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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1209523
審判番号 不服2006-3298  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-23 
確定日 2010-01-04 
事件の表示 平成 8年特許願第152343号「アルミン酸塩蛍光体、その製造方法及び真空紫外線励起発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月 6日出願公開、特開平10- 1666〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成8年6月13日の出願であって、平成17年10月5日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成18年1月17日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年2月23日に拒絶査定を不服とする審判が請求され、同年6月8日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成19年12月20日付けで審尋がされ、平成20年3月10日に回答書が提出され、平成21年3月5日付けで拒絶理由が通知され、同年5月11日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年12月19日に提出された手続補正書及び平成21年5月11日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

【請求項1】 下記組成式で表される、MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17)なる組成のアルミン酸塩とbMO・6Al_(2) O_(3)なる組成のアルミン酸塩との固溶体からなるマンガン付活アルミン酸塩蛍光体。
(1-a)(bMO・6Al_(2) O_(3))・a(MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17))
{前記組成式中、MはBa、Srのうちの少なくとも1種であり、a、 b及びcはそれぞれ0.05≦a≦1.0、0.64≦b≦0.86、0.05≦c≦1.0及び0.05≦a×c≦0.3なる条件を満たす数である。但し、c=1であって、かつ、a及びbがそれぞれ9/59≦a≦9/34、及び(1-2a)/(1-a)である場合を除く。}

(請求項1において、「下記組成式」及びこれから誘導された同値の式を「式A」という。)

第3 当審で通知した拒絶の理由
平成21年3月5日付けで当審で通知した拒絶理由は、本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

刊行物:特開昭52-143987号公報

第4 刊行物等の記載事項
上記刊行物、及び周知事項を表すものとして挙げる参考資料には、以下のことが記載されている。
参考資料:蛍光体同学会編、「蛍光体ハンドブック」、
株式会社オーム社、昭和62年12月25日、p.226

刊行物:
a 「(1)200nmより短かい波長領域に放電放射スペクトルを有するガスと、組成式が
(M^(II)_(1-x)、Mn_(x))O・ZAl_(2)O_(3)
(但しM^(II)はカルシウム、ストロンチウム、バリウム、マグネシウムおよび亜鉛のうちの少なくとも1つであり、xおよびZはそれぞれ 10^(-3)≦x≦7×10^(-1) および 1≦Z≦20なる条件を満たす数である)
で表わされるマンガン付活アルミン酸塩螢光体と、放電電極とを容器に封入してなる気体放電発光素子。」(特許請求の範囲の第1項)
b 「気体放電によつて放射される200nmより短かい波長領域の真空紫外線を主たる励起源として螢光体を励起し、緑色または緑色を成分とする混色(合成色)を発光する気体放電発光素子に関するものである。」(2頁左上欄16?20行)
c 「その結果マンガン付活アルミン酸塩螢光体が従来の Zn_(2)SiO_(4):Mn螢光体と同程度の高輝度の、かつ色純度の良い緑色発光を示し、また寿命の点でも優れていることを見出した。」(2頁右下欄6?10行)
d 「しかしながらこの螢光体が上記組成をとるとき、真空紫外線励起下において放射効率が高いということは本発明者等によつてはじめて見出されたものであり、本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
まず、気体中のグロー放電によつて放射される真空紫外線の中で特に放射強度が高いとされている放射の波長を第1表に示す。


」(3頁右上欄4行?左下欄第1表)
e 「本発明の気体放電発光素子に用いられるマンガン付活アルミン酸塩螢光体の励起スペクトルを第1図に例示する。第1図はその組成が(Ba_(0.9)、Mn_(0.1))O・6Al_(2)O_(3)で表わされるマンガン付活アルミン酸塩螢光体の励起スペクトルであるが、先に示した組成式のM^(II)、xおよびZが変化しても第1図とほぼ同様の励起スペクトルを示す。」(3頁左下欄下から9?2行)
f 「第3表はヘリウム-キセノン(2%)混合ガスを全圧力150Torrで封入した気体放電発光素子に、従来公知の・・・螢光体と、その組成がそれぞれ・・・で表わされるマンガン付活アルミン酸塩螢光体のそれぞれを組合せた場合の発光輝度および放射効率の測定結果を示す。」(4頁左上欄下から2行?右上欄9行)
g 「


