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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1209492 |
審判番号 | 不服2008-30686 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-12-04 |
確定日 | 2010-01-04 |
事件の表示 | 特願2003-79401号「ピンジョイント」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日出願公開、特開2004-286132号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成15年3月24日の出願であって,平成20年10月28日付けで拒絶査定がされたところ,平成20年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして,本願の請求項1に係る発明は,平成20年5月14日付け,及び平成21年9月18日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお,読点(、)はすべてカンマ(,)に統一した。 「【請求項1】 アーム6がバケット8の一対のブラケット8a,8aの間にピンPにより回動自在に連結されるピンジョイント16であって, アーム6に該ピンPの軸線X方向に延びて設けられた貫通孔6bと, この貫通孔6bの両端部に取付けられた一対の軸受18,18と, この貫通孔6bに挿通され該一対の軸受18,18により回動自在に支持された円筒状のカラー20と, カラー20の外周面,アーム6の貫通孔6b並びに一対の軸受18,18により形成された潤滑油封入空間22とを備え, 該カラー20が,該潤滑油封入空間22において該一対の軸受18,18それぞれの端面に摺動自在に当接する一対の環状凸部20b,20bを備え, 該ピンPが該カラー20に挿通され,その両端部が該一対のブラケット8a,8aに取付けられている,ことを特徴とするピンジョイント。」 2.本願出願前に日本国内において頒布され,当審において平成21年8月4日付けで通知した拒絶の理由において引用した刊行物に記載された発明及び記載事項 (1)刊行物1:実願平1-39234号(実開平2-130420号)のマイクロフィルム (2)刊行物2:実公昭43-21681号公報 (刊行物1) 刊行物1には,「建設機械用ピン連結構造」に関して,図面(特に,第1図を参照)とともに,下記の技術的事項が記載されている。 (a)「この考案は,建設機械用ピン連結構造にかかわり,さらに詳しくは,油圧ショベルにおけるアームとフロントアタッチメントとの連結のように,ピンの抜き挿しをおこなって,被連結部材の交換をなすことができるピン連結構造の改良に関している。」(第2頁第11?16行) (b)「本考案は,より簡単にかつ迅速に,しかも汚れることなしに,ピンの挿入および抜き出しを行うことができる,改良された建設機械用ピン連結構造を提供するものである。」(第5頁第4?7行) (c)「これらの図面に示すピン連結構造は油圧ショベルのアーム11とバケット12とを連結するためのものである。 アーム11は鋼板などを溶接組立した閉鎖断面構造物からなっている。このアームにおけるバケットに連結される端部には,支持部材13がアームの側面壁をブリッジするように配置されているとともに,これらに固定されている。 支持部材13は,中空円筒形をなす本体部分の両端につばをもつもので,本体部分には軸受が挿入されている。軸受は軸受部材14,15および軸受部材16からなっている。軸受部材14,15は,円筒形の形態をもつもので,空間19を形成して,支持部材13にある孔にかん合かつ固定されている。また,軸受部材16は,一端につば21をもつ中空円筒形の形態をもつものからなっていて,軸受け部材14,15に挿入され,つば21および反対端にはめ込まれたリング22によって抜け出しを阻止されている。 空間19はグリスのような潤滑油にたいする溜を形成している。ニップル20は,この潤滑油溜19と油圧ショベルに組み込まれている潤滑油圧送装置とを接続するためのもので,支持部材13における潤滑油溜に対応した位置にねじ込まれている。そして,軸受部材14,15における軸受部材16に接触する内面には溝が設けられ,シール17,18がこれらの溝に挿入され,潤滑油がこの軸受の端部から漏れ出るのを阻止している。 バケット12はバケット本体の背面壁23にピン支持部材24,25を溶接固定されている。ピン支持部材には,それぞれ,貫通孔が同軸に設けられている。貫通孔の各々には軸受26,27が挿入されている。これらの軸受は,一端につばをもつ中空円筒形の形態をもつものからなっていて,貫通孔にかん合かつ固定されているとともに,つばによって抜け出しを阻止されている。」(第6頁第11行?