-551129(P2002-551129) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B24B)
P 1 8・ 121- Z (B24B) P 1 8・ 16- Z (B24B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 筑波 茂樹、中島 成 |
特許庁審判長 |
小椋 正幸 |
特許庁審判官 |
千葉 成就 尾家 英樹 |
発明の名称 | ジェットによる基板表面の仕上げ |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 佐久間 滋 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 社本 一夫 |