第3表の発光輝度は・・・。第3表から明らかなように、バリウムを成分として含むマンガン付活アルミン酸塩螢光体を用いた本発明の気体放電発光素子はとくに発光輝度および放射効率が高く、・・・螢光体を用いた従来の気体放電発光素子と同程度の発光輝度および放射効率を示す。」(4頁右下欄?5頁10行)
h 「第6図は本発明に用いられるマンガン付活アルミン酸塩螢光体の1つであり、その組成が(Ba_(0.9)、Mn_(0.1))O・ZAl_(2)O_(3) で表わされるマンガン付活バリウムアルミン酸塩螢光体における酸化アルミニウム量(Z値)の変化に対する気体放電発光素子の発光輝度の変化を示すグラフである。・・・なお第6図はその組成が(Ba_(0.9)、Mn_(0.1))O・ZAl_(2)O_(3) である螢光体のZ値と発光輝度との関係を示すグラフであるが、本発明に用いられる他の組成の螢光体についても、Z値と発光輝度との関係は第6図とほぼ同じ結果が得られた。」(6頁左上欄1行?右上欄3行)
i 「第7図は本発明に用いられるマンガン付活アルミン酸塩螢光体の1つであり、その組成が(Ba_(1-x)、Mn_(x))O・6Al_(2)O_(3) で表わされるマンガン付活バリウムアルミン酸塩螢光体におけるマンガン付活量(x値)の変化に対する気体放電発光素子の発光輝度の変化を示すグラフである。・・・なお第7図はその組成が(Ba_(1-x)、Mn_(x))O・6Al_(2)O_(3) である螢光体のx値と発光輝度との関係を示すグラフであるが、本発明に用いられる他の組成の螢光体についても、Z値(審決注:「x値」の誤記と認める。)と発光輝度との関係は第7図とほぼ同じ結果が得られた。」(6頁右上欄4行?左下欄6行)
j 「第2図は本発明の実験に用いた気体放電発光素子の構造を示す一部拡大断面図である。
21:全面ガラス板、22:陽極、23:陰極、24:中間シート、25:螢光体、26:補助陽極」(7頁左下欄6?10行)
k 「


」(8頁右上欄)
l 「


」(8頁左下欄)
m 「


」(10頁右上欄)
n 「


」(10頁下欄)

参考資料:
「(3)製造方法 原料としてBaCO_(3),Ba(NO)_(3)やMg_(4)(CO_(3))_(3)OH・3H_(2)Oなどのアルカリ土類金属炭酸塩,α-Al_(2)O_(3),Eu_(2)O_(3)と適量のフラックスを用いる.これらをボールミルなどで混合し,1200℃で2時間,弱還元性気流中(2%H_(2)/N_(2))で焼成し,同気流中で冷却する.これを粉砕,ふるい分け後,1200℃で2時間,水中に通した弱還元性気流中で再度焼成することによって目的とする蛍光体を得ることができる.この場合,加えるフラックスはAlF_(3)やBaCl_(2)であり,その量は蛍光体の焼結や,焼成後の粒径などを考慮して加える.」(226頁左欄11?23行)