第8頁第5行) (d)「このピン連結構造では,バケット12を動かすと,ピン31が軸受26,27,軸受部材16,ピン支持部材24,25およびバケット12と一緒に,軸受部材14,15の上にて回転して,ピン13を中心にしてバケット12を回転させることができる。このときに,グリスがグリスニップル20を経由して潤滑油溜19に送り込まれていると,軸受部材14と軸受部材16および軸受部材15と軸受部材16は潤滑油溜26からのグリスによって潤滑することができる。また,ピン31から抜け止め部材32をはずし,ピン31を左の方向に抜き出すことによって,バケット12とアーム11とを分離させることができ,アーム11をピン支持部材24,25のあいだに配置し,ピン31を軸受26,軸受部材16および軸受27にとおし,抜け止め部材をピンに装着することによって,ふたたび連結させることができる。」(第9頁第5?20行) (e)「抜き出されたピン31は,アーム11に組み込まれた軸受部材15の上にて回転し,ピンの抜き出しおよび挿入がこの軸受部材にたいしてなされ,ピンに対する潤滑を必要としないので,グリスが付着していない。」(第10頁行5?10行) (f)「抜き出されたピンにグリスなどが付着していないので,作業者がグリスなどによって汚れることなしに作業をおこなうことができる。」(第10頁第19行?第11頁第2行) したがって,刊行物1には,下記の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 【引用発明】 アーム11がバケット12のピン支持部材24,25の間にピン31により回動自在に連結される建設機械用ピン連結構造であって, アーム11に該ピン31の軸線方向に延びて設けられた貫通孔と, この貫通孔の両端部に取付けられた軸受部材14,15と, この貫通孔に挿通され該軸受部材14,15により回動自在に支持された中空円筒形の軸受部材16と, 軸受部材16の外周面,アーム11の貫通孔並びに軸受部材14,15により形成された潤滑油溜19とを備え, 該軸受部材16が,該軸受部材14,15のピン支持部材24,25側のそれぞれの端面に摺動自在に当接するつば21およびリング22を備え, 該ピン31が該軸受部材16に挿通され,その両端部が該ピン支持部材24,25に取付けられている建設機械用ピン連結構造。 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると,それぞれの有する機能からみて,引用発明の「アーム11」は本願発明の「アーム6」に相当し,以下同様にして,「バケット12」は「バケット8」に,「ピン支持部材24,25」は「ブラケット8a,8a」に,「ピン31」は「ピンP」に,「建設機械用ピン連結構造」は「ピンジョイント16」に,「貫通孔」は「貫通孔6b」に,「軸受部材14,15」は「一対の軸受18,18」に,「中空円筒形」は「円筒状」に,「軸受部材16」は「カラー20」に,「潤滑油溜19」は「潤滑油封入空間22」に,それぞれ相当するので,両者は下記の一致点及び相違点を有する。 <一致点> アーム6がバケット8の一対のブラケット8a,8aの間にピンPにより回動自在に連結されるピンジョイント16であって, アーム6に該ピンPの軸線X方向に延びて設けられた貫通孔6bと, この貫通孔6bの両端部に取付けられた一対の軸受18,18と, この貫通孔6bに挿通され該一対の軸受18,18により回動自在に支持された円筒状のカラー20と, カラー20の外周面,アーム6の貫通孔6b並びに一対の軸受18,18により形成された潤滑油封入空間22とを備え, 該ピンPが該カラー20に挿通され,その両端部が該一対のブラケット8a,8aに取付けられているピンジョイント。 (相違点) 本願発明は,「該カラー20が,該潤滑油封入空間22において該一対の軸受18,18それぞれの端面に摺動自在に当接する一対の環状凸部20b,20bを備え」ているのに対し,引用発明は,軸受部材16が,軸受部材14,15のピン支持部材24,25側のそれぞれの端面に摺動自在に当接するつば21およびリング22を備えている点。 そこで,上記相違点について検討する。 (相違点について) 刊行物1には,「本考案は,より簡単にかつ迅速に,しかも汚れることなしに,ピンの挿入および抜き出しを行うことができる,改良された建設機械用ピン連結構造を提供するものである。」(上記摘記事項(b)参照),「抜き出されたピン31は,アーム11に組み込まれた軸受部材15の上にて回転し,ピンの抜き出しおよび挿入がこの軸受部材にたいしてなされ,ピンに対する潤滑を必要としないので,グリスが付着していない。」(上記摘記事項(e)参照),及び「抜き出されたピンにグリスなどが付着していないので,作業者がグリスなどによって汚れることなしに作業をおこなうことができる。」(上記摘記事項(f)参照)と記載されている。 このことから,刊行物1には,ピン31(本願発明の「ピンP」に相当。以下同様。)を抜いたときに潤滑油溜19(潤滑油封入空間22)の潤滑油が漏れない構造であることが記載又は示唆され,引用発明と本願発明とは,ピンを着脱しても潤滑油の抜けることのない潤滑油の封入溜を備えるという技術的課題において,その軌を一にするものである。 