第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
刊行物には、組成式(M^(II)_(1-x)、Mn_(x))O・ZAl_(2)O_(3)(以下、この式及びこれから誘導された同値の式を「式X」という。)で表されるマンガン付活アルミン酸塩蛍光体が記載されている(摘記a)。
この蛍光体についてさらにみると、刊行物には、「気体放電によつて放射される200nmより短かい波長領域の真空紫外線を主たる励起源として螢光体を励起し、緑色または緑色を成分とする混色(合成色)を発光する」こと(摘記b)、「従来の Zn_(2)SiO_(4):Mn螢光体と同程度の高輝度の、かつ色純度の良い緑色発光を示し、また寿命の点でも優れていること」(摘記c)、キセノンの147nm等の「真空紫外線励起下において放射効率が高い」こと(摘記d、e、k)、第6図及びその説明からすると、Z値が5?7近辺で発光輝度が高いこと(摘記h、m)、また、第7図及びその説明からすると、x値が0.09?0.3近辺で発光輝度が高いこと(摘記i、n)、等が記載され、その具体例として第3表に種々の蛍光体が挙げられている(摘記f、g)。そして、第6図及び第7図の説明中に、それぞれ、「なお第6図はその組成が(Ba_(0.9)、Mn_(0.1))O・ZAl_(2)O_(3) である螢光体のZ値と発光輝度との関係を示すグラフであるが、本発明に用いられる他の組成の螢光体についても、Z値と発光輝度との関係は第6図とほぼ同じ結果が得られた。」(摘記h)、「なお第7図はその組成が(Ba_(1-x)、Mn_(x))O・6Al_(2)O_(3) である螢光体のx値と発光輝度との関係を示すグラフであるが、本発明に用いられる他の組成の螢光体についても、Z値(審決注:「x値」の誤記と認める。)と発光輝度との関係は第7図とほぼ同じ結果が得られた。」(摘記i)という記載がされていることから、このような性質は、式Xで表される蛍光体全般についていえることと解される。
また、刊行物には、式Xで表される蛍光体が記載されるとともに、これを用いた発光素子が記載されるところ(摘記a)、この発光素子は真空紫外線励起下において発光すること(摘記d)、第2図には、蛍光体は蛍光膜となっている(摘記j、l)ことが、記載されている。
ところで、刊行物には、式Xで表される蛍光体の製造方法について記載はされていないものの、具体的な蛍光体についてデータをとっており(摘記g、k、m、n)、製造されていることは確かであるから、当業者に周知の、蛍光体製造における普通の方法で製造したものといえ、したがって、刊行物には、蛍光体製造における普通の方法が記載されているに等しいといえる。
そうしてみると、刊行物には、真空紫外線励起によって高効率の緑色に発光するマンガン付活アルミン酸塩蛍光体について記載され、かつ、
「式Xで表されるマンガン付活アルミン酸塩蛍光体」の発明
(以下、「引用発明」という。)、
が記載されているといえる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、どちらも特定の組成式で表されるマンガン付活アルミン酸塩蛍光体であるから、両者は、
「特定の組成式で表されるマンガン付活アルミン酸塩蛍光体」で一致し、
(i)マンガン付活アルミン酸塩が、本願発明においては、「式Aで表され、かつ、MMg_(1-c)Mn_(c) Al_(10)O_(17)なる組成のアルミン酸塩とbMO・6Al_(2) O_(3)なる組成のアルミン酸塩との固溶体」からなるものであるのに対し、引用発明においては、「式Xで表され、固溶体とはされていない」ものである点、
で、一応相違する。

3 相違点(i)についての検討
(1)「固溶体」について
ア 本願発明における「固溶体」
本願明細書の段落0006には、「下記組成式MMg_(1-c) Mn_(c) Al_(10)O_(17) なる組成のアルミン酸塩と、下記組成式 bMO・6Al_(2) O_(3) なる組成のアルミン酸塩(但し、いづれもMはBa,Srのうちの少なくとも1種を表す)との固溶体からなり、この両者の固溶比がある範囲内にある、特定組成のアルカリ土類アルミン酸塩母体にマンガン(Mn)を付活したときに限り、その蛍光体は、真空紫外線励起下で特に高輝度の発光を示し、これを蛍光膜として用いた真空紫外線励起発光素子は高効率の発光を示し、上記課題の解決を可能にした。」と本願発明の蛍光体が固溶体であることが記載されているものの、本願発明の蛍光体が固溶体であることを示すデータや、本願発明における固溶体はどのようなものであって、どのように固溶体になるよう製造したのか、等について、本願明細書には記載されていない。

そこで、平成20年3月10日付けの回答書をみると、本願発明の固溶体について、次の説明がされている。
「本願発明の蛍光体が実質的に「bMO・6Al_(2)O_(3)」なる組成のアルミン酸塩と「MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17)」なる組成のアルミン酸塩との不純物相を含まない純粋な固溶体からなることは、前記のとおり化学量論的に「MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17)」なる組成式の割合となるように配合された原料化合物と「bMO・6Al_(2)O_(3)」なる組成式の割合となるように配合された原料化合物との混合比を変えて製造された各蛍光体試料の発光強度が両原料の混合比の変化に対応して徐々に変わることからも推定できます」(〔1〕1.[1.の(1)、(2)に関して] 2))
また、同回答書には、刊行物に記載された蛍光体について、次の説明がされている。
「引用例1に記載の蛍光体の製造方法については特に記載されていないので定かではありませんが、原料化合物を特定割合{化学量論的に(M_(1-x),Mn_(x))・ZAl_(2)O_(3)なる割合}となるように混合し、フラックスを添加し、高温で焼成して製造されるものと考えられます。」(審決注:「引用例1」は「刊行物」に同じ。)(〔1〕2.[2.の(1)、(2)に関して])
「引用例1のアルミン酸塩蛍光体が固溶体のみならず不純物相成分を含む理由は、蛍光体を構成する各金属元素の化合物原料を化学両論的に組成式(1-a)(bMO・6Al_(2)O_(3))・a(MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17))の割合とはせず、組成式(M^(II)_(1-x),Mn_(x))O・ZAl_(2)O_(3)となるように混合した混合物を焼成することによるものと思われます。」(同上)

以上をまとめると、請求人は、「引用発明は、原料化合物を特定割合、すなわち式Xのとおり{化学量論的に(M_(1-x),Mn_(x))・ZAl_(2)O_(3)なる割合}となるように混合し、フラックスを添加し、高温で焼成して製造したから、固溶体のみならず不純物相成分を含むものとなったのであり、これに対し本願発明は、蛍光体を構成する各金属元素の化合物原料を化学量論的に組成式(1-a)(bMO・6Al_(2)O_(3))・a(MMg_(1-c)Mn_(c)Al_(10)O_(17))の割合とし、フラックスを添加し、高温で焼成して製造したから、固溶体のみのものとなった」、と説明しているといえ、これはすなわち、式Aの組成となるように混合して製造すれば固溶体となる、ということである。

イ 本願明細書に記載された実施例と比較例からみた固溶体
ここで、本願明細書に具体的に記載された〔実施例1〕をみると、実施例1においては、
BaCO_(3) 0.829 mol
Al_(2) O_(3) 5.95 mol
MnCO_(3) 0.05 mol
AlF_(3) 0.01 mol
を原料として、
0.95(0.82BaO・6Al_(2) O_(3) )・0.05(BaMnAl_(10)O_(17))
なる組成式の蛍光体、すなわち、式Aの組成式で表すことのできる、固溶体である、2価のMn付活緑色発光バリウムアルミン酸塩蛍光体を得ている。
一方、本願明細書に具体的に記載された〔比較例1〕をみると、比較例1においては、
BaCO_(3) 1.0 mol
Al_(2) O_(3) 6.0 mol
MnCO_(3) 0.12 mol
AlF_(3) 0.01 mol
を原料として、
BaAl_(12)O_(19):Mn
なる組成式の蛍光体、すなわち、式Aの組成式で表せない、固溶体でない、蛍光体を得ている、といえる。

実施例と比較例との差異は原料の混合割合の差異のみであって、その結果、式Aで表される固溶体が得られたり、式Aで表せず固溶体でないものが得られたりするのである。

ウ まとめ
上記ア、イのこと、すなわち、式Aの組成となるように原料を混合して製造すれば式Aの組成を有する固溶体が得られるということから、蛍光体が式Aで表すことができれば、それは固溶体になっているものである、といえる。
そして、式Aで表されるものも式Xで表されるものも蛍光体なのであるから、式Aと式Xに重複する部分があれば、その重複部分の蛍光体は、固溶体である。
したがって、相違点(i)の異同を判断するには、式Aと式Xに具体的に重複部分があるか否かを判断すればよい。

(2)「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体
ア この場合、本願の式Aで表される蛍光体は、c=1であるから、
(1-a)(bBaO・6Al_(2)O_(3))・a(BaMnAl_(10)O_(17))
と表すことができ、これは、先の拒絶理由通知で示したように、各元素についての割合で表すと、
Ba_((b-ab+a))・Mn_(a)・Al_((12-2a))・O_((18-a-ab+b))
(c=1、0.05≦a≦0.3、0.64≦b≦0.86)
となる。
ところで、本願の実施例で用いられている、本願発明における代表的蛍光体のひとつは、a=0.12、b=0.82のものであるから、これは、上記式に、a=0.12、b=0.82を代入して得た式、
Ba_(0.8416)・Mn_(0.12)・Al_(11.76)・O_(18.6016)
なる蛍光体である。

一方、刊行物に記載の式Xで表される蛍光体は、
(Ba_((1-x)),Mn_(x))O・ZAl_(2)O_(3)
であって、同様に各元素についての割合で表すと、
Ba_((1-x))・Mn_(x)・Al_(2Z)・O_((3Z+1))
となる。