そして,引用発明において,軸受部材16(カラー20)が貫通孔(貫通孔6b)の中で軸線方向に移動しないようにするにあたり,つば21およびリング22によって外側から軸受部材14,15(一対の軸受18,18)の端面に当接させるか,他の適宜の当接手段により内側から軸受部材14,15(一対の軸受18,18)の端面に当接させるかは,当業者が適宜なし得る技術的事項である。 しかも,ベアリング組立体において,軸受部材を潤滑油封入空間において一対の軸受それぞれの端面に当接する環状凸部を備え,一対の軸受の内側の端面に当接させることにより軸線方向に移動しないようにすることは,従来周知の技術手段(例えば,刊行物2には,「ベアリング14は内レース11の外面25の上で半径方向外側に拡がっている肩26にぶつかって支えられている。」[第2頁左欄第15?17行,なお,大文字を小文字で表記した箇所がある。]と記載されている。さらに,実公昭43-21682号公報には,同様に,「ベアリング14は内レース11の外面25の上で半径方向外側に拡がっている肩26にぶつかって支えられている。」[第2頁左欄第22?24行,なお,大文字を小文字で表記した箇所がある。]と記載されている。)にすぎない。 また,その際に,環状凸部を軸受部材14,15(一対の軸受18,18)それぞれの端面に当接する「一対」のものとすることは,当業者が必要に応じて適宜採用する設計変更の範囲内の事項にすぎない。 してみれば,引用発明の軸受部材14,15(一対の軸受18,18)のピン支持部材24,25(ブラケット8a,8a)側のそれぞれの端面に摺動自在に当接するつば21およびリング22に代えて,上記従来周知の技術手段を適用することにより,潤滑油溜19(潤滑油封入空間22)において軸受部材14,15(一対の軸受18,18)それぞれの端面に摺動自在に当接する一対の環状凸部とし,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって,これを妨げる格別の事情は見出せない。 本願発明の奏する作用効果についてみても,引用発明,及び従来周知の技術手段の奏するそれぞれの作用効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明,及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお,審判請求人は,当審における拒絶理由に対する平成21年9月18日付け意見書において,「本願発明に係るピンジョイントは,この軸受部材16に相当するカラー20に潤滑油封入空間22において軸受18,18に摺動自在に当接する一対に環状凸部20b,20bを備えているので,一対の環状凸部20b,20bは,カラー20の抜け出しを阻止するとともに,土砂,岩石,泥水などに触れることがなく,かつ潤滑されるので,長寿命で故障のない経済的な,アームとバケットを連結するピンジョイントを提供することができます。」(「3.本願発明の格別の作用効果」の項参照)と述べ,本願発明の奏する作用効果について主張している。 しかしながら,上記(相違点について)において記載したように,引用発明に,従来周知の技術手段を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ,引用発明に,従来周知の技術手段を適用したものは,一対の環状凸部により,軸受部材16(カラー20)の抜け出しを阻止するとともに,土砂,岩石,泥水などに触れることがなく,かつ潤滑されるという本願発明と同様の作用効果を奏するので,審判請求人が主張する本願発明の奏する上記の作用効果は,従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず,本願発明の構成を備えることによって,本願発明が,従前知られていた作用効果を併せたものとは異なる,相乗的で予想外の格別の作用効果を奏するものとは認められないので,審判請求人の上記主張は採用することができない。 4.むすび 結局,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明,及び従来周知の技術手段に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-10-16 |
結審通知日 | 2009-10-20 |
審決日 | 2009-11-17 |
出願番号 | 特願2003-79401(P2003-79401) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安井 寿儀、鳥居 稔 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
大山 健 常盤 務 |
発明の名称 | ピンジョイント |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 小野 尚純 |