そこで、式X「Ba_((1-x))・Mn_(x)・Al_(2Z)・O_((3Z+1))」が、上記式A「Ba_(0.8416)・Mn_(0.12)・Al_(11.76)・O_(18.6016)」と重複する範囲があるかについて検討する。

イ 蛍光体において、式は各元素の組成割合を表すものであるから、例えば、Ba、Mn、Al及びOの各元素が特定の割合で存在していれば、それは同じ蛍光体であるといえる。換言すれば、例えば、「Ba_(p)・Mn_(q)・Al_(r)・O_(s)」という蛍光体と、各元素の量に、一定の数字mをかけたものである「Ba_(mp)・Mn_(mq)・Al_(mr)・O_(ms)」、あるいは、一定の数字nで割ったものである「Ba_(p/n)・Mn_(q/n)・Al_(r/n)・O_(s/n)」とは、同じ蛍光体である。

ウ ところで、上記アでみた、式X「Ba_((1-x))・Mn_(x)・Al_(2Z)・O_((3Z+1))」は、Ba量とMn量とを足すと1になるものであるから、これと、やはり上記アでみた、式A「Ba_(0.8416)・Mn_(0.12)・Al_(11.76)・O_(18.6016)」とを比べるには、式「Ba_(0.8416)・Mn_(0.12)・Al_(11.76)・O_(18.6016)」の、Ba量とMn量を足したものが1になるように、各元素量を割合を変えずに、変形する必要がある。
そのためには、式A「Ba_(0.8416)・Mn_(0.12)・Al_(11.76)・O_(18.6016)」の各元素量を、「0.8416+0.12=0.9616」で割る必要があり、そうすると、この場合の式Aは、
Ba_((0.8416/0.9616))・Mn_((0.12/0.9616))・Al_((11.76/0.9616))・O_((18.6016/0.9616))
となる。
このとき、式AのAlの割合である「11.76/0.9616」が、式Xにおける「2Z」に一致し、式AのOの割合である「18.6016/0.9616」が、式Xにおける「3Z+1」に一致すれば、両者は同じ式で表されるといえるから、互いに重複している。
そこで、「11.76/0.9616=2Z」からZを求めると、Z=5.88/0.9616、となり、「18.6016/0.9616=3Z+1」からZを求めると、やはりZ=5.88/0.9616となるから、「11.76/0.9616=2Z、であってかつ、18.6016/0.9616=3Z+1」が成り立つ。またこのときのZとxの数値を求めると、Zは、Z=5.88/0.9616であるから約6.115であり、xは、x=0.12/0.9616であるから、約0.125である。
こうして求めたxとZは、式Xにおけるこれらの条件、10^(-3)≦x≦7×10^(-1)、1≦Z≦20を満たしている。
したがって、本願発明における「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体は、刊行物にも記載されているといえる。

(3)具体的な「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体について
本願発明における、「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体は、実施例2、26?28において実施され、本願明細書の図1において、Mn濃度=0.12の箇所に相当するから、もっとも高輝度の蛍光体といえる。
一方、引用発明において、「a=0.12、b=0.82、c=1」に相当する蛍光体とは、
Ba_((0.8416/0.9616))・Mn_((0.12/0.9616))・Al_((11.76/0.9616))・O_((18.6016/0.9616))
であるから、分数を小数で書き換えると、
Ba_(0.875)・Mn_(0.125)・Al_(12.23)・O_(19.34)
の蛍光体に相当する。
この蛍光体はZ値が約6.115、x値が約0.125であるところ、刊行物の第6図(摘記m)をみると、Z値が約6.115のものは発光輝度がもっとも高い範囲のものといえ、また、第7図(摘記n)をみるに、x値が約0.125のものは、やはり発光輝度のもっとも高い範囲のものといえる。
そうすると、「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体は、本願発明においても引用発明においても、その重要な部分を占める範囲の蛍光体のひとつであるから、刊行物には、実施例としてこの蛍光体そのものが記載されているわけではないが、当然に引用発明の範囲内のものといえる。

(4)「a=0.12、b=0.82、c=1」及び他の蛍光体
ア 上記「(2)イ」にも示したように、蛍光体の組成は、それぞれの元素の割合を示すものであるから、本願発明と引用発明の式を、それぞれ、蛍光体の実体により近いといえる、金属の酸化物の形で書き換える。
すると、本願発明の式Aである
(1-a)(bBaO・6Al_(2)O_(3))・a(BaMnAl_(10)O_(17))
において、(BaMnAl_(10)O_(17))は、(BaO・MnO・5Al_(2)O_(3))と同じであるから、本願発明の式Aは、
{(1-a)b+a}BaO・aMnO・(6-a)Al_(2)O_(3)
となり、具体的に、「a=0.12、b=0.82、c=1」の蛍光体は、酸化物の形で表すと、
0.8416BaO・0.12MnO・5.88Al_(2)O_(3)
となる。

一方、刊行物に記載された式Xは、同様に書くと、
(1-x)BaO・xMnO・ZAl_(2)O_(3)
である。

イ この蛍光体が互いに重複することは、上記(2)に示したとおりであるが、酸化物の形に式を誘導しても、上記「(2)ウ」と同様に、Ba量とMn量を足して1になるように式を変形し、式Aを、
(0.8416/0.9616)BaO・(0.12/0.9616)MnO・(5.88/0.9616)Al_(2)O_(3)
とし、分数を小数で書き換え、
0.875BaO・0.125MnO・6.115Al_(2)O_(3)
とすれば、引用発明における、x=0.125、Z=6.115の場合に相当し、引用発明における、10^(-3)≦x≦7×10^(-1) および 1≦Z≦20なる条件を満たすものであることは明らかである。
なお、x値、Z値が上記「(2)ウ」と同じ結果になるのは、同じ蛍光体を検討しているのであるから当然である。

ウ 同様の方法を他の組成の蛍光体に適用してみる。「a=0.12、b=0.82、c=1」以外の蛍光体も刊行物に記載された発明であることを次の「表(参考)」に示す。
すなわち、本願発明において、bは、0.64≦b≦0.86、であるから、下限の0.64、実施例で多く用いられている0.82、上限の0.86を選び、また、aは、0.05≦a≦0.3、であるから、この範囲を網羅すべく、0.05、0.10、0.20、0.30を選び、本願発明の蛍光体を想定し、それから、対応する引用発明の式にあてはめ、xとZを求めたところ、xとZはともに引用発明における条件を満たすものであった。
したがって、本願発明の式Aで表される蛍光体は、「a=0.12、b=0.82、c=1」以外のものも、刊行物に記載されたものといえる。


すなわち、(3)で示した場合のみならず、多くの場合において、本願発明の式で表される化合物は、刊行物に記載されたものといえる。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明の式Aで表される蛍光体は、引用発明の式Xで表される蛍光体と重複し、したがって、この場合は引用発明の蛍光体も固溶体であるといえるから、上記相違点(i)は、実質的に相違していない。
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明である。

4 請求人の主張
(1)主張の内容
請求人は、平成21年5月11日付け意見書において、次のように主張する。
ア 「まず主張したいことは、実際には刊行物1に記載の蛍光体も、本願発明の蛍光体も、それぞれの構成元素のモル比は、各組成式に沿って変化するのであるから、それぞれ規定された数値の範囲内から任意に選択できるものではなく、それぞれのモル比の取りうる範囲が一致しても、蛍光体として、すべて組成が一致するものではありません。」((3)3))

イ 「刊行物1の蛍光体において、Baの量(1-x)を0.7とすれば、Mnの量(x)は0.3と決まってしまいます。これに対して、該蛍光体中のAlとOの各量については、OがAlの3/2倍+1という条件しかないので、この条件下で任意の値を選択できる。換言すれば、BaとMnの量が決まっても、それとは関係なくAlとOの量は(前述の、OがAlの3/2倍+1という条件を満たす範囲で)自由に選択できます。
一方、本願発明の蛍光体(式A)におけるAlとOの量に関しては、BaとMnの量を決めてしまえば、AlとOのモル数も1点に決まってしまいます。」((3)3))

ウ 「仮に前記の式Aで表される組成(本願発明の蛍光体の組成)と、式Xで表される組成(刊行物1に記載の蛍光体の組成)とが一致する(すなわち、両蛍光体の各構成元素の数が一致する)と仮定し、その場合の本願発明の蛍光体組成式(式A)中のa、b間の相関について以下に考察してみる。
この考察については、本願の審尋対する回答書(平成20年3月10日付で提出)の別紙において記載したとおり、本願の蛍光体の組成式(式A)は「(1-a)bMO・6Al_(2)O_(3))・a(MMg_(1-c)Mn_(c)・Al_(10)O_(17))」であり、刊行物1の蛍光体の組成式(式X)は「(M^(II)_(1-x),Mn_(x))O・ZAl_(2)O_(3)」であるから、両組成式からそれぞれの式中の酸素(O)の量、アルミニウム(Al)の量、バリウム(Ba)の量、及びマンガン(Mn)の量で比較すると」として、
「i) 酸素(O)の量
・・・
3Z=17+b-ab-a………(ア)
なる関係が導かれます。
ii) アルミニウム(Al)の量
・・・
Z=6-a………(イ)
なる関係が導かれます。
そこで、前記の式(ア)に式(イ)を代入し、aとbとの相関を求めると、・・・
(1-2a)/(1-a)=b‥‥‥(1)
なる関係式が導かれます。
iii) バリウム(Ba)の量
・・・
1-x=b-ab+a………(ウ)
なる関係が導かれます。
iv) マンガン(Mn)の量
x(刊行物の組成式)=ac(本願の組成式)………(エ)
であるから、式(エ)を式(ウ)に代入し、この式を展開、整理すると、
b=(1-ac-a)/(1-a)‥‥(2)
の関係が成り立ちます。」とし、
「刊行物1の蛍光体の組成式(式X)の条件を満たすaとbの関係式は、前記式(1)よりb=(1-2a)/(1-a)であり、一方、本願の蛍光体の式Aでは0.64≦b≦0.82なので(本願請求項1参照)、本願の蛍光体と刊行物1の蛍光体との組成が重なるためのaの必要条件は、0.18/1.18?0.36/1.36、すなわち9/59≦a≦9/34であることがわかります。」((3)4))としている。

(2)検討
アの主張について
請求人の主張するとおりであり、式Aにおいても式Xにおいても、a?c、x、Zが示された範囲のすべての値をとれるわけではなく、示された範囲の中で、互いに一定の関係を有するもののみの値をとれるのである。
換言すれば、その式毎に、与えられた条件を満たすように、連続的にあるいはとびとびに値をとれるのであり、連続的であるかとびとびであるかは、式で与えられているといえる。
したがって、請求人の主張ア自体に、誤りはない。

イの主張について
請求人の主張するとおりであるが、それは、式で表されているように、決まる、ということであるから、各蛍光体がとる値が、連続的であるかとびとびであるかは、式で与えられているといえる。
したがって、請求人の主張イ自体に、誤りはない。

ウの主張について
請求人は、引用発明の式Xと本願発明の式Aについて、もし同一部分があるなら、それぞれの元素の量は同じである、として式をたて、その式を整理し、aとbの関係で表し、その範囲のみにおいて、両者は重なる、としている。
その点において重なる、との主張はそのとおりである。
しかし、他にも重なる点があることは、上記「3(2)ウ、(3)、(4)イ、ウ」に具体的に示したとおりである。

また、請求人は、ふたつの異なる式で表される蛍光体が重複するというためには、
「引用発明の式Xの各元素量」=「本願発明の式Aの各元素量」
の関係式を満たす必要があると主張し、これに相当する式をたて(上記「(1)ウ」における「式(ア)?(エ)」)、これを整理してaとbの関係を表す式を求め、これを引用発明と本願発明の重複部分としている。
しかしながら、ふたつの異なる式で表される蛍光体が重複するというためには、上記の関係式を満たす場合はもちろんのこと、上記「3(2)イ」に示したように、
「引用発明の式Xの各元素量」=「m(本願発明の式Aの各元素量)」
の関係を満たす場合も、
「引用発明の式Xの各元素量」=「(本願発明の式Aの各元素量)/n」
の関係を満たす場合もあるのであるから、請求人の主張する重複部分は、重複部分の一部を特定したにすぎない。
したがって、請求人のウの主張は採用することができない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、引用発明と本願発明との重複部分の一部を本願発明から除外することによって、本願発明は引用発明と異なる、という請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項2?3に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-22 
結審通知日 2009-07-29 
審決日 2009-11-18 
出願番号 特願平8-152343
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 祐子井上 千弥子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
坂崎 恵美子
発明の名称 アルミン酸塩蛍光体、その製造方法及び真空紫外線励起発光素子  
代理人 平石 利子  

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